これは桜坂高校軽音部で起こった、ある一連の出来事。
「先輩方、練習やりましょうよ。」
「え~、もうちょっとお茶してからでいーい?」
「全くもう、あと少しだけですよ?」
軽音部の中でも唯一の後輩である中野梓と、一番の天然の平沢唯の会話であった。
この軽音部ではもう見慣れた光景である。
この絡みは梓と、他のメンバーでも発生することが多い。
話は戻る。
「・・・今日の茶葉はいつもとは違いますか?むぎ先輩。」
「気づいた~?そうなのよ、今日はいつもと茶葉を変えてみたの。どう?」
「すごくいいです。前のよりは甘味があると思います。」
「そこまで気づくとはやるわね、梓ちゃん。」
紬が親指を立て、サムズアップのポーズをとる。
「それじゃ、お疲れ様でした。」
「「「「お疲れ~」」」」
日も暮れ始め、梓は一足先に帰っていった。
「・・・っと、梓が帰った所で~」
「「澪ちゃんに質問があります」」
前者は田井中律、軽音部の部長である。後者は唯と紬である。
「へ?私に何か質問?というか、梓に気づかれちゃまずい質問なのか?」と澪が言うとすかさず律が
「イエス!拒否権はないからな~」
「えぇ・・・そんな理不尽だろ。聞きたくないけど、どんな質問なんだ?」と澪。
「澪ちゃん最近、あずにゃんばっかり見てない?しかもまるで恋する乙女のような目で。」
唯がそう発言する。すると澪の顔が途端に耳たぶまで赤くなった。
「べ、別に/////そ、そんなこと・・・あ、あるわけ無いだろ!お前たちの勘違いだ!/////」
「へぇ、にしては怪しいですねえ、むぎ探偵。」
「ですわね、りっちゃん助手。」としげしげと2人は澪を見つめる。その目は何かを疑っていた。
「ずばり!澪ちゃんは梓ちゃんをライクではなくラブとして好きだ!、ということでしょうか!?」
そう唯が問いかけた瞬間、澪の顔がより一層赤みをまし、危うく倒れるんじゃないかというところまで差し迫っていた。
「な!?!?//////へ!?!?//////い、いや、//////そういうわけないだろ!?/////いい加減勘違いを認めろよ!!!!//////」
澪は明らかに怪しかった。
(どうしよう・・・確かに梓のことがライクじゃなくてラブの方で好きで、ずっと目で追ってたけど・・・~~~~///////)と考えていると、
「やっぱりそうだったのね、澪ちゃん。でも大丈夫。安心して?私達そんなんで澪ちゃんのこと捨てたりしないからね?」と紬が言う。
澪の考えていた事は、はっきりと口に出ていた。
「あ・・・・・・・・・・・」
澪はそこで力尽き、気絶した。
澪が目を覚ますと、そこは軽音部の部室だった。
「大丈夫、澪ちゃん?」と唯が、
「澪のやつ、死んでないよな?」と律が、
「少し言及しすぎたかしら。」と紬が、
それぞれ心配そうに見つめていた。
「う、うぅん・・・」
澪が起き上がると、澪はそれまでのことを思い出し、また顔が赤くなった。
「わぁっ!澪ちゃんが目を覚ましたけどまた倒れそう!」と唯。
「うおっやべぇ!」と、律が全力で下敷きで扇ぐ。
数分後、澪は紬が淹れてくれたお茶を飲み、落ち着いていた。
「ごめんね澪ちゃん。まさか倒れるとは思ってなかったわ。」
紬が謝ると澪は、「別にいいよ。」と言った。
「そろそろ落ち着いた?じゃあ話せる分だけでいいから、話してみて。さっきも言った通り、私達、あなたが女の子が好きって言っても離れていったりしないから。誰に恋をするかはその人の自由ですもの。」と、紬が言うと、続けて唯と律も、
「そうだよ澪ちゃん。人生は色々あるからね~。」
「そうだぞ、相談にものってやるから心配するこたぁねーぞ!」と言った。
澪はとても良い友達を得たのだなと、いるかわからない神様に感謝した。
「まぁ・・・そこまで、言うなら。好きなんだなって実感したのは1か月前くらいから、かな。最初の頃はすごく可愛い後輩だなとは思ったがそこまで好きになるとは思わなかったんだ。・・・でも何時頃か、妙に意識しちゃって、その、もっと梓のことを知りたいな、とかって思うようになって、それで好きなんだって、思った/////」
「「「「・・・・・・・・・・」」」」
辺りを静寂が包み込んだ。
「いや何で皆黙るんだよ!?恥ずかしいだろ////」
「いやぁ、青春してるな~、って。」
「そうだな。まさか恋してたなんてな~。」
「そうね、ふふっ、羨ましいわ。」
唯、律、紬のそれぞれが余韻を楽しんでいた。
「そ、その、私はどうすればいいかな・・・このままじゃ嫌だけど、でも、嫌われたくもないし・・・」
「じゃあ今度のバレンタインにチョコでもあげてみれば良いと思うよ~。」
唯が唐突にそんな発言をしていた。
そういえば近々そんなイベントがあったということを澪は思い出した。
「チョコと一緒に気持ちを伝えればきっと大丈夫だよ。もし駄目だったとしても、その時はその時だよ。あずにゃんは結構澪ちゃんのこと尊敬してるみたいだし、嫌いにはならないと思うんだ。」
「そ、そうだな。確かにこのイベントを活用しない手は無いよな。・・・よし、私、やってみる!」
唯の提案に澪は承諾した。それに便乗し、律と紬が、
「おぉ!澪のやつがここまでなるのは久しぶりに見るなぁ。頑張れよ?」と、
「澪ちゃんにとって最高のバレンタインになることを祈ってるわよ。」と、
澪に激励の言葉を送った。
その頃梓は自室で考え事をしていた。
「澪先輩、最近私ばっかり見てる気がするけど、もしかして相思相愛、だったりするのかな・・・」
彼女もまた女性に、しかも相思相愛の相手を慕っていた。
「まさか無いよね。そんなこと。第一女性同士だし、おかしいのは分かってるし・・・はぁ。どうすればいいんだろう。」
そんな時、彼女はあるイベントが近々あるのを思い出した。
「そうだ、せめて今回のバレンタインは澪先輩の為に手作りチョコをあげよう!」
「・・・それくらいなら、許されるよね?」
自分以外居ない部屋で一人、そうつぶやいた。
そしてバレンタインがやってきた。
その日の放課後・・・
「あれ?澪先輩、私と澪先輩以外は全員休みなんですか?」
「え、?あ、あぁ・・・そうだったな。み、皆用事があると言っていた、ぞ?」
その後二人の間に沈黙が流れた。
二人共、この状況に緊張していた。梓は努めて冷静に保っていたが、ほのかに顔が赤くなっているのが辛うじて分かる程度だが、一方の澪は、緊張しているのが分かるほど動きが硬く、顔も赤くなっていた。
暫くして澪が、
「・・・そういえば、き、今日はバレンタインだな。チョコとか、も、もらった、のか・・・?」
たどたどしく澪が尋ねる。
「はい、友チョコを少し。先輩は・・・どうなんですか?」
「わ、私も、そんな、感じ・・・?だったぞ?」
再び静寂が包む。
(どうしよう。すごく緊張する・・・何か話さないと・・・もう、チョコあげて告白しちゃおうかな。もう、ここまで来たんならするしか、ない、よな・・・)
(好きな人にチョコあげるのってこんなに緊張するんだ。・・・話が全然続かないなんて、失礼だよね。よし、もうチョコをあげちゃった方が良いかな・・・)
「「あのっ!」」
「「あっ・・・」」
息のそろった連携プレーの様であった。
「じゃあ、澪先輩から喋ってもいいですよ?」
「あ、・・・じゃあ、先に。」
澪は緊張で手が震えていたが何とかチョコをカバンから取り出すことに成功する。
「・・・これ、受け取ってくれないか?」
梓はそれを受け取ると少し泣きそうになっていた。
「あ、ありがとう・・・・ございます・・・」
「あと、言いたいことがあるんだ。・・・驚かずに聞いてほしい。私、梓のことが、好きなんだ。愛してる。・・・・・・やっぱりおかしいよな、こんなこと。女の子どう―――」
その瞬間、梓が澪に抱き着いた。その目からは溢れ出した涙がこぼれていた。
「え!?ど、どうして!?嫌われると思ってたのに・・・・」
澪は驚愕していた。どうして抱き着いてくるのか、理由が分からなかった。
「私も、澪先輩のことが、ぐすっ・・・好き、なんです・・・だから嬉しくて・・・・うぇっ、ひっく・・・」
「嘘じゃ、ないよな・・・まさか、こんなことが・・・私もなんか、涙が、ぐすっ、もう、我慢してたのに~、うぅっ・・・」
2人は抱き合ったまま、思う存分涙を流した。その顔は喜びで満ちて、涙は、とても温かかった。
しばらくして、
「あの、澪先輩、私からも、いいですか?、チョコ。」
「ああ、ありがとう。」
そういって梓もチョコを渡した。
「それにしても梓、ひどい顔してるな。目が真っ赤だぞ?」
「それは澪先輩も同じですよ・・・ぷっ」
「「あははははは!」」
「なあ、梓。」
「はい、先輩。どうしたんですか?」
「・・・これからも、よろしくな。」
「!・・・喜んで!」
2人の距離が縮まり、最後に唇が触れ合い、2人の距離は0になった。
「きゃ~!キスしちゃってるよ~!」
「落ち着け唯!見られてるのばれるぞ!」
「幸せそうね、2人共。ご馳走様でした。」
唯と律と紬は、実は用事があった訳ではなく、こっそりと隠れて事の顛末を見届けていた。
「あの2人にチョコレートなんているか?十分に甘い思いしてるだろ~。」
そう律が呟く。
「そうだね。私にも甘い成分欲しいな~。」
唯も同感だった。
「じゃあ今度のお菓子はうんと甘いのを用意するわね。」 ~END~