恒子「さーて、続々と副将の選手が試合場に集まりつつあります。解説の小鍛冶プロ。ここにきてようやく阿知賀の連勝がストップして、王者白糸台が盛り返しましたね」
健夜「そうですが、私としては臨海が着実にトップとの差を詰めているのか気になります。阿知賀は基本的に強い順にオーダーしているのに対して、臨海は後半にいくほど強力になる新道寺スタイルですから、大将戦終了までに点数が交差する可能性は高いです」
恒子「逆に1校沈み状態に落ち込んだ清澄は、ここからの逆転は厳しいでしょうか? もちろん、どんな点数状況でも最後まで諦めることはないと思いますが」
健夜「このインターハイでは副将開始地点でトップと15万点差もあった最下位のチームが大将戦半ばには順位がそっくり入れ替わるなどという大逆転劇もありましたから、本当に何が起きるかは誰にも分からないと思います」
―――――――――――――
憧(先に到着してるのは清澄と白糸台。やっぱり2人とも並んで座っている。となるとあたしはヴィルサラーゼの上家か下家の二者択1つてわけか)ヒョイ(場決めの牌を捲る)
憧「・・・・・・・・・・・・・・・・・・(牌は南。残りは東だけだから美穂子が危惧通りにネリーの下家。和なら偶然と見做すだろうけど!?」バタン(扉が開く音に振り返る)
ネリー「おー、予定通した通りの配置だね」ヒョイ(態とらしく残りの牌を捲ってから卓につく)
憧「(予定通りか・・・。やはりこの席順はこの子の支配能力の一因・・・!)って、何で袖を捲っているのよ? そんなにエアコン寒い?」
ネリー「んっー? いやー、こうしておかないと後でクレームをつけられそうだからさ」ギュッ(臨海の制服の手首が隠れそうな程の長袖を肘の付け根で結ぶ)
憧(クレーム? そういえば準決勝の副将戦でも一時試合が中断する騒ぎがあったけど、まさか白糸台の大星淡みたいな妙な暗示スキルでも使うわけ?)
誠子「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
久「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
―――――――――――――
恒子「さあ、アンカーの大将へと最後のバトンを引き渡す重要な役割を担う繋ぎの選手たちによる副将戦を始めますが、その前に各校の出場選手を紹介します」
恒子「白糸台副将は『海腹川背(フィッシャー・ガール)』亦野誠子。渋谷選手と同じく今年のインターハイからレギュラーに起用された2年生コンビの一角で、他家の牌を自由自在に釣り上げます」
恒子「臨海女子副将は『運命奏者(フェイタライザー)』ネリー・ヴィルサラーゼ。去年の世界ジュニアで優勝した臨海の3人の特待生の1人で宮永照と同じ上級にランクされる魔物です。一説では時折見せる鳴きによって場の流れをコントロールする龍門渕の井上選手の上位互換とも噂されています」
恒子「清澄副将は『悪待ちのトリックスター』竹井久。能力者分析が活発になった昨今、各校から徹底した悪待ち対策に合い苦戦を強いられていますが、それでもほとんどの試合でプラス収支の地力の高さを誇ります」
恒子「最後の阿知賀女子副将は新子憧。阿知賀の中では数少ない中学時代の経歴持ちで、今年は1年生ながら奈良個人戦代表に選ばれるほどの急成長を遂げました。キャプテンの福路選手から伝授されたウオッチャーのスキル持ちとはいえ、中堅戦で猛威を振るった眷属が跋扈するこの卓でどのように戦うのか注目しましょう」
恒子「全国決勝の副将戦はこの4人によって競われます。場決めが終わりいよいよ開局です」
全国決勝副将戦 前半
誠子「よろしくお願いします(予想していた通りヴィルサラーゼの上家になったか。まあ、私は副露主体だからあまり関係ないがな)」
久「よろしく(トップの阿知賀とは10万点差ね。そういえば、その腹黒キャプテンさんが副将の1年坊の実力に太鼓判を押していたけど、性悪運命奏者の下家でどれほど抗えるのかお手並み拝見といきましょうか)」
憧「よしろくお願いしまーす」チラリ
ネリー「♪♪♪」
憧(ネリー・ヴィルサラーゼ。小学生みたいなナリしているけど、去年あたしと同じ14歳でU18の世界ジュニア大会で優勝。単純なタイトルの格なら日本チャンプの宮永照よりも上で、既にプロ転向した雀明華を除けばアマチュア最強ということになる『世界一強い子供』)ゴクリ
憧(かくいうあたしはネリーがユース世代の頂点に立った時には、日本の中学の県大会ベスト16が精一杯。あまりに立ち位置が違いすぎ・・・・・・ううん、しずにも宣言したじゃない。胸を借りる立場なのは確かだけど、同じ舞台で戦う以上は対等だって)ブルンブルン(首を振る)
憧(そう、あたしだって今年は奈良個人戦3位で県代表にも選ばれたんだ。臆するな、あたし。美穂子から受け継いだあたしの全てをこの世界チャンプにぶつけるんだ)メラッ(目に炎が灯る)
ネリー「よろしくねー(おーおー、阿知賀の子、目から炎なんか出しちゃって燃えてるね。いーね、そうやって麻雀に熱くなれるなんて、実に羨ましいよ(くすっ))」
前半 東1局 親 新子 ドラ四
東家・憧手牌 四五【5】56②②③⑥⑦東西白発
憧(よっし、四向聴だけど全部順子で伸びるから、七対子の二向聴よりもよほど良形。開局からツイてる)ポイッ(西捨て)
4巡目
東家・憧手牌 四五六【5】567②②③【⑤】⑥⑦ 次ツモ七
憧(ツモも好調。こういう時は小細工はいらない。真っ直ぐに手を進めるだけよ)ポイっ(5捨て)
北家・ネリー手牌 三七九1236②③⑨⑨北北
ネリー(うーん、阿知賀が調子良さそうだね。『今のツモ順』だと私のスキルを有効に活かせないけど、上手く鳴けるかな?)
久「・・・・・・・・・・・・・・・」ポイッ(北捨て)
誠子「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」ポイっ(①捨て)
ネリー「チー」①を吃して6捨て
恒子「ヴィルサラーゼ選手、上家の亦野選手から副露。明らかなチャンタ狙いですが、それなら何故竹井選手の北をポンしなかったのでしょうか?」
健夜「理由は分かりませんが、ヴィルサラーゼ選手は対面からの副露が少ないのは有名です。そして彼女が鳴いた時は場の流れが大きく変化すると専らの評判です」
憧(あたしのツモ前で鳴かれるとか何か嫌な感じよね。もしかして、これからあたしの手が滞ったりするの?)
東家・憧手牌 四五六七【5】67②②③【⑤】⑥⑦ 次ツモ三
憧(拍子抜けするぐらい、あっさり聴牌した。それもタンピンドラ3の3面張で高め三色と絶好の所。龍門渕と練習試合した時に井上純の亜空間殺法に随分と苦しめられたから、もしやと警戒したけど気の回しすぎか)
憧「(いずれにしてもここはイケイケで攻めるべきよね)リーチ!」ポイ(③捨て)
東家・憧手牌 三四五六七【5】67②②【⑤】⑥⑦ (二-五-八の3面待ち)
憧(これで安目の八を引かない限りは、裏が乗らなくてもほぼ親倍確定の大物手。鳴きが入らなければ、まずツモれる流れの筈)
久(流石にこの局は捨てか)ポイっ(現物の白)
誠子(トップの阿知賀の先制リーチ。潰したい所だけど、鳴ける牌がない)ポイッ(同じく白を合わせ打ち)
憧(よし! これで後は臨海が妙な真似しなければ)
ネリー「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」ポイッ(牌を入れ換えて北捨て)
憧(乗り切った。この流れなら・・・えっ?)
東家・憧手牌 四五六七【5】67②②③【⑤】⑥⑦ 次ツモ西
憧(いけると思ったんだけどな。まあ次で引けるでしょ)ポイ(西をツモ切り)
7巡目
憧(おかしい。あれからずっと無駄ヅモが続いてる。リーチしてから急に流れが変わったような。今度は惜しくも隣の牌か!?)ポイっ(一をツモ切り)
ネリー「ロン、純チャン三色の3900。チャンタって労力の割には1度でも鳴くと本当に泣けるぐらい安いよね(くすっ)」
北家・ネリー手牌 二三七八九123⑨⑨《①②③》 (一-四の両面待ち(実質一のみ)
憧「はい(今のギャグのつもり? というか、リーチを掛けてからあたしの和了牌の二と八が臨海に流れたみたいだけど、これって単なる偶然?)」
前半 東2局 親 竹井 ドラ中
北家・憧手牌 二六七124⑦⑧南北中中中 次ツモ⑥
憧「よしっ、また中ドラ3の大物手。流れはまだ途切れていないみたいだから、今度こそ」南捨て
6巡目
北家・憧手牌 六七九123⑦⑧北北中中中 次ツモ発
憧(また一向聴から手が凍っている。今度は誰も鳴いてすらいないから、流れが変わる要因はない筈なんだけど)発をツモ切り
7巡目
ネリー「ツモ、七対子ツモドラ1で1600・3200」
西家・ネリー手牌 五【五】八八33⑥⑥⑨⑨東西西 次ツモ東
憧(また臨海の和了。しかも1度も牌をツモ切らずに、全て手出しで牌を入れ換えているから、ヴィルサラーゼのツモは全て有効牌だったことになる)チラリ
ネリーの捨牌の河 一7発南③九
西家・ネリー手牌 一【五】八九37③⑥⑨東南西発 (配牌時予想図)
憧(つまりこんな形の七対子六向聴のゴミ手から最短で聴牌した? しかも五、八、⑥、⑨とあたしの有効牌を大量にツモっていることになる)
憧(これが偶然である筈はない。こいつはチャンピオン宮永照と同じ上級魔物。そういえばこの娘のツモ番になる都度、あたしの流れが失速するような錯覚を覚えるけど・・・・・・って、もしかして、これが運命奏者(フェイタライザー)?)
ネリー「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」ゴゴゴー
憧(純真無垢な園児みたいな円らな瞳をしてるけど、本性は紛れもなく魔性の者(まもの)。この娘、一体何を操作しているの?)
臨海控え室
智葉「さっそくトップの阿知賀がネリーの支配に取り込まれたようね」
メガン「そうですね。ネリーさんと卓を囲んだ場合、上家は0%、対面は50%、そして下家は100%の確率で殺されマス」ブルルッ
慧宇「副露が五月蝿そうな白糸台は運良く安全圏を確保しましたが、トップの阿知賀は案の定、鬼門に配置されまーしたね。同じ上級魔物の天江衣さえ焼き鳥にしたネリーさんの下家に座らされて、福路の下位互換にすぎない新子憧はどう対処しますかね?」
メガン「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
智葉(下位互換か。ダヴァンにとっては色々とキツイ言葉ね)
慧宇「それにしても相変わらずネリーさんの配牌は安定しまーせんね。さっきも七対子の六向聴と平和手の八向聴よりも酷い手が入りましたからね」
明華「まあ、それは仕方がないでしょう。ネリーは変わり種の魔物ですからね。通常、私たち魔物や眷属の支配競争はまず配牌から始まりますが、ネリーはそこには一切参加しません」
智葉「同じ上級魔物の宮永照はその圧倒的な支配力で場を制圧して、配牌を二向聴スタート、しかも1/2の高確率で有効牌を引くとかいう鬼畜性能なのよね? そりゃ、ほとんど6巡以内に和了わよね」
慧宇「ネリーさんは一見、麻雀に対して厭世的に思われまーすが、あれで結構勝負の過程を楽しんでまーすからね。だから配牌は分からない方が手を作る楽しみが増えるというのが、魔物の『ツミコミ合戦』からドロップアウトした理由だそうでーすよ」
明華「私の風牌。宮永咲の王牌、または松実玄のドラなど、魔物や眷属は各々得意とする支配域は全て異なりますが、その中でもネリーの『トリック・オア・トリート』はかなり特殊な領域(テリトリー)ですからね。もっとも仕組みに気づいた所で眷属ですらない新子憧に止める術があるとも思えませんが」
―――――――――――――
久(あっさりとあたしの親が流された。性悪運命奏者の手の内は準決勝で把握したつもりだけど、そろそろエンジンかけていかないと不味いかもね)
誠子(序盤は様子見に徹したが、やはりヴィルサラーゼの上家はセーフティーゾーンのようだ。次は私の親番だし何時ものように積極的に仕掛けていくか)
憧(このまま漠然と打っていたら、この娘の術中から抜け出せない気がする。まだ牌の色も見えてないことだし、あたしのスタイルじゃないけど、少し“見”にまわってみる)
ネリー「♪♪♪」
前半 東3局 親 亦野 ドラ八
憧(あたしの姿勢に示し合わせたかのように七対子でも五向聴のクズ手。けど、これで臨海の観察の局と割り切れる)
誠子「ポン!」フィッシュ!(ネリーから白を碰)
憧(ヴィルサラーゼに水を引っ掛けながら牌を釣り上げていった(汗)。あまりこの人に鳴かしたくないな・・・・・・あれっ?)
ネリー「・・・・・・・・・・・・・・・」むすーっ
憧(頬をハムスターみたいに膨らまして不機嫌になってる? やはり顔に水を浴びせられたのに腹を立てているの・・・って、んな訳ないか(苦笑))
誠子「チー!」フィッシュ!(久から九を吃)
ネリー「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」パアアッ
憧(今度は爛々と瞳を輝かせている? 好手が入るとお口の形が「ω」になるしず並みに感情表現が判りやすい子みたいだけど、さっきの副露と何が違うの?)
誠子「ポン!」フィッシュ!(再び久から②を碰)
ネリー「・・・・・・・・・・・・・・・」むすーっ
憧(??? また不機嫌になった。まさかポンとチーで違いがあるとも思えないし、本当に何に反応しているんだろ?)
憧(いずにれしても、亦野誠子は3副露から必ず5巡以内に和了牌を引く眷属だっけ? 灼や渋谷尭深みたいな役満系能力者に比べたら微妙な能力な気がするけど、この局は止められないか)
誠子「ツモ、白ドラ2で2000オール」フィッシュ!
東家・亦野手牌 3【5】西西《七八九》《②②②》《白白白》 次ツモ4
憧(今のツモで2位の白糸台に少し差を詰められた。けど、フィッシャーさんの色は見えてるから大丈夫)
誠子(よし、世界チャンプか知らないが、同じ留学生のハオに尭深があれだけ健闘したんだ。私だってやってやれない筈はない)
ネリー((ふー)やっぱり鳴き好きが場に多いと『ツモ順』がズレ捲くるからヤダねー。特に上家には私の支配力は及ばないからね)
久(先鋒戦ほどじゃないけど、かなりのスピード卓。やっぱり鳴き面子相手に面前主体のあたしじゃスピード勝負は分が悪いわね。何時も通り一撃に賭けるしかないか)
前半 東3局1本場 親 亦野 ドラ③
憧(今度もクズ手という程じゃないけど、やっぱり四向聴の平凡な手。ヴィルサラーゼの動きに注目・・・・・・えっ!?)パチクリ
ネリー「・・・・・・・・・・・・・・・」ヒョイ(本来のツモ牌の隣の牌をツモる)
憧((ゴシゴシ)今のは目の錯覚? 隣にある清澄の牌をツモったような? まさかね。不正防止に厳重に複数のカメラが配備された対局ルームで『手品』なんかできる筈はない)ツモ切り
ネリー「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」ヒョイ(本来のツモ牌の下の牌をツモる)
憧(! 錯覚じゃない。今度はあたしの牌をすり替えた。そういえば、妙に流れが途切れると時があると思ったけど、もしかしてこの娘があたしの有効牌を掠めていたから?)
憧(けど、どうして本来あたしがツモる牌が有効牌だと・・・って、馬鹿馬鹿しい。こいつ魔物じゃない。美穂子の話じゃ魔物は眷属と違って支配した牌の一部を見通せるみたいだから、別に何も不思議はない)
ネリー「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」ヒョイ(本来のツモ牌を普通にツモる)
憧(今度は普通に自分の牌をツモったけど、全国ネットの大舞台で白昼堂々とイカサマするとか良い度胸というよりふざけてる。もし次やったら、手を掴んで証拠を抑えてやる)ギラリ
ネリー「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」ヒョイ(本来のツモ牌の下の牌をツモる)
憧(! またやった! けど、今度は見逃さない)ガシッ(ネリーの手首を掴む)
誠子(何だ!?)
久「・・・・・・・・・(あちゃー、お手つきしちゃったわね、腹黒キャプテンの1番弟子さん)」
ネリー「・・・・・・何? 試合進行の邪魔なんだけど?」
憧「あんた、今あたしの牌と自分の牌をすり替えたでしょ?」
ネリー「(キョトン)??? 何のことかな?」
憧「惚けないでよ! あたし、見ていたのよ。さっきから自分以外の牌を頻繁にツモって・・・て、審判さん。こいつ、イカサマ・・・・・・」
審判「(ふーう)やれやれ、またその指摘ですか?」
憧「へっ? また?」
審判「昨日の準決勝でも姫松高校の愛宕絹江選手から全く同様の指摘がなされました。また私が担当した試合ではないですが、東東京予選決勝でも似たような騒ぎがあったようですね」
憧(えっ? そういえば皆でホテルでTV観戦していた時に、あたしがトイレに行った間に準決勝副将戦で試合を中断するトラブルがあったってしずから聞いたけど、コレがそれ?)
審判「学生同士が日頃の鍛練の成果を競い合うインターハイの、ましてや頂点の決勝戦で不正などあってはならないことです。云うまでもありませんが、不正防止には万全の体制を敷いています」パッ(後部の大型スクリーンに対局中の画面が映る)
審判「この対局ルームには大小30個のカメラが死角なしに取り付けられています。先程のヴィルサラーゼ選手のツモシーンを400倍ズームで1/100秒単位のコマ送りでスロー再生してみましょう」ポチっ(リモコンを押す)
映像ネリー「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」ヒョイ(本来のツモ牌をツモる)
憧(! そ・・・そんな、普通に自分の牌をツモっている? しかも、きっちりと牌の中央を親指と人指し指で摘んでいて、ツモ牌以外には掠ってすらいない)
審判「では念の為にここまでのヴィルサラーゼ選手の全てのツモの瞬間を連続再生してみます」ポチっ(リモコンを押す)
憧(本当に一体どうなってるの? ここまでの24回のツモで、全部自分の牌を完璧にツモっている。アレは本当に単なる目の錯覚だったわけ?)
審判「納得してもらえましたか?」
憧「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ネリー「(ぐすっ)私が手癖の悪い卑しい子だから、こんな誤解を受けるんだと思います。今だから告白しますけど、私は商店からパンを盗んだことがあります」
ネリー「(ぐすっ、ぐすっ)泥棒は神様がお許しにならない悪いことだと分かっていましたが、内戦で街がスラム化して一週間飲まず喰わずで盗らなきゃ飢え死ぬと思ったからです。けど罪人は永遠に咎人がら抜け出せないのなら、私はあの時綺麗な心のまま死んでいた方が良かったのでしょうか?」
憧「(あせっ)あ・・・あの、ごめんなさい。あたしはそういうつもりじゃ・・・」
審判「ヴィルサラーゼ選手。境遇には同情しますが、今はインターハイの試合中ですので懺悔は後ほど教会でお願いします。それと新子選手。今回は不問に処しますが、次回も同じ指摘をしてカメラに何の証拠も残されていない時はあなたにチョンボ罰符を課しますので、不正の指摘には相応の覚悟をもって臨むように」
憧「(しゅん)分かりました」
ネリー「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」ベー(俯きながら軽く舌を出す)
臨海控え室
慧宇「姫松に続いて今度は阿知賀からクレームがつきまーしたね。やっぱり勘の良い娘はネリーさんが何をしているか『視えて』しまうみたいでーすね」
明華「ネリーが行っているのは、すり替えであってすり替えではありません。というかこの大会中、一部の魔物や眷属が平然と行ってきた所業ですが、オカルトを前提にしない現行の不正防止システムでは発見は不可能でしょう」
(東3局1本場のネリーのツモから試合再開)
憧(何か釈然としないけど、アレは本当にあたしの見間違いだったのかしら? けど、カメラには何も映っていなかったし・・・・・・って!?)
ネリー「・・・・・・・・・・・・・・・」ヒョイ(本来のツモ牌の隣の牌をツモる)
憧「(しょ・・・性懲りもなくまた・・・・・・って、駄目よ、あたし。もしカメラに証拠が残ってなかったら、今度は8000点のチョンボ罰付を取られる。堪えろ!)ふきゅっ」慌てて口を抑えたので変な声を漏れる。
憧(けど準決勝であたしと同じ指摘をした姫松の愛宕妹は、確か前半後半通じて臨海の下家でボロ負けした筈。先鋒戦の不発弾の役満直撃のお蔭で副将戦開始前までは姫松がトップだったから潰されたのだろうけど、これが偶然とは思えない)チラリ
ネリー「♪♪♪」長袖を肘まで捲っている。
憧(しかも、イチャモンつけられるのを予め悟っていたかのように、両腕を剥き出しにしておくとか、既存のイカサマ対策じゃ見抜けないだけで、ヴィルサラーゼは絶対に何らかの牌操作をしている)
誠子「ポン(阿知賀のクレーム騒ぎでテンポが乱れたが、これで2副露。私の領域まで後1つ)」三捨て
東家・亦野手牌 二二四四③③④《666》《⑧⑧⑧》
ネリー(えーと、白糸台の能力は確か3副露してから、ツモ和了まで最長で5巡もかかるんだっけ? 天江衣のハイテイ程じゃないけど随分と悠長な奥義だね(くすっ))
南家・ネリー手牌 【5】56677③④④発発南南 ツモ南
ネリー(今回は良いツモ順だから、悪いけどそんなに待ってはいられないよ。さて④を捨てて両面で待った方が和了牌が多いけど、フィッシャーの能力的に単牌の③は亦野の有効牌の確率が高いんだよね)
ネリー(なら、案外隣の牌を抱えてるかもしれないし、こっちで待った方が出和了できるかもね。警戒されないようにリーチはかけないで)③捨て
誠子「ポン(良し、これでフラグクリア。タンヤオトイトイドラ2で上手くドラの方を引ければ親っ跳だ)」③を碰して迷わず④捨て
東家・亦野手牌 二二四四③③《666》《⑧⑧⑧》 (二-四の両碰待ち)
ネリー「ロン、南一盃口ドラ1で50符3飜の6400の1本場は6700。悪いねー(明華のデータ通りだ。白糸台の亦野は能力に頼りきってるせいか、守りが薄いよ(くすっ))」
南家・ネリー手牌 【5】56677④④発発南南南 (④-発の両碰待ち)
誠子(なっ!? 両面でなく両碰の待ち自体は、発なら1飜つくことを考えればそこまで不自然じゃないが、あの手でリーチをかけない? まさか私に聴牌を悟られないように自重していたとしたら、完全に狙われていた?)
ネリー「さあ、今度は私の親だねー♪」ピピッ(賽をまわす)
前半 東4局 親 ヴィルサラーゼ ドラ①
南家・憧手牌 六七八2378④⑤西西南北 次ツモ白
憧(高くはないけど、平和二向聴の軽くて早い手。臨海の親番を流すにはもってこい・・・えっ?)チラリ
憧視点:
東家・ネリー手牌 赤赤赤緑緑緑青青黒黒黒黒黒
憧(もうヴィルサラーゼの色が見えるようになった・・・って、それも当然か。理牌崩しみたいな極端なウォッチャー対策はしなくても、普通は局が進む中で焦らず整理していくものだけど、この子、理牌に関してはかなり無頓着で、配牌時から綺麗に並べ替えてるし)
憧(あたしのスキルは承知の筈なのに、もしかして舐められてる? まあチャンスには違いないか。1巡目から役牌を捨ててる所からして、そこまで早い手じゃなさそうだし、この局はあたしの方が先んじれる筈)北捨て
5巡目
憧(開局からずっと二向聴のまま手が凍っている。それに・・・)チラリ
ネリー「リーチ!」八捨て
憧視点:
東家・ネリー手牌 赤赤緑緑緑緑青青黒黒黒黒黒
憧(まず間違いなく七対子。また全て牌を入れ換えていたから無駄ツモなしで最短で聴牌したことになる。平和の二向聴の好形が七対子五向聴の屑手にスピード負けするとか、デジタル的に物凄く納得いかないんだけど)
憧(けど、字牌以外は安牌なのは確実。こうして色が見えた以上は振り込みは簡単に避けられる)安牌の二をツモ切り
誠子「ポン!」二を碰して現物の発捨て
誠子(今更鳴いても追い付けるとは思えないが、これで少しはツモの流れが変わる筈。その間に阿知賀が聴牌すれば・・・・・・えっ?)
ネリー((くすっ)残念だけど対面からの副露だと、私の『ツモ順』は変わらない。だから一発が消えたとはいえ、普通の三倍の効率で有効牌を引ける)
ネリー「ツモ、リーチ七対子ツモで3200オール」
東家・ネリー手牌 三三1166⑥⑥東東北北白 次ツモ白
憧(! やっぱりあたしの有効牌の1、6、⑥をツモっている。けど、理牌がユルユルな理由が分かった。別に舐めているわけじゃなくて、基本的にこの子はあたしの振り込みになんか期待してないんだ。自分でツモれるから)
ネリー「さあ、これで1本場だね。どんどんいくよー♪」ピピッ(賽をまわす)
(前半東4局終了までの途中経過)
阿知賀 135600(-11700)
白糸台 111500(-5500)
臨海 109500(+25600)
清澄 43400(-8400)
憧(中堅戦に続いてまた序盤は臨海のターンか。ヴィルサラーゼの能力はまだ良く分からないけど、この子はあたしの流れを取り込んで、自分の力に変えてるような気がする。何とかしないと準決勝の愛宕絹江みたいにこの場所で封殺される)