<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

SS投稿掲示板


[広告]


No.37012の一覧
[0] 僕の彼女は姉さん幼女(オリジナル)[へたれっぽいG](2013/03/17 20:11)
[1] 僕の彼女は姉さん幼女 その2[へたれっぽいG](2014/10/06 21:48)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[37012] 僕の彼女は姉さん幼女(オリジナル)
Name: へたれっぽいG◆12966735 ID:a2573ce4 次を表示する
Date: 2013/03/17 20:11

 僕の彼女を紹介しよう。
 名前は天塚ゆぎり、僕より七歳年上の女性だ。とび色の髪をセミロングに整えた、小学生に見間違えられそうなほど小さな女性。けれども彼女は、そんなことを気にも留めず、僕に年上として接してくる。
 そんな僕の大切な彼女を、よくある一日を例に紹介をしていこう。


【1.僕の彼女の朝】

「おはよう、ユウ」

 朝目覚めると、彼女はいつもそう声をかけてくれる。肩口まで伸びたとび色の髪は朝露のように艶やかで、彼女の穏やかな微笑をより一層可憐なものに仕立ててくれる。寝ぼけ眼の僕がのんびりと起き上がると、彼女はひょいと机にしていた肘から顔を上げ、しょうがないわね、と朝に弱い僕に呆れと慈愛の混じった顔を向けてくれる。

「早く起きて、あれがないと私の朝は始まらないんだから」

 くるりと踵を返す彼女に、彼女を彩るフリルのついたロングスカートが付き従う。140センチに満たない彼女の身長は一見して小学生のように映るし、また彼女の服や体躯、それに顔つきだって幼い。精巧なビスクドールのようだ、と僕の友達は彼女を例えたことがある。けれどじっと彼女を観察すると、その小さい身体の隅々が、ちゃんと大人の女性の成熟さも兼ね備えているのだと解る。パッと見の妖精染みた身長と格好の内側に、しっかり女としての一面も持っているという、僕の彼女ながら、とても不思議な人だ。

「こら、何じっと見てるの」

 その小さな背中をじっと眺めて動かなかったせいか、ほんの少し開いたドアに手をかけた彼女が僕を横目でじとっと非難した。少し上目遣いになっているその表情はムスッとしたもので、僕はそれをもっとよく見ていたい欲を持ちながらも、小さな彼女が怒るとどうなるか知っているので、ごめん、と一言謝って安住の場所から離れた。

「そーゆう目は、昼間はだめだからね」

 イタズラをした子供に言い聞かせるようにしながら、彼女は部屋を出ていった。身体は小さくとも年上の彼女はとてもマイペースで、男が誰もが持つ性欲というものは、彼女の手のひらの上で踊るしかないのだ。少なくとも、天塚ゆぎりと付き合うようになった僕は、一度も彼女から主導権を取れたことはない。それでも、いやそれこそ自然体で心地いい、と感じている辺り、僕はすっかり彼女にまいっているのかもしれない。
 いつも通り朝食の準備をしてくれた彼女を待たせないためにすぐに着替えて顔を洗い、リビングに向かう。彼女に合わせて小さめに作られたテーブルには色とりどりの皿や器にハムエッグやサラダ、それにまだ焼かれていない食パンが配膳されていた。ただ、いつものようにこの朝の食卓にはある物が足りない。椅子に座らずニコニコと笑う彼女に、今度は僕がしょうがないなぁ、とだらしなくはにかみ、これまたいつものようにそれの準備を始めた。
 用意するのは、行きつけの店で買っている焙煎コーヒー豆に、祖父を譲ってもらったコーヒーミル、そして適量の水を入れたサイフォン。僕はコーヒーミルに適当な量のコーヒー豆を入れて、ゆっくりとハンドルを回し始めた。ゴリ、という音が朝の空気に溶け込み始めると、コーヒーの匂いがほのかに漂い始めた。
 鼻腔をくすぐる香りに彼女は嬉しそうに目を細めると、食パンをトースターに放り込む。

「ユウの挽き方は良い音ね。好きよ、私」

 席につかないまま頬杖を付いて僕の作業を見つめてくる彼女は、そういって微笑みを絶やさない。僕はそんな彼女の顔が好きで、この技術を僕に伝えてくれた祖父に毎朝感謝している。すっかり慣れ親しんだ手つきで挽いたコーヒーをサイフォンに移し、ドリップを始める。抽出されたコーヒーの旨みが液体となって、彼女専用のカップに滴り落ちる。じっくり五分、そのままカップに茶色の混じった黒い液体が満ちるのを待つ。その間、彼女はじっと、僕を見ている。トースターからパンが飛び出しても動くことはない。
 それがとても気恥ずかしくて、僕はこの時、照れ隠しに、コーヒーの水面に映る僕の顔を見つめ返すのだ。
 やがて、コーヒーがカップに満ちて、サイフォンの口を閉める。僕はそのまま彼女の為の飲み物を取り出し、ついでにトースターから秋の狐の毛皮のように色がついたパンも持って良く。そして配膳されていた皿にパンと、その隣りにコーヒーを置いて、席に座った。
 彼女はそれを確認してから、嬉しそうに僕の傍まで歩き、その勢いのまま、僕の膝の上に座った。そして僕が淹れた、この食卓にいつも最初は足りなくて、必ず僕が淹れる必要のあるコーヒーを手に取り、僕の胸に頭を預けながら、口をつけた。

「うん、苦い。これがないともうダメね」

 ブラック派の彼女はいつものように苦いと言いながら、コクッコクッと喉を鳴らす。その顔はきっと幸福を形作っているのだろうけど、僕はそれをより具体的な言葉で言い表すことができないでいた。ただ、腕の中にある彼女の小さな身体はとても細くて、けれど確かな人の温かみと僕を惹きつける匂いと空気に満ちていて、それを感じ取るだけで、僕は彼女と同じような笑みを浮かべているのだと、自覚はできていた。
 そして、ほぼ毎日、その感覚を味わう僕らは、人から見れば不釣合いで、おかしい部分もあるのだろうけど、ちゃんとカップルであるのだと思った。



【2.僕の彼女の仕事と出会い】

 天塚ゆぎりは、一言で言えば天才だった。何がどう天才なのかは、きっと彼女が師と仰ぐ人や、彼女と同じ理系的な研究をしている人ならちゃんと理解できるのだろう。たとえば、『知性への量子力学的アプローチ』が彼女の研究のメインテーマだが、学がなく、まだまだ十九歳の若造には欠片も理解できない内容だった。だけど、そんな僕でも彼女が天才だと一目で分かるものがある。彼女が描く絵だ。彼女は小さいころから自分の考えに没頭する時、思い描く理論や世界を絵としてアウトプットする。「その絵は感性のない凡夫ですら絵の中に引き込まれ、思考という狭間の世界を揺さぶられる」と彼女の絵を評する人もいた。生憎と、僕は彼女の絵にそこまで大層な感情を抱いた覚えがなかったが、彼女が絵を描く姿は、とても好きだった。

「あら、またそこで見てるの」

 僕らの住む家にあるアトリエは、彼女専用の作業スペースだ。絵の具をぶちまけたような色彩は、本当に彼女が一度、持っている画材全てでやりたい放題やった時の名残だ。その部屋の真ん中で、フリルのついたいかにも高そうな服の上に、簡素なエプロンだけをつけた彼女はキャンパスに向き合っている。キャンパスには既に藍色の世界が描かれているが、それが何を意味しているかは、残念ながら僕には分からなかった。

「そんなとこにいないで、こっちにきなさいよ」

 筆を持ったままちょいちょい、と階段に座ったままの僕に手招きする。僕はそれに従い、後数段しかない階段を下りると、アトリエの隅っこにある椅子を持って、彼女のすぐ後ろに腰を下ろした。満足げに彼女は微笑むと、キャンパスへと向き直り、小さな魔法の杖で異界の続きを描き始めた。彼女の筆遣いは、素人の僕から見ると、とても細かいものだ。だけど時々、タガが外れたように大きな運動を始める。この部屋の色合いがその典型例だ。だがどっちの彼女にしろ、僕はその姿が好きなのだ。

「こうしてじっと見られてると、いつもユウと初めて会った時のことを思い出すわ」

 しばらく彼女が筆を動かす音しか聞こえなかった部屋に、彼女の声が響いた。言われた内容に、僕も少なからず同意する面があった。
 僕と彼女が初めてあったのは、大学のオープンキャンパスの時だ。その時僕は入り組んだ大学の構内構造にすっかり迷ってしまい、一度敷地内から外に出ようと奥へ奥へと進んでいた。そしてたどり着いたのは、校舎の影にひっそりと建てられた掘立て小屋だった。そこは一目見てアトリエのような場所だとわかるのだが、周囲には彫刻やら木材、破れたキャンパスやビニールシートが被せられた細長い物体など、散らかり放題で、とても不思議な空気を発していた。
 僕は一度、誰かいないのか大声で尋ねてから、返答がないのを確認し、吸い込まれるように小屋に入った。
 そこには音がない代わりに、無言でキャンパスと向き合い続ける妖精がいた。その光景こそが、このアトリエの一番大きな絵画のような錯覚を覚えた僕は、絵の中の妖精の手が動き続けていることに気づくと、ようやく自分がまだ現実にいることに気づいて、そして彼女のまた人間なのだと分かった。
 だけどその時の僕は、何も喋ることができなかった。視線の先の彼女の雰囲気に呑まれ、声が出なかったのだ。息が詰まる、というような修羅場の感覚ではない。もっと荘厳な何かがそこにはあって、矮小な人間でしかない僕には、何も発する権利がないのだと早とちりしていたのだ。
 それでもその時の僕は、この隔離された世界の中心にいる彼女をもっと近くで見たくて、できるだけ音を立てないようにすり足で近寄った。キャンパスに何かを描いている彼女は、肩にかかるくらいのとび色の髪に、子供と勘違いしてしまうような背格好にゴシックロリータ調の衣服を纏い、更にその上に服とは不釣合いな無地のエプロンをしていた。顔立ちは、最初に妖精と見間違えたのが当然のように、とても整ったものだった。些か幼すぎる、いや子供そのものとしか言いようが無かったけど、すれ違えば誰もが一度は振り返るような可憐さと、そこに不釣合いな妖しさを内から醸し出していた。
 そのまま無言のまま彼女を見ていると、ふう、と一息吐いて、彼女は首だけを動かし、僕を見た。僕はびくりと竦みあがった。彼女が僕を見る目は、人間が何気なしに石ころを見る時と同じだったのだから。

「ねえ、君。入学希望者は迷ったらここを出てまっすぐ行った所にあるB棟に集合するようになってるはずよ。早く行きなさい」

 それだけ言って、彼女は再びキャンパスに向き直った。どうして僕が入学希望者だとか、迷った末にここにきたのがわかったのか、その時の僕は混乱していてよく分からなかった。だけど、すぐに顔を赤くして、違います、と噛みながら叫んだ。彼女はびっくりした様子で僕に振り返って、すぐに顔をしかめた。

「そう、なら何をしに来たの。天塚ゆぎりの絵を見に来たのなら、昔のはとっくに移動済みだし、新しいのはまだ完成してないから無駄骨よ」

 だから早く帰りなさい、と言外に彼女は言った。言葉が発する空気だけで、僕はその空気が持つ強制力に負けて、そこから飛び出してしまいそうになった。不良に同じようなことを言われたって、ここまで身震いはしないと思う。それは彼女が発する空気が尋常の物ではないからだと、感覚で理解できた。
 そう、そうだから、僕は首を横に振った。彼女はようやく身体ごと僕に向いて、底冷えするような調子で僕に問いかけた。

「だったら訳を言いなさい」

 僕は、一度唾を飲み込んで、彼女を見下ろしながら、こういった。
 天塚ゆぎりという人は知りません。あなたのことも知りません。だけど、僕はあなたが絵を描く姿を見るためにここに来ました。
 一体僕は、どこの戯曲から台詞を盗んだのだろう。顔を真っ赤にしながら言い放った僕に、彼女ははぁ、と怪訝な顔をし、本気でそんなこと言ってるの、と再度問いかけた。
 僕は大きく頷いた。しばらく僕の顔をじっと見ていた彼女は、唐突に微笑み、くるりと僕から目を逸らし、またキャンパスに絵を描き始めた。

「そういう理由なら、そこで見てなさい」

 その声には、先ほどの空気はなかった。許してもらった、という喜びが僕の内に芽生え、柄にもなくはしゃぎたくなったけど、この空間の雰囲気を壊したくなくて、そのまま無言のまま、彼女の小さな姿を見ることにした。僕の視界の中で、彼女のタッチがもうひとつの世界を作り出そうとしていた。それは長い時間を必要とするものだったろう。僕はその間、オープンキャンパスのことも、トイレのことも、日没のことも忘れて、彼女を見続けていた。
 彼女が筆を置いたとき、小屋の中には月光によってのみ、照らし出されていた。月明かりは彼女と、彼女の絵を効果的に映す照明となっていた。筆が置かれた音で正気を取り戻した僕は、彼女の描いた絵ではなく、絵を含んだ彼女のいるこの光景こそが、一枚の荘厳な絵画だと思った。
 
「君、名前はなんていうの」

 自分の描いた絵に顔を向けたまま、その時は名前も知らなかった彼女は尋ねてきた。僕は尋ねられた通り、自分の名前を答えた。

「そう。なら、ユウ」

 振り返り、跳ねた青の絵の具で涙を作った彼女は、微笑を浮かべて僕の名前を呼んだ。

「明日、またここに来て。天塚ゆぎりのアトリエと聞けば、すぐにわかるから」

 その約束を、僕は胸に刻んだ。彼女の微笑みは、僕が今まで見た中で、何よりも綺麗で、そしてそんなものを持っている彼女を、すっかり好きになってしまったのだから。

「ねぇユウ。あの時の私はね、ちょっとしたスランプだったのよ」

 深い回想の海に潜っていた僕を、今この瞬間の彼女が引っ張り上げた。

「今までもスランプはあったけど、あの時はそれがずっと長引いてて、イライラしてたの。けどね、ユウが“私の絵を描く姿を見に来た”なんて、変なことを大真面目に言うからさ、急に力が抜けちゃってね」

 その話は、恋人になってから何度も聞いていた。けれども彼女は飽きることなく何度も同じ話を重ね、僕もまた彼女との出会いを確かめるために、心に重ねる。

「もうずっと、私はただの趣味だった絵しか評価されないことに嫌気が差していたの。けど、絵を描いて、研究を重ねるだけだと、そのことに気づけなかった。けど何も知らないユウが私の過程を真剣に観測してくれたから、私は私を観測し直すことができたの。私の中の私は、ちゃんと繋がっているのだって」

 僕は、そんな大層なことをした覚えはない。今なら分かるけれど、浮世離れした綺麗で可愛い女性に一目ぼれして、一時でも傍にいたいと考えただけだ。そのことを隠さずに伝えると、彼女はしたり顔でいつもこういうのだ。

「量子エンタングルがこの世では何気ないものであるように、最初はそんなものでいいのよ。それに私だって、ユウのあの言葉にかなりくらっと来ちゃったんだから」

 改めて言われると、僕は恥ずかしさと愛しさで何も言えず、だんまりを貫くしかなかった。彼女は僕の反応に顔を喜色に染めて、背伸びをしながら僕を頭を撫でると、改めて絵に取り掛かった。
 こんなやりとりを僕たちは飽きるほどやっているけど、きっと飽きる日はこないだろう。もしそんな日が来るとしたら、それは僕が彼女を恋し愛する気持ちが消えるか、彼女が僕をかけがえのないものではないと確信する時だろう。
 もしその時が来ても、僕は彼女とコーヒーを飲みながら、今日のような話を続けたいと思うのだ。何故なら僕が、天塚ゆぎりを恋し愛する想いを消すなど、ないからだ。



【3.僕の彼女の夜】

 僕らの寝床はダブルベッドだ。当然、一緒に寝る。お風呂上がりの彼女はいつも白いパジャマを着て、ホットミルクを用意した僕の手からカップを浚い、彼女の身体に比べとても広いベッドの脇へと座り込む。

「ほら、ユウ。早くこっちに来て」

 一口ミルクを喉に流すと、ぽんぽん、と彼女は自分の右隣りのスペースを叩く。僕は苦笑しながらそのスペースに座り、すぐに彼女が身体を預けてくるのを待った。案の定、ぽふっ、と軽い衝撃が左肩をノックし、彼女の匂いとミルクの湯気が僕の顔を覆った。

「ユウは大きいから、身体を預けるにはちょうどいいわ」

 すりすり、と彼女は普段よりも色を明るくした頭を僕の肩にこすり付ける。彼女にとって僕の身体は本当にちょうどいい大きさらしく、度々こうして身体を預けてくる。朝の時はそれが日課になってるぐらいだから、よっぽどのことなんだろう。僕もまた、彼女の身体と、その温度が僕に触れていることに心地よさを感じるし、彼女を抱きしめた時の感触は、言葉にはし難い。
 だからといってそれだけで澄むほど僕たちは若くはなくて、ちゃんとした性欲もある。今も、僕はそっと男の性に従って、左手の間接から下だけを動かして、彼女を抱き寄せようとした。だけど雰囲気だけでそれを察した彼女は、だーめ、とミルクカップの熱い部分を僕の手のひらに当てて、見事に迎撃した。

「さっきお風呂でしたばっかりでしょ。今日はもうダメよ」

 そう言い聞かせるように言われると、年下の僕は逆らうことはできない。僕自身、性欲に流されてしまった部分があるだけに、これ以上何もできない。そもそも、そういう意味での主導権を僕が握れることは滅多にないのだけど。
 子供らしい恥ずかしさが出てきて、気を逸らすために僕の分のカップに口をつける。ホットミルクは僕の邪な思考を香りで和らげ、気持ちを落ち着けてくれる。ちらりと横目で彼女を見ると、同じくホットミルクを音を立てて飲みながら、片目だけ開けて僕の顔を上目遣いに見ていた。その目にあるのは、庇護欲に似た、からかいの光だ。その目をされると、ただの弟みたいに見られているみたいで、僕はつい拗ねてしまい、そっぽを向いてしまう。
 
「しょうがないなぁ、ユウは」

 そんな僕の子供っぽい仕草に呆れの吐息を吐き出しながら、彼女は身体を離し、ホットミルクをベッドサイドのテーブルに置いて、代わりにあるものを取り出した。耳かきだ。

「ユーウ、こっち向いて。久々に耳掃除してあげる」

 敵わないなぁ、と僕は自分の男としての情けなさにため息を吐きながら、小さな彼女の膝に頭を乗せた。最初にお願いするのは、右耳。僕の視界には、僕らの部屋が映った。

「ほーら、いくわよー」

 彼女の心地の良い声が耳をくすぐり、次いで耳かきの無機質な感触が入ってくる。そのまま耳の内側をくすぐられるのを我慢しながら、僕は部屋を見回した。五畳ほどもある大きな寝室で、二人の着替えや私物も置いてある。だけど最初からそうであったわけではなく、元々彼女一人だけの物だったし、そもそも今いるこの家自体彼女一人の家だ。だけど僕が大学に入ったのを機に改装し、僕ら二人が住むにはちょうどいい空間にしたのだ。世間一般の男としては、それはとても情けないことかもしれないけど、僕たちには今の形の方が自然で、崩したくないものだった。
 
「はい、反対向いて」

 彼女の声に従い、今度は左耳を上に向ける。視界には、彼女のなだらかな身体と、それを包むパジャマ。彼女の匂いが鼻一杯に広がり、つい深呼吸をしたい衝動に駆られた。そんなことをすれば手痛い反撃を喰らってしまうのは目に見えているので、小さな彼女に包まれているという感覚を胸に、耳かきが終わるのを待つ。
 
「終わったわよ、ふうっ」

 耳かきが抜かれた直後、彼女の吐息が耳に入った。びくっ、と身体が不自然に震えるが、これを狙っていた彼女に頭を抱きしめられて、動きが取れなかった。こういう悪戯が好きな彼女は、こういう意味でも、僕と相性はいいらしい。けどやられっぱなしというわけにはいかず、今度は僕が耳かきをしようと、彼女が手を離した瞬間、勢いをつけて顔を上げた。

「さぁ、もう寝ましょう」

 しかしこれも簡単に予想されていて彼女は耳かきを元の場所に戻すと、するりとベッドの掛け布団の中に入った。行き場のない衝動が僕に残されたが、だからといってこれから彼女を押し倒すという気分にもなれず、渋々と電気を消し、彼女の隣りに入り込んだ。

「ふふ、しょげないの。けどそういうとこが、可愛いんだけどね」

 暗い闇の中で、彼女が笑う。釣られて僕も笑う。それだけで衝動は消えて、彼女への想いだけが身内に残った。その想いのまま、彼女の目をじっと見つめる。彼女もまた僕の目を見つめ返してくれる。やがて僕らは、どちらからともなく顔を寄せ合い、軽いキスをした。

「おやすみ、ユウ」

 頬を若干赤くした彼女は、そのまま僕の腕の中に入り込み、やがてすぅすぅと寝息を立て始めた。こういう時でも僕の身体は彼女を落ち着けてくれるらしい。そして僕もまた、彼女の身体から聞こえる、トクンットクンという心音に身を委ね、ゆっくりと夢の世界に旅立った。
 そしてその直前に、いつもこう想うのだ。
 死が二人を分かつまで、彼女と傍にいられますように、と。



『僕の彼女は姉さん幼女』end


 あとがき

 合法ロリ好きかい?(挨拶)
 リハビリを兼ねて甘いものを書こうとしたら、どこからともなくウヴァさんが現れて「その欲望、解放しろ」とセルメダルを入れられた結果がこれです。
 反動で作者は風邪を引きました。
 読んだ人がバームクーヘンを食べ終えたようなしっとりとした甘さを感じたり、どこかで壁殴りをする音が聞こえたら作者の勝ちだと思います。

※本作品はpixiv様にも投稿しております。


次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.027951002120972