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No.36981の一覧
[0] 【機動戦士ガンダムSEED】もう一人のSEED【改訂】【オリ主TS転生】[menou](2013/06/27 11:51)
[1] PRELUDE PHASE[menou](2013/03/13 20:07)
[2] PHASE 00 「コズミック・イラ」[menou](2013/03/16 22:26)
[3] PHASE 01 「リナの初陣」 【大幅改訂】[menou](2013/06/27 11:50)
[4] PHASE 02 「ジャンクション」[menou](2013/06/27 17:13)
[5] PHASE 03 「伝説の遺産」[menou](2013/07/21 18:29)
[6] PHASE 04 「崩壊の大地」[menou](2013/07/21 19:14)
[7] PHASE 05 「決意と苦悩」[menou](2013/08/25 16:23)
[8] PHASE 06 「合わさる意志」[menou](2013/08/17 16:11)
[9] PHASE 07 「ターニング・ポイント」[menou](2013/08/29 18:01)
[10] PHASE 08 「つがい鷹」[menou](2013/09/11 10:26)
[11] PHASE 09 「モビル・スーツ」[menou](2013/09/16 14:40)
[12] PHASE 10 「流星群」[menou](2013/09/23 23:47)
[13] PHASE 11 「眠れない夜」[menou](2013/10/01 16:10)
[14] PHASE 12 「智将ハルバートン」[menou](2013/10/06 18:09)
[15] PHASE 13 「大気圏突入」[menou](2013/10/17 22:13)
[16] PHASE 14 「微笑み」[menou](2013/10/22 23:47)
[17] PHASE 15 「少年達の向く先」[menou](2013/10/27 13:50)
[18] PHASE 16 「燃える砂塵」[menou](2013/11/04 22:06)
[19] PHASE 17 「SEED」[menou](2013/11/17 17:21)
[20] PHASE 18 「炎の後で」[menou](2013/12/15 11:40)
[21] PHASE 19 「虎の住処」[menou](2013/12/31 20:04)
[22] PHASE 20 「砂漠の虎」[menou](2014/01/13 03:23)
[23] PHASE 21 「コーディネイト」[menou](2014/01/29 22:23)
[24] PHASE 22 「前門の虎」[menou](2014/02/11 21:19)
[25] PHASE 23 「焦熱回廊」[menou](2014/02/15 14:13)
[26] PHASE 24 「熱砂の邂逅」[menou](2014/03/09 15:59)
[27] PHASE 25 「砂の墓標を踏み」[menou](2014/03/13 20:47)
[28] PHASE 26 「君達の明日のために」[menou](2014/03/29 21:56)
[29] PHASE 27 「ビクトリアに舞い降りる」[menou](2014/04/20 13:25)
[30] PHASE 28 「リナとライザ」[menou](2014/04/27 19:42)
[31] PHASE 29 「ビクトリア攻防戦」[menou](2014/05/05 22:04)
[32] PHASE 30 「駆け抜ける嵐」[menou](2014/05/11 09:12)
[33] PHASE 31 「狂気の刃」[menou](2014/06/01 13:53)
[34] PHASE 32 「二人の青春」[menou](2014/06/14 20:02)
[35] PHASE 33 「目覚め」[menou](2014/06/30 21:43)
[36] PHASE 34 「別離」[menou](2015/04/20 23:49)
[37] PHASE 35 「少女が見た流星」[menou](2015/09/16 14:36)
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[36981] PHASE 35 「少女が見た流星」
Name: menou◆6932945b ID:1e6273ac 前を表示する
Date: 2015/09/16 14:36
「そんな……リナさん、アラスカに行ってしまうんですか!?」
「一足先にね……そういう命令なんだ」

マジリフ曹長に転属を言い渡されたその次の日の朝食時間。ビクトリア基地の士官食堂で、いつものパイロットのメンツに転属の旨を伝える。
マスドライバーを用いて低軌道グライダーを射出。成層圏ギリギリを飛んで、宇宙からも地上からもザフトの襲撃を躱して、一直線にアラスカへ。
そこで第七機動艦隊へ復隊し、任務に就く。そこから先、誰の下に、どこへ派遣されるかは機密になっているので、まだ知らされていない。
その予定を告げると、一番驚いたのはやはりキラだった。

「でも、なんでこんなタイミングでリナさんが……? ムウさんも、第七艦隊の軍人じゃないですか」
「おいおい、俺に出て行って欲しいのか?」
「そ、そんなつもりじゃ……ただ、他にも第七艦隊の人達はいっぱいいるのに、なんでリナさんだけって思ったんです」

苦笑するムウに困惑するキラを、リナは少し寂しげに笑い、肩をすくめる。

「そこのところは、ボクにも分からないよ。軍の命令だから仕方ない、としか言えない。推測でいいなら言うと、アークエンジェルで一番動かしやすい人材だったんじゃない?
今の地球軍は、MSパイロットは一人でも欲しい状態だし、中央にMSパイロットに熟練した人材を集めて、教官にするとか……その辺りだと思うけど」

我ながら尤もらしいことを言ったが、カマルが「親がらみ」と言ったのだ。それだけでは無いのだろう。
一体親父が、なんで今になって一人娘に用があるのか。大事に奥に仕舞っておきたいなら、最初から権限を使って自分の下に配属すればいいのだ。
将官の子息令嬢は、その直下に配属されるのは通例のことであるし、誰も非難はしない。
かといって高官の気まぐれで一パイロットを配置換えできるような、楽観できる戦況でも無いし……考えれば考えるほど分からない。

「でも、地球軍の飛行機がザフトの制空圏を飛んでも大丈夫なんですか?」
「ああ、それなら平気だよ。低軌道上……いわゆる成層圏には、地上軍の攻撃は届かないからね」

敵地上空を飛ぶ。それに不安を覚えるのも無理からぬ事だが、杞憂だ。
こうした低軌道航行は、皮肉にもΝジャマーのおかげで安全が保証されている。そうでなければ、統合戦争時代の弾道ミサイル迎撃システムによって撃墜されてしまうのだ。
更に言うと、現在の技術では、成層圏を、MSやMSを搭載できる大型機が飛行することはできない。
前述のように、ミサイルや小型機などは飛行できるが、そんな高度で小型機同士の撃ち合いをしたところで戦略的に意味が無いし、コストパフォーマンスも悪いので、成層圏はほぼ非武装中立なのだ。
あとは針路上空に敵艦隊が存在しないことさえ確認できれば、平時の旅客機と同じようにリラックスして飛行できる。

「ボクも、アークエンジェルに未練がないって言ったら嘘になる。でも、キラ君とフラガ少佐が守ってくれるから大丈夫だよ。
アークエンジェルとは所属が違うから、次に会えるのは終戦後かもしれないけれど……まあ、別のクラスに行った、くらいに考えてよ。また会えるんだからさ」

暗い顔をするキラを励ますつもりで気軽に言ってみせる。
わかっている。これは戦争だ。お互い、明日生きている保証なんてどこにもない。紙切れ一枚、数キロバイトの命令書で死地に赴かなければならない身なのだから。
キラに関しては杞憂なんだろうけど……自機を失ったパイロットが心配する筋合いは無いのかもしれない。

「そんなに落ち込むなよ、坊主。俺達軍人は、転属なんてしょっちゅうなんだぜ。こんなヤバイ戦争だから、心配なのは分かるけどな」

明らかに落ち込んでうなだれているキラを見て、ムウはキラの肩を叩き、努めて朗らかな声を挙げた。

「こういう時は、笑って見送るのが一番だぜ。顔を合わせていられるうちにな」
「そうそう。だいたい、しんみりした空気で送り出されると縁起が悪いでしょ?」

ムウもたまには良いこと言う。リナも笑顔で頷いて、チキンの香草焼きを口に運ぶ。
陰気臭い雰囲気は苦手だ。いくら戦争で転属だからって死に別れるわけでもあるまいし、もっと笑顔で、気楽に送り出して欲しい。
……正直なところ、自分だけストーリーの枠から外れていくのは、寂しいというか、仲間はずれにされたような気分だが、まあどこかで合流するだろう。行き着く所は皆同じ、最終決戦の地、ヤキン・ドゥーエなのだから。

「ボクが心配してるのは、MS同士で顔を合わせた時に、誤射されないかどうかだよ。特にケーニヒ一等兵」
「ちょっ、俺だって二度修羅場くぐり抜けて、進歩してますよ! そんなヘマやらかしませんって!」

リナの唐突な弄りに、トールが不服を訴える。
トールはビクトリア攻防戦の参加と、G兵器を僚機と共同で撃退した功績が認められて、二等兵から一等兵へと昇進していた。
下士官、特に兵の間は昇進が早い。特に最前線では、手柄を立てるチャンスが多いのと、上位階級の戦死者が後を絶たないためだ。
まあ、大尉であるリナにとっては、二等兵も一等兵も下っ端であることには違いない。精々、今までは無かった階級章が襟と肩につけられるだけのこと。

「へへへ、俺もついに階級章がついたぜ! 見ろよ、超かっこいいの!」
「すごいじゃない、トール! 頑張ったおかげね!」

昨晩目撃した、元アカデミー生達に、トールが今までにないドヤ顔で階級章を見せびらかせていた場面が、今も目に焼き付いている。
自分の頑張りが認められた証だし、さぞかし嬉しかったんだろう。気持ちは分かる。命がけで戦って貰った階級だから、その感激もひとしおだ。
あと、ビクトリア攻防戦に参加した証として、ユーラシア連邦から徽章が贈呈されるらしい。が、悪いけどそれを貰えるまでここに留まる猶予は無い。
それを見せびらかす相手はいない。なにせ、アークエンジェルのクルーも含め、全員が貰えるのだから。

俯いていたキラが顔を上げる。

「出発はいつなんですか?」
「明日の〇七〇〇時だよ。朝日に向かって飛ぶことになるね」
「東回りで行くんですか!?」

驚きは分かる。だって、東回りだと相当な遠回りになる。軽く世界一周だ。
普通の航空機なら丸一日かけても着かない距離である。聞いてるだけでもお尻が痛くなりそうだ。

「衛星軌道は東回りだからね。低軌道を飛ぶグライダーだから、こればっかりはしょうがない。
アークエンジェルは、どうやってアラスカに向かうの? まさかアークエンジェルまで東回りじゃないよね?」

一番の関心事はそれだ。ゲームでは、バルトフェルド隊との戦いの後紅海に出て、モラシム隊と戦闘があるはずだ。
自分の知るところでは、この時代では地球軍に水中戦用のMSは開発されていない。水中ではゲームほど、現実は海の底は浅くないはず。かなり苦戦するだろう。
全員の視線を受け、ポテトサラダを飲み込んだムウが水を飲んだ後、口を開く。

「……それなんだが、西アフリカはだいたいザフトに取られちまってるし、この場では細かくは言えないけど、東回りになるって話だ」
「大丈夫なんですか? かなり遠い道のりになりますけど」

やっぱりか。内心で嘆息し、テーブルの下で掌の中の汗を握る。
ゲーム通りの航路を辿ってしまうのか。東回りだとすれば十中八九、紅海を渡る。陸はザフトの勢力圏だし、きっとそうだろう。
大丈夫なはずだ。ゲームでは何の問題もなく、東回りでもアラスカに到着していた。その経過は分からないが、全員着いたはず。トールがゲーム上に出ていないので心配だが。

「まあ、ちょっとした世界旅行になっちまうけど、いけるだろ。それよりも自分の心配をしろよ」
「?」

アラスカのJOSH-Aといえば、連合軍の中枢を担っている統合本部。いつ補給ができるか分からないアークエンジェルよりも、遥かに安全なはずだけど。
ムウの言っていることが分からず、きょとんとするリナに、ムウは苦笑を浮かべた。

「アラスカに転属といえば、多分お前の親父さんのいるJOSH-Aに配属されるんだろうけどな。
JOSH-Aだって、100%安全とは限らないんだぜ? ビクトリアの攻略に失敗したザフトの連中が焦って、どんな無茶をやらかしてくるか分からないんだ。
地球上にはΝジャマーが打ち込まれたから、核は無いだろうが、大量殺戮兵器は核だけじゃないからな。俺はそっちの方が心配だよ」
「あの、ボク、これからそういうところに行くんですけど……」

ムウは、どよんとした表情でリナに睨まれ、悪い悪い、と乾いた笑いを浮かべる。
全く、笑って見送ろうぜと言った張本人が、舌も乾かぬうちにこれだ。

朝食を終えると、低軌道グライダーは燃料の補給を終えて、最終点検をしている最中である旨をレジェッタ曹長から報告される。
もう出発は近い。その前に、ここまでの苦楽を共にしてきたアークエンジェルのクルー達に挨拶をして回る。

「俺もヘリオポリス着任前から整備兵やってましたが、嬢ちゃんの機体ほど手を焼かせてくれた経験はありませんでしたぜ。JOSH-Aのもやしを泣かさんで下さいよ」
「肝に銘じておくよ、マードック曹長」

格納庫でマードック曹長と笑みを交わす。彼の熟練の整備の腕があればこそ、リナはここまで生き延びてこれた。
彼の言うとおり、JOSH-Aにこの人ほど腕の良い整備兵が居てくれればいいのに。そう願ってやまない。

「私が居ない間に、ショーン中佐と喧嘩しないで下さいよ? エスティアン中佐」
「”明けの砂漠”の若い奴らと暴れた奴がよく言うぜ。貴様こそJOSH-Aでは良い子にしてろよ」

惑星や星の位置から艦の正確な位置を割り出し、軌道計算、エンジン出力計算などを行い、Νジャマー散布下でも正確な航行をするための航海科の長、エスティアン中佐は子供のような無邪気な笑みを浮かべ、リナと拳を押し付け合う。
仕官前はカリフォルニアきっての悪童だったらしい。キャプチャーネットで拘束、逮捕されたことのある(悪い意味で)稀有な人物だ。
そんな人物が、艦でも一、二を争う頭脳派集団である航海科の長をやってるんだから不思議なものだ。

「アラスカでまた会おう、シエル大尉。配属先次第では、再会は終戦後かもしれんが……その時は、貴官の故郷のシアトルで一杯やろう」
「何故こちらへ?」
「シエル”准将”にも挨拶をしておきたい。ご息女に世話になったしな」

CIC統括のショーン中佐は、見た目通りの真面目人間を発揮させて、リナから苦笑いを誘う。
その時にはオレンジジュースでも飲んでおこう。まだ酒を飲める体じゃないし。

「これまでご苦労だったな、シエル大尉」
「大佐こそ、これからのご苦労をお察ししますが、どうかご健勝であられますよう」

艦長代理のギリアム大佐と握手を交わし、敬礼する。
リナが、アークエンジェルに居て、自分が軍人であることを最も強く意識させられるのは、ギリアム大佐の前に立った時だ。
全体的に、実直で堅実な印象のある彼は、ただ上級士官だからというだけでなく、視線と雰囲気がこちらを戒めているような気がしてくるのだ。
リナが背筋を伸ばしてかっちりとした敬礼をするのを見て、まるで日本の柴犬だな、と思い、ギリアムは笑みを零す。

「そう固くなるな。今まで大尉と親交を深める機会は無かったから、エスティアン中佐とするように……というわけにもいかないが、ショーン中佐とするようにはしてくれないか?」
「は、はあ……」

確かに、大佐と個人的な話をすることは殆ど無かった。リナはそれに気付いたのと、フギリアムの、初めて触れるプライベートな顔に、毒気を抜かれた。

「私も、どこまでも真面目な軍人というわけでもない。公の場でもないから、楽にしてくれ。
そうだな……大尉、仲の良かったハイスクールの教師は居たか?」
「いいえ」
「む、そうか……ならば、お父上とは……は、少し違うな。近所の口うるさい大人というのでは……」
「……それだと、大佐に対して無礼な態度をとってしまいます」
「そうか? ……まあ、なんだ。それなりに丁寧であれば、過剰にかしこまらなくてもいい」

何か上手い例えを出そうと、視線を彷徨わせ視線を泳がせるフィンブレンに、思わずリナも笑ってしまう。
それに気付いて、咳払いして「失礼しました」と、また背筋を伸ばした。
今まで、ここまで砕けたギリアムを見るのは初めてだった。質実剛健、実直一徹な軍人だと思っていただけに、あまりのギャップにこらえきれなかった。
その様子に、ギリアムもまた笑う。

「今の感じでいい。次に会う時には、もう階級も何も無くなってるかもしれない。その時には気軽に、フィンブレンおじさんとでも呼んでくれ」
「は……はっ」
「ではな。配属先での健闘を祈る、シエル大尉」

そう言うと、ギリアムは肩に手を置くのではなく……白い革手袋に包まれた手で、頭を軽く撫でてから、白い軍装の背を向けて歩いて行く。
その後姿を、リナは撫でられた頭に触れながら、呆気にとられて見送った。



「シエル大尉」
「ラミアス少佐。ちょうど良かったです」

彼女を探していたら、あちらからやってきた。マリュー・ラミアス少佐。フィンブレン大佐の傍で、アークエンジェルやG兵器に関する助言で補佐していた彼女だ。
原作では艦長をやってたけど、撃沈された「メイソン」の生き残りのクルーがアークエンジェルに乗り込んだことで、階級繰り下がりで副長になった。
彼女よりも偉い佐官も乗り込んだのに副長に収まったのは、アークエンジェルやG兵器に関する知識が豊富で、艦長に直に助言できるのと、アークエンジェルが帰属する第八艦隊の士官達の中では最高位であるのが理由だ。
実際、戦闘指揮、航行に関しても、艦長他幹部士官達に多くの助言を与えており、アークエンジェルを正しく運用できたのは彼女の功であると言っても過言ではない。
敬礼を交わし、マリューが寂しげに微笑む。

「大尉は先にJOSH-Aに行ってしまうのね。寂しくなるわ」
「はい。お先に失礼します、という感じです。ラミアス少佐もお元気で」

マリューは情が深く、感受性豊かなので、その言葉が建前ではなく本心から言っているのが表情と語調からも分かり、リナもつい目頭が熱くなってしまう。
シャワールームで顔を合わせることが多く、裸の付き合いもあったりして、個人的に甘えやすいタイプでもあり、リナとしても彼女の事は気に入っていた。
立場もあって、アークエンジェルのおふくろと言っても過言ではない。……本人に言えば盛大に顔をしかめられるだろうが。

「えぇ。また同じ部隊に配属されるといいわね。この戦況ですもの、お互い僻地に飛ばされることもあるかもしれないけれど」
「それを言ったら、飛ばされるのはボクの方ですよ。ラミアス少佐は、栄えあるアークエンジェルの副長じゃないですか」

マリューはきょとんとしてから、間を置いて小さく笑いを零す。

「栄えある……そうね。私達は軍務に誇りを持って艦に乗っているもの。大尉は立派な精鋭よ」
「あっ? いや、その……はい」

彼女の妙な反応に、一瞬戸惑ってから小さく頷いた。
この世界全体を、機動戦士ガンダムSEEDという作品として俯瞰して見ていたリナには、ついアークエンジェルをホワイトベースと同様の伝説的な船として考えており、つい大げさな言い方をしてしまう。
まるで全てが自分たちを中心に物語が、世界が動いているように錯覚してしまうのだ。
アークエンジェルも、他の艦よりも多少戦果を挙げているだけの、数ある軍艦の一隻であり、この世界全体からしてみれば、ちっぽけな一戦術単位に過ぎないのだ。
それを気付かされて、思わず赤面する。

「何を赤くなってるの? 今の言葉は皮肉じゃなくて、本当にそう思ったの。そうでないと、多くの人の命を奪う軍人なんてやってられないものね。
もっと自分に誇りを持って。貴女なら、きっとJOSH-Aでもやっていけるわ。頑張ってね」
「おだてないで下さい」

まるで遠方に働きに出る息子を送り出すようなセリフに、苦笑いが漏れるが、満更でもなかった。
それでも負けず嫌いの性分が働いて、思わずツンとした言葉を出してしまうが、マリューは気分を害することなく、むしろ穏やかな笑顔を浮かべ、無言でリナの頭に腕を回し、胸の中に引き寄せた。
硬い布地の軍服越しだが、柔らかさと香水の香りに包まれ、リナの目が見開かれる。

「……っ!? あ、の……」
「……なんでかしらね。貴女のことが、まるで妹のような気さえしてくるわ。私には妹なんて居ないけれど、きっと貴女のような感じなのかも……」
「…………」
「ごめんなさい、変なこと言ったかしら。味方の基地に着いて一段落したから、少し気が緩んじゃったみたい」
「い、いえ」

マリューの優しい声と共に体が離され、リナもほのかに頬を染めて、俯きがちになる。
軍人らしくない、情緒豊かな人だとは思ったが、まさかこんなに優しく抱きしめられるなんて思いもしなかった。
こんな柔らかさを持った人とも、あと一時間もしない内に別れると思うと、アークエンジェルでもう少し触れ合っておけばよかった。
そんな郷愁にも似た寂寥感を感じながら、目が潤うのをじっと我慢しながら見上げる。

「……少佐も、お元気で。JOSH-Aで待っています」
「えぇ。私達もすぐ追いつくわ」

マリューの背中が見えなくなってから涙を拭い、次の挨拶に向かう。
アークエンジェルのクルー全員に挨拶し終えると、もう出発が間近に迫っていた。
基地の修復工事と朝の調練で基地が喧騒に包まれる中、リナとエルフとリィウが、自分よりも大きな背嚢を背負って、低軌道グライダーの格納庫に立つ。
ガントリークレーンや航空機を牽引するためのタグ(日本で言うところのトーイングカー)、荷物や燃料を運ぶリフトカーが忙しなく動きまわっており、格納庫というよりも工場のような雰囲気だ。
そしてその三人を案内するためにマジリフ曹長が同行する。彼は私物をほとんど持ち込んでいないのか、ボストンバッグ一つだけだ。

「着替えしか持ってきていないの?」

いくら低軌道グライダーが音速をはるかに超える速度で飛ぶとはいえ、窮屈な密室の中で数時間を共に過ごすことになるのだ。
その間だんまりでは、あまりに息苦しい。少しはコミュニケーションをとっておこうと思い、話しかける。

「そうだ」

リナの努力をそよと受け流し、ごく端的な返事をするマジリフ。
会話が続かない。リナの目が泳ぎ、言葉を探す。

「……そ、そうか……アークエンジェルやメイソンでも、ギターとか、携帯ゲームとか持ってる人居たけど……」
「必要を感じない」

そこまで言われると、はぁ、としか言い返せなくなる。
マジリフとコミュニケーションをとるのを諦め、気分を紛らわすために自分が乗る予定の機体に視線を移す。
イメージとしては、Ζガンダムでレコアが乗っていたホウセンカを、スケールアップしたようなイメージの機体だ。
機体上部はアースブルー色で、底部が黒く塗装されており、地上と宇宙から目視で発見されにくいように配慮してカラーリングされている。
それにステルス性にも配慮しているのだろう。ヘックス状の外装で、反射面積を極力小さくしている。

「本当は、国賓や将官クラスでないと乗れない飛行機なんだって」

リィウが、まるで見た目通りの年齢のように顔を輝かせながら、楽しげに説明してくる。
なんでこんなにはしゃいでるんだろう、こいつは、と疑問に思いながらも、やはり内容は気になる。

「そんな大層なものに、なんでボク達パイロット風情が乗れることになってんの?」
「さあ。お偉いさんが乗っていいって言うんだから、お言葉に甘えようよ。中は結構快適らしいよ? ドリンクバーもあるって」

遊園地の乗り物に飛びつく子供のようなはしゃぎようのリィウを頭の隅に追いやり、リナは怪訝な気持ちでグライダーを見る。
確か、この転属命令を出したのは宇宙軍第七艦隊のナカッハ・ナカト中佐だ。大元をたどれば、第七艦隊の司令に行き当たる。
それ以上の命令系統……となると、JOSH-Aの宇宙軍統括、あるいは三軍を指揮する立場にある大西洋連邦大統領になってくるが、いいとこ第七艦隊の司令だろう。
ユーラシア連邦の基地にいるパイロットを名指しで呼び出せる上に、一度打ち出すのに多大なコストがかかるマスドライバーを使えるのだから、相当な権限の持ち主が命令を下したに違いない。
親父、というのも考えにくい。准将、たかが准将が、ここまで大掛かりなことができるだろうか? マスドライバーを使ってパイロットを呼び寄せる大義名分を作り出せるものだろうか。

「……」
「……わっ」

考え込んでいたら、エルフがまるで幽鬼のごとく目の前に佇んでいた。
まるで瞳の色が珍しいかのように、じっと目を覗きこんでくるが、確かフィフスやリィウと同じ色で、大して珍しい色でもない。

「な、何……?」
「…………おかあさんに、にてる」
「は?」

年が近い(?)女の子に、母親に似ているなどと言い出すエルフに困惑する。
先ほどマジリフ曹長とコミュニケーションを取ろうと頑張っていただけに、ここで無視するというのも気に入らないので、一生懸命返答の言葉を探す。
うん、まずはお説教だ。眉間を摘んでいた手を離し、今にも寝てしまいそうなエルフの目を見返す。

「あのね……そりゃあ、ボク達は似てるから、どこかしら似ているかもしれないけど」
「うん」
「女の子に対して、自分のお母さんに似てるなんて言うもんじゃないよ。ボクは君に母性を発揮したことはないし……年も同じくらいでしょ? だから……」
「?」
「失礼だって言ってんの!」

首を傾げるエルフに、思わず声を荒らげる。
マジリフ曹長といい、このメンツの半分は、どうやらコミュニケーション不全症らしい。当のエルフも、何が失礼なのか分かっていないのか、不思議そうにこちらを見返してくる。
頭を抱えて頭痛をこらえるリナは、こいつと同じ配属先は御免だと胸中で唸る。ついでにマジリフ曹長ともだ。

やがて、発進時刻が近づいてくる。管制室から搭乗のアナウンスが流れたため、四人とも乗り込んでいく。
マジリフ曹長が機長のようで、エルフと漫才をしている間に操縦席に乗り込み、管制室と発進のやりとりをしていた。
既にマスドライバーに充電が完了され、グライダーにも推進剤が充填された。あとは低軌道上の安全を確認したのちに打ち上げだ。
打ち上げのギリギリまで機体とマスドライバーの点検をしていた整備士達も離れ、自分達が乗り込む番になった。
大きな荷物は後部ハッチに収められ、『各員搭乗せよ』というアナウンスが響き、手荷物の入ったバッグを肩に、タラップを上がろうとして――

「リナさん!」

自分を呼ぶ声が聞こえた。キラだ。振り向くと、らしくもなく息を荒らげ、駆け寄ってくる。
そういえば、パイロット同士の挨拶は食事の時に済ませたつもりだったけど、きちんと挨拶はしていなかったかもしれない。
駆け寄るキラを迎えるように立ち止まると、リィウとエルフもキラに呼ばれたかのように立ち止まる。キラの視線は、リナにだけ向けられている。
タラップのすぐ下まで来て、手を伸ばせば届くくらいの距離まで近づいた。キラの手が、肘の高さまで持ち上げられる。その手は震えていた。
「何?」と、リナはキラの思いつめたような表情に、少し不穏な気分になったが、キラは何度も唾を飲み込むだけで、答えることができない。

「キラ君?」
「……っ、その……気を付けて、ください。僕達も、すぐ行きます。アラスカに!」

聞いているこちらが心配になりそうな激励の言葉だった。
最後までキラらしい、必死で、様々な感情をぎゅうぎゅうに詰め込んだような声に、笑みが漏れる。

「うん、キラ君もね。……じゃあね」

持ち上げられた両手は既に下げられていて、結局何を意味する手だったのかは分からなかった。




リナ達乗員が座席にシートベルトで固定されて間もなく発進シークエンスが完了し、ゆっくりと機体が回るのがリナ達に伝わった。
A3用紙ほどの小さな窓から外を覗くと、低軌道グライダーを駐機していた格納庫が遠く離れていくのが見える。
下を見ても、低軌道グライダーの翼が見えるだけで特に面白みがない。
これが前世ならば、その翼の非日常じみた機械らしさに興奮するのだが、日常的にモビルスーツやらモビルアーマーに触れている今では、地味な機械としか感じなくなってしまった。

「これが可変型MSとかだったら、何時間でも見てられるんだろうけどな……ムラサメとか」

呟いた直後、機体が小さく沈み込む。リニアカタパルトに乗ったのだ。
機体が唸りを挙げて震動し、甲高いジェット噴射音が響く。ついに発進だ。初めて宇宙に上がった時のことを思い出す。
あの時の緊張と高揚は、今も忘れられない。人生初の宇宙。前世だったら、ごくごく選ばれた人間しか出られなかった。テレビで見ていて、憧れを抱いたものだ。
それがまさに自分がその立場になったかと思うと、涙が止まらなかった。周囲はいきなり泣きだした自分をえらく冷やかしてくれたものだ。

コズミック・イラに入って十数年程度で、宇宙への進出は選ばれた人間だけが行けるような厳かな場所ではなくなった。
C.E.11で初のスペースコロニー『世界樹』が完成、その次の年には月面都市『コペルニクス』が完成。
それらを境に、地球と宇宙の往来はより盛んになり、旅客機に乗るよりはかなり値が張るが、それでも西暦に比べれば遥かに手軽に宇宙に行けるようになった。
同じシャトルに乗る幹部候補生達は、これよりも前に宇宙に行ったことのある人間もいるのだろう。自分は宇宙には行ったことはなかった。
精々映像で、宇宙に向かって飛んで行くシャトルを見ていただけで、親父――デイビットは頑として宇宙には行かせてくれなかった。軍人なら簡単だろうに。

(これから、その親父のところに行くわけか)

予定とはだいぶ違うが、時期が早まったんならそれはそれでいい。
あの親父のケツを蹴り上げ、それから胸ぐら掴んで事情をとっぷりと聞かせてもらおう。
振り返ってみれば、親父に振り回されっぱなしの人生だ。それくらい許されるだろう。
モビルスーツのパイロットになれたのは親父のおかげでもあるが、親父の権力があればG兵器のどれかのパイロットにつっこむのもできただろうに、それをしなかったので蹴りつけるだけでとどめてやる。
それを想像して少しだけ気分を高揚させ、シートに背を預けたところで……機体が、まるでカタパルトで打ち出されるように、ぐんっ、と加速をかける。
発進のアナウンスが無かったので、少し不意を打たれた。他の軍人も乗ってたらブーイングものだっただろう。

窓の風景が急速に流れていく。窓に、チラとアークエンジェルの艦影が見えた。
もう、アークエンジェルに乗ることはもう無いのか。そう思うと、少し目頭が熱くなった。
別れの挨拶は済ませたはずなのに、また寂しい気持ちが浮かんでくる。
痛めている小さな胸を、発進のGが押さえつけ……機体はマスドライバーの急斜面を駆け上り、成層圏を舞った。

「……宇宙か」

上昇のGが過ぎ去り、機体の震動も収まると、前髪がふわりと浮き始める。
ポケットに入れていたキャラメルを浮かして、また宇宙に来たことを実感した。今となっては、この無重力が気持ちいい。
きっとこの宇宙の向こう側に、最終決戦の地であるヤキン・ドゥーエがある。そしてジェネシスも。
建造期間を考えると、ジェネシスはとっくに建造が完了しているはずだ。あんなデカイもの、どうやって破壊するんだ? と思わなくもない。
ジェネシスかヤキン・ドゥーエの姿を探そうと、宇宙の彼方に目を凝らしていると……。

「なんだ……?」

流星のように光が尾を曳くのが、黒塗りの宇宙の向こうに見える。
それも、一つ。こんなところを単機、あるいは単艦で巡航する機体があるのか? もしかしたら、ザフトかもしれない……そう思うと、怖くなってくる。
リナは朧気な不安を抱きながら、その光の尾を眺めていると。

「!?」

その光の尾を曳いているものが、急速にこちらに接近してくる!?


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