夜、ふと目が覚めた。
時刻は午前二時。
くぅ。
小腹が空いてしまったらしい。
大学生になり半年が経ったが、食事を用意するのがいかに大変なのか理解するのには三日と掛からなかった。
冷蔵庫を開けてみるが、三週間前に買った玉ねぎが半欠片あるだけだ。
水と氷で誤魔化すか……。あれ、少し眩暈が。
昨日一日何も食ってないから当たり前か。
米もストックが切れてるし、さすがに詰んでる。
パスタにも飽きた。
よし、コンビニにでも行こう。
夏休み突入から一週間。外出を一切せずに自堕落な生活を続けた末の最終措置だ。
生姜焼き弁当にするか、それともサバの味噌煮とご飯。肉まんでも良い。
菓子も欲しい。とにかくカロリーが必要だ……。
ボッサボサの髪に赤色のニット帽を被る。
寝巻きを脱いで適当なシャツを着る。ジャージを履く。
深夜徘徊にはこんなもんで良いだろう。
夏休みだし、店員さんも俺の心境と状況を理解してくれる筈だ。
さて、出かけよう。
と、玄関でドアノブに手を掛けようとして、はたと気がついた。
「あれ、ドアノブなくね?」
玄関にあるはずのドアが見当たらない。
全く何を言っているんだ、と言われるかもしれないが本当の事だ。
玄関のドアが、消失していた。
「……」
言葉を無くして立ち尽くしてみたが、全く何も変化なし。
ドアノブが無いんじゃ外出できないじゃないか。
いや、ドアノブっつうよりドアが無いんじゃ……。
そもそもいつから無くなっていたんだろう。
あまりにも現実離れした現象に危機感すら湧かない。
とりあえず、玄関に居てもしょうがない。
部屋に戻ろう。こりゃ夢だ間違いない。
仕方が無いので二度寝することにした。
が。
「何だコレ?」
部屋のテーブルの上にダンボールが置いてあった。
見覚えは無い。通販で注文してもいない。
うん、きっと入ってる。
「女の子が」
期待に胸を高鳴らせる。
夢なら入っているはずだ。
ダンボールはガムテープで閉じられているから、ハサミを使ってガムテープを切る。
確信と共に開ける。
勿論、女の子が存在することへの確信だ。
しかし。
「え、えぇ……」
期待と共に開けたダンボールの中身は、一枚のDVDだった。
ああ、そういうこと。
きっと大学の連中の内の誰かが俺が寝ている内に忍び込んでプレゼント……って有り得ないか。
夢だもんな。何でもありだろう。
まー寝て、起きよう。
タオルケット被って、目を閉じる。
「……」
……。
あれ?
暑い。
「蒸しアツ!」
クーラーはどうした!?
壊れてた。
って、熱帯夜でクーラー無しとか寝れるはずがない。
一度寝てるから無駄に睡魔も消えてるし。
「……覚めない夢は無い」
頬をつねる。顔を洗う。
水道の蛇口から冷水を頭にぶっかける。
玄関を見る。
ドアは、無い。
相変わらずの光景にさすがの俺もこれが何かの異常現象だと理解した。
「そ、外に出よう」
ベランダの窓を開けて外に出る。
「すーはぁー。すーはぁー」
ひとまず外の空気を吸う事ができる事に安堵する。
ここはアパートの四階だ。
直接外に脱出するのは厳しいが、最悪の場合に誰か助けを呼ぶことはできるだろう。
それにしても、だ。
「腹、減った」
人間は水さえあれば一週間は生きられるらしい。
断食二日目の時点で既にキツい俺は平均よりもエネルギー消費が多いのだろうか。
深夜に大声上げて助けを呼ぶのは近隣の住民の方々に迷惑だろうし、朝になってゴミ出しに出てくる主婦の方々にお助け願おう。
「さて、それまでどうやって時間を潰すか」
寝れないし、暑い。
窓を開けたので風通しは良くなったが、クーラーの冷房には遠く及ばない。
暇を潰すと言ってもだなぁ……。
ま、パソコンでもやろ。
電源を入れる。
が、あれ、壊れてる。
ははは……なら、携帯だ。
これも、壊れてた。
っていうか、そういえば冷蔵庫も電源切れてなかったか。
……。
切れてる。
うそぉ……。
何か機能する電化製品は無いのか!
家電製品の電源を入れては消し、入れては消し。
そして、残ったのは。
「コンパクトDVDプレーヤー(ディスプレイ付き)」
凄い微妙なのが残った。
昔、何かのビンゴ大会で貰った景品である。
よし、さっきのダンボールに入ってたDVDでも見てみるか。
プレーヤーを起動させ、DVDを入れる。
「……」
白一色の画面。
釣り、か。
口元を吊り上げて、ゆっくりと画面を閉じようとする。
と。
『おはようございます、ご主人様』
画面の中に、綺麗なメイドさんが現れた。
中身は、メイド物の例のアレだった。
俺は口元をさらに吊り上げることにした。
後日、大学の仲間のドッキリだと判明した。