<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

SS投稿掲示板


[広告]


No.38015の一覧
[0] 愛した肉塊(一応R-18G)[しるもふ](2013/07/07 13:26)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[38015] 愛した肉塊(一応R-18G)
Name: しるもふ◆9f066c6a ID:fba177da
Date: 2013/07/07 13:26
彼女の家には、地下室があった。彼女の父が、趣味の二胡を奏でるために作られた防音室だ。
社長業の過労により、父親は四年前に他界したらしい。残された彼女も、その母親も防音室を使わなかったため、その部屋は長らく人の立ち入らないままに放置されていた。
そして現在、その地下室の片隅、埃を被った三人掛けのソファーに、彼女──僕の恋人である女性こと夜原芽衣は座っていた。
「どうしたんだ?こんな時間に、しかもわざわざ地下室に呼びつけるなんて」
そう問う僕の腕に巻かれたスポーツ・ウォッチの短針は、2と3の丁度真ん中を指していた。丑三つ時である。
僕は芽衣からの電話によって夜中に起こされて、突然その家の地下室に来るよう頼まれた。母は家にいないから遠慮は要らない、鍵は空いているから勝手に入ってきて構わない、彼女はそう告げた。彼女は普段の陽気な声音ではなく、感情を押さえつけているような淡々とした調子で話した。受話器から寒々しく鼓膜を震わせたその声に、僕は何故か心を急かされた。ただの直感かもしれないし、四年間付き合っているという事実が為せる技なのかもしれない。とにかく僕は、寝巻きのジャージの上からガウンジャケットを羽織り、寒空の下で彼女の家へと自転車を走らせたのだ。
「今日、陽次をここに呼んだのはね、私を知ってもらいたかったからなの。私と、私の新しい私を──」
芽衣の目は、微塵も揺れることなく僕の目を射抜いていた。自身の言葉一つ一つに対する僕の反応を、けして見逃さないようにしようとしているみたいに。
「芽衣を、知る……?」
それは、今では無くてはいけないことなのか。ここでなくてはいけないことなのか。そして何よりも、それほど真剣な顔で──恐怖すら覚える直視で語らなくてはいけないことなのか。
ふっと薄く笑い、芽衣は桜色の小さな唇を舐めた。その表情に、どこか悲しげな雰囲気を感じる。
そのまま芽衣は何も言わなかった。言うべき言葉を探している様子もない。沈黙の空気を苦と感じていないといった具合で、ソファーにかけて僕をただ凝と見ていた。僕も彼女の顔を見返す。
相変わらず、美しい顔立ちをしていた。恋人の贔屓目も無いとは言い切れないが、それを差し引いても芽衣は綺麗だった。通っている高校で五本の指には入るのではないだろうか。
芽衣の見た目で特に好きなのが、目だった。とても綺麗な円形、満月を思わせる形をしていて、さらに瞳の奥は、完璧なカッティングを施された宝石のごとく煌めいている。
以前、そのことを彼女に言ったことがある。彼女は耳まで真っ赤にして、可愛らしい奇声を上げて僕の胸で暴れていた。剥き出しの胸筋に温かい液体が数粒落ちたことを、鮮明に記憶している。
芽衣は無邪気な性格で、時に子供っぽい仕草で僕に甘えてきたりもした。人目を憚らないのが多少の困りものだったが、そんな所も彼女の魅力の大事な一部だった。
だが、芽衣は今、その無邪気さを一片も感じさせない表情で僕を見ている。
鋭利なまつ毛の先端が、もれなく僕の顔に向いている。
いつもはほの紅い頬が、月を思わせる青白さで陰っている。
無言。沈黙状態。
一分、あるいは五分も経ったのだろうか、やがて彼女の唇が開いた。
「あのね」
そして、また無言。しかし、意を決したかのように──あるいは、すべてを諦観したかのように──。
──お腹に、新しい命があるの。
その言葉は、途方もない意味の重量を有して、正面から僕にぶつかった。
妊娠。
避妊はしていた。だが、それでも確実というわけではない。僕と芽衣、ゴムとピル。両方が対策をして、それでも出来てしまったというのか。
「……どうしよう」
情けないことに、心底情けないことに、僕が発した第一声はそれだった。
芽衣だって平気なはずがないのに、僕が彼女を支えて、責任を取ってこれからどうするかを考えるべきなのに。
情けない。
自然と目線が芽衣の腹部へと向かう。今のところは、普段と変わらない見た目だ。
芽衣が僕の手を掴んで引き寄せる。次に彼女が言ったのは、僕の衝撃に、苦悩に、不可思議さを溶け混ざらせる言葉だった。
「驚いた……? でもそれだけじゃないの」
最初の一言──妊娠のカミングアウトをして、そのことについて話すことに抵抗が無くなったのだろうか。先程までの淡々としたそれとは打って変わり、彼女の話し方は含みを持たせた、奇妙なものだった。
まるで、僕の反応を楽しんでいるかのような……。
見ると、芽衣は目を三日月のように細めて、くすりと笑いを漏らした。
「──陽次は、私を愛している?」
「何を突然に、そんなの……決まってるだろ」
「曖昧にしないで」
彼女はふと真顔になった。その顔に、今度はほんの少し、怯えを伺いしれた。
「分かったよ。──芽衣のことが、好きだよ。……愛してる」
「その言葉、信じていいよね」
「ああ」
僕の頷きを目にして、芽衣は溜息と喜びの声を同時に口から吐いた。
「それで、何なんだ。……“それだけじゃない”って」
今度は、芽衣は臆することは無かった。僕の目を見て、口にする。
「私が妊娠するのは、これが初めてじゃないの」
「元彼との子供がいた、ってこと……?」
「まさか。陽次と付き合い始めたのは中二の時でしょ。それまでは誰かと付き合ったことなんてなかったわよ」
じゃあ、どういうことなんだ? 疑問を口に出しかけたその時、芽衣の声がした。
「陽次とやって、出来たのが始めてじゃない……五回目だっていうこと」
「は……?」
ふざけた冗談には思えなかった。芽衣はこんな訳のわからない嘘をいうためだけに、深夜に自宅まで呼び出す人間じゃない。
「お、おい、芽衣? どういうことだよ。大丈夫か? クスリとかやってないよな……!?」
「大丈夫よ。至ってマトモな身体……いや、とてもマトモとは言えないわね。狂った身体よ。既に四回の出産をしている、化け物の身体……」
芽衣は──芽衣は何を言っているのだろう。
度の過ぎた冗談か。はたまた、この会話全てが夢の中の出来事なのか。
喉の渇きを覚えた。血液の循環がぐちゃぐちゃになったような錯覚に陥る。
「おい、しっかりしろよ。何を言ってるんだよ。四回も産んだ、ってそんなこと、あるわけが──避妊していて、四回も出来るわけ……だいたい、産まれた子供はどこに──」
どこにいるんだよ。言い終わる前に、唐突に『びくん』と彼女の身体が跳ねた。
「ほら、始まる。ちゃんと見ててね。私を、私を知ってね」
懇願するような声音。刹那、風船に空気を入れたかのように、芽衣の腹部が、異常な速度で膨らみを見せ始めた。
「……ほら……始まった……」
芽衣が苦悶に顔を歪め、脂汗を流す。
「芽衣? おい! 芽衣!?」
彼女の手を強く握る。今や臨月の妊婦よりも、芽衣の腹部は大きくなっていた。
彼女に何が起きたのだろう。
理論立てて思考する余裕もなく、疑問だけが脳を締め付ける。同時に、自分が今何をすべきなのかという問いも頭を巡り、そしてその他いくつものクエスチョンが加わる。有刺鉄線のようなハテナの数々は、呆気なく僕の思考能力をがんじがらめにしてしまった。
何も出来ず狼狽している僕に、芽衣がすがりついた。心底苦しそうに言う。
「服……脱がせて」
それを聞いて気がついた。
──ここで、産むのか……!?
「芽衣、落ち着け……! 今から救急車を呼ぶから、だから、それまで」
「駄目!!」
息も絶え絶えの、悲鳴まじりの声だった。
「駄目だよ……こんなの、他の人には見せられない……! それに、産まないといけないの……“これ”を産まないと、私は──」
言葉は、陣痛によって中断させられる。
苦痛の叫びを捻じり出して、彼女は破水した。
いや、違う。
──違う、これは、羊水じゃ……
気がつくと、腰を抜かして僕はへたりこんでしまっていた。芽衣が排出した生臭い液体、真っ赤な血の海の広がった床に。
異常な臭気。グロテスクな香り。激烈な嘔吐感と同時に、芽衣の生をこの上なく感じる喜ばしい匂い。
圧倒的な恐怖と、微々にも微々たる生命の喜々の中で、僕は吐いた。黄土色と真紅が、床でマーブルみたいな模様を作る。
聞こえるのは、彼女の叫びと、僕の鼓動の早鐘だけだった。
芽衣を見上げる。ソファで開脚し、フレアスカートとその下のショーツを赤黒く染め上げて、彼女は息んでいる。
一際大きく、芽衣が声を上げた。動物としての人間の鳴き声を。
ぼたぼた、びちゃびちゃと彼女の股から液体が滴る。床に液体が落ちる音は、防音室の壁に吸い込まれる。
そして、彼女の中から子供が出てきた。血染めのショーツが膨らむ。
次の瞬間、僕はその布の奥を目にした。
「………………!?」
目を疑った。目を疑い、正気を疑い、それが事実だと知って、現実そのものを疑った。
これはなんだ。
これは、彼女が今まさに産んでいる、この存在は何だと言うんだ。
子供ではなかった。芽衣の腹部が異常に膨らんだことから、そして彼女が血液を排出したことから、既に薄々分かってはいたが、それでも僕は壊滅的な感情になった。まるで、脳味噌をミキサーにかけられたかのような。
──手が。
芽衣の恥丘から、一本の手が伸びていた。明らかに新生児のそれではない、ほっそりとした手が。
手はショーツを退け、鎌首をもたげた蛇のように空でうねった。芽衣の悲鳴に合わせて、徐々に腕を体外へと出していく。
血でぬらついた手が、彼女の右太ももを掴んだ。彼女が孕んだ存在は、ぐいと手で太ももを押して、自ら生まれ出ようと活発に動いている。
やがて、その存在は両手を体外に出した。そして両手で左右の太ももを押して、その頭部をあらわにしようとして位た。
今や原型を留めていない膣口から、その存在の髪が見えた。濡れて、白い塊がこびりついた黒髪が外気に晒される。太ももを押す力は一層強まり、そしてついに頭部が、そしてその勢いで、にゅるん、と全身が出てきた。
血に濡れ、血にふやけた身体は、僕とほとんど変わらない大きさだった。更なる嘔吐を強制する臭いを発散させて、生まれてきた存在は、粘液の音を立てて四つん這いになり、そして立った。
「ちゃんと、見てくれた……? 私と、私の新しい私を──」
生まれ出でた存在が言った。芽衣から生まれた、芽衣に瓜二つの“何か”がそう口にした。
目の前に、芽衣に似た人間が立っていた。
「私は、六人目……」
六人目の芽衣。
「去年から──陽次とするようになった時から、こうなの。あなたに抱かれると、たまにこうやって、私が私から生まれる……」
びちゃり。血の海を一歩、“何か”が僕の方へと寄った。
「誰にも相談出来なかった。親にも、陽次にも……。気味悪がられるのがとても怖くて、打ち明けられなかった」
──でも、陽次は私に『愛してる』って言ったから。
“何か”はそう言って、気味悪く笑った。
「だから、全部を告白したの。……それで、助けて欲しかったの」
“何か”の、芽衣そっくりの目から、涙が伝った。血液のこびりついた頬を涙が流れ、筋を作る。
びちゃり、びちゃりとその存在は僕の元へと近寄る。
「ねえ陽次……助けて……」
“何か”はうずくまり、ふいに腹を抱えた。
「嫌だよ……私、食べたくないのに……」
血の海に雫を落として、何度も頭を振る。何かを我慢しているのか、その存在は必死で自身と戦っているように見えたが、やがてうずくまるのをやめて、地面に這いつくばった。
“何か”は唇を血の海につけた。音を立てて芽衣の血液を啜り、舐めとる。僕の吐瀉物も御構い無しといった様子で、口にいれ咀嚼した。
「嫌だ……見ないで陽次……やっぱり見ないで……」
涙で顔を歪めながらも、舌は絶え間無く血をすくい、喉は一定のリズムで上下する。ついには、床の汚れは大方飲み干されてしまった。
「やだ……こんなの……なのに、なのに……全部食べなきゃ……」
咽びながら、彼女は這ったまま芽衣の元へと行った。横たわり、動かない彼女の服を脱がす。
──食べる……? 芽衣が、この化物に喰われてしまう……?
やめろ。やめろよ。芽衣に何てことをするんだ。
お前は、お前は一体何なんだ……!?
“何か”は裸に剥かれた芽衣に覆い被さった。白く柔らい彼女の腹部に、顔を埋める。
──まさか。
“何か”がしようとしていることに気づき、僕の鼓動が限界まで高まる。
──お前は、まさか……!!
ぐちゃり。
先刻の血液とは別種の臭いが、地下室に充満した。
芽衣の身体から、血が零れ、黄色い脂肪が飛び出した。
“何か”が顔を上げる。その口には、長細い紐上のものが咥えられていた。
刹那、それの正体に気づく。
芽衣の小腸。独特の異臭を放つ彼女の内蔵が、彼女の産んだ“何か”によって食べられていた。
思わず、僕は叫んでいた。自分でも訳の分からない悲鳴をあげ、“何か”に向かって拳を振り下ろす。“何か”は芽衣の隣に崩れた。
僕は芽衣の元でしゃがむ。ソファの上で内蔵を見せている彼女に、何度も話しかける。返事はない。
芽衣は、応えない。
「愛してる、って言ったのに……」
涙声が聞こえた。“何か”が頬を押さえて起き上がる。
「うるさい……僕が愛していたのは芽衣だ……お前じゃない……! お前じゃないんだよ、この化物!!」
「私は、六人目。陽次がさっき愛してるって言った芽衣は五人目なのよ」
うるさい、黙れ。聞きたくない。
「五人目は、母体である四人目を食べた芽衣なのよ。四人目は三人目を、三人目は二人目を食べた。まるで生まれて間もないモンシロチョウの幼虫が、自分が入っていた卵の殻を食べるかのように……。あなたが愛した芽衣は、この一年間で四回、生まれ直しているのよ」
「嘘だ! 」
僕は叫んだ。
「嘘だ! 嘘なんだろ!? 芽衣が人間を食うなんて、絶対に──!」
「どうしても、自分の母体を食べたくなってしまうの。心では嫌がっても、本能が、身体が私自身の肉体を食べようと疼いて、仕方がないのよ。だから、昨日までの芽衣だって、自分自身を食べているのよ。あなたが一人目の私を抱いて、しばらくした時から、ずっと──」
嫌だ。嫌だ。嫌だ。
認めたくない。
だが、芽衣を名乗る“何か”は、ついに逃れようのない言葉を僕に言った。
「あなたの愛した五人目が言っていたんじゃない。『既に四回出産している』って。それはつまり、今までに四回私が生まれて、今までに四回、私が私を食べてきたっていうことでしょう」
認めたくない。
認めたくない──のに。
「うああああああああ!!」
僕は慟哭した。声は壁に吸い込まれて、跡形もなく消える。“何か”に飲み干された床の血溜まりのように。
熱い体温が僕を包んだ。裸の“何か”が、血塗れでぬらついた“何か”が僕を抱きしめたのだ。その小さい身体で、僕を出来るだけ温めようとしてるみたいに。
「大丈夫。何回生まれ直したって、私から生まれた私は、今までのことを全部覚えている。陽次と一緒にしたことも、何一つ忘れていないよ」
だから、私は私だから。
“何か”への恐怖は、いつの間にか失せていた。嗚咽と共に話す“何か”は、今や芽衣と同一であるとしか思えなかったからだ。
私は私だから。
芽衣は、芽衣だから......?
「お願い……愛して」
“何か”は──芽衣は言った。
僕はそれに応える代わりに、彼女の唇を塞いだ。
彼女の口腔を通って、生臭さが僕の身体に染み込む。鉄の味が、内臓の苦味が、絡み合う舌を介して伝えられる。
──ああ、やっぱり彼女は、紛れもなく芽衣なんだ──。
そのまま僕は、芽衣の身体中に舌を這わせ、彼女についた粘液を舐めとっていった。


それから、僕は五人目の芽衣を、六人目の芽衣が食べやすいように持っていてやった。芽衣が自身の肉を喰らうのを見て、何故だか勃起する。
眼球も、そして脳漿の一滴すら余さず食べて、ついに五人目の芽衣は白骨になった。それを地下室にあった黒いゴミ袋に詰めて、部屋の隅へ放る。
それから僕と芽衣はまた長い間キスをして、そして交わった。
この行為で、彼女は六回目の妊娠をするかもしれない。だが、僕はむしろ、それを待ち望んでいた。
芽衣が芽衣を食べる様は、僕にエクスタシーを感じさせるから。
早く、あの血の匂いを嗅ぎたい。僕はそう思うようになっていた。
──あの、芽衣の生を感じる生臭さを……
「芽衣……愛してるよ」


夜は明けない。


感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.055531024932861