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No.38354の一覧
[0] 暁!!貴族塾!!【ゼロの使い魔 X 宮下あきら作品】[コールベール](2013/08/26 18:59)
[1] 第1話「転生!!もう一つの世界!!」[コールベール](2013/08/28 20:19)
[2] 第2話「名物!!異端審問!!」[コールベール](2013/09/04 19:22)
[3] 第3話「決闘!!青銅のギーシュ!!」[コールベール](2013/09/04 19:22)
[4] 第4話「妖刀!!ヤンデルフリンガー!!」[コールベール](2013/09/07 03:30)
[5] 第5話「波濤!!メイドの危機!!」[コールベール](2013/09/09 18:32)
[6] 第6話「銃士!!怒りのイーヴァルディ!!」[コールベール](2014/04/20 17:51)
[7] 第7話「散華!!閃光の襲撃!!」[コールベール](2014/05/03 06:29)
[8] 第8話「双月!!剣と涙と男と貴族!!」[コールベール](2014/05/23 15:40)
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[38354] 第6話「銃士!!怒りのイーヴァルディ!!」
Name: コールベール◆5037c757 ID:f6102343 前を表示する / 次を表示する
Date: 2014/04/20 17:51
今度も、やっぱりイーヴァルディは立ち上がりました。

牛魔王は、倒れても倒れても立ち上がり、自分に向かってくるイーヴァルディが、不思議でなりませんでした。
さっきの一撃は、どう考えても致命傷だったはずです。

なんでこんなちっぽけな人間が、傷だらけになりながら戦い続けられるのでしょうか?
一体なにがそのちっぽけな人間を動かしているのでしょうか?

牛魔王は、鎖でがんじがらめにされたルーを指差し、巨大な体を恐ろしげに揺らしながら尋ねました。

「おお、イーヴァルディよ。何故貴様はそこまでして我に抗うのだ?この娘は、あんなにもお前を苦しめたのだぞ?」

イーヴァルディは答えました。

「やかましい!!この百貫デブが!!オドレの知ったことか!!」

答えになっていませんでした。

「フン、口の減らぬ小僧めが。我はただ食事をしようとしているだけなのだぞ。
 貴様ら人間も羊を殺し、草花を刈り、それらをかてとしている。ワシが人間を食らうのと何が違う?同じではないか。
 それにこの娘が死んだところで、貴様には何の関係もあるまい。さあ、尻尾を巻いて村に帰るがいい」

「……てめぇの言い分も最もだわな。実際、何一つ間違っちゃいねえさ。ハハッ。だがよ……」

「だがなんだと言うのだ」

「なめんじゃねえ!!」

なめんじゃねえ――――

人が持つ最も尊いその性根こそが、イーヴァルディを動かし続ける仁義だったのです。

イーヴァルディの侠気は、とても大きな力になって剣に宿りました。
剣がぴかぴかと光り輝き、まるで夜天を押し返す朝日のようです。
さしもの牛魔王も、その意思のあまりの凄まじさにたじろいでしまいました。

このままでは、戦いは終わらない。となれば、いずれは負けてしまうかもしれない。
そう思った牛魔王は、ルーの小さな体を握りしめて叫びました。

「そこまでだイーヴァルディ!!一歩でも動けば、この娘の命はないぞ!!」

その時です。

「おう、いい加減にしたらんかい……。このド腐れ外道が……!!」

ルーが怒りに震える声で、確かにそう言ったのです。

「破ァ!!」

気合一閃。
ルーをそくばくしていた鎖と牛魔王の拳は、ビスケットのように砕け散りました。
牛魔王が、ごみむしのようにのた打ち回ります。

「ぐああああああああああああああああ!!」

ルーは憤怒の炎を瞳に燃やしながら、牛魔王をにらみました。

「こんなチャチな鎖、壊そうと思えばいつでも壊せたんじゃ……。
 じゃけんどよぉ、ここまで来てくれたイーヴァルディの男を立てにゃなるめぇと……。
 イーヴァルディのメンツにドロかぶしちゃなんめぇと我慢しちょったが……。それももう限界じゃあ!!」

ルーのごうわんが、牛魔王の体をいともたやすく投げとばします。
そしてその先には、イーヴァルディが愛刀を手に待ち構えていました。

「いてもうたれぇ!!イーヴァルディィィィィィィ!!」

「雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄!!」






・道徳教本『アサバット著:イーヴァルディの勇者 ~おもいやりの心~ 』の一節より

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~





第6話「銃士!!怒りのイーヴァルディ!!」



薄暗い森の中を、銃士隊員らが歩いている。
飾り気のない、村娘らしい服を着た、20歳ほどと見られる二人の女性だ。

極秘任務であるため、素性がばれてはならない。
そのため、マスケット銃の携帯も許可されていない。

「ひどい道ですね。なんで安月給でこんなことまで……」

青髪の隊員が泣き言を言った。

「仕事があるだけマシだ。黙って歩け」

隊長がそれをいさめる。
彼女らは、自分らの来た方角を隠ぺいするために、街道を使うことができなかった。

任務の内容は、ある亜人の確保だった。
人と同じ姿をしているその亜人は、識別がきわめて困難である。
手に負えぬようなら、殺害も許可されている。

「あれ?」

道をゆく二人の視界に、不自然なものがあった。
白いワンピースを着た少女がうずくまっている。

「おい!!」

その声に少女はビクっと震え、恐る恐る二人のほうへ振り向いた。

隊長とよばれた女性が、その少女に問いかける。
子供相手とは思えない、厳しい口調だった。

「お前、名前は?」

「え、エルザ……」

「どこから来た?」

「すごく、遠く」

「こんな所で一人で何をしていた?」

その問いに少女は答えず、黙ってうつむいてしまった。

「貴様!!何をしていたのかと聞いている!!」

エルザは後ずさり、イヤイヤするように首を振った。

「こ、殺さないで……」

「ちっ!!」

「まあまあたいちょ……。じゃなくて、アニーさん。相手は子供ですよ?」

青い髪の女性が、金髪の女性をなだめ、優しい口調で別の質問をした。

「エルザちゃん、ママとパパはどうしたのかな~?」

その猫撫で声が気に入らないらしく、アニエスが文句を言う。

「何がママとパパだ。トリステイン人なら、おっかさん、おとっつぁんだろうが。それに……」

「ママとパパは、殺されちゃった」

アニエスの愚痴が止まった。
幼い少女のつたない口調は、まるで別世界のことのように淡々としていた。
ミシェルが、困ったような顔でアニエスを眺めた。

「アニーさん……」

「……この側に村がある。我らもその村に用があるので、そこまでは送って行ってやろう。
 しかしこちらも仕事ある身。過大な期待はせぬことだ」

「私、これからどうすればいいんだろう……」

「甘えるな」

「遺産が1億エキューあっても、そんなのどう使えばいいか分からないし……」

「ミ・レディー。どうぞ私の背にお乗りください」

ミシェルがひざまづいた。












村についたアニエスらは、まず村長に挨拶に行くことにした。
村長には前もって自分らの素性を明かしてあり、彼女らはその親戚という扱いになる。

訪れた3人を見て、村長が尋ねた。

「おや?お二人と聞いていましたが?」

「道中で拾ったのだ。どうしたものか困っている。とりあえず私の身内ということにしておいてくれるか」

「かしこまりました。それでは、娘さんということでよろしいでしょうか?」

「仕方あるまい。それが無難だろうな」

この遠出で、ひそかにロマンスとの出会いを期待していたアニエスは、全ての甘い希望を捨て去った。
エルザは、アニエスのスソをつまんでつぶやいた。

「パパ?」

「……せめてママで頼む」

アニエスは、コルベールをパパと呼んで困らせていた頃を思い出した。














案内された納屋に入ると、ミシェルは室内の点検をはじめた。
エルザもエルザなりに、家具を一つ一つ点検している。
ミシェルのマネらしかった。

アニエスは机をみつけると、そこに何枚かの羊皮紙を広げた。
これまでの報告書を書く必要があり、特にエルザの件は、記憶が鮮明なうちにまとめておきたかった。

各々の作業をしながら、ミシェルが尋ねる。

「しかし実際問題、この子はどうしたもんでしょうか。
 どこか信用できるところに養子に出すとしても、私にはそんなあてはないですし」

「一緒に住むにしても、我らの仕事は子供が手伝えるものじゃないからな」

ミシェルはしばらく悩んでから、基本に立ち返ることにした。

「エルザは、将来したいこととかあるかな?」

「うーん、分かんない。ヒントちょうだい」

「そうだなあ、アニーさんは子供のころ、何になりたかったですか?」

「くだらん話題を私にふるな」

「まあまあ、そうおっしゃらずに」

アニエスはそれ以上は無視し、興味なさそうに、もくもくと書類整理を続けた。
実際のところ、アニエスは相当にイラ立っていた。

ミシェルはエルザを構いすぎる。
不幸な生い立ちの子供にいちいち情を移していては、キリがない。
それに今は、自分に与えられた仕事をこなすべきではないか。

しばらくうなっていたエルザが、閃いたように手を叩いた。

「あ……。一つやりたいことあるかも……」

「お~。それは何かな~?」

「将来は貴族塾で働きたい……」

「「ダッ、ダメェ~~~~~~~~~~~~~~!!」」













村に来て二日が過ぎたころ、村長が訪ねてきた。
今のところ、アニエスらの素性を怪しむものは居ないらしい。

「とくに、子連れというのが良かったみたいですのう」

「む」

それは、アニエスも感じていた。
今もミシェルがエルザを連れて村を見回っているが、はた目には行楽にしか見えないだろう。
むしろ、本当に遊ぶだけ遊んで帰ってくる可能性のほうが恐ろしい。

アニエスが村長に、これまでの調査結果を報告する。
ホシがこの村に潜伏しているのは間違いなさそうだと告げると、村長は悲しそうにうつむいた。

ミシェルとエルザが帰ってきた。
エルザが、デブネコを抱えている。
アニエスは、なんとなく予定調和を察した。察した通りだった。

「パパ。この子飼っていい?」

「ダメだ。そしてパパではなくママだ」

「お願いママ。ちゃんと世話するから」

「アニーさん。エルザもこう言っていますし……」

「ダメだ」

何かが不自然だ。
ミシェルとエルザの会話は、字ズラだけが流暢で、しかしあまりに棒読みだ。

「お前ら口裏合わせたな?」

「クチウラ?」

エルザは『クチウラ』という言葉が分からないのか、キョトンと小首をかしげている。
ミシェルは、とても分かりやすい。

「アワワワワワワワワワ……」

「エルザはネコが好きか?」

「ふつう」

「やはりミシェルが主犯か」

「アワワワワワワワワワ……」

「エルザはネコ鍋って知ってるか?」

「ネコ鍋?」

「ヒィィィィ!!元のところに戻してきます!!」

ミシェルがあわてて駆けてゆく。
エルザが、きょとんとした様子で立ち尽くす。
アニエスはそんなエルザを見て、抑えがたい嫌悪感が湧くのを感じた。

「それでは、今日の所はこれで」

村長が出てゆくと、室内にはアニエスとエルザが取り残された。
アニエスは黙って机に向かい、書類整理を始めた。
静かな部屋に、アニエスのペンの音だけが響く。

エルザはイタズラでミシェルの気を引くことはあったが、
アニエスにはそういうことをしない。

エルザは、説教をされて所在のない子供のように、室内でじっと静かにしていたが、
そのうち、アニエスの真後ろまで歩いてくると、話題を探すためとも、覚悟を決めたともつかぬ雰囲気で、その口を開いた。

「パパ、ちょっとお話があるの」

「『ママ』だ」

「あう……」

再び室内を沈黙がつつんだ。
アニエスは、自分から口を開かない。そういう態度も隠さない。
数呼吸程度の間をおいて、再びエルザのほうから話しかけた。

「お話したいことがあるの」

「……なんだ?」

「エルザね、ママにウソついてたの。あのね、私……」

小さな手が、アニエスの肩に伸びてゆく。

「言わなくていい。気づいている。私もミシェルもな」

アニエスの返事を聞いて、エルザはビックリしたような表情になった。

「そんなことを気にしていたのか?子供が大人にウソをつくのも、まあ成長の証だ」

アニエスもミシェルも、最初にエルザと出会った時に、すぐにエルザのウソを見抜いていた。
1億円などと、そんな大金を子供が持っていたら、周りの大人が放っておくはずがない。

「気づいてたのに、優しくしてくれたの?なんで?」

情からではなかった。
アニエスはエルザに対し、愛情も同情も自覚できない。

自身が幼い頃のことを思い出す。
燃え盛る炎の中を駆けつけてくれたコルベールの姿は、今も忘れられない。
あの時のコルベールも、なりゆき程度の気持ちで自分を助けたのだろうか?

そうではないと否定したかった。
人が誰かを助けるのは、何か特別で、神聖な気持ちのせいだと思いたかった。
自分の中にも、そういう素晴らしいものが潜んでいると信じたかった。

アニエスは怒ったような表情でツカツカとエルザに歩み寄ると、その体を抱き上げた。
小さく、弱弱しい体だった。アニエスが力加減をあやまれば、そのまま潰れてしまいそうなほどに。

「ごめんなさい……ママ……」

エルザはきまずそうにそう言って、アニエスの服をきゅっと掴んだ。
アニエスは、自分の無感動にいらだちを覚えた。自分の所作の芝居臭さがイヤになる。

心ふるわせる状況ほど、白々しさの醜い時はない。
子供の相手をするほど、自分の不人情が際立って感じられることはない。

「ママ、お願いがあるんだけど、いいかな?」

「なんだ?」

「血を……」

その言葉を遮るように、どんどんと、乱暴に扉を叩く音がした。
入室を促すと、顔色の悪い青年が息を切らして飛び込んできた。

「何事だ?」

「ハァ、ハァ……。き、貴族様が吸血鬼退治に来られて……。村の者を全員、広場に集めろと……」









「面倒なことになったな」

「バンパイアハンターって、性質の悪いのが多いって聞きますしね」

ミシェルに抱っこされていたエルザが、ビクッと震えた。

3人が指定された広場に着くと、そこに居る誰が『吸血鬼狩り』かは一目瞭然だった。
マントを羽織り、あぐらをかいで座っている。
立てばその身長は、30メイルを優に超すであろう巨人だった。
頭の上に、使い魔と思しき青い龍を乗せている。

巨人が、巨大な湯呑み茶碗を地面においた。
おかわりの合図だった。

村人が10人がかりで、5メイル程の焼酎瓶を運んできて、ドバドバとお酌をする。
巨人はそれを無造作にあおると、青い髪をなびかせながら、ようやくといった風に話し始めた。

「これで全員?」

「イェス、マム!!これで全員であります!!」

村長が、直立の姿勢で答える。
村長のみならず、村の者らは皆、その巨人の迫力にのまれていた。

アニエスは、その手腕にわずかならず関心した。
恐怖は、不審者を炙り出す上での初歩の初歩だ。

ちらりと横を見る。不審者が二人居た。
エルザとミシェルが、ひっくり返された亀のようにアウアウになっている。

巨人が名乗る。

「私の名はタバサ。吸血鬼に関して、誰か知っている人が居たら教えて」

恐怖でどうにかなったのか、エルザが、フラフラとタバサのほうに歩いていく。
アニエスは止めようとしたが、手遅れだった。

エルザは、時計台でも見上げるようにタバサに視線をやった。

「きゅ……吸血鬼を見つけたら、お姉ちゃん……どうするの……?」

「噛む」

タバサはそう言って、カチーンカチーンと歯を鳴らした。
チョロチョロと、エルザの足元に水溜りができてゆく。

「あ、あのね……。私思うんだけど、人間も牛を食べるでしょ?
 ききき、吸血鬼も、同じことじゃないのかな……」

「あなたの言うとおり。でも……」

「で、でも……?」

「なめんじゃねえッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!」

「ぷぎゃあ!!」

瀑布のような一気呵成で、エルザの体がコロコロと後ろでんぐり返る。

「と、そんな感じ」

ニンゲンも牛を食べるでしょう――――

吸血鬼も同じじゃない――――

なんで、そんなことを聞いてしまったのだろうか。
アニエスは、早くエルザを回収せねばと思った。

タバサの眼光は「なぜそんな質問をするのだろう」とも、「お前が吸血鬼だな」とも、
「ホッホッホ、初めてですよ。この私をここまでコケにしたオバカさんはッッッッッ!!」とも見えた。

アニエスが策を巡らしていると、突如、世にも恐ろしい雄叫びが轟いた。

「ブモオオオオオオオオオ!!」

悲鳴をあげて逃げ惑う村人たち。
その群れが割れて、声の主が現れた。ミノタウロスだった。

「見つけたぞ青巨ロリィ!!」

並みの人間の倍近くある巨体も、タバサの前では子犬の様だ。

「亜人が私に何の用?」

「何が亜人じゃあ!!ワシからすりゃテメェも亜ミノタウロスじゃろが!!この人間原理主義ヤロウが!!」

人間原理主義という言葉のあたりで、エルザは力なくその場にへたりこんだ。

「前にも同じことを言うミノタウロスが居た」

「ふん、覚えておったか。そりゃあワシの兄貴よ。いくぞ!!兄貴の仇!!」

突進してくるミノタウロスを無視し、タバサはキョトキョトと空中に視線を泳がせた。
羽虫の飛ぶ音がした。

「……ハエがいる」

タバサは迫りくるミノタウロスの腕をつかむと、
その亜人の巨体をハエ叩きのように振り回し、何度も地に叩きつけ、あっという間に全てのハエを潰してしまった。
ハエが居た数だけ、クレーターが出来上がった。ミノタウロスは頭を地にめり込ませたまま、ピクリとも動かない。

「あへ……」

「ア、アニーさん!!エルザが気絶しました!!」

「エルザ!!エルザーー!!」














エルザと出会った日のうちに、
アニエスとミシェルは、エルザが吸血鬼だろうとアタリをつけていた。
本人の口から聞くまでは知らぬそぶりで過ごすつもりだったが、村長には報告してある。
万が一だれかにバレても、まあ大ごとにならぬよう交渉できるだろう。

だが、バンパイアハンターはまずい。
吸血鬼に対する法整備はまだ不十分なのだ。

ハンターらは吸血鬼特区の外で、証明書を持っていない吸血鬼の殺傷許可を与えられている。
実際に人間を襲う吸血鬼もいるが、アニエスらは、エルザをそういう類のものではないと結論付けていた。

何よりまずいのはバンパイアハンターらが、
不法吸血鬼を庇った人間をも処罰する権限すら持っているということだ。
今の場合、アニエスとミシェルが、その攻撃対象となりうるのだ。

しかもあのタバサという名前。
聞き間違いでなければ、一年ほど前、あの貴族塾からですら退学処分を受けた、化け物中の化け物だ。

納屋に戻った3人は、困り果てていた。

「噂にたがわず、相当に凶暴そうな奴だったな。まだ身分をあかすわけにもいかんし、さてどうしたものか」

「というか正直、貴族塾がらみの人材って時点でもう逃げ出したいんですが……。どうせまたロクなことに……」

ノックの音がした。
アニエスが応答する。

「誰だ?」

「タバサ」

室内に緊張が走る。
エルザは短く悲鳴をあげるとベッドに駆け込み、布団を被って震えだした。
隠れているつもりらしかった。

アニエスが、タバサに入室を促す。

「入られよ」

扉を開いて現れたのは、小柄な少女だった。
まるで先ほどの巨人を、そのままスケールダウンしたかのようだ。
しばしあっけにとられた後、ミシェルがたずねる。

「その姿は、一体……」

「私はペンタゴンメイジ。魔力の迫力で大きく見えていただけ」

「なるほど……」

小柄になったというだけで、目の前の無表情な少女は、どうにも可愛らしく見えた。
しかしアニエスは、それを擬態であると見抜いた。
女子供は、油断を誘う上での基本条件だ。

「それで、いかなる御用向きか?」

「思い出したのだけど、目撃証言によると、件の吸血鬼は銃を持っているらしい。それを調べて回っている」

それを聞き、アニエスは、王女の言葉を思い出した。
『銃を持っていくな』とは、吸血鬼疑惑を回避するためでもあったのだろうか?

――――もしここでマスケット銃が出てきたら、ややこしいことになるな。

「マスケット銃など見ておらんぞ。なあミシェル」

アニエスが振り返り、ミシェルにそう尋ねる。

「あうあ?!にゃいにゃいにゃい!!」

ミシェルがキョドった。いやなデジャブを感じる。
アニエスは、ミシェルにしゃべらせてはマズイと判断し、自分でタバサの相手をすることにした。

「とまあ、そういうことだ。他をあたっ……ホゲェ?!」

なぜ気づかなかったのだろう。
タバサの真後ろ、玄関トビラの内側にマスケット銃がぶらさがっている。

「じゃあ他をあたっ「いやいやいや!!」」

トビラの方へ向こうとするタバサを、アニエスは強引に引き止めた。

「やっぱりもう少しお話すれば、何か手がかりがあるかもしれん!!!さあ、こちらへ!!」

「でも、急がないと……」

「まあまあまあ!!」

ミシェルがタバサの背後に回りこみ、室内へ押し込むように力を入れる。
そして後ろ手でトビラのマスケット銃を引き剥がし、死角のゴミ箱へとロングシュートした。
それは、見事なシュートだった。

ガコンッと、音がした。

「……今の音、何?」

「アニーさんの屁であります!!」

ビシっとアニエスを指差すミシェル。

「そうだ!!私の屁はあんな音がするのだチクショウ!!」

「……病院に行く事をすすめる」

タバサは無表情のまま鼻をつまみ、逃げるように玄関へ向かい、
そして、足を止めて言った。

「マスケット銃……」

「ま、マスケット銃がどうかされましたか?」

「おかしい……」

「な、なにが?」

「私の大切なマスケット銃、この玄関扉にかけておいたはず。なくなってる」

「「なっ?!」」

「おかしい」

わざとらしく首をかしげるタバサ。

ジリリリリリリリリ!!
ゴミ箱から、派手な音が鳴り響いた。

「あ、なぜかそんなところに私の目覚まし機能付きマスケット銃が。
 たまたま偶然にも今アラームが鳴って幸いだった。ヨカッタヨカッタ」

アニエスは悲鳴をあげそうになった。
確実に、疑われている。

タバサは早足でゴミ箱に近づき、マスケット銃を回収すると、何事もなかったかのように外へ出ていく。
かに見えたが、再び玄関でくるりと振り返り、言った。

「そう言えば、吸血鬼は人形を持っていたとも聞く。どこかで見なかった?」

タバサの口調と表情は、一切の感情を否定するかのようだ。
無機質なたたずまいのまま、優位性を示ように、室内にあったパンを勝手にかじっている。
その背後の扉には、やはり人形がぶらさがっていた。

もう疑うというレベルじゃない。決定的なアシを掴もうとしている。
そんな剥き出しの圧力が、ミシミシと伝わってくる。

憔悴してゆく神経で、アニエスは考えた。
さっきのはオトリで、今度こそ致命的な罠か?
剣術でも、剣豪が素人臭いしらじらしさを見せることがあるが、それに類するものか?
何にせよ長く黙っていては不自然だ。早く答えねば。

アニエスは、タバサと玄関側に背を向けて答えることにした。
さしあたり、表情だけは隠したかった。

「フン、知らんな」

「カンチョー」

「ひぎいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!」

アニエスの体が三十サントも持ち上がった。
人差し指のみならず中指まで動員したその一撃は、人生観すら捻じ曲げかねない衝撃だった。

「これぞ秘儀・ミートコーモンの憂鬱」

「く、くおおおおおおお……。い、いきなり何さらしてくれるんじゃオドリャア!!」

と、振り返ったアニエスに、タバサが人形をつきつけた。

アニエスの動きが止まった。止まってしまった。
表情を保てない。普通なら、どういうリアクションをするのが自然なのだろうか?

『どうせまたお前の人形だろうが?!』と言うべきか?
『知らん!!』とでも言うべきか?
カンチョーの件を糾弾すべきか?

しかしどんな回答にも、恐るべきカウンターが待ち構えているように思われてならない。
考えれば考えるほど、思考が乱れてゆく。

「ぐおおおおおおお……」

アニエスは、先ほどの一撃に苦悶するフリをしてうずくまった。
時間を稼ぎたかった。

策略、力技、判断力、タイミング。
どれをとっても勝てる気がしない。恐るべき相手だ。

ひれ伏すアニエスを見おろしながら、タバサは抑揚のない声で言った。

「だいたい分かった。さて、あなたの屁の匂いは……」

タバサは、先ほどアニエスにつきたてた指をクンクン嗅ぐと、

「ゲボァァァァァァ?!」

のけぞり、ゲロを放射状にきらめかせながら倒れ、そして

「ゆっ、油断した……。ガフッ……」

完全に意識を失った。

ミシェルが歓喜の声をあげた。

「あっ、あれはまさしく日本武術で言う所の横四方固……!!」

「ミシェルお姉ちゃん、あの技を知っているの?!」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~横四方固について~~~~~~~~~~~~~~~~~~

横四方固。

調子こいた相手に無防備なケツをさらすことで、
敵の行動をカンチョーからのクンカクンカにいざなう、行動心理学に基づく奥義である。

完全に抑えこまれた状態で諦めぬ様を見ると、人はその嗜虐心を燃やさずにおれぬという。

・アカデミーレポート『コンデ・カマの遺産』より

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「かっ、勝手に私を変な武術の使い手にするな!!どう見ても私は被害者だろうが!!」

「ああ……。流石です隊長!!見習うんだぞエルザ!!達人は誇らない!!」

「ママ凄い!!達人は誇らない!!」

「チクショオオオオオオオオ!!退却だミシェル!!エルザ!!」














来た時の森を走りながら、アニエスが愚痴をこぼす。

「なんでこんなことになるのだ!!」

「今はそんなこと言ってる場合じゃないですよ!!」

エルザを背負ったミシェルが、前回とは逆にアニエスをいさめた。

その森は難所で知られ、近隣の者も奥までは入ろうとしない。
往路でも、二人は散々な目にあっていた。

王女から『方角が分からなくなったらおてんとさんに聞きなさい』というダイナミックなアドバイスを頂戴していたが、
そもそも森の中から太陽が見えるはずもない。

『野生動物は火を恐れます。野営には火を焚きなさい』とも言われていたが、
いざそうすると、森中の毒蟲が火にむらがってきた。

「ていうか隊長だって、王女様をおいさめせず何でもホイホイ聞きすぎなんですよ!!
 このままじゃそのうち、外国の戦場にでも放り込まれますよ!!二人っきりで!!」

「お、王女様は我らをそれだけ信頼しておいでなのだ!!そもそも……」

「きゅいーー!!」

若い風龍の鳴き声。
続いて、空をおおう枝木が激しい旋風に巻きこまれ、アニエスらの頭上に、青空が現れた。
局地的なカッタートルネードだった。

「見つけた」

青髪の修羅が、そこから降り立つ。

「……早かったな」

アニエスの返事は、荒事も視野に入れた声音だった。

「エルザ。そこの木陰にかくれてなさい。大丈夫だからね」

ミシェルもアニエスの腹つもりを読み、エルザを背からおろした。
エルザが、二人の後方の針葉樹の裏に走っていった。

状況を把握し、なおタバサはひるまない。

「バンパイアハンターから吸血鬼をかばうことが、何を意味するか分かっているの?」

「エルザが、それほどの罪をおかしたというのか?」

アニエスが答える。
こういう時、ミシェルはただ戦闘の口火に意を注ぐ。
タバサが、二人からの圧力を受け流すように答えた。

「その吸血鬼は既に人を殺している」

エルザが、たまりかねたように叫んだ。

「わ、私は人なんて殺してないもん!!お願いして血をもらうか、後は人工血液だけだもん!!」

「ああ言っているぞ」

「吸血鬼特区を離れているということは、ずっと薬を飲んでいないということ。吸血衝動を抑えられるはずがない」

「前例ならある。薬物投与のなかった時代に、人間と共存していた吸血鬼もいた」

「それは特殊な事例。あなたたちは騙されている。話すだけ無駄」

三者とタバサの間に緊張が走る。
そして、ハルケギニアで聞きなれない音が響いた。

パラララララララ。

エルザの居た場所から「ひゃっ」と、高く短い悲鳴。
エルザの体が、鮮血をまき散らせながら躍動していた。

ミシェルとアニエスがエルザに駆け寄る。

「ミシェル!!血止めを!!」

「はい!!」

アニエスは次の攻撃に備え、さきほど音のした方向に視線をやった。
タバサが、一人の青年に飛びかかる所だった。村に居た青年だった。

青年は、杖とは異なる金属の棒から、ブレイドのような光を発生させ、それでタバサのブレイドを受け止めた。
つばぜり合いの体勢で、タバサが語りかける。

「やっと見つけた。ヴァリヤーグ……」

「ん?ひょっとして僕は、おびきだされちゃったのかな?」

ヴァリヤーグ。それはアニエスとミシェルにとっても、この地に来た理由であった。
銃士隊の二人は、異世界からの斥候との接触を命じられていたのだ。

再び、先ほどと同じ乾いた連続的破裂音。
ぱららららららら、と、異世界でサブマシンガンと呼ばれる武器から、無数の薬きょうが飛び出す。
至近距離からのその攻撃を、タバサは氷の盾で防ぎながら後ずさった。

「ちっ、しぶといな。まあいい、目的だけ先に果たしておこうか」

ヴァリヤーグは脇のポケットから試験管を取り出し、頭上にかかげた。
離れた場所に居るエルザの血が、スーっとそれに吸い込まれていった。

「これがハルケギニア最凶と呼ばれる吸血鬼の血か。このDNA、有効に活用させてもらうよ」

その様子をじっと見ていたタバサが、感情のこもらない声で言う。

「それを確認したかった。やはり、噂は本当だった」

「ヘェ、僕らの噂?」

「ヴァリヤーグが亜人の血を集めているという噂。あとは、あなたのコンパスを回収するだけ」

「……随分詳しいね。いろいろ聞きたいけど、ここは引かせてもらうよ」

ヴァリヤーグは重力を忘れたように、彼方の木の枝に飛び退った。
追おうとするタバサを、サブマシンガンで牽制する。

「逃がすか!!」

ミシェルが高速詠唱でフライを完成させ、
瞬間移動のような速さで、ヴァリヤーグの眼前に上昇し、戦杖を振るった。

「えっ?!」

ヴァリヤーグは油断していた。
村での様子から、銃士隊らを戦力外の平民と断じていたのだ。

ミシェルは空を切った獲物を捨て、上段から、踏みつけるような横蹴りを放った。

地に叩きつけられたヴァリヤーグは、体勢を整え、反撃に移ろうとしたが、背後に巨大な闘気を感じた。
アニエスだった。トリステイン王国銃士隊・隊長の握る剣が、巨大な氣を放っている。

「ばっ、ばかな……。その構えは……」

「流派烈風!!超秘奥義・暹氣虎魂!!」

その刃が空を裂くと、刀剣から、破壊の波動が放たれた。
波動はリン気を帯びた猛獣の型をなし、ヴァリヤーグに襲いかかった。

「ぐああああああああああああ!!」

高濃度の威力が、地を削りながら数十メイルも伸びてゆく。
後に残ったヴァリヤーグの体は、異様だった。

全ての皮膚を失い、金属かプラスチックか、
明白な人工の形跡が見られるボディが残されていた。

それはガチャリと音を立てて倒れ、二度と立ち上がることはなかった。
アニエスはそれを微塵も気に留めず、エルザのもとにかけよった。

「エルザ!!」

「痛い……寒いよ……」

抱きかかえたエルザの体は、くたびれた人形のように脱力していた。

「しっかりしろ!!お前は貴族塾に入りたいのだろう?!
 根性を見せてみろ!!精神が肉体を超越することを、根性というのだぞ!!」

「パ……。……ううん、ママ……。愛……してる……」

「エ……」

アニエスの顔へ伸びようとしたエルザの手が、ぽとんと地を叩いた。
アニエスは動かなくなったエルザの首を、顔を、胸をなで、それから、他人事のようにつぶやいた。

「死んでしまった……」

自分の言葉を思い出す。

パパではなくママだ――――

規律に生きるアニエスの心の、かすかに無垢なままの部分が悲鳴をあげた。
なぜこんなか弱い子を、あれほどむげに扱えたのだろうか。
もはや、二度と動くことはないエルザ。その唇から最後にこぼれれた声を思い出した時、アニエスの顔は崩れた。

エルザが何を求めていたかを、今になってようやく考える。

自分は、エルザの父親に似ていたのだろうか?
エルザはなぜミシェルではなく、私を親として選んだのだろうか?

考えれば考えるほど、今までの自分の誇りが汚らわしい。

きっとミスタ・コルベールの強さは、ダングルテールで皆を守れたからだ――――

あの時誰かを死なせていたら、きっとミスタ・コルベールも――――

私はもう、戦えない――――










タバサが、ヴァリヤーグの残骸から何かを抜きとった。

「これで任務完了。私は失礼する」

「待て!!」

ミシェルが、去ろうとするタバサの背に吠えた。

「……何?」

「貴様……。エルザを囮にしたのか……?」

「そうだけど、だからなに?」

「決闘を申し込む。ここでオトシマエをつけていってもらおうか」

ふりむいたタバサの顔は、雪のように冷え切っていた。
つまらない物語を眺めているかのようだ。

「決闘?意味のないこと。エルザは、あなたたちを騙して近づいていただけ。そして最後まで嘘を突き通した」

「貴様に何が分かる」

ミシェルは懐から、三つの丸薬をとりだした。
赤い丸薬が二つに、青い丸薬が一つ。

「貴様がどうあっても拒むというなら、こちらにも考えがある」

ミシェルは赤い丸薬の一つを飲み、宣言した。

「これで私の命はあと一〇分。助かるには、一つしかないこの青の丸薬を飲むしかない。
 ここまで言えばもう説明はいらんだろう。さあ、貴族の筋を通してもらおうか」

タバサは投げつけられた赤い丸薬を受け取ると、
やはり無表情のまま、ぽつりとつぶやいた。

「エルザは私の偏在。偏在にフェイスチェンジをかけてただけ」

「「へ?」」

アニエスの腕の中から、エルザの死体がフッとかき消えた。

「ママとよんでくれなきゃイヤ~ン(ワラ」

「「……」」
















少々お待ちください――――

現在、物凄い勢いでタバサがフルボッコにされております――――


















「い……、痛い……」

「ハァ、ハァ……。じゃかあしいわ!!この顔面神経痛が!!ちったぁすまなさそうなツラせんかい!!」

「フゥ、フゥ、フゥ……。ケツから杖ブチ込んで生グソに固定化かけたろかコラァ!!」

銃士隊らの叫びが、雪風の冷えた体を震わせる。

二人の感情は本物だ――――

こんな私に対して、本当に怒っている――――

そんな想いがヒシヒシと伝わり、
なにかポカポカする想いが湧くのを抑えきれず、
タバサは二人を、心から素直な気持ちでオチョくった。

「ごめんね、ママ(キラッ」

「こっ、殺すしかないですよコイツ!!わわわ、私……殺意で涙が出るなんて初めてです!!全てを失ってもかまいません!!」

「たっ……、耐えろミシェル……。我らは法の下に……」

そうふりしぼるアニエスの顔にも、スパゲッティーをぶちまけたような青筋が脈動している。
まだケツがズキズキ痛む。

「私は道徳の本を書いている。その為に、色々と体験する必要があった。これが最新話」

タバサは懐から、一冊の本を取り出した。
表紙には『アサバット著:イーヴァルディの勇者 ~おもいやりの心~ 』と書かれている。

「アサバット……。TABASAの逆読みか……」

「ああ……。これ有名ですよ……。ノーベルなめてるやつで賞があれば受賞間違いなしだとか……」

「なめてる、とは心外。気を使って書いている。差別問題回避の為に、ミノタウロスではなく牛魔王と書いたり。
 それより、今回は登場人物がバカすぎて困った。私が『銃』と言っただけで『マスケット銃なんて見とらん』とか。
 いきなりストーリーが終わりかけて、あれには焦った。あんなアホな終わり方はあり得ない。
 だから私が一気に話を動かした。おかげでいくつか伏線が無駄になった」

「な、なぜこの状況でダメ出しされなきゃならんのだ……」

「すごい……。反省以前のステップを何一つ踏んでいない……」

「長引けば、アニエスがエルザに心を開くまで気長に暮らして待つ、というハートフル展開も考えていた。
 中盤でエルザに裏切られ、ショックを受ける二人。でも後半のピンチで助けに来るエルザ、という具合。
 まあその場合、ストーリーが冗長になるという危険性があるけど。穴埋めのギャグを考えるのも結構大変」

「ギャグ?」

「カンチョーとか」

「……やはり、殺るか……」

「はい……。きっと始祖もそれをお望みのはずです……」

「やめて。反省している。だから許して、ママよりオッパイの大きいミシェルお姉ちゃん」

「なに……?」

「だ、騙されないでください隊長!!また罠ですよ!!仲間割れを誘おうという魂胆です!!」

「ふむ……。今のトラップの質からして、そろそろネタ切れのようだな……」

鉄のようなタバサの無表情に、タラリと冷や汗が流れる。

「待ってください!!」

一線を越えようとする銃士隊員らを、少女の声が押しとどめた。
声の方角から、デコの広い、青髪の少女が走ってくる。

少女は息を切らしながら、
アニエスとミシェルに語りだした。

「あの、本当にごめんなさい。
 タバサはいつも不器用で……。でも、悪気はないんです。どうか許してあげ……バカめ!!」

「なっ?!」

「こ、これは!!」

デコッパチの放った縄が、アニエス、ミシェル、タバサの体を、一瞬にして束縛した。

「あはははははは!!かかったな!!!アタシはずっとこの時を待っていたのさ!!」

「き、貴様!!」

「何者だ?!」

「フフフ、知りたいことは後で教えてあげるよ。
 あんたらは今から人質さ。タバサと一緒に、宇宙に飛んでもらうわ」

ミシェルとアニエスは、事態が全く呑み込めない。
まず、宇宙という言葉からして尋常離れしている。
それはこのハルケギニアで「世界の外側」を意味する、神がかった宗教用語でしかないのだ。

困惑する銃士隊らを意に介することなく、デコッパチが指を鳴らす。
大地が激しく震え、地面から巨大なロケットがニョキニョキと生えてきた。

「ふぎゃ!!」

デコッパチは、上昇してゆくロケットからモロにアッパーカットを食らい、昏倒し、その場で倒れた。
ロケットは、あっという間に大空へと消えていった

「な……」

「なんなんだコイツは……」

飛びゆくロケットを見上げながら、アニエスとミシェルは体をよじらせ、どうにか抜刀し、縄を断ち切った。
デコッパチもパカっと眼をさまし、ロケットが残していった飛行機雲を見上げ、ニヤリと笑った。
懐からトランシーバーを取り出し、ぶつぶつ独り言を言う。

「ちゃんと聞こえるかしら……?」

タバサ、ミシェル、アニエスが、そんなデコの背中を奇異の目で見守っている

「さてっと……。がんばるのよワタシ!!」

デコはパンパンっとほほを叩くと、
両手でトランシーバを握りしめ、三者の前でわめき出した。

「おほっ!!おほっ!!おほっ!!大宇宙の居心地はどうかしら?!タバサにバカ2匹!!
 タバサのような化け物、宇宙くらいでないと閉じ込めておけませんもの!!ダブルズベ公はとんだ巻き添えだけどねぇ!!
 まあお前らみたいなハイパードブス、居なくなっても誰も悲しまないから安心なさいな!!ブスブスブース!!」

「……」

「……」

「……」

「あら、私としたことが申し遅れましたわね。私の名はイザベラ。ガリアの王女ですわ。
 フフフ、世間の連中はアタシをねえ、どうも勘違いしてるのよ。金と権力をカサにきるだけの能無しだってね。
 でもパープリンなアンタたちにも、もう分かっただろう?ワタシの最大の武器は、この頭脳なのさ。
 ちなみにあんたらは人質だから、食料は用意しておいてあげたわ。便所はないけどねえ!!」
 
「……」

「……」

「……」

「さてここで問題です。なぜ私が名乗ったか分かります?おほ!!今ブス顔を青ざめさせたでしょう?!
 見なくても分かるわっ!!そう、ご明察!!あなたたちはねぇ!!そこから永久に戻ってこれないのさ!!
 ああ、目に浮かぶようだね!!ニンジンでカマ掘られた馬みてぇなそのドマヌケヅラが!!」

「……」

「……」

「……」

「ホホホ……。なぜこんなことを、と聞きたいだろうさね?いいさ、冥途の土産に教えてあげるよ。
 私のお父様、ガリア王はねぇ、ヴァリヤーグと手を組むことにしたのさ!!てめぇらをそこに閉じ込めたのも、その偉大なる計画の一環ってわけさあ!!
 でも宇宙に居るアナタたちは、それを誰にも知らせることができない!!悔しい?!どう?!悔しいでしょう?!きーっひっひっひっひっひ!!」

「ヌンッ!!」

「ひぎいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」

アニエスは一度受けただけで、タバサの技を己のものとしていた。
頭上で泡を吹くイザベラを、乱暴に地に投げ転がす。

「……計画通り」

ニヤリと笑うタバサ。

「……一応説明してくれるか、タバサ?」

「……もう分かってると思うけど、ロケットに手を加えておいたのは私。私はガリア先王の娘。
 ヴァリヤーグとガリアの企みを、明るみにしなければならなかった。今度こそ、本当にあやまら……せて……」

うつむくタバサのほほを、光るものがつたった。
どう答えたものか、まだタバサを疑う二人は返答に窮した。
タバサが、エルザの声でつぶやいた。

「ウソでも、本当のママみたいだった。ありがとう。今度こそ、さよなら」

と、その時。
一人の女性の叫び声が轟いた。

「アニエス、ミシェル!!無事ですか?!」

そちらに振り向き、声の主を確認すると、アニエスとミシェルは反射するように平伏した。
ユニコーン騎馬隊を引き連れ現れたのは、誰あろうトリステイン王国王女アンリエッタ・ド・トリステインであった。
彼女は、その場にいるはずのない少女の姿を確認し、悲鳴のような叫びをあげた。

「な、なんでここにタバちゃんが?!」

「「タッ、タバちゃん?!」」

タバサは叫びながら、アンリエッタに駆け寄った。

「ママーー!!」

「「なっ、なにぃーーーー?!」」

「タバちゃん!!その傷、何があったの?!」

「ふぇぇぇ……。あそこの二人にやられたの……」

「「ふぉっ?!」」











~~~~~~~~~~~~~『アサベット著:道徳教本 ルーの勇者 ~仁義なき戦い~ 』より抜粋~~~~~~~~~~~~~~~~

今度もやっぱり、ルーは立ち上がりました。

モリガンは、倒れても倒れても立ち上がり、自分に向かってくるルーが、不思議でなりませんでした。
なんでこんなちっぽけな人間が、傷だらけになりながら戦い続けられるのでしょうか?
一体なにがそのちっぽけな人間を動かしているのでしょうか?

モリガンは、巨大な胸をバルンバルン揺らしながら尋ねました。

「おお、ルーよ。何故貴様はそこまでして我に抗うのだ?アニエスとミシェルは、あんなにもお前を苦しめたのだぞ」

ルーは答えました。

「わからない。なぜなのか、私にも分からない。ただ、私の中に居る何かが、ぐんぐん私を引っ張っていく」

モリガンの配下の韻龍が、あざわらうように言いました。

「分からないなら立ち去るのね!!」

「それでも二人は私が助ける。この命にかえても。それが勇者」

「この二人は、お前のなんだと言うのだ」

「何の関係もない。ただ立ち寄った村でパンを貰った」

「それでお前は命を捨てるのか」

「それで私は命を賭ける!!」

その時、不思議なことが起こりました。
タカ!!バッタ!!サル!!タ・バ・サ!!タバサ・タ・バ・サ!!

ルーの体が、怒りの力でバイオタバサーに変身したのです。
怒りの炎に包まれ、どう!と音をたててモリガンは地面に倒れました。

ルーは奥の部屋に行きました。
そこではアニエスとミシェルがヒザを抱えて震え、オシッコをもらし、アヘ顔でくたばりぞこなっていました。

「もう大丈夫」

ルーはそう言ってサゲマン二人をつなぐ鎖を断ち切りました。

「モリガンは倒した。あなたたちは自由」

「かかったな!!」

「このマヌケが!!」

二人の体が突如輝き、次の瞬間、ルーは4体の醜いバケモノに囲まれていました。
全ては罠だったのです。

「私の名はアニー」

「エース」

「ミーシェ」

「エール」

「「「「食らえ血管針攻撃!!」」」」

一瞬にして、醜い触手に緊縛されるルー。
豊満なルーの体がしめあげられ、セクシーな吐息がもれます。

4匹は容赦なく殴ったり、蹴ったり、アホみたいに調子こいて想定以上の暴力をふるいました。

「ヌワッハッハッハ!!苦しかろう!!その美しい顔がゆがむのを見るのはなんとも快感じゃて!!」

「グハハハハ!!いい顔になったのう!!これで色女もカタナシよ!!」

「怖い怖いと泣き叫んで命乞いしやがれ!!思い上がり者め!!」

「脱腸にでもなったらどないしてくれるんじゃクソジャリが!!」

その時、不思議なことが起こりました。
どこからか現れた美しいお姫様が、引き連れた騎士らをバケモノどもにけしかけたのです。
ブザマなバケモノどもは、あっというまにボコボコになってしまいました。

「悪党どもには、そんな末路が相応しい」

そうつぶやいて去るルーの背後に、一陣の風が吹きました。
それは、ルーの心をそのままあらわしているようだったそうです。


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