ルイズが尻からカレーを出す病気を治してから一週間、人の適応力と言うのは凄まじいものである。元々魔術師ではなくこちらの方に才能があったのか、ただ度胸が素晴らしいだけかは分からないがルイズはしっかりと冒険者生活に適応してみせた、一日風呂に入れないだけでぴーぴー喚いていた女が今は三日位入らずとも平気そうな表情を見せている、ただ。
「……強烈な牝のにほひがする」
夜の運動会に誘っているのか誘っていないのか……恐らく後者であろうがプンプン年頃の女の香りがするのだ。しかも強烈に、だから今のルイズはゼロでもおっさん使いでもなく悪臭のルイズと呼ぶべきであろう。
「……そんなに臭うかしら、ちょっと水浴びしてくるわね」
とまぁルイズも年頃の女の子だ、山賊から奪った野営地の近くにある泉に替えの毛皮の鎧を持って歩いて行ってしまう、ルイズは貧弱すぎて金属系の鎧がつけられない、まぁそれは仕方ないだろう。
フルプレートを身に纏って全速力で走れるスカイリムの民がおかしいのだ、それにしてもドヴァキンさんは平和だなと空を見上げる。ドラゴンも飛んでないし、街道を普通にサーベルタイガーとか熊が闊歩していない。フォースゥーンだっていないし、ハルケギニアはレコンキスタのものだぁ!とか言って斬りかかってくる輩も少ない。
「……退屈だ、だが悪くない」
ドヴァキンさんのステータスが下がりました!レベルが20に制限された!
「……ん? なんか今厄介な事になったような気がする」
とまぁドヴァキンさん弱体化イベントが終わってからルイズが水も滴るいい女になって戻って来た、具体的に言うと牝の匂いはまだするが薄くなって丁度よくなった、つまりは股間がいきり立つ。ドヴァキンさんの小さなドヴァキンさんも元気一杯だ。
「戻ったわよー」
手ぬぐいで髪を拭きながらのご帰還だ、ちなみにルイズの髪は切られて肩位の長さになっている。
「おう、こっちも肉が焼けたぞ」
ドヴァキンさんはそんなルイズを笑顔で迎えてやる。
「……鍋しかないのにどうやって肉を焼いたのか、いつも不思議なのよね」
ルイズさんはそうやってドヴァキンさんを半眼で見つめるがスカイリムの技術と言うことで納得して欲しい。ドヴァキンさんだって鍋の前で肉と塩を持ってどうやって焼こうかと悩んでいたら出来てしまったのだ。つっこみいくない。
「ま、気にすんなよ。そのあたりはムアイクがぼやいてくれるさ」
「ああ、あの猫ちゃんね」
ハルケギニアを放浪する猫ちゃんである、向こうと違ってこっちでは普通の猫なのだ、喋るけど。
ルイズと朝食を済ませ、本題に入る為に口を開く。
「んで、魅惑の妖精亭から頼まれた鹿狩りだけど、本当にお前一人で大丈夫か?」
ドヴァキンさんも心配なのだろう、指についた塩を舐めながら訪ねて見る。
「馬鹿にしないでよね、これでもちゃんと弓は扱えるんだから」
ドヴァキンさんの心配をよそに、ルイズは得意げだ。
まぁドヴァキンさんを的に訓練したから弓兵並の命中率を誇ってはいるだろうが……如何せんトリステインは治安がよくない、山賊に出会った薄い本的な展開は勘弁してほしいのだ。
「……ま、そうなったらそれまでだな。よし、じゃあ任せたぞ、俺は学院の方に遊びに行ってくるからさ」
「大船に乗った気で待っていなさい!」
サブクエスト「魅惑の看板料理」が開始されました。
トリスタニアから歩いて半日の山中にて、ルイズは楽しそうに鼻歌を歌いながら歩いている、自慢であった白磁のような肌をブッシュ(大統領でも婦人でもない)が切り裂いても気にしていない。お付きの人もなく、誰に文句を言われるでもなく、本当の自由をルイズは満喫していた。
自分の師であるドヴァキンさんはこう教えてくれる『お前は自由だ、自由だからこそ責任は全て自分にのしかかる』この責任と言うのは自分の命であろうと聡明なルイズは結論づける、それでも楽しいものは楽しいのだ。カバンには自信作であるお弁当のサーモンサンド、水代わりの蜂蜜酒を割った物、それに頼りにならない魔法ではなくドヴァキンさんが強化した狩猟弓を手にずんずんと進んでいくのだ。
「ふぁ~すきすからはっじまるぅ~♪」
それにしてもこのツンデレ、ご機嫌である。音を外しながらものんびりと山中を歩いていると鹿は何匹か見つける事が出来たが……依頼は雄鹿を仕留めてほしいと言うもの、雄の硬い肉がいいソーセージになるのだと言う。
だが生息地はもう近いのだろう、ルイズは腰を落としてブッシュに隠れながら先を急ぐのだ。
(居た!)
目標はのんびりと草を食んでいる、実にのんびりした風景だが……この辺りはドヴァキンさんを召喚した影響で秩序から混沌へ属性が傾いたルイズである、担いでいた弓を構えて矢を弰るのだ。
弦が引き絞られて僅かな音を出す、鹿は耳を何度か動かして顔を上げた。驚くべき野生動物の聴力よ、だが生憎こちらは風下だ。匂いを嗅ぐ事も出来ないし、次にあんたが聞くのは自分の心臓を鉄の矢尻が貫く音だけよ、とルイズは胸中で格好つける。
ギリギリまで引き絞った弦をゆっくりと手放した、木の反発力によって矢は押し出されていく、鳥の矢羽根が揚力を産み出して矢は目標へと向かって飛翔する。
分厚く頑丈な鹿の革、遥か古代の石を使っていた人類は仕留めるのも一苦労であったろうが……この辺りは人類同士で殺しあった技術力だ、頑丈な革を貫いて目標の心臓を鉄が叩いた。
力強く鼓動を打っていた、長く走る事に特化した心臓は容易く人類の英知である鉄の矢尻によって貫かれて鹿は三歩歩いて音を立てて倒れた。
「やったわ! えっへん! 見なさいよ、ドヴァキン! 私にだって……あ」
喜色満面で振り返り、ルイズは思わず頬を赤く染めた。
ドヴァキンは居ないんだった、随分あの小汚い男に懐いてしまったとルイズは後頭部を照れ隠しにポリポリと掻いた。何しろ今も後ろから―――へぇ、やるじゃないか。えらいぞルイズ―――なんて言葉が聞こえるのだ、しかもあの人懐っこい笑顔付きで。無論幻聴ではあるが、それほどの存在になっているのだ、たった一週間でドヴァキンさんはルイズに受け入れられてしまったのである、話術カンストは伊達じゃない!
自分の父親位には懐いてしまったルイズは恥じ入りながら鹿の解体を始める、ドヴァキンさんから習った解体術だ。
「えっと、確か……穴が空くほど見つめるのよね」
言われた通りにジッと鹿の死体を見つめてみる。
ガサッ
鹿の肉
鹿の角
鹿の革
全部取る [E]
「なんか出たわ! 頭になんか出たわ!」
ルイズ、カルチャーショックの巻である。
とりあえず全部取る! と強く念じると急に背中に背負ったリュックサックが重く感じた、恐る恐るリュックサックを覗いたルイズはアングリと口を開けた。
見るからに新鮮な肉と綺麗にはがされた革と角が整頓されて入っていたのである、とりあえず自分の体を触ってどこかに異常がないか調べるルイズ。
「お乳が無いわ! ってそれは元からよ!」
そう叫ぶとルイズの頭上でカラスが鳴いた、なんだか妙に虚しくなってしまう。
「私、一人で何をやっているのかしら……。おうち帰る」
来たときとは裏腹にしょげて帰るルイズをお猿が木の上から見つめていた。
報酬:七十スゥ
ルイズの弓術スキルが51になりました、レベルがあがった。
基本的にサブクエはルイズちゃんが消化します