ラクレットさんへ
リコです。ご無沙汰しています。最近は忙しくてお返事できませんでした。私もついに任官しました。いきなり少尉になるそうです。士官学校の予備学校に通っていたのに、いきなりで驚いています。ラクレットさんはご存知だと思いますが『例の件』だそうです。
今は正式な所属の為に訓練を受ける予定になっています。NEUEのセルダールという所で高名な教官に教わるそうで、今からついていけるか心配です。
ラクレットさんは、つらい訓練を乗り切るコツとか知っていますか?
紋章機
元の定義は『翼の紋章が印された、大型戦闘機。クロノストリングという未知の基幹を搭載した超高性能機体であるが、H.A.L.Oシステムによる適性が必要とされる為に、専属のパイロットが必要になる機体』である。
この定義は時間が経過するにつれて、クロノストリングエンジンを搭載した戦闘機。になっていく。その為当初はラクレットのエタニティーソードも紋章機とされていたのだ。
しかし技術的進歩およびサルベージや復活が進むにつれて、厳密な定義の方がより広く知られ認知されるようになった。その為新たな紋章機というのは理論上発見されることはないとされていた。7号機(決戦兵器)と6号機(シャープシューター)は白き月のサルベージによるもの。これ以上はないと考えられて当然であろう。
しかしそれが覆されたのだ。現在進行中の人造紋章機製造計画通称HB計画とは別にだ。そう、NEUE世界において、4機の紋章機が確認されたのである。実はかなり初期の内に1機の機体が確認されていた。しかし、紋章のようなものはあったものの、確証はなかったのだ。しかし今回、中心的な星セルダールからは、『RA-002 イーグルゲイザー』。ナノマシンの星ピコからは『RA-003 ファーストエイダー』。魔道惑星マジークで発見された『RA-004 スペルキャスター』。この3機と同様の紋章が描かれていた機体。『RA-001 クロスキャリバー』この4機をもって、RAシリーズとされ、GAシリーズに代わる新たな紋章機。EDENではなくNEUEの紋章機とされた。
「これは新たな戦いの兆しでしょう」
「真なのか、エメンタールよ」
「ええ、私の予見にそう出ております」
「うーむ……」
紋章機が発見された当初、NEUE側もそれがEDEN側の超戦略級の兵器だという事を理解し、自分たちの手には余るものとした。その為、軍で厳重な管理をして、NEUEの為に運用してくれるなら。という条件を付帯し全面的に10年ほどの契約でEDEN側に貸し渡したのだ。
『エルシオール』と本気になったエンジェル隊とラクレット。これに補給のための船数隻に占領地を維持するための戦力があれば、EDENはNEUE銀河を容易に占拠できるほど軍事力に差があるのだ。今更であった。
EDEN側も、どうせならば、なるべく適性の合うものをNEUE側から選考してほしいという条件に最善を尽くし、適合物を探したのであるが、それはまた別の機会に。
現在、その紋章機をどうするかという話であった。女皇と宰相を筆頭に政府の重鎮で構成されているこの会議に、なぜか参加している珍しい人物。それがエメンタール・ヴァルター。肩書はテクニカルアドバイザーであった。
彼は今EDENで唯一の魔法使いである。
商会長という役柄から、NEUEエンターテインメント発展部門部長になり、現地の風俗を学んでいる間に、魔法使いに目覚めたというのが筋書であり、非常に珍しいケースであった。
マジークの魔法形態とも違い彼自身が使う『異常なまでに戦闘に特化している魔法』はマジークに術式提供され、マジークの名誉A級魔法使いの称号を得た彼は、知識人ならばもはや銀河中で知らない人がいない伝説的な存在になっていた。
もちろん、怪しまれない程度に勉強した後、習得していた魔法を案内していた現地の付き人に疲労しただけだ。エメンタールという存在の役割遂行のための一環である。
そんな彼が、あたかも『魔法で予知しました』といってしまえば。魔法的には未熟なEDENからすれば信じざるを得ないのだ。実際皇国の有名な自称他称問わずの『予知能力(プレコグニッション)』所持者も同じような終末論を、口をそろえて唱えているのももちろんあるが。
「私個人の意見ですが、新生エンジェル隊は結成すべきです。主戦場は『再誕した理想郷』NEUEになるでしょう。現地人を主体とした搭乗者で構成しろという向こうの意見にも合致します」
「そうだな……だが、エメンタールよ。あまりにも都合がよすぎないか? エンジェル隊を解散すれば、NEUEの紋章機シリーズが発見され。新たな戦いと災いが予見された。その場所もNEUEだ。まるで其方の商会のアニメーションのような筋書きだ」
「我が商会の作品をご覧いただき有難く存じます。ですが、恐れながら女皇陛下。あのヴァル・ファスクすら隷属せざるを得なかった、先進文明の上位存在は、痕跡こそあれど発見されておらず。加えて我々の技術力でも理解不能なAbsolute関連の技術があります。そういった存在の遺物が未知の勢力に渡るなどは非常に考えやすい事態です。この国でも同じことが起きました故に」
「エオニアか……」
「はい、EDENとNEUEは平行世界。古来の言葉の意味では、鑑写しの世界という意味です。そういった点から考えればおのずと……」
尤もらしくエメンタールがそう告げる。会議の場の雰囲気は完全に彼に飲まれていた。まるでそう決まっているかのように。
この後1時間もせずに、新生エンジェル隊の結成および、新造艦ルクシオールの格納庫をRAシリーズに合わせて改造する旨が描かれた書類に女皇の印が押された。
『リコちゃんへ
任官おめでとう。『その件』についてはまあ、僕の所にはさすがに来ているよ。こういった立場だし色々ね。ちゃんと学校に通って士官になったわけじゃない僕としては、あまりえらいことは言えないけれど、今後任務で一緒になった場合はお互い全力を尽くそうね。
訓練に関してはまあ、自分が成長している喜びをかみしめるのが大事かな。
任官で思ったのだけど、任官のお祝いをあげなきゃいけないね。何か欲しいものはあるかい? 嫌な話だけど、お金で買える物だったら何でもいいよ。リゾート惑星丸々は無理でも、ひと月貸し切り位ならできるし。お互い行く暇なんてないだろうけどね。』
ラクレットによる訓練を受ける訓練兵が『まとも』に育つのかと尋ねれば、苦笑いをしながら肯定をするか、怒りか恐怖を現しながら否定する。の二択であろう。実力人間性共に、軍人として最低限節度をもったものになるであろう。しかしまともの範疇に実力が収まらず、異常なまでの性能になり、軍隊向きではないスペシャリストになって戻ってくるのである。
卓越した状況把握能力を持ち、指揮システムを操りつつ敵艦の主砲に攻撃を当てるジンジャー・エール
神速の如き突撃を得意とし、5隻の巡洋艦の猛火を掻い潜り攻撃するコーク・C
柔軟な発想で、変幻自在に機体を操り敵の裏を突くビオレ・ドーフィン
冷静な判断力を有し、シミュレーターで類稀なる生存率を誇るラムネ・マーブル
あらゆる方面で優れており、ラクレットの良い所だけを受け継いだロゼル・マティウス
この前丁度エンジェル隊の解散式と同じころに行われた模擬戦では、全皇国の5機1チームの戦闘機部隊が一堂に会した大規模なものであったが、彼らに勝てるチームは存在しなかった。
平均年齢18歳弱の訓練兵がである。もちろん機体性能もあるが、彼らが平然と行えると師から学んだものは、たいていの部隊において、エースがかろうじてできるかもしれないものであった。そもラクレットの機体コンセプトが冗談のようなものなのだから、仕方がないと言える。
そんな訓練を受ける中、ロゼルが1週間ほど実家に帰省していた。急なことであったが不思議なほどに反対されることはなく、訓練も特別任務扱いで休みどころか別単位が来るといった異常なまでの待遇での突発的な休みであった。
戻ってきたロゼルを囲む4人の同期は、彼の疲れたそして弱った瞳を見て事情をなんとなく悟った。そしてそれは、ロゼル自身の言葉によって、より肯定された。
「妹の葬儀だったんだ……明日から復帰する」
ビアンカ・マティウス。齢12の少女。その人生の幕が閉じられるには早すぎる年齢であった。
次の日の訓練。ロゼルはいつもと一切変わらないパフォーマンスを見せた。事情を知る同期が先にラクレットに対して伝えて居た為、彼の方でも若干注意を払っていたが、顔色が悪く寝不足であろうことと、泣き腫らしたのか目の周りが腫れていることを除けば、普段の彼そのものであった。
「ロゼル、本当に大丈夫なのか? 」
「ああ、教官。ええ、長くないのは、心では否定しましたが、頭のどこかではわかっていたんです。この前機体を貸していただいて、夢を叶えてあげられただけでも、僕は満足ですから。ありがとうございます。」
訓練の後、自室にロゼルを招き、会話を切り出したラクレットに返ってきたのは、そんな感謝の言葉だった。ラクレットは、ロゼルが強がっているのではないかと訝しんでしまう。仕方のないことであろう、肉親を失ったことなどない彼だが想像しただけで、辛いようなことだ。しかもロゼルはかなりの愛情を彼の妹に注いでいた。彼にとって最も大切な存在だったに違わないのだから。
「それでも、肉親の死は辛いものだろう。僕は体験したことないが辛いことは無理にため込むべきじゃない」
「……そうですね。ビアンカがいなくなったと思うのは辛いです。ですが、僕はそう思えないのです。彼女はどこか遠い所で僕を見守ってくれている。そう感じるのです」
ロゼルはそう言って、首からかけていたロケットを開く。中には金髪の少女の写真が入っており、ロゼルが操作すると、ホログラムが浮かび上がった。そしてそのホログラムが微笑み、ロゼルに向かって話しかける。
どうやら過去の映像を見せてくれる録画媒体のようだ。そういった機器に疎いラクレットが感心していると、ロゼルはビアンカの言葉が途切れたところで、そっとロケットを閉じた。
「これは映像ですが、ビアンカがこうやって僕のそばにいるような、そんな気がするのは本当です。まるでそう神に選ばれた聖人のような気分です」
「……危ない変な宗教にはまってくれるなよ」
どうやら本気で言っているようで、ラクレットはそう返すことしかできなかった。彼が本当に寂しさやむなしさを感じていないのだとすれば、変に掘り返して蒸し返すのは良くないであろう。現にロゼルは呼吸の速度が落ち不規則になり、少し眠そうにしている。寝不足が解消されようとしているのであろう。既に精神は平常運転のようだ。
「ああ、もう似たようなのには入ってますよ」
「え? そ、そうなのか」
「はい、旗を折る英雄を讃える感じの宗教です。それはもう精力的に活動しています」
「ん? ああ、そうか。金は払うなよ。それと困ったら言えよ」
「はい」
違和感を覚えたが、精神衛生上関わらないほうが良いと判断しラクレットは会話を打ち切ることにした。
ロゼルは次の日から一切変わらない様子を見せる。それでもたまに思い出したように、妹の写真を見つめているが。彼がそうなった理由を知るのはずっと後のことになる。
訓練校に入った時には15から17歳だった彼らも2年経過した今では一端の戦士になっている。3年の予定だったこの訓練期間も、彼らの成長速度と予定よりも早く終わった機体の製造により、半年繰り上げされる予定だ。
そう、彼らも順調に成長を重ねたのである。
「それじゃあ始めようか。制限時間なし、ハンデなし。戦闘領域は40万四方。場所はNowhere設定。機体リミッターはお互いになしで。準備はいいかい? 」
「…………」
「うん、良いみたいだね。みんなすごい集中力だ」
上官であるラクレットの問いかけに答えない。訓練兵としてはかなりの問題行動だ。しかしながら、彼等は今精神統一によるセルフマインドコントロールをしている。一種のイメージトレーニングでもある。彼らが共通して行っている事それは
「もちろん、お互いの特殊兵装の使用は無制限だ。テンションゲージは標準設定」
「────っ! 」
エタニティーソードの特殊兵装を打ち破る自分の姿だ。普通の人は想像するだけなんて容易いと思うであろう。しかし考えてみてほしい、現実に直何か問題が発生した場合に、解決した後のんびりしている自分は想像できても、問題を解決する過程を想像できるというのは、即ち問題に対する対応力と解決策を導き出すものであり、立派な能力である。
彼等にとってコネクティッドウィルは、絶対に回避できない絶望的な困難なのだ。しかしながら彼等はそれを乗り越える必要がある。今回の敵は本気のラクレット一人。対して彼らは5人。補給がない短期決戦の条件ではどちらが有利か一目瞭然だ。これで勝てないのはおかしいのだ。
「それじゃあ行くよ。第13回非制限演習開始! 」
ラクレットのその言葉と共に、機体が『何も無い』空間に浮かび上がる。シミュレーターによるものだ。障害物が一切なく戦略ではなく個々の腕を重視する演習であるのだ。
ラクレットは小手調べにと、2万キロ離れた敵集団に最初から接近を試みる。敵はこちらの接近には当然気づいているであろうが、レーダーで確認すると1機がこちらに先行している。もちろんラクレットは敵が小隊編成を組んで接近していることを理解し、最初からやる気かと思い迎え撃つ心算で接近する。
「へぇ……ロゼルとジンジャーが両翼か。何か考えているかな」
戦闘形態でもカメラによる目視が可能になると、ラクレットは敵の陣形を確認した。どうやら四角錐を縦に押しつぶしたような陣形のようだが、ポジションがいつもと異なる。ラクレットはその事実を頭に入れつつ、ひたすらに一番近い先頭にいるコーク機に狙いを定めて接近する。お互いが距離を詰めているために、1万キロという距離も数秒で0になる。
「まず1機!! 」
すれ違いざまに最小限の動きで敵機達からの攻撃を躱し一撃を叩き込んだ。狙い通りスラスター部分にかなりの損傷を与えた様子。まともな戦闘行動はもう取れないであろう。刹那の一瞬交差で正確に剣を当てる彼も大概だが、急所とはいえ致命傷だけは避けたコークも流石だ。それでも果敢な攻撃が長所であるコークをつぶせたのはラクレットからすれば満足であった。
その後旋回性能で勝るホーリーブラッドが最小の距離でUターンを決め4機が背後に付くのを感じとった。すぐさま振り払うべきであるがそれは『想定されているであろう』事柄。ラクレットはあえて、後ろを取らせて、攻撃をかすめながらも回避を続ける。リーチで勝る相手に後ろを取られている。そんな状況だ。
そう、パイロットのテンションが加速度的に上昇するのだ。
ラクレットの狙いに気づいたのか4機は2機の編成を組み直し上下に分かれて逃げる。さすがのラクレットも、そうなってしまえば『コネクティッドウィル』により同時に4機を落とすことはできない。だが1機ごとに分散してしまえば、実力の関係で通常駆動で問題なく処理できる。敵の頭数は多いが、その為に個々のテンションが溜まり難いという欠点がある。
紋章機の操縦者のテンションは基本的に与えたダメージと受けたダメージと攻撃を回避したことによって決まるのだ。実機では機体とのシンクロであるため、もっと流動的なものだがシミュレーターではそのように表現されているのである。
しかし、かといって前述の通り、訓練生たちが1対1でラクレットを破るのは困難だ。単純な実力の差だけではなく、特殊兵装の相性の問題だ。1対1で戦えば、お互い1度は特殊兵装を撃つ機会がある。基本的に先に撃ち当てれば勝ちである。しかし、体当たりである『フォトンダイバー』は対戦闘機、しかもエタニティーソードに対しては絶望的に相性が悪い。まず当たらないのだ。
発動可能な距離があるため、宇宙嵐でレーダーが正常に作用しない状況であれば、味方機からのデータリンクを頼りに、射程距離ギリギリから当てるなどもできるが、現状では不可能だ。
閑話休題、ともかく二手に分かれた機体達を、残しておくと厄介かつ、故に模擬線において、彼らの中で相対的に生存時間の短い傾向にあるロゼルとジンジャーの機体を狙うことにした。頭から潰すのは当然の作戦だ。
急上昇をして追従すると、下方に逃げた機体が翻って背後を取ろうとする。ラクレットは口元を緩めて機体を移動形態に変更させた。狙い道理だ。急加速をつけて、背後の2機を振り切り、前方の2機すらも追い抜く。そしてその場で形態を切り替える際の自動減速を利用しつつ反転する。
狙いに気づいたのか『1直線状に並んだ』4機の機体が逃れるために方向を急転換する。
「だが遅い。コネクティッドウィル」
そう呟きラクレットは特殊兵装を起動。まず縦に一振り唐竹に振り下ろし、下から逃れようとしたジンジャー機めがけて左に切り上げる。ジン ジャー機は苦し紛れにミサイルを全発放ったが、ロックが甘かったのか半分ほどは明後日の方向に消えていった。
ジンジャー機がしめやかに爆発四散したことを確認すると、さらに連撃でロゼル機を落としにかかる為に右に振りかざそうとする。しかしここで遠方からビオレ機とラムネ機がミサイルとレーザーにより機体と刃への攻撃を開始した。瞬間的にラクレットは刃をそのまま限界まで左に振り切り機体の左肩から背中に隠すようにした後に全力で右に振りかざした。
「消え去れぇ!! 」
ラクレットがそう強く念じて、能力を用いてエネルギー出力を調整。短く太くしこちらに迫るすべての攻撃を薙ぎ払った。その余波だけで、ロゼル機は中破するものの撃破には至らなかった様で、大量のカートリッジをまき散らしながら攻撃をしているのが直接H.A.L.Oシステムとつながっている脳に入って来た。
そのまま技後の硬直を好機と見たのか、それともロゼル機を救援に来たのか、ラムネ機とビオレ機は急接近を仕掛けてくる。出鱈目なまでにミサイルをばら撒く様子からするに、彼らの機体の兵装はミサイルを中心としたものに換装した模様だ。そういったことがある程度できるのも人造紋章機のメリットであろう。
「だが甘い!! 」
ラクレットはすぐさま直線的に突っ込んで来る2機の進路を読み取り、剣を構える。そして再びエネルギーを調整し剣の長さを変える。特殊兵装が消えても、瞬間的に長さを変更することは可能なのだ。
正面から延びる光の杭に向かい2機は爆発的な加速を伴って突っ込んで行く。2機のシールドも装甲も数秒と持たずに蒸発してしまうが。ラクレットは剣のエネルギーを一時的に失ってしまう。そう、瞬間的に増やしたのならば、その後数瞬は実体剣を覆う程度しか展開できなくなる。そうその瞬間であった。
ラクレットが強烈な衝撃を感じ取ったのは
「っく!! なんだ!! まさか!? 」
すぐさま思い出すのは、これほどのダメージを与えることができるのは特殊兵装のみであることだという事実だ。反射的にラクレットは、こちらを削っているであろう、下方からの物体に向かって剣を突き刺した。そしてそれが命取りになる。
その瞬間、エタニティーソードのシールドが0になり、周囲が暗転する。リザルト画面に出てきた文字を見てラクレットはすべてを察した。
6”07 ジンジャー機撃墜
6”14 ビオレ機撃墜
6”14 ラムネ機撃墜
6”19 コーク機撃墜
6”19 自機撃破 戦闘終了。
ラクレットの敗北であった。
その日の晩、ラクレットは一人自室で寛いでいた。眺めているのは今日の演習のデータだ。訓練兵たちの勝因。それは無理矢理に発動させたコーク機の特殊兵装であった。最初にスラスターを切られることを彼らは予想していたのだ。ラクレットが最初の一撃は様子見をするであろうことをジンジャーは見抜いていたのだ。あとは最も近接戦において腕が優れるコークが可能な限り被害を小さく受けるという風に決めたのだ。
その後は単純だ。コーク機は戦闘が激化し注意がそれたら、自機のシールドを機銃で削り始めた。しかしそれでは予定よりもテンションがたまらず、ばら撒かれたミサイルを受けることにしたのだ。ロゼル機が発生されていたのはジャミング用の装置であり、小規模の空間に限定的な妨害を行うものだ。そして、スラスターが壊れていた機体に攻撃を加えた結果、爆発。特殊兵装のダメージも相成ってエタニティーソードは撃破されたのだ。
まとめると、各自が使用した兵装はコークがシールドエネルギーと軌道制御に優れる標準型、ビオレとラムネがミサイル搭載とシールドエネルギーに優れる防御的な型、ジンジャーがミサイル搭載数を増やした攻撃型、ロゼルは完全な支援型であった。
正直実戦で使える運用ではない上に、装備が各自偏りすぎている。特にロゼル機は問題であろう。しかしそれでもだ。五分の条件で彼らが初めてラクレットを打倒したのだ。これは教官として誇るべきことであろう。
それでも、どこかに悔しいという気持ちはあった。戦闘後のデブリーフィングで戦略自体を窘めた後、大いに功績については褒めておいたのだ。その際ちゃんといつもの顔でできたか不安だが、彼等は浮かれていて覚えてはいないであろう。
そんな、微妙なラクレットの心を見透かしたかのように一つの通信が彼のもとに入る。
「アンタの機体の改修終わったわよ」
いうなれば主人公強化フラグの為の負けイベントだったのかもしれない。