<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

SS投稿掲示板


[広告]


No.38354の一覧
[0] 暁!!貴族塾!!【ゼロの使い魔 X 宮下あきら作品】[コールベール](2013/08/26 18:59)
[1] 第1話「転生!!もう一つの世界!!」[コールベール](2013/08/28 20:19)
[2] 第2話「名物!!異端審問!!」[コールベール](2013/09/04 19:22)
[3] 第3話「決闘!!青銅のギーシュ!!」[コールベール](2013/09/04 19:22)
[4] 第4話「妖刀!!ヤンデルフリンガー!!」[コールベール](2013/09/07 03:30)
[5] 第5話「波濤!!メイドの危機!!」[コールベール](2013/09/09 18:32)
[6] 第6話「銃士!!怒りのイーヴァルディ!!」[コールベール](2014/04/20 17:51)
[7] 第7話「散華!!閃光の襲撃!!」[コールベール](2014/05/03 06:29)
[8] 第8話「双月!!剣と涙と男と貴族!!」[コールベール](2014/05/23 15:40)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[38354] 第8話「双月!!剣と涙と男と貴族!!」
Name: コールベール◆5037c757 ID:f6102343 前を表示する
Date: 2014/05/23 15:40
@@@ side ????? @@@


ハルケギニアに内包されつつも、
決して光がさすことのない世界で、二つの大いなる意思がせめぎあっている。

それらは、人と呼ぶには神的過ぎた。
そして神と呼ぶには俗悪的で、なにより、結局は人間の業そのものだった。

???「また、お前が行くのか」

???「ああ」

???「……」

???「すまんな……」

???「ゲートを潜れないんだからな、しかたねえさ」

???「本当に、スマンと思ってるよ。だがいざとなりゃ、お前しか【ヤツ】を止められないんだ」

???「安心しろ、そもそも【ヤツ】は……。身内の始末は身内でつけるさ」









@@@ side ハルケギニア @@@



アルビオン城、軍議室。

ウェールズと謁見したサイトは、改めて、ここが以前のハルケギニアとは別物であると思い知らされていた。
ハルケギニア歴で今日の暦は、かつてサイトがタルブでゼロ戦を飛ばした日だった。
七万との交戦には、あまりに早すぎる。

違いは、歴史だけではない。
この世界のウェールズは、女だった。女としてのウェールズは、目も眩まんばかりに美しかった。

「オレは戦のことは分からんが、和平は、ムリなのか」

「不可能です。戦力に差がありすぎますからね。降伏しか受け入れてもらえないでしょう。しかし我らにも、誇りがあります」

以前のサイトには、全く理解できない理屈だった。
しかし今は違う。美しい王女の中に、かつてと変わらぬ物を見たサイトは、望郷のような喜びを感じた。

「なるほどな。オレも下げたくもねえ頭をつかんで、無理やり謝らせようなんて思っちゃいねえよ。ようするに、あいつらをビビらせりゃあいいんだろう」

「ビビらせる?」

「オレが一発かましてくる。それでお前らとガリアに五分の杯を交させてやるさ」

ウェールズは、自分の耳を疑った。
悪質な侮辱か、良くて戯言にしか聞こえないはずの言葉だった。

「敵は七万いるのですよ?」

「メじゃねえよ」

「万に一つも生還の可能性はありませんよ?」

「万に一つでも、億に一つでもねえ。もともと男の闘いは、生きるか死ぬか。二つに一つよ。
 騎士道なんて気のきいたものは知らねぇが、オレぁ切った張ったの勝負にゃ一度だって塩舐めたことはねえんだ」

その学ラン少年の言葉には、不思議な力があった。
他の誰が言っても馬鹿げた話になってしまうであろうに、ウェールズには、その少年が本当の事を言っているようにしか聞こえなかった。

その場を悠然と去るサイトに、誰も声をかけるものは居ない。












デルフリンガーを取りに、サイトは一度、客室へ戻る必要があった。
その道すがらテラスを通ると、遠くの空から飛翔してくるものが視界にはいった。
それは破壊という名の現象が、人の形を成した存在だった。

「ばっ、バカな……」

サイトは、自分の正気を疑った。
この時、この場所に居るはずのないそのメイジは、みるみるうちにアルビオン城へと接近してくる。

「こんなことが……」

ルイズだった。鬼の形相だった。
フライの浮力を少しでも稼ごうと、広げた両手をバッサバッサと羽ばたかせている。

目が、あってしまった。
少女の眼が、闇の灯台のように光った。

「い、いかん!!」

サイトは逃げようとしたが、竦んでしまって足が言うことをきかない。
まもなく桃髪の悪鬼が、少年の前に舞い降りた。

途中で戦いでもあったのか、
着衣は乱れ、あちこちにカラスの羽が付着している。

「ゼェ……ゼェ……」

「アルビオンまで……飛んできたってのか……」

「ゼェ、ゼェ……そうよ……。あんた……ゼェ……」

とんでもないド根性だった。
少女は息切れしながらサイトを睨むと、凄まじい剛拳でサイトの顔面を打ち抜き、そして意識を失った。

倒れそうになったルイズを、あわててサイトが抱きかかえる。

「フッ……。とんでもねえ女だぜ、まったく……」












サイトはルイズを背負い、客室まで戻った。

扉を開こうとすると、背後から声がかけられた。
アルビオン貴族だった。

「サイト殿、ちょっとよろ……ぬおおおおおおっ?!」

「どうした?」

「そ、その顔のケガはどうされたんですか?!思いっ切り陥没してますよ!!」

「気にするな。見ての通りだ」

「見ての通りなら、なんで生きてるんですか……」

「男とはそういうものだ」

「な、なるほど……。あ、あの……、これは王女様からです」

彼はそう言うとサイトに一枚の手紙を渡した。

「確かに頂戴した。こちらからも頼みたいことがある。
 この女を、トリステインまで送り届けてくれないか?こいつはトリステインの、名のある家の者だ」

「かしこまりました。丁度トリステインからの武官が去られる所です。その方にお願いしましょう」

サイトは部屋に入室し、ルイズをベッドに寝かせると、さきほど受け取った手紙を開いた。

『若さ哉、気高い業とは、愛が仇。即ち尚ほも、大和魂』と書かれていた。王女からの恋文だった。

これは、持っていけない。
サイトはそう判断し、手紙を、ベッド脇の机の上に置いた。
脳裏に、かつてワルドの凶刃に伏したウェールズの残像が浮かんだ。手をあわせ、顎で深く一礼する。
それから想いをこぼさぬよう、ぬぐわぬよう、天井を眺めた。

「さて、ゆくか」

そう微笑んだ顔は、既に戦士のものだった。











第8話「双月!!剣と涙と男と貴族!!」


騎馬から降りたサイトは、冷えた草原を踏みしめた。
かつての死地への再訪は、奇妙な郷愁をともなっていた。

眺める砂煙の先から、ガリアの大軍が迫ってくる。
巨大な亜人や、武装した戦士や、禍々しい魔導兵器が、地平線を覆い隠している。

いつか、こことは異なる双月の下、少年が伝説となった時とそっくりだ。

あの日の自分に欠けていたものはなんだろうか?
今の自分が失ったものはなんだろうか?
そんな思いは、もはやない。

ただ覚悟だけが、今のサイトを動かしている。

サイトは、人の子とは思えぬ声量でガリア軍勢に向かって叫んだ。
このハルケギニアに漢として生まれたものならば、誰も無視することのできない咆哮だった。
正しく、雄叫びであった。

「オレとタイマンはったれや大将ォォォォォォォォォォォォォォ!!」

7万を率いる長が叫び返す。

「上等だ小僧ォォォォォ!!そこ動くんじゃねえぞコラァァァァァァァァァァァ!!」

雷鳴とともに、一人の美丈夫が、サイトの眼前に降臨した。
ガリア王国国王、ジョゼフ一世であった。

ガリア兵士らは、その非常識な光景に目を見開いた。
あのジョゼフ王と一対一で戦うなど、7万を相手にする以上の難敵ではないか。

「ワシを名指しで呼び寄せるとは、大した度胸よ。その無鉄砲に免じて、うぬにはこのワシが直々に杖をつけてくれようぞ」

「笑止。貴様は恐れたに過ぎぬ。このオレ一人を相手に、多くの手勢を失うことを」

先刻、サイトはウェールズ女王に言った。
『メじゃねえよ』と。それはハッタリではなかった。
アルビオン軍が7万を前に死を期する中、サイトは、それ以上の強敵を見据えていたのだ。

「こしゃくなガキめ。見抜いておったか。
 だが、もとより軍団などかざりよ。全てはワシさえおれば事足りる。それに、うぬはここでワシに倒されるのだ。何も問題はあるまい」

「俺を甘く見ないことだ。死ぬことになる」

「言いよるわ。だが、いつまでもうぬにかまってはおられぬ。この後は、ワシ一人でアルビオンを滅ぼさねばならぬでな」

ジョゼフが破顔しながら、王者らしい雄大な構えを取った。
それを見たサイトも、デルフリンガーを正眼に構える。

「お待ちください!!」

叫びと共に、空から黒ローブの女性が舞い降りた。
女性はジョゼフに駆け寄り、片膝をついて礼を払った。

「おお、シェフィールドか」

「このような無名の戦士、王が御自ら御相手するには及びませぬ!!この戦い、私めにお任せください!!」

「……まあいいだろう。好きにするがよい」

「ありがたき幸せ!!出でよ、紳士28号!!」

シェフィールドの命に応じ、地を裂き、奇妙な物体が現れた。

「ガピーーーーーー!!」

ドーム上の頭部を持つそれの身の丈は、サイトと同程度。
ドラム缶を思わせるボディから二本の腕が生えており、左手先端にはハンマー、右手先端にはハサミをそなえている。

「なっ?!これは……」

下半身はキャタピラになっているが、その形状は地球の戦車を模しているらしく、必然的な部位に大砲が備えられている。
リュック状のバックパックを見るに、飛行も想定していると見るのが妥当だろう。

「これは……まるでゲッター……」

それは、ロボットというにはあまりにも大雑把すぎた。
大雑把で、投げやりで、そして見たまま過ぎた。それは、正にガラクタだった。

「フフフ……。『場違いな書籍』を元に再現された最強兵器、紳士28号を甘く見ないことね、ボウヤ。
 オリハルコン製のボディはどんな攻撃もよせつけず、その頭脳は人語を解し、また敵の動きを完璧にトレースする」

「……そうか」

「な、なによその眼は!!確かに見た目はサイテーのガラクタだけど!!」

「ピーー。紳士・キャノン、ファイア」

「ふぎゃーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」

28号の放つ怪光線で、シェフィールドはホネを透過させながら地に伏した。
ジョゼフがゴミを見る眼でそれをあざ笑う。

「愚かな。我がデザインセンスをガラクタ呼ばわりとはな。よくやったぞ、28号」

「ガピョッ、ガピョッ」

勝利の舞を魅せる28号の足元で、
黒コゲのシェフィールドが静電気を放ちながら、ピクピクと痙攣した。
サイトの声が怒りに震える。

「なっ、仲間になんということを……!!」

「その女はワシを愛しておるらしいからな。これならあるいは哀しめるかと思うたが、やはり適わぬか」

「畜人鬼めが……!!」

「あいにくこのジョゼフ、弱者にかける慈悲など持ち合わせておらんのだ」

「共に戦ってきたのではないのか?!それを、キャラデザインが心なし対魔忍なくらいで!!」

「こっ、小僧っ!!このワシでさえちょっと言えなかったことを……!!」

「フッ」

「ぐむむむむ……、大口を叩きおって……!!やれ!!28号!!その思い上がり者めを血祭りにあげてやるのだ!!」

「ガピッ!!」

「来い!!ド腐れロボット!!心無きマシーンに俺は倒せぬ!!」

「ガピピピピピピピピピピピピピピピ!!」

蒸気を噴出しながら、28号がサイトへ突進してゆく。

闘氣で輝くサイトの音速拳に合わせ、28号も同じ動きを取った。
拳と拳が乾いた轟音を立て、両者の体を吹き飛ばす。

それは、ジョゼフが予想したとおりの光景だった。

「28号は、貴様の動きを完全に模倣する。さて、ここからどう倒すか見せてもらおうか」

サイトが立ち上がるのと同時に、28号も立ち上がった。
そしてボディの節々から黒煙を立ち上らせ、その機能を停止し、再度倒れ伏した。

サイトがジョゼフに向き直る。

「言ったはずだ。心無きマシーンに俺は倒せぬと」

「なるほど、氣を流しこんだか。確かに機械に氣はトレースできぬ。
 しかし小僧よ、余を、そこでブザマに転がっているカマセキャラどもと同じに思わぬことだ」

「そうらしいな。貴様から感じる殺気、並みのものではない」

「ヌゥン!!」

ジョゼフが杖を振ると、サイトとジョゼフをつつむ、半径10メイル程の、半球状の光体が現れた。
そこから、28号とシェフィルードが外部へと弾き飛ばされてゆく。

「これで邪魔は入らぬ。今度こそ1対1の真剣勝負だ」

「能書きはいい。とっとと始めようや」

サイトはデルフリンガーの鞘を左手に持ち、腰だめに構え、ゆっくりと目を閉じた。
日本武術の精髄にして最速の型、抜刀術の構えだった。

「ほう、我が速力を看破しおったか。だが……!!」

ジョゼフが素直な感嘆を浮かべ、その場から消えた。
そして、矢うねりの後に音波を聞くような、強弓を思わせる超速度。虚無の加速だった。
サイトの後方5メイルほどの場所に、ジョゼフが忽然と現れた。

「これがワシとうぬの力の差よ」

ジョゼフがせせら笑った。
その声で裂かれたかのように、サイトの右太ももから血が噴き出した。
サイトはその深手に見向きもせず、ジョゼフに振り向くことすらもせず、いつもの落ち着いた口調で答えた。

「のぼせるのもそのへんにしとけや、とっつぁん」

ジョゼフの左前腕からも、鮮血が噴出した。
狂王は傷口を一舐めすると、背中合わせのままつぶやいた。

「なるほどな。心眼剣か」

「速いだけでは俺は倒せんということだ」

互いに向き直る。
両者の間に、風も避け通らんばかりの氣圧がきしんだ。

「小僧、うぬの名を聞いていなかったな」

「人はサイトと俺を呼ぶ。さあ、戦いを続けようじゃねえか」












アルビオン城、客間の一室。
ルイズはそのベッドの上で天井を眺めている。
錬金と木材で飾られた装飾は、かつてのハルケギニアと同じに見えた。

「なんで、こんなとこまで来ちゃったんだろ……」

ルイズは今のサイトに、友情と嫌悪感とを感じていた。
悪感情のほうは、愛してはならぬという想いが裏返ったものだった。

ルイズはこれまで、自分の逆行について調べようと、多くの本を読んできた。
そして得た結論は『自分はただ時間を遡ったのではない。別の世界の、別の時間軸に飛ばされたのだ』ということだった。
ウェールズが女性になっていることなどは、ここが平行世界であることを如実に証明している。

だから今のサイトは、あのサイトじゃあない――――

もしあのサイトだったとしても、そんなこと確かめる方法なんてない――――

かすかな希望を見出そうとする自分が、汚らわしいもののように感じられる。
聞くところによると、サイトがワルドの手から自分を救いに来た時、彼は初撃からワルドの名を叫んでいたという。
ひょっとしたら。そう思った。だからここまで来た。そしていざここまで来てみれば、自分がすがる可能性の儚さが、あまりにみじめだ。

なのに、サイトが7万に向かっていったと聞けば、やはりなお葛藤が生じた。
いつかのサイトと、重なって見えてしまう。

また『サイト』を死なせるのか?
そう思えば、彼の元に駆けつけたいという気持ちは確かにある。

『愛していない別のサイト』のために体をはるのか?
そう思えば、わずかな感情の乱れに流されるべきではないと信じられる。

かつてのアルビオンの時は、トリステイン人らの撤退のためという大義があった。
しかし今は、ここに民間人は駐留していない。

サイトのところへ行く理由なんてない。
サイトのところへ行く理由がみつからない。
サイトのところへ行く理由ばかり探している。

煩悶していると、ベッド脇の机の上に一枚の手紙があるのに気付いた。
ルイズは無心で、その手紙に飛びついた。

中身は、日本語で書かれた文章だった。
日本語を書く知り合いなど、彼女にはサイトしか思い浮かばない。

日本語の読めないルイズは、僅かにためらった。
自分はこの手紙の内容を知ろうとしていいのだろうかと。

しかし、愛ではなくとも、友情があるなら、その手紙の内容を気にする理由としては充分だろう。
そう自分を説得した。

ノックの音が響いた。

「だれ?」

「トリステイン女王直属部隊の者です。こちらにおられるトリステイン貴族の方の、退避中の護衛を言い付かってまいりました」

退避という言葉に、気が沈んだ。
何が彼女にそうまで感じさせるのか、ルイズにはまだ分からなかった。

「入って頂戴」

「はっ」

「失礼します」

音を立てず、上品に開かれた扉から、二人の女性が入室してきた。
彼女らは、ルイズの服装を見て顔を青ざめさせた。

「ひっ、ひいいいいいいいいいいい!!」

「きききき、貴族塾?!」

「なっ、なによ『ひいいいいいいいいいいいい」!!』って?!」

アニエスとミシェルはヒシと抱き合いながら、恐怖の念をダダ漏れにして後ずさった。

「よ、よるな!!お前らに関わるとロクなことがない!!」

「なななな、なんて失礼な!!」

「というか……、どうやってここまで?!民間船は全部休航中なのに!!」

「うるさいわねえ。仲間のエルフとメイジにでかいパチンコ作ってもらって、途中までそれですっ飛んできたの。
 あとはフライと根性よ。方角が分からなくなったら、カラスに聞いたわ」

「「ばっ、ばけもの……」」

「あんたらねえ……」

ルイズは怒鳴りつけようとして、ふと思い当たった。
エリート集団の銃士隊は、確か、基本的な日本語の訓練も受けているはずだと。

「そうだわ!!サイトがこの手紙を残していったの!!あなたたち日本語読めるでしょ?!コレ読んで!!」

アニエスとミシェルは、サイトという名に聞き覚えがあった。
貴族塾で決闘騒ぎを起こした内の一人だ。そう思えば、目の前の少女にも見覚えがあると想起される。

アニエスたちは、サイトとルイズを恋仲と読んでいた。
なので必然、何かあったのだろうか?と思う。
あの極バカ二人なら、ますます早く解放されたい、とも思う。

そんな思考が混ざり合い、アニエスは、少しだけ妥協することにした。

「よ、読んだら解放してくれるか?」

「なんでも言うこと聞くから!!早く読んで!!」

「むっ」

かじりつくようなルイズの様子は、アニエスから真摯な衝動をひきづりだした。
突き立てるような確認をする。

「お前はあの男、サイトとやらを好いているのか?」

アニエスの言葉に、ルイズはどこか悔しそうに押し黙ってしまった。
それを見てアニエスはルイズを、歳若くして、古い貴族の価値観に凝り固まった少女の典型だと思った。

どう言っても、本当のことからかけはなれてしまう――――
かといって、頭の中の真実らしいわだかまりなど、とても言えるはずもない――――

そんな精神状態は、アニエスの中にも、いまだ克服できぬ道義上の葛藤としてうずまいている。

「よし、いいだろう。読んでやる」

アニエスは、手紙に書かれている句に目を通した。
『若さ哉、気高い業とは、愛が仇。即ち尚ほも、大和魂』と書かれていた。

それは、愛するものへの別離の歌だった。
何通りかに解釈はできようが、その主として意味する所は『ルイズを愛しているが、それでもなお戦いに死ぬことを選ぶ』ということだろう。

ということは、ガリア軍に一騎駆けしたという男は、あの少年か――――

「読めるんでしょ?!教えて!!」

「む、むう……」

アニエスは、安請け合いを後悔した。

重い内容だ。
まだあどけなさの残る、つまめば折れそうな少女に、この句を告げろというのか?

「お願い……教えてよ……」

ルイズが、涙さえ流しそうな様子ですがり付いてくる。
アニエスは、ミシェルに押し付けることにした。

「すまん。疲れ眼のせいか、字がかすんで見えるのだ。ミシェル、読んでやれ」

「はっ!!どれどれ……」

ミシェルは、漢字を飛ばして読んだ。

――――○さ○、○○い○とは、○が○。○ち○ほも、○○○。

「はうあっっっ!!!!!!!!!」

「なっ、なんて書いてあったの?!」

「そそそっ、それは……!!」

「言えっ!!言うんだミシェル!!」

「し、しかしこれはあまりに……!!あううっ……!!」

ミシェルはマンボウのような表情に、納豆のような脂汗をしたたらせた。
ちらりと、ルイズをみやる。

「意地悪しないで……教えて……。ね……?お願いだから……」

ルイズの澄んだ眼から、いよいよ涙が零れ落ちた。
捨てられた子猫のように、ミシェルを見上げている。

ミシェルはプルプル震えながら、アニエスを睨んだ。

「……」

視線をそらされた。

しばしの静寂。
やがてミシェルは覚悟を決め、ルイズに、そっと耳打ちした。

「……」

「なっ、なんですってえええええええええええええええええええ?!」

それは、あまりに衝撃的なカミングアウトだった。
なぜこのような時にそんな話を?

しかしルイズは驚いたものの、心のどこかで『やっぱり』とも感じていた。
思えば、心当たりは大いにあったのだ。

再会してからのサイトは、全く女の子に興味を示さない。
あのシエスタとも、ほとんど会話をしない。

交友関係以外で考えれば、会話の中で『男』という単語を不自然なほどに多用する。
あんまり『男』ばかり言うもんだから、心の病みたいなものかと悩んだくらいだ。

でも、これで全ての謎は解けた。
やっぱり、そういうことだったのだ。

ただ、『サイトは自分を愛している』とも感じていた。
多くを語らない男だが、一緒にいれば分かる。
彼が『昔のサイト』と別人である以上、その愛にはこたえられなかったが、
サイトが男色家であったのなら、確かに感じていたあの愛はなんだったのだろうか?

いや、考えなくても答えは、分かっている。

『騎士道の愛』だ。
このトリステインにもかつてあったという、本物の『騎士道の愛』だ。
忠義とも異性への想いも違う、母への敬慕にも似た『騎士道の愛』だ。

サイトの後姿を思い出す。
ルイズは、称号ではない、生き方としてのその言葉をつぶやいた。

「シュヴァリエ……」

「……そうだな」

アニエスは何かを隠すように、ルイズに背を向けた。
ミシェルにはもはや、何も聞こえていない。

――――ねぇ、ルイズ。あなたは彼の騎士道精神に、一度でも応えてあげたことがあった?

それは、ルイズを最も動かすものだった。

「行かなくちゃ」

言うが早いか、ルイズの足は戦場に向かって駆け出していた。

「行ってどうする!!ジョゼフのはったシールドは誰にも破れぬぞ!!」

「そんなのなんとかするわよ!!」

あっという間に、ルイズはその場から走り去った。
アニエスには最初から分かっていた。貴族である彼女を、翻意させることなど不可能だと。
人の世は、なぜこうも残酷なのだろうか。

「すまんな、ミシェル。辛い役をさせてしまった」

「いえ……」

「しかしこの件、ウェールズ王女にもお伝えせねばなるまい。ミシェル、頼んだぞ」

「なっ、なんですとっ?!」

「最終的な決断がどうあろうと、王女のために、どんな男が死ぬのかだけは知らせてやらねばな」

「なぜにっ?!」











「サイト……、サイト……、サイト……!!」

ルイズはユニコーンを駆り、勢いよくアルビオン城正門を飛び出した。
その無防備な体めがけ、側面から、全長4メイルほどのドラゴンが突っ込んできた。
ルイズの小さな体は、ゴムまりのように跳ね飛ばされ、2,3度地表で跳ねた。

「ちょ、ちょっとアナタ大丈夫?!」

誰かの声を聞きながら、ルイズは、自分が眺めているものが常より低い地平線だと知った。
ドラゴンに乗っていた赤髪の女性がルイズに駆け寄った。
少女の体が抱き起され、地平線が斜めに傾く。

「サイ……ト……」

ルイズは、愛する男の名を唱えると、
その事故が必然であると理解できぬまま、意識を失った。











「それ!!」

二本のナイフが、ジョゼフの手から放たれる。
凄まじい速度だった。そしてその速度を上回る速度でジョゼフは動き、自らが投げたナイフを受け止める。
サイトの頬に出来た赤い線からしたたるものが、口元を赤く染めてゆく。

「安心せい。毒は塗っておらぬ。ワシの流儀に反するからのう。しかしまさか今の一撃をかわすとはな。やはりワシが出向いて正解じゃったな」

「大した速さだが、こんなカスリ傷をつけてうれしいか?手口が知れた以上、弾き落とすは容易いこと」

「ククク……ハァ!!」

「なっ?!」

ジョゼフの手から、数十ものナイフが放たれた。
それらは、ジョゼフが展開したシールドで反射し、縦横に空間を飛び回る。

「ク!!」

「避けているだけで精一杯か?!そら!!ワシもナイフを投げるということを忘れるなよ!!」

サイトは体術を駆使し、飛来するナイフから身をかわしつつ、そのうちの幾つかを叩き落した。
しかし、サイトが打ち落とすよりも早く、ジョゼフが空間のナイフを増やしてゆく。
気を抜けば、高速で移動したジョゼフがナイフの軌道を修正した。
攻撃の軌跡が、みるみる複雑化してゆく。

「近づけぬだろう!!いくら素早くとも、貴様ほどの剣士に近づくのは利口な者のすることではないからのう!!
 ワシはただ、こうやって貴様が力尽きるのを待つだけでよいのだ!!」














「しっかりして!!」

ルイズの混濁した意識に、美しい声が届く。
眼を開き、いまだかすむ視界に、鮮やかな赤髪が映える。

地球においては、道交法が返って事故を招くという皮肉が少なくない。今回のルイズの場合もそれだった。
地球の書物の解読が進んだことにより、ハルケギニアの多くの国々は、信号機というものを導入している。

しかし、ハルケギニアで広く交通手段とされている馬は、この場合ユニコーンもだが、色盲で赤色を識別できないのだ。
これでルイズは咎なくして、無事故無違反の称号を失ったことになる。

「キュル……ケ……?」

「ああ……よかった!!目が覚めたのね!!」

キュルケは、目の前の可愛らしい少女が己の名を知っていることに疑問を感じた。が、それどころの状況でないことは明白だ。
ルイズの身を案じるキュルケに、ルイズは噛みつくようにしがみついてわめきだした。

「おねがい!!助けて!!そばまででいいから……」

なんと、戦場へ行けと言う。
キュルケはある任務を受けてその場におり、アルビオンの戦場に介入することなど許されようはずもない。
しかし。

「その目……。あなた恋をしているのね!!」

「そうよ!!お願い!!」

微熱の心の中で、マグマのような情熱がうなりをあげた。

「乗りなさい!!そばまでなんてケチなこと言わないわ!!そのラッキーガイの顔をおがませてもらおうじゃない!!」

「ああ……ありがとう……!!ありがとう!!」

キュルケはルイズを小脇にかかえると、あざやかな体サバキでドラゴンに騎乗した。
そして手綱を握り、駆けだした瞬間、巨大なグリフォンがその側面に飛び込んできた。
二人の少女の体は、ゴムまりのように跳ね飛ばされた。

「サイ……ト……」

ルイズは愛する男の名を唱えると、そのまま意識を失った。
ドラゴンも色盲だったのだ。












ノックの音が響く。

「入れ!!」

無骨な軍人らで溢れかえる会議室に、アニエスとミシェルが現れた。
アニエスがまとう覇気を感じ、室内に居たものらが緊張を高める。
軍人の一人が、強い口調でたずねた。

「何用か?」

「王女にお伝えせねばならぬ危急の儀ありて参上つかまつった」

丁寧な口調だが、断わればこの場での荒事も辞さぬという、強烈な意思が込められていた。
『意気に感ずる』ということは、戦いを知る者にとって、なんら幻想ではない。
今のアニエスには、7万へ立ち向かうサイトへの義侠心が溢れていた。

そんなアニエスと、死を模索するアルビオン軍人らとの間に生じる圧倒的な緊張感にさらされ、ミシェルの自我はとても遠くに行っていた。

「トリスタニアの客人よ。この状況で危急とは、相応の事態なのでしょう。どうぞ、散華に期する我らにこそ、そのお話をお聞かせください」

救済のようにかぐわしい、ウェールズ王女の柔らかな声だった。その悲壮な暖かさが、ミシェルの五臓六腑をなおさらシェイクする。

「はっ!!ミシェル!!」

アニエスの眼光が『さっさと言え』と、地獄のような圧力を放っている。
軍人らの迫力と、女王のおだやかな笑顔は、まるで天使と悪魔のツープラントンだ。

ミシェルの脳内で、堤防の決壊を防ごうとするSDミシェルたちが、次々と濁流に飲まれてゆく。

「ふにょ……ふにににににににににににににににぃ……」

やがてミシェルは奇妙なうめき声をあげ、そして――――

プツン。

ミシェルの中で、何かが切れた。
決定的な、最後の何かが。

ミシェルは嬉しそうに白目を向き、ホイミスライムのようにふにゃふにゃと言った。

「サイトは去勢済みの本格派ガチホモだおー」

「「「「「「「「なっ、なにぃーーーーーーーー?!」」」」」」」」

アルビオン人らとアニエスの絶叫がシンクロする。

「スモークチーズなんか盗んでないにょろーー!!」

「い、いかん!!ミシェルが壊れた!!」

「にょろおおおおおおおおおお!!」

はぐれメタルもかくやと言う加速で蛇行逃避するミシェル。

「待て!!待つんだミシェルーー!!」

アニエスも混乱しつつながら『バックレろ!!』という判断を即座に下した。

「お待ちなさい!!」

「は、はい!!」

しかし封建業界に生きるアニエスは、王女の叫びに身をすくませた。

「サイト殿は、仲間に助けられてここまで来たと聞いておりますが」

「はっ!!エルフの少女と、もう一人メイジが居たそうです!!」

「そ、そのエルフの特徴は?!」

「貴族塾のエルフ……。た、たしか……前に私が見た時は、学生帽をかぶって、ピエロの装束で女児を怖がらせていました」

アルビオン人らが、マネキンのように硬直した。

アニエスは、自分は何を言っているのかと、冷静さを取り戻す。
学帽ピエロ姿のエルフが、女の子を泣かしていた。
思い返せば、あまりに出鱈目すぎる。

場は、完全に凍結していた。

「では失礼します!!」

アニエスは、もう何がなんでもという勢いで逃げた。

残された軍人らの中に、忘れ去りたい記憶がぶりかえしてゆく。
それは、アルビオンの秘するべき影の歴史であった。

「サイトという少年、どう見ても男だったが……。去勢だと……?」

「学生帽……タマ潰しのテファ……」

「まさか……」

「いや、どう考えても……」

「復讐に……来るというのか……」

会議室に居る誰もが、あるエルフの悲劇を思い出した。


~~~~~~~~~~~~~~あるエルフの悲劇について~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

むかーしむかしのこと。
アルビオンの王宮に、シャジャルという名の、それは美しい娘がおったそうな。

シャジャルはある日「もう限界じゃ、別れてけろ」と、突然に三行半を叩きつけられ、
むすめのテファともども、王宮からついほうされてしもうた。

それからの二人の生活は、そりゃあ大変なもんじゃった。
畑仕事などしたことのない二人は、なれぬ野良仕事でみるみる衰弱していった。

そして栄養のあるもんもロクに食えぬまま、ある日、とうとうテファが倒れてしもうた。
火のような熱にうなされるテファを見て、シャジャルは娘の死を覚悟し、
せめて最後に、何か旨いものを食わせてやりてぇと思った。

「テファやぁ……。おんし、なんぞ食いたいものはあるかぁ?」

「おっかあ……。オラァ……、あずきまんま……食いてぇ……」

あずきまんま。
それは物心ついてからテファが食べたもんの中で、いっとうに旨い食い物じゃった。

シャジャルは、困り果ててしもうた。
シャジャルの家には、あずきもコメもない。

しかしシャジャルはやおら立ち上がると、

「よし、おっかぁに任せとけ。すぐ戻ってくるからの」

と、そう言って、家から飛び出していってしもうた。
シャジャルは王宮の食糧庫に忍び込むと、一握りの小豆と米を皮袋に入れた。

「すまねえ。盗みなぞ、これっきりじゃ。すまねえ、すまねえ……」

シャジャルは、申し訳のない気持ちを必死に押し殺しながら
雨の降りしきる夜道を駆け、テファの待つかやぶき小屋へと急いだ。

テファにあずきまんまを食わせてやると、テファは、そりゃあ嬉しそうにメシをかきこんだ。

「ああ、うめぇなあ。あずきまんまはうめえなぁ」

このあずきまんまがよほど効いたのか、テファの体は少しずつ良くなっていった。
しかし、シャジャルは大変な失敗をしておったのじゃ。

王宮に忍び込んだ所を、衛兵に見られておったのじゃ。
数日後、シャジャルの住む小屋が大火災にみまわれた。

アルビオン軍によるものじゃった。
彼らはシャジャルが仕返しにくると勘違いしたのじゃ。

親子は逃げ遅れ、寝室の周囲は完全に火の海に囲まれてしもうた。
あたりの精霊は既に外部と契約されており、先住魔法も使えない。

そこでシャジャルは――――

「ええか、テファ。おっかぁが合図したら、玄関に向かって真っ直ぐ走り抜けるんじゃぞ。
 怖がるこたぁねえ。おっかぁを信じるんじゃ」

「おっかぁ……」

「さあ、行くんじゃ!!氣功砲ッッッッッッッッッッ!!」

奇跡は起きた。
シャジャルの魂の威力は、濁流のような嵐を巻き起こし、
燃え盛る業火の海を切り裂き、そしてテファは、その中を駆け抜けていったのじゃ。

「生き伸びるんじゃぞ、テファ……」

そうつぶやくシャジャルの心臓は、既にその鼓動を停止しておった。
こうしてシャジャルは、その不遇の生涯を終えたのじゃ。

そして、数日後のアルビオン城。

そこには、元気に暴れまわるテファとシャジャルの姿が!!

この事件によりウェールズ王子は、ウェールズ王女となったのじゃった。
今でもアルビオン貴族の多くは、シャジャルの名が示す『真珠』に深刻なトラウマを持っておるそうな。

・アカデミーレポート『古今馬鹿集 ~まんがアルビオン昔ばなし~』より

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


誰も、声を出す者は居ない。
ウェールズ王女の表情に浮かぶものと同じ絶望的戦慄が、その場の全てに共有されるものだった。

彼女らが、シャジャルとティファニアがまたもや報復に来る――――

前回は、一部の貴族がその被害にあうだけで済んだが――――

アルビオンの軍人らは、ガリアの侵攻に際し、既に死を覚悟していた。
名誉とともに、歴史に名を刻むのだと猛っていた。

しかしである。
『全員タマをもがれてアルビオンは滅びました』では、全ての覚悟が根底から覆される。
命より大事な誇りに殉じようというのに、その誇りをツクシ狩り感覚でつみとられたのでは、もはや名誉のつけいる隙は微塵もない。

王女が叫んだ。

「は、配置についている将校を全て収集なさい!!緊急会議です!!超ド級に緊急です!!」
















「ぐむ?!」

ジョゼフの動きが止まった。

サイトは、闇雲にナイフを打ち落としていたのではなかった。
その反射の法則を見切り、一本のナイフをジョゼフの背後に放っていたのだ。

サイトが、ジョゼフへと駆け寄る。

ジョゼフが、苦し紛れのようにナイフを投げた。
その一撃が、サイトの肩口をかすめさってゆく。

「もらったぞジョゼフ!!」

デルフリンガーが上段に振り上げられる。
そしてそのまま、サイトは全ての動きを静止した。

「こっ、これは……。シビレ薬……!!」

「フッ。危ういところであった。念のため、一本だけ毒刃を用意しておいたのだ」

「貴様……。流儀はどうした……」

「ハハハハハハハ、それも時と場合によりけりだ」

「男の勝負にアヤつけやがって……!!許さんぞ……!!」

「許さなければ、どうするというのだ?」

サイトの心臓に、ジョゼフのナイフが突き立てられた。
それでもサイトは倒れない。

「おお!!おお!!これで死なぬとはな!!異国風の顔立ちだが、やはり遠き地には、うぬのような特別な人間がおるものなのか?!」

「馬鹿を言え……!!オレは、ただのニホン人だ……!!」

「ニホン人だと?ハハハハハ、笑わせおる。
 ニホンには魔法とは異なるメタフィジカル『ヤマトダマシイ』なるものがあるというが、その不死身性がそれか?」

「フッ……!!こんなものはただの根性よ……!!こっから先が……大和魂だ……!!」

二本のナイフが、新たにサイトの心臓へと突き立てられる。
サイトの両膝が、震え始める。

「ぐふふふ。ならばまずは蹂躙してくれようぞ。プラトニックなまでに潔癖なるそのクソ根性を!!」

笑うジョゼフの声が、遠のいてゆく。
意識が混濁し、全身の感覚が遠のいてゆく。

そんな中、サイトは幻聴のようなものを感じた。

――――サイト、貴様それでも日本男児か。

――――あなたは、ずっと待っていたんでしょう。

サイトには、その声がどこから聞こえたものか分からなかった。
自分の声のようでもあり、自分を最も知る他人の声のようでもあった。

風のせいか、これまでの激しい戦いのせいか、それとも人知れぬ何かが働いたのか、
デルフリンガーに施された封印の赤布がほどけていった。

サイトの意識に、再びジョゼフの声が近づいてきた。

「面白い!!ますます面白いぞ!!死を待つだけのうぬの眼は、いっそ勝利を見据えておるではないか!!」

「闘いで……、生きて勝とうなどと思ったことはねえ……!!死んで死んで死にまくる……。それが男の戦いだ……!!」

「ハハハハハハハハハハハハ!!うぬの言葉は矛盾だらけだ!!面白すぎるぞ!!」

「がぴーー!!がぴーー!!」

何かが奇声をあげながら、ジョゼフの張ったシールドをガンガン叩いた。
紳士28号だった。

「おお、28号よ!!この小僧に仕返ししたいのだな?!いいだろう!!存分にウサを晴らすがいい!!」

ジョゼフが杖を一振りすると、シールドが掻き消え、28号がサイトへと駆けていった。
そして、ドーム状の頭部をはずすと、中から一人の満身創痍の女性が飛び出した。
それはサイトが、どんな時でも守り抜こうと誓った女性だった。

「シールドを解いてくれてありがとう、ジョゼフ一世」

「……なんだ、貴様は?娘が一人で援軍に来たとでも言うのか?」

「さあね。でも、しなきゃいけないことがあるのよ」

ルイズはサイトに向き直り、その血濡れの頬をそっとぬぐった。
ルイズの全身にも激しい損傷があるため、サイトの頬は、かえって汚れる格好となった。
ルイズの顔に、哀調を帯びた笑顔が浮かぶ。

「もう十分よ、サイト」

半死半生のサイトは、こちらもやはり傷だらけのルイズを怒鳴りつけた。、

「何しにきやがった……?男の間に割って入るんじゃねえ、ルイズ……!!」

「男の間……。ええ、そうね。分かっているわ。あなたにとって『男』というものがどれほど大切か」

そう言いながら、ルイズは10年前の最期の日を思い返し、『あのサイト』の決断に、ようやくの得心を得た。
あのサイトは『男』で、今ここに居るサイトはもっと『男』で、だから――――

「……でも、知ってる?あなたにとって『男』が大切なように、私にとって『貴族』であることは、譲れないことなのよ。
 結局、サイトは『男』で私は『女』、私は『貴族』でサイトは『平民』なんだもの。貴族が平民に守られて生き延びようなんて、恥どころじゃないのよ……」

「何を……言っている……?何があった……?」

血の混ざった涙が、サイトの頬を打った。

サイトは知らない。
ルイズが、ウェールズの手紙を読んだことを。

せめて、今度は私が――――

そんな思いで、ルイズは微笑んだ。

「それに知ってる?馬とドラゴンとグリフォンとダチョウとマンティコアとジャイアントモールとカジキマグロて色盲なのよ……」

「ほんとに……何があった……?」

サイトは知らない。
今日のハルケギニアで、交差点ほど危険な場所はないことを。

ルイズは、そんなサイトを強く抱きしめた。

「ル、ルイズ……?」

サイトは、自身に起きたことが信じられなかった。
ルイズが自ら抱擁を望むなど、そうそうに起こらないことだった。
かつての世界にあっても、この世界にあっても、あまりに尋常離れしている。

それが、この状況で起こるということは。

「よ、よせ……」

その非常性は、他のどんなものよりもサイトを突き放した。
ルイズの覚悟の重さが、サイトの心を切り刻む。

「そうよね、私なんかに抱きしめられても、うれしくないわよね。分かってる。だから、これは私の我が侭。
 愛してる。好きよ『サイト』。でも私が貴族であるように……、あなたにとって『男』は、とても大切……な……」

ルイズのセリフが、涙で、わずかばかり中断する。
ルイズの小さな体から、その感情の爆発に相応しい魔力がこぼれ輝く。

「私は全霊を持って、サイトの死を否定し続けるわ。私はメイジよ。唱えた想いが本当になるの」

サイトの胸に刺さっていたナイフが、ぽろぽろと抜け落ちた。 
傷口がふさがってゆく。

「サイト……」

彼女の呟く『サイト』は、目の前の相手に、他の誰かをかぶらせてのものだった。
もう一度ルイズはサイトを抱きしめた。メイジという、想いを発現させる存在。漢という、想いを貫き通す存在。その二つの影が重なり合う。

「ありがとう、サイト。あなたは、あなたの望む世界で生きて」

サイトが望む幸せと、サイトの居るべき世界をルイズは想った。

狂王に向き直るルイズの背中は、サイトの知るどんな『漢』にも劣らぬ、圧倒的な信念に満ちていた。
そこからあふれ出る魔力が、サイトを他の次元へと押し込んでゆく。
サイトの内面と、サイトの外界がとろけあってゆく。

虚無の世界扉の引力が、サイトを飲み込んでゆく。

サイトの心に、ルイズの最後の言葉が響いた。

――――ごめんね、ガチホモだって気づいてあげられなくって。

平賀サイトは、ハルケギニアから消滅した。

















しかし、麺類が分からんのですよ。

パンは、分かります。
ケーキもお団子も、お好み焼きだって分かります。

小麦粉を発明したら、そりゃ練るなり混ぜるなり焼くなりするでしょうから。
それでもそういった点から考えると、やっぱり麺類がブットビすぎていると思いませんか?

誰が、いつ、なぜ、何を思い、ひも状にしたのでしょうか?
そんな造形を、いかにして思いついたのでしょうか?

ああ、ちなみにここで言う麺類ってのは、
東方で言う『粉類』じゃなくって、ひも状のああいうのってことで一つ。

えーっと、ああそうそう、別に私は麺類が嫌いではありませんです。人並みに喜んで食べますよ。ズビズバっと。
むしろ、常よりはちょっと好きかなってぐらいですもん。

ただ、麺類に至る閃きへのルートって、あまりにミステリアスじゃないかって話です。
気になりませんか?気にしてください。じゃないと話が終わります。大切な話なんです。

とりま、
仮説その1。誰かが偶然作ったら美味しかった。
なんかのギャグで作ったら『なにこの触感すげえ!!』『シャッキリポン!!』『ちじれにソースがからむわ!!』ってなった。

仮説その2。均等にメシを分けるために考えた。
『おい!!お前のパンでかくね?!』『いやいやいや!!かわらんし!!いっしょだし!!』『ああ、うっせえ!!じゃあ刻んで分けなおせばいいだろ!!』

仮説その3。人体への科学的好奇心から。
『ハラワタッてどれくらいの長さだと思う?』『よし、すっげえ長い食いモンつくって調べてみよう。それ口からいれたままケツから出せば分かる』

仮説その4。ゆんゆん。
ゆゆゆんゆんゆん、ゆゆゆんゆんゆん。私はバカの子です。
名前はミッシェルです。

……あれ?なんか騒がしいなあ。
まあいいか、なんでも。

「ミシェル!!ミシェル!!気を確かに持て!!」

「というわけで、このヒモを飲んでケツから出します」

「よせぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!しっかりするんだミシェル!!」

「……ハ!!」

「おお、ミシェル!!気がついたか?!私が分かるか?!」

「た、隊長ですよね?」

「そうだ……お前の隊長だ……。危ないところだった……。本当に、よかった……」

「はあ……」

「そうだ、大変なことになっているぞ!!貴様のホラ話で、なぜかアルビオン高官らが会議を初めてな!!講和を模索中だ!!素晴らしい手柄だぞ!!」

「ホラ話?えーっと、講和?なんで?」

「あの二人……。サイトとルイズには惨いことをしてしまったがな……」

「良く分からないけど……そうですね……」

「しかし、良かった。よく、眼をさましてくれた……」

「く、苦しいです、隊長……」

「せめて我らは、彼らに恥じぬ生き方をしようではないか……」

「へ?『あのガチホモ』に恥じぬ生き方……?そしてこの抱擁……。……ッッッ!!!!!!!!!!!!!!! 」
















貴族塾へ向かう街道で、激しい戦いが繰り広げられていた。

「パオーーーーーーーーン!!」

「ぎょああああああああああああああああああ!!」

異形の翼竜が、伸縮自在の名状し難い魔技に貫かれ、悲鳴を上げて絶命した。
ベアトリスが叫ぶ。

「グッジョブ!!テファ!!」

「パオパオ!!パオパオ!!」

「ステイ!!テファ!!ステイ!!」

ベアトリスはムチの一振りで、嬉しそうに駆け寄るテファを押し止めた。
それは先日、極限状態ギリギリ(1サントくらい)のところで開眼した奥義『操象戮桓闘法』だった。

「さっきの戦いは見事だったわよ。ほら、ご褒美の角砂糖」

「パオッ!!パオッ!!」

「ウフフ、慣れてしまえば可愛いモノね」

「パオパオハムハム。パオパオムシャムシャ」

「……というか、ひょっとしてかなり……。いえ、ありえない位カワイイような……?」

「パオ?」

「~~~~~!!ななな、なんでもないの!!さあ、先を急ぎますわよ!!」

ベアトリスはそう命じ、再び歩き始めた。
そして、背後にテファの気配を感じないと気づく。

何事かと振り返り見れば、テファは、彼方の空を見上げている。

「カマン!!テファ!!カマン!!」

そう叫び、ベアトリスはムチを構えた。
号令に振り返ったテファの目からは、涙がこぼれていた。

「ちょ、なにそれ?!やめてくださいよ!!なんで泣くんんですか?!」

「サイト……。この世界でもまた……」

ベアトリスには、テファの言葉の意味が分からなかった。
しかしメイジとしてもエルフとしても、テファの才能はずばぬけている。
テファにしか知感できない、なにかがあるらしかった。

「今度こそって……。私強くなったのに……」

テファはその場に力なくへたり込み、顔もおおうことなく、静かに嗚咽を漏らし始めた。
それを見ていると、なぜだかベアトリスも涙をおさえられなくなった。

みんな悲しいことなんてイヤなのに――――

何が悲しみを産むかなんて分かりきってるのに、どうしてこうまで――――

ベアトリスはテファの体を抱き寄せ、頭を撫でながら、優しく語りかけた。

「そうね。悲しいことが、多すぎますよね。でも、私たちはまだ戦い続けなければいけないんです……」

「うん……」


















アカデミー前広場で、ヴァリヤーグらが燃え尽きてゆく。
ミンメイショボーが伝える外法、猛虎流奥義・大放屁火炎放射だった。

「なかなかやるな。恐るべき技の冴えよ」

「食べてるものが違いますからね!!」

しかし敵は『ゲート』をくぐり、無尽蔵に数を増やしてゆく。

「クククク……!!覆面の戦士よ、覚悟を決めることだ。貴様に助けは来ぬ」

「黙れゴンドラン!!アカデミーを私物化するのみならず、このハルケギニアすら売り渡さんとする逆賊め!!」

「逆賊?それがどうした」

ゴンドランの笑い声とともに、ヴァリヤーグらが無数の触手を伸ばし、覆面戦士を束縛した。

「あっ……!!ああ……!!」

しめつけられた戦士の肉体が、装束越しに、その豊満な隆起をさらした。

「ぬっ?貴様……女だったのか?!クハハハハハ!!これはいい!!今までのウラミ、存分に晴らしてくれようぞ!!」

「ゲスめが……!!」

と、どこからか数本の短刀が、触手に目掛けて飛んだ。
触手が、次々に切断されてゆく。

ここに居るはずのない男の声が響いた。

「どうしたそのザマは?貴様らしくもない。本物の地獄はこんなもんじゃなかったぜ」

「あ、アナタは……」

闇に潜む戦士に、ゴンドランが叫ぶ。

「何者だ?!この女を助けに来たとでもいうのか?!」

「あいにく、俺はそこまで甘い男ではないんでな。アン、まだキバれるだろう」

「でっ、でもこれ以上キバったらまた……!!」

「お前はメイジだろうが!!メイジの務めを果たすんだ!!アン!!」

「あ……」

果たして叫びは、アンの心に届いた。

――――そうだ、私はメイジだ。王族だ!!

アンの想いが、闇に包まれたもう一つの世界を震わせる。

そしてハルケギニアとも地球とも異なる、超常の意思らが住まう精霊世界への扉が、ゆっくりと――――













@@@ side アンの肛門 @@@


ハルケギニアに内包されつつも、
決して光がさすことのない世界で、二つの大いなる意思がせめぎあっている。

ウンコ「また、お前が行くのか」

オナラ「ああ」

ウンコ「……」

オナラ「すまんな」

ウンコ「……気にするな」

と、世界が急速に煽動運動を始めた

オナラ「こっ、これは?!オイ、ウンコ!!」

ウンコ「待ちわびたぞ……!!」

オナラ「久しぶりだな、お前と一緒に戦うのは……!!」

ウンコ「フフフ、しかも今回は特別みてぇだな。今通信が入った。ションベンも一緒に出るんだとよ」

オナラ「マジかよ?!」

ションベン(ええ、お久しぶりですね。オナラさん)

オナラ「ウッス!!ごぶさたしてますです!!」

ションベン(ウフフフフフ)

?????(おろかな……)

ウンコ「こっ、この声は?!」

ションベン(いけない!!オナラさん!!ウンコさん!!早くゲートを、肛門を塞いで!!)

オナラ「やべえよオイ!!【ヤツ】だ!!しゃれになんねえ!!」

ウンコ「肛門を守るんだ!!」

オナラB「オレが時間をかせぐ!!」

ウンコ「すまん!!まかせたぞ!!」

ションベン(ウ、ウンコさん?!あなた、一体誰と話して……?)

オナラ「ウンコ!!そいつはオレじゃねえ!!」

オナラB「ククククク……」

ウンコ「バカな!!オナラが二人だと?!」

オナラ「まさか……!!オレに化けて肛門を突破するつもりか?!」

ゲリベン「今更気づいてももう遅い!!アデュー!!」










@@@ side ハルケギニア @@@


ブリブリブリブリブリブリブリブリブリブリ――――

ブリブリブリブリブリブリブリブリブリブリブリブリブリブリ――――

微塵の迷いも、
寸毫の躊躇いも、
弁解の余地もないゲリだった。

「たわば!!」

「ひでぶ!!」

「あべし!!」

奇妙な悲鳴とともに、ヴァリヤーグらの頭部が変形し、爆散した。
遥か永劫より忍び忌まわるる黄昏の魔拳、毒手であった。

「フ、やればできるじゃねえか。さて、あとはオレが引き継ごう。先を急ぐのだろう、アン」

「……ここまでするつもりはなかったんですが、力の加減が難しくて。それより、なぜアナタがここに?」

「勘違いするなよ。何も貴様の味方になろうと言うのではない。貴様とはいずれ決着をつけねばならんからな」
 
ゴンドランが叫ぶ。

「どこに隠れている?!姿を現せ!!」

闇を渡り、戦士が姿を現した。

「波濤のモット、見参」

「王宮勅使……だと……?」

あっけにとられるゴンドランを黙殺し、モットが叫ぶ。

「何をグズグズしている!!行け!!」

「ええ!!ここはアナタにお任せします!!」

「行かせぬ!!ヴァリヤーグ!!」

ゴンドランの命に応え、
ヴァリヤーグらがゲートから、さらにぞろぞろと現れた。

「ふん!!単なるものどもめ!!」

ゲリベンが叫び、ヴァリヤーグの群れをゲートに押し返してゆく。

「クソがァァァァ!!」

ゴンドランはゲリベンに向かい、炎の矢を雨あられと降らせた。
しかしそれでもゲリベンは止まらない。

「向こう側から……ゲートを閉じてくれる……!!」

「ゲリベン風情が正気か!!ゲートの向こうへ行けば、二度と帰ってこれぬぞ!!」

「戻ってみせるさ……肛門に比べりゃこんなゲート……!!」

「させぬ!!ここで全て蒸発してしまうがいい!!」

「ぬおおおおおおおおお……!!」

と、ゲリベンを襲う炎が途絶えた。
そしてゲリベンは、闘い続けてきた宿敵たちの声を聞いた。

「フ、そういうことだったのか……」

「一人でイイカッコしやがって」

「あなたは昔からそうでした」

「オナラ!!ションベン!!それにウンコまで!!」

黄昏の4精霊が、心を一つに合わせた。

「「「「ウオオオオオオオオオオオ!!」」」」

まばゆい閃光とともに、ゲートとウンコらが消滅してゆく。

スッキリした覆面戦士は、素早くユニコーンに飛び乗った。
いななく馬上の彼女に、モットが、最後にもう一度だけ叫んだ。

「おい!!」

「は、はい?!」

「母君に、どうぞよろしくお伝えください。モットめは贖罪に殉じると」

「…………………!!ど、どうか……御武運を……!!」

アンリエッタは搾り出すようにそう言うと、
モットを注視する触手の隙を縫い、貴族塾の方角へと駆け出した。

後に残されたのはモットとゴンドランのみであった。

「……ここのゲートさえ開ききれば、ことは全てなったと同じだったものを。
 まったく、余計なマネをしてくれたものだ。しかし所詮は文官のトライアングル。この私の敵ではない」

「小僧、オレを甘く見ぬことだ。ヘルズ・マジシャン(地獄の魔術師)と恐れられたこのジュール・ド・モット。久方の戦いに胸を躍らせておるぞ」

やはり、こういうのも悪くない――――

モットは微笑を浮かべながら、かつて戦った少年の姿を想った。















瘴気の立ち込める薄暗い一室で、3人の上級メイジが水晶球を眺めていた。
その水晶の中で、筋骨隆々なる一人の戦士が、貴族塾の一学生に打ち倒された。

「あれあれ、ジャック兄さんがやられちゃったでありんす」

「案ずるにはおよばぬでゴザルよ、ジャネット。奴は我等四兄弟の中でも最弱の存在にゴザル」

「ただのメイジにやられるなど、元素四兄弟の恥さらしでゴザルよ。ニンともカンとも」

部屋の扉が吹き飛んだ。
そこから、先ほど映像で見た金髪の学生を先頭に、ゴーレムの群れが突進してくる。
あのサイトをすんでの所まで追い詰めた貴族塾の猛者、ギーシュ・ド・グラモンだった。

「絶技!!一人直進行軍!!」

「きゃあああああああああああああああああ!!」

「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

「そんなトコロまでえええええええええええええええええ?!」

彼らは油断していた。
そうでなければ、これほど簡単に決着はつかなかっただろう。
数百ものゴーレムが、ジャネット、ダニエル、ダミアンを踏み潰していった。

階段から、一人の貴族が降りて来た。

「フッ、よくここまで来たな、少年。拙者がこの風雲ボーウッド城を治めるヘンリー・ボーウッドにゴザル」

「黙れ。このタケチャンマンもどきが」

「ぬぁっ?!」

いつ接近したのか、ギーシュの指拳が、ボーウッドの眉間を突いていた。
そこからボーウッドの脳に、呪詛のような叫びが流れ込んでゆく。

(グ・ラ・モ・ン……!!)

「きっ、貴様!!愚羅門の家族……?!」

「これで貴様の全ては我が意のまま。話してもらうぞ。全ての謎を!!」












もう、サイトは居ない。
サイトは、このハルケギニアに来る術を持たない。
私も、もうサイトを召喚することはない。

世界が書き換えられたように感じる。
空は青いまま、別の空に変わってしまった。
大地を踏む足が、まるで何十メイルも先にあるようだ。
息をするたびに胸が震え、全ての音が、果てしなく遠いところから聞こえる。

しかし、それでも私は貴族だ。
サイトが男であった以上に、貴族であり続けよう。
サイトもどこかで、私が貴族である以上に男であり続けようとするだろう。

これが、きっと誇りなんだ。
そして私の姉は病弱だった気がしたけど別にそんなことなかったわ。

「今の転移魔法……まさか貴様は……」

「さあね。私はゼロのルイズ。ジョゼフ一世、貴方を倒す者の名よ」

「ククク、ならばいいことを教えてやろう。大厄災は4の4が揃わねば防げぬと思われておるようだが、別に揃わなくても防げる」

「な、なんですって?!」

「例えば大隆起は、ヴァリヤーグが残した引力兵器『赤き月』を破壊すれば、風石とか関係なく防げる」

「赤き月……。天文学的に不自然だと言われてたけど、そういうことだったのね……」

「あとワシの兄夫婦は痩せてきたので最寄の村に逃がしておいた。これで心おきなく戦えるな。さあ来い!!ゼロのルイズ!!」

「まさかこの私が、トリステインの旗を背負って戦うことになるとはね。行くわよジョゼフ!!私たちの戦いはこれからよ!!」

私の勇気がハルケギニアを救うと信じて!!



~ 暁!!貴族塾!! 完 ~























~暁!!貴族塾!!F~


錫杖を回転させながら、何かが降ってくる。
地球が生み出した飛翔絶技『降龍天臨霹』だ。

おびただしい光の奔流を巻き込みながら、平賀サイトがハルケギニアに再降臨した。

「待たせたな、ってほどでもねえか。選手交代だ、ルイズ」

「サイト!!『世界扉』を唱えたっていうの?!まさか、一度見ただけで私の魔法を……」

「さてな。理屈は知らんが、そもそも男が呼び出しくらうばかりじゃ、話として格好がつかんだろうが。
 要するに、今度はこっちから押しかけたってだけのことさ」

「い、いくらなんでもそんな強引な……」

「男が強引で何がおかしい」

サイトはルイズを抱き寄せると、荒々しくその唇を奪った。
次の瞬間、不屈をつらぬき通した少年の中で、巨大な何かが目覚めた。
眼もくらむほどに神々しい力が、少年の左手から溢れ出す。

なぜならそれは『この世界における二人のファーストキス』だったのだから。
ルイズとサイトはこれまで、使い魔の契約儀式を硬く禁じられていたのだ。

コルベール曰く。

『男女3歳にして席を同じくせず!!ゆえに契約のキスはならぬ!!これは例外である!!』

ルイズも、現れた人物を『かつてのサイト』とは別人だと考え、契約を望まなかった。
サイトも、契約を望まないルイズに無理強いはしなかった。

だが今、契約は為された。
サイトへの愛を告げた言葉は、口語詠唱を成立させるにあまりある言霊を孕んでいたのだ。

サイトの左手甲が、光を放った。
ハルケギニアの軍神伝説が、サイトに顕現してゆく。

そればかりではない。
契約の絆は二人に記憶を共有させ、決して不可能なはずだった、互いへの確信すらも容易く実現させた。

どれだけ離れた世界であっても、どんな未来が二人を試そうと、ルイズがたぐりよせるサイトは、最初から決まっていたのだ。
遠い世界で生まれた二人は、あの小さなボートの上で、既に誓いあっていたのだ。
ずっと君の側にいる、と。

「サイト……?サイト!!あなた本当に『あのサイト』だったのね……!!」

二人の恋の歴史が、両者の空白を埋め合わせてゆく。
二人にしか分からないたった一つの魂の絆が、昔のまま変わらぬその輝きを取り戻してゆく。

「ルイズ!!ルイズ!!ルイズ!!やっぱりルイズは『あのルイズ』だ!!」

溶け合う記憶の中、ルイズは知った。
かつてタルブで、自分を守るために龍の羽衣を駆り、日食への帰還を放棄した男が、
今度も自分を守るためだけに、日食を潜り抜けてきたのだと。

ルイズの想いに呼応し、サイトの左手に刻まれてゆくルーンのうねりが、少年の昂ぶりを示しつくす。
武術と科学。地球が誇る、太古と近代の叡智を研鑽し続けたサイトに、ハルケギニアの伝説が注ぎ込まれてゆく。
地球の氣に対し、ハルケギニアの使い魔。心を糧とする二つの奇跡が、少年の体に収斂してゆく。

日食がおりなす白夜の如き幻想の中、
恋人らは厚い抱擁を交わした。

「サイト!!サイト!!サイト!!夢じゃないのね!!ホモじゃなかったのね!!本当にガチホモじゃなかったのね!!」

「というか誰だ!!オレがガチホモだなんて噂流した奴は!!コロス!!後で絶対コロス!!コロシまくる!!」

煌く奇跡から、誰も眼をそらすことはできない。
敵も味方も、畏怖の任せるままにその情景を眺めている(頭を抱え込んだ銃士隊2名を除く)。

両軍に、ざわめきが広がってゆく。

曰く「神代の御世から永らえし英霊」

曰く「伝承が謳い讃える秘蹟が実証された」

曰く「人と魔の叙事詩が受肉してゆく」

曰く「だから貴族塾には関わりたくなかったのだ……」

曰く「にっ、逃げましょう隊長!!なぜかムチャクチャ怒ってますよ!!隠れホモだったんですかね?!」

曰く「なんにせよ、これ以上あいつらがらみの厄介ごとはゴメン……、というかミシェル、なぜそんなに胸を押し付けるのだ?」

曰く「エヘヘヘヘヘヘヘ/////」

そして全ての運命に魔法をかけ、神の左手が現れた。

神話の目撃者となったアルビオン軍、ガリア軍の見守る中、
サイトは正しく勇者然と構え、デルフリンガーの切っ先をジョゼフに向けた。
ジョゼフは、自分の言葉を疑うようにうなった。

「ばかな……。そのルーン……、虚無の勇者ガンダールヴだと……?!」

「そんな大層なもんじゃねえ。俺は、ゼロのルイズの使い魔だ!!」

「信じられぬ……!!貴様、使い魔であったか!!」

「ルイズ、命預けとけ」

それは、かつての少年の口調だった。

次の瞬間、破裂音とともに、少年と狂王の姿は掻き消え、
そして、次に皆が目にしたものは、両者の交錯した拳が、互いの頬ゲタを打ち抜いている姿だった。

「く、クロスカウンター……?こ、このワシを……殴った……?」

氣とガンダールブを己のものとしたサイトの速力は、虚無の加速に近しいものとなっていた。
ルイズが叫ぶ。少年の知る、あのルイズの声だった。

「なにやってんのよ!!あんたは私の使い魔なんだからね!!そんなヤツ楽勝でしょ!!」

それは、応援でも叱責でもなかった。
あのルイズのままの心だった。それが少年に、さらなる力を与えてゆく。

「ああ、見切った!!」

懐かしくも頼もしい語気だった。
虚無の狂王が吼える。

「まだだ!!ワシの魔法は……。ワシの想いの力は、貴様の武になど遅れはせぬ!!」

虚無の女神が、高らかに宣告する。

「終わりよ!!よりにもよって妄想でサイトに対抗しようなんて、物理的な自殺と変わらないわ!!」

「ぬかせ!!行くぞ小僧!!」

激情で増幅したジョゼフの魔力が、目に見えるほど色濃く沸き立った。
天変地異に匹敵する魔力が、虚無の加速に注ぎ込まれてゆく。

「決着だ!!ジョゼフ!!」

サイトは、右手にデルフリンガー、左手に杖を構えた。
二つの世界、二つの天を知る男が最後に取った型は、二天一流。杖と刀の二刀流だった。
杖から『漢』の巨大なブレイドが伸びる。

続いて、どのような剣合があったのか。それは余人の知るところではない。
再び両者の姿がかすみ去り、次の瞬間、場に居た者らはただ、決着を知るのみだった。
地に膝するジョゼフを、サイトが悠然と見下ろしている。

「なぜ……。なぜトドメをささぬ!!毒まで使ったこのワシが憎くないのか?!」

「さてな。そこんとこなんだが、実は俺にもよく分からん」

「な、なに……?」

「だが、貴様の狂気と野心に燃える瞳の奥にあったのは、例えようのない哀しみだ」
 
「哀しみだと?バカな!!ワシは、それをこそ追い求めてきたのだぞ!!このワシが、既に哀しんでいるというのか!!」

「ああ。闘っているうちに、オレにはそれが見えてきた」

「なぶる気か……!!殺せ!!貴様に分かるか?!夢も希望も、いいや、哀しみすら感じることの出来ぬ絶望が!!
 永遠に幸福から突き放され続ける、この苦しみしみが!!」

「じゃかあしい!!お前は貴族だろうが!!俺がどれだけ変わろうと追わずにいれなかった、アイツと同じ貴族だろうが!!
 夢だ?!希望だ?!オメェも貴族なら、んなモン平民にでもまかせとけ!!オメェも男なら、幸せなんざ女子供にまかせとけ!!」

サイトのその言葉は、彼が、初めてルイズの貴族性を肯定したものでもあった。
かつて訪れたハルケギニアで、多くの貴族がどれだけ腐敗しようと、ルイズは本物の貴族であり続けようとしていた。
だからこそサイトも、世の男がどれだけ堕落しようと、本物の男であり続けようとしたのだ。

少年から放たれる真実の想いが、ジョゼフになみなみと注ぎ込まれてゆく。
それは、死闘を共にした者だけが分かち合える、真の友情であった。

狂王は知った。
誇りという感情が実在することを。
信念と呼ばれるものが、軽薄な空想ではないことを。

「ほ、本当に貴様のような男がいたとは……。この勝負、技のみならず心においても、ワシの完敗だ……」

目の前の少年は、確かに微笑んでいた。
あれほどの戦いの後にあって、ただただ暖かな笑顔だった。
狂王の心が、求め続けていた答えに満たされてゆく。

この世界には、認めざるを得ない本物がいるのだ――――

今なら分かる。兄も、本物だったのだ――――

と、その時。
サイトの背中に向け、一条の矢が放たれた。
ガリア軍の中に、王の敗北を認められぬものがいたのだ。

「のけい!!」

ジョゼフがサイトの体を突き倒した。

そして次にサイトが見たものは、自らの身を盾とし、サイトの命を救ったジョゼフであった。
その矢は、確かにジョゼフの心臓をつらぬいていた。

「ジョゼフ!!なぜ……!!」

「フッ。男が……男のために命を捨てる時は……ただ一つ……。その漢気に……惚れた時だ……」

「ジョゼフ……!!」

「感謝するぞサイト……。このジョゼフ、お主ほどの英傑と最後に戦えたことを、誇りに思う……」

「いいや、まだだ。貴様を、流れ矢なぞで死なすわけにはいかん」

サイトはそう言うとデルフリンガーを抜刀し、それを、苦悶にあえぐジョゼフへと向けた。
ジョゼフは、この世に生を受けて以来、最高の充足を感じた。

デルフリンガーが、ジョゼフの胸元に突き立てられた。
その切っ先が、猛烈な勢いでジョゼフの胸の矢尻を打ち叩いた。
矢が、ジョゼフの背中から突き抜けてゆく。

「心臓の平滑筋が開くよりも早く矢を打ち抜いた。これでもう出血は止まるだろう」

サイトはそう言うと、ジョゼフに背を向け、双月を背負う白亜のアルビオン城へと歩き初めた。
波打つ芝が風の形をあらわにし、輝く陽光は、サイトの心を模するかのようだ。

「な、なんという男だ……!!貴様という奴は……!!」

顛末を見守っていたガリア軍に、戦意の残って居ようはずもなかった。
その少年は、ガリア6000年の歴史を救ったのだから。

「ジョゼフ王!!」

シェフィールドが駆け寄り、主の体を抱き起す。
ジョゼフの顔に、奇跡のしるしが流れていた。

「王よ……。それは……」

「こ、これは……。まさかワシが……」

涙だった。
どれだけ渇望しても哀しむにあたわず、二度と泣けぬはずだったその眼が、歓喜の涙を流していた。

「そうか……。ワシに欠けていたのは、哀しみ以前のものだったのだな……」

「ああ……!!」

ジョゼフの穏やかな表情を見て、シェフィールドの眼にも輝くものがあふれた。

アルビオン城から、和平交渉を望む照明弾が打ち上げられた。
ジョゼフが右手を天にかかげると、それを合図に、ガリア軍からも、交渉要請受理を示す空砲が返された。

語り継がれるべき一騎打ちが、国々の命運を変えたのだ。
そこにはまさしく、叙事詩が謳うに変わらぬ英雄の世界があった。

軽快に芝を踏みしだく音がする。
ルイズのものだ。

ジョゼフはその光景を、おろそかにしてはならぬとかみ締めた。
シェフィールドのヒザに頭をあずけたまま、揺れる緑とシロツメクサの先に眺めた二人を、記憶の儚さに飲ませてはならぬと念じた。

少女が、少年に駆けてゆく。
その声は、全ての美に勝る真実だった。
恐らくそれを耳にしたのだろう。少年は足を止め、風を味わうように居つくす。

アルビオンの速雲が泳ぐに従って、その隙からさす光が世界を流れてゆく。
緑の山々が、薫る硝煙と大地が、消え行く闘争の予感が、洸々と二人を包む。

そして、
涙を流しながら駆け寄るルイズの喉元に、
少年の剣が突きつけられた。

「サ、サイト……?」

「貴族……?漢……?くだらないっつーの……」

少年の口から、疲れ果てたような声が漏れた。
ルイズを見るその眼は、凄まじい憎悪の念に燃えていた。

「気合だとか覚悟だとか、随分気安く唱えてくれるけど……」

それは『サイト』ではなかった。
封印したはずの、魔剣の人格だった。

「デ、デルフリンガー……」

「この体で、ずっと感じていたよ。そしてようやく分かった。
 ねえ、『ルイズ』。私は最初、あなたが『あの人』の生まれ変わりだと思った。私と『あの人』、今度は逆に、私があの人の為に死ねるんだと思った。
 だから大人しく封印されていた。でも、やっぱりあなたは『この体』の相手……」

「何を言ってるの……?サイトを返して……」

「この変わり果てた世界で、はるけき世界の貴方達が再開できたのは、とほうもない運命だと思う。私は、それを祝福したいんだと思う。
 でも、私だって『あの人』を忘れられない。なんで私には、虚無の祝福が降りない?
 なんで私だけが『あの人』と再会できない?私の想いが……あなたたちに劣っているとでも?!」

「デルフ……あなたはまさか……」

「……いいえ、今はそんなことはどうでもいいんだろうね。悪いけど、この体は私のもの。奴らと戦うには、この体が必要」

「ま、待って!!デルフ!!」

ルイズの言葉を待たず、デルフリンガーはその能力を開放した。
どこへとも計りえぬほどの速度で、大剣を背負った少年は、いずこかへと消えうせた。











~~~~~~~~~~~~~エレオノールの日記~~~~~~~~~~~~~~

私の妹は、何か途方もない、計り知れぬ運命に巻き込まれてしまったらしい。
その流れは誰にも止められず、多くの命を巻き込んでゆくのだろう。
どうして、こんなことになってしまったのだろうか。

窓の外から、若く朗らかな声が聞こえた。

「カトレアズ・ブート・キャンプへようこそ!!さあ、みんな一緒にサイドキックから!!」

見なくても分かる。
私の妹が、充血した肢体を躍動させているのだろう。
絞った雑巾のように高密度なその肉体を。

輝き飛散する汗は、青春という会場のパーティードレス。
肉体のきしみは、社会という水圧を力強く掻き分け、疲れなど知らぬようにグングン泳ぎ続ける。

「ヤギさんも!!クマさんも!!ツグミさんも!!なりふり構わずやるのよ!!」

この違和感はなんだろう。
まるで認識という様式に、無常な数式をおさめてしまったような。
まるで『りぼん』や『なかよし』に、『ナニワ金融道』を連載してしまったような。

私は、恐ろしい。
気がつけば、つられて『ワンモアセッ!!』しているこの肉体が、何より恐ろしい。

「ほら!!ビンビン効いているのが分かるでしょう?!」

分かる。


前を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.040284156799316