はじめまして。
勇者と魔王が自分達の役割について考えたりするかもしれない話です。
それでは。
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-プロローグ-
フォレーン王国、王の城。
王座の前に、多数の騎士鎧をまとった者達が整列していた。
「先代勇者の娘アイリーンよ、よくぞ騎士団全員にその武勇を認めさせた。今こそお前を魔王アルド討伐隊の統率者、すなわり勇者に任命する!」
金の冠をかぶり、荘厳な衣服を纏った髭を蓄えた初老の男が言った。彼こそがこの国の王である。
「私からも賛辞の言葉を贈ろう。本当によく成長してくれた、アイリーン。これからの活躍も期待している」
一際豪奢で、それでいて緻密なレリーフの鎧を着た男が勇者に向かって誇らしげに言った。
「ありがとうございます、騎士団長。私の全力を以って魔王アルドを倒してまいります」
そう答えたのは、防御よりも機動性を重視された線の細い鎧を着た少女。艶やかな長い髪は赤みがかかった栗色で、力強いが優しい瞳をしていた。
「うむ。このフォレーン王国と魔王との因縁は200年ほど続いているという…その戦いを終わらせるのは、勇者アイリーン、お前だと信じているぞ」
王が、何度も頷きながら言った。
「はい!」
「うむ。よし、それでは魔王アルド討伐隊の精鋭を決めようではないか」
「それでしたら!」
アイリーンは、19名の騎士団員を指名した。
「8年間苦楽を共に訓練した騎士団の皆と一緒ならば、必ず魔王アルドを倒せる。父の…先代の勇者の無念を晴らせます!」
「この者たちならば必ずや勇者、お前の剣と盾となり勝利を導くだろう」
アイリーンの言に応えて、騎士団長が、指名された者達を見渡して満足げに言った。
「うむ、期待しておる!」
王はそう言うと、王城のバルコニーまで歩いて行き、王城の庭に集まる民衆に向かって、魔術で拡声された声で叫んだ。
「我がフォレーン王国の民よ!今ここに勇者アイリーン、そして魔王アルド討伐の精鋭隊が誕生した!案ずることはない!我らの安寧を蹂躙する魔王アルドも、この神の加護を得た新たなる勇者が倒すだろう!我等は永遠に繁栄を続けるのだ!」
「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」」
民衆が歓声を上げる。
「アイリーン、俺たちならやれる!一緒に戦おう!」
腰に剣を挿し重厚な鎧を着た男が言い、勇者が笑顔で頷く。
「戦士フォード。信頼してる」
「先代の勇者は、魔王アルドをあと一歩のところまで追い詰めたんです。その娘であるあなたならきっと倒せます。大丈夫。私も一緒ですから」
およそ戦闘などに無縁であろうかと思えるような少女が、勇者の手を取って言った。
「ありがとうロレッタ、魔術学の最先端の研究者であり、親友の『魔術士ロレッタ』が一緒なんだもの。心強い」
勇者は微笑んだ。
「勇者よ、私たち討伐隊は一心同体。一人も欠けることなく魔王アルドを倒してみせようぞ!」
魔法術式が刻み込まれた剣を刺した男が言った。
「魔戦士ドレゴダ。ええ、共に倒しましょう」
「8年前、お前がこの王立騎士団に入団してきたときは、とんだ小娘が来たもんだと思ったが…あの小娘が俺たちと一緒に人類の希望を背負って立つ勇者になるとは。大きくなったものだな」
腰に二丁の銃を挿した男におどけられて、勇者は苦笑した。
「それより、魔界に行ったらどんな魔物がいるんだろうな!楽しみだ。美味しいのかな?」
「おいおいミランダ。お前はほんと食い気ばっかだな。いくら現地での食糧調達が仕事だからって…」
先ほどの銃の男が、魔物の味を想像してにやけた女剣士に言った。
「あんたこそ、銃馬鹿じゃない。魔銃士リベルから銃馬鹿に改名したら?」
「ぐぬ!」
リベルと呼ばれた銃の男が顔をしかめた。
総勢二十名の選抜者達は、各々意気込みを語り騒ぎ立てた。
「皆で、魔王アルドを倒しましょう!」
アイリーンが、指名した十九名に向かって言った。
途端に全員が真摯な面持ちで頷いた。
「期待しているぞ」
それを見て騎士団長が微笑んだ。
フォレーン王国の希望を背負った旅が始まろうとしていた。