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No.37537の一覧
[0] 銀河天使な僕と君たち (Galaxy AngelⅡ オリ主)[HIGU](2015/11/02 02:59)
[1] 空白期1 413年[HIGU](2014/10/19 22:39)
[2] 空白期2 413-414年[HIGU](2014/10/21 22:52)
[3] 空白期3 414年[HIGU](2014/10/23 23:55)
[4] 空白期4 414年[HIGU](2014/11/10 23:29)
[5] 空白期5 414-415年[HIGU](2014/11/11 01:18)
[6] 空白期6 415年[HIGU](2014/11/12 02:03)
[7] 空白期7 415年[HIGU](2014/11/16 14:27)
[8] 空白期8 415-416年[HIGU](2014/11/16 16:41)
[9] 空白期9 416年[HIGU](2014/11/18 14:47)
[10] 空白期おまけ +各人の現状[HIGU](2014/11/21 00:26)
[11] 簡易年表 8/26 ver[HIGU](2013/08/26 01:38)
[12] 第1話 着任/確認[HIGU](2014/11/27 00:52)
[13] 第2話 感心/改心[HIGU](2014/11/29 13:11)
[14] 第3話 挑戦/奮戦[HIGU](2014/12/02 14:49)
[15] 第4話 不敵/無敵[HIGU](2014/12/03 16:50)
[16] 第5話 覚醒/達成[HIGU](2014/12/04 00:14)
[17] 第6話 偽悪/飛躍[HIGU](2014/12/09 15:27)
[18] 第7話 硬化/萌芽[HIGU](2014/12/14 00:54)
[19] 第8話 打倒/確答[HIGU](2014/12/16 17:50)
[21] 第9話 忸怩/人事[HIGU](2014/12/20 14:45)
[22] 第10話 比較/自覚[HIGU](2014/12/22 01:44)
[23] 第11話 成就/上手[HIGU](2014/12/26 01:04)
[24] 第12話 オリ主がここまで来るのに4年と3か月かかったのは大体作者の遅筆が悪い[HIGU](2014/12/26 02:37)
[25] 第13話 大変長らくお待たせしました[HIGU](2014/12/27 18:08)
[26] 絶対領域の扉 最終話 銀河最強の露払い担当[HIGU](2014/12/28 01:08)
[27] エピローグ フラグブレイカー ラクレット・ヴァルター[HIGU](2014/12/29 01:19)
[28] 扉と鍵の狭間 平和な世界[HIGU](2014/12/29 15:45)
[29] 第1話 3人の器[HIGU](2014/12/30 00:06)
[30] 第2話 強くなること[HIGU](2015/05/04 23:59)
[31] 第3話 集結の日[HIGU](2015/11/02 02:59)
[32] 第4話 兆し[HIGU](2016/02/05 22:54)
[33] 第5話 彼女ができた途端強気になるやつっているよね[HIGU](2016/02/17 01:42)
[34] 第6話 熟成完了[HIGU](2016/04/11 04:14)
[35] 第7話 最終形態一歩前[HIGU](2016/09/24 05:16)
[36] 第8話 賽は投げられた[HIGU](2016/10/09 06:26)
[37] 第9話 蛇の巣を超えて[HIGU](2017/11/09 05:27)
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[37537] 第2話 強くなること
Name: HIGU◆bf3e553d ID:0b4b700f 前を表示する / 次を表示する
Date: 2015/05/04 23:59
 その日のルクシオールは、何時もより少しだけ慌ただしかった。1名謎の人物が着任するというのは、軍としてはあり得ないことなのだが、単純に1人新しい仲間が増えると多くのクルーが受け止めていたのだ。
なにせここはルクシオール。軍の中でもっともゆるゆる規律と言っても過言ではない。上官への暴力? いいよいいよ。病気だし可愛い女の子だし、仕方ない。言葉遣い? 楽なのでいいよ、堅っ苦しいのは嫌いだ。遅刻とサボり? 適度な休憩は効率上げるから自己管理と最低限の仕事さえすればいいよ。
そんなタクト・マイヤーズのマイヤーズ流ともいうべき教えが良くも悪くも蔓延しているこの艦は、新しく着任してきた人物がこの艦に馴染めるようにフォローするつもりでもいた。



その本人が着任するまでは



「初めまして、タピオ・カーさんですね。私は艦長代理の……え!? 嘘?」

「…………」


タピオ・カー。やや細見だが、標準的な範疇に入る体格の彼はおかっぱと言うべきか、あまり流行っているとは言わないが、きっちり切りそろえられた銀色の髪を持ち、細い糸目からは何を考えているかを窺い知ることはできない。
年のころは20代であろうか? やや褐色の肌としわ1つ無く着こなされた軍服。靴にも汚れは見えず輝いている。それどころか靴紐が左右でミリ単位の調整されているのか、立っていれば軍服を着たマネキンにすら見える。

しかし別段外見から艦長代理であるココ・ナッツミルク大尉が言葉を失う要素はなく、疑問に思った出迎えに来ていたルーンエンジェル隊の視線が彼女と彼の間を往復していく。ただ一人を除いて。

「……このデータに有ることは事実でしょうか?」

「はい、先程機内で最終確認をしましたので、全て相違ありません」

「……失礼しました……カー中佐」

「ふむ……では、改めて自己紹介をいたしましょう。私はタピオ。タピオ・カー。階級は中佐であり、この艦には艦長・操舵補佐並びに副司令として着任する」


 典型的な軍人ともいえる人物の着任。しかも階級ではココより上であるが、役職はあくまで補佐。誰の眼にもわかる暗雲が広がる人事であった。そんな彼はココに向き直ると口を開いた。細い目も彼女の方を真っ直ぐと見つめているが、一切表情は読めないままである。そんな彼の醸し出している不気味な風格に、ココは思わずたじろいてしまう。

「ナッツミルク大尉、私はこの艦に着任する副目的として、マイヤーズ流の内実を学ぶというものがありました。僅か数百年で隆盛した文明が、あのヴァル・ファスクを撃ち倒す原動力となった、階級を感じさせられないフランクな対応。それを実体験で学ぶというものです」

やや不明瞭な言いまわしに少しばかり顔を傾げるエンジェル隊のメンバー。彼女達には少しわからない単語が多かったのかもしれない。そんな彼女たちを気にせずに彼は、続ける。

「この艦に着任するまでは、私も当然従うつもりでした。ですが、ナッツミルク大尉。貴方は私の階級を見て態度を変えた。階級の上位の者に対して態度を変える様ではマイヤーズ流が最大の効果を発揮するとは言い難い。よって私も通常通り中佐として此処に着任することにしました」










「ったく、どーしてタクトはあんな奴をおよこしたんだよ」

「マイヤーズ司令の事だ、何かしらの意図はあると思うのだが」

「ナノナノはちょっと苦手なのだ」


 タピオが着任して数日が経過した。エンジェル隊のテンションは平時よりもやや下回るといった具合で維持されている。単純に戦闘の兆しすら見えない帰路であるので、問題はないが、それだけが理由でなく、先に着任したタピオのこの艦における立ち位置が少なからず原因の一端を担っていた。

 タピオ・カー中佐は着任して直ぐに仕事に取り掛かった。彼の階級は中佐であるが、与えられた職務は艦長代行補佐役であり、解りやすく言うならばお目付け役であった。彼はマイヤーズ流と称される、名将タクト・マイヤーズのやり方に異議を唱えている訳ではなく、ただやるのならば徹底すべきだという考えのもとに行動していた。

 といっても、彼自身は艦の運営方針などには一切の口を出さなかった。艦長代行が決めた決定には異を挟むこともなく、仕事もいたって通常に熟していた。しかしいままで、ココが己の裁量で曖昧にしてきたことに関しては徹底的にメスを入れた。
朝礼での連絡通知や夜勤シフトとの交代時間がやや曖昧であったことなどは、まずどういった意図でそうしているのかをブリッジにて詰問した。
確かにクルーの行動をきつく縛らないことで成果を上げたマイヤーズ流だが、どの程度まで柔軟に行わせているのか、そう言ったラインを明確にさせようとしたのである。

 最初の方は、他のクルーが階級差が有る中でも陳言していたが、タピオの言葉は全て正論であり、また何より階級には最低限乗っ取った言動を艦長代行のココ自身がしてしまったために、ココがココを庇うオペレーターたちを庇うといった状況になってしまっており、ブリッジの空気は非常に悪かった。

 全員がタピオに悪意がなく、正統性があるとわかっているので強く出れない。ココも艦長代行なので、強権を振う事をしない。クルーの発言はマイヤーズ流のやり方なので、タピオが正しいと思えばそれを聞き入れる。一見問題なく回っているのだが、ココの表情は日に日に沈んでいった。

 そんな艦内におけるタピオの評価は完全に2分されている。ココはあくまで代行であるために、ああいった正規の軍人が厳しくも補佐するのであれば問題はなく、いずれ慣れるであろうといった意見と、あんな可愛いココさんをいじめるなんて許せない。の2つだ。
 全体としては後者が多いのだが、後者を主張する側もタピオの言っている事の正しさを知っているのと、ラクレット・ヴァルター中尉が目を光らせた為に、大きな行動は出来ていない。
噂として流れているタクトが船を降りた場合の次期艦長がタピオになるというものが、彼等を煽っている形になるが、あくまで噂であるために今のバランスでとどまっている。


「なんで、ラクトはあいつを庇うのかね?」

「ラクトはココが嫌いなのだ?」

「ヴァルター中尉に限ってそのようなことはないと思うが、桜葉少尉は聞いているか?」

「いえ……ただ、タピオさんがEDEN軍において革新派だという事を教えてくださいました」


 タピオ・カー中佐の経歴はルクシオールからアクセスできる権限では窺い知ることができなかった。それでもアニスの「あのいけすかねぇ匂いはNEUE人じゃねぇ。EDENの坊ちゃんだな」という意見に他のNEUE出身者の賛成もあって────リコのEDEN人ぽくないという意見より有力視されて────EDEN出身であるという事は解っている。

 リコがラクレットから聞いた情報は断片的だ。本当は内緒だよ。と言われたのだが、お願いしたら教えてくれたのである。タピオはEDEN軍において革新派と呼ばれる派閥の軍人だということ。その思想はヴァル・ファスクと人間の相互理解を即急に深めて、技術交換をしていくといった、ヴァル・ファスクの危険性を軽視している派閥だという事だ。
融和政策には賛成だが、慎重に検討を重ねるべきだという中立派が現状の主流であるが、ヴァル・ファスク排斥派は少数であるために、革新派は目立つ存在だともいえる。タピオはそこの存在であったのだ。

「それだって、タピオさんがラクレットさんと何か話していたのを見たから教えて下さっただけです」

「堅物同士話が合うのかもな?」

「いえ、少し言い争っていたというか、王子がどうのこうのって。それを止めるようにみたいな話をしてました」


ルーンエンジェル隊のメンバーは何が起こっているのかよくわからなかったが、結局の所、ココが弱っていっているのと、タピオ・カー中佐が台風の目になっている事は事実であり共通認識であった。







そんな状況でさらに数日が経過する。ルクシオールは無事にAbsoluteに到達したのだが、そこで彼らを待ち受けていたのは、唐突過ぎる実機演習であった。


「シラナミ少尉入ります!」

「少尉、通達の通りブリーフィングを開始しますので着席してください」

「は、はい」


 ミーティングルーム、作戦会議室、ブリーフィングルーム。翻訳装置の影響で様々な呼び方がされているが、ブリッジの隣で司令室とも近いこの部屋は、有事の際や会議の際に用いられてきた部屋であった。そこに集合しているのはルーンエンジェル隊の全員に艦長代行のココ。そしてプレゼンをするように真ん中の投影スクリーンを操作しているタピオであった。

「それではブリーフィングを開始します。本演習は実機を用いた実戦と同じ想定での演習となります。敵として用いるのは接収した無人艦であり、正規軍に組み込むことができない者なので破壊しても問題ありません」

UPWに属する勢力において、資源は腐る程ではないが、多くの資源を有する星が手つかずで残っている場合が多い。開発の手間もあるが、それでも価値としては優秀な人員が優秀な兵器を上回るのが一般的だ。
誤解を恐れず言えば、艦は余り気味だが、人は足りないのである。


「敵勢力についての詳細を教え願いますか?」

「その要望は受諾しかねます。本演習は艦長代行である貴方、ナッツミルク大尉の指揮によるものです。実戦に近い状況においての判断能力も評価の対象に成ります」

ココの質問をにべもなく拒否するタピオ。重ねて言うが彼は別段嫌いだからだとか喧嘩を売るためにしているのではない。そんな彼から通達されるのは、さらに無慈悲な内容であった。

「また加えて、2つほどイレギュラーが想定されています。1つはルクシオール主機の不具合。本演習において、ルクシオールは移動を禁じられます。もう1つはラクレット・ヴァルター中尉の不在。こちらはUPWの長官と補佐官から呼び出しが入っているために、この後直ぐ下船して出向して頂きます」

「了解です」

「そんな! それじゃあルーンエンジェル隊とココさんの実力を見るのには不適切では?」

「そうだそうだー! 一々めんどい条件ばかり付けてんじゃねぇ!」

「なのだ!」


 事も無げに同意するラクレット。彼の表情からは何も窺えない。タピオに対する不信感も戸惑いもないのだ。他のメンバーが────恐らく無意味であろうが────タピオに抗議する中、ブリーフィングを聞いているテキーラは彼の表情から、何かしらの取り決めがあることを逆に察することができた。

「ルーンエンジェル隊は、ムーンエンジェル隊が解散した以上、事実上最強の戦闘機部隊となっています。そんな皆さんがこの程度の条件もクリアできないのであれば、軍としては方針を転換せざるを得ません。強い不安があるのでしたら、演習の延期をこちらから要請しますが?」

「なんだと!? やってやろうじゃねぇか!」

「アニス! さっきから言ってることが無茶苦茶だよ!」


 露骨ではあるが、効果的である挑発に乗ってしまうアニス。カズヤはもうこの流れは変えられないと理解しながらも、形としてアニスに制止をかける。結局演習は執り行われることになるが、詳細な条件がどこか誤魔化された、不透明なものであった。
 ルクシオールは移動を禁じられている。敵の総数は不明。こちらはエタニティーソードを欠く編成。限りなく実戦に近い設定で行われる。あからさまに何かあるものであるが、この時ココはその意味を本当の形では理解していなかった。















「ラクレット・ヴァルター中尉、ただいま到着いたしました」

「あ、丁度いいところに!」

「コラ! タクトォ! 話はまだ終わってないぞ!」

「まぁまぁ、副し……じゃなくて司れ、でもなくて補佐官。いいじゃないですか」


 端的に言うのならば、タクトが脱出(さぼる)するであろう数分前に起こりうる状況。それがラクレットが入室したこの部屋の状況であった。この部屋はUPW長官に就任したばかりのタクト・マイヤーズの執務室である。
 公式発表は今日の正午であるが、タクト・マイヤーズは艦を降りる事が決まっていた。それはUPWという組織の軍事力の頂点に彼を据えるのには必須な措置である。ルクシオールクルーには通達こそされていないが、誰もが薄々タクトがもう、司令官としての腕を振るう事はないであろうと、気が付いていた。
 UPW所属、タクト・マイヤーズ長官。トランスバール皇国軍所属の田舎の星系の司令官の大佐だった彼からすれば躍進というほどの出世ではあるのだが、どこまで行っても人は変わらないのか、彼は積極的にサボるための行動をとっていた。

「ふぅ、変わりませんね、タクトさん」

「まぁねー。そっちは、というか艦の様子は?」

「カー中佐は良くやっていますが、空気が読めていません」

  久しぶりにあった10年来の親友にするかのような気さくな態度で尋ねるのは、彼が不在の間の艦の様子だ。ラクレットはここ数日の苦労を思い返す。

「彼の正体はまだ知られていない感じなのね?」

「ええ。そのせいで変な噂が広まってますよ。全く人の事を王子と呼ぶのは辞めていただきたいものです」

「はは……保守派が利いたら二心ありと断じそうな状況だね」

「笑い事じゃないだろう! お前が無理矢理通した人事だ。隙を見せてどうする」


 男たちは主語を省きながらの会話に興じている。その間に補佐官付きの秘書であるアルモはお茶の準備を始めていた。きっかり四人分である。


「ココさんは、完全に委縮しちゃっていますよ。艦内の空気はぽっと出の糸眼野郎が司令官になるのは認められない。という感じが主ですが、頼りになる人がリーダーになるべきだという意見で割れかけています」

「うーん。やっぱりサプライズにしたのは間違いだったのかな?」

「どうして二人の人事どころか、自分の人事まで全て水面下で進めようとするんだお前は!」


疲れたように、椅子の背もたれに深く体を預けるラクレット。最近の任務は見敵必殺や、言われるがままに台詞を言うだけ。といったものではなく、クルーのお悩み相談までしていたので、少々疲れがたまっているのだ。
だが、タクトはそれ以外の要因が推察できる情報を握っていた。


「そんな空気に当てられて、僕に相談する人も出てきました。おかげでプライベートの時間があまり取れません」

「へー。ふーん。オレだって知ってるんだぞ。ラクレットが起床点呼の時に外から自室の前に歩いて来たのを目撃した人がいてね」

「トレーニングです」

「ほう、時間厳守の鬼の様な模範生だったお前が、遅刻する程のトレーニングとはな。さぞかし厳しい教官に仕込まれている事で」

「新規分野に挑戦中です」

「あはは、ほどほどにね、ラクレット君」

「体を痛めても次に残らないように留意してます」


 一切の表情を変えずにそう言うラクレット。彼も大人になったもので動揺のどの字も見られない。それでもにやにやとした視線が集まるのは苦手である。
そんな和やかな会話をしながら、彼らは先を見据えた話しへと本腰を入れるのであった。
リアルタイムで配信され続けている演習の映像をバックに。



「よし、撃破! これで敵の全滅を確認!」

「お疲れ様カズヤ君」


演習は佳境に入っている。というかカズヤがたった今、不動で築陣されていた、堅牢な布陣の名残すら残さない程に敵艦隊を撃破し終わったところであった
今回の演習では相手は最深部に空母を配置し、それを対空特化の駆逐艦や重戦艦で防護していながら、高速戦艦と艦載機がルクシオールが永続的に攻め続けるというものだった。ココの采配で、序盤は守勢に徹した後、余裕ができ次第攻勢に反転というシンプルなものであった。後方の敵は陣地から動かない為に、一度攻め手を排除し補給してからというのは実に理に適っていた。
作戦のベースはココが考えたが、実行にするにあたっての判断は全てカズヤに一任されていた。カズヤも半年前の実戦とそこからの訓練でそれなりに実力をつけていた。付け焼刃感は否めないが、絶望的な敵というアグレッサーがいる演習を繰り返した結果、逆境の中で戦う事を覚えた。指揮に関しても最初はタクトのサボる口実として(レスターが過去に提出用に作った)エルシオールの経験した戦場の演習を、ルーン機でクリアするということを行った結果、効率的な運用と状況判断能力を身に着ける事ができたと言える。


それは、実力が付き始めたという事であり、最も足元をすくわれやすい時期であるという事と同義であった。



「ドライブアウト反応! ココさん!これって!」

「敵の増援です! ココさん!」


 ココ・ナッツミルクは非常に優秀な軍人だ。元々は研究職に十代半ばから身を投じているだけの人材であったが、エルシオールのブリッジクルーとしての仕事をこなせる技能から優秀なオペレーターとして第二次ヴァル・ファスク戦役を戦い抜いた。その後情勢が落ち着くにつれ、自分のできる事やりたいことなどを熟考し、操舵士や戦略・戦術と言ったことを多く学んできた。しかし操舵はともかく、戦略や戦術を実際の状況に生かすという機会に『最高のお手本がいたから』こそ恵まれる事はなかったのだ。
 故に彼女はカズヤが全機を引き連れて敵の殲滅に赴くことの愚かしさを、動けない旗艦を丸裸にすることの戦術上の失策と理解したうえで、演習だからと言う油断もあり承認してしまっていたのだ。
 この演習は実戦に近い物であり、それならば当然敵の増援を警戒してしかるべきなのだ。タピオが敵の総数を明言しなかったあたりから疑う所なのだ。


「み、皆! 急いで戻ってきて!」

「敵艦隊砲撃開始! 仮想シールド出力40%消失! このままでは1分持ちません!」

「皆、急いでルクシオールに戻るんだ!」

 カズヤは敵増援の報を聞いた時点で、リスクを承知でイーグルゲイザーとの合体を解除して、最速であるレリックレイダーとの合体に移行させていた。結果的にそれは英断であったが、それでもとても間に合う距離ではなかった。
 演習であるがゆえに、悲鳴のような声は上がらないが、緊張し緊迫した声のブリッジクルーが状況を正確に読み上げていく。そんなブリッジでタピオは小さくため息をついた。


「この演習は実戦を想定したものです。当然敵の増援を警戒するべきでした」

「はい、おっしゃる通りです……」

「この状況を覆す策はありますか?」

「シールド出力を全面に集中させて、レリックレイダーの到着を待つ以外有りません」

「事実上の無策ですか」


 繰り返しになるがタピオには悪意や権力欲などと言ったものは存在しない。ただ単純に事実を述べているだけなのだ。現状ルクシオールは40秒もすれば沈む。ココが取れるのは延命措置であって打開策ではないのだ。
 タピオは残念なことに想定通りであったので、そのまま次の段階へ演習をシフトさせた。

「特務隊05機、出番です」

「────了解です」


その言葉と同時に、演習として利用している戦闘エリアに1機の紋章機が乱入して来た。流星の如き白き軌跡と共に現れたその機体の名前はホーリーブラッド。

EDENの科学力と古代先文明の兵器が結ばれた結果生まれた、新時代の超兵器の名前であった。






「うーん、ココはどうやら緊張しちゃってるみたいだねぇ」

「お前の無理やりすぎる人事のせいだ。仕方あるまい」

「まぁ、実戦ではこうはならないでしょう。僕も拙いながらに献策は出来ますし」


 ホーリーブラッドが瞬く間に敵に急降下のように襲い掛かり正確に砲門を沈め、同時にAIからのヘイト(殲滅優先順)を稼ぎルクシオールへの攻撃を和らげる様を見ながら彼らは冷静にそう口にした。


「一先ず、ルーンエンジェル隊にも苦労してもらわなきゃ。たった一回の戦いを先輩におんぶ抱っこで勝っただけだ。なんて言われないようにね」

「その為のタピオ・カーに新艦長に、ロゼル・マティウスか」

「アームズアライアンスがきな臭くなっている以上、艦の運営体制が揺らぐのはいただけないのですが」

「どうしようもなくなったらラクレット、君が導くんだ。だけどできればカズヤ達には精一杯悩んでほしい」

「それは、ココさんにもってことですね。全くなんで僕はたくらむ側に回る羽目になったのですかね」

 ラクレット・ヴァルターはルーンエンジェル隊のメンバーとして、少しずつ馴染んできていた。しかしそれは頼りがいがあるからという理由が少なくない。ココや他のクルーにしてもそうだ。この半年間でタクトはあえて積極的にラクレット・ヴァルターという英雄の偉大さを艦内で流布して来た。その結果万が一何かあっても、タクトとラクレットがいれば大丈夫だという空気ができてしまった。
 ラクレットもタクトもそんな空気に苦笑してしまった。二人はエンジェル隊とブリッジクルーに実力をつけさせるために積極的に技術を叩き込んできた。そしてそれは実を結んできていると言える。だが二人の目的はその先に有ったのだ。

 二人がクルーに求めるもの、それは自信であった。それは実力と相関関係にあるが、比例するものではない。エルシオールからタクトについてきているクルーもいないわけではないが、少数派だ。彼等彼女達の多くは皇国やEDENを守る仕事についている。そんな新規のルクシオールのクルーの多くはヴェレルの一戦を終えて共通の感想を覚えた。それは歴戦の英雄や元ムーンエンジェル隊がいれば何とかなるということだ。
 タクトはクルーの一人一人の力があってこそだと思うし、そう伝えてきたが彼らは理解はしても納得はしてくれなかったのだ。タクトから見れば十分彼らは困難な坂を駆けあがる力はある。だが彼らはタクトの先導があってこそだと信じてやまないのだ。強すぎるカリスマ性による一種の弊害であった。
 故にあえてタクトは自分やラクレットの凄さを前面に出した。ルーンエンジェル隊にも他のクルーの影響が大なり小なり見えた故に、ラクレットも徹底的にお手本になるように厳命された。そうして一度英雄と言う補助輪で彼らを加速させたのだ。後はその補助輪を外してしまえば彼らは慣性で走り続けられる。タクトがいなくても彼らは平時でも戦時でも仕事をこなせるし、タクトの作戦と強力な友軍戦闘機部隊が無くても十分に敵と戦うことができる。その自信をつけさせるためにまずは実力をつけさせたのだ。

「寝顔に書かれた油性マジックは食用油で落とすことができる。ミルフィーが教えてくれたんだ」

「確かそのサラダ油をどう落とすんだって、ランファさんにつっこまれてましたよね」

「簡単さ、石鹸を外から持ってくればいい。油で保湿もできたんだ。鼻歌交じりで落としてあげればいい」

「二度手間ですわね。ミントさんがそう言ってましたね」

「全く、タクトお前は回りくどすぎるし、ラクレット、お前も背負いすぎる」

「そしてクールダラス補佐官は心配しすぎるですね」


 アルモがそう笑いながら捕捉する。彼女が思うのは憧れた英雄の背中を追いかけていた自分の親友の事だ。アルモの親友は少々内向的で言ってしまえばサブカルチャーに傾向している気のある少女だった。状況に流されて戦争の最前線で暮らすうちに少しずつ社交的になっていき、目標を見つけてそれに向かって努力していた。その憧れは恋愛感情はないと本人はきっぱり否定していたし、アルモもそうだと確信している。
だけど彼女が少し心配であった。アルモはもう満足できてしまっている。憧れの人の傍にいれられれば幸せなのだ。これ以上の自分を求めないであろう。これ以上の関係は日々進行させたいと希求しているが。
 だが親友は違う。憧れた背中を助けたくて猛勉強して最年少で操艦資格を取った位だ。どこまでも上を見ているしっかりとした娘なのだ。だからこそそれに見合った自信を身に着けてほしい。この一見いじめにも見える人事は、将来を見越したうえではきっと必須なことなのであろう。それはきっと親友を大いに悩ませるであろうが。

「私も心配してますけど、きっと大丈夫ですよ。ココも、ルーンエンジェル隊も」

「ほう、それはどんな根拠でだ?」

「マイヤーズ長官風に言うなら勘。ラクレット君風ならそれができる人達だから。そして私ならココだから。ですかね?」

「ふっ。そうだな。不本意だが俺も上手くいくとは思っているよ。結果的にはね」

「終わり良ければ総て良しさ、レスター」


4人が囲むテーブルの上に浮かぶホログラムには、敵艦を見事に無傷で全滅させたホーリーブラッドの姿があった。その映像の下にある書類には3つの人事がかかれていた。

 

────ロゼル・マティウス少尉 特務隊よりルーンエンジェル隊へ出向。仮入隊とする。

────タピオ・カー中佐 ルクシオール副艦長兼チーフオペレーターとして正式着任とする。




────ココ・ナッツミルク大尉 昨日、本日、明日にそれぞれ昇進とする。
大佐は明日現地時間正午よりルクシオール艦長代行の任を解き、艦長へと就任するものとする。











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