「あなたは生まれてはいけない運命だったのよ」
「お前はこの家、いや、この世の邪魔ものだ」
「あんたなんか私の友達じゃない。近寄らないで」
「馴れ馴れしくすんな! この役立たずが!」
頭に浮かんだのは数々の罵り、裏切り。その他、悪意の感情を含んだ言葉達。そして、それを吐いた家族だと思っていた人、友達だと思っていた人。
胸に突き刺さる現実。
嫌で、嫌で、仕方がなかった。嘘だと信じたい。
きっとしばらくすれば目が覚めて、いつもの温かくて楽しい日々が待っているはずだ、と考えた少年は目を閉じる。しかし、降りしきる雨が眠らせてくれない。
ふらふらとおぼつかない足取りで全身に傷を負った少年は顔を苦痛にゆがませながらも、細い路地に入り壁にもたれかかる。もう立てない。そんな気だるい疲労感に襲われる。
(もう……どうでもいいや。疲れたよ……)
現実にあきらめて、目を閉じようとした。ここで眠れば自分の命が持たないこともわかっているのにかかわらず。それが少年の本望だった。
何も悪くないのに。
頑張っているのに。
努力しているのに。
相手の都合だけでいとも簡単に捨てられる。
異常(・・)な彼がなにをしても無駄なのだ。
「…………雨……」
さきほどより勢いが強くなっていく。周りの音をかき消すぐらいに。でも、それは俺をあざ笑うように思えて。自分だけが世界からはじき出されたような気がして。『邪魔者だ』と言われた気がして、仕方がなかった。
「……ぅ……ぅぅう……」
泣いた。もう限界だったのだろう。
無情な雨が体を打ち続ける。
この世界(・・)でも少年に声を掛けるものなんていなかった。その事実と共に。
体が冷えていく。時間がいくら過ぎても、雨は一向にやむ気配はなかった。
寒い……寒い…………。
神様。……もう……良いかな…………?
そうだよ、ここで倒れたら楽になるのだから。この先、どうせ変わらない世界しか待っていないのだから。ならば、もう俺は。
「――――――」
――――――――――――――――――――。
○
雨が降りしきっている。それは町全体を包むベールのように。どんよりとした少し重い空気が漂っていた。
ザーザーとやかましく音が響く。周りの音は全てかき消すようにして。……これだから、雨は嫌なんだ……。
自分が『邪魔者』だと見事に痛感させられる……。
こんな日は速く帰るのに尽きる。……と、思ったのだけれど。
「……ん?」
目に人影がうつった。
……そういえば、もう一つあったな、雨が嫌いな理由。こういうときに限って視界はきれいに映るのだ。
あまりに平和なこの国には珍しい、倒れた状態の少年。黒色の髪が特徴的だ。この国において茶色ならまだしも黒髪というのは稀有な存在なのだ。そんな存在が目の前にあることに疑念を覚える。しかし、この少女――ミネットはそれよりも気になることがあった。
――どうして誰も助けようとしないんだ?
ここは町の中でも有数の大通り。なのに、誰もその少年に話しかけるどころか見向きもしない。
「……どうなっているんだ……」
ミネットは急いで少年に駆け寄り、上着を被せる。
……冷たい。かなりの間、雨に濡れていた事が安易にうかがえる。
「すまない! 誰か手を貸して頂けないだろうか!?」
だが、しかし。返事が返ってくるわけもなかった。
弱っていく少年の呼吸音。無表情で通り過ぎていく奴らに苛立ちを感じる。でも、今はそれどころじゃない。
「くそっ!」
怒りに顔をゆがめた金髪の彼女は少年を抱きかかえると、自分の家に向かって走り出す。
『――――――――――――』
その間も雨は降り続けたままだった。
○
誰も近寄ろうとは思わないであろうほどにさびれた教会。外装ほどではないが、内装も汚れている。しかし、住めないほどではない。
そんな中の一室の端に設置されているソファ。本来ならミネットが寝ているはずなのだが、現在は黒髪の少年が占領していた。さっきまで絶えかけていた呼吸も今となっては正常に戻っている。
「……すぅ……すぅ……」
気持ちよさそうに寝息を立てている少年を見て、少し安堵する彼女。それに心が安らいだ気がした。ほっと、一息ついた。
「なんとか……なったみたいだな……」
ドッと疲れが湧いて出てくる。それもそのはず。ずっと寝ていなかったのだ。緊張も途切れたから尚更、疲れた。ちらりと少年に目をやる。
変わらず、気持ちよさそうに。その顔には笑みを浮かべている。
……この様子なら、もう心配はなさそうだな。
「……電気は消したっと……」
それだけ確認して、もう一度少年を見やる。そして、一言。
「……おやすみ」
少女もその場で眠りに着いた。
――これが後に『魔術殺し』と呼ばれた少年と『暴食』と畏怖された魔法使いの出会いだった――
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初めまして。初めての投稿となります、『かかなし』と申すものです
新参ゆえ、至らないところもあると思いますが教えて頂けると嬉しいです