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No.38190の一覧
[0] 【禁書目録SS】新約・這いよる定規さん[マイン](2013/09/20 20:07)
[1] 第二話[マイン](2013/08/07 18:58)
[2] 第三話[マイン](2013/08/15 21:39)
[3] 第四話[マイン](2013/08/25 21:20)
[4] 第五話[マイン](2013/09/05 02:04)
[5] 第六話[マイン](2013/09/02 13:42)
[6] 第七話[マイン](2013/09/05 02:01)
[7] 第八話[マイン](2013/09/09 19:20)
[8] 第九話[マイン](2013/09/13 14:12)
[9] 第十話[マイン](2013/09/16 22:14)
[10] 第十一話[マイン](2013/09/20 20:07)
[11] 第十二話[マイン](2013/09/23 19:26)
[12] 第十三話[マイン](2013/09/29 20:38)
[13] 第十四話[マイン](2013/10/19 21:48)
[14] 第十五話[マイン](2013/10/05 14:25)
[15] 第十六話[マイン](2013/10/08 20:46)
[16] 第十七話[マイン](2013/10/11 20:14)
[17] 第十八話[マイン](2013/10/14 20:25)
[18] 第十九話[マイン](2013/10/17 20:57)
[19] 第二十話[マイン](2013/10/19 21:50)
[20] 第二十一話[マイン](2013/10/24 20:52)
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[38190] 【禁書目録SS】新約・這いよる定規さん
Name: マイン◆a0b30d9b ID:414172c1 次を表示する
Date: 2013/09/20 20:07
「――相変わらず素晴らしいね、君の能力は」
「そうかい。ありがとよ」
ガラスの向こう、スピーカー越しに聞こえた顔色の悪い、眼鏡を掛けた白衣の男の賞賛の言葉に、彼はそっけなく応えた。
「ああ、本当に。脳を3等分に切り分けて試験管に詰めて一日中観察していたいくらいだ」
「そりゃごめんだ」
「残念だ」
毎日のように交わされるやりとりだったのだろう、言葉とは裏腹にそれ程残念そうな様子は見せず、白衣の男は実験室のロックを解除した。
「ご苦労だったね。今日の実験は終了だ。また明日もよろしく頼むよ」
「……」
最初から最後までガラス越し、スピーカー越しにしか会話のないまま、白衣の男の姿は見えなくなった。
それをぼーっと見送ると、残された彼は肩を回して凝りをほぐす。
「……はあ、帰るか」
溜め息と共に呟いて、彼は部屋を出て、研究所の廊下を歩いていく。今日もまた、誰ともすれ違うことはなかった。

「あー……コンビニ寄って行くか」
研究所の外に出て、さも今思いついたかのように呟いたが、実験帰りのコンビニは二日に一度は寄る、お決まりのコースだった。住んでいる学生寮までにコンビニは3件、今日は2件目だな、と一昨日のことを思い出してそう決める。
「――コンビニよりも」
「あ?」
そうしていつもの帰宅ルートを歩き始めた彼に掛かる声があった。
「たまにはファミレスで夕飯はどうかしら?」
「……はあ?」
金色の髪。赤く、丈の短いドレス。彼よりも頭2つ3つ程低い身長。しかし大人びた妖艶な雰囲気を漂わせる少女が、彼の背後に立っていた。











学園都市
230万人の人間を抱え、学生たちの脳を皹開発しているこの街。
その頂点とも言える七人の超能力者。

そして、その七人の超能力者の中で、つまりは学園都市の学生全員の中で、第二位を冠する人物が居た。

姓は垣根
名は帝督

能力の名は、未元物質(ダークマター)

この世に存在しない物質を生み出し(或いは引き出し)、操作する能力。

「――なんだが、勘違いされやすいことに俺は未元物質を操作してはいるが、あくまで操作できるのは未元物質だけで、それによって生じる既存の物質、現象の変質自体を操作できるわけじゃねえ。取捨選択は出来るがな」
「ふう――ん?」
「つまりはよ、俺の能力自体は大したことはあるが、大したことねえんだよ」
「矛盾してるわよ、それ」
少女が呆れたように言う。
「俺は能力を発現した時からレベル5だった。第三位のようにレベル1から這い上がったわけじゃねえし、第一位のように実験の繰り返しで能力に反射やら操作やらって幅を利かせていったわけでもねえ。能力が発現した日から何も俺は変わってねえ」
学園都市の、超能力者の順位というのは戦闘能力だけではない。
応用がどれだけ利くか、どれだけ有用か――に重点が置かれている。
「要するに、この世に存在しない物質を扱う俺の能力ってのは学園都市にとってもブラックボックスだらけなのさ。未元物質自体は人類にとっては全く未知の物質で、用途なんて掃いて捨てるほどあるだろうが」
けどな、と帝督は一旦言葉を切った。
「同時にどう扱っていいのか分からねーんだ。俺の未元物質は全くの未知――どこにでもある酸素や窒素が毒ガスに変わるかもしれねえし、固体に変わるかもしれねえ。そんなもんには学園都市も流石に迂闊に手を出すことが出来ない」
「だから、なのね。あなたが一応の自由を得ているのは」
「そういうこった。俺だって未元物質の性質全てを把握してるわけじゃない。いくら実験を繰り返してても、試すことの出来てないもんだってあるしな。もし未元物質の性質を完全に把握してたら、今頃未元物質を出し続けるだけの機械にさせられてただろうよ」
嘆息。
有り得たかもしれない未来に心を馳せ、そして今という現実に安堵した――フリをした。
「――で、だ」
「何かしら?」
「そろそろ交代といこうぜ、お嬢さんよ。次はお前のターンだ」
「心理定規(メジャーハート)、よ。未元物質」
「垣根帝督、だ。心理定規」
「知ってるわ」
「なら言わせんな」
「それは失礼。殿方の事を名前で呼ぶのが恥ずかしくて」
「いきなり逆ナンしてきてそういうこと言うか?」
「逆ナンだなんてそんな。ただ良い財布だと思って声を掛けただけよ」
「……おい」
「冗談よ。それで、帝督」
初対面の人間にこの態度とかナメてんのかこら、しかもいきなり名前呼び捨てかよと彼――垣根帝督は思った。が、口にはしない。彼女――心理定規の瞳が真剣な光を灯していたからだ。周囲の喧騒を忘れ、その瞳を吸い込まれるように見入ってしまう。
「――ケチャップ、ついてるわよ」
「へ? ――むぐっ」
見つめあったまま、片手で紙ナプキンを取り、心理定規は帝督の唇の辺りを拭った。
「恰好がつかないわね、学園都市の第二位ともあろう男が」
「ん……ぷはっ……第二位なんて言っても女子中学生より順位が一個上ってだけだ。つける格好なんてねえよ」
「恰好つかないわね、大の男が」
「……うるせえよ」
少し頬を赤らめ、帝督が心理定規の手を振り払った。
「そもそも大の男がファミレスでオムライスという時点でどうなのかしら」
「ほっとけ。たまにはふんわり卵が食いたかったんだ」
「正直コンビニと大差ないと思うけど」
「馬鹿野郎。「温めますか?」って聞かれるまでもなく温かい飯が出てくるだけで大違いだ」
「あなた、コンビニでも「温めておきますね~」って言われるくらい通ってるじゃない」
「………え、なに、お前ストーカー?」
「はっ、自惚れないでホスト被れが」
「ええー……」
初対面の少女の辛辣な物言いにぶつぶつと呟く帝督だったが、心理定規は気にする素振りも見せない。
「え、なに、店のマネキンが着てた服一式なのに? ホスト風の服をあんな大っぴらに飾ってたのかあの店? それともあの美容師の兄ちゃんか? おまかせでって言ったらホスト風にされっちゃったの俺? それとも母ちゃん? 母ちゃんがホスト風に俺を産んじゃったの?」
「ぶつぶつうるさいわよ。囁くなら店に来た女の子相手に囁いてなさい」
と思ったが予想以上に帝督がぼやき続けるので再び厳しい言葉でそれを黙らせる。
「……で、結局何の用で、何者なんだよお前は」
「つれないのね。二年ぶりの再会だと言うのに」
「……?」
「おっと、それは別の世界線の話だったかしら」
「お前、頭大丈夫か……?」
「失礼ね。呪うわよ」
「この科学の街で何を言ってるんだっつーの」
「あら、この街でもおまじないは女の子に人気なのよ?」
「そうかい――茶化すのはいい加減やめろ。お前の目的は何だ?」
今度は帝督の瞳が真剣みを帯びる番だった。先程までの醜態がなかったかのように、冷たい視線が心理定規を射抜く。
「茶化しているつもりはないのだけど、そうね。あなたとの会話が楽しくてつい本題に入るのが遅れてしまったわ」
その視線に射ぬかれて尚、心理定規の態度は変わらない。
「もっとも、あなたは私との会話を楽しんではくれなかったようだけど」
「何処の誰とも知らねえ女と呑気に雑談に花を咲かせる程、俺はお気楽じゃねえんでな」
「何処の誰とも分からない女に、自分の能力について話す程にはお気楽なようだけど?」
「そんなもん、話したところで俺には何の不都合もねえ。分かったところでどうしようもねえからな」
「本当にそうかしら?」
「あ?」
「あれだけペラペラと自分の能力について喋っておいて、私が何の対策も思いつかないと本気で思っているのかしら? だとしたら第二位とは思えない迂闊さね、未元物質」
心理定規を取り巻く雰囲気が剣呑なものに変わる。帝督と視線を正面から交差させ、目を逸らすことはない。
「――はっ、良い度胸じゃねえか。むかつくぜ、大したむかつきっぷりだ。そこまで言うんなら試してみるか? 心理定規」
笑みを浮かべながら、その瞳は笑ってはいない――いつものように。
「出来るのかしら? あなたに」
「……上等だ」
心理定規の言葉に、帝督は腰を上げた――上げようとした、しかしその動作は心理定規によって阻まれる。
「――ふふっ、黙っていたけど、まだ取れてないわよ」
先程と同じように紙ナプキンを帝督の顔に当て、優しく拭った。
「あ……?」
「ごめんなさい。失礼なことを言ったわ」
「……」
拭い終えると心理定規は小さく頭を下げ、帝督に謝罪した。
「そしてこれから、もっと失礼なことをさせてもらう」
「何を――」
「0」
「何だって?」
「垣根帝督―心理定規の距離単位は0。まるで路傍の石ころと同じ、あなたは私に対して、いえ、全ての事象に対し何の感情も抱いてはいない。好意は勿論、敵意さえも」
距離単位、という単語の意味は帝督には分からなかったが、彼女が何を言っているのかは理解できた。それはまさに――
「図星、って顔をしてるわね」
全てに無関心――それは垣根帝督という人間を端的に表す言葉だったからだ。
「お前……」
「心理定規。それが私の能力。人が他人に抱いている感情を測量する力」
「……」
「私のような小娘に好き勝手言われてもなお、あなたは私に何の感情も抱いてはいない」
「……それで? 別に路傍の石ころを蹴飛ばすのに、道端の虫けらを潰すのに感情なんてありゃしない。お前が安全って保障にはならねえぜ」
「そうね。でも、私は信じている。垣根帝督はそういう人間ではないと。虫けらを潰すことにも躊躇してしまうような、そんな人だと」
「…………いや、そこまで気にして生きてねえぞ、俺」
暫く見つめ合った後、そんなことを口にして帝督は視線を逸らし、テーブルのスイッチを押した。
「あ、コーヒーとこいつに適当に紅茶」
「申し訳ありません、当店ドリンクはセルフサービスとなっておりまして――」
「あ? そうなの? 悪い悪い」
「いえ、ご協力ありがとうございました」

「ほれ」
「あなたって感情云々の前に少し抜けてるわよね」
セルフサービスのドリンクを二つ抱えて戻って来た帝督に対し、心理定規は少し呆れたように言ってから、お礼の言葉と共にカップを受け取った。
「ほっとけ――それで、結局何の用なんだよ。俺のカウンセリングに来たってわけじゃあねえんだろ」
「スカウト」
「ああ?」
「あなたをスカウトしに来たのよ。第二位であるあなたを、ね」
「……気にいらねえな。第一位にはフラれちまったってか?」
「勘違いしないでちょうだい。私はそこまで軽い女じゃないわ」
ゆっくりと紅茶を口に含んでから、心理定規は真っ直ぐに帝督を見つめた。
「あなただからよ。一方通行でもなく、ましてや超電磁砲でもない、あなただから私は此処に居る」
「……なんでだ。何のスカウトかは知らねえが、一方通行の代わりじゃなく、俺だからって理由が分からねえ」
「第一に、金で動く人間は信用できない」
指を立て、心理定規は言う。
「その点、レベル5であるあなたはお金で動くことはないでしょう?」
「それは俺以外のヤツラでも同じだろうが。金で動く奴らなんざレベル5には居ないだろうよ」
「そうね――第二に、名誉で動く人間は信用できないわ」
「……」
「レベル5のさらに先を目指す一方通行。元々がレベル1だった超電磁砲。突き詰めればそれは名誉の為。勿論それだけじゃないでしょうけど」
「向上心溢れる若者で良いじゃねえか」
「あなたはそんなものには興味がない。一方通行に対してさえ距離単位0を保っているあなたなら、ね」
「……俺が向上心のない馬鹿だって言いたいのかよ」
「では何で動く人間なら信用できるのか、その答えがあなたよ」
「無視かよ……って、はあ? なんでそうなる。確かに俺は金やら名誉やらに興味はねえ。癪だがそこは認めてやる。金には困ってねえし、第二位って肩書きもどうでもいい。一位と三位が有名すぎて影が薄いって自覚もある。だがな、別に俺は言われたからって素直に命令を聞くロボットじゃあないんだぜ? そんな俺が、一体どんな理由で見ず知らずの女の為に動くって言うんだ」

「――愛よ」

何て事のないように、心理定規は恥ずかしげもなくその単語を口にした。

「――は?」
「愛があれば、人は誰かの為に動くことが出来る。そしてそれは他の何物よりも信用、いえ信頼できる理由になる」
「……お前よお、それ本気で言ってんのか」
「大真面目よ」
「仮にも精神関係の能力者が、愛だと? 笑わせんな」
「だからこそよ。私はこの能力で多くの人たちを見てきた。そして確信した。人は、誰かの為に動くことのできる生き物なんだと」
「……」
帝督は絶句してしまう。そんな綺麗事を臆面もなく言い切る心理定規に。帝督自身、人類に絶望しているわけではない、色々な人間が居て、様々な主義主張があって、それを認め合ったり線を引きあったりして生きていることを知っている。だからその理論も理想としては理解できるのだ。けれど、その理論を帝督に適用しようとしている少女に、帝督は絶句している。
学園都市の闇を多かれ少なかれ経験している超能力者である帝督に、
何事にも無関心で生きてきた帝督に、そんな言葉を投げかける存在に。
「だから、何で俺なんだ。お前の能力で分かるんだろ、俺がどんな人間か」
「私の心理定規は人の過去やその時の思いまで検索できるわけじゃない。だから、あなたの過去に何があったのかは知らない。想像することはできるけれど」
「……別に、そんな悲痛そうな顔で言う程の過去はねえよ。誰にも彼にも背負ってる過去とか宿命とかがあると思ったら大間違いだぞ」
「あらそうなの? てっきり何かとんでもないトラウマを抱えてるのかと思ったけど。あなたのその無関心さは過去の何かに起因するものだとばかり」
「そんなドラマみたいな展開を俺に期待すんな。それこそ俺の上か下の奴らに訊けよ。第三位なんざそれだけで本の一冊や二冊は作れそうだしな」
「確かにドラマ化もできるかもしれないわね……というか特に過去に何もなかったらあなたってその……」
「何だよ」
「……ただのぼっち?」
「おいこら人をそんな悲しい単語で表すな。うるせえよ。誰がクラス単位じゃなく都市単位のぼっちだよ」
「いえ、そこまでは言ってないけど……というか気にしてたの?」
「何事にも無関心だなんだと言ってくれたがよ、世間体ぐらいは気にするんだぞ……?」
「ああ、だから実験にも素直に通ってたのね。ニートにならない為に」
「学生はニートじゃねえよ」
「実験のおかげで登校免除になってるのに?」
「……学生やるよりは俺の性に合ってたんだよ」
「――ふふっ、少し、あなたを誤解していたみたいね」
楽しそうに笑う心理定規を余所に、帝督は不機嫌そうにそっぽを向く。
「あなたは私の想像以上に信頼できる人かもしれない」
「おい、何を……」
心理定規が少し腰を浮かせ、そっぽを向く帝督の肩に手を置いた。それに思わず顔を正面に戻すと、心理定規の顔が目の前に迫っている。
「今に分かるわ。まずは体験版から、ね」
「――――ッ!?」
帝督の心臓が跳ねた。頬は完全に上気し、目の前の心理定規から目を離せない。
「お、まえ、何を、した?」
「心理定規。私の能力は測るだけじゃなく、その距離を操作する力。今のあなたの私に対する距離単位は10。喩えるなら、そうね、好きなアイドルやクラスの気になるあの子、ってところかしら。他の人にとってはどうってことのない距離だけれど、あなたはどうかしらね?」
心理定規の言葉から耳を背けられない、心理定規の行動から、その妖艶な笑みから目を離せない。心臓は早鐘を打ち、胸が痛む。
「――あなたが望むなら、これ以上の距離を、友情を超えた愛情を体験させてあげるわ」
心理定規が帝督の耳元でそっと囁く。ゾクゾクとした感覚が帝督の背筋に走る。
「はっ、はっ、はっ――」
「息が荒いわ、それにすごい汗、緊張してるのかしら? 可愛い人」
肩に置かれた手が頬に滑る、両手で帝督の顔が優しく包むように抱えられる。
「や、め――」
さらに二人の顔は近づき、そして――
「――はい、おしまい」
「へ?」
「ここから先は製品版を購入ください、ってことよ」
あっさりと心理定規は手を放し、顔が遠ざかっていく。同時に、帝督が心理定規に抱いていた感情も霧散した。
「あ……」
「ここまでされて敵意も好意もなく、あっさりと0に戻るのもすごいわね。常時賢者タイムみたいなものなの?」
「は? 賢者?」
「気にしないで、特に意味はないわ」
ゆっくりと座り直し、もう一度紅茶を口に含む。
「それで、どうだったかしら」
「どうって、何がだ」
「さっきまで感じていたものが、感情。あなたが久しく忘れていたものよ」
「あー……? なんだ、その」
そう言われて、改めて先程までの感覚を思い出しながら心理定規を見る。
「……キャバ場とかに向いてそうな能力だな――ぶっ」
「そういうこと言う人は嫌いよ」
先程までの優雅な動作からは想像もできない速さでテーブルに置いてあった濡れタオルを帝督の顔面に投擲された。
「……訂正だ。お前に接客は向いてないわ」
「そう」
「はー……とりあえず、あれだ」
ガシガシと頭を掻きながら、帝督は口を開く。
「他の奴らはあんな風に世界が見えてんだな。そりゃ楽しそうなわけだ」
「――――そう」
「だ、が、な……」
「? 何かしら」
「テメェ、ファミレスで何しやがる!? 人目を考えろ!」
「あら、人目があると困るようなことをするつもりだったのかしら」
「テメェから全部してきたことだろうが……!」
「あれくらい、気にすることでもないわ」
「絶対に俺よりお前の方が周囲に無関心だろ、なんだそのメンタルは」
良い雰囲気から一転、顔面にタオルを投げつけられる男。周囲からはどう見えたのか、なんて考えたくはない。
「ホストに弄ばれた少女の涙ながらの別れの一撃、あなたってほんとバカ」
「誰がホストで誰が馬鹿だおいこら」
「実際のところ、あなたが思うほど世間というのは他人を見ているわけじゃないわ」
「あ?」
「あなたの無関心さも、あなたが悩むことじゃない。ただほんの少し、世間よりもそれが広く強かっただけ」
「心理――「痴情の縺れ」!?」
「二股?」「弄ばれたって……」「浮気男?」「ヒモ?」「メシウマww」「最低……」「不潔」「ホスト被れ」
「想像以上に世間様の目が厳しく冷たいんですがああああ!?」
「ああ、ほらあなたってなまじ雰囲気イケメンだから目立つのね」
「それ褒めてないよな、ええ!?」
「高身長。高能力。お金もあるし、ヘタレ童貞。中々の優良物件じゃない。きっとこのまま生きていれば年上のお姉様に美味しく頂かれていたでしょうね」
「この野郎……」
「それで、製品版に興味は持ったかしら」
「人の話聞く気ないよなお前……」
項垂れつつ、そう吐き捨てた後、帝督は改めて心理定規と向き直る。
(もし、もしも、さっき感じたもんが他の奴らが見てるっていう普通の世界なんだとしたら……こいつの能力で無理やりに見せられたってのが納得いかねえが……面白え)
あんな風に世界を見れたら、この退屈も壊れるのだろうか。
(このくだらねえ箱庭で、こんな馬鹿げたことを言う女と居れば、何かが変わるのか?)
たとえそれが能力で生み出された偽物だとしても、今のこの世界よりは何倍も――
「……話だけは聞いてやる。どうせ、研究所と家を往復するだけの毎日だ。時間は有り余ってるしな」
「素直じゃないのね」
クスリと心理定規は笑った。
「帝督、あなたの力で得て欲しいものがあるの」
帝督には気付けなかったが、そう話す心理定規の瞳には今までの嘘とは違う、本当の真剣な光が宿っていた。
「この街のトップ、アレイスター・クロウリーとの直接交渉権――いいえ、交渉なんて生温いわね、アレイスターへの命令権を、あなたの力で勝ち取ってほしい」
「……」
アレイスター。その名前に帝督の表情も真剣なものになる。
「……お前、それがどういう意味か分かってんのか」
「ええ」
「この街の闇を全て敵に回すようなもんだぞ」
彼女が何処までこの街について知っているのかは知らない。だが、少なくとも帝督は知っていた。この街の秘密と、抱える巨大な闇を。
「その覚悟はとっくに出来てるわ」
「それを、この俺に手伝えってのか。初めて会った女の為に俺が動くと、本気で思ってるのか」
「だから言っているでしょう?」
「……愛の為、ってか」
「ええ。あなたならそれが出来ると話していて確信した」
「確かに、第二位がお前の能力で良いように遊ばれたってのは間違いねえ話だ。おかげで俺はこのファミレスには二度と来れやしねえ。お前の能力がありゃあ俺を盲目的な奴隷に変えるのも簡単だろうよ」
「勘違いしないでちょうだい。言ったでしょう? 体験版だって。あんなのはただ手っ取り早くあなたに世界を教える為の手段に過ぎない。そもそも男女関係においてあんな段階を何段も飛ばしたような超展開に愛が生まれると思って?」
「何……?」
「金や名誉で動く人間以上に、私如きの能力で動く人間なんて信用できやしないわ。そこには真実の愛なんてないんだから」
「……じゃあ何処にあるってんだ。俺が動く為の愛とやらは」
「それはこれから生み出していくの。あなたと、私でね」
そして、心理定規は今までのような作った妖艶な笑みでも、茶化すような笑みでもない、

「――垣根帝督。私に惚れていいわよ」

無垢な笑顔で、帝督に笑いかけた。





あとがき
はじめましての方も多いと思いますが、この作品は2年ほど前に投稿した【這いよる定規さん】という作品の書き直しとなります。未完のまま放置となってしまった前作を改めて書き直して投稿させていただきました。
前作を読んで下さっていた方々には謝罪させていただきます。申し訳ありませんでした。今後は新たに書き直しつつ、時間を掛けても今作を完結させたいと思います。
新しく読んでくださった皆様もどうかおつきあいください。
前作を読んでいた方は知っていることですが、このSSはキャラ改変ものでパロネタ多めのキャラ崩壊SSです。新約のきれいなていとくんとも15巻で登場、退場した帝督とも違う、ぼっちでコミュ症な帝督が主人公で、サブカルチャーその他に精通している本名不明の心理定規がヒロインになっています。
前作を投稿した時はタイトルの元ネタの作品も二期までしかやってなかったのにいつの間にやら4期が終わって……随分と時間が経ってしまいましたが、心機一転、多少なりとも向上したはずの文章力で原作のキャラクターたちの違った魅力を伝えられればと思います。


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