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No.38442の一覧
[0] Memorable Birthday -side Sana- (天神乱漫)[sa-na](2013/09/09 06:07)
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[38442] Memorable Birthday -side Sana- (天神乱漫)
Name: sa-na◆41e34a62 ID:8139ece1
Date: 2013/09/09 06:07
これ以上の喜びがあるだろうか。
「ーーハッピーバースデイ。……佐奈」
それは唐突に。
そして雷の如く私の心を動かした。
つ、と一粒。暖かい感情が頬を伝って落ちる。
こういう瞬間に最も感じるのだ。ーーああ、私はなんて幸せなんだろう。
そして、どうしてこんなにも私は幸せなんだろう、とも。


・・・・・・・・・・・・・・・


蒸し暑い日が続く。もう、家の中では服を全て脱いで過ごしたいと思うほどの気温だ。何処かで聞いたニュースでは、もう梅雨入りした地方も多いと言っていた。
雨は、それ自体は嫌いではない。でも、濡れることはあまり好きではない。複雑な気持ち。
それに加えて、夏が近づけば気温もそれにつれて上がってゆき、何より嫌な変化が起こる。
虫。
佐奈は虫が嫌いだった。特に小さな羽虫。「それ」が辺りを飛んでいることを意識したその瞬間から、身体のあちこちがむず痒くなるのだ。
しかし今の佐奈はそんなことも気にならないくらいに夢中になれることがあった。
梅雨の蒸し暑さにも負けない程に熱く……そう、愛する人が。
彼のことを想うその度、佐奈は相当の注意を払わなければならない。さもなくば、佐奈の意識は遥か遠くの妄想世界を彷徨った挙句唐突に爆弾的な発言を創造し、そのフォローのためーーこれは秘密だが、本当は照れ隠しのためーー
彼に向かって暴言を吐いてしまうのだ。佐奈はその度に彼に嫌われてはいないだろうか、と不安になってしまう。
そしてそんな不安感を抱いてしまう自分を嫌悪するのだ。
まだ心の底から彼を信じられていない自分を。


・・・・・・・・・・・・・・・


佐奈は浮かれていた。
何故なら、明日は記念日だ。それも、彼との関係が変化してから数えると初めての「その日」がやってくるのだ。佐奈はとても浮かれていた。
当日になると、佐奈はそわそわし始めた。もしかして午前零時ぴったりに、最速でお祝いを……?などと考えもしたが、その予想は外れた。でも少し遅れてるだけかも、そう思うと全く眠れなかった。いつ部屋の扉がノックされるか、心臓の鼓動が聞こえるような心境で待ち続けた。
しかし、気づくと外では鳥がちゅんちゅんと鳴いていた。
結局眠れない夜を過ごした佐奈は、朝ご飯の支度のために居間に下りた。するとこの家の住民たちは続々と起きてくる。しかし佐奈が待っていたのはそのうちのただ一人だった。
「佐奈、おはよう」
「あ、おはようございます兄さ……春樹さん」
「……呼びづらいなら別に無理することはないんだぞ?」
「いや、いいんです。それより、その……」
「?どうしたんだ、佐奈?」
わかっていないご様子。
ああ、もしかしてこれは、
「……いえ。なんでもないです」
「いや、なんかあるだろ?」
「なんでもないですから。兄さんはとっとと椅子に座っててください」
「……?」
不服そうな顔をしながらも渋々と椅子に座る、彼の顔を見て思う。
不服なのは私の方ですよ……!


・・・・・・・・・・・・・・・


「……なあ佐奈」
「…………」
「……佐奈さんやー」
「…………」
「なあ、本当どうしたんだよ?俺なんかしたか?」
「……話しかけないでくださいませんか?ちょっと考え事をしているので」
「あ、ああ……ごめん、気が回らなかった」
申し訳なさそうな顔を見て、今度は少しだけ胸がずきっと痛む。
こんなつもりじゃないのに。
素直に言ってしまえばいいのに。
でも、佐奈は許せなかった。
自分で気が付くまで、絶対に教えない……そう決めてしまったのだ、頑固な彼女は。
今日に限っては、通学路が全然楽しく感じられなかった。


・・・・・・・・・・・・・・・


授業中も上の空。
「……ねえ、佐奈ちゃん?」
「…………」
「ねえってば」
「……へっ?な、なにかな」
「どうしたの?なんかさっきからぼーっとしてるけど」
「あ、いや……なんでもないの」
「そう?ならいいんだけど…」
「ごめんね、心配かけちゃって」
「いいって。友達じゃない」
「うん……ありがと」
隣の席の子に心配される始末だ。
情けない。
たった一人のためにここまで自分を駄目にして、……それでもいいと思ってしまう自分がいる。
彼に次なんて言おう、ちょっとアピールしてみようかな、でもやっぱり自分で気づいて欲しいな……。そんなことばかり考えて。ぐるぐるぐるぐる、一人で考えて、出ない答えを探している。
病気ですね、私。兄さん……。


・・・・・・・・・・・・・・・


放課後。
いつもは彼からメールがきて、一緒に帰ることが暗黙の了解のようになっている。しかし、今日は携帯が静かだった。朝、冷たくしすぎた所為かもしれない。
仕方がないので一人で帰ることにする。校門を出て、そして見た。
「あれは……葵さん?」
隣にいるのは、嫌という程見覚えのある後ろ姿。
わかる。
二人は幼馴染だ。仲がいいのは百も承知。でも。
今日は私の、誕生日なのに。
他の女の子と一緒に帰るなんて。
その後ろ姿が、ふと何かに気づいたように顔を動かし、ポケットを探った。
しばらくして、微弱な振動が佐奈に新着メールの存在を知らせた。
「少し帰りが遅くなるかもしれない」
走った。


・・・・・・・・・・・・・・・


一体なんの冗談だろう。
佐奈は混乱の真っ只中にあった。
今日は何の日?
もしかしたら、私が日にちを間違えているのかもしれない。そう思って携帯を開き、日付を確認して意気消沈する。
この操作を既に十数回繰り返している。
次第に目の焦点が合わなくなってくる。そして視界がぼやけて、にじんで。
どれだけ経っただろう。枯れるほど水分を浪費して、喉が渇いた。
目の下を腫らしたまま居間に下りていくと、
「ただいまーっ」
何か急いでいるかのような、慌てた声が帰ってきた。
そして居間で鉢合わせる。
息を切らせ、驚いた顔をする彼と泣き濡れたまつ毛が向かい合う。
何をそんなに急いでいるのだろう、そんなことを呑気に考えていると。
不意にきつく抱き締められた。
「……ごめん。たぶん俺のせいだよな」
「……何がですか」
「泣いてただろ?」
「……勘違いしないでください、これは目薬です」
「嘘はいい」
そう言うと、佐奈の肩をぐいと掴んで正面を向かせる。自分でも気づかない内に顔を逸らしていたようだ。
そして彼は何かを差し出した。丁寧にリボンが掛けられた、可愛い箱。手のひらに乗らないほどの大きさのそれを佐奈に見せながら、
「遅くなってごめん。それから」
リボンを解いて。
「ーーハッピーバースデイ。……佐奈」
中から現れたのは、白と赤のコラボレーション。
丸いーー少し歪んだ円形の真ん中には、これまた白い板に茶色っぽい文字で言葉が描かれている。
「Happy Birthday My Dear」
そして彼は恥ずかしそうに言葉を続けた。
「……下手くそだけど、笑うなよ。これでも一週間かけて葵に教えてもらったんだ」
彼は不器用だから。
言葉だけじゃ伝わらないことは、二人とも知っていた。
信じているからこそ信じられない。矛盾しているようで、実は矛盾していないのだ。うまく説明できはしないが、そういうものなのだと思う。
でもそれでいいんだ、と。彼とーー兄さんと、信じあって、でも信じられなくて。
ただ、兄さんを好きでいられれば、私はそれでいいんだと。ようやく気がついた、こんな単純な答えに。
気づけば彼は目の前にいた。
自分から両手を彼の腰に回す。
そして互いの体の柔らかさと暖かさを共有する。
そして、その隙にそっと彼のシャツで涙を拭ったのはヒミツの話。


……fin


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