魔法少女。
それは……一つの奇跡の対価から生み出されるもの。
一瞬、その奇跡で幸せの幻をみた少女たちは、その後に訪れる不幸の底でもがく。
例外なく……。
私は……。
私たちは……。
魔法少女まどか☆マギカ
赤と青
「きょーこー」
朝早くから、聞こえてくる甲高い声。
佐倉杏子は、その声が目覚ましとなって目をあける。
虚ろな視界の中に浮かび上がる耳にかかるほどの髪の少女の姿。
目を擦りながら、視界をはっきりさせていけば、そこに見えてくるのは見慣れたものの、見慣れた顔。
「いつまで寝てんのさ?ほら!学校いくよ!」
腰に手を当てて、怒った顔を見せる彼女……美樹さやか。
「なんで、お前が私の家にいて、しかも部屋に入ってきてるんだ?」
「なーに寝ぼけてんのさ?今日から、あんたは私達と同じ学校に登校するの!」
「……ぇ?」
目を見開く杏子と、ドヤ顔をしてみせるさやかが顔を見合わせる。
「い、いつそんな話になったんだ?」
「んー……どうやら、杏子は寝すぎていて、夢でも見ていたのかな?」
さやかは指を顎に当てて、そう言いながら、視線を再度ベッドの上に座りながら胡坐をかいている杏子にと移す。
さやかは、そこでニヤリと白い歯を見せると杏子の腕を引っ張り、無理やりベッドから引きずり出す。
「お、おい!さやか!」
「ほらほら~ちゃっちゃと着替える!」
さやかは、嬉しそうに杏子の服を脱がそうと両手を伸ばす。
そのさやかの表情に、杏子は、恐怖を感じて壁際にと後ずさる。
「わっ!さ、さやか!着替えるは一人でできるって!」
「問答無用~~~!!」
杏子の悲鳴が部屋の中に響き渡った。
『ねえ杏子……私が今見ているのは、きっと夢なのよね。
私が奇跡を願って魔法少女になって、勝手に世界に希望を抱いて、勝手に世界に絶望した……私がバカなせいで、失った世界』
『夢……でも、いいじゃねぇーか。
何もない寂しい世界より、誰もいない辛い世界より……楽しいだろう?』
……キーンコーンカーンコーン。
「……で、結局遅刻じゃない」
チャイムが鳴り響く中、杏子とさやかは仲良く遅刻をして、転校して初日に遅刻という名誉を受ける羽目になってしまった。
杏子は、大きくため息をつきながら、席にとすわる。
自分の前に座っているのはさやかである。
さやかは机の上で頬にと手を当てて後ろに座っているさやかにと視線を送る。
杏子は、そんなさやかを睨み返しながら
「誰のせいだ!」
思わず突っ込みをいれる杏子に、一番前に立っている教師の鋭い視線が突き刺さる。
杏子は口元を抑えながら、さやかを睨みながら、さやかに聞こえる声の大きさで声を出す。
「お前が、あんなことをしなきゃ間に合っただろう?」
「どうだか~、あんたギリギリまで寝てたからね~」
「ふ、ふん……だいたい、私は学校なんて別に行く気なんか」
「はいはい、一匹狼はかっこいいよね、あーかっこいい杏子ちゃん」
「さーやーかー……」
杏子とさやかが再度視線を絡ませる。
そんな中、二人にとクラスメイトの視線が向けられていることに二人は気が付いた。
「ゴホン」
教師の咳払いに、杏子とさやかは、思わず苦笑いを浮かべ合う。
『私のせいで、ごめん杏子』
『ううん……。
謝りたいのはこっちさ、結局私もあんたと一緒だったのにな……
さやかを見て……私、昔の自分自身を、救いたかったのかもしれない』
食堂にて、ご飯を食べている二人。
「……ったく、酷い目にあった」
杏子は食堂にてお菓子を頬張りながら、目の前に座っているさやかを見つめている。
「だから、ごめんって謝ってるでしょ?」
さやかは、杏子に対して両手を合わせながら頭を下げている。
杏子はため息をついて、再度、お菓子を頬張る。
さやかは、そんな杏子の食べているものを見つめながら、首をかしげて
「ねぇ?杏子」
「なんだよ」
「あんた、体重幾つ?」
「ぶーっ!!!」
思わず、噴出してしまう杏子。
「い、いきなり何を聞いてくるんだよ?お前は!」
「だ、だってさ……そんなにいろいろ食べて、っていうかあんたずっと食べてばかりでしょう?絶対太るはずなのに、すっごく痩せてるし」
「まー私は、その分運動もしているしな」
「……ずるい」
さやかは、杏子の答えを聞いて頬を膨らます。
杏子は、そんなさやかの顔を見て、勝ち誇ったかのようにお菓子を目の前で食べてやる。さやかはますますムーっと頬を膨らまして
「そうやって、人のイヤなことをするような奴には……」
「ん?」
「お仕置きだぁ~~~!!!」
そういってさやかは、杏子の隣にと席を移動して、食べている杏子の脇や、背中をくすぐりだす。
その突然のくすぐり攻撃に、杏子は、笑いを堪えきれずに、その場で抵抗するが、さやかは容赦なく攻めていく。
「アハハハハ、こ、こらっ!さ、さやか、やめっ……クックク……アハ」
「ふむふむ、なかなか杏子さんは感度がいいようですなぁ~~」
「こ、こらやめっ…プッ、クク…こうなったら……こうだぁ!」
「きゃあ!き、杏子!やめっ……キャハハハ……」
杏子は持ち前の俊敏さを生かして、さやかの背後に回り込みそのまま自分がやられていたことを、そのままさやかにと返しやる。
両手を伸ばして、さやかの脇腹や、背中をくすぐってやる。
「どうだ?思い知ったか?」
「ま、まだまだ~~~!!」
『……杏子、これからも一緒に……いよう?』
『さやか……』
「はあ~~~……楽しかった!」
「私は疲れたよ」
二人の通る道がオレンジ色に照らされる中で、杏子とさやかは並んで帰り道を歩いていく。
先ほどのやり取りで、杏子はため息をつき、さやかは笑顔で一緒に歩いていく。
「なーにいってるのよ?これからは毎日、この生活が続いていくんだから!
これから一緒に、登校して……
一緒に学校の授業を聞いて、ときには先生に悪戯してみたりして
放課後は一緒に図書館で勉強したり、一緒にゲームセンターに寄り道したり
あとは……恋の相談にものってもらおうかな。
大丈夫大丈夫、あんたのも乗ってあげるから!
だから……、だからね……」
さやかが、杏子の前にと小走りして前に出て杏子にと振り向いて告げる。
「だーかーら、これからもよろしくね!杏子」
さやかが無邪気な笑顔で杏子を見つめて手を差し伸ばす。
杏子が足を止め、さやかを見つめる。
さやかもまた、杏子を見つめる。
『「……私、で……いいのか?」』
『「杏子の……居場所は、私の隣……だから」』
独りぼっちは……寂しいもんね。