注:この物語はフィクションです。
実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
また、IS二次創作となっていますがオリジナルキャラクターがメインで進行しますので、原作キャラクターの出番は殆どありません。
真っ白な空間。
あらゆる穢れが排除された無菌室。
十代前半の姿で彼は生まれた。
巨大な水槽、その中を満たした液体の中を漂っている。
彼を見つめる複数の視線は、しかし、彼の誕生を祝福してはいなかった。
「――――――」
水槽に阻まれ、彼の耳に周りの声は届かない。
ただ不快な視線を向けられる。
(なんて……むかつくヤツラだ)
それが彼の最初の思考だった。
IS研究の一環で作成されたが、彼にはきちんと記憶があった。
それは彼のオリジナルの記憶。
自分が体験したことのない記憶なのに、自分の物のように感じる。
しかし、彼は自身がオリジナルのクローンであるとの自覚もあり、彼が彼であると認識する自我も持っていた。
自分を自分と認識することが可能なのに、その自分は他人であるという矛盾。
本来なら精神が崩壊してもおかしくない状況だが、彼はそんな自分を受け入れていた。
(早く終われよ……)
いや、受け入れたというよりも諦めていた、と言った方が正しい。
彼は自分がすぐにでも処分されることが分かっていたからだ。
彼以外にも同じような存在は沢山いた。
それらとは、彼の姿は明らかに違っていた。
それは彼が特別というわけではなく、単純に彼が失敗作だということだ。
彼を見る目には例外なく苛立ちが表れていた。
予定通りの姿にならない、規定の数値が出ない。
苛立ちの原因はそんなとこだろう。
(てめぇらの責任じゃねぇか)
そんな苛立ちに冷ややかな視線を返す。
その視線がまた、製作者達の苛立ちを増長させているのだろう。
彼としてはどうでも良いことだ。
ただ、自分の終わりをじっと待つしかないのだから。
どれほどの時間が流れたのか彼には解らなかったが、その時がようやく訪れた。
水槽から液体が排出され、彼の肉体が支えを失った人形のように崩れる。
まだ、精神と肉体が繋がっていないかのようだ。
そのまま数人がかりで運ばれ、物のようにコンベアに乗せられる。
コンベアには彼以外に様々なゴミが乗せられていた。
(ま、似たようなものか)
彼は自分がゴミと同じ扱いを受けても気にしなかった。
ようやく終わる。あとはただその時を待つだけ。
静かに瞳を閉じる。
(この命もようやく終わりか……)
『――――――』
ゴトン、と振動がはしり、コンベアが動き出す。
(まったく、下らない人生だった)
『――――な―』
辺りの景色がゆっくりと動き出し、やがて周囲は薄暗くなった。
(しかし、俺のオリジナルは随分と大変そうだ……)
『―に――な―』
周囲の雰囲気が変わる。清潔感が無くなり、そこらにゴミが見える。
(……でも、楽しそうだったな)
『―にた―な―』
焼却炉に近づき、辺りが再び明るくなってきた。
(…………やだな)
『―にた―ない』
焼却炉の熱が肌を焦がすほど近いくなる。
(このまま死ぬなんて、こんな楽しい記憶を持っただけで死ぬなんて嫌だ!)
『―にたくない』
遂にコンベアが途切れる。
(俺は――)
『私は――』
彼の体がゴミと一緒に中に投げ出され、焼却炉へと落ちていく。
(死にたくない!)
『死にたくない!』
――瞬間、彼は光に包まれた。
轟音が響き渡る。
あらゆるものを焼き尽くす焼却炉が、内側から破壊された。
吐き出された炎は、容赦なく周囲を飲み込んで行く。
警報が鳴り響き、消火剤が降り注ぐが全く意味をなさない。
爆発音があちこちから聞こえてくる。
被害の拡大を防ぐ隔壁が次々に閉まっていくが、それよりも火の手が速い。
逃げ遅れた人間たちは皆炎に飲まれ、生きたまま焼かれていく。
そこは一瞬にして地獄へと変貌した。
全てを滅ぼす獄炎の中、その影は一人佇んでいる。
全身に鎧を纏った影は辺りを見回し、炎の中へと消えていった。
その姿を見た者は、誰もいない……。
――ただ、一人を除いて。
IS~デグレード・ライン~
初めまして、もしくはお久しぶりです。Tゲルです。
まず、私の拙い文章をここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。
IS二次と言いながらISらしさが単語だけという暴挙。誠に申し訳ありません。
次回もお届けでき…………たら、いいな~と思っています(汗)
最後にもう一度、読んでいただいた皆様、誠にありがとうございました。
注意文を追加しました。