第三話
そして翌日の放課後。
クラス代表決定戦当日である。
現在第3アリーナのピットにいるのだが、
「………なあ、箒」
一夏が隣にいる箒に話しかける。
「なんだ、一夏」
応える箒。
「気のせいかもしれないんだが」
「そうか。 気のせいだろう」
「ISの事を教えてくれる話はどうなったんだ?」
「…………」
一夏の言葉に目をそらす箒。
「目・を・そ・ら・す・な!」
一語一句強く言う一夏。
原作通りの会話である。
やはりこの世界でも、一夏は箒にISの操縦は教われなかったらしい。
そして一夏の白式だが、これも当然だがまだ来ていない。
本来は一夏が先にセシリアと戦う予定なのだが、試合開始予定時間を過ぎてもまだ白式が届かないのだ。
まあ、俺はどちらにせよ一夏を先に戦わせるつもりはないのだが。
その時、
「お、織斑君織斑君織斑君!」
そう言いながら駆け足でやってきたのは山田先生。
「山田先生、落ち着いてください。 はい、深呼吸」
慌てる山田先生に、一夏はそう言う。
「は、はい。 す~~~は~~~~、す~~~は~~~~~」
「はいそこで止めて」
「うっ」
一夏がノリでそう言ったら、山田先生は本気で止めた。
っていうか、一夏はよくそんなことが言えるな。
みるみる酸欠で顔が赤くなる山田先生。
「……………」
冗談が通じなかったことに黙り込む一夏。
「……ぷはぁっ! ま、まだですかぁ?」
限界に来て息を吐き、涙目になりながらそう言う山田先生。
その瞬間、
「目上の人間には敬意を払え、馬鹿者」
――パァン!
そんな言葉と共に、織斑先生の出席簿が一夏の脳天に炸裂した。
「千冬姉……」
――パァン!
再び炸裂する出席簿。
アホだな。
内心そう思う俺。
「織斑先生と呼べ。 学習しろ。 さもなくば死ね」
やはりというか、教師とは思えない辛辣な言葉を放つ織斑先生。
「そ、それでですねっ! 来ました! 織斑君の専用IS!」
山田先生がそう言う。
「織斑、すぐに準備をしろ。 アリーナを使用できる時間は限られているからな。 ぶっつけ本番でものにしろ」
続けて織斑先生が。
「この程度の障害、男子たる者軽く乗り越えて見せろ。 一夏」
そして箒が。
それぞれが一夏を急かす。
「え? え? なん………」
「「「早く!」」」
3人の声が重なる。
その時、
――ゴゴンッ
そのような音と共に、ピットの搬入口が開く。
防壁扉は重い駆動音を響かせながら、ゆっくりとその向こうにある物をさらしていく。
そこに『白』がいた。
真っ白なISがそこに鎮座していた。
まあ、白といっても、よく見れば若干灰色っぽいが。
「これが……」
「はい! 織斑君の専用IS『白式』です!」
山田先生が一夏にそう言う。
「体を動かせ。 すぐに装着しろ。 時間が無いからフォーマットとフィッティングは実戦でやれ。 出来なければ負けるだけだ。 わかったな」
織斑先生がそう言った所で、俺は口を開いた。
「織斑先生。 そのことなんですけど、先に俺がオルコットさんと戦います」
「何?」
織斑先生が怪訝な声を漏らす。
若干雰囲気に引きそうになりながら俺は言葉を続ける。
「話を聞くに、織斑はこの1週間ISを1度も動かしていません。 それではいくら才能があっても、フォーマットとフィッティングが済んでいないISで、代表候補性と戦うのは荷が重いでしょう。 逆に俺は、この1週間訓練を続けていました。 このISと違って準備も万端です。 なので、ここは俺が先にオルコットさんと戦い、フォーマットとフィッティングの時間を稼ぐほうが、織斑にとってもハンデが少なくなってフェアに戦えると思うんです。 まあ、俺が一次移行するまで持てばの話ですが………」
「ふむ………」
織斑先生は、顎に手を当てて考える仕草をする。
「いいだろう。 無剣の意見を採用する。 無剣、すぐに準備をしろ! 織斑はさっさとISを装着しろ! 時間を無駄にするな!」
織斑先生の言葉で、一夏は白式を装着し、俺は発進口の前で腕輪に語りかける。
「頼むぞ打鉄」
5秒ぐらいかけて俺は打鉄を装着する。
織斑先生は遅いと言いたげだが、最初は10秒以上かかっていたので、これでも大分マシになった方だ。
俺は発進する前にふと一夏をみた。
「お~い、織斑」
俺は声をかける。
「何だ? 盾」
「さっきは一次移行まで時間を稼ぐとは言ったけど、正直そこまでの自信はない。 まあ、半分ぐらいは時間を稼いでやるからあとは自分で何とかしてくれ。 ま、お前の前座になるぐらいには、頑張ってくるさ」
俺はそう言って発進した。
ピットの壁に擦ったのはしょうがないぞ。
俺がピットから出てくると、セシリアが専用IS『ブルー・ティアーズ』を纏い、空中で待ち構えていた。
「やっと来ましたのね………って、あら?」
セシリアは疑問の声を漏らす。
「最初は織斑さんが相手と聞きましたが……?」
「織斑の専用機がついさっき届いたばかりで一次移行も済んでないから、その時間を稼ぐために、俺が先に試合することになったんだ」
俺の説明に納得したのか、
「あら、そうでしたの。 それもそうですわね。 一次移行も済んでいないISでこのわたくしに挑もうなど自殺行為もいい所ですわ」
いちいち癇に障るような言い方でそう言ってくる。
まあ、その程度でキレる程俺は短気ではない。
「最後のチャンスをあげますわ」
セシリアが人差し指を俺に突きだしながら言う。
「チャンス?」
「わたくしが一方的な勝利を得るのは自明の理。 ですから、ボロボロの惨めな姿を晒したくなければ、今ここで謝るというのなら、許してあげない事もなくってよ」
なんか一夏に言うための台詞を俺に言われた。
だが俺は疑問を口にする。
「いや、謝るって何を?………俺はオルコットさんやイギリスを馬鹿にした記憶はないんだけど………?」
そう、セシリアの言葉に反応したのは全部一夏だ。
俺に謝る理由はない。
セシリアはそこで気づいたのかハッとし、続いて顔を赤くする。
どうやら恥ずかしいらしい。
「このっ………わたくしを馬鹿にしましたわね!」
ライフルを俺に突き出しながらそう言ってくるセシリア。
「それは横暴というものでは?」
俺は聞こえないようにそう呟く。
その時、
『それでは、試合開始!』
織斑先生の合図が出る。
「では、お別れの時間ですわ!」
容赦なくレーザーを放ってくるセシリア。
でも、それは予想できていたので、開始の合図とともに動いていたお陰で回避できた。
「あら? 初撃を回避するなんて思ったよりはやりますのね?」
余裕の表情でそう言ってくる。
「俺みたいな素人には開始直後の先制攻撃は効果的だからな。 予め予測していれば、初撃ぐらいは避けれる」
そう言い返すが、結構ギリギリだった。
「そうですか………ならば、少し本気を出しますわよ!」
再びレーザーを放ってくるセシリア。
俺はそれを咄嗟に避けるが、
――ドンッ!
「ぐあっ!?」
避けた先に衝撃を受ける。
セシリアを見ると、余裕の笑みを浮かべている。
どうやら1発目を避けたところで回避先に2発目を撃ち込まれたらしい。
流石代表候補性。
俺なんかじゃ足元にも及ばないな。
だけど、一夏の前座の役目は果たしてやる!
俺は、とりあえずデタラメに動き回る。
これなら狙いも多少はつけ辛いはず。
そう思っていたが、
――ドンッ!
「ぐぅっ!?」
ものの見事に直撃を受け、俺はよろける。
「熟練者のランダム回避ならばいざ知らず、素人の動きなど手に取るようにわかりますわ。 飛行にもキレがありませんわよ!」
セシリアの言葉に納得する俺。
そりゃそうだよな。
ISに乗って1週間弱の素人に攻撃を当てられなきゃ、代表候補性の名が泣くわな。
このままじゃ、レーザーライフルだけでケリがついてしまう。
せめてビット攻撃ぐらい出させないと前座の意味がない。
俺がそう思っていると、
「本番はここからですわよ! さあ、踊りなさい! わたくし、セシリア・オルコットとブルー・ティアーズの奏でる円舞曲で!」
そう叫ぶとともに、ビット兵器を射出するセシリア。
うん、俺ごときにそこまでする必要あるのか?
獅子は兎を狩るのにも全力を尽くすのか、ただ単に俺を嬲り殺しにしたいだけか………
今のセシリアなら多分後者だな。
そう思いながらも4つのビットから一斉射撃がくる。
「くおっ!」
何とか避けようとするも、1つの銃口で普通に食らっていたのに、4つの銃口から放たれる攻撃を避けれるわけがない。
4本のレーザーの内、3本に直撃する。
「ぐあっ!? ………ッこのっ!」
俺はアサルトライフルを呼び出し、ビットに狙いを定めようとするが、ビットのスピードにロックが追いつかない。
例えロックできても、引き金を引く前にロックが外される。
狙いを定めている最中に真後ろから2本のレーザーが直撃。
装甲が吹き飛ぶ。
「ぐあっ!? ………くそっ!!」
俺は、ビットを操っている最中のセシリアは無防備だということを思い出し、少し離れたところでビッドを操っているセシリアに狙いを定める。
セシリアにターゲットロックがかかる。
現在のセシリアは、ビッドのコントロールで無防備だ。
このまま引き金を引けば、少なくともダメージは与えられるだろう。
だが、
「……………………」
俺は引き金を引けなかった。
いくら引こうとしても、指先が震えるだけ。
その瞬間、アサルトライフルが閃光に貫かれた。
「うわっ!?」
アサルトライフルから手を放した一瞬後に爆発する。
「狙いを付けるのにそんなに時間がかかっていては、実戦では使えませんわよ!」
その言葉と共に、4つのビットからレーザーが放たれる。
俺は咄嗟に飛び退き、ギリギリ避けることができたが、
――ドンッ!
「がっ!?」
避けた先にセシリアからのレーザーライフルによる攻撃が直撃した。
今の攻撃で、シールドエネルギーはもう半分以下だ。
俺がセシリアを撃てなかった理由は分かっている。
俺は怖いのだ。
人に向かって銃を、いや。
人を傷つける兵器を使うのが。
ISにはシールドや、絶対防御がある。
しかし、確か原作で鈴が言っていた。
絶対防御も完璧ではないと。
何かの不具合でシールドや絶対防御が発動しなかったら?
そんなことばかり考えている。
本来なら実力が下の俺がそんなこと言うのは身の程知らずもいいとこなのかもしれない。
それでも、俺は怖いんだ。
「こんにゃろ!」
俺はブレードを呼び出す。
このブレードは日本刀と同じく片刃の剣で、刃を逆にすれば殺傷能力は低くなる。
俺は刃を返し、セシリアに向かって突っ込んだ。
「射撃重視のわたくしに近接武器で挑もうなど、自殺行為ですわよ!」
「ほっとけ!」
俺はそう叫んで光の雨の中に飛び込んだ。
試合開始から15分後。
「はぁ………はぁ………」
俺は肩で息をする。
俺の打鉄は既にボロボロ。
シールドエネルギーも残り50を切った。
後1発まともに喰らえば終わるだろう。
「試合開始から15分………訓練機でこのブルー・ティアーズを前に、初見では頑張った方でしょうか?」
「そうかい。 そりゃ光栄だね」
俺は皮肉を込めてそう言う。
俺はセシリアに一撃も与えていない。
でも、それなりに手数は出させたはずだ。
だけど、俺が知る中でまだセシリアに出させていない武装がある。
できるなら、それを出させておきたい。
俺は賭けに出ることにした。
もしライフルで止めを刺しに来たら賭けは負け。
ビットで来たなら、賭けに勝てる可能性はある。
俺はイメージする。
俺自身が弾丸になるイメージ。
その弾丸をリボルバーに込め、撃鉄を起こす。
次に狙いを定める。
狙いはセシリア本人。
そして、イメージの引き金に指をかけた。
後は、セシリアの出方を待つだけ。
ドクンドクンと心臓の音が、やけにうるさく聞こえる。
俺は待つ。
その瞬間を。
そして、
「これで終わりですわ!」
その時は来た!
「行きなさい! ブルー・ティアーズ!!」
セシリアの背中からビットが射出される。
賭けには勝った!
その瞬間俺はイメージの引き金を引く。
撃鉄が叩き落とされ、火薬が破裂し、俺と言う“回転しない弾丸”が撃ち出された。
「うぉおおおおおおおおおおおっ!!」
俺は今までとは比較にならないスピードで突撃した。
あっという間にビットを掻い潜る。
「なっ!? 瞬時加速!? 素人が何故そんな高等技術を!?」
セシリアは驚愕している。
その隙にセシリアの懐に飛び込むようにブレードを振りかぶる。
当然刃は返してあるが。
そして、もう少しでブレードの攻撃範囲に届くというところで、セシリアがニヤリと笑った。
「………かかりましたわ」
セシリアの腰部から広がるスカート状のアーマー。
その突起が外れて、動いた。
「おあいにく様、ブルー・ティアーズは6機あってよ!」
その2つのビットは先程までの4機とは違い、ミサイルだ。
瞬時加速中の俺に、避けるすべはない。
だが、狙い通り。
俺は、賭けに勝った事に、思わず笑みを浮かべた。
――ドガァァァァン!
爆発に飲まれる俺。
そして、
『勝者、セシリア・オルコット』
俺は負けた。
爆煙が晴れていく。
そこには、少し安堵の息を吐いたセシリアの姿。
「ふぅ………最後は少しヒヤリとしましたが、所詮男などこの程度ですわ」
そう言うセシリア。
だが、俺の目的は達成された。
「まあ、俺はダメな男代表だからな、タダの前座だよ。 次はイイ男代表の織斑が相手だ。 精々惚れないように気をつけるんだな」
俺がそう言うとセシリアは顔を真っ赤にして怒り出した。
「わ、わたくしがあの様な知的さの欠片も感じさせない男に惚れるですって!? 絶対にありえませんわ!!」
俺はそれを聞いて、もう一言付け加えた。
「オルコットさん。 この世に絶対なんかないんだぜ」
俺はそう言い残してピットに戻った。
ピットに戻ると、まだ一夏の白式はフォーマットとフィッティングが終わっていなかった。
まあ、流石に15分ちょいじゃ終わらなかったか。
「盾。 最後、惜しかったな」
一夏がそう声をかけてくる。
「そんなことはないさ。 最後も偶々、オルコットさんが油断してくれていたからだよ。 結局は撃ち落とされたし」
俺はそう言いつつ、ISを解除する。
「ま、それはともかくお膳立てはしておいたぜ。 後はお前次第だ。 頑張れよ一夏。 お前なら勝てる」
俺がそう言うと、
「ああ! お前の仇は俺が取る!」
力強くそう言う一夏。
やっぱカッコイイね主人公。
少ししてセシリアの補給が終わったことが伝えられると、一夏はカタパルトに移動する。
そして発進する直前、
「箒」
一夏が箒に声をかける。
「な、何だ?」
いきなり声をかけられた箒は、少し驚きながら聞き返す。
「行ってくる!」
「ッ………ああ! 勝ってこい!」
カッコイイね一夏。
箒の好感度が鰻昇りだよ。
俺は一夏がカタパルトでアリーナ内に飛び出していくところを見送ると、廊下へ続くピットの出口へ足を向ける。
すると、
「待て。 一夏の応援をしないのか……!?」
箒に呼び止められる。
それに対し俺は、
「応援はするさ。 だけど見る気はない。 才能の違いを見せ付けられるだけだからな」
俺はそう言うと廊下へ出た。
そこで俺は一度ため息を吐く。
「はぁ~~~。 わかっちゃいたけど、一撃も与えられなかったなぁ~~」
まあ、ビビって銃を撃てなかった俺に大半の原因があるが。
俺は少し廊下を歩くと、休憩するためのベンチがあった。
俺はそこに座る。
ふと見ると、そのベンチの正面には、モニターが備え付けられていて、アリーナの状況が映し出されていた。
その中で、一夏は自在に空を飛んでいる。
今の状態で、この一週間必死に飛行訓練を行ってきた俺と同等かそれ以上の飛行。
しかも、まだ一次移行も済んでいない。
「はあぁ~~~~~~…………」
それを見て、俺は思わず大きなため息を吐いた。
すると、
「ため息を吐くと、幸せが逃げちゃうよ」
「うおわっ!?」
いきなり横から聞こえてきた声に、俺は驚いて立ち上がりつつそちらを向いた。
するとそこには、セミロングの水色の髪が外側にはね、ルビー色の瞳をした美少女がベンチに座っていた。
い、いつの間に?
全然気付かなかったぞ?
「だ、誰?」
俺はそう口にしたときに気付いた。
リボンの色は2年生。
そして、水色の髪にルビー色の瞳。
更にはその手には扇子が握られている。
それらが示すのは、
「こうやって顔を会わせて話すのは初めてだね。 無剣 盾君。 私は更識 楯無。 生徒会長よ」
やっぱり楯無会長ですかぁぁぁぁぁぁ!
なんでここに!?
っていうか、この声どっかで聞いたような………
「なんでここに、って顔してるね? 答えは簡単。 自分の教え子が気になったから」
「はい? 教え子?」
俺は思わず疑問を口にする。
すると、
(うふふ。 まだ気付かない?)
プライベートチャネルで、例の声が響いた。
「ああっ! この声、俺の訓練にアドバイスをくれた!」
俺は思わず楯無会長を指差してしまう。
「その通り!」
広げた扇子には、正解の文字。
俺はとりあえず姿勢を正し、
「えっと……更識先輩、アドバイスについては本当にありがとうございました。 お陰で、オルコットさんとの戦いの土俵にちゃんと立てました」
そう言って頭を下げる。
「でも、何で俺に?」
俺は気になったことを尋ねる。
「う~ん………まあ、名前が気になったから、かな?」
少し考え、楯無会長はそう答える。
名前?
ああ、よく考えれば、俺の名前って楯無会長とは、真逆の名前だよな。
盾無き者と、剣無き盾。
その名前で興味を持って、後は気まぐれってところか。
「そうですか。 それなら言っておきますけど、俺なんかに時間を費やすより、織斑を鍛えてやったほうが有意義ですよ」
俺がそう言うと、
「何でそう思うの?」
楯無会長は、それなりに真剣な顔で聞き返してくる。
俺はモニターを見つめ、
「見てください。 織斑はISの合計稼働時間は今現在でも1時間………いえ、30分にも満たない。 それなのに、あいつはもう飛行をモノにしようとしてる。 俺がこの1週間、ずっと訓練してきてたどり着いた領域に、この5分足らずでたどり着いた。 いや、既に俺を超えている」
モニターの中の一夏は俺が躱せなかったビットの攻撃を次々に躱していく。
そして、その瞬間光に包まれた。
ようやく一次移行が完了したようだ。
そして、零落白夜を発動。
今まで以上に動きが良くなり、ビットの動きを完璧に見切り、次々とビットを切り落として行く。
4つ目のビットを落としたとき、一夏はそのままセシリアに突撃した。
そして、セシリアの懐に飛び込んだとき、セシリアはミサイルビットを発射した。
だが、
『それは、さっき見た!!』
あの至近距離からミサイルを2発とも切断。
爆発とともにセシリアに急接近する。
そして一閃。
『勝者、織斑 一夏』
結果は、一夏の勝利で幕を閉じた。
流石だな主人公。
もしかしたらと思ってセシリアの手数を出させることに集中してたら、本当に勝ちやがった。
「見ての通りです。 織斑と俺の才能の差は、正にウサギとカメです。 ですから、俺なんかに無駄な時間を使うよりかは、織斑の才能を伸ばしたほうが効率的です」
「でも、いくらカメでも、歩みを止めなければ、いつかはウサギに追いつけるんじゃない?」
楯無会長はそう言ってくる。
「無理ですよ。 真面目な頑張り屋のウサギに、怠け者のカメが勝てるわけないじゃないですか」
俺は自傷気味に呟く。
「俺は努力をするということが出来ない人間です。 何度やっても3日坊主。 いえ、3日もてばいい方ですね」
「でも、今回君は1週間頑張ってたよ?」
「それは恥をかきたくなかったからです。 俺にも多少のプライドというものがあります。 自分の中では恥をかかない最低限のレベルまでは頑張れるんですよ」
「じゃあ負けることは恥じゃないの?」
「恥ではありませんね。 俺にとって負けることは当たり前。 負けることは、俺の人生の一部と言っていい」
それは前世も含めて染み付いた、負け犬根性。
「負けたって別にいい。 土俵に立てるだけの力があればいい。 だから俺は努力ができない。 それでいいと心が諦めているから」
「…………………」
楯無会長は黙り込む。
流石に諦めただろう。
すると、
「君は本当にそれでいいの?」
そう問いかけてきた。
「さっきも言いました。 心がそれでいいと諦めているんです」
俺はそう答える。
「悔しくないの?」
「悔しがるほど努力をしていませんから」
そう答えても、楯無会長は繰り返し聞いてくる。
「本当に?」
「……本当です」
「ホントのホントに?」
「……………はい」
何度も、俺の心の奥底に眠る本音を引きずり出そうとするように。
「本当に、悔しくないの?」
「……………………」
ついに俺は、口からの答えが言えなくなってしまう。
「………私は、君の本当の気持ちが知りたいの」
「…………………………」
その言葉が、俺の心の蓋に穴を開ける。
「悔しく………ないの?」
「……………………………………………………………悔しいですよ」
遂に、俺の心の奥底に押し込んでいた僅かな本音が漏れた。
そうなればもう止めることはできない。
「俺だって男です! 勝ちたい! 負けたくない! 負けるのは悔しくてたまらない! ………………だけど、それ以上に悔しいのは、それだけ悔しさを感じているのに、努力することが出来ない自分が一番悔しい!!」
俺は壁を殴りつける。
「だけど俺にはどうする事もできない! どんなに努力しようとしても三日坊主! どんなに悔しい思いをしても、体は楽な方を選んでしまう! 悔しがって! 努力しようとして! 結局は楽を選ぶ! そしてそんな自分が更に悔しい! 結局はその繰り返しなんだ!! それなら、最初から諦めて何もしない方がいい! それなら悔しさも感じない! 初めから負け犬でいれば、それ以上堕ちる事はないんだ!!」
俺は思いの丈をぶちまけた。
「はぁ……はぁ………そういうことです。 俺にはもう構わないでください」
俺は楯無会長に背を向ける。
「…………ねえ」
まだ楯無会長は声をかけてくる。
「まだ何か?」
半分睨みつけるような目で楯無会長を見てしまう。
「最後にもう一つだけ本音を聞かせて?」
「……………何ですか?」
楯無会長はひと呼吸置き、
「………強くなりたい?」
そう聞いてきた。
だから俺は、
「…………なりたいですよ」
本音で答えた。
「うん。 君の気持ちはよくわかった」
すると、楯無会長は俺の手を取った。
「え?」
そして、
「じゃあ、レッツゴー!」
そのまま俺は楯無会長に引きずられていった。