<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

SS投稿掲示板


[広告]


No.38354の一覧
[0] 暁!!貴族塾!!【ゼロの使い魔 X 宮下あきら作品】[コールベール](2013/08/26 18:59)
[1] 第1話「転生!!もう一つの世界!!」[コールベール](2013/08/28 20:19)
[2] 第2話「名物!!異端審問!!」[コールベール](2013/09/04 19:22)
[3] 第3話「決闘!!青銅のギーシュ!!」[コールベール](2013/09/04 19:22)
[4] 第4話「妖刀!!ヤンデルフリンガー!!」[コールベール](2013/09/07 03:30)
[5] 第5話「波濤!!メイドの危機!!」[コールベール](2013/09/09 18:32)
[6] 第6話「銃士!!怒りのイーヴァルディ!!」[コールベール](2014/04/20 17:51)
[7] 第7話「散華!!閃光の襲撃!!」[コールベール](2014/05/03 06:29)
[8] 第8話「双月!!剣と涙と男と貴族!!」[コールベール](2014/05/23 15:40)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[38354] 第1話「転生!!もう一つの世界!!」
Name: コールベール◆5037c757 ID:f6102343 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/08/28 20:19
ある地球人が死に、
ハルケギニアへと転生した。

その男は、ハルケギニアでマザリーニと名付けられた。

生まれながらに数十年分の知識を持つマザリーニは、
歳若くして神童と呼びもてはやされた。

だが、彼はずっと後悔していた。

ハルケギニアには、
地球では過去の物となった難題が多く生存していた。
それらが吹き荒れる世界で、人はまるで、
無防備についばまれるのを待つ地表の芋虫だった。

地球の治水の知識があれば、あの悲劇は防げたのではないか?
地球の農耕の技術があれば、人はこれほど飢えずにすむのではないか?
なぜ、自分はもっと色々なことを学んでこなかったのだろうか?

そんな思いから、彼の学問への情熱は、人一倍強固なものとなった。
学問は世界を変えるということを、彼は誰より確信していた。

学べば学ぶほど、
彼は新たな力と、力不足とを噛み締めた。

これで、あの病に苦しむ人はいなくなるだろう。
しかし、これではまだまだ地球の医学には及ばない。

マザリーニの貪欲な知識欲は、
周囲の文官に畏れを感じさせるほどのものだった。

そして、ハルケギニアの運命が変わる日が来た。

その日、王宮に献上された『場違いな書籍』に目を通し、マザリーニは驚愕した。

『謎の文字で書かれている』というススまみれのその書は、
地球の言葉でつづられた、地球の法哲学に関するものだったのだ。

まさか――――

マザリーニは図書館に駆け込み、
『場違いな書籍』に分類される蔵書の数々を開いた。
全て、地球の言語で書かれていた。

若きマザリー二の心に、燃え盛るような使命感が産まれた。

彼は改めて、多くの地球の学問を修め直し、無数の書物を翻訳した。

訳した内容を発表するたび、
学者たちから感動の賛辞が送られた。

発表内容によっては、
異世界の存在について言及する必要もあったが、
それは大した問題にはならなかった。

ハルケギニアにも『死後の世界』のような『異世界概念』が存在していた為、
『こことは違うどこかが確かに存在する』という話は、実践的なロマンとして受け入れられた。

少しずつ、ハルケギニアが変わって行く。
マザリーニは『場違いな書籍』に人生を捧げようと決意した。

となると、ただガムシャラにそれまでの作業を続けていては効率が悪い。
まず、作業量の問題を解決する必要があった。

『場違いな書籍』はあまりに多すぎたのだ。

彼の人生の全てを費やしたとしても、
その総量の1%も翻訳できそうにない。

マザリーニは悩みに悩んだ末、地球の言語知識を、
貴族たちに広めることにした。

そうすれば翻訳と啓蒙は爆発的にその速度を速め、
彼の死後も、その作業は継続されてゆくことだろう。

ただ、その案を遂行するにあたって、
マザリーニには、一つの不安があった。

『使い道の限られた異世界の文字を、
 好き好んで学ぶ者など居るだろうか?』ということだった。

もちろんこれは、
完全に杞憂であった。

なぜなら『場違いな書籍』の収集は、
既に多くの貴族たちにより盛んに行われており、そしてそれらがエロ本だったからである。

英語と日本語が、あっという間にハルケギニアに知れ渡った。

この決断により、稀に妙な文化が流行するなどの弊害はあれど、
大局的には、おおむねが好ましい結果へと流れ着いた。

多くの『場違いな書籍』が解読された。
それらは、ハルケギニアをみるみるうちに変えていった。

科学の走りと呼び得るものがあちこちに芽生え、
人権という概念が定着し、戦争が終わり、
貴族と平民とが持つ権利の差も、少しずつなくなっていった。
両者の間に幅広く居並ぶ感情的矛先の波形も、着実にならされていった。

マザリーニは幸せだった。
学問が、世界を改善してゆく。
それに関われたことは、なんとありがたいことなのだろうか。
彼はハルケギニアに生を受けて以来、初めて、満足というものを知った。

しかしマザリーニには、大きな誤算があった。
それは、情報の性質は知識のみではないという事実の失念が一つ。

そして、もし万人に同じ知識を与える情報があったとしても、
万人に同じ精神状態を与える情報は存在しえないということだ。

例えば、ハルケギニアでは『魔法恐怖症』という文化依存症候群が珍しくない。
メイジ、非メイジに関わらず発症し、命に関わる症状を心身に引き起こす。
この病は、魔法や精霊や、そういったものが実在する世界特有のものだ。

そもそも、自然現象に神や霊を見出した上で恐怖を感じることは、
人の心を一瞬で崩壊させるほどのストレスなのだ。

古くは日本でも、
自然災害を一目見ただけで気を狂わせる人が今よりも多かった。
そこに神からの圧倒的な断罪を実感してしまうからだ。

ならばもしも、今の地球に魔法世界の実在が知れれば、
それが果たしてどれほどの混乱を引き起こすか――――――

そのことを逆に想像してもらえれば、
地球の情報がハルケギニアにとって、
尋常ならざる猛威となりうることも理解してもらえるだろう。

ともあれマザリーニは結果的に、
そういうレベルの破戒文章たちまでもを導いてしまった。

しかも最も恐るべきことには、
それらの中に、不条理と証明性を兼ね備えた、
パラドクスの申し子とでも言うべき魔書群が含まれていたのだ。

人はそれを『ミンメーショボー』と呼んだ。







ハルケギニアは、変わり過ぎた―――――

時は流れ―――――















第1話「転生!!もう一つの世界!!」


『総員構え!!突撃いいいいいいいいいいい!!』

怒号とともに、
竹ヤリを構えた年若い兵士らが前進してゆく。

『死ねい!!貴様ら!!“生きること”に慣れるな!!
 それを当たり前だと思うな!!思った瞬間何かが壊れる!!』

頭の禿げ上がった炎メイジが、さらに激を重ねた。
少年兵らが『鬼畜ゲルマニア』と貼り札された巻きわらに竹ヤリをつきたてる。

――――魔導機には、そんな古めかしい軍事訓練の映像が映し出されていた。

ここはトリスタニアの郊外にある、
打ち捨てられたほったて小屋。

「ほぉ、随分と懐かしい光景ですな」

その中で、場に似つかわしくない老齢の役人たちが、
かつて自らも体験した映像を眺めている。

「突撃訓練ですな」

「フフフ、私も戦時中は散々やらされたものですよ」

映像の中では、教官らしきハゲ頭が大きな杖を振り回しながら叫んでいた。

『コワッパども!!戦に慣れろ!!殺し合いに慣れろ!!“死”に慣れろ!!』

現在の平和なトリステインでは考えられない、前近代的な映像であった。
それを見ながら、役人の一人が、顔をしかめてつぶやいた。

「ひどい時代でした。貴族は特権にあぐらをかき、民は自由も人権も認められず、
 そして多くの若者たちが戦場へと散っていった」

「……あのようなことは、二度とあってはならないのです」

彼らは戦時の日々を、読み解くようにしみじみ思い返した。
やがて一人が、頃合を見計らって口を開いた。

「……ところで枢機卿。なぜこんな古い映像を我々に見せるのです?
 それもこんな場所で、緊急召集まで開いて」

老いたマザリーニは、体をわななかせながら答えた。

「む、昔ではない……!!これは今なのだ……!!」

「……はい?」

「あの、おっしゃる意味が……」

会議室を、わけのわからない緊張が包み込んだ。

「この映像は昨日、我が手の者が『やつら』を盗み撮りしてきたものだ。
 え、映像をよく見てみたまえ……」

役人らは、もう一度映像に視線をやった。


『貴族塾をなめとんのかー!!留年させるどワレー!!』

『もっと派手に効果音ならさんかコラァー!!
 ぴぴるぴるぴるぴぴるぴーじゃねえ!!ズガガガガガガガ!!だろがー!!』


「なっ……!!」

「こ、これは……!!」

細部に注意して映像を観察してみると、本物に見えていた獣人やドラゴンは全て、
できの悪いコスプレや着ぐるみばかりではないか。

マザリーニは、震える声で怒りを露にし、

「トリステイン貴族塾……!!このザマを見てもらえば分かるだろう。
 奴らはミンメーショボーを集めておると見て間違いない。
 あれは、この世界にあっていいものではないのだ!!」

合図を送るように、その指を鳴らした。

暗闇の中からぞろぞろと、ガラの悪い男らが現れた。
一目で傭兵と分かる独特の荒々しさから、役人たちは、自分らがここに居る理由を悟った。
口裏合わせと、暴力集団に対し、権威的圧力を演出するためだ。

傭兵の中の一人、顔の左半分を火傷で覆った男が、下品な笑みを浮かべながら口を開いた。

「本当にいいのかい、枢機卿さんよ?」

「かまわん!!好きなだけ暴れて来るがいい!!『白炎』よ!!」

「……せいぜい楽しませてもらうさ」

「待て、白炎とやら。貴様、ずいぶんな口の利き方だが、それに見合うほどの腕はあるのか?」

役人の一人が、たまりかねるという素振りで口をはさんだ。
ただ荒事にウブなだけの役人として振舞うわけにいかぬが為の、半ば儀礼的なものだ。

「ああ?」

「ためさせてもらうぞ」

唐突に室内の明かりが消え、
短く、かすかな風切り音が走る。

もう一度明かりが灯ると、そこには、
スローイングナイフを頭の横で受け止めた『白炎』の姿があった。

「腕は確かなようだな。いいだろう、行け」

「ふん、スポンサー様のプライドまで値段の内とはな。面倒臭ぇ世の中だぜ」










所変わってここはトリステイン貴族塾。
国中の荒くれ学生が集められた私塾である。

学ランにマントを羽織った塾生らがその校庭に整列し、塾訓を斉唱している。
誰も彼も、射抜くように強烈な眼光を放っている。

「ひとつ、貴族は!!忠節を尽くすべし!!」

「ひとつ、貴族は!!質素を旨とすべし!!」

「ひとつ、貴族は!!武勇を尊ぶべし!!」

それが終わるのを待ち、
教官、コルベールがダミ声で叫んだ。

「モンモランシー二号生、前に出いーーーー!!」

「オッス!!モンモランシー二号生、前に出るであります!!」

「歯を食いしばれ」

「オッス!!モンモランシー二号生、歯を食いしばるであります!!」

鬼ハゲの二つ名で通るコルベールは、
その名に恥じぬ形相でモンモランシーを睨み付けた。

「貴様、なんで修正食らうか分かっとろうな?」

「オッス!!自分はなんで修正食らうか分からないであります!!」

「分からねぇだと……?貴様、今朝便所でクソたれながら歌っていた歌、ここでもう一度やってみろや」

「オッス!!モンモランシー二号生、はばかりながら歌わしてもらうであります!!」

モンモランシーは胸の前でそっと手を組むと、朗らかな声音で歌い始めた。

「遠く~、霞んだ~、道程の記憶はもげがががが!!」

その口に、鬼ハゲの杖がぶちこまれる。
モンモランシーの差し歯がはじけとんだ。

「このタコがー!!萌えだかベルカ式だか知らねえがそんな敵性音楽歌ってどうするかーー!!
 やつらの音楽には脳みそと根性と作画を腐らせる音波がはいっとるんぞーー!!」

コルベールは容赦なく、さらにモンモランシーを打ち据えた。

「ええか!!この塾で歌っていいのは国歌と塾歌と賛美歌だけだ!!これは伝統だ!!例外は認めん!!」

「ハ、ハイ!!」

「『ハイ』じゃねえ!!貴族の返事は『押忍』の一語だ!!
 てめぇ耳クソほじくったことねえのか?!何べん同じこと言わせる気だ!!」

「オオオオ、オッス!!失礼しました!!オス!!」

「よーし、戻れい!!」

散々に殴られたモンモランシーがどうにか立ち上がり、列に戻ると、
また別の教官が生徒らの前に歩み出た。

「おーし、次はこれだ」

疾風の二つ名で知られるその教官は、
生徒らの前で可愛らしいパンティーを頭上に掲げて見せた。
そしてそれをクンクンと嗅ぎながら、爬虫類のように薄く口を開く。

「これは誰のだ?今朝、貴様らの寮の見周りで見つけたものだ」

場に、乾いた静寂が満ちた。

「当塾では、フンドシ以外の着用は禁止しておる。
 誰だ?こんなスケスケをはいておる軟弱者は?覚えのある者は前に出ろ」

その問いに答える者は居ない。
疾風のギトーの表情に、酷薄な笑みが浮かんだ。

「……そうか、お前ら私をなめとるな?それならコレで聞いてみるか」

スラリと、軍杖が抜かれた。
油に塗れたような冷徹な輝きを目にし、皆の顔色が変わった。

生徒らが小声で危機を伝え合う。

「……まずいぞ」

「ああ……。ギトーのやつ、一度杖を抜いたら血を見るまでおさまらねえ……」

ギトーは生贄たちの焦燥の気配に満足しながら、ベロリと杖を舐めた。

「風風風(フフフ)……、いくぜぇ……!!」

と、その時、

「俺のだよ」

学生らの中から、泰然と名乗り出る者が居た。
青い服を着た少年だった。

平民であるらしく、マントをつけず、巨大な日本刀を斜めに背負っている。
黒髪をたたえた頭には、白いハチマキを巻いている。
涼やかながらも、攻撃的な落ち着きを漂わせる笑顔だった。

「ちょっ、サイト!!あれあたしの……」

「フッ、いいってことよ」

「全然よくない!!て言うか……」

何かを言おうとした桃髪の少女を遮り、
サイトと呼ばれたその少年は再び申告した。

「それはオレんだぜ」

獲物を目にしたギトーの体に、いっそうの殺気がみなぎった。

「貴様、使い魔の……。お前がこれをはいてたってのか……?」

「ああ」

「いい度胸だ。この絶対封建主義の魔法塾で、よりによって使い魔が貴族をおちょくろうとはな……」

「フッ」

ギトーが、杖でサイトのほほをペタペタとなぶる。

「確か貴様の飼い主……ルイズはモット伯の愛人だったな?
 どんな気分だ、そんなご主人様に尻尾を振る気分は?」

それを耳にしたルイズが、サイトの背後で悔しそうに歯噛みした。
しかしサイトは、動じない。ギトーの声に、攻撃的な音色が強まってゆく。

「おう、お前それでも男か?悔しくねえのか?」

「どうってことねえさ。本当のことだからな」

「……チッ、まあいい。今日は貴様らに面白い趣向を用意してやった。おう、鬼ハゲ」

二つ名を呼ばれたコルベールが後を引き継ぐ。

「ククク……。清聴!!今日は『直進行軍の儀』を執り行う!!」

「直進……行軍……?」

「なあに、簡単さ。オレの決める方向に、ただ真っ直ぐ進めばいいのよ。
 『何があっても真っ直ぐ進む』だけさ!!ぐふ、ぐふふふふ……」













トリスタニアの、とある木賃宿。
ベッドの中、木綿の薄い布団を頭からかぶり、
湧き上がる震えを押し殺す男が居た。

「お、恐ろしい……」

どうしてこんなことになってしまったのだろうか。
なぜ自分は、あんなことを……。

絵空事のようにしか聞こえないあのお方の計画は、
常に微塵の破綻も見せず、いとも着々と進んでしまう。
そのカナメに居ることが、途方もなく恐ろしい。

「このままでは本当に……」

男は、握り締めた手からこぼれる光を見ずにすむよう、
それを腹に抱え込んだ。

「このままでは本当に王になってしまうではないか……」

手中にしたアンドバリの指輪の、なんとおぞましいことか。
世界がほんの少数の悪意で、なんとたやすく弄ばれることか。
そしてその巨大な流れの中心に居ることの、なんと現実離れした恐怖であることか。

「恐ろしい……」

男がおののいていると、突如、安宿の壁が轟音とともに粉砕された。
壁の破片が布団の男、オリヴァー・クロムウェルに降り注ぐ。

「ひいいいいいいいい!!」

クロムウェルが布団からにゅっと頭を出すと、
崩れ落ちた壁の向こうから、男性ホルモンが変な革命を起こしたような、
極端に人相の悪い集団がバコバコと行進してきた。貴族塾の学生たちである。

「ななな、なんの冗談……」

その先は言葉にならなかった。

「はが?!ぐっ!!や、やめっ!!あふん!!」

攻城兵器のような勢いで、その集団はクロムウェルを踏み潰してゆく。
行進は、クロムウェルが動かなくなってからも続いた。

やがて一行は、ボロ雑巾のようなクロムウェルと、粉々に砕かれた指輪を後に残し、
また反対側の壁を破壊して去って行った。











ここは人気のまばらな劇場。
その客席で、貴族風の男と商人風の男が密談をしている。

「しかし芝居小屋で落ち合うとは、考えましたな」

「ここでは、ヒソヒソ話があたりまえですからな。
 それにこんな場所で密会とは、おてんとさんでも分かりやしますまい」

「それでは連判状、確かに頂戴しました。
 リッシュモン様の名がここにあれば、もはや廃杖令は可決も同然に御座いますれば」

「お主もワルよのう、ククククク……」

二人の悪党が流儀臭い悦に浸っていると、劇場の壁の一部が吹き飛んだ。
その瓦礫の山を乗り越えて、破格の凶暴性を撒き散らしながら、
見るからに迷惑な感じの行列が突進してくる。貴族塾であった。

「なあ?!」

「な、なんだ貴様らは?!止まれ!!」

行列は木製の座席を踏み砕きながら、リッシュモンと商人風に、
真っ直ぐ、ただただ真っ直ぐ、怒れるカバの群れが如く突っ込んでいった。

「い、一体なんの……ぐあああああああああ!!」

その肉の濁流は、リッシュモンと商人風を見る間に床の染みに変えると
それを一顧だにせず過ぎ去っていった。

間もなく、鎧姿の女性らがそこに現れた。
前髪を切りそろえた、金髪の女性に指揮されている。

「銃士隊だ!!何の騒ぎ……む?これは……」

そこにヒラヒラと、
リッシュモン高等法院長の名前入り連判状が舞い落ちた。











コルベールは焦っていた。

ここの暮らしに慣れていないサイトは、
どうせすぐにネをあげるだろう――――

そうタカをくくっていたが、
その平民は彼の予想に反し、疲労の気配は見せども、一向に諦める様子を見せない。

なかなか根性はあるようだが、しかし――――

「このままじゃあ、またエキューを持ってかれちまうな……」

コルベールは、サイトがどのあたりで脱落するかを他の教官らと賭けていた。
そろそろサイトが降参してくれなければ、コルベールの負けが確定してしまう。

「……よし、全体止まれーー!!」

一行はその号令に従い、大きな岩山の前でピタリと静止した。
行列が面した岩肌には、分厚い赤錆が浮いた、扉と思われる、
高さ3メイル、幅2メイルほどの鉄板がはめ込まれている。

「ここから先はサイト一人で行け!!他のものは裏に回れ!!駆け足!!」












「あらよっ」

爆音をたて、金属の扉が打ち破られた。
大木槌一つで岩山に乗り込んだサイトだったが、予期せぬ悪臭に思わず顔をしかめた。

濃厚な獣臭だった。

「なんだ、ここは?」

奥へ進むと、やがて広間と呼べそうな場所が見えた。
岩や木材で作られた粗野な家具がならんでいる。

そこからジャラジャラと、聞きなれた音が聞こえた。
そちらへさらに進み、目をこらすと、イレズミだらけの野人らが麻雀を打っていた。
他にも、棍棒に石を打ち込んでいるものや、何かの生肉をかじっているものなど、
少なくとも10数匹は居ると見てよさそうだ。

「ブキィィィィィ!!」

「ブキィ!!ブキィィィィ!!」

その身は、人間の大人よりも一回り大きい。
頭部は擬人化した豚の様相を呈しており、
薄緑色の皮膚の下に詰め込まれた筋肉が、その戦闘能力を物語っている。
オークである。

「やってくれるぜ鬼ハゲの野郎……。まさかヤっちゃん(野人)のおうちとはな……」

侵入者に気づいたオークらは、手に手に武器を持つと、
怒りの声を上げてサイトに襲い掛かった。

「ブキィイイイイイイイイイ!!」

「何言ってるかわからねえよ」

半身に構えるサイトの型の流れにそって、
オークがサバキ投げ飛ばされる。

その獣人は、取り落とした獲物を拾いなおそうとして、
しかし、利き腕の手首が外されている事に気づいた。
おぞましい悲鳴が洞窟を震わせる。

「ブキョアアアアアアアアア?!」

「フッ……、オークは大人しく姫騎士でもさらっとれや」










「こ、これは……」

「オークの巣……」

「最近ここらの村々を襲っているとかいう……」

巣の裏側に回りこんだ塾生らは、
サイトが乗り込んだ場所の正体を知り、顔色を失っていた。

反して喜色満面の鬼ハゲが、喜びの雄たけびを上げる。

「そうじゃ!!歴戦の傭兵も避けて歩くという、あの魔人どもよ!!
 ガーハハハハハハ!!貴族塾ででかいツラさらす奴はこうなるんじゃあ!!」

その笑いを遮るように、強烈な破壊音が轟いた。
崩れ落ちた裏口に、もうもうと煙がたちこめる。
その中から、ゲタの音とかすみ揺れる人影が近づいてくる。
果たしてそれは、平賀サイトその人であった。

「サイトー!!」

「ワレ生きとったかー!!」

塾生らが口々に喜びの声を上げた。

全身血まみれになりながらも、
体中にドスをつき立てられながらも、サイトの柔らかな微笑は微塵も崩れていない。

と、異世界の平民の背に、見慣れぬ人物が背負われていることに皆気づいた。
長い間、下手をすれば年単位で手入れのされていない髪を、雑に後ろで束ねた男性だった。
表情に張り付いた疲労の層のせいで、年齢は推測しがたい。
サイトの肩口から垂れ下がる腕は、棒のように痩せ細っている。

「サイト。そのオッサンは誰だ?」

「さあな。中で座敷牢に閉じ込められていたのを連れてきたんだが、
 何を聞いても『思い出せない』の一点張りだ」

「えらいしんどそうやけど、大丈夫なんか?」

しばらくはそんな学生らの会話を黙って聞いていたコルベールだったが、
やがて、むぅと唸ると、彼なりに穏やかな調子でその男に話しかけた。

「よう、オッサン。名前はなんと言う?」

「名前はチュ……チュレ……だめです。やはり思い出せません……」

そう語る彼の体は、痩せこけてはいるが、頬に不自然なほどの皮が垂れていた。
贅肉で太った体が、短期間で急激に痩せるとそんな体になる。
没落してゆく貴族らに、よく見られる特徴だった。

「酷い話じゃ。オークどもによほどの仕打ちを受けたんじゃろうな」

「……いえ、私があそこでオークどもにこき使われ始めた時には、
 もうそれ以前の記憶を失っていました……」

「調べさせてもらうぞ」

コルベールは、相手の返事を待たずにディテクトマジックを唱えた。
結果は、彼がある程度予測していた通りだった。
そのチュレ某は、それなりに高位のメイジであるようだ。

このオッサン、何か余計なことを知りすぎたか、あるいは――――――

「早過ぎる知識……。いや、やはりこれだけじゃあ何もわからんな。
 まあいい、ブリジット。義をみてなんとやらだ。このオッサン、塾の医務室まで連れてったれや」

「押忍!!」












薄暗い部屋の壁が、何の予兆もなく破壊された。
そこに、もはや手馴れた風に入り込んでゆく貴族塾の一堂。

室内には、戦闘経験の豊富な男らが大勢居た。
彼らは敵の襲来を認識し、その認識は戦闘開始の即断に直結する。

彼我に、魔法が飛び交った。
一瞬にして戦場が出来上がった。

「な、なんてことだ……」

もとから室内に居た、やせた男の顔に絶望的な表情が浮かんだ。

「打って出んとした矢先に……、先手を打ってきたか、貴族塾め……!!」

そのやせた男、マザリーニは、
貴族塾の中から指導者らしきハゲた男を見つけると、
混戦の中を掻き分けてそちらに歩み寄り、大声を上げた。

「貴様ら!!時代錯誤の教育で何を企んでおる?!
 貴様らのやっていることは、明らかに現体制への挑戦だぞ!!」

「ふん、てめぇらの言う自由やら人権やらでどんなガキが育った?
 胃袋とキンタマだけみてぇなガキばかりじゃねえか」

「キンタ……?!じじじ、自分の言っていることが分かっているのか貴様は?!」

「押忍、先生、横から失礼します。こいつは自分が」

マザリーニとコルベールの間に、サイトが割って入った。
鬼ハゲにすら有無をいわせぬ気配を漂わせている。
不遜とも傲慢ともふてぶてしさとも違う、若々しい気迫だった。

「あんたの言ってることは正しいんだろうぜ。でもよ……」

そう語る少年の眼を、マザリーニは見た。
まるで、これから突きたてられる切っ先の向こうにある眼を見たようだった。
言葉が、出ない。

「いや、ベラベラ話して聞かせるようなモンじゃねえなわな」

身をすくませるマザリーニの頬ゲタに、渾身の拳打がめり込んだ。
重厚な一撃だった。

「ほーう、やはりいいパンチ持っとるのう」

殴り飛ばされるマザリーニを眺めながら、
コルベールが感嘆の唸りをあげた。

そのやり取りを聞いていた白炎のメンヌヴィルが、
はじけたように驚愕の表情を浮かべる。

「おお……、お前は!!お前は!!お前は!!探し求めた温度ではないか!!
 お前は!!お前はコルベール!!懐かしいな!!お前は裏切り者コルベール!!
 いや、ここはやはりダングルテールの守護火聖サマとでも呼ぶべきかな?!
 ククククク!!覚えているか?!俺は忘れぬぞ!!あの日、貴様のせいで我が光と……」

「長いわっ!!発情期の猫かオドレは!!
 セリフで首くくって死ね!!ウル・カノ・ダイオウジョーー!!」

「ぬおっ?!」

コルベールの背中から炎の腕が無数に生え、その拳がメンヌヴィルに降り注ぐ。
ドット魔法『マギ・ハンズ』に火の二乗を加えた、火・火・漢から成る、
筋肉経由のオリジナル魔法だ。

「ぐああああああああああああ!!」


~~~~~~~~~~~~~ マギ・ハンズの解説 ~~~~~~~~~~~~~

チキューの学問は、ブリミル教の衰退を招くなど、人文的な問題を多く抱えているが、
不可知論と魔術性でもって議論されて来た多くの課題を演繹的に解き明かすに至ったことは、
やはり大きな功績と言えよう。

この魔法、マギ・ハンズも、幻肢痛(無くした手足に存在感や痛みを感じる症状)に、
再度ブリミル神秘主義を与えんとした試みからの逆説的産物である。

その要諦は、幻肢痛が心の誤作動故であるなら、
肉と心と魔力の式次第で、後から増設した器官にも意識を通わせられるはずだと、
モット伯という男のヒワイな情熱により、いともたやすく達成された。

しかしその後、凶暴化してゆくモット伯の性格の変化から、
魔術的な心の鍛錬は脳を物理的に変質させると暫定され、今では禁呪に指定されている。

尚、近年、すぐに手が出る暴力的な女性を指し、
『モット伯の愛人』と呼んで中傷するのを誰しも耳にしたことがあるであろうが、
それがこの魔法から来ていることは今更言うまでもあるまい。

・アカデミーレポート 『廃用神 ~廃神回収の分別~』より。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


メンヌヴィルを包んで立ち上るワキガ臭い業火は、周囲の傭兵にも降り注いだ。
歴戦の傭兵たちですら、かなり本気で逃げ惑う威力だった。

しかしその中に、目ざとい男が居た。

彼は貴族塾塾生らの中に、一人の華奢な女生徒を見つけ、
彼女を羽交い絞めにして叫んだ。

「そこまでだ!!動くんじゃねぇゴンダクレども!!」

その女生徒は動じることなく叫び返す。

「誰を相手にはしゃいでけつかるドサンピン!!
 伊達や酔狂でこんな髪型してんじゃねぇんだ!!」

女生徒、モンモランシーの、
固定化がかけられたモミアゲが高速回転し、傭兵の腕を鉄甲ごと打ち貫いた。

「ぐおあああああああああああ!!」

彼らの悲鳴を押しつぶすように、
コルベールがテキパキと指令を下してゆく。

「ルイズは証拠品を爆破!!シエスタは『場違いな書籍』の回収!!
 テファは亡国のボケどもにきっちり『忘却』かましとけい!!」

「「「押忍!!」」」

「生きて帰れる思っとんのかこのインケツどもが!!」

傭兵の側から風魔法が唱えられた。
即座に、レイナールが口語で

「おうよ、思とるわい!!なんなら生きて帰って屁たれてからもっぺん来たろか?!
 そん時ゃその腐ったドタマとオタマまとめてカチ割って中身ぃションベンでドブ川まで流したるさけの!!」

と呪文を高速詠唱し、コモンマジックで風をかき消す。

~~~~~~~~~~~~~~ 口語詠唱について ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ハルケギニアにも元来から口語詠唱は存在したが、
センテンスの組み方は既にロストテクノロジーとなっており、
文言もまた、時代を経るごとに擬古典化していった。これではルーン詠唱と変わらない。

そこで着目されたのがチキューの『プログラミング』なる学問である。
ハルケギニアでは、完全論証が可能な学問は数学のみとされてきたが、
チキューでは、数学同様に人工言語を扱うプログラミングもまた完全論証が可能であるという。

『コムプタール』が再現できぬため、
プログラミングそのものを発現させることはできないが、
一字一字にホトッケーが宿るというチキュー文字と単語、
そしてプログラミングの設計思想とを魔術的に再構成することによって、
アカデミーは新たな口語詠唱様式を完成させた。

ただ、多くの未翻訳の単語や文字が意味も分からないまま使われているため、
もはや自分で何を言っているのか分からなくなるなどの課題も残っている。

アカデミーレポート「外来語の変遷法則 ~コトダマの国 HENTAI~」より

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「年季の違いを思い知れや三下戦争屋!!」

「オドレが年季と髪と子種の薄さまとめて思い知れやハゲロートル!!」

「なんでここにハギス野朗がおるんじゃ!!おどれらの島(シマ)はアルビオンじゃろが!!」

「知るか!!ただのセイガクがのぼせんなや!!キンタマプレスしてエビセンにはさんで食うたろか!!」

「ボケー!!タダほど怖いもんはないんじゃい!!」

激しい戦闘は、いつ終わるともなく続いた。
ハルケギニアは、変わり果てていた。












~~~ マザリーニからの手紙 ~~~

親愛なる女王陛下へ。

女王陛下の治世にあって、
かくも麗しきこの栄華永興に、
いささかとも言えぬものながら、
是非に申し上げたき儀ありてこの書をしたため候。

世にミンメーショボーと言うは、
忘我の勇猛をいたずらに尚武と喝采する風潮たりて、
甘く文明の不思議と捨ておかば、
是かつての貴族至上主義の火種となるに疑いの論を待たず、
けだし必ずや有害図書として焚書に処さるべきシロモノ――――

そう考えていた時期が私にもありました。
私は小鳥ピーヨピヨピヨピヨ。


前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.021636009216309