平賀サイトが眼を覚まし、自分の逆行を認識してからの人生は、死への予備動作だった。
どういうわけか、再び召喚される可能性を疑いはしなかった。
アルビオンで死に至るまで、思い返せば、奇跡のような幸運で命をつないでいた。
もう一度あれらの出来事を繰り返した時、果たしてあのような都合のいい偶然が何度も起こるだろうか?
事前にそれらを回避できたとしても、あの世界には、他にいくらでも死への落とし穴が点在している。
強さを求める日々の中で、死への確信はますます固まっていった。
例えば小学校で、周囲の児童らの幼い強さを感じる時。
知らぬ間に感情が思考を出し抜く、そんな若さの性質こそが、モット伯の問題を解決したのではなかったか。
しかしそういった情熱は、日に日にサイトから抜け落ちてゆく。
もう一度同じ事態に面した時、次も同じ結果を得られるのだろうか?
若さには、当人に感知できない、多くの力が潜んでいる。
『やり直し』は、それらの数々と引き換えなのかもしれない。
そんなことを苦く思いながら、
ある日、幼いサイトは教師に聞いた。
「先生、時間はどれくらい人を変えるんでしょうか?」
「誤魔化しちゃだめ。全部食べるまで休み時間はナシですよ」
厳しい先生だった。
給食も授業のうちです、が口癖だった。
味覚は心よりも、舌に依存しているらしかった。
こういった心身の違和をやりくりすることは、後ろめたい優越感をサイトにほのめかした。
ハルケギニアの記憶は、切り株のように、地球の未来から断絶した歴史だった。
新しい肉体の若さは、その年輪の隙間から芽吹こうとする瑞々しい息吹だった。
木目を守ろうと、若い衝動をなぎ払いつつ若く振舞う日々に、誇りを禁じえなかった。
そして同時にその自覚は、孤独な屈辱でもあった。
そんな気持ちのままに帰宅すると、いや、扉を開くまでは『訪問』の感覚なのだが、
ともあれ玄関に並ぶ靴の並びや、傘たての下の濡れ跡や、掃除機の倒れそうな様子や、
そういった全ての物事から、家庭と旅情とが雪崩れこんできた。
すると、ここは自分が久しぶりに、少しだけ立ち寄ることが許された観光地なのだと思われた。
肌のあわ立つような切なさだった。
逆行は、他にも多くの苦しみをサイトに与えた。
そういう痛みの全てが、鍛錬への呼び水となった。
体を鍛えながら、赤い傷跡に染みる汗を幸せに思う。
自分の肉体が、ハルケギニアに最適化してゆくことを幸せに思う。
俺は強くなるんだ――――
今度こそ君を守り抜こう――――
「分かったから早く食べなさいサイト君」
通知表に『想像力豊か』『独り言が多い』と書かれた。
シイタケのスープは根性で残しきった。
第5話「波濤!!メイドの危機!!」
シエスタが朝の洗濯に勤しんでいると、旧校舎のほうから、穏やかならぬ騒ぎ声が聞こえた。
ケンカは珍しいことではないが、少しばかり殺気が勝ちすぎているようだった。
シエスタは作業に一区切りを付け、そちらの様子を見に行くことにした。
声を追って旧校舎裏まで早足で急ぐ。
現場に着くと、事は既に流血沙汰にまで進んでいた。
まさに修羅場であった。
ハシビロコウに羽交い絞めにされたマリコルヌが、牛のようなトノサマガエルに蛸殴りにされている。
哀れな風メイジの顔は、既にドッジボールのように腫れ上がっていた。
「ロビンさん、クヴァーシルさん、何をしてるんですか?」
シエスタに気づいた二匹はマリコルヌを乱暴に投げ転がすと、
それぞれサングラスを外し、慇懃に会釈した。
「ああ、姐さん。こりゃとんだところを。
いえね、このダボを胴元にオイチョカブやってたんでっけど、ケチなイカサマかましよりましてな。それでこの始末ですわ」
ロビンが息を切らしながらそう言って、苛立たしげにマリコルヌを蹴飛ばした。
神経が先走っているらしく、そのホホは怒りで激しく痙攣している。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ キュイリンガルについて ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
使い魔が自分のことを人間だと思い込んでるのではないか?との意見は、よく聞く笑い話だった。
食事の時間になるとフライキャットが食卓についていたりなど、そういった使い魔の愉快な行動には枚挙に暇がない。
私のところのヘルドッグにも、そういう素振りが多々見られた。
例えば、私の家族に求愛などする(私は人間どころか、犬にもモテないらしい)。
メスのヘルドッグをあてがわれているくせに、どうにもそっけない。
一体何を考えているのであろうか?しゃべる使い魔も居るが、うちのバカ犬はしゃべらない。
それどころか、私のことは完全に無視していやがる。
私は、強く興味を惹かれた。
そこで開発したのがこのキュイリンガルである。
『ミンメーショボー』には、哺乳類や、爬虫類や、それどころか昆虫とさえ心を通わせ使役する秘術が多く記されていた。
それらの超理論と魔法とを融合させることによって、我が最高傑作は完成したのだ。
効果は言わずもがな、使い魔の鳴き声を、人間の言葉にリアルタイム変換するのである。
私は、さっそくそのバカ犬と、伴侶候補のヘルドッグにキュイリンガルを装着してみた。
以下、その二頭の会話である。
・「ねえ、なんであなたは私にそっけないの?」
・「ん?」
・「かといって、冷たいわけでもなし。そういう優しさって、ずるいと思う」
・「オレは別に何かを計算してるわけじゃないぜ」
・「じゃあどうして?!なんで私の愛を受け入れてくれないの?!」
・「君は優しくて魅力的だし、とても素敵な子だと思うよ。本当に、心からそう思う。ただ君ねぇ、犬でしょ」
動物の言葉など、分かるべきではなかった。犬が犬姦拒否すんな。
でも面白いので発売してしまおう、コレ。いろいろ意外な事実が発覚するのではないか?
さてどうなることやら。ワクワク。
アカデミーレポート『ドッグス・センス ~意外な事実、実は筆者も犬だった~』より
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ロビンとクヴァーシルに散々に痛めつけられたマリコルヌは、
必死になって己の無実を叫んだ。
「でたらめだ!!ボクはイカサマなんかしてない!!何の証拠があってそんなことを言うんだ!!」
「証拠もビチグソもあるかい!!なんであないに都合よくオドレばかり勝ちよるんや!!
ヒネたカバチ唄うとると目玉ハヤニエにするぞクソタワケが!!」
クヴァーシルがそう叫びながら、巨大なクチバシでマリコルヌをつつく。
「このボンクラ豚が!!脳ミソに卵産みつけて肉食の英才教材にしたろか!!」
ロビンもますますヒートアップし、暴力酔いに頬を膨らませる。
どうも一人勝ちしていたマリコルヌが、はしゃぎ方を誤ったらしい。
散らばっている花札を見た限り、少なくとも、札を使うような悪質なマネはしていないようだ。
「もうその辺にしてあげたらどうですか?」
「……ワシら田舎の出だす。けどんも都会のモンが思とるほど、ワシらも平和な性格しとらんのだすわ」
口出しするなという意気で、下手ながらにズシリと構えたロビンだったが、
シエスタもそう簡単には引き下がらない。腰に手を当て、メッと凄みを利かせる。
「でも、これはやりすぎでしょう?」
「そ、そうは言いはりますけどもゲコゲコゲコ……」
「なにもそないなメンチ飛ばさんでも……カポカポカポ……」
二匹はどうにか食い下がろうとしたが、
シエスタに頭をなでられると、眼を細めてうれしそうにノドを鳴らした。
おさんどんの面倒を見てくれる相手には、本能的に母性を感じてしまうらしい。
「で、何を賭けてたんですか?」
「「「うっ」」」
一人と二匹が硬直した。
「……」
シエスタはニコニコと、邪気のない顔で返事を待っている。
優しい顔だが、優しい甘さがない。素朴な姿だが、素朴な安さがない。
彼女が生まれ持った、聖女的な強さだった。
マリコルヌらは互いに顔を見合わせて打開の道を探ったが、徒労だった。
まもなくシエスタの眼力に負けたクヴァーシルが、
翼のつけねをクチバシで探り、シエスタの足元におずおずと景品を差し出した。
「あーー!!」
メイドのその声で、被疑者らはしぼられたように縮こまった。
景品は、タバコとチョコレートだった。
「ダメじゃないですか!!未成年がタバコなんか吸っちゃ!!」
シエスタは恐ろしい剣幕で叱り付けると、タバコを吹かしながら景品を没収していった。
「「「また姐さんに全部持ってかれた……」」」
そんな、ありふれた光景。
この日も、いつもと変わらぬ、平和な日常であった。
夕刻、トリスタニアで、シエスタがさらわれたとの連絡が入るまでは。
そのことをマルトーに伝えたのは、
シエスタと一緒に買出しに出ていた使用人だった。
アルヴィーズの厨房に戻ってきた彼の体は、まさに満身創痍だった。
時間をくれと懇願したせいで、相手の怒りを買ったらしい。
彼はあえぐあえぐ、事態をマルトーに伝えた。
シエスタが、モット伯に見初められたこと。
タルブに影響力を持つモットに、シエスタは逆らえなかったこと。
塾生たちに、このことは秘密にして欲しいとシエスタが言っていたこと。
厨房の扉が開いた。
のれんから差す夕日が、床の影をゆらゆらと切り裂いている。
中ではコルベールとマルトーが丸テーブルに差し向かい、チビチビと酒を飲んでいた。
脇で火にさらされたノシイカは、既に黒く焦げていた。
サイトが二人の側へ行くと
真っ直ぐ伸びていたススまじりの煙が、大きく風に揺らいだ。
「明かりくらいつけたらどうなんスか」
「サイトか……」
マルトーが、手を添えた杯から眼を離さずつぶやき返す。
「通夜じゃあるめぇし、何事ですかい」
「邪魔すんな。しゃべくりならよそでやれ」
「シエスタが居ませんね」
二つの巨体は、ピクリともしない。
コルベールが、重々しく口を開いた。
「あいつは、里に帰った。おとっつぁんが病気なんだとよ」
「そりゃいけねえな」
「おい」
鬼ハゲの声に、明確な怒気がこもった。
「他所モンの貴様にゃ分からねぇだろうがな、ここにゃあここの筋ってもんがあるのよ」
「つまり俺にゃあ関係のねえ筋ってこったな」
そう言って身を翻すサイトの背に、マルトーが答える。
「お前ぇさんは強いよ。貫目もある。大したもんだ。
今回もどうやって嗅ぎつけたんだか、まったく不思議なヤツだぜ。だがよ、なんもかんも台無しにしようってんなら、俺がお前ぇを殺すぞ」
「フッ……」
椅子の動く音に、サイトは歩みを止めた。
そして振り返った時には、マルトーらが挟む分厚い樫のテーブルが、中央から二つに両断されていた。
マルトーが重くうなり、椅子から身を起こす。
「テメェ……」
デルフリンガーを納刀しながら、サイトはゆっくりと立ち直り、天井を仰いだ。
梁木の上から、リスが顔を覗かせ、こちらの様子を伺っていた。
サイトがアゴを戻すと同時に、コルベールが杯を投げた。
それはサイトの顔に当たって砕け、粉々になった陶器の破片が、カラカラと音を立てて床にはねた。
サイトは身じろぎ一つせず、応えて言う。
「ごっつぁんです、教官殿」
再びその場を去ろうとする少年の後ろから、
パンッ、と、ビンの割れる音が鳴り、マルトーが吼えた。
「こっち向きやがれクソジャリ。背中からえぐられてぇか」
サイトは振り向くことなく答える。
「俺の女が言ってたぜ。敵に背を向けねぇもんを貴族と呼ぶ、ってな」
「……チッ」
「俺ぁ貴族じゃねえ。だがな、オヤッサン。男が行く道ぶつかりゃ、引いて生きるか出て生きるか、しょせんは二つに一つよ」
双月に照らせらたほの暗い街道を、足早に走り抜ける男が居た。
その眼を一見すれば、万人が彼を戦士と察するであろう。
しかしその背に、貴族の証たるマントは見当たらない。
足もとはいつもの下駄ではなく、雪駄履きである。
肩にかついだ番傘を叩く雨粒が、砂のような音を立てている。
と、その駆ける足が止まった。
それまでの激しい運動にも関わらず、男の肩は動いていない。
「どちらまで?」
男の足を止めた原因が、道の真ん中からそう尋ねた。
「女には関係ねえ」
男はそう答える。
睨み付けられたルイズは真剣な眼差しのまま、ただ、静かに首を振った。
男は、もう一度口を開く。
「帰れ。死ぬにも泣くにも、順序ってやつがある」
ルイズの影から、少年が現れた。
少年は、いつもの笑みを浮かべながら言った。
「ガラにもねぇ嬉しいこと言ってくれるじゃねえスか、コルベール先生」
「ガキにも関係ねえ」
少年、サイトは、何食わぬ風に口ずさむ。
「義理と人情はかりにかけりゃ」
「なんだそりゃ」
「義理のが重いこの渡世。おれの国のザレ歌っスよ」
「どこも似たようなもんだな。そうよ。せめて命くれぇは張らにゃ義理がたたねえ」
「押忍、自分も同感です」
「ダメだ。帰れ」
「しかし、今回に限っちゃ不義も誤魔化しがきくかもしれませんぜ」
「なに?」
道沿いに並ぶ木陰から、ぞろぞろと塾生達が現れた。
どの背にも、マントはなびいていない。
「お、お前ら……」
コルベールはうつむき、しばらく震えてから、
小ぶりな麻袋をサイトに投げつけた。
「なんスか、これは?」
「ワシのナニの毛がはいっとる。お守りにしとけ」
「い、インキンにでもなったらどうしてくれるんスか……」
ようやく微笑をくずしたサイトを見て、コルベールは満足そうに言った。
「これは伝統だ、例外は認めねぇ」
このハルケギニアでサイトが初めて見る、あの懐かしい笑顔だった。
モットは以前から、マザリーニに強い恐怖を感じていた。
神の代弁者たる、枢機卿という地位ではなく、その頭脳こそがマザリーニの本質だと、モットは考えている。
知識量ではなく、判断能力があまりに異質なのだ。情報と知識の扱い方にも、魔法めいた神秘を感じさせる。
彼がその気になれば、モットを失脚させるなど容易いことであろう。
しかし今日、宮廷で出会ったマザリーニは、これまで以上の戦慄と、それとは裏腹な思いをモットに与えた。
枢機卿の眼は、何か『未知の新しい力』を確信し、『計り知れない危険な何か』を考えているようだった。
モットになど構っているヒマはないと、そういう顔だった。
モットは、心から安堵した。
これでしばらくは、マザリーニの力を気にせず動けると。
その期待の一つは、すぐに達成された。
宮廷からの帰路、トリスタニアで眼にした、侍女服の娘。
髪の色から、タルブに縁のある者であることはすぐに推測された。
豊満ながらうるみの溢れる若さに、モットの凶悪な欲望がかま首をもたげた。
モットは周りの目もはばからず、随分強引にその娘を屋敷にまで連れ込んだ。
そして自室で、そのあたらしいメイドの風呂上りを待っていたのだが、
「た、大変です!!」
使用人たちが突如、大挙して押しかけてきた。
執事が、座りの悪いろれつでモットに詰め寄る。
「伯爵様!!大変でございます!!たたた!!大変で、です!!
あ、ああああああああ、あの、メ、メイドの、娘がつけていた、く、くくく、首飾りのここここ、こ、この模様……」
興をそがれた格好となったモット伯は、苛立ちを隠さず、手ぶりで退室を促した。
どこか名家にゆかりのある者だったのだろうか?それくらい、内々でいくらでも処理できることではないか。
むしろそういう人物であればこその趣もある。
「どうか、こ、これを、これを……」
執事は、伯爵の命を意に介することなく、
まるでそれを早く手放したいかのように、ただ一心に首飾りを突きつけてくる。
モットはそのネックレスを受け取ると、鎖の部分をつまんで顔の前にぶら下げた。
「……いったい何事だというのだ」
そしてクルクルとのん気に回っている装飾部分をつかみ、
最悪の光景に目を見開いた。
桜花模様に『貴』の一字。
貴族塾の塾章だった。
トリステイン貴族塾――――
通称・黒犬精霊騎士隊――――
モットのノドが、ツバを飲む音を鳴らす。
しかし常識の通用しないあのバカどもと言えど、王宮勅使相手に無茶なマネをするだろうか?
間違いなく死罪と分かっていて、それでも本当に来るのだろうか?
モットが楽観にすがろうとした次の瞬間、屋敷にある全てのものが、跳ねた。
家屋がまるごと太鼓に載せられたようなその振動を、雄叫びが追った。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
「ききききき、きた!!もう来た!!」
幾重にもからまったその咆哮は、それ自体が恐慌兵器であった。
執事らが、メイドらが、悲鳴をあげながら逃げ去った。
皆、蛇口が壊れたような失禁を残して行き、モット伯の寝室は、一瞬にして小便の海と化した。
モットが窓辺へ駆けよると、
彼が『城下』と呼ぶ光景は、早くも破壊のキャンパスと化していた。
ミンメイショボーと魔法の融合が織り成す理不尽の氾濫は、ただただ狂気だった。
森のあちこちから、天をつらぬく火柱が立ちのぼっている。
照らし焦がされた雲天井からは、雷撃と、ボーリング玉のような雹が降り注いでいる。
空では、けたたましい怪鳥たちが毒炎を吐き散らかし、
どこからともなく現れたイナゴの群れが、濃霧のように畑を飲み込んでゆく。
火の粉を逆巻くつむじ風が、牛馬や家屋の建材を天高く舞わせ、
それらは何かに突き刺さるまで、縦横に空間を飛び回った。
大地は不規則に裂け、そこから赤く煮えた岩石を吐き流し、灼熱に飲み込まれる家畜らが凄惨な悲鳴をあげた。
その難を逃れた家畜も無数の毒蟲に襲われ、激しくのたうちながら息絶えていった。
豊かな水量を誇った河川はヘドロにまみれ、その水面に盛り上がる気泡がボコボコと瘴気を放った。
堰の隅には、半透明のゲルに覆われた巨大な卵が無数に浮かんでおり、
そこからは、反逆的な氣をまとった、8つ目のオタマジャクシが孵化した。
その一匹一匹が、世にも不気味な声で、トリステイン貴族塾・塾歌を唄っている。
♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪
ハルケ貴族の生き様は 色無し 萌え無し 情有り
貴族の道をひたすらに 歩みて明日を魁る
我らは魔法の天命に生まれた
義侠をたぎらせ死にゆく朝夕
貴族 貴族 雄々しく咲きて
貴族 貴族 いさぎよく散る
(ベルバラのOPテーマのメロディーで)
♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪
橋は次々と焼け落ち、往路には土砂が盛り上げられ、外部への路は全てふさがれている。
耳に聞こえる全てが、眼に見える全てが地獄色に塗りつぶされていた。
それは、ハルケギニアという現象を破壊しているかのようだった。
そして終には、彼らの姿が現れる。
勇壮なトランペットが鳴り渡り、鬼ハゲの号令が下された。
「抜刀ッ!!着剣ッ!!突撃ーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
「雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄!!!!!!!!!!!」
モットは、その光景だけで脳震盪を起こしそうになった。
意識と視界が白じんだが、寝れば殺されるのを待つのみだ。
モットは、背後に控える用心棒にすがりついた。
「リュリュ殿!!なんとかならぬか?!」
「ふむ……」
雇われ用心棒リュリュは少し考えてからレビテーションを唱え、
懐から取り出した10個の肉マンを貴族塾生らの頭上に放り投げた。
「これで多少は時間を稼げましょう。しかし体を張るほどの義理は貴殿にござらん。拙者はこれにて失礼する」
モットの眼下で、餓鬼らが肉マンに殺到した。
コルベールが、肉マンに群がる生徒らを怒鳴りつけた。
「待て!!!!食うんじゃない!!毒が入っておるに決まっておろう!!」
ベアトリスが、心から切なそうな声で異議を唱える。
「押忍……し、しかし教官殿……。ディテクト・マジックをかけてみましたが、毒は入っていないであります……」
「いずれにせよダメだ!!」
「でも……ここんとこロクなもの食べてないし……、こんな美味しそうな肉マン……」
そう言うと、ベアトリスはとうとうその肉マンに食いついてしまった。
皆、呆然とその様子を眺めている。
と、ベアトリスが、その顔を上げた。
その表情は、トロトロにゆるみきっていた
「て、天国の味であります……」
ボロボロと大粒の涙を流し、鼻の下まで伸ばしながら感動している。
鬼ハゲが、ゴクリと生唾を飲み込んだ。
「お、おいベアトリス一号生、その肉マン、こちらによこせ」
「押忍!!死んでもイヤであります教官殿!!」
「なっ?!」
なんと、教官への不服従。
ベアトリスはそのまま教官に背を向け、ガツガツと肉マンをむさぼり始めた。
するうちに皆が、肉まんに興味を示しはじめる。
「そんなに旨いんか、あれ……」
「お、俺にも食わせろ……!!」
塾生達の眼に、欲望の炎がともった。
サイトが敵の意図する所に気づき、叫んだ。
「お、落ち着くんだ!!皆でちょっとずつ分けて食べるんだ!!」
しかし時既に遅し。
10個しかない肉マンを巡り、塾生らと使い魔たちによる、凄まじい同士討ちが始まった。
「さ、刺しよったなこの害虫野朗ーー!!」
「ぎゃあぎゃあ騒ぐな!!ケツから寄生して奥歯ミンミン言わすぞ!!」
「お月さんが見とらん間は夢ん中のことじゃ!!オノレら月夜の晩ばかりとちゃうからなぁ!!」
「死ねい!!絶・天狼抜刀牙!!」
「テメー今度はドリフじゃ済まさんぞ!!クックロビン音頭踊らしたる!!」
「ペドって言うなクマァァァァー」
「今のうち吼えとれ!!山選ぶのも掘るのも入るのも埋めるのもオンドレじゃい!!」
――――地獄であった。
悪夢が昇華したような光景に、モットはますます恐怖した。
こんな奴らに屋敷に押し入られてたまるかと、必死に策を錬る。
モットが玄関の扉を開くと、塾生らは屋敷の入り口まで、わずか10数メイルの所まで迫っていた。
衛兵らは地の利を生かし、リュリュの奇策で大幅に戦力を落とした貴族塾を相手に、どうにか時間を稼いでいた。
モットが叫ぶ。
「貴様ら、それ以上動くな!!あれを見るがいい!!」
モットの指差す先では、屋敷の屋上から、シエスタが宙吊りにぶら下げられていた。
その下には、煮えたぎるマグマの海が広がっている。
「クハハハハハハハ!!私が合図を送ればあの娘「冥土とは死ぬ事と見つけたりッッッ!!貴族塾バンザーーイ!!」
シエスタは自ら縄を喰い千切り、叫びながら、燃え盛る炎へとその身を躍らせた。
モットは忘れていたのだ。『ちょっと眼を離すと自決している』と恐れられる貴族塾の性質を。
「シエスタアアアアアアアアアアアア!!」
闇に、サイトの絶叫がコダマした。
大きな怒りは、いくらかの拍を要する。
それを知るモットは、事態を飲み込みあぐねる塾生らに向け、渾身の魔力を込めたスリープクラウドを放った。
呪術的な睡魔が濃厚な霧となって、一群を包み込む。
次の瞬間、刹那に距離を詰めたサイトの拳が、モットの頬骨を叩き割っていた。
たたらを踏みはずし、モットの体が地をこする。見れば塾生らは、誰一人として眠っていない。
「な、なぜだ?!貴様ら、なぜ起きていられる?!」
「んなこと知るか……!!貴様、よくも……!!」
「チィッ!!」
水の煙幕が張られた。
逃げに徹するメイジを倒すのは、困難である。
しかし、その霧はまたたく間にかきけされた。
「ガファ?!」
モットは、サイトから20メイルほど離れた場所で、肩から血を流してひざまづいていた。
マリコルヌが、冷徹な口調で言う。
「このマリコルヌ、生来より眼が見えぬ。盲目に眼くらましとは笑止千万」
ことここに至り、いまだ諦めぬモットは、またも杖を振りかぶった。
その手に、どこからか飛来した鋼のカチューシャが突き刺さる。
「左手の神経を断ち切りました。もうその手で、杖をもつことはできません」
そう言いながら、闇の中から、カチューシャの持ち主が現れた。
黒コゲのシエスタだった。モットが、化け物を見るような目で言った。
「き、貴様……、あのマグマから、どうやって……」
鼻をほじりながら、メイドが答える。
「泳ぐのは得意なんです。実はこう見えて私、タルブの田舎じゃ『カッパのシエスタ』って呼ばれてたんですよ」
「なん……だと……?」
「それに貴族塾のほうが、よほど熱苦しいですからね」
モットの口に、鼻クソが弾き飛ばされた。
「グワッ?!ぺっぺッ!!……クソッ!!」
シエスタに背を向け、再び逃走を謀ったモットだったが、
周囲は既に、悪魔の様な形相の塾生達に囲まれていた。
屋敷を守る衛兵は、皆地に伏している。
モットが、最後の足掻きを見せた。
「わ、私に杖を向けることは、王家に杖を向けるも同じぞ!!」
そう叫びながら、胸元から1枚の羊皮紙を取り出し、一同に広げて見せた。
モットはそれをワラにもすがる思いで出したのだが、その羊皮紙、勅書は、塾生らに大きな動揺を与えた。
神や魔法が近代日本の非現実であるのに対し、ハルケギニア特有の非現実的空想は、無神論だ。
人は僧侶の言葉を疑っても、神を疑いなどしない。ブリミル教が衰退した今日でも、それは同じだ。
そんな世界にあり、王家に使えることで神に仕える貴族は、根本的に宗教戦士なのだ。
そのシステムの土台を突きつけられれば、本能が闘志を打ち払ってしまう。
命と名誉を野ざらしにする覚悟をもってしても、宗教的罪悪には抗い難いものがあった。
かかげられた勅書を前に、塾生達は歯噛みしながら身を震わせた。
「フ、フハハハ……、貴様ら!!誰に歯向かっているのか、ようやく理解したようだな!!」
衛兵らに命を下そうと、モットの手が掲げられた。
と、モットの興奮を打ち叩く言葉が飛んだ。
「おう、そのへんで黙ったれや」
それは、貴族塾の戦士たちの中から聞こえた。勅書、即ち王家からの圧力を、微塵も感じていない口調だった。
しかしモットはもはや、勅書の威を信じて疑わない。
その誰かに叫び返す。
「何者だ!!前に出ろ、不敬者め!!」
「じゃっかあっしゃあ!!この悪党が!!」
また、同じ声で返事がかえされた。モットはその声に身をすくませた。
強い声だが、飾りがない。飾りがないが、度量がある。
群れの中から、声の主が近づいて来る。
「おうおうおうおぅ、出ろというなら出てやろうじゃねぇか。
黙って聞いてりゃベラベラベラベラ、好き放題タワケた寝事ぬかしやがって!!」
肩で風切り現れたるは、
先日、サイトと死闘を演じた覆面の戦士、アンであった。
アンは勅書を前にしても、いまだ威風になびく様子を見せない。
モットが、いやらしい睨みをきかせて言う。
「貴様、私の……「控えい!!」
獅子奮迅の活躍を見せていたコルベールとギトーが、
アンの両翼に駆けはべり、爆発のような激を飛ばした。
「静まれ!!静まれ静まれ静まれぇぇぇい!!」
「控えい控えい、控えおろおおおおおおおお!!」
皆が、その三者のただならぬ迫力に飲まれていく。
「こちらにおわすお方をどなたと心得る!!」
コルベールの叫びを脇に、アンが、その覆面を剥ぎ取った。
そこに居合わせた全ての者が、息と言葉とをつめた。
アンの覆面の下は、塾生の誰もが予想だにせぬものだったのだ。
ざわめきが広がる。
「マジかよ……」
「し、信じられない……」
覆面の下は、あろうことか、なんとまた別の覆面だったのだ。
モットが、声をふるわせる。
「き、きさま……」
アンが、さらにその覆面を脱いだ。
先ほど以上の衝撃が、人々を襲った。
「なっ!!」
「なんてこった……!!」
今度は、水玉の覆面であった。
不気味なガラだった。
「さすがアンだ……なんて慎重さだ……」
「トライアングルは伊達じゃねえってことか……」
感嘆する皆を意に介さず、
アンは三度その覆面を脱ぎ去り、とうとうその正体を衆目にさらした。
「えええ?!」
「う、うそでしょう……?」
「あの遊び人のアンさんが……」
驚き惑う一同に、
コルベールの口上が浴びせかけられる。
「こちらにおわすは、恐れ多くもトリステイン王国女王陛下、マリアンヌ・ド・トリステイン王大后にあらせられるぞ!!」
覆面の下の正体は、ルイズの想定のジャスト真上だった。ルイズはその衝撃で、毒手の有資格者となった。
王大后マリ"アン"ヌ・ド・トリステイン。トリステイン王国そのものである。
「へ、陛下……」
「女王……陛下……」
間違いなく、本物であった。
ギトーの構える印籠に描かれた『闘裡州帝院』の字がそれを証明している。
ちなみにルイズは『龍威呪・斧嵐薩婆頭・屡武乱・怒・羅・羽詈衛櫓』である
あまりに唐突な国家元首の登場に、
ある者は金魚のように口をパプパプさせ、ある者は金魚のように身をピチピチさせ、
それ以外は完全に硬直し、戦場は一瞬にして、無責任な水槽の終末と化した。
「者ども、女王陛下の御前である。頭が高い!!控えおろう!!」
「ハハッーー!!」
マリアンヌを中心に、方膝をついた最敬礼が放射状に広がってゆく。
誰も、口を開くものはいない。間をはかり、女王が語り始めた。
「ジュール・ド・モット、そのほう、王家の言の葉を預かる身でありながら、その勅においてそこな侍女をかどわかせし儀、
ことごとの一つに過ぎませぬな。これまで、いくたび我らが名で……」
「へ、陛下の名を騙る不届き者め!!」
モットが叫び、懐に手を差し入れる。
その両肩に、デルフリンガーの峰が打ちつけられた。
「ぐぉっ!!」
骨を砕かれ、ヒザをつくモットを、サイトが黙って見下ろしている。
「ありがとう、サイトさん」
マリアンヌは公粛なたたずまいのまま、顔だけかすかに微笑ませてそう言うと、
再び威を放ちながら淡々と宣告した。
「屋敷をあらため、後は白州に任せることと致しましょう。
モット伯よ、貴族と平民の間にそなたがうがち続けた溝の代償、安く済むとは思わないことです。教官殿、お願いします」
「はっ!!」
ギトーの杖がヒュヒュっと短く空を切ると、鋼で編まれた縄がモットに巻きついた。
そこへ、さらに固定化の魔法が重ねられる。
女王はそちらから視線を外し、コルベールに向き直った。
鬼教官が、見事な敬礼の型を見せていた。
「さて、コルベール殿」
「はっ!!」
「此度の一騎駆けにはこのマリアンヌ、年甲斐もなく胸を躍らせました」
「恐れながら、それこそ騎士の本懐に御座いますれば」
「これで私はもう塾に居られませんが、今日のことを生涯忘れることはないでしょう。
教育は国家百年の計。これからも一層の奉職を期待していますよ」
「恐悦至極に御座います」
この世のなごり、夜もなごり。
一人散り逝く炎の蛇へ、トリステインのアダ花と、つらなる星々貴族塾。
貴族の誇りを胸に秘め、燃える屋敷を後にする貴族塾一行であった――――――
~~~マザリーニの日記~~~
君は、コスモを感じたことがあるか?私はある。
感じまくりの漏れまくりである。もはやコスモのつまった肉袋といえよう。
なんでこんなことになっちゃったんだろう……。
思えばあれは、まだ私がオレっ娘だったころのこと。
あの日私は、モエ(孫)がワシの財布から金を抜くのを見てしまったのだ。
ええ、家族会議っすよ。
そしたらこうですわ。
「ま、孫?!モエってだれ?!」
「てか枢機卿!!また病院を抜け出してきたんですか?!」
オレは、キレた。
迷うことなくその場で脱いだ。
セブンセンシズは、クロス(服)を超越するのだ。
気持ち・E!!
イェス!!イェス!!andイェス!!
なのに、そんな第八感(阿頼耶識)でアンリエッタ姫を知覚してみれば、
ああ、なんたるコングラチュレーション、ことほど左様にドヤ乳ではないか……。
……やべ!!眼があった!!
ピーヨピヨピヨピヨ私はキグナス(クールであれ)。