釈放、それは犯罪者が自由になる事と同義だ。
結局最後の親心と言わんばかりにルイズの親が圧力をかけてくれたようで収監されてから一週間で出所出来たあたりが素晴らしい。
トリスタニアを発見したと脳内でモノローグが流れ、経験値が手に入ってしまう、これ以上レベルアップしたら一体全体誰と戦えばいいのであろうか、とドヴァキンさんは不安になりつつもトリスタニアの大通りを闊歩するのだ。
とりあえず今必要なものは金であろう、今持っているぴかぴかでチャリチャリの金貨(シセロ談)では買い物は出来ないようだ、お店では使えないよと鼻で笑われ、両替商には渋い顔をされて偽造を疑われてしまう。西の海岸に流れ着いた旅人と言うことにしておいた、ルイズに命を救われて彼女の身辺を守ることを一生誓った異国の騎士……なんて物語を作ってしまった、この辺りスラスラ嘘が出てくるあたり流石話術カンストである。
「うーむ、こりゃ外で獲物でも狩った方が早いだろうが……」
外には沢山の命がある気配がする、それを狩りとるのも楽しそうだが……まずはルイズだ、一週間下痢に苦しんで大分消耗している、暖かいベッドと栄養満点の食事が必要であろう、今も噴水の前にあるベンチでぐったりしている。ソブンガルデに行くのが早いか、ドヴァキンさんが食べ物を買ってくるのが早いか……これは勝負となるだろう。
「いいな、ルイズ。ここで大人しく待っているんだぞ、はちみつのかかったパンとスープ、それに暖かいベッドを調達してきてやる」
虚ろな目でこちらを見上げたルイズはコクリと頷いた。
彼女に井戸から汲んだ水を革袋ごと渡し、ドヴァキンさんは駆け出すのだ。目指すは服飾店だ、旅の行商人とでも言えばいいだろう。
そう考えてトリスタニアをかけずり回っていると懐に手が入ってくる。
「フン!」
入ってきた手をノルド族自慢の怪力で治らないよう器用に握りつぶし、先を急ぐ。殺さないだけ有難いと思って欲しい。
五人ほどのスリを再起不能にしたドヴァキンさんはようやくお目当てのお店を見つけ、中に入り、交渉して追い返されてしまった。なんでもギルドと呼ばれる利権団体がおり、そこを通さないと売り買い出来ないらしいのだ。
「……この国めんどくせー」
当初の目論見が外れたドヴァキンさんは肩を落としてトボトボと石造りの街を歩く、流石にルイズを放置して山賊退治と洒落込む訳にも行くまい。
「あ、兄貴! あの野郎です!」
先ほど指を折られた男が大男を引き連れて、ドヴァキンさんを指差しながら叫ぶ。
「ほぉ、あの小汚い野郎がお前の指を折ったのか……そこのおっさん! 面貸して貰おうか!」
そして大男がずいっと前に出て、舌を向いて考えこんでいるドヴァキンさんに強く言い放つ。
「うーん、どうしたもんか。こりゃマジでノクタールごっこをするしかないのか」
だが相手はドヴァキンである、誰かが何か言っている最中に全力ダッシュするのはいつもの事なのだ、完全スルーにて歩いていってしまう。大男は震えながら懐から杖を引っ張り出す。
「この元貴族のロキール様を無視するなんざ……いい度胸だぜ!」
「ん? ロキール? ロリクステッドの?」
何かを考え込んでいたドヴァキンさんはクルリとロキールの方を振り向く、だが居るのは大男と先ほど指を折ったスリだけだ、思わず首を傾げてしまう。
「ロキールなんて居ないじゃないか」
ソブンガルデにもいなかったし、ここにも居ないのだ。
ドヴァキンさんの言葉にロキールと名乗った大男は肩を震わせる、ドヴァキンさんに杖を向けて、我ここにあらんと大きな声で叫ぶ。
「ここに居るのがロキール・ド・ロリクステッド様だぁ! ファイアボール!」
ロキールは呪文を既に完成させていたのだろう、向けていた杖から大粒の火球がドヴァキンさんを焼きドヴァキンさんにしようと襲いかかる。キョトンとした表情でそれを見つめるドヴァキンさんを勝利を確信したロキール、ドヴァキンさんに火球が命中し、破裂音を立てて彼の体を燃え上がらせる。
「はっはっは! メイジに平民が勝てるかよ!」
燃え上がるドヴァキンさんと高笑いするロキール。
「なんだ、街中にも山賊が居るじゃないか。ラッキー」
燃え上がるドヴァキンさんは嬉しそうにそう言って一歩前に踏み出す、しかしスカイリムのロキールもこっちのロキールも運が悪い、相手はドラゴンの炎を食らっても薬をガブ飲みすれば元気一杯なドヴァキンさんなのだ。杖の端っこから飛ぶ小さな火球などドヴァキンさんにとっては夏の日差しと変わらない。
「Wuld」
小さな呟き、それと共にロキールの前には笑顔のドヴァキンさんが居た。ドヴァキンさんの手にはスキル上げで大量生産した鉄のダガー、神工レベルのドヴァキンさんが鍛えて磨いだ芸術品のようなダガーナイフである、鋭い刃は真っ直ぐにロキールの胸に伸び、容易く心臓を貫いた。
「あ、あひゃぁぁぁぁぁぁ……」
声もなく、ぐったり項垂れたロキールと情けない悲鳴を上げるスリの男。
ドヴァキンさんはダガーナイフをそのままに、ロキールの体を横にして体を漁る、持っている木の枝に価値はないと判断し、懐にある革のサイフを取り出して中の金貨を検める。
「ひぃふぅみ……銀貨十二枚と銅貨三十枚か、おい」
中に入っている財貨の価値はわからないがとりあえず多いに越した事はないと判断し、腰が抜けているスリの男に声をかける。
「ひぃ……殺さないで」
スリの男は至って常識的な反応を見せる、やりやすくていいとドヴァキンさんは微笑む。
「お前らがアジトに貯めている金を全部寄越せ、それで手を打ってやる」
ここでドヴァキンさんが出した要求は非常に人道的で英雄らしくないものだった、スリの男は頷いて逃げるように駆け出す。その後ろをドヴァキンさんがスキップで追いかけると言った不思議な光景が広がり、スリの男はスラムに存在する小屋の中へと転がるように入っていき、一つの宝箱を急いで差し出して来た。
「こ、これで全部です!」
「ふーん、じゃあもういいか。死ね」
宝箱を受け取ったドヴァキンさんはそう言うと同時に男の頭にへと斧を振り下ろした、肉が潰れ、骨が砕けて脳を犯す素敵な音色を聞いたドヴァキンさんは鼻歌混じりにそこの小屋へと入っていく、やっぱり嘘を着いていたようで机の上に金貨が何枚か並べてある。
おそらくあれでゲームでもやっていたのだろう、ドヴァキンさんは全部もってこいと言った、奴は嘘を吐いた、だから死んだのだ。
ドヴァキンさんは蛮族でいらっしゃる、嘘はいけない。
とりあえず手に入れた金貨や銀貨、銅貨を懐に詰め込んでルイズの元へと急ぐのだった、今日はワインにはちみつをかけたパン、それに鹿のシチューあたりでメニューは決定だなとルイズの喜ぶ顔を想像してドヴァキンさんは走るのだ。
報酬:ルイズ
ガンダールブのパークを手に入れました