エヴァダイル 第一話
「秘密犯罪会社バロック・ワークス社、オフィサ・エージェント、Mr3」
日本 第3新東京市
ジーワ ジーワ ジーワ ジーワ
「あっついなぁ相変わらず。最悪...........。連絡入れないと。勝手に第三に来ちゃったし。」
セカンド・インパクトの影響でかつては四季があった日本は常夏の国になっていた。一人の少年が日本の第3新東京市内の駅のプラットフォームに立っていた。スマートフォンをポケットから取り出す。ある番号に電話をかけるとすぐに相手が電話に出た。
「テメエか。勝手に動きやがって。」
ゲッ..怒っているわ、やっぱ
「すいません......怒ってます? 」
「まぁ良い。今回は大目に見てやる。お前はネルフを内偵しろ。」
ネルフは国連直属の巨大組織であり防諜能力は軍隊並みであることは公然の秘密だった。シンジもそれを当然知っている。ネルフに潜り込むなどほぼ不可能だ。
「じょ、冗談ですよねボス。アタマの使いすぎでイカれちゃったんですか?大丈夫ですか?ネルフは軍隊並みですよ。そこに潜れなんて。」
「相変わらずいい度胸だな。ネルフ本部の防諜能力は軍隊並みどころが世界トップクラスだってことはお前に言われずとも知ってる。だがお前の父親がお前を探している。その伝手でネルフ本部に潜りネルフが何を企んでいるかを探れ。」
命令だけ伝えると電話先の男は電話を切ってしまった。
「無茶言うなぁ。」
アジア・某所
簡潔に命令を伝えると海賊は電話を切った。受話器を置くとチンっと音がよく響いた。
「報告を続けろ」
「目標のスケジュールと生活習慣は調査済みです。大田議員は今週中に”事故死”する予定です。与党内部でも相当な嫌われ者ですから当社に捜査の手が伸びるほどの綿密な捜査はされないと見ています。」
海賊の鉤爪をつけた大柄な男はバロック・ワークス社のエージェントから報告を受けていた。男の周囲の壁の向こう側は水であり水面を通して太陽光が社長室に降り注いでいる。
「ご苦労だった。Mr.1。後は当初の計画に従え。」
「それと、Mr.11は日本政府の犬だ。フロンティア・エージェントにまで引き上げて大丈夫ですか、ボス?」
「Mr.0の正体を知っているのはMr.3以上のエージェントのみだ。問題ねぇ。ただし目を離すな。Mr.1」
ボスと呼ばれた男の名はクロコダイル。「元・王下七武海 海賊、バロック・ワークス社社長 Mr.0」。スナスナの実を食べた悪魔の実の能力者。かつては異世界の海で王下七武海として名を馳せた海賊。こちらの世界では対抗組織が放った暗殺者はもとよりSASやデルタ・フォースが仕掛けた暗殺計画を尽く潰してきた屈強な海賊だった。クロコダイル暗殺のために侵入した特殊部隊隊員の遺体は全ての水分を吸い取られたミイラになっており関係者の度肝を抜いた。
「ネルフ内偵の件、大丈夫かしら?ネルフに潜るのは至難の業よ?」
「心配性だなMs.オールサンデー。問題ねぇ。Mr2を先行して潜入させてある。」
ニヤリと不気味な笑いを浮かべる。
日本、第3新東京市
シンジはネルフ本部の人間と接触しなければならなかった。これからネルフ本部に行っても中に通してもらえるだろうが怪しまれるにきまっている。シンジは接触方法を工夫しなければならなかった。できるだけ自然な接触にしなければ。
「取り敢えず観光ということにして街をうろつくか........」
適当なところに宿をとって街をうろついていれば向こうから接触してくるだろうという魂胆だった。
市内のビジネスホテルに宿をとって街を彷徨いていたらネルフは意外にあっさりと接触してきた。コンビニで夜ご飯を買ってホテルに帰る途中で黒服を着込んだゴツイ男たちが話しかけてきた。
「碇シンジ君だね?」
「な、なんですか?」
「我々はネルフの者だ。一緒に来てもらおう」
「いきなりなんですか?僕はネルフに用事なんてありませんよ。この街にはちょっとした小旅行できたのに。」
「我々は碇ゲンドウ司令から君を連れてくるように命令を受けた。すまないが一緒に来てもらおう。」
ボスからネルフ潜入の指令を受けてから3日目にしてようやくシンジは黒塗りの車に乗せられネルフ本部に連行された。
”意外と早く接触してきたな。ボスの命令を受けてから3日もたってるから多分あの電話は盗聴されていないと思うけど。どうせ携帯の履歴は自動的に消去されるからまぁいいか。”
あれこれと思案を巡らせているうちにシンジを載せた黒塗りの車はネルフ本部を有する地下施設「ジオフロント」に到着した。
「ここ、何処ですか?僕はさっさと帰りたいんですけど。オ・ジ・サ・ン。」
「.....................................」
だれも答えないので車の助手席に座ったポニーテールの男が代わりに答える。
「....................ここはネルフの本部施設を有するジオフロントと呼ばれる場所だ。君の父親である碇ゲンドウが君に会いたがっている。それと俺はまだオジサンじゃない。碇シンジ君。」
あれ?加持さんだ。ボスも教えてくれればいいのに。まったく、あのツンデレ・ボスは.............
加持リョウジ。ネルフ本部に先行して潜入したバロック・ワークス社の幹部、Mr.2である。バロック・ワークス社内では互いの顔をあわせる機会が極端に少ない。シンジと加持のようにお互いの素性や名前を知っているのは珍しい。シンジにとって加持は兄同然の存在だった。
ネルフ本部 総司令公務室
総司令公務室まで案内されたシンジは血縁上の父親と再開を果たす。
「よく来てくれた。シンジ君。私は冬月コウゾウという。ネルフの副司令を努めている。」
「はぁ。どうも。」
「すまんなシンジ。だがどうしてもお前が必要だったのだ。私が碇ゲンドウ。お前の父親だ。」
悪い警官・良い警官のように一方が悪者を演じればもう一方の評価は相対的に上昇する。碇ゲンドウという男は目的のためには手段を選ばない男だった。自分の感情・体面でさえ目的達成のための道具にすぎない。目的のためなら何処までも非情になれたし自分の体面を気にして台詞を選んだりはしない。
げぇ。髭面の上に室内でグラサンかよ。にっあわねぇ................。
シンジはできるだけ父親に盛大に反発する息子を演じようと心がけた。シンジの目的はネルフ潜入だがゲンドウの言うことを素直に受け入れても怪しまれる。
「で?何の用?」
…........
…........
…........
…........
「いままで音沙汰なかったのに無理やり連れてきた上に自分のために働け?冗談じゃないよ!!どうしてもってなら条件がある。まずネルフの命令には従うかは僕が決める。給料と寝床は用意してね。そんならやっていい。」
「いいだろう」
第三新東京市 ネルフ本部 総司令公務室
シンジが退室するとかねてからの懸案を協議する。特務機関ネルフのトップ2が一人の人間について話し込むなど滅多にない。
「この男には前歴がない。セカンド・インパクト直後の混乱期に活動したという記録しかない。老人達も手を焼いている。そちらはどうだ冬月?」
「この男を殺害するために送り込まれた特殊部隊は尽く全滅している。ただのインテリ・マフィアではないな。セカンド・インパクトの混乱期に突然現れアジアの裏社会に勢力を一気に拡大した組織。秘密犯罪会社・バロック・ワークス。」
髭面の男の表情が歪む。ポーカフェイスで通っている碇ゲンドウの表情が歪むなど滅多にない。
「そのボス、ミスター・ゼロ。何者だ?」
第三新東京市 ネルフ本部 ジオフロント
電話は盗聴されるだろから暗号化チャットにするか。
“Mr2と接触の後ネルフ潜入に成功。ネルフ本部内部の地下居住区に部屋を借りました(はぁと)”
送信完了。よし!(よし、じゃねえよ)
しばらくスマートフォンを見ながら散歩をしていると返信がきた。
”そのまま内偵を続行しろ。まずはネルフの信用を獲得しろ。期待している。Mr.3。”
ドン!!