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No.37947の一覧
[0] [ロードラSS] 天元突破ヤマトあまぎ(前篇[ゆら帯](2013/09/03 03:24)
[1] [ロードラSS] 色褪せぬ約束[ゆら帯](2013/07/03 01:39)
[2] [ロードラ小説] Parasite -F- (前篇)[ゆら帯](2013/07/05 22:13)
[3] [ロードラSS]弱虫勇者の楽園[ゆら帯](2013/11/01 01:39)
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[37947] [ロードラSS] 天元突破ヤマトあまぎ(前篇
Name: ゆら帯◆87bc53bd ID:8eb543d9 次を表示する
Date: 2013/09/03 03:24
※注意

このSSは不確定な情報と公式の情報を元に、手前勝手に書上げた物です。

・作者の妄想
・ヤマトの(ほぼまんまな)カミナ化
・舞台背景の適当さ
・素人小説
・盛り込まれた厨二要素

上記を踏まえた上「暇だし読んでみるか」と思って下さった方にお勧めします。

どうぞ、よろしくお願い致しますm(_ _)m

______________________________________



‐丑の刻、統国総統府朝廷内最上階‐
 
 あまぎの憂い。それは大きく分けて二つあった。
 神々により創生されたワノクニは、今も尚その神と繋がりを持っている。その事を知るのは、この地を治める女帝、あまぎのみ。多くの者はただの神話程度にしか受け取っていないそれらも、女帝一人には大きすぎる懸念の一つである。それでなくとも、現在のワノクニは神をないがしろに扱い、また執政を執るあまぎ自身も、神々の声に素直に頷くことを由としなかった。それは当然神の怒りを招き、徐々にその片鱗がワノクニを襲った。現在国内で蔓延する疫病、不作、不足する雨量等は、ただの不運では無く、神が行った確かな制裁であった。
そしてそれらが招いたのは周辺国の反逆。恐慌に陥ったワノクニは執政に不満を持ち、国内を二分し争いが生じた。そこへさらに油を注いだのが十六代目皇帝であり、彼女が行った恐怖政治は領国へ属する加盟国を増やしたに過ぎない。そしてそれは十七代目王位継承者であるあまぎの時代へも継続した。
 つい今しがたも部下が領国の軍が攻めてきたことを報告しにやって来た。深夜の襲撃、領国側も本気という事か、今回は今までのような火付け程度では済まないだろう。眼前にひれ伏し、体を震わせながら状況を報告する部下に対し、不思議とあまぎは何も感じていなかった。
「要点を纏め報告せよ。おおよその数、方向、特徴のみで良い」
「はっ…現在も櫓にて調査中でございますが、敵兵約八千。現在北門・東門・西門の三ヵ所が強襲を受け戦闘中でございます」
「南門を除いてか…。現在の防衛はどうなっている」
「三方による戦力は等分されており、膠着状態が続いております。各領国の党首が指揮を執っている事から、これ以上の戦力は現れない可能性が高いと思われます。南門前には防衛・警備兵の配置、櫓よりの監視は怠っておりません」
「……良かろう。内部へ敵兵を招いていないのなら問題ない。現状を維持し、敵を蹴散らしなさい。進展があれば迅速に報告するように」
「はっ!」
報告を受けながら、あまぎは表には出さずに一つの期待を胸に膨らませていた。あの男の名が無い。
これほどの規模の強襲であれば、かの男が出張らぬ筈はない。もっとも通りが広く、戦力を集結させ易い上に朝廷への道が広い南門へ、戦力を割いていないのにも疑問を感じる。出来る限り多くの道を派手に攻め、どうやってもそちらに兵力を割いてほしくないと言っている様で仕方がないのだ。これは恐らく…
 あえて特別に指示を出さなかった。自分でも不思議に思いつつ、普段沸くことのない感情が膨らむ様を、心地よく思う自分に酔ってしまっているのかもしれない…。

‐同時刻、南門周辺小林道‐

「旦那、早く、こっちだ」
手引きをする男が闇の中から現れたことに、ヤマトは安堵の吐息を漏らした。
「おせぇぞ!、このままじゃ全部台無しになっちまうところだったじゃねぇか…」
「そう怒らねェでくだせぇよ。あっしだって首がかかってんだ。まだ死にたくねぇ…」
悪態をつきつつも頼りがいのある顔をし、男は合図をして林道から木陰へ進んでいく。そこは統国の南東側に位置する小林道。ここからも統国の高い塀と無数の櫓から洩れる灯が遠目に見える。ここは唯一にして木が生い茂り、監視の目から隠れる場所だった。大量の兵は隠せなくとも数名の人間が隠れるくらいならば容易い。
「ここからあそこまで掘り進むのは大変だったんですよ? 旦那が気軽に考えてくれた作戦だったけど、見つからないように土砂や岩を運ぶせいで手間暇が何倍もかかっちまった」
「グダグダ文句言いやがって男のくせに女々しい野郎だ。 愚痴なら後で腐るほど聞いてやっから、さっさと案内しやがれ」
男は苦笑し、ヤマト達を隠された洞窟へと案内した

ヤマトにはどうしても統国に入らなくては気が済まなかった。
反逆者として処罰された父の仇、圧政を敷く統国の討伐、仲間達の明日の為、そのどれもが真実たる目的であったが、それ以上に何よりも会う必要のある人物がいた。その為に、己は比較的安全な門攻めには加担せず、最も過酷で命の危険がある班へ自ら志願した。彼が率いる領国の頭目達はそろって反対したが、彼はそれでも半ば無理やりに押し通した。「俺が行かなきゃ誰が行く!」そう言って断固考えを曲げないヤマトを、皆しぶしぶ認めるしかなかった。
今、その目的の第一段階が始まろうとしている。死地へ赴くというのに、この男の血潮は熱く熱く燃えたぎるばかりで冷める事を忘れている。ただ、アイツに会うまでは死んでも死にきれぬ、それまでは絶対に生き抜く。その精神が唯一彼の勇み足を抑え、冷静な判断力を持たせていた。



‐天空の円卓‐

異界の管理に関する会議が行われている。
創造主を除いた、神(アヌビス・ヴァルトルス・あまてらす・ディオーネ・他)がそれぞれ各々の想いを胸に会議が進行していた。
冷静に取り仕切るアヌビス。常に不服を顔に浮かべるヴァルトルス。特に興味を示さないディオーネを前に、あまてらすが己の見解を打ち明ける。
ヴァルトルスはその表情とは反対に、あまてらすの意見を全肯定した。まるでそれ以外に答えは無いと吐いて捨てるように。二人の発言に対し、アヌビスは異界に渦巻く魂の総量、そしてそこから切り離された世界との比較を語る。あくまでそれは情報から求められ私見を省いた見解であり、肯定でも反対でもない。ただ、彼女の口から語られるデータベースに伴えば、あまてらすが持ち出した議題に関して難は無い事が裏付けられている。
椅子を漕ぎ無関心を決め込むディオーネをしり目に、あまてらすは微笑を伴って決定を下した。他の神は沈黙を用い、それに肯定した。


‐虎の刻、統国総統府朝廷内最上階

あわただしく走る音が微かに聞こえてくる。恐らく新しい進展があったのだろう…それも我が国にとっては悪い方向に。
遠くの回廊より駆けてくる足音から、あまぎは覚悟を決め玉座から立ち上がる。脇に従えた侍女に支持をだし、衣を整え出したところで漸く一人の武官が彼女の元へたどり着き、堰を切ったように話し始めた。
「ご報告申し上げます!ただ今…」
「良い」
「………は?」
一気に語り上げようとする部下を制し、あまぎは淡々と準備を進めてゆく。
「現れたのであろう。先程と同じだ…場所、人数、特徴のみを告げよ」
あまぎの対応に混乱を招きつつも、指示されたとおりに報告を済ませてゆく武官。頭の切れる王の事だ、恐らくこの事態すら予想されていたのだろう…そう予想し、伏した頭をゆっくと上げると、そこには今まで彼が見たことのない表情を浮かべた王の姿があった。それだけではない…
「お、恐れながら…あまぎ様、そのお召し物は…」
「我自らが出る。他の者が手におえる相手ではなかろう…」
身支度を淡々と整えていくあまぎに、武官がとうとう焦りを見せ始める。
「な、なりません!突如現れた敵兵に城下を攻められたことにより、三門を守っている兵にもどよめきが生まれております!それだけでは無く、大変申し上げにくい事に国内内部からも領国を支援しようとする輩まで出没しております……そんな中、あまぎ様自らが御出陣するなど、何をどう考えても頷きかねまする!!」
彼の諌言など端から耳に入っておらず、あまぎは侍女が差し出した弓を受け取り、矢筒を腰に据えながらある男の顔を思い浮かべていた。
「大凡予測がついていた事態だ。遅からずとも、こうなるのではないかと……危惧、いや違うな。そのようなことは思っていなかった」
自分へ語るようにぼつぼつと言葉を漏らすあまぎ。武官はすでに己の前に立つ人物が何者なのか分からなくなってきている。
「ただ、待っていたのだ……おかしなことに、私はずっとこの事態を待っていた。何一つ変わらぬこの国に、身動き取れぬ王として座しながら…ただずっと待っていた。ただひたすら、私を求めてやってくる男を………」
口を開けたまま動かぬ武官を見て、あまぎは少し微笑んで見せた。またしても彼が初めて見る王の顔であった。その無邪気な笑みが、謝罪を表すのか彼の知り得ぬ何かを表すのか…理解に及ぶことは出来ない。
「…待っていろ、ヤマト」


‐同時刻、統国総統府城下 朝廷前通り‐

統国側の混乱をよそに、ヤマト達もトラブルに巻き込まれていた。
朝廷の内部まで掘り進められていた坑道が途中で崩れていたのだ。突貫工事による弊害かもしれない。仕方が無く、酸素取りと中継用に開けられていた密偵の小屋から外へ出る羽目となった。とはいえ、その場所も比較的朝廷の近場であり、敵を強襲するにはもってこいの場所ではあった。
ヤマトと共にやってきた各属国より選ばれし手練れ達は、怒号を上げ朝廷へと一直線へ攻め立てて行く。あくまで期待でしかなかった、密偵達が引き起こした内部の反乱は思った以上に大きく、朝廷周囲の警備兵達がそちらに注意を割かれていたためか進行ルートは思ったよりも手薄だった。
しかし腐っても朝廷の警備兵。彼らもただの雑兵では無く、ヤマト達も無傷では済まされない。一人、また一人とその命の灯が消えていく。
死に逝く彼らの想いを受け継ぎつつ、それでもヤマトは己の望みを果たす事を一直線に駆けてゆく。彼の代わりに矢を受け倒れた青年、前方より来る槍兵達を正面より切り崩し道を開け無数の刃を受けた男、物陰に一息付いたところで受けた傷に耐えきれず膝を折った者…彼らはヤマトへ襷を渡し、世を去って行った。一人残されたヤマト。しかしその表情には一片の迷いもなく、駆ける足が鈍る事は無い。

遂に皇帝が座す塔の前まで辿りついたヤマト。彼を迎えたのは、周囲を三間程の塀がぐるりと囲み、中央に神楽を行う為のだだっ広い舞台がある空間だった。その塀上には射手がズラリと密に並び、舞台の前には数百の槍兵が構えている。
あまりにも時間をかけすぎた…ヤマトは苦笑しつつ後悔した。あの切れ者が統括する部隊だけあって、機動力も伊達では無かったのだろう。その圧倒的な絶望を迎えつつも、まだヤマトは諦めていない。不敵に笑みを浮かべつつ、一触即発の空気の中、じりじりとその歩を進めてゆく。
恐らく、指揮者の一人が挙げた手を下せば、数百の矢が彼をめがけて降ってくるだろう。しかし、他の者の声を押しのけ、男の声が場に鳴り響いた。

『「ぉぅぉぅおうおうおうおうおうおうっ!!!!!」
「……刀一丁男一人、迎える手前ぇら百足の手足、揃いも揃っていい度胸だ!! 耳かっぽじってよぉーく聴きやがれっ!!」
「滾る血潮をまき散らし、無念に散った仲間を尻目に、足を止めねぇ引かねぇ悔やまねぇ!!! 男の魂背中に背負い、咲かせてやらぁ烈火の華!」
「天下無双の剣鬼ヤマトたぁ俺のこったぁあああ!!!!」』

不敵な笑みを身震いすることなく浮かべ、悠々と名乗りを語り上げた男に周囲の兵は総じて圧巻されていた。今まで張りつめていた緊迫した空気は見事に乱れ、統率されていた兵はどよめき隣の者の顔を伺い始めた。

「俺が中に用があるって言ってんだ! 邪魔しねぇで大人してやがれえええええ!」

ヤマトは叫び終えると駆けだしていた。もはや賭けでも勝負ですらもない。文字通り一直線に走り抜ける…それだけを体現して見せた。舞台を突き抜け、長く伸びた階段を駆け上がって中へ入る。それだけを頭に浮かべて突っ込んでいく。
驚かされ統率を失ったとはいえ、向かってくる敵兵を野放しにしておくほど相手も凡兵ではない。皆、内心どこかにわだかまりを持ちつつも天衣無縫、風の様に向かってくる男に矢を定め、指揮が手を下すのを待った。

「止まれっ!!」

よく通る声だった。そして、その場にいる者すべてを瞬時に固めてしまう程に言霊は力を持っていた。
大きな朱の弓を携え、胸に晒を巻き威風堂々と姿を現したのは現皇帝、あまぎその人物。それに気づいた兵から順に、彼女へと波の様に頭が垂れて行く。
「…一切の攻撃を禁じる」
悠々と階段を下り、ヤマトが居る正方形の舞台へと近づいてゆく。周囲を囲む兵は彼女の言動に再び混乱しつつ、しかし絶対的なその命に逆らう意思など持ち合わせておらず沈黙を務めた。周囲は見守る事しか出来ないでいる。
ついにあまぎは舞台へと降り立った。二間も離れていないところに、野太刀を抜き身で肩に背負う男が立っている。
暫く二人は何も話さなかった。ただただ互いを眺め、男は不敵に笑い続け、女は無表情の内に笑みを浮かべていた。

「やっとだ」先に口を割ったのは男の方。

「あぁ、やっとだ」女が応える。

二人が意思の疎通を図った所で、女帝は目を閉じ、再び声を張り上げ高らかに語り上げた。
「今より、十八代王位継承者選抜仕合を行うっ!!」
 どよめきが周囲に広がる。
「十七代王位継承者あまぎ、領国筆頭ヤマト、両名の試合を最終選考とし、勝
者を違い無く王位継承者とする事を宣言…」

「「馬鹿野郎っ!」」

 麗王の声は、男の怒号によって切られた。誰もが驚いたが、特別身を固まらせたのは他ならぬあまぎである。
 一喝を受け、言の葉の続きを詰まらせたあまぎは、すかさず男の顔を見た。そこには紛れもない一人の男の顔がある。
「くだらねぇモン持ち出してくるんじゃねぇ!!」
 一瞬、男の発言に理解が遅れるあまぎ。この男は何を言っているのだ。
「…し、しかし、お前はここに何をしに来たのだ!? 王権を奪いに来たのであろうが! そのために僅かな兵を従え、真直ぐここを……私を倒しに来たのではないのか!?」
 あまぎの質疑に男は答えない。ただただ真直ぐ、あまぎの目を捕えて微動だにしない。不思議なことに静寂が辺りを包んだ。この場にいる誰もが男の言葉を待って息をのんでいる。
 しかし、当の本人はいきなり顔を崩し、その場に胡坐をかいて座り始めてしまった。
「はぁ…………あぁ…くそっ! 馬鹿かお前ぇは!」
 暫くして無造作に頭を掻き毟った後一気に立ち上がり、意を決してヤマトは問いに答える。

「俺はお前とやり合いに来たんだ。それ以上でもそれ以下でもねぇ。確かに他に理由もあった気がする。だがそんなものは後の事だ…今の俺を動かしてんのはそんなことじゃねーんだよっ!」
「だからよ、そんなつまらねぇモン持ち出して台無しにしてくれるな。俺はただお前とやりてぇ…ただそれだけだ」

 それは、本来あまぎが望んでいた答えだった。胸に秘めたる想いに通ずる、純粋な願いだった。しかし、己の立場と相手の主張がそれを邪魔すると思っていた。どうしても成せ得ぬ状況だと。
 恐らく今自分の顔は紅潮しているのではないかと思い、とっさに背を向け顔を伏せる。誰にも見せたくない…特にこの男の、試合の前では見せたくない顔だった。
「……お前と言う奴は…本当に………どこまで…………」
声を震わせぬ様に勤め、見られるぬ様に浮かんできた涙を拭う。深呼吸をゆっくりと終え、顔を整え、心を固める。そうだ、私は…これから最愛の男と長年望んできた戦いに挑むのだ、と。
「…わかった、お前の言うとおりだ。そう…私たちはそういう間柄だったな…。私も…ただお前と仕合う事を…ただそれだけを望んでいる」
 振り向いて見る男の顔には、無邪気な笑みが浮かんでいた。

「よしっ……んじゃま、いくぜ?」
「ああっ!」

 戦いの火ぶたが切られた。


‐数時間前、ワノクニ東海上‐

ナタルは焦燥していた。自らの主が下した命を受けて、心を乱さずにはいられなかった。共に命を受けた2人の姉が、事もなげに〝それ〟を復唱するのを聴き、今まで抱いたことのない念を二人へ向けそうになった。
一人になった今、ひたすらに思考を繰り返している。ただ、立ち止まってはいられなかった。
どちらにせよ、自分はその場所へ向かわなくてはならぬ。
そう、どちら側に付くにせよ…。

‐卯の刻前、朝廷前無天蓋舞殿‐

領国の強襲は膠着状態が尚も続き、遂には統国側の兵も監視を続けるだけで、威嚇の矢さえ飛び交う事のない疲弊状態へ陥っていた。内部の反乱は鎮圧へ向かっており、捕えられた民と兵は、ただひたすらに朝廷へ向かっていった男達へ祈りを捧げている。
時を同じくして朝廷前舞殿。元々神々への感謝の舞いを踊り、祭りを捧げるために用意立てられた舞台の上で、一人の剣士と一人の女王が戦っていた。
刀と弓。いくら広いと言えども、拓けた舞台の上で戦うのは難しく思われた戦いであったが、二人はその場所を何一つ苦にせず戦い続ける。
鋭く空を割くヤマトの刃を、あまぎは舞うように寸前で躱す。その翻す身から素早く放たれた矢がヤマトを襲うが、彼は事もなげに刀で捌いて見せる。
距離を詰め寄る剣士に、射手は体術と弓を持ってこれを制し、わずかな間を逃さず矢を放つ。
水面の月の様に掴みどころのない射手に対し、剣士はあくまで力強く、辛抱強く、粘り強く向かってゆく。その刃に迷いはなく、その大きさからは予想もつかぬ速さで野太刀を振るう。
互いの攻防は一時も止まず、ただただ刀が風を切る音と、弓が弦を弾く音のみがあたりに響いた。何も知らぬものが見れば、それはまさしく祭事の神楽に行われる舞いの様であった。
二人は死合いの中で舞い、演奏し、異界を生み出していた。彼らを囲った兵達は、その伝説が生まれる様を見守るために誂れていたかのように鎮座している。
悠久の時が流れる中、男女は今までの人生で一番素晴らしい時間を生きていた。
いつか訪れる終わりを想えば、その手に迷いが生じるかもしれない。しかし、相手が相手だからこそ、それは最もしてはならぬ躊躇いであり、過ちであった。
互いの攻撃に迷いが無い事こそが最上の応答であり、想いの強さを感じる理由。
ヤマトは戦いの中で、あまぎをこれ以上ない程身近に感じ、
あまぎはヤマトをさらに深く知った。
技を繰り出すたびに、子猫がじゃれ合うような微笑ましさがあり、はたまた龍虎の戦いの様に凄まじく、それを真摯に受け止め合った。


真に悠久に続くかと思われた試合は、思いもよらぬ事態に止められてしまう。
二人が組み交わす中、突如東の方角が一瞬にして赤く染まった…。


‐卯の刻、統国総統府東門‐

辺り一帯が炎に囲まれる中、ナタルは自身の主たる神と対峙していた。
あまてらすが問う。
「やけに様子がおかしいと思いましたが…どういう心境の変化かお伺いしても?」
ナタルは答える
「心境の変化…変化ではないのデス…」
変化ではない。心が定まり生まれたのは今この時なのだと、ナタルは思う。
己の主へ牙を向ける事、己の姉妹へ刃を向ける事、それすらも躊躇わぬ答えを、ナタルは二人の舞いを見て得ていた。人の世を、魂を悪戯に神が弄ぶべきではないのだ。模造された存在だからと蔑に扱い、飽きたからと言って葬っていい筈がない。
それはあの二人が教えてくれた。同じく神に作られた自分に、初めての戦いの決意をもたらした。
懇願する方法もあったかもしれない。しかし、主はそれを由としないだろう。
この無邪気であり無慈悲な神は、他者の願いを聞き入れる器では無い事を、仕える身で嫌というほど知っていた。
ならば、と。残された方法はもはやこれしか残っていない。ナタルは再び爪を強く握りしめ、それを見たあまてらすは嬉しそうに微笑んで見せる。
「…よく分かりませんが、貴女…とても面白くなられましたのね…心機一転…かしら?よくわかりました…」
途端に炎は強く燃え上がり、先程まで屯していた人間を燃料にしたかの様に赤く赤く燃え広がった。そこから、周囲の魂を狩り終わった姉たちが姿を見せる。
彼女たちの目に慈悲の光は浮かんでいない。元よりわかりきっていたことだ…そこに昔の自分を見出し、ナタルは少し苦笑した。
「さぁ…あそびましょう」


‐同時刻、朝廷前無天舞殿‐

凄まじい爆音があたりを振動させ、赤い光が東方より闇を割いて広がっている。
舞うように戦っていた二人もその異常に手を止め、音と光の方向を見て各々頭を動かし始めていた。
地響きが漸く鳴り止んだかというタイミングで、一人の武官が駆け込んできた。その場に皇帝の姿を見定めた彼は、素早く目の前で跪き堰を切った。
「ご報告申し上げます!東門よりさらに東方の海上より、無数の竜が出現しこちらに向かってきております!」
その場にいた一同が身を強張らせる。しかし彼の報告は途切れずに続く。
「さらに、所属不明の敵が東門を占拠!周囲を一瞬で燃え上がらせ、現在誰も立ち入ることが出来ない状況にあります!!」
「お、おいおいっ、ちょっと待て!」
彼の報告を聞いてヤマトが口を開けた。
「お前今〝東門を占拠〟っつったな? そこにいた兵…ええぃ、どっちも構わねぇ、そこにいた連中はどうなった??」
 見慣れぬヤマトの風貌に少し戸惑いつつも、あまぎが頷くのを見て武官はそれに答えた。
「お、恐らくですが…全滅したものと思われます」
 彼の手は震えていた。おそらく自分でも状況を飲み込み切れていないのだろう。全滅の2文字に周囲はさらにどよめき、焦りが感染していった。
 しかし、この中であまぎ一人だけは攻めてきた手合いに予想がついていた。そして同時に、それが事実である場合を考えると、とてつもなく恐ろしい事が始まったのだという事にも気が付いた。
 周囲が指示を待つ中、あまぎはひたすらに考えていた。東の海上からの強襲…ドラゴンを率いてすさまじい力を放つ存在。それは神々以外の何者でもないだろう。
 民衆の信仰が薄れ、また統国が神へ捧げる魂…生贄の存在の撤廃。数々の兆しが見せていた神の怒り。それが今解り易い現実として現れたに違いない。
 我々人は、粛清されることが決定されたのだ。もうどうしようもない…そんな思考に陥ってたあまぎの肩を、力強い手がつかんだ。ヤマトだった。
「おいっ、しっかりしろ!」。
「お前ぇが指示を出さねぇでどうするっ!こいつら、皆お前を待ってんぞ!!」
「し…しかし」
「しかし?…しかし、なんだ?ハッキリ言いやがれっ!」
 あまぎは唾を飲み込み、自分の考えを周囲に告げた。
「恐らく、今襲ってきたのは…この国、ワノクニを創造した神々だ」
「………はぁ? なんだ、手前ぇいきなりイカレちまったのか?」
「違う!」ヤマトの手を払い、抗議する。
「おとぎ話の類では無い…太古よりこの国は神々と繋がりがあったのだ…今、この時代に於いてもだ」
 あまぎはヤマトと周囲の人間に、古来より続くワノクニと神々のつながりを説いた。今現在、この国を襲っている様々な弊害はその表れであり、神の要求を避け続けてきたのがそのきっかけになった事についても事細やかに説明した。
「…我々人間は粛清されることが決定されたのだ。過去にも一度神によって、大幅な人民の削減があった記録がある。だが今回は…」
 すべてを聞かずに、ヤマトはその場を後にしようとしていた。
「お、おい!どこへ行く!」
「……あぁん?どこだ? んなもん決まってんだろっ!!」
 周囲の人間が全員ヤマトへ注目した。
「俺たち人間は今までどうやって生きてきた?あぁ? 腹が減ったら飯を食う!小便したくなったら小便する!当たり前ぇの事だろうが!!」
「生きるためなら何だってする。それが俺達、人間様だろうが。竜が現れたら竜と戦う!守りてぇ奴が居たら守る!戦うやつが戦うって道理は決まってんだろ」
「ば…馬鹿を言うな!今迄とはわけが違うんだぞ!」

「お前ぇこそ馬鹿言ってんじゃねえええええーーーー!!!!!!」
 
ヤマトの怒号があたりを響かせる。
「神様が攻めてきたら生きるのを止めるのかよ?えぇ? さっきまで命燃やして輝いてたお前ぇはどこに行った?」
「俺は一分も綺麗事言ってるつもりはねぇ。生きたいから戦う。守りたいから戦うんだ。おい!ここにいる手前ぇら全員だってそうだっ!!!生きたい奴は戦え!死にてぇ奴はとっととくたばっちまえ!!!!」
 ヤマトの発言に周囲が徐々に沸きあがっていく。あっけにとられてるあまぎにヤマトは再び近づき、更に言う。
「それにな、お前ぇが死にたいっつっても死なせねぇぞ…まだ決着がついてねんだ。勝手に死にやがったら俺が張っ倒しにに行くから覚悟しやがれ!!!」
 再びヤマトはあまぎの肩を掴んだ。その手はわずかに震え、彼女は男の心境を密かに知った。彼の勇気は蛮勇では無い、恐れは確かに等しくヤマトにも訪れているのだ。ただそれを今見せ、立ち止まるべきではないと、彼は言っているのだ。
ヤマトは自分に語りかけている。自らの肩に架けられた腕を、今度は優しく掴みかえす。乱れていた心が漸く元の形に定まりつつあった。小さな肩をゆっくりと上下し、吸い込んだ息を一気に吐き出すようにあまぎは号令をかける。
「全軍突撃!、目標東門、及び道中に出現した竜を優先とせよ!第二槍隊・弓隊はここに残り警備を続行!第一隊は我に追従せよ!」
「町中に散らばった竜どもは俺達領国に任せろ!! 今は争ってる場合じゃねぇ、きれいな状態で譲って貰わなきゃ意味がねぇからな……見事に掃除してやるぜ!!!」

兵たちの掛け声が一つになり、神々への反逆が今確かに始まった。


‐同時刻、統国総統府東門‐

遊びましょう、あまてらすは確かにそう言った。それもその筈だろう、このままでは本当に遊びの域を脱しかねない。
ナタルは2人の姉の攻撃を何とか捌きながら、あまてらすの組み上げる術式を阻害しようと試みるがその余裕は生まれない。むしろ、あまてらすがその気になれば術式を組みながらナタルを攻撃することだって可能なはずだ。
弄ばれている…どうにかこの現状を打破しなければ、宝物のように感じた己の心が価値など何も無い物になってしまう。ワノクニを、人間を、あの二人を守ると誓ったのだ。生まれたての心に。

ナタルは激しい攻防の中で、あの男と初めて出会った時の事を思い出していた。
自由奔放に人の世に出歩いては、獣相手に喧嘩を吹っかけ小山の大将を気取っていた。戦いの技術は遊びの道具のようなもので、持って生まれた能力なれど、持て余す他無かった。
その日もいつもと同じように林の中を散策しては、突如現れた熊を一撃のもとに仕留めた。熊鍋にして食べようかと思案しているところに、突如一人の男が姿を現し土下座を始めたのだった。
「お、俺を弟子にしてくれ!たのむっ、この通りだ!!」

そもそも土下座の意味や、師匠という言葉の意味すら知らず、この男が自身の戦闘術を享受したがっていると理解するまでにひと月程かかった。
それでも見ず知らずの存在に教える気などさらさらなく、適当にあしらって撒いては発見されるのを繰り返していた。それでも男は執拗に自分を追廻し、その執念たるや発見速度が徐々に早まっていくのには驚いた。
一つの季節が過ぎた頃、だんだん逃げ回るのが面倒になって来て、適当に指導してキッパリ離れて行ってもらった方が楽だと漸く悟った。師弟関係とやらを認めると、男はやたら嬉しそうに小躍りを始め、その滑稽な様が妙に面白かったのをよく覚えている。

しかし、指導を始めたら始めたらで男は奇妙な様子を見せた。教えを乞う身でありながら、この男は常に目を閉じて対峙しているのだ。これでは何を言っても通じているか分からぬし、そもそも組手の一つも儘ならない。面倒臭くも何故始終目を瞑っているのかを問いただすと、男は予想だにしなかった答えを返した。
「…俺ぁ、女が駄目なんだ。見るのも、傍にいるのも…」
詳しく話すように促すと、さながら喜劇のような理由を語り始める。剣士の道に幼少から生きており、か弱い女などまるで眼中にない生活を続けておったところ、ライバルだと思っていた相手が妙にやり辛い女性へと成長していた。さらには、その女性にコテンパンにやられてしまい、以来女性という女性が恐ろしくなってしまったという。要するに、この男にとっては女性全般が克服し辛い強敵へと変貌してしまったのだろう。
あまりの馬鹿馬鹿しい理由に半ば呆れてもいたが、実際はもう一つ、別の事を感じていた。そうか、己は女であったのだと、産まれて初めて自覚した。

それからの修業は大変だった。男は「心眼を得る」と言って聞かず、何を言っても目を開かずに組手を受けようとする。このままでは何一つ会得できず、面倒な師弟関係がいつまでたっても終わりを見せない。
それでも組手を乞う男を一週間ほど一方的に殴り飛ばし続けた後、とうとう我慢ならずに己から女に慣れる修行をするように進言した。
それは宛ら、泳げぬ幼子を水に慣らす様に似ており、目をしっかり開かせ、身近な女である私を眺める時間を徐々に伸ばす修行であった。初め、数秒で目を閉じ大量の油汗を流す様を見たときは、己の女としての造形があまりにえげつないのではないのかと、らしくもない危惧をしたものだが…丁稚で旅する幼い女子を、遠くより眺めるように言った時も同じ反応を見せたので安心した。
相変わらず見えぬままの組手も同時に続け、やがて男は心眼まではいかずとも、相手の動きを視覚を除いた感覚でとらえる事に慣れ始めていた。そして妙に体躯が打たれ強くなっていった。
一年が過ぎた頃。ようやく男は私を完全に見る事が出来るようになった。いや、この頃はもう「弟子」と呼んでいた気がする。
しかし、まだまだ女性恐怖症を完全に克服したわけでは無く、他の女性(特に、麗しい女性)を見ると相変わらず脂汗を流し始める。これには少々怒りを覚えたが、どうやら苦手な女性には特徴があるらしく、例のライバルである女性に似ているとダメな様子だった。

不思議なもので、最初は意味すら分からず鬱陶しく感じていた師弟という物に、自ら執着がある事を認識していた。
弟子が「師匠」と呼ぶと、どうも己が特別であるような感覚になる。同時に「弟子」と呼ぶことに対しても、依り代を操る時とは違った感覚を得る。楽しいのだ。
やがて弟子は、恐怖症を完全に等しく克服しはじめていた。弟子が恐れる女性を模した依り代を相手に、戦って勝つという模擬戦を繰り返し行ったのが大きかったようだ。
組手は次元を超え、ほぼ心眼は完成しつつあった。更にそこへ視覚が加わることで素早い判断を得ている様にも思えた。殴り飛ばし続けた体躯は異常な程の頑強を得ていた。ここに至るまで3年を有した。
少々の技も伝授し、弟子は旅立つことを決心した。目的があっての修行であったのだから当然の顛末である。
旅立ちの日、私が「今日で師弟関係も終わりダ」と言うと、弟子は妙な顔をした後それを崩し「師匠ずっと俺の師匠だ」と笑って去っていった。
初めの目的とは違った結果を得たが、私は満足していた。去りゆく男の背中を眺め、どこか暖かい想いと形容しがたい物が胸を占めていた。

今にして思えば、私の心はあの修行によって生まれたのかもしれない。弟子を鍛える傍らで、私は弟子に鍛えられたのだ。心を持つ下地を授かったのだろう。
そしてそれは見事に咲いた。今迄模造品が何を浮かれているのかと冷淡に見ていた〝心〟というモノを、自身が持つ事で視界が一気に開けたのだ。
しかし今、その心も役に立たず、価値もなく散ろうとしている。二人の姉の攻撃は弱まることなく、あまてらすが作る浄化の術式は完成しかけていた。
焦りからか読み違え、捌ききれなかった凶刃が眼前に迫りくる中、私は許しを請うように胸の中で言葉を漏らした。

「…これで、本当に師弟関係も終わりダ」

風を切って何かが目の前を通り過ぎた。長く、鈍い光を放つそれは、姉の刃をかち上げ、甲高い金属音を鳴り響かせる。
同時にあまてらすが嗚咽を漏らす。見ると、術式を完成させる最後の火種が矢を受け消滅し始めていた。
大きく間合いを取る姉上達を横目に、私は突如現れた新手へと視線を向ける。見覚えのある顔が二つあった。

「だああぁー!師匠、何やってんだ!っぶねーぞ!!」
「馬鹿弟子……」
「うすっ、久しぶり!」何一つ変わりない顔で弟子が言う。
「ヤマト!気を抜くな、早く構えろっ!」赤みを差した顔で女王が怒号を上げる。
 相手も漸く援軍の2人を認知した様子だった。あまてらすの表情がさらに歪み、か細く歪な笑い声が微かに聞き取れる。
 女王は崩れかけた塀の上より弓を構え、弟子は私の傍らに立った。不安はもう何処にも無い。
「さぁ…反撃開始デスね!」


 一部―完―



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