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No.37537の一覧
[0] 銀河天使な僕と君たち (Galaxy AngelⅡ オリ主)[HIGU](2015/11/02 02:59)
[1] 空白期1 413年[HIGU](2014/10/19 22:39)
[2] 空白期2 413-414年[HIGU](2014/10/21 22:52)
[3] 空白期3 414年[HIGU](2014/10/23 23:55)
[4] 空白期4 414年[HIGU](2014/11/10 23:29)
[5] 空白期5 414-415年[HIGU](2014/11/11 01:18)
[6] 空白期6 415年[HIGU](2014/11/12 02:03)
[7] 空白期7 415年[HIGU](2014/11/16 14:27)
[8] 空白期8 415-416年[HIGU](2014/11/16 16:41)
[9] 空白期9 416年[HIGU](2014/11/18 14:47)
[10] 空白期おまけ +各人の現状[HIGU](2014/11/21 00:26)
[11] 簡易年表 8/26 ver[HIGU](2013/08/26 01:38)
[12] 第1話 着任/確認[HIGU](2014/11/27 00:52)
[13] 第2話 感心/改心[HIGU](2014/11/29 13:11)
[14] 第3話 挑戦/奮戦[HIGU](2014/12/02 14:49)
[15] 第4話 不敵/無敵[HIGU](2014/12/03 16:50)
[16] 第5話 覚醒/達成[HIGU](2014/12/04 00:14)
[17] 第6話 偽悪/飛躍[HIGU](2014/12/09 15:27)
[18] 第7話 硬化/萌芽[HIGU](2014/12/14 00:54)
[19] 第8話 打倒/確答[HIGU](2014/12/16 17:50)
[21] 第9話 忸怩/人事[HIGU](2014/12/20 14:45)
[22] 第10話 比較/自覚[HIGU](2014/12/22 01:44)
[23] 第11話 成就/上手[HIGU](2014/12/26 01:04)
[24] 第12話 オリ主がここまで来るのに4年と3か月かかったのは大体作者の遅筆が悪い[HIGU](2014/12/26 02:37)
[25] 第13話 大変長らくお待たせしました[HIGU](2014/12/27 18:08)
[26] 絶対領域の扉 最終話 銀河最強の露払い担当[HIGU](2014/12/28 01:08)
[27] エピローグ フラグブレイカー ラクレット・ヴァルター[HIGU](2014/12/29 01:19)
[28] 扉と鍵の狭間 平和な世界[HIGU](2014/12/29 15:45)
[29] 第1話 3人の器[HIGU](2014/12/30 00:06)
[30] 第2話 強くなること[HIGU](2015/05/04 23:59)
[31] 第3話 集結の日[HIGU](2015/11/02 02:59)
[32] 第4話 兆し[HIGU](2016/02/05 22:54)
[33] 第5話 彼女ができた途端強気になるやつっているよね[HIGU](2016/02/17 01:42)
[34] 第6話 熟成完了[HIGU](2016/04/11 04:14)
[35] 第7話 最終形態一歩前[HIGU](2016/09/24 05:16)
[36] 第8話 賽は投げられた[HIGU](2016/10/09 06:26)
[37] 第9話 蛇の巣を超えて[HIGU](2017/11/09 05:27)
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[37537] 第4話 兆し
Name: HIGU◆36fc980e ID:4c6c319d 前を表示する / 次を表示する
Date: 2016/02/05 22:54
「カルーア、どうしました? 疲れていますか?」

「ふふっ、ラクレットさんこそ、お疲れのようですよ?」

「やっぱそう見える? まぁね……」


NEUEを航行中のルクシオールは、現状セルダール連合への挑発的行動が多くみられるようになった、アームズアライアンスへの自粛要請の為に彼らの本拠地近郊であるコフーンへ向けて航行していた。
仮に戦争になった場合でも、この1隻で敵をうち倒すことは出来なくとも、十分に撤退することはできると考えられてのことだ。事実、過剰と言っても良いほどの戦力が搭載されているこの艦を打倒するには、軍事作戦規模での戦力動員が必要であるために、偶発的な遭遇戦で敵の奇襲部隊と遭遇でもしない限り、危機すら存在しないというほどであった。


「んー、やっぱり似合わないんだよねぇ……肩肘張るのって」

「ふふっ、相変わらず冗談がお上手ですわ~」


そんな中ラクレットは恋人であるカルーア&テキーラ・マジョラムの部屋でくつろいでいた。今は完全なオフの時間であるゆえに問題はないのだが、彼の事を知る人間が見れば非常に驚くであろう。
なにせ彼は今恋人の膝の上に頭を預けて微睡んでいるのだから。だらしなく表情がにやけている訳でもなく、さりとて緊張でガチガチになっている訳でもなく、まるで飼い主の膝の上でまるくなっている猫のようだ。実態は熊か虎かそれに近いのであるが。


「示しを付けるためにもさぁ。皆に厳しくしなきゃいけない分、カルーアにもテキーラにも最悪死ねって命令しなきゃいけないし……やんなっちゃうよもう」

「そうならないように、守って下さるのでしょう?」

「そうだけどね。うん。守るよ」


ラクレットにはある意味で相応の評価と肩書が付いて回っている。それは誰もがうらやみそして尊敬するほど立派なものであるが、それに彼が行動を縛られているのだ。確かに自分はそれだけのことをしたという自負もある。そしてそれに誇りも持っている。だからこそ尊敬する上司のように脳内お花畑状態で場所に関わらずにいちゃつくなんてできないのだ。
ざっくりいうとキャラクターイメージみたいなものだ。タクト・マイヤーズは昼行燈の所まで含めて、実は切れ者というギャップの英雄であり、ラクレット・ヴァルターは質実剛健で実直かつ真面目なタフガイの英雄である。そういった世間体を気にしてしまうのだ。
逆説的に言えば、気にするからラクレットであり、気にしないからタクトなのだが。

だからこそ、彼は恋人と二人の時はどんどん取り繕わなくなってきている。反動と言うか、生きてきて常に外面を良くしようとしていた反動なのか。そして、残念なことに普段あれだけ(行動は)格好良く、(戦闘時は)凛々しく、たくましい(これは何時でも)ラクレットが自分たちの前では体裁を取り繕わないギャップを非常に可愛いと感じてしまっているのだ、彼の恋人たちは。


「あら?」

「ん、もう時間かな? にしても早い様な」

「いえ~これはちがいますわ~。ミモちゃ~ん?」


ラクレットがカルーアの膝の上で溶けていると、彼女の端末が突然電子音でアラームを発して来た。一先ず体を起こすものの、体感時間では何かしらの合図にすべき時間にまだ達していない故に頭に疑問符が残る。
しかし、彼女の方は合点がいっているのか、慣れた手でアラームを止めると部屋の隅で構って貰えずにいじけているミモレットを呼び寄せる。

「なんですにぃ! カルーア様!」

「ボンボンをくださいなぁ~」

「ハイですにぃ!」

「ん、テキーラに?」


ラクレットはその様子を見て意図は解らないものの、目的は察したので、雑に省略した単語で問いかける。カルーアも、ボンボンを受け取ながら、ラクレットに笑顔を向ける。

「ふふっ、あの人も私も毎日会えないのは寂しいので、1日おきじゃなくて、時間を半分こする事にしましたの~」

「そうだったんだ」

ラクレットは自分の心の奥底が満たされるのを感じながら、彼女がチョコレートを口にするのを見つめる。紅く潤った唇と白魚のような指が何とも艶めかしく、愛おしい。
ミモレットは既に用済みになったことを感じながら、不貞腐れた様に隅に戻っていく。良くできた使い魔である。
そうしてカルーアはわずかな光と共にテキーラになる。テキーラはカルーアの記憶を継承するので、面倒な説明は必要ないであろう。といっても何して過ごすかなぁと今の今まで時間を無為にしてきた彼は回らない頭でそう考えはじめる。


「ほら、眠いなら寝ちゃいなさい、無理しないで」

「んー、いや大丈夫。起きるよ」


ぼぅっと膝に頭を預けていたのを見て、眠くなってきたのと勘違いされたのか、テキーラはラクレットの髪の毛をいじりながらそう言った。しかし流石に彼も主観的には今会いに来たばかりの恋人がいる場所で眠る程肝が据わっている訳ではなかった。体を起こしてテキーラの隣に座りなおす。すると彼女はラクレットへともたれかかってくる。


「ん、そっちもお疲れ?」

「いえ、ただアタシがこうしたいだけよ」

「うわぁ、凄く嬉しい、そう言ってくれるだけで」

「本当大げさよね、アンタ」

「僕に喜んで接触したがる人って人生長いけど初めてだからね、肉親以外で」

「アンタ年下でしょ……」


そんな軽口を交わしながらも、ラクレットは実際に歓喜に打ち震えているし、テキーラも弱い自分を晒せる安心感に充足している。この銀河を探しても同意してくれる存在はそんなにはいないであろうが、彼女にとってラクレットとは寄り添っても倒れる事のない大樹のような存在であるのだ。こっそりと肩に預けた頭を少しだけ動かして顔を覗き込むと、ほんのりと赤みを帯びている男の頬を見つけるだけで、心が満たされるのだ。
最初の時ほど緊張はしてないが、それでも取り繕うとするその様子にどうしようもない可愛さと愛おしさを覚えてしまうのだから重症だった。


「はぁ、ずっとこのまま平和だったらいいのにね」

「ん、そうだね。でも今は貴重だから価値があるんだと思うよ」

「そんなものかしら?」

「そんなものかと思うよ」


そんなただただ平和な二人は時間ぎりぎりまでのんびりと過ごすのであった。

ドライブアウトまでの7時間、そのうちの自由時間である残り5時間を有意義に。











「カズヤ・シラナミ到着しました!」

「時間厳守は非常に好感が持てますが、隊長が最後と言うのは……いえこれもマイヤーズ流かもしれませんね」


カズヤがブリッジに入るとそこにはここ数か月で一気に増えたムーンエンジェル隊のメンバー全員がそろっていた。指定された時間よりも幾ばくかは前であるが、ドライブ中の非番の時間からの集合であるために、切りの良いタイミングで各々が集まっていたためにカズヤは最期になったのである。それを指摘したタピオは嫌味ではなく、単純な考察と言う調子で口を開いたのだが、幾人かにはそれが嫌味ったらしいそれに映ったようで、彼に向ける視線が少しばかりとげを含んだようなものになる。


「司令、ドライブアウトまで時間がありますが、もう一度状況を確認しておきましょう。我々の行動は外交的な意図が大きく、与える印象の絶対値は非常に大きいものになるでしょうし」

「教官の言う通りかと、折角少しばかり時間の余裕ができたのですから、早めに初めて、余裕を持っておきましょう。空いた時間があればもう少し親睦を含めるのも良いでしょうし」


ラクレットの言葉は対象であるココへの進言と言うよりは、話の起点としてもらうべく火をくべたものであったが、ロゼルにはそれがどう映ったのが、ラクレットに追従するように続けた。言葉を受けたココは何処か遠い所を見ていた焦点を合わせて一度ラクレットの顔を見てから周囲を見渡して、咳ばらいを一つしてから口を開いた。


「現在ルクシオールはコフーンに向けてクロノドライブ中よ。どうしてコフーンに向かっているか、リコちゃんお願いね」

「はい、UPWとして過剰な示威行動を繰り返して秩序を乱すNEUEの勢力アームズアライアンスに対する交渉および警告の為です」

「正解よ。では我々に許された裁量範囲はどこまでかしら? これはリリィさん」


「うむ、自衛に関しては多数の民間人を巻き込まなければほぼ全ての軍事行動を。それ以外では威嚇射撃や応戦行動は許可されている。ただし、先制攻撃や民間人への攻撃は『推奨』されていない。デュアルクロノブレイクキャノンは今回配備されていないが、エンジェル隊および紋章機の運用は完全に全権を持っている」


「そうよ。私たちの行動が、そのままUPWの平行世界連盟の意思として取られることを念頭に置いて考えるのならば、実質的な全権大使よ」


ココは明らかにしなかったが、言外に今回の任務は『敵の軍事拠点近くで挑発し、攻撃して来たならばその部隊を壊滅させて身の程を知らせてやれ、なるべく少ない犠牲で』というニュアンスを含まれる命令が下っていた。
色々と建て前はあるが、新たな文明を保った銀河の発見がUPWの本音としてNEUE以上にうまみのある交際相手がいないというものがあった。


「出たとこ勝負になる、まぁ良く言っても臨機応変な対応が求められるってところかしら」

「ナッツミルク艦長の仰る通り、諸君らの双肩には重い期待がかかっている。心して事にあたるように」

「考える事を止めない事。同じ命令でも自分で考えて動くことが大事だ」


ココとタピオに続いて、エンジェル隊員でありながら、タクトのちょっとした悪戯の結果、織旗中尉のポジションの仕事を引継ぎしたためにココ付きの秘書官でもあるラクレットは上位者の立場からそう述べた。

各々はブリッジに用意してある席について、ドライブアウト後の宙域データなどを見詰めながら、いくばくかの平穏に身をゆだねた。若干の緊張はあったものの、大きな不安を覚えるものはいなかった。最高責任者である彼女を除いては。










「おい、本当にくるのか、そのUPWとかいう奴らは」

「ああ、確かな情報だ。そして奴らは先制攻撃をためらうような甘ちゃんだ」


EDEN的価値観で言えば、少々流線形すぎる形状をもつその艦のブリッジで暇を持て余した操舵主と砲撃主の二人はそんなやり取りをしていた。彼らこそアームズアライアンスの一員だ。
そもそもアームズアライアンスとはどういった存在か。ざっくりいうのならば3つの星からなる星系国家だ。主星であるハチェットにカジェルとパイクの3つの星からなる。それぞれの星がざっくりいうと貴族制のような身分制度を採用しておりその星の頂点は公爵である。

いまこの場にいるのはハチェットから派遣されてきた艦隊である。ちょっとした『お荷物』をつんでいるが、実際彼らは自身が捨て駒に近い扱いをされているという自覚は薄かった。敵との事実上のファーストコンタクト任せられる、そのために最近どういった方法でかは知らないが手に入った最新鋭艦に搭乗している。
初戦から敵は最重要戦力で単騎掛けをする愚かな存在であるため、威力偵察なんてものではなく、そのまま破壊ないし拿捕してしまってその勢いで銀河統一。そんなお花畑の様な考えが彼らにはうっすらあったほどだ。


「この艦隊の艦はとにかく射程距離に優れているんだ。会話に応じる振りして、安全圏だと思っているところにズドンでおわりだろうさ」

「本当それだ。そうしたら一気に昇進して賞与だってでるだろうさ。本当あの『お荷物』さえなければなぁ……」

「おい、思っていても口にするなって……いまも通信聞いているんだろう?」


余裕すら見える彼らの頭上では彼らの艦の格納庫からの映像がライブで流れている。そこには彼らの言うお荷物が騒音を奏でているそれがあり、クルー全員が辟易としていた。


────妾が出る! この妾の託が聞けぬのか!

────危険すぎます! どうか再考の程を!

────ならぬ! 悪の逆賊、EDENの手先は妾が撃つのじゃ!


しいて言うのならば、これだけが彼らの不安要素であり、それ以外の心配は彼らの脳裏の片隅にも無かった。















「ドライブアウト! 周囲のスキャン急げ!」

「複数の艦影、前方に確認!距離凡そ20万!」

「識別コード無し! データベースに類似艦あり! アームズアライアンス所属の艦と酷似しております!」


ドライブアウト直後、最も無防備なその瞬間だからこそ、ブリッジの慌ただしさは凄まじい。現在も前方に見える艦たちに対しての情報収集が行われている。
そんな様子を見てタピオは眉一つ動かさずに口を開いた。


「ほぼ確定ですね。どう思われますか? ヴァルター中尉」

「待ち伏せですかね、それか歓迎パーティーのお迎えでしょう。艦長?」


タピオからの鋭い視線に全くひるまずラクレットはモニターに映る艦隊を睥睨しながらそう言う。しかし、話を振られたココは自分が呼ばれたことに一瞬反応できなかった。


「あ、うん。そうね。一先ず通信で呼びかけてちょうだい」

「了解です! 」

「エンジェル隊はどうしますか?」

「此処で待機していてくれる?」


カズヤは一先ず隊長としてそう尋ねたが、ココは心ここにあらずと言った具合であった。ラクレットはそんなココの様子を横目でちらりと見た後周囲を見渡す。
案の定、ロゼルは表情に不満気なそれを薄く表している。良く知っているからこそラクレットはそれに気づけたが、自分しかそれに気づいていないであろう。その件に関するフォローは後程するとして、今大事なのは備える事であろう。もとよりラクレットは方向性を決めるのは苦手だ。だが方向を示されれば誰よりも先に走っていけるのだから。とれる選択肢を多くするべき必要がある。


「カー副長、『もう少し前に立って』状況を見たほうが良いかと。艦長、シールドエネルギーは上げといたほうが良いかと。ステルス性の機雷があったら目も当てられません」

「進言感謝します、中尉。確かに備えてしかるべきですね」

「そうね、ラクレット君、シールド出力は危険区域航行時と同等を維持して頂戴」


一先ず最低限の備えを果たした以上、此処からは艦長の管轄であり、自分は出撃命令を待つだけだ。敵からは一度目の通信に対して一切の動きはない。ココは表示されている目の前の艦の情報から数瞬考え込む動作を見せると、ややもたつきながらも恐らく前もって用意していたであろう行動の指針を伝える。


「一先ず、もう一度通信を試みてちょうだい、同時に広域放送も。内容が当方に対話の意図あり。でお願いするわ」

「了解です」


ココの指示に淀みなく答えるクルーたち。まぁ大方の予想通りまずは建前としてもこちらの歩み寄りを見せる必要があるであろう。それはこの場の総意であった。その程度は各々解釈が違っていたが。
ちなみに、この時代において興味深い事に全銀河全平行世界の存在は同一の言語を用いてのコミュニケーションが可能である。別言語というのは一部の古代遺産にのみ存在する。まるで言語が同じになるようにデザインされたかのような文明発達だが、都合が良い事には変わりなく、問題なくこちらの意思を相手方に伝える事が出来る。


「どうでるのかしら……」


思わずといった形でココの口から不安げな文句が漏れる。彼女自身口にしてからしまったというかのように、手を口元に持っていこうとするが、何とか思いとどまる。


「私見ですが、良くて拒否、悪ければ応じる様子を見せての奇襲と言った所ですかね」

「中尉の発言に同意いたします。以前よりこちらの呼びかけに対して恭順の意思を一切見せなかった存在です故に」


ラクレットは目ざとくその動作をみつけて、自分たちへの問いかけと言う形に持っていけるように考えを述べた。タピオは純粋にラクレットの意見に同意しただけであったが。


「前方の艦に動きあり! こちらに接近してきます! ですが、代表艦ではなく全艦が隊列を維持したままです」

「そう、敵の射程距離に入らないよう気を付けてちょうだい。エンジェル隊の皆は状況が変わるまでここで待機よ」

「……了解です」


ラクレットは内心全員をここに残す必要性はないと思っていたが、恐らく自分をここに残すのと同時に、このブリッジという最も情報の集まるところに、人材を集中させて対処能力を上げたいのであろうと判断し付き従った。


そのままジワリと艦隊との距離が縮まっていくのを見詰めているが、突如ブリッジにアラームが響く。ロックオン警報だ。

「やはり仕掛けてきましたか、艦長!」

「ええ、総員! きゃぁ!!」

すぐさま反応したタピオにココは指示を出そうとするが、突然の衝撃に見舞われ悲鳴を上げてしまう。完全に油断していた所への一撃だ。


「前方の艦、いえ、敵艦の射程はこちらの想定よりも遙かに長い模様! シールド出力から計算して暫くは持ちますが……」

「え、ええ。一先ずは安心ね。それじゃあ……」


前もって備えていた甲斐もあり、ある程度落ち着いて対処に当たれているココしかし、彼女の平穏はすぐさま脅かされることになる。


「新たな敵性反応! 後方および左右にそれぞれ4ずつ! 囲まれました!」


先ほどの攻撃で目の前の艦隊は既に敵艦と認識されており、それとほぼ同一の型を持つ艦がこの宙域にドライブアウトないしステルスして潜んでいたのであろう。発見が遅れたのはあからさまに添えられた前方の艦への注意が大きくなりすぎた故か。
不幸が重なるように、現れた反応はすぐさまこちらへの攻撃を開始してくる。でたらめな砲撃の雨だが、シールドエネルギーには大きな問題はない、暫くは持ちこたえられるであろう。問題はその暫くの間に打開策を打つ必要があることだけであり。


「この砲撃じゃ、出撃体制は取れません!」


その打開策であるエンジェル隊が出せないことだけであった。ある種の致命傷ともいえる。


「そんな! 」


ルクシオールは可動式の格納庫を採用しており、事出撃に関しては、エルシオールよりも素早く行える。その代り同時出撃が強要されること、出撃中艦の形態が変わるために、シールドエネルギーの再計算が必要になる事だ。エルシオールは下部ハッチの開閉のみであったために、ルクシオールはざっくりいってしまえば、出撃時が若干もろくなってしまうのだ。
ココはすぐさま敵の砲撃を少しでも減らす策をめぐらせる。幸いなことに左舷前方に中規模な惑星がありそこに身を隠せれば問題ないであろう。しかし、そこまで移動できるかどうかはエンジン出力の調子しだいであった。戦闘航行速度においても好調でないと難しいであろうという距離だ。それを危機的状況に目算ですぐに出せたのは彼女の優秀さたる所以であるが、すぐさまその賭けに自分たちの命運をかける度胸が無いのもまた彼女の経験不足からくる限界であった。


「エンジェル隊は速やかに出撃準備。後顧の憂いはどうにかします。副長、頼みます」

「戦闘時とは言え、指揮権を越権した行動。それが取れるのもまた強みと言う事ですか」


ココがまごつくも、彼女の目線の先に移る空間をメガネの反射から認識し、すぐさま意図を理解したラクレット。緊急事態と判断し、タクトが用意した手札の一枚を切ることにする。


「なっ!!」

「カー中佐!」


タピオはラクレットの言葉の真意をすぐさま洞察し、ブリッジの中央に有るマスターコンソールに触れる。するとすぐさま艦に大きな衝撃が走るのと同時に急加速が行われた。そしてタピオ自身にも変化が生じていた。


「その紅い紋様、ヴァル・ファスク!!」


そう、タピオの全身、服の上からわかる範囲にはココや、一部のEDEN出身かつ古参のクルーには夢にまで見た恐ろしい敵と同様のそれが浮かんでいた。
すわ、敵のスパイかと咄嗟に腰を浮かせようとするが、こういった時に最も頼りになるラクレットが一切反応を見せずに、それどころか、出撃準備の為にブリッジを後にしようとしているのを見て彼らは気が付いた。


「いま必要なのは、敵の殲滅でしょう! ココさん命令を」

「そうね……一先ず敵の脅威を排除。可能であれば敵艦の無力化と拿捕を」

────了解!!


ココの命令にエンジェル隊の声が唱和する。彼らは直通のエレベーターで格納庫へと急ぐのであった。









タピオのやったことは単純だ。Vチップを用いた艦の全権掌握である。不安定なクロノストリングをVチップで操作することはできない。しかしながら、あらゆるエネルギーを管理し、無駄を省き、さらにセーフティーを解除するなどにより出力を瞬間的に飛躍的に上昇させることは出来る。
同時に艦の操舵に関しても自分が動くかのような精密な動きをも可能とすることができる。目(レーダー)さえあれば、砲撃の当たる瞬間そのポイントのみにエネルギーを集中して防ぐことだってできるであろう。
ルクシオールに保守派の反対を押し切ってVチップを搭載し、さらにそれを扱える人員、ヴァル・ファスクを搭乗させるメリットは凄まじいものであった。だからこそ、ヴァル・ファスクという存在がいかに脅威かと言うものを知らしめているのだが。

ともかく、ヴァル・ファスクであるタピオ・カーのおかげで、砲撃の一部から死角になる場所にたどり着いたルクシオールはすぐさま搭載機を全てスクランブルさせる。
現在の搭載機の数は8機であるが1分とせずに全機が宙空へと飛び立った。そして合体紋章機を含め7機がそれぞれ1つの艦隊と同じ戦力なのだ。

そう考えると、堅く速力もあり(今はないが)破壊兵器を搭載した空母と、継戦可能時間以外の弱点がない艦隊クラスの戦闘機群が合わさった凶悪さは敵にしてみればやってられないであろう。



「敵集団は4つ。ボクたちの目的は敵の無力化だから、ここに攻撃をしてくる2集団を何とかしつつ防戦すればいいんだけど……」

「おいおい、隊長がそんなに弱気でいいのかよ?」

「カズヤ!ここはびしっと決めるのだ!」


現場指揮官であるカズヤは現状の確認をしただけであったが、図らずともこの場にいる隊員たちの意思を感じ取ることが来た。自分の合体しているクロスキャリバーの搭乗者、リコも同じ気持ちのようだとなんとなく感じ取る。


「うん、その通りだ。これはUPWとして、最初の任務であり、アームズアライアンスとの初戦でもあり、ココさんのナッツミルク艦長としての初陣だ。最高の結果にしたい、だから」


カズヤは素早く戦略MAPを操作する。カズヤの作戦は至極単純であった。最も遠い集団に対して、合体したクロスキャリバーが突撃。攪乱を開始する。その間に残りの3集団を殲滅と言う形だ。
戦力の分散方法は、ホーリーブラッドとスペルキャスターの2機が最も近いものへ、レリックレイダーとイーグルゲイザー、ファーストエイダーの3機で2番目に近いものと3番目に近いものだ。スピードアタッカーと中距離範囲or遠距離攻撃ができる組み合わせの、撃たれ弱い方に回復を付けるという妥当な判断である。
そしてこの場における最も強力な戦力であるESVはルクシオールの護衛だ。攻勢に出しても良いのだが、敵が散らばっており、既に伏兵がいた以上、増援に備えることと、ルクシオールさえ無事ならどうとでもなる重要性から考えれば、妥当な判断と言える。


「という感じで行きたいと思う。ラクレットさん、どうですか?」

「攻守ともにバランスが取れている。悪くない。しいて言うのならば、クロスキャリバーと3機チームの目標を逆にした方が、時間はかかるが対応力が上がるであろう。あとはルクシオールの移動も視野に入れた指揮が出来れば完璧だ」


ぶっちゃけた話、ラクレットは此処までの作戦を考えられない。いや厳密にいうのならば、限られた時間でという冠詞がつくが。0から1にするということが苦手なのだ。仮に彼が作戦を立案したのならば、自分とロゼル。合体紋章機とナノナノの2チームを突っ込ませて、その間残りでルクシオールを防衛しながら逃げ回る。と言ったものになったであろう。たたき台に乗った意見に対するアドバイスからでもわかるように、彼は直接戦闘に入らなければ意外と保守的なのだ。だが、安全マージンを取ったうえで、そのマージン以外のリソースを全部攻撃に振るのだ。故にその見極めが銀河一巧みといっても過言ではないタクトの下で戦う際の彼は輝けたのだ。


「ルクシオールから通信。敵の艦隊から未確認の戦闘機が発艦。クロノストリング反応あり! 教官! これは!」

「敵に紋章機?」


いざ戦闘を開始しようとしたところ、飛び込んできた急報は衝撃的なものであった。しかし、やることは変わらない。


「それじゃあ、今のを踏まえたうえで、少し変更。僕とリコはあの戦闘機の相手をしてから敵に向かう。ルクシオールはロゼル達を追いかけるように移動しながら戦う。補給のタイミングは指示するけど、要請したら可能な限り答える。それでいいね?」

────了解!!


そうして彼らの戦闘が始まったのである。







「攪乱は任せてくれ。教官仕込みの近接戦闘を君に見せてあげるよ!」

「期待しているわよ、マティウス!」


最初に敵集団と接敵したのは、速度と距離の関係でロゼルの繰るホーリーブラッドであった。一般的な近接戦闘用の兵装を現在換装している故に、戦闘距離はかなり敵に近寄ることになる。しかし対空カスタムを施していない4隻の巡洋艦クラスの敵が相手の戦闘と言うのは。


「こんなものか。期待外れだね」

「やるじゃない、その大口は伊達じゃないってことね」


正直、ロゼルからすればあくびが出るレベルの敵でしかなかった。ただただシールドと装甲を削り切るのに時間のかかる作業に過ぎない。ロゼルは余裕を持って敵のレーザーを回避しながら、1つずつ確実に砲門を潰していく。
彼の堅実な動きは、まさにラクレットの挙動さながらであった。ロゼルにはラクレットの様な予知能力もなく、H.A.L.Oシステムが機体に搭載されている訳ではない。しかしながら、彼はスキャンした敵のデータをすべて頭に入れ、戦闘と同時に全ての敵艦の攻撃可能範囲と死角、砲撃可能時間とクールタイムから算出される安全領域および最適ルートを割り出しながら、その範囲で最も脅威度の高い目標から破壊していっている。訓練さえ積めば誰だってできる事だ。と彼は事も無げにいうが、常人の思考ではそのようなことができても、それをしながらの戦闘は不可能に近い。そう言った意味では彼は規格外の天才であった。


「誰だって、一撃即死の攻撃を持つ自分の2倍速く動く敵を相手にし続ければこのぐらいは身に付くさ」

「なんとなく、アンタに何があったかはわかったわ。後で今度から加減するように言っておくわね」


テキーラはそう軽口をたたきながら、実質的に無力化された敵を虱潰しと言ってもいいように攻撃して沈めていった。そんな彼女は表面に出している態度以上にロゼルの高い腕に驚いていた。H.A.L.Oシステムのアシストがある自分たちと違い操縦の殆どをマニュアルで行っているホーリーブラッドがあれだけ華麗な動きと戦闘ができるのはそれだけ技術が卓越しているという事だ。先代のムーンエンジェル隊ならばともかく、ルーンエンジェル隊でそれができる者は……という驚きだ。
彼女の中には賞賛と若干の嫉妬と大きな対抗心が芽生える。


「よし、殲滅完了、敵の脅威度は射程こそ長いが、戦闘機で戦う分には非常に低いようだね」

「そうね、すぐにアジート達が行ってないほうの敵に向かいましょう」


二人はMAPとモニターでアニスとリリィが同様に苦も無く敵を圧倒しているのを確認しながら、ルクシオールに接近を続ける目標へと機体を向かわせるのであった。






「うんうん、いい感じだね。ロゼルもやるようになったもんだ。カズヤだって簡略化したとはいえっ! 指揮と戦闘を同時に行えているっ! しねぇ。『戦場』ではもう問題はなさそうだねぇ! 」


ラクレットはルクシオールの周囲を飛び回りながらそうひとりごちた。改修が施されて、より高性能になった情報系のパーツが、鮮明にこの戦場の趨勢を伝えてくる。
今しがたアニスたちも敵を難なく破壊し、ナノナノから補修を受けている。問題であった敵の戦闘機も接敵と同時の高火力殲滅攻撃こそ、すわ助太刀がいるかと思ったが、その後ガクンと出力が落ち、シールドこそ削られたが、それ以外は万全であったクロスキャリバーになすすべなく蛸殴りにされている。


「見た感じ整備不全かな? 動力系に欠陥がありそうだっ!」


彼には正解を確かめるすべはないが、事実その通りであった。謎の戦闘機。クロノストリングを搭載し、特徴的な紋章が刻まれたその機体は万全な整備環境になかったのだ。これは単純にアームズアライアンスに紋章機を運用する能力が今まで存在していなかったということである。NEUE(セルダール連合)ですら、紋章機を持て余しEDEN側に貸し出しと言う形でNEUEでの活動をさせているのだから、EDENよりの支援を一切受けていない彼らに操る術が無いのは至極当然であった。


「まぁ、問題なく片付きそうだねっ!」


そう言いながら、彼は作業を続けるのであった。









「か、艦長」

「気にしちゃだめよ。何時もの事だもの」


ラクレットのその作業とは未だに続く散発的な遠距離砲撃を手持ちの剣で切り落とすという、至極単純かつ単調なものであったが。いつも通り規格外の彼を見て、若干の落ち着きを取り戻したココと表層に感情の見えないタピオを除くほとんどのクルーは、目の前で起こっている有り得ない光景を信じられず、呆然としていた。







彼らが呆然としている間も、戦闘は粛々と進行していった。不調であろう機体ながらも合体紋章機に対して、敵の戦闘機は必死に食らいついていたといえる。もとより速力よりも重火力重装甲に偏重した機体であったのか、攻撃の為に軌道が直線的になるタイミングを狙い、捨て身での攻撃を繰り返してきたのだ。しかし、この2機が戦闘している間に、敵艦18隻の内16隻をロゼルとアニスたちが沈めていた。
敵は旗艦であろう艦と随伴艦の2隻で大量の通信妨害用のチャフと思わしきものを散布しながら撤退していった。その中に広域放送を繰り返す装置を発見したために回収。同時に実質的に置き去りにされた敵の戦闘機も回収した。


戦果としては大戦果もいいところであるが、戦略目的の遂行と言う点からすれば、なんら進展が無い、むしろ敵の意思がはっきりした以上困難を極めるということが発覚したに過ぎないという、ココの初陣としてはなんともいい難い微妙な結果に終わってしまった。


しかし、彼らには休む暇など存在しなかった。それは3つの問題が未だに存在していたからだ。1つは艦長と副長の確執。副長がヴァル・ファスクと判明し、完全に事実を消化できずにいるココ。彼女の試練は終わりが見えなかった。
そしてそれは2つ目の問題にもつながってくる。改修した媒体装置に込められていた映像。それはルクシオールのクロノドライブ中という、わずかな時間で制圧されたセルダール連合の主星たちの映像、そしてUPWへの宣戦布告だった。敵のばら撒いたチャフにより長距離通信どころか、近距離の短波通信すら行えない以上事実確認ができないが、こちらの士気を下げる目的にしてもあまりにも信憑性がない夢物語のような映像が、かえって現実感を表していた。
最期の問題それは────


「離せ!!! 妾を誰と心えておる! ハチェットを治定すイザヨイ公爵家の22代目公女!ナツメ・イザヨイじゃぞ!悪のEDENの手先の貴様らなんぞが触るなど、恐れ多いのじゃぞ!」


実質的な敵の最高権力者の肩書を持つ、若干11歳の少女を捕虜としてしまったことである。



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