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No.38354の一覧
[0] 暁!!貴族塾!!【ゼロの使い魔 X 宮下あきら作品】[コールベール](2013/08/26 18:59)
[1] 第1話「転生!!もう一つの世界!!」[コールベール](2013/08/28 20:19)
[2] 第2話「名物!!異端審問!!」[コールベール](2013/09/04 19:22)
[3] 第3話「決闘!!青銅のギーシュ!!」[コールベール](2013/09/04 19:22)
[4] 第4話「妖刀!!ヤンデルフリンガー!!」[コールベール](2013/09/07 03:30)
[5] 第5話「波濤!!メイドの危機!!」[コールベール](2013/09/09 18:32)
[6] 第6話「銃士!!怒りのイーヴァルディ!!」[コールベール](2014/04/20 17:51)
[7] 第7話「散華!!閃光の襲撃!!」[コールベール](2014/05/03 06:29)
[8] 第8話「双月!!剣と涙と男と貴族!!」[コールベール](2014/05/23 15:40)
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[38354] 第4話「妖刀!!ヤンデルフリンガー!!」
Name: コールベール◆5037c757 ID:f6102343 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/09/07 03:30
第4話「妖刀!!ヤンデルフリンガー!!」


トリステイン貴族塾――――――

この教育機関では、魔法に必要な様々な教養、
『心と言葉の関係』『魔法に現れる[ニホン語思考]と[ガリア語思考]の差異』
『心理的条件反射のアンインストール』『本能的苦痛と文化的苦痛の並列化』
等といったことはさておき、とにかく筋力トレーニングと組手とに重点を置いている。

『術は力の中にあり』との教育理念によるものである。

また、部位鍛錬も同様に重視されている。
皆、肉弾戦で使う部位を徹底的に鍛え上げる。
肉体の変形をともなうほど激しい鍛錬である。

現在サイトは浴場での入浴を認められているが、
そこで全裸のコルベールを見た時は『ひょっとしてこの人デーモン族?』と思ったほどだ。

これらは特に外来系統『氣』『漢』『侠』『魁』『萌』等に強い影響を持ち、、
時間割表の半分以上が『漢』と『侠』で埋まっているこの塾では、もはや誰も疑問を感じていない。

ちなみに貴族塾で『萌』の系統を使用すれば、軍法会議により火あぶりである。

人の心を根から変えることの危険性を鑑みてのことであるが、
今年は既に、モンモランシーやケティなど、5人ほどが火あぶりに処せられている。
ゆえに彼女らは、日頃から焼け石の上を歩く等の自主訓練に励み、独自の火あぶり対策に余念がない。

教官側と生徒側の、こういった関係の歴史はそれなりに長い。

そのせいで、彼らの血で血を洗うイタチゴッコもすでに形式化しており、
異国の可愛いものに憧れる女性徒らは、どうにか教官の目をかいくぐろうと、あれやこれやと奇策を弄する。

「奥様、こちらはゴバルスキー卿お手製のケモミミで御座います」

「すごい……。ケモミミなのに全然可愛くない……。これなら……」

サイトを引きつれ、トリスタニアにやって来たこのルイズも、密かにそういったものに興味を持つ一人である。
一週間前の決闘で、サイトの刀はもはや使用不可能となった。
なので、いよいよサイトとデルフリンガーを引き合わせようと、件の武器屋に来たのだが――――――

「着用者の怒りに反応して、この耳の部分が1メイルもの鋭利な角に変わるんで御座います」

「おお……」

店内は、規模と店主以外の全てが別空間と化していた。

店の半分には、ルイズが(気がついたら)買っていたゴバミミなど、
そういうファンシーだかファンキーだかなグッズがきらびやかに展示されている。
セーラー服がそこに並んでいることから、サイトはハルケギニアの変化を今更ながらに思い知った。

店の残りの半分は、恐らく今も武器屋なのだろうが、
巨大なヨーヨーや、硫酸のシャボン球や、とかくオモチャを無理やり武器にし、
『どうすれば教育に悪いか』を追い求めたような凶器が山積みになっている。

ルイズが我を失っている間、サイトはその山をかきわけ、目当てのモノを探していた。
しかし、どれだけ探しても、あのインテリジェンスソードは見当たらない。
どうしたことかと、そうサイトが思い始めた頃、

「ああああああああああああああ!!」

カウンターの奥のほうから、懐かしい声が聞こえた。

「うお!!デルがしゃべった?!」

店主が、素で驚きの表情を浮かべる。

「おろして!!おねがい!!おろして!!」

「あーわかったから静かにしろ、今おろしてやる」

デルフリンガーは、カウンター後方のタンスの最上部、明らかに人目につかぬ場所に片付けられていた。
店主が踏み台にのって手探りで、そこからデルフリンガーを下ろした。
かつての相棒は錆びに錆びて、茶色い棒と成り果てていた。

「すいません、お客様。こいつ、ずっとしゃべら「ああああああああああああああ!!」

また、デルフの叫び声。
あっけにとられる三人をよそにデルフは、サメザメと独り言を言い始めた。

「な、長かった……。6000年……。アアア、アホみたいに長かった……うううう……」

すすり泣きまでしている。
サイトは、やはりデルフも変わってしまったのかと思いながら、その剣に話しかけた。

「お前がしゃべったのか?」

「二週したら、かなり記憶がスキっとしたけど……、
 なんか途中から全然先が読めなくなるし……、もう会えないかと……」

しかしデルフは完全に自分の世界で対話しており、まったく要領を得ない。

「うう……、チートでもらった空想テトリスもすぐ飽きたし……
 途中で空想テトリスとテトリス症候群がまざって発狂しそうになるし……」

サイトはその柄を握って抜刀し、横なぎに一振りした。
こういうスルー能力は、以前の彼になかったものだ。

ブヒュっ、と、懐かしい風切り音。
刀身を立て、目を細める。

どういうわけか初対面の頃よりも錆び付いているが、10年前、生死をともにした親友だ。
きっとまた、仲良くやっていける。

そんなサイトの気持ちを知ってか知らずか、デルフはブルブルカタカタと震え、

「ああ……ああ……」と、気色悪い声を上げている。

「ちょ、ちょっと大丈夫なの、このボロ剣」

ルイズがツバの部分をつつくと、デルフはようやく二人に語りかけた。

「……えーっと、ごめんね。内側にこもっちゃってた。アタシはデルフリンガー。始めまして、お二人さん」

『アタシ』という言葉と口調に、ルイズとサイトはそれぞれ内心で疑問符を浮かべた。
刀剣に性別は重要ではないのだろうか、とはサイトの感想だ。
価値観を一転させるトレビアンシフトでもあったのかしら、と、ルイズ。

それからサイトは、意を決したように口を開いた。

「ねぇルイズ、あたしこの剣気にいっちゃった」

「「……………………え?」」

店主とルイズの声がだぶった。

猫がワンワン吼えたような、ガメラがコケコッコーと鳴いたような、
これぞ違和感、という、そんな違和感だった。

「……フッ、冗談だ。見てくれはともかく、こいつはなかなかの一品だな。
 剣というより、伝説のミス美女といった趣だ」

そう言うとサイトは、買ってもいないその刀を背中に背負ってしまった。

「「…………」」

「よし、ルイズ。とりあえずオレのカマを掘ってくれ」

「「…………」」

「大隆起を止める前に、まずそこからだ。それが六千「ハッ!!」

ルイズの左足が、内回しに中段まで上がった。
サイトがカカト落としを予測し、左ガードをあげる。
ルイズの左膝が奥にたたまれ、そこから放たれる中段横蹴りが、サイトの左腹部に食い込む。
サイトの重心が右に下がった。

ルイズは左足を引く反動で、飛び左拳突きを放った。
狙いは、サイトの右首筋に見える剣の柄だ。

サイトはさらに身を落としてそれをよけ、伏せたまま店外に転げて行った。

なんだか分からないが、あのボロ剣、バグった上にサイトを乗っ取りやがった――――――

ルイズも間をおかず、サイトを追った。

往来では、今まさに立ち上がるサイトを、野次馬が遠巻きに眺めている。
サイトは近づいてくるルイズに気づき、普段と同じ口調で語りだした。

「ルイズ。誤解しているようだな。『カマを掘る』というのは、そういう意味ではない」

ルイズは戦闘的な速度で思考する。
乗っ取られたのではなく、操られているという状態に近いのだろうか。
サイトの知識、運動能力を使っていることがその傍証だ。

「……じゃあ、どういう意味なのよ」

「ケツにイチモツをぶちこんでくれということだ」

「死にさらせ!!」

サイトはルイズの飛び蹴りを横とびによけ、
デルフリンガーの柄から白い飴玉のようなものを取り出すと、着地するより早く、それをルイズへと弾き飛ばした。
それは狙いに寸分たがわず、ルイズの口に飛び込んだが、ルイズはペッと、反射的にそれを吐き出した。

「心配するな。それを飲めば生えてくる」

「あ、あぶねぇーー!!飲むとこだったじゃないの!!」

と、サイトの四肢が不自然に躍動し、
何を思ったか、自ら、己のつま先に短刀を突き立てた。

「く……無事か、ルイズ……!!」

ルイズが瞬時に状況を推測して叫ぶ。

「サイト?!サイトなのね!!」

「ルイズ!!今のうちにオレごと撃つんだ!!」

「なるほど!!さよならサイト!!ウーロ!!ヤケー!!」

素早く開始される詠唱。

二号生筆頭ルイズ・フランソワーズ。
誰もが認める、貴族塾随一の天才メイジである。

その危険度は学園内外に鳴り響いており、この街でも少しは知られた顔だ。
周囲の野次馬が、半ばパニック状態で散り散りに逃げてゆく。

「ルイズウウウウウウ!!」

サイトの叫びを真っ向に受けながら、ルイズが詠唱を終えた。

「……ヌーマ!!さらば思い出の日々よ!!ギャラクティカ・マジカル!!」

ギャラクティカ・マジカル――――

漢・漢・漢で組まれる、天才ルイズの大技である。

少女の杖が振り下ろされた。
それを見たサイトが、ニヤリと笑った。

「かかったな!!その魔力、いただくぞ!!」

そしてデルフリンガーを抜刀し、眼前に構える。
しかし向かってきたのは魔法ではなく、ルイズだった。

「かかったのはあなたよ!!ようやく抜いたわね!!」

十手形の杖が、デルフをからめ取った。

「どうなっている?!なぜ魔法が発動していない!!」

「あんなルーンなんてないわ。さっきの詠唱を逆に読んでみなさい」

「ウーロ・ヤケー・ヌーマ……、ま、マヌケヤロウ?!おの……ガフッ!!」













テファが塾内を徘徊していると、正門のほうから奇妙なものが現れた。
ルイズが、スマキにしたサイトを引きずっている。

テファはサイトに、秘めた関心を寄せていた。
ウソかマコトか、その人間の使い魔は『ニホン人』ではないか、との話をチラホラ聞く。
人間離れした身体能力に、未知の能力を隠し持つニホン人。

じゃあニンジャじゃないか、と、テファはそう考えている。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~ ニンジャについて ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

爬虫綱・カメ目に分類される爬虫類の一種。

一般に淡水種よりも海水種のほうが美味とされるが、スッポンなどは今日においても高級食材とされる。
コラーゲンが多く含まれており、美容に大きな効果がある。

ひっくり返して火にくべれば、そのまま蒸し鍋になるというドン臭いデザインだが、
スッポン、カミツキガメ、ワニガメ、亀バズーカー、こち亀などは非常に獰猛なので注意が必要。

ちなみに亀の香には強精作用があるとされているが、
人の指の爪の匂いにも同じ効果があるとチキューで確認されており、
ついつい指の垢の匂いを嗅いでしまうのはそのせいで、覚えておくと有事の際に便利である。うそである。


アカデミーレポート『世界の亀公100選 ~君、僕に釣られてみる?~』より

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


テファは、ミノと荒縄で縛られたサイトを指さしながら尋ねた。

「ルイズ、それ何?新しい貴族塾名物?サイトの目がぐるぐるになってるけど……」

「あ、テファ。話せば長く……いや、ドシンプルね。サイトが剣に呪われて、操られちゃってるのよ」

「ののの、呪い?!」

テファはビクッと飛び退りそうになったが、必死に思いとどまる。

サイトとルイズは、私と普通にお話してくれる優しい人たちよ。
この人たちが居なかったら、私は本当に孤独になってしまうわ。
最近は森のオルグ鬼さんたちも、私が近づけないように首から鈴をぶらさげてるくらいだし(いやはやあれでは近づけない)。

ルイズはきょとんとした顔で、ビクビクと震えるテファを眺め、大きな眼をパチパチさせている。
やがてテファはそれをまっすぐ見据え、精一杯の勇気を振り絞って言った。

「あ、あの……言いにくいんだけど、ひょっとして、それはアレ?『場違いな書物』の読みすぎってやつ?正直、ひくかな……」

「ちょっ、ちが!!そういう側から突くのやめて!!」

「前は『実は私、見えちゃう人なんだ』とか真顔で言「ぎゃおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

ルイズの悲鳴で、デルフリンガーinサイトが眼を覚ました。
スマキのまま、器用にピョンと立ち上がり、二人の美少女から距離を取った。

その瞳は光を返さず、墨のように奥を覗かせない。
表情に気力はなく、意識の気配をどこか根本で断ち切っているようだ。

虚ろな表情のまま、サイトはぽつりぽつりと話し始めた。

「ルイズ、その女から離れろ。オレ以外の奴と話なんかするな」

「うわぁ……」と、テファ。

「あーあ……」と、ルイズ。

「ルイズ、この束縛を解いてくれ!!その女は危険だ!!リーヴスラシルを背負っている!!」

「……ねえ、ルイズ」

「うーん……」

「ルイズ!!他の奴が吐いた空気なんか吸うな!!」

「……」

「……」

「消えうせろアホヅラ獄乳女!!エルフの恥さらしめ!!少年愛みたいなルイズの体を見習え!!」

「「……」」

「く、来るな!!イヤ!!ヒッ、やめて!!来ないで!!」

「サイト、ごめんね」

テファはそう言うと、かすかに頬を紅潮させ、
レボリューションなシロモノをサイトの顔に押し付けた。
手足を動かせないサイトは、されるがままであった。
むぎゅっと。ぱふぱふっと。

サイトは声を立てることもなく、骨格を喪失したかのように崩れ落ちた。
耳鼻から血をながし、ビクビクと激しく痙攣している。
デルフリンガーも音を鳴らして震えている。

「テ、テファ、今のはまさか……」

「三年間洗ってないアタシのフンドシ……。たいていそれで眼がさめるはずなんだけど……」

「死んじゃうでしょ!!サイト!!サイト!!しっかりして!!」

コプコプと赤黒いヨダレをたらしながらも、
サイトはデルフを手放さない。いびつだが、根性はあるようだ。

「ねえルイズ、多分その剣すごくチョロいよ。アタシよりコミュ力低そうだし……」

「サイトごとブッ殺してどうすんのよ!!」

「今のうちに上下関係仕込んどく?サイトごと」

「……それはアリね」

ふむぅ、とアゴをなでるルイズ。

「あ、あのね、キャラ作りを自覚させた上で壊すといいの。まずはキャラの空気を徹底的に無視するの」

「そうね。どんなシャバっ気も、つぶすにはやっぱり屈辱的なのがいいわよね。じゃあ脱がしちゃおっか」

「うん。むいちゃお。弱者に強い個性は毒だもの」

平賀サイト、絶対絶命。
もはや万事休す。

と、そう見えたが、

「あのー……、その方、死にかけてませんか?思いっきりアナフィラキシーショック起こしてますけど……」

少年のズボンにハサミが入るまさにその直前で、
少女らを押しとどめる声が聞こえた。

ルイズとテファがそちらにふりかえると、
そこには、黒い覆面ですっぽり顔を隠した学生が居た。

「あらアン。丁度良かったわ。こいつ治療してくれる?」

その学生の名はアン。
どういうわけか覆面を被ったままでの学園生活を許されている、トライアングルの水メイジである。
美しい右手の指には高級そうな指輪をはめている。水色に輝くその宝石のものものしさからも、家の裕福さが伺えた。
覆面の後ろから伸びた紫色の髪には、高貴ささえ漂っている。

「はい、じゃあ早速」

そう言うとアンは、杖をサイトに向けて呪文を唱え、
柔らかな魔法の光を少年の体に浴びせ始めた。サイトの顔色が、少しずつ生気を取り戻してゆく。

「あれ……?この人の心、何かが……」

アンがそのことに気づいた時には、もう手遅れだった。
見る間にデルフリンガーが、アンの魔法を吸収し、その刀身の錆を削ぎ落としてゆく。

「しまっ……!!」

ルイズが短く呻いた。

「フッ、礼を言うぜ。おかげでこの体にも馴染んできた」

「くらえ!!」

「遅い!!」

テファのフンドシを避け、サイトの体が鮮やかに宙を舞った。
10メイルほど離れた場所に着地し、己の拘束を解く。

筋力で束縛を引きちぎるその所作は、ルイズが何度も見た、
ガンダールブとしてのサイトの動きとは異なっていた。
今までのサイトの動きから、サイト独特のクセを抜いたような動きだった。

「あ、あの剣はまさか……魔法を吸収したのですか?!」

「ごめん、アン。説明不足だったわね。ここから先は私がなんとかするわ」

「……いえ、おおよその事態は把握しました。
 この戦いには、私のほうが向いているでしょう。ルイズ、私にあなたを助けさせてください。そういう約束ですからね」

「え?」

妙に親しげなアンの言動に、ルイズは虚を突かれた。

「ハァ!!」

その隙に、アンはその場を飛び出して行った。見事なフライだった。
覆面のすそから紫髪を風に遊ばせ、アンは颯爽とサイトの前に降り立った。

「アナタを野放しにするわけには参りません。もう一度眠ってもらいます」

「いいだろう。まずはこの体の慣らし運転といこうか。ルイズとのことは、その後だ」












騒ぎを聞きつけ、ヴェストリ広場に学生たちが集まってきた。

場の様子から、荒事に慣れた塾生らは即座に状況を察した。
どうやらアンとサイトが、決闘まがいのことを始めるらしいと。

「そういや、アンの系統はなんだっけ?」と、ギーシュ。

「外来まじりの単三らしいけど、いちおう『水』って聞いてるぞ」とギムリ。

「水か……」

「水だと何か問題あるのか?」

「いや、我らが姫君も『水』の系統だから、最近『水』は評判が……」

「お、おいギーシュ!!」

ギムリがギーシュの不敬をいさめるが、
青銅の悪ノリは止まらない。

「噂で聞く限りじゃあのお姫様、エラ呼吸ならぬエロ呼吸って感じだと思うんだ。
 どこで呼吸してんだかね。いや、てことはビラ呼吸かな?プクク、我ながらウマイ……プクククク……」

それが聞こえていたのかいないのか、先手を出したアンの魔法は『水』だった。

「フラッシュ・ピストン・ウィンディ・アイシクル!!」

魔性のツララが、アンの杖から豪雨のように噴出した。
水・風・侠のトライアングル魔法であった。

「系統魔法か」

しかしサイトは動じることなく、ただ剣を前方にかかげるのみだ。
その刀身に、全ての氷塊が吸い込まれてゆく。

場がざわめきたった。

「な、なんだあの剣は?!」

「魔法を吸収した?!」

サイトが身をかがめ、駆けた。
ギーシュ戦の折に見せたものに、勝るとも劣らない速度だった。

瞬く間に杖と剣との撃合が鳴り響き、サイトの姿が、アンの前からかき消えた。

「フッ、後ろを取ったぞ」

「いいえ、そちらが前です」

そう言い終わるが早いか、サイトの顔目掛け、青く燃え盛る火炎が噴射された。

「な!!こ、これは?!」

サイトはどうにか身をひるがえして飛びすさったが、パーカーのスソが赤く融解している。
信じられない光景だった。火炎は確かに、アンの尻から放たれていた。

「フフフ、妖刀やぶれたり。
 その剣は『魔法』は吸い込めても、やはり『ただの炎』は吸い込めないようですね」


~~~~~~~~~~~~~ 猛虎流奥義・大放屁火炎放射について ~~~~~~~~~~~~~~~

ミンメーショボーが伝える流派の中で、
最も異彩を放つものと言えば、やはり猛虎流であろう。

屁、全裸、頭突きを根幹に置くこの技術体系は、多くのメイジに忌み嫌われている。当然である。
しかしその威力に魅せられた貴族も確かにおり、今でも人知れず、その修練は行われているという。

『猛虎流やめますか?貴族やめますか?』のキャッチフレーズを打ち立てた王家でさえ、
これを御殿手(うどんでぃ)と呼ばれる歩法にひそめて伝承していると噂されており、
その炎の最高温度は、なんと一兆度にまで達するとのことだ。ダメ、ゼットン。


アカデミーレポート『マン・アフター・ミンメーショボー ~ごめんなさい~』より

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「なかなかの体術ですね!!でも、いつまでもかわし続けられるものではありません!!」

サイトは手で跳ね、空を蹴り、ラグビーボールのように空間を飛び回るが、
放たれる火炎は、少しずつその動きの先に迫ってゆく。

「ガス切れを期待しているのでしたら、それは無駄なことと言っておきましょう!!
 私は特殊な修練により、吸った息を全てガスに変えることが出来るのです!!」

アンが腰をかがめたまま、後ろ向きにサイトを追う。
正中線と重心を微動だにさせぬ、訓練された動きだった。

そしてそれ以上に激しく移動し続けるサイトの消耗は、狙い撃つアンよりもはるかに大きい。
そのうちサイトの動きに、かすかながら疲労の影がきざした。
アンの動きは、ますます加速してゆく。

もはや時間の問題か。
そう見えたその時、

ブリブリブリッッッ――――――

風が、凪いだ。
アンとサイトの動きも、時を止めた。

屁の音ではなかった。
屁以上の音だった。

サイトが、一応さぐりを入れてみる。

「貴様……まさか……」

「……」

覆面の戦士は、答えない。動かない。
中腰に力強く構えたまま、ロウ細工の食品サンプルのように、その躍動を内に封じ込めている。

果たして、サイトの読みは当たっていたのだ。
やがてアンは、ゆらりとサイトに振り返り、虚ろな眼で手を下ろすと、

「ごめんなさい……」

と、そうつぶやき、
さらに一呼吸置いてから、
その手をズボンに差し込んだ。

「でも、ウンも実力のうちです」

毒手、完成である。

ルイズが、ノドの裂けるような悲鳴をあげた。
その光景は、彼女の記憶の水底深くから、忘らるる幼少のトラウマを一瞬にして引きずりあげたのだ。

ねぇルイズ、その洋服かわいいわね――――

ねえルイズ、そのヌイグルミかして頂戴――――

「猛虎流……、そしてあの毒手……。覆面の戦士アンの正体はまさか……」

「知っているのかルイズ?!」

「知らないッッッ!!」

「そうか!!」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 毒手について ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

外法中の外法。

しかし一個の生命体が有する最強の武器が、武でも魔法でもなく大便であることはまぎれもない事実だ。
現に排泄物は、人類を最も殺傷してきた兵器であり、歴史上、幾度となく文明の制御を離れ、様々な病魔を人の世に撒き散らしてきた。
太古の戦いにおいて、武器に排泄物を塗布することは一般的な戦術であった、との記録も実際に残っている。

三千世界全てで原初から、善悪を超えた禁忌とされてきたのはその威力故なのだ。
そこには体重差も年齢差もない。便は人に与えられた、死以外の数少ない平等と言えよう。


アカデミーレポート『ロマリア・アイアン・ファミリー ~1・2・3~ 』より

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「降参なさい」

アンが、距離をつめる。
歩みは重く、しかし進軍的だ。
出来れば、その邪拳をふるいたくはないのだろう。

サイトは、退がらない。
見守る者らが、最悪の事態を想像する。

と、サイトが決死の時に見せる構えを見せた。

妖刀に操られてのことだったのだろうが、
その実それは、まるでサイト自身の覚悟のように見えた。

「フッ」

微笑も、サイトのそれと変わらない。

下げたくない頭は下げられない―――――
サイトはいつか、そう言っていた。

即ち、生きて虜囚の辱めを受けず―――――
それは今のルイズにとっても、全ての感情をねじふせる規範である。

しかし、

「イヤ……」

ルイズの脳裏に、絶望的な光景がよぎってしまう。

少年の背中が、泣いたように見えた。

――――ちがう、あれは『サイトの覚悟』じゃない!!

「デルフ!!ダメエエエエエエエエエエエエ!!」

少女の絶叫は、
しかし戦いを止められない。

ブリブリブリッッッバシュッッッ――――――

先ほどよりも、いくらか汁気の効いた音が鳴り響いた。
サイトがおもむろにズボンへ手を差し入れ、そしてつぶやく。

「人の尊厳をもてあそぶ冷酷無比なる邪拳……。一生使うことはないと思っていた……」

神の左手が、魔をはらんだ。

「そんな……サイト……」

ルイズの体から力が抜け落ち、へなへなとその場に崩れ落ちる。

名状し難い戦いが始まった。
ゴリラの仲間割れのような、凄惨な光景だった。

そのうちアンが、汚物ですべってこけた。
刹那を逃さず、サイトの毒手がアンに迫る。
誰もが目を覆った。

しかし皆が眼をあけた時、その魔拳は、アンの顔前でピタリと静止していた。
勝負ありである。

アンが、戦いの気迫を残した響きで問いかける。

「どうして……拳を止めたのです……?」

「その理由はお前が一番よく知っているはずだ。俺の拳は、女は殺さん」

「「「「「「「な、なにいいいいいいいいいいいいいいい?!」」」」」」」

広場に、驚きの絶叫が轟いた。

覆面戦士アンが女――――――

そうそう予想できることではなかった。
これまで、覆面とぶかぶかの学ランとで、その秘密は完全に隠されていたのだから。

「そんな……」

サイトのその言葉に最も驚いたのは、誰あろうアンであった。
敗北以上の衝撃で、声が震える。

「な、なぜ、そのことに……?今まで、誰一人として気づかなかったのに……」

「お前はもらしたのではない。もれたのだ。
 あの時、お前の眼は絶望に濡れ『死にたい』と言っていた。どれだけ隠そうと、女の心までは隠しきれるものではない」

へたりこんだまま、アンはサイトを見上げた。
自分の身に起こった奇跡に、うろたえ戸惑う。

「私を、女と……?こんな私を……女と呼んでくださるのですか……?」

アンはその出生から、花としての幸せを否定されて生きてきた。
路傍に咲き愛でられる喜びなど望むべくもなし、ただ摘まれるのを待つ、時代への献花として育てられてきた。
猛虎流も、そんな彼女の達観と性癖を象徴する、心の叫びだったのだ。
あの毒手も最初から狙ったものではなく、たたのヤケクソに過ぎなかったのだ。

「私を……一人のただの女と……そんなこと……」

希望を突き放すことに慣れた悲しい抵抗を、
サイトは、いとも屈託なくねじ伏せる。

「いい女だぜ、お前は」

初めて見せる、サイトの心からの笑顔だった。笑うのが下手な男だった。
しかしその勇ましい相貌には、優しく、暖かく、清々しい心がありありと浮かんでいた。

アンの呆けた心身に、決して消したくない、大切なかがり火のようなものがともった。
まだこの鮮やかな奇跡は続いてしまうのだろうかと、不安に似た期待があふれてしまう。
自身の錯乱を心配するほど狂おしく、切なく、どうしようもない感情が燃え広がってしまう。

「あの……また闘ってくださいますか?」

「ああ、いつでも待っ「ざけんな!!!!!!」

ルイズの爆発が10年ぶりにサイトを直撃した。
正式な詠唱ではなかったが、実弾並みの威力だった。













デルフは赤いボロ布をツバの部分に巻きつけられ、サイトを操る能力を封印された。
何かいわくのある布キレらしい。それ以降、ほとんどしゃべることもしない。

「げ、元気出しなさいよサイト!!」

「……」

しかしデルフの封印とひきかえに、
サイトの心には致命的な爪あとが残されていた。
サイトはルイズの部屋の寝床、通称ニワトリの巣で、見事な体育座りを披露している。 

デルフは、どれだけ遠くに捨ててもその度に戻ってくる。
離れた場所に置いても、眼を放すたびに少しずつ近づいてくる。
その演出のウザさも、サイトの鉄の精神を着実に削っていった。

「……フッ」

失笑も、底の見えない深遠な自嘲と化している。
極端な所は昔のサイトと同じだが、これではいくらなんでもあんまりだ。

アンとの戦いの後、サイトは『我等のフン』という写実的な称号を捧げられた。
しかもアンが『我等のフン・二号』であるから、つまる所サイトは栄光の一号である。
塾生らの間ではまことしやかに『近づくとV3に改造される』との噂まで飛び交っている。

「……ねえサイト、毒手はデルフの技なの?サイトの技なの?」

サイトの背中が、ビクンッと痙攣した。

「ご、ごめん!!何でもないの!!」

今日の出来事は少年にとって、最も苦しい試練だった。
しかし、あの苦しい修行の日々に比べれば。

そうだ。こんなことで負けてたまるか――――
今度こそルイズを守り抜く為に、自分は帰ってきたのだから――――

サイトは眼をつぶり、新たに歩んだ10年を思い返す。

鍛えてくれと頼んだあの日から、両親はありとあらゆる武術をサイトに教えてくれた。
冴えないサラリーマンだと思っていた父に、そんな側面があったことは感動だった。
サイトの成長の話題が出来たと喜んでくれた母の笑顔は、今も心に輝かしい。

貧乏なのに、いつも土産を買って帰って来てくれた父さん。
父とサイトが喜ぶのを、何より喜んだ母さん。

「……心配かけたな、ルイズ。もう、大丈夫だ」

「サイト……」

サイトは窓辺に行き、かすかにアゴをあげた。

やはり空が、一番あの両親を思い出させてくれる。
サイトは双月の浮かぶ夜空を眺めながら、いつも飛行帽をかぶっていた家族へと思いを馳せた。











翌日。

「よーし全員そろっとるな!!では本日の授業を始める!!」

「押忍!!教官殿!!」

「なんじゃい!!」

「押忍!!ギーシュの奴がまだ来ておりま「はい、じゃあ教科書73ページ開いてー」


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