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No.38517の一覧
[0] 村勇者 (ドラゴンクエスト6)【完結】 [いんふぇるの。](2013/09/25 17:25)
[1] 兄弟の夢[いんふぇるの。](2013/09/25 17:27)
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[38517] 兄弟の夢
Name: いんふぇるの。◆06090372 ID:5e37ad7c 前を表示する
Date: 2013/09/25 17:27


短い草花が風に揺れる広い平野。
木々は少なく、見通す空は雄大で透き通っている。
その広大な平野の中、石壁に囲まれた町があった。

石壁の外でも聞こえてくる人々の喧騒は、その町が大いに賑わっていることを隠さない。
町の名はシエーナ。
年に数度、バザーという商人たちが切磋琢磨する祭典が行われる町だ。




「いらっしゃい!いらっしゃい!見てって!安いよ!」

「お客さん!どうだいこの商品!ここらじゃ見れないものばかりだよ!」

「おぉっと!そこのお兄さん、どうだい、この宝石。隣の彼女に似合うと思わないかい?」

町の至るところから響く商人の掛け声。
様々な露天が並び、そこに置かれた商品も様々な様相を見せている。
歩道に所狭しと並んでいる露店は、1日見回っても網羅できないほどの数だ。
そんな多くの商人が鎬を削る中、一際大きな客寄せの声が響いた。

町の中央、大広場。
商人にとって最も商売に有利な目立つ優良立地。
そこに向かい合うようにある露天。

「どうでぃお客さん!この商品をこの価格!どこよりも安く、どこよりも高品質だぜ!特に!そこの愚弟なんぞとは比べ物にならん品質だよぉ!」

「どうですお客さん!この商品のこのお値段!どこよりもお得で、どこよりも良品質ですよ!特に!そこの愚兄なんぞとは比較にならない品質ですよ!」

似たような文言で客引きをする商人。
どこか似通った顔立ちの男二人。
彼等の名は、ドガとボガ。
古くからこのバザーに参加する腕利きの商人にして、兄弟で競り合うバザーの名物と呼ばれていた。

「なんだとボガこの野郎!俺の商品にケチつけるってか!?」

「なんだいドガ兄さん!僕の商品に文句があるのか!?」

客引きがいつの間にか兄弟喧嘩に早代わり。
それはこの町で見慣れた風景。
初めて目にする買い物客は驚いて離れていくが、バザーの常連たちは始まった始まったと、野次馬根性で近づいていった。

「ぐぬぬ!よぉし、この商品!なんと500ゴールドを400ゴールドで大安売り!ボガんとこじゃ買えないよぉ!」

「むむむ!よし、この商品!なんと380ゴールドの超安売り!ドガ兄さんよりもさらにお得!」

「おいテメェ!後だしとは卑怯じゃねぇか!」

「情勢を読めって教えてくれたのは兄さんだろ!」

「ぐぬぬぬ!」

「むむむむ!」

睨みあう商人兄弟。
どんどん下がっていく価格。
その限界を見極めて買おうとする常連の客たち。
ドガボガ兄弟、良い品を兄弟喧嘩のせいでとても安く売ることで有名。
今彼等兄弟の周りにいる客たちは、そのことを熟知した買い物のプロ。
繰り広げられる値下げ合戦と、兄弟の商品を品定めする目端の利く買い物客は、バザーの風物詩だった。

結局、商品を200ゴールドも値下げした兄ドガが勝利し、ドガは値下げした商品全てを短時間で売りさばいた。
それでも弟ボガも190ゴールドの値下げまで食い下がり、最終的には兄弟揃って完売。
値下げした商品は大赤字だが、その他の商品の売り上げを含め、トータルで黒字にするあたり兄弟の敏腕振りが窺えた。

「値下げ分のマイナスを差っ引いて……うむ、売上げは僅かに俺のほうが上だな!はっはっは!今回も俺の勝ちだなぁボガよ!」

「むむむ!次こそは負けないからね兄さん!」

商品を売りさばき、帰り支度を始める兄弟。
兄弟は次の競り合いに向けて、次回も切磋琢磨を誓い合う。











――そんな、夢をみた。




「……むぅ」

呻き声と共に目覚める。
喉から出た声は、夢の中と違い掠れて小さいものだった。

ベッドの上で、ぼんやりとしたまま、自分の手を眺める。
夢の中での若々しい手と違い、その手は皺を刻み枯れていた。

「夢……か」

それがとても遠いもののように、老人は呟く。
木造の質素な小屋。
人一人がやっと住めるようなあばら家で、老人は起き上がる。
そして、小さな窓から外を見た。

荒廃した家々。
崩れ落ちた石壁。
雑草が伸び荒れた広場。

かつて、シエーナと呼ばれた町の残照が、老人の目に飛び込んできた。

シエーナ、ほんの10年前まで、この町は活気に溢れていた。
それがここまで荒廃したきっかけはなんだったか、老人は過去に思いを寄せる。

荒廃の原因、それはやはり魔物のせいだろう。
元々、シエーナと呼ばれた町は人口の少ない小さな町だった。
バザーの時の賑わいは、そのほとんどが行商人と他の町からの買い物客になる。
そして、10年前から魔物がだんだんと増え、その脅威が増してきた。
行商人も買い物客も、シエーナに行く道中の危険が増したのだ。
結果、商人も客もバザーに対する魅力を失う。

そもそも、かつて行われていたバザーとは、商人にとって営業の意味が大きかった。
若手の商人は自分を売り込み伸し上がるため、熟練の商人は他の商人との情報交換や他の町の売れ筋を見るため、年に数度のバザーに参加していた。
そのため、採算度外視の商人が多く、バザーがなければなくて構わないという商人が多かった。
特に、危険を冒してまでバザーに参加するような商人などほとんどいないだろう。

そして、バザーに参加する商人は年を追うごとに数を減らし、それに伴い客も減ってゆく。
次のバザーでは商人が減り、次の次では客含めて全盛期の半数を切り、次の次の次では町の住人すら大きな町への引越しを始め、そしてついには、バザーには兄弟商人のみが出店するだけになっていた。




最後のバザー、それを老人は思い描く。
客は来ない、住人もいなくなったシエーナの町に、彼等はいた。
たった二人で露天を出し、訪れるかもしれない客を待って商品を並べていた。
かつて、名物と呼ばれた兄弟商人だけが、バザーを続けていた。

『寂しくなったもんだなぁ』

そう言ったのは兄だったか。
そのとき弟はなんと答えたのか、老人は思い出せない。

『ほんのちょっと前は賑わってたのが嘘のようだぜ』

そう言って寂しく笑う兄に対し、弟がなんと言ったか、やはり老人は思い出せない。

『けどよぉ、バザーは終わらねぇ、終わらせねぇよ』

やる気に満ちた兄の声。
商人魂を燃え上がらせるその顔は……どうしようもなく、老いを刻んでいた。
あの活気があったころ、兄弟は既に老齢期に差し掛かっていた。
弟は初老に差し掛かるぐらいだったが、それよりも10は年を刻む兄は、高齢といっても差し支えないほどの老齢だった。
それでもそこらの若者なんかには負けないぐらいの覇気を持っていた。
事実、兄弟の声は他の商人の誰よりも透き通り、その掛け声は多くの客を呼び止めたものだ。

それが、嘘のように、兄の顔には老いがあった。
当然だろう、弟ですら老いを体に感じ、疲れに常に悩まされているのだ、兄はそれをさらに感じていることだろう。

『終わらねぇ、終わらせねぇよ……』

そう言い続ける兄に、弟はなんと言ったか、やはり老人は思い出せない。




老人の思い描く過去の場面が切り替わる。

大きな木造の家。
内装も整えられた立派な家の中、老兄弟がいた。

『なぁ、次のバザーはいつだっけか』

その問いかけに弟は何と答えたか、老人は思い出せない。
おそらく否定の言葉だったはずだ。
もうバザーは終わったのだと、そのようなことを弟は言ったのだろう。

『何言ってんだ、バカヤロウ。そんなこと言ってたら、今回も俺が勝っちまうぞ!はっはっは!』

朗らかに笑う兄に、弟は無理やり笑みを作って一緒に微笑む。
兄は、呆けていた。
高齢からくる痴呆にかかっていた。
それは必然だったのだろう。

かつて旅商人として各地を渡り歩いていたころは、その体に覇気を漲らせ老いなど感じさせなかった。
だが、年々増加する魔物のせいでバザーがなくなり、旅商人としての旅をやめてしまった今となっては、老人たる兄に覇気はなかった。
急速に老いていく兄を、弟は見続けた。

『なぁ、次のバザーはいつだっけか』

何度も兄は問いかける。
かつて、兄弟で競り合ったあのバザーを、今も兄は想っている。
その兄に対して弟はなんと言ったのか……老人は思い出せない。




老人の思い描く過去の場面が切り替わる。

先ほどの兄弟のやりとりと同じ場所。
大きな木造の家。
内装も整えられた立派な家の中、老兄弟がいた。

兄はベットに横たわり、弟は兄の傍で立っている。

『ひゅー……ひゅー……』

か細い、呼吸だった。
その時が近づいてきているのだと、弟は嫌でも思い知らされた。

『……!……!……』

小さな、まるで虫のように微かな呼び声。
兄は弟を呼び、ふらふらと揺れながら手を差し出す。
その手をゆっくりと握り締めた弟は、兄の顔へと耳を近づけた。

『……あのころは……たのしかったなぁ……』

遠い昔に瞳を向ける兄。
その兄に、弟はなんと返したのか、老人は思い出せない。

『……いろんな商人がいて……いろんな客がいて……おまえと競り合って……』

走馬灯、だろう。
兄の脳裏には、かつて盛況だったバザーが思い浮かんでいるのだろう。
死の間際に正気を取り戻したのか、兄の言葉に耄碌はなかった。
弟が、そんな兄になんと言ったのか、老人は思い出せない。

『……なぁ、俺達で、復興させようぜ……』

遠い、遠いあの場所を思い描く兄の瞼が、ゆっくりと閉じてゆく。




『ボガ、あのバザーを、俺達が復活させるんだ』

『もちろんだよ、ドガ兄さん。僕達で復活させるんだ』

兄の最後に答えたその言葉だけは、老人は今も憶えている。




それから、弟の行動は早かった。
兄の葬儀を終えた後、弟は家を売り払った。
兄弟で駆け抜けた商人の人生は巨額の資金を蓄えており、それを元手に護衛を雇い、世界を廻った。
馴染みの商人に会い、シエーナの町を復興させようと掛け合った。

だが、反応は芳しくない。

どの商人も、弟が望んだ答えを返さなかった。
当然だろう、魔物が跳梁跋扈する今となっては、行商は危険が大きすぎるのだ。
かつては旅商人だった者達も、今ではどこかの町に根を下ろし、店舗を持っている。
今更旅をしようという酔狂な商人はいなかった。

なによりも、シエーナの町が荒廃していることが否定の理由として大きい。
町の住人も引っ越してしまい、無人となったシエーナの町。
立派な石壁も、補修されることがなくなれば、風雨によって傷つき、魔物によって壊される。
そんな場所では、商人が集まっても客は来ないと誰もが言う。

多くの商人に会い、同じ答えを突きつけられた弟は、自ら先頭を切ってシエーナの復興に乗り出す。
町が立派になれば、きっと商人は戻ってくるはず。
仮に、安定を求める熟練の商人は来ずとも、成り上がりを目指す血気盛んな若者は来るはずだ。
きっとそれは、過去あったバザーよりも騒がしいものに違いない、と弟は未来に夢を馳せ行動した。

自分の財産を全て投資し、多くの資材を買い込み、多くの護衛と多くの大工を雇って、かつてシエーナと呼ばれた町へ行く。



そして、辿り着く――――――たった一人、老人だけが。



舐めていた、あまりに今の時代を舐めていたのだろう。
行く先々で襲いくる魔物の軍勢。
一人、また一人と倒れてゆく護衛。
死を恐怖し、逃げ出す大工。

一日たつ度に人は減り、あんなにも連なっていた人と資材を運ぶ馬車の列は魔物に壊され、旅立ったころの集団は、いつしか一人になっていた。

それでも、たった一人になっても、老人は諦めなかった。

かつて、兄と交わした約束を守るために――











老人は、町を眺める。
荒廃した、かつてシエーナと呼ばれた町を。

そして老人は自分が寝泊りしている小屋を見回した。
粗末で質素で簡素なあばら家。
それを作るのにどれだけ苦労した事か。
商人として鍛え上げた知識と経験の中に、建築の知識がなければできなかったであろう。
それは、小さな一歩だった。
だが確かに一つ、家を作り上げたのだ。
こうやって少しずつ、少しずつ作り上げていけば、必ずいつか、町になる。

老人はその思いを絶やさない。
今日も老骨に鞭打ち建築を続ける。

応援を呼べればいいのだろうが、それをするための資産はもう残っていない。
僅かに残った高位僧侶が作った聖水のおかげで、魔物の脅威は少ないが、老人は一人で作業をしなければならない。
それは辛く、厳しいものだろう。
しかし、老人の心に諦めはない。

今はもう、兄の顔すら思い出せなくなった。
老人自身にも老齢の波が襲っていた。
それでも老人は諦めない。


仮に全てを忘れても、兄との約束だけは、絶対に忘れないと誓ったから。


それだけが、老人を動かす原動力。
それだけで、残りの人生を賭けるに値する。
だから、老人は諦めない。
今もシエーナの復興を目指している。


重い体を動かして作業を続ける中、蹄の音がした。
音のほうを振り返れば、立派な白い馬が引く、これまた立派な馬車が見えた。
老人は近づいてくる馬車を見て、旅人だろうと思った。

商人としての勘は、的を射る。
馬車から降りてきたのは、旅なれた冒険者達のようだ。

先頭を歩く、青い髪の青年剣士。
浅黒い肌をした、筋骨隆々の大男。
黄金の髪をなびかせる、美しい女性。
快活な笑顔を見せる、赤髪の少女魔導師。

近づいてくる旅人たちを眼にし、老人は作業をやめる。
旅人が来たならば、やるべきことがある。

それは――営業だ。

いつか、この町が復興した際に、旅人たちが口コミでその情報を広げてくれるように、老人はいつも語ってきた。



朽ち果てた町で、老人は一人。



「おうおう、旅のおかたか……。なぜ一人でおるのか、じゃと?うむ、わしも昔は旅の商人なぞをやっておってな。そしてそんな商人たちがいろいろな品物をもってあつまる町……。そこに来れば各地のめずらしい品物が手にはいる……そんな町を夢みておるんじゃ……」



バザーの夢を見続ける。











~あとがき~
現実のライフコッド南、麓の小屋にいるおじいさんの話でした。
この後、旅人たちは老人の家から小さなメダルを奪取します。やだ、鬼畜。
そしてその小さなメダルは、老人がまだ幼い頃に、商人を目指す夢を兄に語ったときに既に商人だった兄からプレゼントされたものであり、老人に残った最後の財産だった……という裏話があったりなかったり。やだ、外道。

感想にてシエーナの町についてご質問があったので、私の妄想を短編にしてみました。
ゲーム本編を現在として時系列でいうとこんな感じ。

10年前:バザー全盛期。ガッツが訪れたのはこのぐらい。
7~9年前:魔物が増えて段々と衰退。
6年前:兄弟二人だけの最後のバザー。シエーナ終了のお知らせ。
数年前:兄死亡。弟復興の旅へ。
現在(ゲーム本編):弟、一人で復興作業中。旅人、弟の小屋から小さなメダルゲット
ざっくばらんにこんな感じです。

冒頭の全盛期シエーナは、幻の大地のシエーナです。
幻の大地のシエーナで兄弟が若いのは、弟が兄と一番競い合ってたころを夢見たから。
そして兄には絶対勝てない夢をみます。次は勝つという誓いを終わらせたくないから。

こんな感じの妄想をしています。
今更ながら夢の世界と現実の世界とかドラクエⅥの世界設定ってものすごく秀逸だと思いました。まさに夢が広がります。

これでドラクエネタは完全に尽きました。
ネタが思い浮かべばボッツ編の可能性もなきにしもあらず。めいびー。


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