ユーノは悩んでいた。
「……ない」
目の前に広がった自宅に存在するすべての衣服を睨む。
現在、自分の服の中から、パンツ二枚、シャツが二枚なくなっていた。
最初は些細なことだった。休みの日にユーノは纏めて洗濯をするのだが、洗濯をする時にふと気づいたのだ。パンツの数が一枚足りない。
気づいた捜したものの、見つからなかったからユーノは失くしてしまったのだろうと思った。
だが、次の洗濯の時に、その失くしたパンツが洗濯機の隙間から出てきた。ああ、なんだこんなところにあったから気づかなかったのかとユーノは見つかったことに安心して洗濯しようとしたら、今度はシャツが足らなかった。
そして、後日たまたま他の洗濯ものに紛れていたので見つかった。
これだけなら、単に普段不精しているからかなとユーノは考えたのだが……
「でも、それが定期的に起こるんだよなあ」
ユーノの疑念はそれが定期的に起こることだった。
短くて一週間、長くて一ヶ月の頻度でパンツかシャツが一枚か二枚なくなっていた。時に両方ともなくなることも。一度や二度なら偶然で済ますが、流石にこんなに何度も起きれば偶然じゃすまされない。
いったいなぜ? それに気づいてからユーノは定期的に服のチェックをするようになっていた。
なんだか気持ち悪い。なくなったり出てきたり、なんかの事件にでも巻き込まれたのか、それとも未知のロストロギアかとも思ったが、服がなくなる事件なんてあるわけないし。
ロストロギアだとして、手元にそんなものはないし、今までに研究のため預かったものにもそんな妙な効果があるものなんてなかった。
「いったいなんなんだよ……」
このおかしな事態にユーノはそう呟くしかなかった。
「ていうことがあったんだよね」
「ふ、ふーん、そうなんだ」
「お、おかしなこともあるもんだね」
「大変だねユーノくん」
「気にしすぎじゃないのユーノ?」
久しぶりに会う幼馴染たち――――なのは、フェイト、アリサ、すずかに話すと、そんな反応を返された。
それもそうだろう。定期的に服がなくなったり現れたりなんて話にどう反応するべきなのか。振る話題を間違えたかなあとちょっとだけユーノは後悔する。
なお、はやては残念ながら地上部隊に用事があっていない。顔がにやけていたからゲンヤと会うつもりなのだろう。
それからお茶を一口飲んでから、なのはとフェイトはなんでか額にびっしりと汗が張り付いているのに気づいた。
「あれ? なのはちゃんとフェイトちゃん、なんでそんなに汗をかいてるの? もしかして心当たりがあるのかな?」
すずかの問いかけにびくんと二人が反応する。
「ぜ、全然知らないよ。大人になってそんな犯罪行為をするなんて。ねえフェイトちゃん?」
「う、うん、仕事が忙しくてそんなことをする暇なんてあるわけないもんねなのは」
「……まあ、もしかしたら変質者の仕業かもしれないし、なにか対策考えなさいよ」
と、アリサはユーノに警告する。
「うん、確かになんか対策考えないと」
どこか挙動不審になったなのはたちを見ながら、ユーノとアリサとすずかは頷いた。
お茶会が終わってから、家に帰ってきたなのははそそくさと自室に駆け込んだ。フェイトも同じように自室に飛び込んだ。
そして、鍵をかけてからベッドに突っ伏する。
「うー、ユーノくんが気づいちゃった。これからは気を付けないと」
そういいながらなのははベッドの下へ手を突っ込む。
そして、出てきたのは男物の下着、ぶっちゃけユーノのパンツだった。それになのはは顔を埋める。
「はあはあ、ユーノくんの臭いいいよお、これがない生活なんて考えられないの!」
深呼吸して、たっぷりとユーノの残滓を肺一杯に満たす。
一番親しい男の子。子供の頃はただ、横にいてくれて、その匂いを吸うだけで満足していた。
だけど、大人になって、お互い仕事で隣にいられないようになってから、なのはは段々、あの匂いが恋しくなってしまった。
できるなら、またユーノが隣にいてもらいたい。でも、そんなことできるわけがない。自分は教導隊のエースオブエース、ユーノは無限書庫司書長、共に戦場に立つことはないのだ。
だから、なのははユーノのパンツの匂いを嗅ぐことで、ユーノが隣にいない寂しさを紛らわすようになってしまったのだった。
「うう、でももうだいぶ臭いがなくなっちゃったの。そろそろ新しいのに変えなくちゃ」
≪ですが、ユーノもすでに警戒してます。危険です≫
レイジングハートが警告する。
確かに、ユーノは気づいてしまったし、おそらく今日の自分の反応に疑いをかけているだろう。あと、気になるのはフェイト。あの反応は不可解だったから、もしかしたらなんか隠しているのかもしれない。
だけど、
「そのくらいの障害で私は止められないの。ほら、レイジングハート。ユーノくんのパンツだよ」
≪Sweet smell……≫
レイジングハートをパンツに押し付ける。残念ながらレイジングハートも変態だった。
「ああ、ここにユーノくんのフェレットさんがいたんだよね」
べろべろとなのははパンツを舐める。仄かにしょっぱい味がした、気がした。
「ああん、いいのユーノくんのパンツ、ユーノくんのパンツ! 明日返しちゃうからしっかりと堪能するの!!」
なのはは顔面に押し付けてたっぷりと匂いと味を堪能しながら別れを惜しむのだった。
「ま、またやっちゃったの……」
目の前の涎やなにやらでどろどろとなったパンツになのはは乾いた笑みを浮かべるしかなかった。いつもいつも興奮のあまりこんな変態行為をしてしまう。
そして、終わるたびに自己嫌悪するのだけれども、それでも止められなかった。
「と、とりあえず、洗ってからこっそりユーノくん家に片付けなくちゃ!」
すぐになのはは行動する。
こっそり部屋を出て、隣のヴィヴィオが出てこないか警戒する。が、部屋からは『明日はトーマと映画館♪』と上機嫌な声と衣擦れがするから、明日のデートのための準備をしてると判断して静かに廊下を横断した。
「抜き足、差し足、千鳥足」
そして、洗面所に着いて、
『あっ』
先客のフェイトと鉢合わせした。
その手にはなんかの体液でどろどろになったシャツが握られている。くんくんと鼻を鳴らせば、フェイトの匂いの中から微かに嗅ぎ慣れたユーノの匂い。
『ま、まさか……』
どうやら同時に気づいたらしい。目の前にあるのがユーノのものだと。
「犯罪なのフェイトちゃん!」
「犯罪だよなのは!」
ほぼ同時に二人は互いを批難し、
『人のこと言えないでしょ?!』
同時に突っ込む。
そして、少しの間睨み合ってから、二人ははあっと息を吐く。
「とりあえず、さっさと洗っちゃうの」
「そうだね。明日二人で返しに行こうね」
二人はどろどろになったパンツとシャツを洗濯機に放り込んだ。
翌日、なのはとフェイトはユーノ宅に侵入し、シャツとパンツを返そうとしたのだが、バニングス社製の新型侵入者探知システムに引っ掛かり、あっさりとユーノに捕まってしまったのだった。
そして、二人の魔の手からパンツとシャツは回収されたのだが、まだ一枚ずつ足りなかった。
「違うのー! 今回はパンツ一枚しか持ってってないのー!!」
「私だってシャツ一枚だけだよー!!」
そう二人は主張するものの、一度こんなことした以上、信じてもらえるわけがなかったのだった。
そして、その肝心の行方不明のパンツとシャツは……
エルトリア、シュテルの自室。
「ふーふー師匠のパンツすごくいい匂いがします」
愛おしそうにユーノのパンツの匂いを嗅ぐ星光の殲滅者。先日、ミッドに行く機会があったのだが、その時にこっそりとユーノの自宅から持ち出したのだ。
「ああ、もっともっと師匠の匂いを間近で堪能したいです。うう、そのためにもエルトリアの復興を急がなければ!」
微妙に歪んだ形でシュテルはエルトリア再生の意思をさらに強めたのだった。
そして、もう一つ。地球、月村邸。
「ふふふ、なのはちゃんもフェイトちゃんも甘いね。確かに、新鮮なユーノくんの香りを嗅ぎたい気持ちはわかるけど、そんな頻度でとっかえひっかえしてたら気づいちゃうに決まってるじゃない」
すーっとすずかは一年間吸い続けたせいか、匂いが弱くなってしまったシャツに顔を埋めて深呼吸したのだった。
おまけ
『明日はトーマとデート、何着ていこうかな?』
スピーカーから、ヴィヴィオの上機嫌そうな声が廊下に向けて流れている。
そして、ヴィヴィオ本人は、
「うう、ママたちのせいだよ。私まで変態さんになっちゃったのは」
すーっとヴィヴィオは愛しい人の匂いが染みついたシャツの匂いを嗅ぐ。
スピーカーは母たちに自分の変態的行為を気づかれないようにするためのフェイクだった。
「はあ、トーマの匂い、すごくいいよお。汗の匂いですっごく興奮しちゃうのぉ。いいなあリリィはリアクトすれば嗅ぎ放題だもんなあ」
ちょっとだけ友達であるリリィにヴィヴィオは嫉妬したのだった。
「はあ、ダメなのに私お姉ちゃんなのにトーマの匂いにくらくらする……」
ナカジマ家でスバルはトーマの洗い立てのシャツに鼻を押し付けながら匂いを嗅いでいた。
「くんくん、はあ、毛づくろいしてもらった場所からザフィーラの匂いがする、あたしザフィーラの匂いに包まれてるんだ」
狼形態でアルフは自分から立ち上るザフィーラの匂いを嗅いだ。
「うへへー、ゲンヤさんの髪やー!」
どうやって入手したのか、はやてはゲンヤの白髪を舌でレロレロしていたのだった。
~~~~
ヴィヴィオ「トーマの匂いってすごくいいよね?」
リリィ「えっと、それってもしかして変態さんって言うんじゃ?」
Arcadiaが停止している間に某エロパロ版に投稿したものです。若干修正して投稿させていただきました。