※短編です
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「ッ…ゲホ……ゲホッ………」
咳込む度に口元に当てたタオルが紅く染まっていく。
大分前に気付いた、僅かな身体の変調。
だが、目的を果たすまではと、無視してきた。
しかし、時が経つにつれて徐々にそれは身体を蝕んでいたらしい。
「ぅ、ぐっっ………グオェッ」
ドクンというひと際大きな鼓動と共に、喉元にこみ上げるモノを吐き出すと、
ビシャリと言う音と共に赤黒い塊が床に落ちた。
ソレは血ではなく―――壊死をおこし崩れた内臓であった。
「―――嘘……だ…ろォ……?」
予想以上にボロボロな自分の身体。
このままではネスとアメルを救う術を見つけるよりも、自分が壊れる方が早い……
その事に気付き、俺は誰にも知られない様に派閥を抜け出した。
俺は力の入らない足を叱咤し、歩を進める。
目指したのは、シルターンの装いをした建物。
「―――来ると思っていたわ。 久しぶりね、マグナ」
「ええ……メイメイさん」
メイメイさんは微笑みを浮かべ迎えてくれた。
俺は、店の奥、様々な魔具らしき物が置かれている部屋に通される。
その中央、大きな水晶が納められた台座の前でメイメイさんは俺に向き直り、口を開く。
「―――本当に良いのね? 後悔はしない……?」
問われた事に、しかし、俺は迷う事無く頷いた。
「俺にはもう、時間が無いから…… 俺はネス達を助けたいんです」
たとえ、その為に赦されざる罪の烙印をこの身に刻もうとも……
俺の意思は変わらないと、メイメイさんに告げる。
彼女は哀しげな表情を浮かべた。
「―――ゴメン」
「謝る事は無いわ。 これは、真に貴方の望んだ、そして私もその願いを聞き届けたのだから……」
祭壇を中心に描かれた魔方陣に、俺とメイメイさんは向かい合って立った。
メイメイさんは水晶に手を翳し、言霊を紡ぐ。
『界の意思よ、至願の成るを欲する者に時の呪縛を……魂の流転を断ち切り……この者の魂を…過去へ導きたまえ!!』
水晶から眩い光が立ち昇り、ソレは鋭い刃となって俺の身体を貫いた。
全身に激痛が走り、視界が闇に染まる。
俺の意識はそこで途絶えた………