番外:和平の使者は槍を持たない・NG ver
「あのさ…ベルカの諺にこう言うのがあんだよ、「和平の使者なら槍は持たない」。話し合いをするのに武器を持ってくるヤツがいるかって」
「おそってきた子がそれをいう?!」
おもわず声を荒げるなのは。
「紅の、それは諺ではなく小噺のオチだ」
「ああ、そうだったな」
「ええ、そうでしたねぇ、いつの間にやらオチ扱いでしたね・・・」
ザフィーラの指摘に、シグナムもシャマルも同調している。
「な、なんだよ、みんなして、こまけーことはいいだろ」
ここで全身甲冑のシャマルが、ヘルムの奥からでも突き刺さるような眼光をヴィータに向けた。
「細かいですか、言うに欠いて細かいことですか。槍くらいあってもいいじゃないですか、こっちは準備万端だったんですよ」
その剣幕に仮面を被ったシグナムがかぶりを振る。
「湖の騎士よ、頼むからあのことは忘れてほしいのだが。槍を持てと言っても、私には無理な相談だ」
「紅の、この話はあまり吹聴するな。これは大人向けの小噺のオチだ。しかも当事者がそこにいるらしい」
「なんだよ、盾!あたしはガキじゃねーぞ」
「あんなにさっそうと現れて、決闘だって優雅に勝っておいて、それで槍がない?!詐欺よ、いくらなんでもひどすぎるわ!わたしのときめきを返しなさいよ!」
『あの甲冑、女性ですか・・・』
エイミィの指摘に、プレシアが答える。
「小噺の内容も大体わかったわ、宝塚系をバレ話に改変したような類ね」
シグナムがシャマルの抗議に反論を返す。
「確かに使者に志願したのは私だがな、私を勝手に男だと勘違いして舞い上がったのはそちらだぞ。湖にもお前の父君にも無理だと何度も言ったではないか」
「おまけにお前の弟は決闘を仕掛けてくるし、ひどい目にあったのは私の方だ。大体兄上たちはもう婚約者がいたから無理だったが、弟なら紹介できると言ったではないか」
「あなたの弟って、まだ5歳だったじゃないですか!成人を待っていたら行き遅れ確定でしょう!人でなし!」
「今でこそお前の方が上に見えるが、あの時お前は12だろう。7歳差くらい、どうということもないだろう。一つ上の兄もそんな感じで結婚していたぞ」
「ちがうんです!烈火はなんでそんなにデリカシーがないんですか!槍がないのに男前で変なところでデリカシーがないとか今でも詐欺じゃないですか!そうやってまたどこかで哀れな犠牲者を生み出してるのよ!この女たらし!」
「おい待て、言うに事欠いて女の私に向って女たらしとは何だ!」
「お隣のグラニアに向かいのグウェン、3つ飛んだ先のデライラもみーんな惚れさせておいて袖にしたあなたが女たらしでなくてなんだというの!」
ここでシグナムガチで焦る。3人のおそらく女性の名前が出たが、本当に記憶にない。いや、そういうことではあればその場で断ったはずだ。
「みんなあなたに恋文を出して、すげなく断られて私のところに相談に来たのよ!グウェンなんて国境向こう側なのにうちに来てこう言ったのよ。『あの方を射止めるにはどうすればよいのでしょう』って」
「思わず目と耳を疑ったわよ、父上のところに引きずっていったわ、そしたらよりにもよって」
「どうしたの?」
思わず身を乗り出して聞いてしまうなのはに、真顔で聞き耳を立てているフェイトである。
「『色恋沙汰に国境を持ち出す野暮は我がベンウィックにも、好敵手たるオディオンにもおらんよ。まあ話くらい聞いてやれ』ですって、あのクソおやじ!あれは絶対楽しんでいたわ!」
「そういう状況だから単騎で私が使者としてたどり着けた訳なんだが・・・あと、あれはただの女同士の文通だったはずだ。恋文などもらったことはないぞ」
「だからデリカシーがないっ」
真後ろから首元に打撃を加えられて沈黙するシャマルと、それを抱えるザフィーラであった。
「すまんが、後日に仕切り直す。それと烈火よ」
「なんだ」
「もう少し周りを見ないと、今生では女人に刺されるぞ。そういうのを大分見て来たのでな」
「すまんが、本当に分からないのだ」
「・・・引き上げるか、この話はそれからにしよう」
翌日、聖祥屋上にて
「ねー、アリサちゃん、女の人なのに女たらしって人、見たことある?」
いきなりのろくでもない問いに、牛乳を噴き出すアリサであった。
後書き:ほのぼの日常系禁断症状からシグ×シャマギャグが出来上がったので投稿。いずれ小噺自体を書きたいが、ありがちな話だし誰か書いてもいいんやで?