最近の世の中は便利になったと思う、何しろただの山賊が立派な軍馬を三匹も飼っていたのだからこれをいただかない手はない。
とは言え、ドヴァキンさんの表情は険しい、何故ならルイズが調子に乗っているから。
「ふふーん、私だって得意な事の一つ二つはあるのよ」
などと得意げに語るルイズは馬の上だ。
男顔負けの見事な乗馬ではあるが、これじゃうるさくてかなわない、かと言ってルイズにレースでも挑んでみろ。
ドヴァキンさんの権威は失墜してしまうだろう、だからドヴァキンさんは懐に手を突っ込んで、ルイズ限定に効く魔法の本を引っ張り出すのだ。
「トリスタニアまで届く大きな声で、読んじゃうぞ?」
「ごめんなさい」
素直に謝ったルイズに免じてレモンちゃんポエムは懐に再び封印しておく、ちなみにここは既にヴァリエール領の街道で、そんな所からトリスタニアまで声が届く訳が無いと諸兄はお考えであろう、人型の姿に騙されつつあるがドヴァキンさんは歩くドラゴンだ、不可能は殆どない。
やれるものならやってみろなんて言うとドヴァキンさんは本当にやる、だいたい最近の楽しみがルイズを弄り回す事なのでやるなと言われてもやってみたいのが内心なのだ。
「ねえドヴァキン」
隣で馬を歩かせているルイズが不安そうな声を出し、俯いている。
「……家族に会うのは、やっぱり怖いか?」
「うん」
ドヴァキンさんの言葉に素直に頷くルイズ。
そんな彼女を見て、ドヴァキンさんは手を伸ばしてはルイズの頭をワシャワシャっと撫でてやる、気持ちよさそうに目を閉じるルイズに優しい言葉をかけるべく思案を巡らせて口を開く。
「そうだな、落胆されるかも知れないし、お前はもしかしたら幽閉されるかも知れない」
撫でている手から体をすくませたのが伝わってくる。
「それでも、お前は姿を見せて安心させてやれ」
ドヴァキンさんが居たスカイリムは内戦中であった、子供を探して欲しいと見知らぬババアに縋り付かれた事が何度もある。
親と言うのはいくつになっても子供の事が心配なのだろう、ただし馬鹿は除く。
「閉じ込められたら、そうだな。王子様には到底見えない俺が攫いに行ってやるさ」
「浮浪者に攫われるお姫様ってやつね」
「ロマンの欠片もねぇ一言だな……」
せめて悪い騎士に攫われるお姫さま位は言って欲しかったドヴァキンさんではあるが、仕える者のいない騎士ほど格好がつかないものもないだろう。
「ロマンがなくてもいいのよ、私は現実主義者だもの」
得意げに笑うルイズにムカついたのでレモンちゃんポエムの封印を解き放つ。
「ほぉ、現実主義者」
「……それ出すのやめてよね」