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No.37034の一覧
[0] 【完結】IS~デグレード・ライン~ (IS・原作改変・オリ主)[Tゲル](2014/10/06 18:17)
[1] 第1話[Tゲル](2013/04/21 21:00)
[2] 第2話[Tゲル](2013/04/21 21:01)
[3] 第3話[Tゲル](2013/04/21 21:01)
[4] 第4話[Tゲル](2013/04/21 21:06)
[5] 第5話[Tゲル](2013/04/21 21:07)
[6] 第6話[Tゲル](2013/04/21 21:11)
[7] 第7話[Tゲル](2013/04/26 22:22)
[8] 第8話[Tゲル](2013/05/04 15:47)
[9] 第9話[Tゲル](2013/05/06 10:07)
[10] 第10話 第一部 完結[Tゲル](2013/05/15 19:56)
[11] 第11話 第二部 開始[Tゲル](2013/05/12 08:29)
[12] 第12話[Tゲル](2013/05/15 19:57)
[13] 第13話[Tゲル](2013/05/24 06:13)
[14] 第14話[Tゲル](2013/05/26 10:01)
[15] 第15話[Tゲル](2013/05/31 18:43)
[16] 第16話[Tゲル](2013/06/03 21:29)
[17] 第17話[Tゲル](2013/06/08 22:30)
[18] 第18話[Tゲル](2013/06/09 22:03)
[19] 第19話[Tゲル](2013/06/15 18:47)
[20] 第20話[Tゲル](2013/06/19 07:18)
[21] 第21話[Tゲル](2013/06/23 10:46)
[22] 第22話[Tゲル](2013/06/26 22:02)
[23] 第23話[Tゲル](2013/06/29 23:58)
[24] 第24話[Tゲル](2013/07/03 22:52)
[25] 第25話[Tゲル](2013/07/07 10:39)
[26] 第26話[Tゲル](2013/07/14 08:51)
[27] 第27話[Tゲル](2013/07/21 18:41)
[28] 第28話[Tゲル](2013/07/28 22:04)
[29] 第29話[Tゲル](2013/08/13 21:48)
[30] 第30話[Tゲル](2013/08/23 05:58)
[31] 第31話[Tゲル](2013/08/28 18:23)
[32] 第32話[Tゲル](2013/08/31 20:10)
[33] 第33話[Tゲル](2013/09/07 21:46)
[34] 第34話[Tゲル](2013/09/15 00:16)
[35] 第35話[Tゲル](2013/09/18 17:12)
[36] 第36話[Tゲル](2013/09/29 22:06)
[37] 第37話[Tゲル](2013/10/11 22:22)
[38] 第38話[Tゲル](2013/10/24 21:55)
[39] 第39話[Tゲル](2013/11/10 00:32)
[40] 第40話[Tゲル](2013/11/20 23:51)
[41] 第41話[Tゲル](2013/12/01 00:34)
[42] 第42話[Tゲル](2013/12/09 22:18)
[43] 第43話[Tゲル](2013/12/28 17:48)
[44] 第44話 第二部完結[Tゲル](2014/01/27 20:45)
[45] 第45話 第三部開始[Tゲル](2014/02/08 12:18)
[46] 第46話[Tゲル](2014/04/07 06:35)
[47] 第47話[Tゲル](2014/05/01 20:14)
[48] 第48話[Tゲル](2014/05/22 21:02)
[49] 第49話[Tゲル](2014/06/21 23:12)
[50] 第50話[Tゲル](2014/08/03 20:08)
[51] 第51話[Tゲル](2014/09/24 20:49)
[52] 第52話[Tゲル](2014/10/06 18:19)
[53] エピローグ[Tゲル](2014/10/06 22:01)
[54] 機体設定・オリキャラ設定追加(最終話ネタバレあり)[Tゲル](2014/10/08 22:38)
[55] 思いつきネタ(元嘘19話)(イレブンソウル×インフィニット・ストラトス)[Tゲル](2014/10/06 18:39)
[56] 短編IFストーリー “でぐれーど・らいん” 発端編[Tゲル](2014/01/28 21:31)
[57] 短編 before the highschool 前編[Tゲル](2014/06/23 00:02)
[58] 短編 before the highschool 後編[Tゲル](2014/07/16 06:31)
[59] 短編 君の記憶 前篇 【鬱話注意】[Tゲル](2014/08/08 23:36)
[60] 短編 君の記憶 後篇 【鬱話注意】[Tゲル](2014/08/20 23:39)
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[37034] 第36話
Name: Tゲル◆781ccf0d ID:58c8a400 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/09/29 22:06
「転校生? この時期にか?」

午後八時過ぎ。今だ仕事の終わらない織斑千冬に、真耶から面倒事が舞い込んだ。

「はい。何でもISの新システムを開発したので、その実践データを取る為に入学してくるそうです」
「そんな事の為にわざわざねじ込んできたのか? どこの誰だか知らないが、余計な仕事を増やさんで欲しいな」

千冬は、はぁと溜息をついてデスクを見る。そこには未だ無くなる気配を見せない書類の山があった。
別に千冬の仕事が遅いというわけではなく、純粋に仕事量が多いのだ。特に最近は、全学年合わせた大きなイベントがあるため仕事量が倍増している。
見渡せば、職員室には教師のほぼ全員が残って仕事をしている。周囲の残っている仕事量と比べれば千冬はむしろ、仕事が早い方といえた。

「ホントですよねー。はぁ、今日中に帰れるんでしょうか?」
「帰りたければ手を動かすしかないな。しかし、こんな時はおとぎ話に出てくる小人が実在してほしいと本気で思うな。ま、寝てる間に仕事を終わらせてくれる小人がいたら、私は決して服など用意しないがな」
「鬼ですね、織斑先生」

真耶はクスクスと笑った。
責める様なことを言っているが、気持ちは大いに理解できる。自分の仕事の処理能力は千冬よりも低い。小人がいたら、それこそ自分が千冬が言ったようにするだろう。

「転校生の方は私が確認しておくから、先生は自分の仕事に戻って下さい。うちのクラスなんでしょう?」
「あ、はい。よろしくお願いします。これが転校生の資料です」

真耶は千冬に転校生のファイルを渡すと、小走りに自分の席に戻って行った。
千冬が何となく真耶のデスクを見てみると、そこには千冬より三割ほど多く残っている書類の山が見えた。

(あれが無くなるまで二時間ちょっとか…………私が受け取って正解だったな。ガンバレ、山田先生)

真耶よりは余裕があるので、心の中でエールを送る。ちなみに、千冬は後一時間もかからず終わる。

「さて、こんな半端な時期に転校してくる馬鹿ちんは、何処のどいつだっと……っ!」

千冬がファイルから転校生の資料を取出して確認すると、そこには良く知る、些か懐かしい名前が書かれていた。
その予想外の名前に、千冬は少し驚いた。何故なら、その名前の主の実力なら、この学園に来る必要などないはずだからだ。
千冬は視線を移し、推薦人の名前を見る。

「『IS委員会』だと?」 

その名を見て、千冬は眉を顰めた。
千冬の知る彼女は軍人だ。彼女が動くのは国民の為、国家の為のみ。本来なら推薦人の名前は彼女の国のお偉いさんでなくてはならないはず。
それなのに、記載されているのは関係ないIS委員会の名前。
確かに、ことISに関してならIS委員会は超国家の権限を持ち、時には強引な手段を取ることもある。だが、それはISが直接影響する世界の軍事バランスの調整くらいなものだ。
各国はIS委員会に所属しているが、決してIS委員会の走狗ではない。こんな個人の、それも軍属の人事に口を出すことなどありえないはず。
だが、実際に口を出し、それを実行しようとしている。それはつまり、

「……どうやら、かなりの面倒なことに巻き込まれたようだな」

そういう事になる。
IS委員会が口出しするのは世界の軍事バランスの調整くらいであり、そして、彼女の転入理由は『新システム』の実践データを得ること。
これらを統合すると『世界の軍事バランスを崩しかねない新システムの実験』に千冬の知り合いは選ばれてしまったということになる。
千冬は彼女の身を案じ、

「――ラウラ・ボーデヴィッヒ」

その名を、ポツリと呟いた。




IS~デグレード・ライン~




「やばい、遅れる!」

一夏は全力で走っていた。
現在の時刻は朝のHRが始まる数分前。いつもならとっくに席に着き、授業の準備をしている時間だ。
しかし、一夏はまだ教室に辿り着いてはいなかった。今は既に歩いている者のいない廊下を全力で走っている。
一夏は必死だ。初日に少し騒いだだけで罰として課題を出されたのだ。遅刻したらどんな罰がまってるか想像もできない。
なにせ相手は彼の姉千冬だ。千冬は礼儀、礼節には特に厳しい。それを一夏は身をもって知っている。特に何度も殴られた頭部で。
それなのに、なぜ遅れてしまったのか。それは、

「くそっ。こんなことになるんなら、腹八分目で止めとくべきだった!」

朝食の食べ過ぎが原因だった。
今日の朝食は焼き魚定食。一夏は魚の半身を食べ終わる前に、大盛りご飯を二杯おかわりし、味噌汁もおかわりし、さらに面白がって鈴が差し出した焼売も食べた。
鈴はさりげなく自分の箸で摘まんだ焼売を一夏の口元に持っていき「……あーん」としたのだが、食べることに夢中だった一夏はパクっと一口で食べると、食事を再開した。
照れたりしない一夏の反応に不満が無いわけでもなかったが、それでも鈴は夢中でご飯を食べる一夏を可愛く思い、そんな彼を見ながら微笑んでいた。
ちなみに、鈴と一夏を挟んだ逆隣りで、タイミングを逸した箒が、悔しさのあまり箸をへし折ったのは些細な問題だ。

「それにしても、箒も一言声をかけてくれりゃあいいのに! 気付いたらいないってどういう事だよっ!」

そして、遅刻しそうな最大の理由。それは箒に置いて行かれた事だ。
箒はいつも細かいところに気付いて、一夏に知らせてくれた。
ネクタイがズレていたら、注意して直し、頬に米粒がついていたら、そっととってくれる等々。箒はまさしく女房役として一夏を甲斐甲斐しく支えていた。
朝食の時も、いつもなら間に合わなくなりそうになったら教えてくれるのに、今日に限って何も言わずに一人で行ってしまったのだ。
ちなみに、鈴は授業の前に甲龍関係で用事が有ると先に行ってしまった。大方、龍咆の修復が終わったのだろう。

「うーん。なんか俺、箒を怒らせるようなことしたのか? ……わからん」

走りながら考えるも、一夏に箒が怒る理由がさっぱりわからなかった。

「ああ、でも、考えてみれば、箒には迷惑ばっかかけてるよな…………よしっ。謝罪の意味も込めて、日頃のお礼に何か箒の喜ぶ事でもするか!」

一夏は走りながら器用にポンと手を叩いた。

「何が良いかな。プレゼントとか? でも、箒って何上げれば喜ぶんだ? ……お茶? いや、なんか出した瞬間殴られそうな気がする。いっそ、一緒に買いに行くか。そうすれば確実だしな」

そこまで言って、一夏はハタとあることに気付いた。

「そう言う買い物に行くのって、やっぱ二人っきりだよな。……なんかデ、デートみたいじゃないか、それ。や、やばい。そう考えたら急に恥ずかしくなってきた!」

一夏の頬が、走っているせいではなく、恥ずかしさのせいで赤く染まる。
もしこの場に、ツッコミに定評のある鈴がいたら「乙女かっ!」と怒りの回し蹴りを繰り出したろう。さすがに周囲が止めるだろうが。

「とりあえず、プレゼントは保留だ。俺の羞恥心が危ない!」

頭を振って考えを切り替える。

「ならどうする。俺に出来ることといえば料理くらいだけど、ハッキリ言って学食の方が美味いしな。あとは、マッサージくらいしか………………マッサージッ!?」

一夏の脳裏に、一条の閃光とともに稲妻が落ちたような衝撃が奔る。

「マッサージっていうのは筋肉のコリをほぐし血行を良くするため、筋肉に適度な刺激を与える行為。その特性上衣服の上からマッサージを行うのは非常に非効率。つ、つまり、最も効率のいいマッサージ方法とは肌に直接触れること。即ち……裸!!」

確かに制服を着てたらやりにくいだろうが、普通なら肌着を着るなりタオルを敷くなりする。軟膏などを使用するならいざ知らず、個人レベルで裸にする必要性は殆ど無い。
だが悲しいかな。一夏の脳みそからは、あらゆる常識と理性がすっぽり抜けてしまっていた。

「そういえば、箒はいつも肩こりに悩んでたよな。なら、やっぱりマッサージをするべきだなっ! ――アレってやっぱ、胸が大きいせいだよな。鈴は全然そんなこと言わないし」

一夏が想像の中で箒と鈴を並べると胸部の盛り上がり具合を確認し、うんうんと納得した。
もしこの場に、ツッコミに定評のある鈴がいたら「ぶっ殺す!」と甲龍を装着し、躊躇いなく龍咆をぶっ放すだろう。周囲に大きな果実があれば威力は倍。

「胸の大きさが原因で肩こりになっているとしたら、俺が重点的にマッサージするべきなのは上半身、主に肩や首筋。…………ならば事故でナニかが見えてしまっても、いや、触れてしまっても仕方が無い! そうだろっ!?」

誰に確認しているのかは不明だが、一夏は確信を持って叫ぶ。自分は悪くないと。

「大丈夫だ、俺なら出来る! 千冬姉を揉みまくって鍛えた腕前は、まだ錆びちゃいないはずだ! 自分を信じろ、織斑一夏!!」

よく分からない自己暗示とともに決意を固める。一夏の眼にはもう学校は映っていない。彼の目に映るのは、かつて目にした箒の白磁のように白い肌。
それに触れることが出来るなら、自分は二千発のミサイルだって全裸で迎撃してみせる。それ程の覚悟が、一夏にはあった。

「問題はどうやって箒を脱がすかだよな……。『揉むから脱いでくれ』で逝けるか? でも、このフレーズだと変態みたいだしなぁ」

みたいもなにも変態そのものだ。さすがの一夏もそれで箒が脱いでくれる確証が持てずに悩む。

「っていうか、箒への感謝がまるで見えないぞ俺! マッサージはあくまで箒に対する感謝の気持ちを表すことが目的なんだ。これだと自分の欲望に忠実なだけじゃないかっ!」

一応、一夏なりに線引きはあるようで、これではいかんと再び考える。

「箒への感謝を伝えるための言葉か。そうだな…………」

一夏は走りながら考える。その結果、

「『いつも、ありがとう。お礼に箒を気持ち良くするから、脱いでくれ』 ………………良し、これだ!」

変態から犯罪者へランクアップ。このセリフで箒に感謝の気持ちが伝わるのか。それはやってみなければ分からない。
ところで、この有り様を見ても分かる通り、物事を成すとき、何かをしながらというのは得てして碌な結果にならない。
今回の箒への決め台詞然り、

「――って、人ぉぉっーー!?」

走っているのに前方確認を怠って、人影に気付かなかったり。
その人物は銀色のさらさらとした髪を持った小柄な少女だった。髪が邪魔で顔を見ることは出来ないが、制服を着ていることからこの学園の生徒であることは一夏も理解できた。
彼女は教室の前で、ドアの前で直立不動のままだ。何故入らないのかは分からないが、恐らく呼ばれるのを待っているのだろう。
少女は一夏が近づいてきているのに気付いているだろうに、彼の方を見る素振りすら見せない。それよりもドアの前で待つ方が重要だと言わんばかりだ。
その姿は飼い主に待てを指示された犬のようで、いっそ健気ですらあった。

「やばい、このままじゃっ!!」

全速力で走っていた一夏はすぐに止まることが出来ない。
IS学園に入学する前の彼なら、何一つ足掻くことなくその少女に突っ込んでいただろう。
だが、今の彼は、もう以前の織斑一夏ではない。

(――っ。焦るなっ! こんな時こそ、皆が教えてくれたことを思い出すんだっ!)

そう、今の織斑一夏は日々強くなろうと必死に己を鍛えている。その成果が、今こそ試される。

『よろしいですか。戦闘で一番してはいけないこと、それは冷静さを失う事ですわ。頭に血が上った状態では、正しい判断が出来なくなりますもの。そして正しい判断が出来なければ勝利は有り得ません。いいですか。どんな時でも冷静さを失ってはいけませんよ』
(そうだ。まずは冷静になれ。そして正しい判断をするんだ。そうすれば、激突は回避できる。この場合の正解は――)

一夏は右足に力をグッと入れる。

(――あの人を、避けるっ!!)

右足に力を入れたことで、一夏の体がズレ、少女がいる場所とは違う進路を取る。
止まれないなら避ける。
当たり前と言えば当たり前だが、今の一夏と少女との距離は歩幅にして十歩分と言ったところ。
しかも一夏は走っているのだ。この反応速度はさすがと言えた。だが、それで解決というわけにはいかなかった。

(――っ!? あの人も避けた。しかも俺と同じ方向にっ……!!)

一夏の進路が変わったと同時に少女も動いたのだ。
その結果、二人は再び衝突する位置関係になってしまった。
これに気付いたのか、少女も初めて視線を一夏の方へ向ける。美しく整った顔立ちだが、何処か冷たさを感じさせる美しさだ。
だが、一夏はそれ以上に彼女の顔半分を覆う物が気になった。

(……眼帯? あの子、目を怪我したのか? ――って、それどころじゃなかった!)

すぐに思考を切り替える。少女との距離は、もう数メートルもない。

(どうする? また避けるか? けど、さっきみたいに同じ方向へ避けたら衝突は免れない。右か、左か…………。そうだ、確か、デュノアさんが――)
『いいかい、織斑君。IS戦っていうのはいかに先を読むかにかかってるんだ。敵が次にする行動は何か。攻撃か、防御か、回避か。相手の行動を読み切って先手を打つ。その為には情報が不可欠だ。相手の性格、武装、戦闘パターン、何でもだ。でも、いつでも情報が手に入るとは限らない。相手がどんな行動をとるか予測できない。そんな時は相手の意表を突いて相手の行動を上回るんだ』
(あの子の行動が読めない以上、これしかない。あの子がどんな行動をとってきても、俺はそれを上回ればいい。――右か左か分からないなら、俺は文字通り、彼女の上を行くっ!!)

もうぶつかる。誰もがそう思う距離でありながら、一夏はさらに加速する。
少女の表情がハッキリと見えるほど近づく。少女の紅い瞳が一夏を冷静な瞳で見つめていた。
そして、あと数歩という距離まで来た時、

「うおぉぉーー!」

一夏は気合とともに跳躍する。
鍛え上げた身体能力は、今だ成長途中ながらも、少女の背丈を超えるまでに、その身を高く押し上げた。
これでぶつかることは無いと、安堵の吐息を吐き出す。
しかし――

「……嘘……だろ…………」

相手もまた、

「なんで……君も跳んでるんだ」

一夏の予想を上回った。
少女も一夏と同じように、垂直に跳び上がることで一夏を避けようとしたのだ。
空中で交差する二人の視線。
今まで、氷のように変わる事の無かった少女の表情に、初めて感情が顕れる。彼女の瞳が、驚愕で見開かれた。
一夏も同じように驚愕で目を見開く。だが、もはやどうする事も出来ない。
二人は避け様とすることすらできず、空中で衝突した。

「くっ!」
「つっ!」

一夏が勢いをつけて踏み切ったせいで、少女を押し倒すような形で二人が落ちていく。

(この体制はやばいっ。何とかしないと!)

このままでは少女を下敷きにしてしまう。
そうしないために、一夏は少女をシッカリと抱きかかえると、体を捻って自分と少女の体を入れ替える。

「――っ!?」

少女が一夏の腕の中で身じろく。青年が身を挺して自分を庇おうとしていることに驚いたのだ。
一夏を下にしたまま二人は落ちていく。そして、

「ぐはっ」

ドスンと重い音をたてて落下した。
踏み切った勢いがまだ生きていたのか、二人はごろごろと廊下を転がる。
一夏は腕の中の小さな体を守るため、抱きしめた両手を決して離さなかった。
残っていた慣性はすぐに無くなり、二人の体がゆっくりと止まる。

(つぅーッッッ。ISの練習の御蔭で衝突するのは慣れてるけど、生身でやるとやっぱクルなぁー)

一夏は痛みを堪えつつ、自分が抱きしめている少女を見る。

「君、怪我はないか?」
「…………」

返事は無い。だが、少女は一夏の方を見ると、ゆっくりと頷いた。
しかし、どうも様子がおかしい。先程までは表情も殆ど見せなかった彼女が、今は頬を紅く染め、赤い瞳は潤んでいる。

「そっか。それは良かった。……えーっと、そのごめんな。ぶつかっちゃって。前を見てなくてさ」
「…………」

謝罪する一夏に対し、少女は何も答えようとしない。先程から変わらない表情から、別に怒っているわけでもないらしい。

(……さて、どうしたもんか。さすがにこのままってわけにはいかないよな。けど――)

現在は廊下で二人抱き合って倒れてる状態だ。
綺麗に掃除されているとはいえ、廊下で寝そべるというのは衛生的によろしくない。
それだけでなく、余裕が出てきた御蔭か、一夏は制服越しに感じる少女の熱を意識するようになってきていた。
彼女からは、ほのかに石鹸の香りがした。密着しているせいか、少女の鼓動を肌で感じる。なにより、

(なんて、綺麗な瞳なんだ……)

自分を見つめる玲瓏の顔立ちに、その血のように赤い瞳に一夏は見惚れていた。
二人は見つめ合う。HRのチャイムが、遠くに聞こえる。邪魔するものは、何もない。

「――」
「え、なんて……?」

少女が、小声で何かを囁いた。

「……貴様が、私の運命の相手なんだな」

初めて聞く少女の声。その声は鈴の音のように、心地よく一夏の耳に届く。

「……運命?」

その言葉の意味を聞き返そうと体を動かすと、

「ふぁっ!」

少女が突然艶っぽい声を上げた。

「え、な、何!?」
「――き、貴様の左手が、その、私の……」
「左手?」

言われた通り、今まで意識していなかった自分の左手に意識を集中する。

(な、なんだ。このすべすべで、それでいて手にしっとりと吸い付くような肌触りは。それに、この温かさ、すごく気持ちいい。出来ればずっと触っていたい!)

一夏はその感触を味わうように、じっくりと指を動かす。

「……んっ。……やんっ」

しかし、指を動かす度、少女の反応が色を帯びていく。何か堪えるように、下唇を噛むその顔は、先程よりもさらに熱く、赤くなっていく。

「そ、そのだな。いつかはそうなるとしても、私としては段階を踏んでいきたいんだ。できれば少女マンガのようなこともしてみたいし。だから、今は離してくれないか?」
「離すって、俺は何を掴んでるんだ?」
「ワザと言ってるのか? 自分の手だろう。それくらい分からないのか? ……貴様が触っているのはな――」

一夏はそこまで言われ、ようやく自分の手が何処にあるか気付く。
彼女を守るようしっかりと抱きしめた。その時、左手は少女の腰に回したのだ。それが落ちた衝撃と廊下を転がった事でズレてしまった。その結果、

「私の…………………………お尻だ」

一夏の左手は少女のズボンの中に滑り込み、下着すら躱して臀部を鷲掴みにしていた。
しかも少女の肌には傷一つない。神業である。

「おわあぁぁーー!! ご、ごめんっ!」

慌てて左手をズボンから引き抜く。

「この度は、俺の体の一部がとんだ失礼をっ!!」
「気にするな。事故の様なものだからな。それに、貴様は私を守ろうとしてくれたんだろう?」
「そ、そうだけど……」

少女は許すというが、それでも一夏は申し訳なさそうだ。
そんな彼の殊勝な態度にクスリと笑うと、少女は話を変える。

「そう言えば、礼がまだだったな。――ありがとう、織斑一夏。貴君の身を挺した行動によって私は傷一つ負うことは無かった。心から感謝する」
「なんで俺の名前を?」
「IS学園の制服を着ている男は織斑一夏以外にはいない。それに、織斑一夏は私が尊敬する教官の弟君だからな。間違えるはずはない」

少女はスッと顔を近づけると妖艶に笑う。

「教官の……弟? 教官って、まさか千冬姉の事か?」
「その通りだ」
「君は一体……」

その時、今だ自分は名乗っていなかったことに気付いた少女が、一夏の胸に手を着き上半身だけを起した。

「私か? 私は今日からこのIS学園に転入することになった――」

自分に跨ったままの少女を、一夏はただその顔を見上げている。

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

少女はそう名乗ると、サラリとした長い髪をかきあげた。


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