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No.3855の一覧
[0] 銀凡伝2[あ](2009/09/20 20:08)
[1] 銀凡伝2(気絶篇)[あ](2010/02/17 20:56)
[2] 銀凡伝2(追跡篇)[あ](2010/02/17 22:02)
[3] 銀凡伝2(引退篇)[あ](2010/02/17 22:53)
[4] 銀凡伝2(邪気篇)[あ](2010/02/20 17:43)
[5] 銀凡伝2(友情篇)[あ](2010/02/20 18:27)
[6] 銀凡伝2(招待篇)[あ](2008/09/13 23:03)
[7] 銀凡伝2(先輩篇)[あ](2008/09/28 01:31)
[8] 銀凡伝2(孤独篇)[あ](2008/09/30 23:03)
[9] 銀凡伝2(両雄篇)[あ](2008/10/04 17:19)
[10] 銀凡伝2(天空篇)[あ](2011/01/01 18:18)
[11] 銀凡伝2(選挙篇)[あ](2008/10/19 17:32)
[12] 銀凡伝2(逆転篇)[あ](2010/05/03 20:41)
[13] 銀凡伝2(乖離篇)[あ](2008/11/22 18:42)
[14] 銀凡伝2(地獄篇)[あ](2008/12/28 20:29)
[15] 銀凡伝2(逆襲篇)[あ](2008/12/30 23:53)
[16] 銀凡伝2(逃走篇)[あ](2009/01/02 22:08)
[17] 銀凡伝2(抱擁篇)[あ](2009/01/03 17:24)
[18] 銀凡伝2(手紙篇)[あ](2009/01/03 17:25)
[19] 銀凡伝2(日記篇)[あ](2009/01/03 22:28)
[20] 銀凡伝2(新年篇)[あ](2009/01/11 16:43)
[21] 銀凡伝2(辞職篇)[あ](2009/01/12 21:16)
[22] 銀凡伝2(交換篇)[あ](2009/01/17 23:54)
[23] 銀凡伝2(推理篇)[あ](2009/01/18 21:27)
[24] 銀凡伝2(暗殺篇)[あ](2009/01/25 19:14)
[25] 銀凡伝2(開幕篇)[あ](2009/01/29 23:07)
[26] 銀凡伝2(起動篇)[あ](2009/09/21 17:51)
[27] 銀凡伝2(無頼篇)[あ](2009/11/15 11:52)
[28] 銀凡伝2(辺境篇)[あ](2010/02/28 18:03)
[29] 銀凡伝2(出撃篇)[あ](2010/04/03 20:59)
[30] 銀凡伝2(悔恨篇)[あ](2010/04/18 19:30)
[31] 銀凡伝2(帝王篇)[あ](2010/05/01 20:16)
[32] 銀凡伝2(原始篇)[あ](2010/05/30 19:38)
[33] 銀凡伝2(凋落篇)[あ](2011/02/21 20:49)
[34] 銀凡伝2(烈将篇)[あ](2011/05/04 17:45)
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[3855] 銀凡伝2(烈将篇)
Name: あ◆2cc3b8c7 ID:6c43e165 前を表示する
Date: 2011/05/04 17:45
虐げられてきた民衆の怒りは、些細な切掛けで爆発することがある。

かつて人類が地球と言う名の小さな惑星にしがみついて細々と生活していた頃、
長きに渡って独裁をつづけていた為政者の豪奢な生活ぶりがネットワーク媒体を通じて
多くの民衆に知れ渡ってしまったことが原因で、その政権が崩壊の道を辿った歴史もある。


ゴールデンバウム王朝の末期においても、これと同じような現象が再現されようとしていた。



帝国の辺境各地でラインハルトやキルヒアイス率いる艦隊の数限りない貴族に対する勝利は、
虐げられし民衆の多くに勇気を与え、反乱の始まりを告げる狼煙が、戦火に変わるのにそれほど時を要しなかった。

そして、それはリップシュタット連合の盟主たるブランシュバイク公のお膝元であっても例外では無く、
彼の甥であるシャイド男爵が統治するヴェスターラントでも、暴政に対して、民衆は反乱を起こす。



■理不尽な怒り■


シャイド男爵の来訪を聞いた盟主ブラウンシュバイク公は、最初上機嫌であった。
出来た甥が、ガイエスブルクへ領地で集めた物資を運んで来たのだろうと考えたのだ。
だが、その喜びは死の淵にある甥と面会したことで直ぐに雲散してしまう。

伯父を援護しようと過剰な税の取り立てを行なった男爵は、民衆の反乱という名の正当な報いを受けて致命傷を負いながら、
愚かな民衆への復讐を伯父であるブラウンシュバイク公に願うため、ガイエスブルク要塞へ逃げ込んできたのだ。



■■



「おじう・・ぇ、もうしわけ・・、愚民どもに、復讐をぉ…」

「シャイド!!…許さんぞ!絶対に許さん!ヴェスターラントの
 身の程知らずの身分いやしき者どもには、必ず報いを受けさせてやる」


力を失ったかわいい甥の手を取りながら、憤怒の相を見せるブラウンシュバイクは既に理性を失っていた。
もともと帝国随一の名門貴族と言う事もあって、自制心の乏しい彼だったが、
愛する自分の肉親を、ごみ虫以下の価値しか認めていない民衆の汚れた手によって殺されたことで、
欠片しかない自制心を、ブラウンシュバイク公は遥か一億光年先へと放り捨てると、
周囲の制止を完全に無視し、自領であるヴェスターラントへの核攻撃による粛清を傲然と宣言する。



「自らの手足を食い千切るような愚行を犯すとは、黄金樹の枯死も遠くは無いな」


憤怒の形相で虐殺を平然と命じる主君に失望した謀臣アンスバッハは
ゴールデンバウム王朝の終焉を嘆く様な発言を洩らしたと言う。

数日後、この発言を帝国に対する不敬な発言であると讒訴する者が有り、
これに激したブラウンシュバイク公の命によって、アンスバッハ准将は逮捕拘禁されてしまう。
もっとも、リップシュタット連合の内部崩壊を憂慮した総司令官メルカッツ上級大将以下、
数多くの武官や良識ある一部の貴族達の嘆願によって、翻意せざるを得なくなったブラウンシュバイク公は、
アンスバッハを家宰の地位から解き、放逐することで、ぎりぎり溜飲を下げる。  

ただ、ヴェスターラントへの核攻撃の実行だけは取り下げることは無かったため、
リップシュタット連合の良識派達は頭を抱えることとなった。

もっとも、これによって引き起こされる悲惨な貴族連合の運命を憂うのみで、
不条理な死を押しつけられるヴェスターラントの民衆の身を重んじる人々は殆どいなかった。

例え、良識派の大半も所詮は貴族や、それに連なる特権階級に属する人々である。
搾取すべき民衆がどうなろうと、知ったことではないと考える者の方が多いのだ。




■誰がために剣を振るう?■


ブラウンシュバイク公の暴走に、『Gangster488』の面々は諫止を当然行ったが、
それを聞きいれ無い盟主に対して、実力行使をするような動きを最初みせなかった。

彼等の実質的頭目と目されるファーレンハイト中将にしても、この暴挙について苦々しくは思っていたが、
ラインハルトを打破するための最終決戦を前にして、盟主と決定的な対立する訳にはいかないと苦渋の決断を下していた。


不利な状況下で勝利するためには、ラインハルトを戦場で直接屠る必要があり、
彼が必勝の策として考案した『だるま落とし』には盟主と言う名の飴がどうしても必要であり、
戦意過多な突撃しか頭に無い無能揃いの青年貴族と言った小道具も使わなければならない。

度し難い愚行であっても、ここは眼を瞑り勝利を得るために最善を尽くすのが軍人としての務め感情を押し殺そうとしていた。

ヴェスターラントに死を齎す数隻の攻撃シャトルがガイエスブルク要塞から出港するのを横目に、
ファーレンハイト以外の面々も同じような想いで、決戦に向けての準備に勤しんでいた。

戦いに勝つためと言う理由が、免罪符とは為り得ない事を知りながら、彼等は勝利のために犠牲を払う『覚悟』をしていた。


その筈であった…



■■


『ファーレンハイト中将!!大変です!!』

「フロイライン、騒ぐ必要はない。大変なのは内乱が始まってからずっとではないか?」

『中将、私は言葉遊びをするために来た訳ではありません!ブラウンシュバイク公が
 無辜の民を悪戯に殺戮しようと言う恐ろしい計画を聞いて慌てて参上したのです!!」


総司令部作戦室内で『Gangster488』の面々がガイエスブルク要塞前での決戦作戦案について討議している中、
飛び込むように部屋に駆け込んできたのは、ランズベルク伯アルフレッドの妹のアルフィーナだった。

貴族の令嬢らしい綺麗事と言われてしまうような純粋な正義感を持った彼女は、
罪なき民衆が無闇に殺されようとしている事実を聞いて、居ても立ってもいられなくなり、
尊敬するファーレンハイトや敬愛する兄に解決して貰おうと作戦室に押しかけて来たのだ。

ただ、既に勝利の為に民衆を見殺しにする『覚悟』をしてしまっていた面々は、
少女の直ぐな瞳に見つめられると、顔を背けるだけで、その期待に応えることが出来なかった。

この様子に、世間知らずではあったが、勘の鋭い少女は目の前に立つ男達がどういう決断を下したか、悟ってしまった。


『嘘…、みんなも仕方ない。どうしようもないって諦めるの?
 勝つためだったら、どんな愚かで酷い事も見逃すって言うの?』

「アルフィーナ、下りなさい!ここは子供が来る所では無い!」

『嫌よ!!お兄さまは民衆を見殺しにして平気なの?私達は誇り高き帝国貴族よ
 貴族は民衆を守り導き、誇り高く生きるから貴族だと教えたのはお兄様じゃない!』


信じられないと言った様子で尚も言い募るアルフィーナに
堪りかねた兄のアルフレッドが強く窘めたのだが、逆に火に油を注ぐ形となってしまう。

目の前で繰り広げられる兄弟喧嘩の様相を帯びた初歩のマキャベリズムを題材にした論争を、
メルカッツやファーレンハイトと言った重鎮は眼を閉じ、黙して聞き、
ザンデルスやシュナイダー、シューマッハといった青年将校は、居心地悪そうに、その場に佇むだけであった。

それだけ、王様の耳はロバだと叫ぶように『悪い事は悪い!』と声を大にする少女の言葉は重く、鋭かったのだ。



『ファーレンハイト中将!閣下は、アムリッツアの悲劇をお忘れになったのですか?
 民衆を道具にするローエングラム侯を許せぬからこそ、立ったのでは無いのですか?』


埒の明かない兄との口論に見切りをつけることにした少女は、
この場の実質的なリーダーであるファーレンハイトに言葉をぶつける。
これで通じなければ、例え自分一人であろうと駆逐艦でも砲艦でもシージャックしてでも、
ヴェスターラントの民衆を救うために行動起こす心算であった。
子供の戯言のようなことではあったが、彼女は本気だったし、だからこそ、その言葉は真っ直ぐに相手に届いた。



「メルカッツ総司令官、どうにも年を取ると下手な知恵が付いて
 言い訳ばかりが上手くなるようですな。少し焼きがまわっていたらしい」

『卿が年を取ったと言うなら、私はとっくに苔が生えた骨董品か、生きた化石だな』


自分の質問に応えず、どこか間の抜けた世間話のような会話を総司令官のメルカッツと交わすファーレンハイトに、
アルフィーナは毒気を抜かれて、何とも言えない顔をしていたが、
二人の年長者の間に割って入ってはいけない空気を感じ取ることだけは出来たので、少女は静かに待った。


『行くのかね?』

「総司令官には、いや、部下や仲間にも迷惑をかけますな
 ただ己が思うままに、己が思う道を行くこととしましょう」

『ふむ、それも本懐か』 「御意」



「ザンデルス、艦隊を動かす。直ぐに出撃の準備を整えろ!」

『閣下、もう準備なら既に出来ています。無論将兵の意志の確認もしてあります』


先読みして動いていた副官に、にやりと笑った烈将は、
自艦隊の副司令官のホフマイスター、参謀長のブクステフーデに続けて指示を出すと共に、
参軍を命じるアルフレッドやシューマッハにも矢継ぎ早に指示を与えて行く。

一度出ると決めたからには、それは果断を持って速なるべしを地で行く
烈将の動きに各々が応じて、作戦室は一気に慌ただしく動き始める。


この目まぐるしい変化に一人取り残されたアルフィーナは、部屋の中央でおろおろとしていたが、
自艦へと向かおうとする兄のアルフレッドに腕を引っ張られ、半ば状況を理解しないまま作戦室を後にする事になる。



『Gangster488』に勝利をすてる『覚悟』をさせた事に気が付かないまま…





■たった一つの航路■


帝国歴488年8月3日、ヴェスターラントへの核攻撃を阻止するため、
ファーレンハイト率いる2万5千隻の艦隊は、辺境支配星域の治安維持という名目でガイエスブルク要塞を後にする。

なお、ヴェスターラントを攻撃するため先に飛び立った攻撃シャトルは、超高速シャトルであったが、
貴族連合の支配星域を通って大きく迂回しながら目標攻撃地点に向かうため、
ファーレンハイト艦隊は、ラインハルトの勢力が支配する勢力地を通る最短ルートを通って追撃する方針を取る。

これは、腐っても帝国一の貴族が要する最新鋭の高速攻撃シャトルに追い付ける艦艇が、自艦隊に存在しなかったため、
敵艦隊との遭遇もやむなしと考えた上での航路選択であった。



■■



「しかし、二百万の民衆を救うために二百万以上の軍人を死地に追いやるとは
 歴史家は俺のことを、勝利を捨てて史上最悪の行動を取った男と評するかもしれんな」

『そうなると、我々は史上最悪の将軍に喜んで着いて行ってあげた
 お人好しで素晴らしくやさしい兵隊さん達になりますね。悪く無いですね』

「ザンデルス、卿の言に含まれる毒が強くなったような気がするのは、俺だけか?」

『さぁ、どうでしょう?小官はいつもと変わらずに通常運転だと思っておりますが』



なんとも可愛げのない頼りになる副官の態度に苦笑いしたファーレンハイトは、視線をメインモニターが移す虚宙へと向ける。
その先には、恐らくリッテンハイム侯爵を敗北させ、死に追いやったラインハルトの腹心、
キルヒアイス上級大将率いる大艦隊が展開していると予測していた。
主君と同様に軍事的手腕に優れた相手を抜いて、時間制限を超えない様に攻撃シャトルを止めなければならない。
実に骨が折れそうな仕事を前に、珍しく豪胆な男は溜息を吐いた。もっとも、副官にすら気付かれないよう目立たずにであったが。


死を覚悟して民衆を救うと言う自分の我儘に付き合ってくれる将兵に、情けない姿を見せる訳にはいかなかった。



■■


「司令官、少し休まれた方が?リッテンハイム侯の死後
 辺境にまで戦力を割く余裕は貴族連合には無いと思います」

「ワーレン提督と私も同意見です。投降した兵力の再編は
 確かに急務かもしれませんが、ここまで急がれる必要は無いかと」

リッテンハイムの死後、多くの貴族連合の兵達がキルヒアイス率いる別働隊に降伏したため、
彼等は連日連夜、その吸収した兵力を再編し、戦力化することに追われていた。
特に、総司令官であるキルヒアイスは、誰よりも精力的にそれを行ない、
不眠不休と言っても良いぐらいの様相を見せていたため、
年若い司令官を心配した副将の二人は、揃って休息をもう少し取るように進言するため旗艦を訪れていた。


「ローエングラム侯と合流して、一日も早くこの内乱を終結するために、兵力の再編を
 急ぐのは必要なことです。ですが、お二方に心配をさせてしまうようでは、駄目ですね」


キルヒアイスは自身の身を案じてくれる副将、年長者の二人の好意に謝意を述べ、一日だけ休息を取る事を約束する。
終息に向かい始めた内乱に置いて、既に彼等が位置する辺境星域の戦略的価値は薄れ、
それを奪い合うような戦闘が起こる可能性は、軍事学的見地から見ても非常に低いものとなっていたのだ。


もっとも、全く違う価値観をもとに動いている艦隊が直ぐ側に迫りつつあったが、
それを察知できなかったことは、彼等の優秀さを少しも損なう事は無い。

向かいつつある相手の方が、常識外の圧倒的に愚かな行為をしているのだから…




■烈将会戦■


帝国歴488年8月18日正午、キルヒアイス率いる4万5千隻の艦隊は、
突如侵攻してきた貴族連合軍艦隊2万5千隻に攻撃を受ける。

開戦当初から戦力差は明白であったが、キルヒアイス率いる別働隊に取って
予想外の襲撃であったため、ローエングラム陣営らしからぬ初動の遅れが生まれてしまう。
戦巧者のファーレンハイトは、それが唯一に近い勝機だと弁えており、敵の僅かな乱れを突かんと、
火力を集中させ、物資の消費を惜しまぬ激しい攻撃を、前面に展開するキルヒアイス艦隊にぶつける。



■■


『まったく、相手の将兵には同情しますよ。こんな所に敵が攻めてくるなんて
 普通は考えませんからね。今更奇襲しても意味がない所での攻勢ですしね』

「だからこそ、ここまで容易く虚をつけると言うもの!ホフマイスターの艦隊を前に出せ!
 敵艦隊の左翼にある綻びを広げてやれ!ランズベルク艦隊はそのまま砲火を維持しろ!」


見事に先手を打った形になったファーレンハイトは機器としながら艦隊に指示を出していく、
どちらかというと速攻攻勢を得意とする彼に取って、今の戦況は気を逸らせるに十分な物であった。
リッテンハイム等の率いていた戦力の再編が不十分なことも自身に味方していることを
当然悟っている彼は、とにかく自戦力を動かしつづけ、相手の動きの僅かな鈍さを突く事に腐心する。

ヴェスターラント核攻撃の阻止と言う第一目標を抱える彼等にとって、ここでの敗北や時間の浪費は許されない。
末端の兵卒達は、『早く、もっと苛烈に!』と、合言葉のように叫びながら眼前の大軍に攻撃を仕掛け続ける。





「どうやら、司令官閣下に休息を勧めたのは要らぬお節介だったようだな
 こうなってくると数が多くとも、役に立たぬ兵が邪魔で動きにくて敵わんな」

ホフマイスターの激しい攻勢に晒されるワーレンは数日前の進言を若干後悔しながらも、
敵によって開けられた穴を辛抱強く塞いで、相手より絶対的優位な数を活かそうと、
相手の突進をある程度許容しながら、柔らかく包み込むように反包囲の罠に引きずり込もうとしていく。
また、それと同時並行して使いにくい再編が不十分な投降してきたばかりの艦隊を戦闘地域から遠ざけ、予備戦力の位置へと動かしていく。
地道で地味な作業であったが、それを辛抱強く続けることで、敵の鋭鋒を徐々に鈍らし、逆撃を可能にしていく。


「ワーレン提督らしい見事な用兵と言いたい所だが、只でさえ再編途上の多い後陣に
 動かせぬ戦力を押し付けるのは勘弁して貰いたいな。これでは戦闘に参加など無理だ」


別働隊の後陣を受け持ったルッツ中将は、前陣1万5千隻を率いるワーレンの巧緻な用兵手腕に感嘆すると共に、
彼や司令官のキルヒアイスから次々と寄越される再編途上の部隊の吸収に追われる無様な状況に、らしくない毒を吐いていた。
このまま、戦力と考え難い1万隻程度の後陣自体を更に後方に下げて、戦闘宙域から離脱した方が良いかと思案し始めていた。





「何故このような無意味な戦闘を仕掛けてきたのかは解せませんが
 流石はファーレンハイト提督ですね。ワーレン提督で無ければ
 前陣は瞬く間に抜かれて、本陣も大きな打撃を被っていたでしょう」


有り得ない奇襲に首を何度か傾げながらも、名将の誉れ高い赤髪の提督は、
素早く再編し終えた1万隻の内、左右に5千隻ずつ分けて前陣の両外に押し出し、
密集形態を取って果敢に中央突破を試みる敵艦隊を両翼で包み込むような陣形を構築していく。

もう2時間ばかりファーレンハイト艦隊が開戦当初と変わらぬ前進を続けていれば、
その両翼と、ワーレンの構築した戦隊単位に狙いを定めた個別の小さな反包囲網という
二重の用兵術によってファーレンハイト艦隊は宇宙の藻屑と化していたかもしれない。




「艦艇の速度を緩めろ!無謀な攻勢による御祝儀は終わりだ!」


状況の変化を素早く察知したファーレンハイトは突出した形のホフマイスター等の前衛を下らせると同時に、
本隊を緩やかに前進させ、下る味方を敵に包みこまれるギリギリのタイミングで飲み込み、
横陣の形を取ることに成功すると、そのまま艦のエンジンを逆噴射させ更に後方へと下り、
即席の左右の両翼と前陣繋ぎ目の乱れを集中的に突いて、不格好な白鶴の羽を一枚一枚執拗に毟り取って行く。


これに対して、左右の部隊と無理に連動しようとしても被害が増すだけだと、正確に洞察したワーレンは、
斜行陣を取って集中的に左翼の集中的に戦おうとする敵を相手に、開戦当初相手が見せたような果敢な中央突破を試みる。


ファーレンハイト艦隊の急襲から始まった戦闘は、ようやく10時間を越えようとしていたが、
その僅かな時間の間に、互いの陣形は目まぐるしく変わり、攻守の入れ替わりも何度も行なわれるなど、両者拮抗した戦いを繰り広げていた。

戦力の優位さを活かそうと重厚な用兵を行なうキルヒアイスに対し、
錬度の高さを活かした機動戦を挑むファーレンハイトを支える兵達も己の持てる力を全て出し切る勢いで戦闘に明け暮れていた。



■■


『艦長!敵巡航艦、主砲直撃来ます!!』

ホフマイスター艦隊所属、軽巡航艦イレイザの船体に敵艦から放たれたレーザーが直撃し、激しい閃光が辺りを包む。
対レーザー中和システムでも抑えきれないエネルギーの奔流が船体を貫き、各所で小爆発を起こしていく。
熱中和を越えた熱量に晒された兵達は僅かな苦しむ時間を与えられただけで、その体を溶かし、
爆発で体の一部を失った兵は喚きながら、自分の足や手を求めて残された腕や足を狂ったように動かす。

一瞬で地獄の様な場と化した艦艇であったが、幸福にも死を免れ負傷もしなかった兵達は、
逃げだすのではなく、戦い続けるために艦艇の損傷を確認し、復旧作業にあたって行く。
死んでいない内は生きているのだから、生き続けるための行動を彼等は取らなければならない。


「C-1、2、3ブロック電源喪失!予備電源も作動しません」
『そんなこと言われんでも分かっっとるわ!!CからEまで一旦電源を落とせ!!
 別ブロックとコネクトさせろ!!ガキだってわかる方法だ!さっさとやれ馬鹿やろうっ!』

「第二格納室圧力低下!隔壁閉まりません。外壁貫通の可能性有り
 生存作業員の一時退避許可を願います。退避後第一格納室隔壁下げます!」

『退避許可!第一の隔壁を降下完了後パージ!!損傷レベルの高い部位で
 パ-ジ可能な場合は全て外す!どの道次が無いんだ。惜しまず捨てちまえ!!』
 

ただ、死線を何度も越える内に兵達は次第に感覚がマヒし、死ぬために生きているのか、
生きるために死ぬのか分からなくなり、
問題を解決する、指示に従う、敵を殺す・・・
全てを単純化し、生きている間は訓練された行動をただひたすら繰り返すだけになって行く。

兵卒が死ぬまでマトモで居られる程、戦場は優しい場所では無かった。



■勝利条件■


「まったく、投降兵との混合艦隊とは思えない動きになってきたな
 戦闘中にも再編を同時並行して見せるとは、貴族どもが勝てる訳がないな」

『今更分かり切ったことを言って感心してないで下さい
 閣下、そろそろ動かないと、時間が押してきています』

目の前の敵手の素晴らしい軍事的手腕を称賛する豪胆な上官に、ザンデルスはさっさと次の行動移れと促す。
戦闘時間は既に30時間を越え、兵の疲労も高まり、戦闘物資の方も先が見えてきていた。
また、そろそろ相手を突破しなければ、核攻撃を企むシャトルの捕捉・撃破が難しくなる。
呑気に用兵の才を相手と競っている暇は無いのだ。


ファーレンハイトは敵艦隊を破り、最低でも一定時間相手を動けないようにし、
高速シャトルを撃破するのに十分な戦力をヴェスターラントに送り込まなければならない。
それを成さなければ、200万以上の軍人を民衆の変わりに死地に追いやった意味が無くなってしまう。

この絶対に失敗の許されない、勝利するしかない状況が烈将と呼ばれる漢の血をこれまでにないほど滾らせた。



■■



『敵艦隊、微速ながら後退していきます!』


オペレーターの報告にキルヒアイスだけでなく、それぞれの旗艦で同じような報告を受けたワーレンもルッツも首を傾げる。
ようやく無駄な戦いだと敵が気付いて兵を引き始めたのかとも考えたが、
そうであったとしても気付くには遅過ぎるし、今更退く理由も無い様に思えた。
罠だとしても、どのような罠を仕掛けるか見当もつかなかった。


「相手の出方が分からない以上、こちらの取れる最善をとることにしましょう」


意味の無い戦いで勝つ必要が無いと考えたキルヒアイスは、
相手と同様に激しい戦闘で傷ついた艦隊を立て直すことにする。
無論、敵の再攻勢に対応できる体制を維持しながらの動きである。

先ずはルッツの後陣に再編途上の戦力だけでなく、損傷艦艇を加えて戦闘宙域から大きく退避させる事にし、
戦闘可能な艦艇を中心にワーレンと自分の艦隊を再構築する。
その隙も無く、そつの無い手腕はまたしてもファーレンハイトの唸らせる見事さであった。



だが、戦局はまたしても動く。


『敵艦隊のおよそ半数!本陣を避ける様に迂回しながら、後陣に向かって突進していきます!』

「狙いは分離した手負いの艦隊ということですか、やはりしたたかな相手ですね」


手負いの相手をつけ狙うような卑劣な仕打ちに些か嫌悪感を示しながら、
無意味な戦いで合っても終始、堂々と用兵の才を競ってきた相手が、このような卑劣な手を取るとは思わなかった甘さをキルヒアイスは悔いた。
ただ、どのような事態に対しても対応できるよう構えていた甲斐も有って、
敵の卑劣な牙が後陣に届く前に、救援は間に合いそうであった。


『敵艦隊残り半数、逆の左回りで!我が艦隊を迂回しながらゆっくりと後方宙域に進軍!』


「味方の救援に動く我々の後方を突く作戦ですね。ワーレン提督の艦隊を向かわせましょう
 相手の艦隊に対して兵を割っても、こちらの方が数は上です、慌てる必要は有りません!」


右回りで後方に向かうルッツ艦隊を狙うファーレンハイト率いる本隊、
遅れてキルヒアイス艦隊とワーレン艦隊の後方を扼す左回りの動きを見せるホフマイスター艦隊とランズベルク艦隊、

この動きに対して、キルヒアイスが取った対応は、常道であり、
常に相手以上の兵力を持ってあたると言う用兵の原則に反しない正しい選択であった。
もっとも、相手が自分達に勝つために動いていた場合に、その正しさは限定されていた。





「お兄様、艦を移ってこの宙域を離れろなんて!意味がわかりません!!」


唐突に旗艦を移って別の艦艇に乗ってこの宙域を離れろと言うアルフレッドの言葉に
アルフィーナは盛大に抗議の声をあげていた。
ただでさえ敵の後方を扼す作戦が看過され、自艦隊より多いワーレン艦隊が迫っている危機的状況の中、
肉親である自分だけを逃がすような行為をする兄の態度が許せなかったのだ。

そんな妹らしい真っ直ぐな正義感の発露に、アルフレッドは優しい笑みを浮かべながら、真実を告げる。


「アルフィーナ、意味は簡単だ。お前とシューマッハ大佐が率いる小艦隊が民衆を救うのだ」
『お兄さま…?なにをおっしゃって・・』

「もとより、このような遭遇戦に勝つ必要など無いのだよ。我々の勝利は民衆を救う事だ
 それまでの時間を我が艦隊とホフマイスター中将の艦隊が稼ぐのが今の目的と言う事だ」


確実にヴェスターラントへの攻撃を防ぐには、味方以上にラインハルト率いる戦力の妨害の方が問題だと、ファーレンハイト達は考えていた。
貴族の愚行に反発する貴族連合の兵卒の一部は必ず敵であるラインハルトの力に縋ろうとするだろう。
それ自体は何ら問題ない行為であり、彼等が自分達の変わり愚行を阻止してくれるなら言う事は無い。

だが、彼等がその愚行を、門閥貴族に対する民衆の反発を煽るために利用しようとしたら?
アムリッツアの地獄を行なった彼等が同じように民衆を道具にしないとは言えない。


確実に民衆を救うためには、ヴェスターラント付近のローエングラム陣営の戦力を排除、
若しくは動けない様にして、自力で核攻撃を阻止するしか方法が無いと考えたのだ。


「最初から、囮になるために戦ったというのですか?みんなで助けに行くためじゃ無く!」

『そうだ。我々が派手に動いたことで、この星域にローエングラム陣営の戦力の
 大半が集まっている。少数の阻止部隊だけでも妨害を受けずに目的地に着ける筈だ』


自分も最後まで残って戦うと喚く少女をシューマッハ大佐に無理やり押し付け、
旗艦から追い出したランズベルク伯アルフレッドは、迫りくるワーレン艦隊に向かって艦隊を動かす。
それに連動するようにホフマイスターの艦隊も同じように艦隊を動かし、
離れて行くアルフィーナ達の小艦隊を敵艦隊の追撃から守るような布陣を取る。
本当の勝利条件を満たす為に、彼等は捨石になって時間を稼がなければならなかった。




    『行け!アルフィーナ!!黄金樹の誇りを守るのだ!!』





■■


「こちらは囮の死兵か、やっかいな相手を任せられたな。ただ、時間を掛けては
 司令官の方が苦戦する。怯むな!手負いの損傷艦艇ばかりだ。押せば崩れる!」


戦闘開始直後、ワーレンは直ぐに自分達が大きな勘違いをさせられていた事に気が付く。
『ゆっくり』と後方を扼す動きを見せた相手は、早く動こうとしても出来ない損傷艦艇を集めた囮だったのだ。

ただ、彼等は乏しい戦闘能力しか持たなかったが、『覚悟』した集団であった。
絶望的な火力差、戦力差に怯むことなく、ワーレンの率いる艦隊に次々と虐殺されるように殺されても、
一隻も降伏すること無く粘り強く抵抗を続け、可能な限り敵艦隊に時間を浪費させていく。
生命をチップにした勝利無き持久戦に持ち込まれたワーレンの部下達の多くは、
嬲り殺すような自己の行為に吐き気を催しながら、一刻も早い戦闘の終結を願いながら引き金を引き続けていた。
殺される側よりも、殺す側の方が精神的に追いつめられると言う奇妙な現象が生まれていた。




「ランズベルク伯にホフマイスターの二人は良くやってくれているようだ
 別働隊も上手く抜けたようだし、後は目の前の雄敵を討って名を成すのみ!」

『まぁ、降伏するには相手を殺し過ぎましたし、最後に勝って終わるのも悪く無いですね』


作戦の成功を知った本隊の精兵を率いるファーレンハイトは、狙いをルッツの後陣から
早々にキルヒアイス率いる本陣へと変え、自ら最前線付近に旗艦アースグリムを置き、最前線で
全軍の指揮を執る。
その勇戦ぶりは烈将の名に恥ずかしく無い物であり、死兵と化した彼の部下と共にキルヒアイス艦隊に猛然と襲いかかって行く。



「相手の攻勢は半ば自棄による物です。落ち着いて艦列の穴を塞ぎ
 敵を包み込むように対処していけば、戦力では此方の方が勝っています」

常人であれば艦隊を下げたくなるよう激しい攻勢に晒されながらも、
年少の指揮官は若年者とは思えぬ落ち着いた的確な対応を見せ、
終始、相手に勝る戦力を活かす戦い方を辛抱強く取り続ける。その老練とも言える用兵手腕にはファーレンハイトも舌を巻くほどであった。

事実、あと2、3時間程度、相手の攻勢をいなすことが出来れば、攻守は逆転し、
キルヒアイスは理解不能な攻撃を仕掛けて来た敵艦隊を討ち果たしていただろう。




ただ、彼にはほんの少しばかり、英雄になるための運が足りていなかった。

『敵、旗艦主砲の直撃来ます!!』「馬鹿なあんな主砲があるかよっ!!」

ファーレンハイトの旗艦アースグリムの規格外な主砲の一撃が、
彼の頭髪と同じ色に染められた旗艦バルバロッサの艦腹を深く抉り取ったのだ。




「閣下!!しっかりして下さい!直ぐに艦を脱出しましょう」

「ベルゲング、リューン大佐、…後の艦隊の指揮は貴方が執るように・・
 ラインハルト様に申し訳ないと…、アンネローゼ様には、ジークは…約束・・」

「「閣下!キルヒアイス閣下!!」」

化物染みた主砲の影響は艦橋にも及び、若く将来が約束された筈のキルヒアイスの生命すら無慈悲に奪い取った。
彼の遺命を受ける形になったベルゲングリューン大佐は、最初主君の遺体も脱出用シャトルに運ぼうと考えたが、
負傷したものの生きのあるビューロー大佐等、負傷者の搬送を優先することにし、主君の遺体の回収を断念し、
轟沈しつつある旗艦バルバロッサを後にする。


一方、未来ある若者の命を無慈悲に奪ったアースグリムとその主人も死神の鎌から逃れることは出来なかった。
キルヒアイスの戦死後、混乱した艦隊に更なる攻勢を仕掛けていたファーレンハイトだったが、
もとより相手に比して過小な戦力で戦うのにも限度があり、
敬愛する司令官の復讐を為さんと執念に燃えるベルゲングリューンが立て直した本陣と、
囮の部隊をようやく掃討し終えたワーレン艦隊に挟み込まれるように攻撃を受けて万事休し、遂に旗艦諸共、砲火に呑み込まれた。



「ザンデルス…、生きているか?それとも先に逝ったか?」

『最後くらい、静かに死なせて…欲しいですね』


横たわる副官のいつもと変わらぬ返答に、咳き込みながら笑ったファーレンハイトは、自分の死を間近に感じていた。
既に艦橋の室温制御も限界を迎えつつあった。脇腹の傷は痛覚ではなく熱となって感じ、致命傷であることを否応も無く悟らせた。
既に参謀長のブクステフーデは物言わぬ屍と化し、ヴァルハラか地獄の住人となっていた。


ザンデルスは、主と同じ死の途上の中で、烈将の呟きを聞いたが、急速に失われて行く聴力では良く聞き取れず、
『本懐』という主が時折使う一語を聞きとるのがやっとであった。





戦闘開始から67時間、後に『烈将会戦』と称される帝国辺境星域遭遇戦は、
両軍の総司令官の戦死を持って終結を迎える。

ファーレンハイトの死後、ようやく降伏し停戦に応じた艦艇は僅か6千隻で、優に200万を超える将兵がその命を散らしていた。
これを迎え撃ったキルヒアイス艦隊の損害も大きく、撃沈若しくは航行不能となった艦艇は1万6千隻、
大破して修復が不可能な艦艇も6千隻を越えるなど、戦略的無価値な戦闘で生まれるとは到底思えないような損害を被っていた。
単純に人的被害を計算すると、救われたヴェスターラントの民衆の二倍以上の戦死者と負傷者が生まれた形である。


この結果から、後世の歴史家や軍事評論家からは、ファーレンハイトは軍事あるかンチズムに陶酔した戦争屋に過ぎないと、しばしば批判される事になる。
また、所詮はファーレンハイトも貴族の末端に連なる者で、自分の我によって多くの兵卒を巻き込んだと殺人者と酷評される場合も多々あった。

同じ時代を生きた自由と民主主義の為に戦った英雄と評されるヘイン・フォン・ブジンなども、
勝利よりも民衆を救う事を優先した烈将についてマスコミから質問され際には、


『どうせ止めるなら、攻撃シャトルが出撃する前に止めろよな』


…と至極合理的で辛辣な回答をしており、多くの大衆歴史小説家や英雄史観に囚われた人々とは隔絶した態度を見せている。
この発言を見る限り、ヘイン・フォン・ブジンはファーレンハイトやミッタマイヤーと言った純粋な軍人というよりも、
オーベルシュタインに代表される謀略家タイプの人間であったと考えられる。

また、自らの半身を失ったラインハルトが、親友と相討ちになった相手を必要以上に持ち上げることで、
死した友の価値を高め、幾許かの慰めとしようとした点も窺え、
悲劇史観によって、とかく美化されがちな『Gangster488』に対する評価を曇らせる要因になっていることも、ここに付記しておきたい。

                            ライチェル・ベルガー著『虚構の烈将』より抜粋



■盟約のあとさき■


後世、様々な論評を受けることになるファーレンハイトやザンデルス、ランズベルク伯の死後、
急速に輝きを失った『Gangster488』の生き残りは、ガイエスブルク要塞内での発言権と実践能力を大きく失い、
主体的な行動を取ることの無いまま終戦を敗北と言う形で迎えることになる。


総司令官のウィリバルト・ヨアヒム・フォン・メルカッツ上級大将は、
キルヒアイス消失という痛事に半ば激発したラインハルト・フォン・ローエングラムの苛烈な攻勢に善戦するものの、抗しきれず、
ガイエスブルク要塞陥落後、副官でもあり同士でもあったシュナイダーの勧めに従って逃走し、自由惑星同盟に亡命する。

また、ヴェスターラントの民衆を救ったことで名を成したアルフィーナ・フォン・ランズベルクは、
救出作戦後、直ぐに率いる小艦隊を解散し、地下へと潜る。
彼女が再び銀河の表舞台に戻るには、少しばかり時間を要することになる。


一方、勝者となったローエングラム陣営の動きも非常に慌ただしいものであった。
親友を失った悲しみを忘れるためか、戦いに没頭したラインハルトは、
歯応えの無い貴族連合をあっさりと破り、ブラウンシュバイク公を始めとする門閥貴族を処断すると、戦いの場を宮廷闘争へと早々に移した。

その際、オーベルシュタインはファーレンハイトと帝国宰相リヒテンラーデ公爵が結託し、
故キルヒアイス元帥を死に追いやり、今なおローエングラム侯の抹殺を企んでいると糾弾し、
『いざ、オーディン!』とばかりに諸提督たちを艦隊と共に首都へと急行し、
玉璽と幼帝を抑え、帝国宰相を拘禁し、処刑することによって完全に銀河帝国の実権を掌中に収めた。



結局、黄金樹の誇りを胸に戦った者達の戦いは、華々しい物ではあったが、歴史の趨勢を決めるものでは無かったのだ。


銀河の一方の主役であるラインハルトを中心にして歴史が動こうとする中、
もう一方の銀河でも、その中心を担う者達の道筋が定まろうとしていた。

自由惑星同盟でも繰り広げられている内乱劇にも、幕が下ろされようとしていたのだ。



    ・・・ヘイン・フォン・ブジン大将・・・銀河の小物がさらに一粒・・・・・

               ~END~





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