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No.36981の一覧
[0] 【機動戦士ガンダムSEED】もう一人のSEED【改訂】【オリ主TS転生】[menou](2013/06/27 11:51)
[1] PRELUDE PHASE[menou](2013/03/13 20:07)
[2] PHASE 00 「コズミック・イラ」[menou](2013/03/16 22:26)
[3] PHASE 01 「リナの初陣」 【大幅改訂】[menou](2013/06/27 11:50)
[4] PHASE 02 「ジャンクション」[menou](2013/06/27 17:13)
[5] PHASE 03 「伝説の遺産」[menou](2013/07/21 18:29)
[6] PHASE 04 「崩壊の大地」[menou](2013/07/21 19:14)
[7] PHASE 05 「決意と苦悩」[menou](2013/08/25 16:23)
[8] PHASE 06 「合わさる意志」[menou](2013/08/17 16:11)
[9] PHASE 07 「ターニング・ポイント」[menou](2013/08/29 18:01)
[10] PHASE 08 「つがい鷹」[menou](2013/09/11 10:26)
[11] PHASE 09 「モビル・スーツ」[menou](2013/09/16 14:40)
[12] PHASE 10 「流星群」[menou](2013/09/23 23:47)
[13] PHASE 11 「眠れない夜」[menou](2013/10/01 16:10)
[14] PHASE 12 「智将ハルバートン」[menou](2013/10/06 18:09)
[15] PHASE 13 「大気圏突入」[menou](2013/10/17 22:13)
[16] PHASE 14 「微笑み」[menou](2013/10/22 23:47)
[17] PHASE 15 「少年達の向く先」[menou](2013/10/27 13:50)
[18] PHASE 16 「燃える砂塵」[menou](2013/11/04 22:06)
[19] PHASE 17 「SEED」[menou](2013/11/17 17:21)
[20] PHASE 18 「炎の後で」[menou](2013/12/15 11:40)
[21] PHASE 19 「虎の住処」[menou](2013/12/31 20:04)
[22] PHASE 20 「砂漠の虎」[menou](2014/01/13 03:23)
[23] PHASE 21 「コーディネイト」[menou](2014/01/29 22:23)
[24] PHASE 22 「前門の虎」[menou](2014/02/11 21:19)
[25] PHASE 23 「焦熱回廊」[menou](2014/02/15 14:13)
[26] PHASE 24 「熱砂の邂逅」[menou](2014/03/09 15:59)
[27] PHASE 25 「砂の墓標を踏み」[menou](2014/03/13 20:47)
[28] PHASE 26 「君達の明日のために」[menou](2014/03/29 21:56)
[29] PHASE 27 「ビクトリアに舞い降りる」[menou](2014/04/20 13:25)
[30] PHASE 28 「リナとライザ」[menou](2014/04/27 19:42)
[31] PHASE 29 「ビクトリア攻防戦」[menou](2014/05/05 22:04)
[32] PHASE 30 「駆け抜ける嵐」[menou](2014/05/11 09:12)
[33] PHASE 31 「狂気の刃」[menou](2014/06/01 13:53)
[34] PHASE 32 「二人の青春」[menou](2014/06/14 20:02)
[35] PHASE 33 「目覚め」[menou](2014/06/30 21:43)
[36] PHASE 34 「別離」[menou](2015/04/20 23:49)
[37] PHASE 35 「少女が見た流星」[menou](2015/09/16 14:36)
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[36981] PHASE 31 「狂気の刃」
Name: menou◆6932945b ID:bead9296 前を表示する / 次を表示する
Date: 2014/06/01 13:53
「カマルさん、リジェネさん、トール!」

キラのストライクはアーマーシュナイダーを両手に握り、もう一度デュエルと対峙しようとしたら、その間に三人のストライクダガーが割り込み、デュエルの全武装乱射を受けている。
木々が砂糖菓子のように砕け、地面が沸騰した湯のように泡立ち炸裂する。ストライクダガーがあんな攻撃を受けて、自分が換装して戻ってくるまで保つのか。

「アークエンジェル! 装備の換装を……エールストライクの装備を射出して下さい!」
「だめだ、空に射出したら的になる! 帰艦して、艦内で換装作業を行え!」
「敵は待ってはくれませんよ! カマルさん達が危険なんです、お願いします!」

ナタルに、珍しく声を荒らげるキラ。
確かに、宇宙とは状況が違って混戦状態の上空は危険だ。敵がどこからどう狙っているのか分かりはしない。
しかし、キラも多少の被弾は覚悟の上だ。ビームでない限りは、フェイズシフトが保たせてくれる。
そのつもりで要求するが、どうやら一足遅かったようだ。

「!!」

ロックオン警報。前方……やや上空。咄嗟に飛び退いて肩部バルカンのロックオンセンサーを向ける。
複数の機影が、木々スレスレの上空を飛翔している。ディン五……イージス!?

「アスラン!?」

キラの口から、親友の名前が飛び出した。あのイージスのパイロットは、アスランだ。
イージスとブリッツは、ずんぐりむっくりの飛行機のような機体の背に乗っているが、あれで空を飛べないMSを運搬しているのだろう。
ディンが、イージスを置いて先行し、七十六ミリ機銃とミサイルで弾幕を張る。火線が一気にストライクに集中し、ストライクの周りで殺人的な弾丸と爆炎の嵐が吹き荒れる!
まずい。ストライクのフェイズシフト装甲なら完全に防御できるが、無限じゃない。アグニを連発していたせいで、もうバッテリーの残りがイエローゾーンの真ん中に到達している。

「くっ……」

機体が危険な値を示した中で爆撃に晒されながらも、キラはアスランのことを考えていた。
アスラン。今も僕のことを心配してくれているのか? 戦いたくないって思ってくれているのか? 僕達は友達なのに、なんでこんなことになってしまったんだ。
話したい。会って話したい。きっとアスランなら、アークエンジェルの人達と話せば仲良くなれるはずだ。皆良い人達なんだ。

「アスランっ!」

その想いを爆発させるように叫ぶ。機銃とミサイルの嵐を強引に振り払いながら、ストライクをジャンプさせる!
ディンの編隊はストライクの予想外の行動に驚いて散開するが、イージスは避けることなく迎え撃つこともせず、シールドを構えて受け止める!

がしゃぁんっ!!

車の大事故でも起きたような金属の轟音を響かせながら、二機が衝突。二機のコクピット内が激しく震動し、ぶつけられたアスランは、その衝撃とグゥルの態勢維持と格闘を強いられた。

「キラ!?」
「けほっ……アスラン、もうやめてくれ! 僕達が戦うことは無いんだ!」

キラも、衝突時の衝撃にシートベルトに体を縛られて、咳き込みながらも訴える。
その声にアスランは、顔を顰める。
この戦場でキラに出会うということは、彼が無事であることと同時に、まだストライクに乗って戦っていることだ。
嬉しくもあり、残念でもあり、アスランにとっては、この再会は複雑な思いがこみ上げてくるものだった。

「お前こそっ……もう地球軍に協力しないでくれ! 地球軍の味方をするということは、俺の敵になるってことなんだぞ!」
「僕はアスランの敵になった覚えは無い! 地球軍の人達は、悪い人ばかりじゃないんだ。
僕がコーディネイターだって分かっても、みんな対等に接してくれる。話せばわかるんだ、アスラン!」
「くっ……それでも、ナチュラルは信用できない!」

イージスは、しがみついてきたストライクをシールドで押し返し、ビームライフルを向ける。
しかし撃つことはできない。アスランにとっては、未だに変わらずキラは大切な幼馴染であり、友人なのだ。

「お前は騙されているんだ! 地球軍の奴らは、お前の能力を利用するために!」
「あの人達はそんないい加減なことはしない!」

話は平行線だ。二人は気付いたが、どうにもならない。
お互いに友情が続いていることを確認することはできたが、互いに譲れないものがあると感じたのだ。
アスランは父が治めるザフトのために、キラはアークエンジェルにいる友人のために。片方が討つべきものは、片方が守るべきものなのだ。

『私には養わなければならない、守らなくてはならない部下達がいるからね。
君にも同じく、守るべきものがある。それが違う限り、衝突があるのは当然のことだ!』

キラの脳裏に、バルトフェルドの言葉が蘇る。
そうなのか? アスランと違う立場に立っている限り、アスランと戦うしかないのか?

(こっちは引けない。でもアスランとは戦いたくない! どうすればいいんだ!)

「キラッ!!」
「!?」

キラが葛藤に苛まれていると、アスランの血を吐くような叫びが聞こえて、ギョッとする。
気付いた時にはメインモニターいっぱいにイージスの足の裏が映りこみ、そのまま脚部の力とバーニアの推進力で押し返されてしまう。
イージスに蹴られた!? お互いの位置から後退して離れ合うと、そのイージスとキラの間を、強烈な閃光が通過!

「なんだ!?」
「これは!?」

キラとアスランが、その戦艦の主砲に匹敵するビームの熱量に驚く。
そのビームは嵐のように伸び、低空に伸びたビームは、まるでロウソクに火を灯すように木々を一瞬で炎上させた。
ただの乱射かと思いきや、散開したディンに一撃ずつ正確に撃ち込まれ、ことごとく撃破、破片を森林にばら撒いていく。
ディンの破壊はすさまじく、断面がビームの熱で溶けて、温めたナイフで切ったバターのようになっていた。それを見てキラは戦慄する。
もしあれが直撃すれば、ストライクといえど撃墜は免れなかっただろう。それを思うと、先ほどのアスランの動きの真意に気付く。

(アスランが、僕を助けてくれた?)
「くっ……この砲撃、足付きか!?」

キラはアスランが助けてくれたことに気付き、礼を言いたいが、アスランはそれどころではない。
ストライクを狙ってビームが撃たれたのは初撃のみで、後の砲撃は全てザフト側のMSに放たれている。
イージスにビームが降り注いでおり、それをステップやジャンプで回避しつつ、回避しきれなかったものはシールドで弾く。
やがて近づいてくる、その砲撃の源。キラとアスランはそれを視認して、目を見開いた。

「が、ガンダム!?」
「まだ地球軍にG兵器が!?」

アスランは現れたその機体をイージスのコンピューターに照会させるが、ボギー、すなわち正体不明機と判定した。
しかしキラのストライクのコンピューターはビクトリア基地でアップデートさせたため、そのボギーの正体はすぐに判明した。
CAT-X1、ハイペリオン。

「CAT-X1……? G兵器じゃないのか? ユーラシア連邦のガンダム!?」

大西洋連邦だけじゃなく、ユーラシア連邦も独自のガンダムを開発していた。
それ自体は大して驚くべきことじゃない。大西洋連邦とユーラシア連邦が反目し合っているなら、ユーラシア連邦も対抗して強力な兵器を作ることは容易に想像できるからだ。
問題は、そのパイロットだ。

ムウから聞いた話によると、大西洋連邦はG兵器に適合したパイロットを育成しきることができなかった。
OSが不完全だったこともあるが、MSの開発自体が遅れていたユーラシア連邦が、大西洋連邦よりも先駆けてパイロットを育成できたとは考えにくい。
かといって、ストライクダガーとは全く別物に見えるあの機体に、ストライクダガーのナチュラル用OSを積んでいるとも思えない。
ということは、あのガンダムにインストールされているOSはコーディネイター用のOSをインストールしている可能性が高い。
つまり、パイロットはコーディネイターかもしれない。キラは、パイロットが誰なのか、無性に気になった。

「アスラン、下がって!」

キラは別の結論を思い出し、咄嗟に叫ぶ。
ユーラシア連邦の機体ということは、アスランを攻撃するということ。アスランがやられるのは考えにくいが、あの火力を目の当たりにしたら不安が拭えない。
イージスやストライクを守っている堅牢なフェイズシフト装甲は、ビームの前では無力。特に、地上ではイージスの得意な一撃離脱戦法が使えない。イージスには不利だらけなのだ。

〔馬鹿にするな! お前を置いて下がれるか!〕
「だけど……」
〔く、ククク……〕

アスランとの通信に、別の声が混じる。笑い声? 通信元は、あのガンダム、ハイペリオンのようだ。
その笑い声は、普通じゃない。響きに狂気が混じっている。まるで長い年月をかけて熟成された憎悪が、解放されようとする時のように。

〔ハハハハハ!! やっと……やっと見つけたぞ、キラ・ヤマト!〕
「何? 僕を……!?」

自分の名前が出たことに、キラはぎょっとした。
あのガンダムはユーラシア連邦の機体だ。てっきり、ザフトのアスランの手に渡ったイージスらG兵器を倒しに来たのかと思ったが、自分の名前が出てきたことに不意を突かれた。
一体なんで探しに来たんだ? その問いが間に合わないほどに躊躇の無い動きで、ハイペリオンが手にしているビームマシンガンを向けてくる――

「くっ!」

そのハイペリオンの所作に対し、アスランは一瞬の迷いもない。ビームライフルをハイペリオンに向けて射撃!
射撃される前にカナードは反応し、ステップでビームをかわすと、木々の中に消える。
自分を撃ったハイペリオンの姿が消えた。逃げたわけじゃない。今も森の向こうから殺気がひしひしと伝わってくる。
どこから来るんだ。Νジャマーが濃いせいで、正確な位置が把握できない。キラとアスランは冷や汗を流し、鼻を伝うが、拭う隙も作れない。
木々の木の葉が揺れた。

「そこだっ!」

アスランが木々に向けて撃つ。樹木の隙間をビームが通り抜け、木の葉がまるで突風に吹かれて霧散する雲のように薙ぎ払われる。
残ったのは、自然発火する木々だけ。何も爆発しないまま岩に突き刺さって爆ぜ、ビームは減衰する。
しかし手ごたえは無い。避けた、いや、外された! アスランが舌打ちをした直後。

「!!」

キラは、アスランの死角から飛び出てくる二つの漆黒の影が見えた。
それが何なのか? 一瞬には理解できなかった。だが明らかに、銃口らしきものをアスランに向けている。
敵なのか? 味方なのか? それすらも判断する余裕は、キラにはない。もう既にその黒い機体は射撃体勢に入り、あとはトリガーを引くだけだった。
それだけで、その銃口はアスランを射抜く。フェイズシフト装甲があるから、といってアスランが撃たれるのを見過ごせない。ビームかもしれないのだ。

――アスランを、やらせはしない!!

その真摯な意思だけが、キラの指と目を動かした。
有効な武器は肩部バルカンと、ミサイルランチャー。この一瞬であの黒い機体の攻撃を阻害できるのは肩部バルカンだ。
FCSを咄嗟に切り替え、肩部バルカン、頭部バルカンをアクティブに。その二機を同時にバルカンによる弾丸で乱射する!

「!」

二機は、弾丸の雨を受けて射撃を中止。一機はメインセンサーのカバーを砕かれ、もう一機はライフルを撃ち抜かれて投棄した。
その二機が地面に着地し、黒い姿の正体が判然とする。
赤いラインが入った漆黒のボディに、赤いゴーグル。肩に、銀河を貫く流れ星を抽象的に象ったパーソナルマークが描かれた……ストライクダガー。IFFが、そのストライクダガーを味方と判断している。
その味方を、撃ってしまった。

「き、キラ……お前……」

アスランが狼狽した声を漏らす。味方を故意に撃った、友人のキラ。
相変わらずキラは、アスランを庇うようにストライクダガー二機と対峙している。その背中からは、味方と対峙することに対する躊躇が無いように思える。
一方、ストライクダガーは敵を狙ったはずなのに、味方に妨害されて戸惑っているように見える。一歩後ずさりし、ビームライフルの銃口を彷徨わせたり、盾を構えてみたりしている。

「な、何をしている……!? お前、何をしているのか――」
「アスランは……友達なんだ」

その言葉に迷いはない。
『アスランの敵になった覚えは無い』。その言葉はキラの嘘偽りの無い本心であり、アスランに死んで欲しいと願った時など一秒たりとも無いのだ。
地球軍にいようと、ザフトに行こうと、それだけは揺るがない、キラの意志。

〔くくくく……ハハハハハ!! やっちまったなぁ、キラ・ヤマト!〕
「……!!」

だが、状況は許してはくれない。
カナードの哄笑は、そのキラの罪を糾弾するかのようだ。姿無き声は尚も続く。

〔ザフトを庇って味方を撃つなんてな……やっぱりお前は、ザフトの野郎と通じていやがったんだな! これでお前を倒す大義名分ができたってわけだ〕
「……! 先に撃ってきたのは君だろう!」
〔俺が撃ったのはそっちの赤いヤツだ。射線上にたまたまお前がいただけだぜ? 丸腰みたいだったんで、援護してやっただけの話だ〕

屁理屈だ。銃口は明らかにこちらに向いていたし、あの殺気は本物だった。
でもこの人を論破したところで、この場が収まるようには到底思えない。殺気なんて証拠にならないし、おそらく意図的にロックオンを解除していたんだろう。
彼の両脇に控えているストライクダガーがビームサーベルを抜いた。ハイペリオンは機体が変形して、何かをしようとしている。
新しい武器か? 拘束するための道具を出しているようにも見えるけど、わざわざガンダムに着けるものだろうか? 何にしても、平和的に解決はできなさそうだ。

〔裏切り者、キラ・ヤマト! 反逆罪でこの俺が始末してやる! てめえはもう必要ねえ!〕

憎しみすら篭った叫びと同時、背中の水滴のような流線型の黒いユニットを展開して、こちらに向けてきた。
直後、ロックオン警報!

「えっ? うわぁっ!」

キラが警報に咄嗟に反応して、アスランのイージスとは反対の方向に飛びのく。イージスもストライクに続いて飛びのく。
ほぼ同時に、二人が居た空間を眩い光で埋め尽くしたのは、高出力のビームだ。さっきディンを次々と撃墜したのはこれだったようだ。
こんなビームの直撃を受けるわけにはいかない。なんとかしなければ。でも、こちらはアグニを喪失しているし、アスランのイージスだっている。絶体絶命だ。

〔逃げ回るんじゃねぇ、俺と戦え! エックス2、エックス3! キラ・ヤマトを撃て! ただし撃墜はするなよ……!〕
〔〔はい〕〕

味方に撃たれて狼狽する仕草を見せていたストライクダガーの二機が、突然何事も無かったように冷静に持ち直す。
ビームライフルを持っているほうは、メインセンサーを破壊されながらも正確な射撃でストライクのシールドを削り、ビームライフルを撃たれた方は後ろ腰に備えたバズーカを構えた。

「うっ、くっ!」

ビームライフルを後ろに飛び退いて避け、バズーカの弾頭は木々を盾にしてやり過ごす。
ビームとバズーカの光熱が次々と木々を焼き払い、周囲が火の海に変わる。焦げて形が崩れる木が増え、避けきるのが難しくなる。
だけどあっちが撃ってきたからといって反撃したら、本当に地球軍の、みんなの敵になってしまう。

「くっ!」

追い込まれている。あの二機の黒いストライクダガーの攻撃は正確で、一箇所に追い込んできているのがわかる。
ビームはフェイズシフトでは防げない。だからこそエールストライクはアンチビームコーティングされたシールドを装備しているのだけど、今はほとんど防御手段がない。
懐に飛び込むか。いや、相手は三機だ。一機に飛び込んだところで、別の二機に狙い撃ちにされるだけだ。

「やめろ、お前ら!」

避けるのが苦しくなってきたところに、アスランのイージスが割り込み、シールドでビームを弾く。

「味方のはずのキラを撃つなど、やはり地球軍は……!」
「あ、アスラン!」

迷っていると、通信が入る。アークエンジェルだ。焦り気味のナタルの叱咤の声がキラの耳を打つ。

〔ヤマト少尉、何をしている!? それは味方だぞ!〕
「ナタルさん!? 僕じゃありません! あっちがいきなり撃ってきたんです! ワケの分からないことを言って……」
〔それだけでは状況がわからん! ただちに交戦を中止――〕〔ヤマト少尉、君の部下を率いて帰艦せよ。第二部隊の修理補給が完了した。代わりに出させる〕
「でも……!」
〔これは命令だ。事実はどうあれ、味方機と争う君を前線に放置するわけにはいかない〕
「だから、これは……!」
〔ヤマト少尉〕

キラの反論を、ギリアムの断固とした冷厳な声が遮る。
アスランのことを言えない。ギリアムやナタルを信用していないわけじゃないが、友達を放っておけない、という論理が通じるとは到底思えない。
それも、その友達であるアスランはザフトだ。地球軍軍人の彼らからしてみれば、そのザフトのパイロットが味方機に討たれるのは、歓迎することはあっても止める理由は一つもない。

ギリアムの心境はまた少し違った。ハイペリオンのパイロットがカナード・パルスであることを知っているし、彼がキラを親の仇のように憎んでいるのも知っている。
まず間違いなく、カナードから仕掛けた戦いなのだろう。キラが彼と何があったのかは知らないが、キラを引っ込めなければ状況が変わらないことはよく分かる。
今のキラは、カナードに対処できるような体勢でもない。ならば、リナ率いる第二部隊を展開して牽制しつつ、カナードに警告をしなければならない。
標的のキラでなければ、問答無用で撃ったりはしないだろうが……念の為、第二部隊の連中には包囲した上で、十分警戒した上で対応させるつもりだ。

キラはギリアムが彼なりに対処しようとしていることは知る由もなく、焦りが頭のなかを占めていく。
そのアスランがキラの葛藤を聞いたかのようなタイミングで、再びキラに通信を開く。

〔キラ、ザフトに来い! そうすれば俺がお前を守ってやれる! 俺達が戦う必要もなくなるんだ、キラ!〕

アスランの必死の叫びを、黒いストライクダガーのビームが遮る。
ビームとシールドが激突する音。稲光のような炸裂がイージスのシールドで閃き、イージスの体勢が崩れる。
そしてビームライフルを失った片方の黒いストライクダガーが、ビームサーベルを手にイージスに突撃を仕掛けていく!

〔くぅっ! お前ら……!〕

ガンッ! イージスが膝でストライクダガーの肘を蹴り上げ、横にずらしてやりながら、逆の足を軸に、つま先から発振するビームサーベルで二段蹴りに似たアクションを行う!
しかし黒いストライクダガーはその蹴りに即応し、シールドで受け止める。アンチビームコーティングとビーム刃が激突して、砂鉄が鉄板で擦れるようなスパーク音が鳴り響く。
体勢を崩したイージスに、すかさず別のストライクダガーがビームライフルを向けるが、イージスはその高い推進力を利用して強引に体勢を立て直し、後方へ大きくジャンプしていく。
それを二機の黒いストライクダガーが追撃して、ジャンプ。すぐ後に、何かが爆発する轟音が響いた。

「ア、アスラン!」
〔余所見たぁ余裕だなキラぁ!!〕
「うっ!」

迷っている間にハイペリオンがバーニアを吹かして肉薄、短いビームサーベルを突き出してきた!?
咄嗟に反応してフットペダルを後ろに向かって振り、機体をしゃがませる。
あの最初に戦ったジンの重斬刀の突きをかわしたのと同じようにやり過ごす!

「やめろぉ!!」
〔トロくせぇ!〕

カナードはそれを読んでいたのか。ストライクが放ったカウンターの右拳に対し右に体をスライドさせて回避するハイペリオン。
ハイペリオンはビームナイフの持ち手を逆にし、身体を泳がせているストライクのランドセルに突き立てようと降り下ろした!

「速い……でも!」

キラとて伊達に多くの実戦を重ねてきたわけではない。
微妙な操縦桿捌きで機体がバランスを崩すギリギリまで前傾姿勢になり、スロットルは転倒を恐れず全開。
その拳を突き出した勢いのまま降り下ろされるナイフを掻い潜り、ハイペリオンと位置を交替する。
並のパイロットならば激しく転倒するか、それを恐れて中途半端な姿勢になりビームナイフの餌食になるところだ。

「よしっ……うわぁっ!?」

ハイペリオンを抜けて、安堵の表情を浮かばせかけたが……キラの視界一杯に迫ってくるのは、大木の幹!
激突する! フェイズシフトに守られている表面装甲は衝撃に耐えることができても、内部構造はその質量に耐えることができない。
キラは危険を感じ、素早くフットペダルと操縦桿を同時に操作。スロットルを引いて全閉、腰に伝わるGの微妙な変化に合わせてスロットルを戻す。
その操作は一秒にも満たない早業。駒のようにくるんと機体が反転し、幹に機体の背を向けて激突を回避する。

〔無駄なンだよぉ!〕
「うっ!」

振り返った先では、すでにハイペリオンが銃口を向けている。
撃たれる。引鉄を引こうとしている。銃口と自分の額を、殺意が一直線に結ばれた――
ブシュゥンッ!!

「〔!!〕」

ビームが空気を振動させ、空気中の埃を分子崩壊させて発光する。
しかしそれはストライクに向かって水平に伸びるのではなく、地面に向けて鋭角に放たれた。
地面に突き刺さったビームは地面を白熱させて穿ち、亜光速で粒子が地面に激突したために衝撃波が機体をビリビリと振動させた。

〔このやろう……! 良いところを!〕

そのビームの発射元である機体――上空から降りてくるストライクダガーに水を差され、カナードは歯噛みする。
このタイミングで割って入ってくる奴といえば、大西洋連邦、それもアークエンジェルの艦載機に違いない。
折角、単騎で突出していたキラ・ヤマトを、混戦のどさくさに紛れて葬れるチャンスだというのに!

「ユーラシアの機体! こちら大西洋連邦所属艦、アークエンジェルの搭載部隊だ!
その白い機体は同軍の所属機である! それ以上は誤射と認めないぞ!」

そのストライクダガーは警告を発しながら、逆噴射で着地の衝撃を相殺して降り立つ。
肩に白いラインが塗装された第二部隊の隊長機が二機の間に立つと、シールドでストライクを庇う。
その機体の操縦桿を握るリナは、ハイペリオンの姿を見て手が震えた。

(アレはなんだ!? ガンダム……見たことがないタイプのガンダム!?)

ゲームでも登場しなかったガンダム。なんだかストライクに比べて色んな武器? を背負っているようだけど、砲撃系なんだろうか?
でも上空から見て、機動性はランチャーストライクといえど優るとも劣らないほどだったし、高機動タイプなのかもしれない。
そして機体に識別をかけさせると、ストライクと同様、その正体はすぐに分かった。ハイペリオンという名前らしい。
型式からして、大西洋連邦に対抗して作ったことは容易に想像できる。
あれが味方なら乗ってみたい――もとい心強いんだが、どうも怪しい雰囲気だ。手にしているビームライフルをなかなか下ろしてくれない。
とはいえ、ザフトは現在進行形で攻めてきている。仲間割れしてる場合じゃない。
とにかくこのガンダムにはキラを撃つのを後回しにしてもらわなくてはならない。いや、後でもやられると困るんだけどさ。

「事情は状況が終わってから聞く! とりあえずユーラシアのお前は、再度然るべき命令系統の指示を仰いで――」
「雑魚がオレに指図するんじゃねぇ!」

キラを前にして激昂しているのか、カナードはリナの制止に応じずビームマシンガンの引き金を引く!
一発がストライクダガーのそれに匹敵するビーム弾が連射され、シールドに突き刺さる!

「ちょ、おいおいお!?」

機体が激しく揺さぶられ、シールドの表面温度が急激に上昇。ダメージセンサーがやかましく警報を鳴らしてくる。
やばい。ガンダムタイプに撃たれたら、低コストなストライクダガーなんてあっという間に乙ってしまう。
いくらシールドにアンチビームコーティングが施されているといえど、ビームを照射され続ければコーティングは高熱でその効果を失い、シールドは貫かれる。
もう同じ場所に五発は受けた。あと二発受ければ、確実に……!

「うぐっ……! だからやめろって……!!」
「――やめろぉ!!」

二度目の制止の声は、キラの口から放たれた。
ストライクダガーの横をすり抜け、ストライクが肩部バルカンを乱射しながらハイペリオンに突撃をかける!
その突撃にカナードは、自分の獲物が自ら飛び込んできてくれたことに歓喜し、口の端を吊り上げる。

「莫迦がッ! 取り巻きの雑魚がヤラレそうだからって釣られやがって!」
「いくら味方でも、これ以上勝手なことはさせない!」

カナードが好戦的に吼え、キラがリナを守りたい一心で叫ぶ。
ハイペリオンがビームナイフに手を添え、ストライクがアーマーシュナイダーを抜き放つ。
相手はビームサーベル。こっちは実体剣。こちらの不利は目に見えている。だけど、上手く横をすり抜ければ!
ハイペリオンがビームナイフを居合抜きのように振り上げる。

「っ!」

足元から突き上げてくる殺気。
ダンッ!
とっさに、フットペダルを親の仇のように床まで踏み抜き、操縦桿も同様の素早さで半分引く。
ストライクがややのけぞりながらビームナイフの刃を紙一重で避ける。だが、それはキラ自身の感覚の話だった。
コクピットの前面が激しくスパーク。モニター類が死に、代わりにアフリカの刺すような日光がコクピット内を照らした。
飛散する砂よりも小さいビーム片で、ノーマルスーツに細かい穴が開く。このうちの一片でも大きさが二倍以上あれば、超高熱かつ有害なビームは確実に自身を死に至らしめる。
だが怯まない!

「うおぉ!!」

闘志を露わにして吼え猛り、両手のアーマーシュナイダーを交差させ、X字に斬撃を繰り出す!

〔ぐううぅ!!〕

カナードは思わぬ反撃に反応しきれない。同じくコクピットハッチを切り裂かれ、モニターが全滅し、代わりに日光がコクピットに降り注ぐ。
飛散する装甲や電子部品の破片。カナードは素頭にそれをもろに受け、目を閉じて腕で顔を庇う。ノーマルスーツのヘルメットを煩わしく思っており、外していたのが仇となった。
実体剣のアーマーシュナイダーなのが幸いしたが、もしこれがビームサーベルであったなら、一緒に降り注ぐビーム片を浴びて致命傷を受け、カナードの命は無かっただろう。

それでもカナードには充分なダメージになった。操縦桿から一瞬手を離してしまったせいで、ハイペリオンがよろめく。
そのよろめいて戦意を半ば喪失したカナードの周囲に、ストライクダガーが、二機、三機と降り立ち、両側からハイペリオンを羽交い絞めにした。
ハイペリオンの右側に立っているのは二番機、ライザだ。左側の三番機はエドモンド少尉。

「はんっ! 大西洋連邦に向かって、随分と調子に乗ってくれたなァ、ユーラシアのG兵器よぉっ!」
「このまま連行させてもらう! 後でじっくり事情を聞かせてもらうぞ!」

二機が羽交い締めのままハイペリオンを連行しようと、バーニアを吹かせる。
終わったか、と、キラとリナは安堵の息を漏らす。会ったこともない相手――それもガンダムタイプのMSに因縁をつけられて、危うく誤爆されるところだったのだ。
増して、今はザフトによる大攻撃の真っ最中なのだ。ザフトの相手だけでもいっぱいいっぱいなのに、そのうえ味方と争うなんてやってられない。
ライザとエドモンド少尉がハイペリオンを連行する。ハイペリオンが暴れださないだろうか、と、リナはハイペリオンにビームライフルを向けながら様子を見守る。

「う、くっ……」

そのハイペリオンのコクピット。
カナードはなんとかダメージから立ち直り、頭に降りかかった部品を、ぱっぱと払い落し、眠気を振り払うかのように顔を振る。
まさかハイペリオンに乗った自分が、これほどまでに追い詰められるとは思わなかった。
ハイペリオンの性能の高さは、ザフトとの戦闘によって証明していたし、自分自身の能力に自信を持っていた。
それをキラとストライクによって傷つけられた。この俺が。最強のコーディネイターのこの俺が!

「……してやる……」

怨嗟の声がカナードの口から漏れる。口元が歯噛みによって歪み、操縦桿を握りなおす手には血管が浮いた。

「殺してやる……殺してやるぞ、キラ・ヤマト!!」

引き裂かれた装甲の隙間から見えるストライクを、その装甲越しのキラ・ヤマトの姿を凄絶な表情で睨み据える。
全身を焼き尽くすような殺意。頭の中で、キラをありとあらゆる残虐な方法で殺傷する場面を想像する。
どんな手段を使ってでも、キラ・ヤマトを殺す。もう地球軍だのザフトだのはどうでもいい!
殺意に身を任せ、コンソールのキーを素早く操作。バックパックの二対の砲塔が持ち上がり、前方に展開。

「何っ……? キャノン!?」

そのハイペリオンの動きに対し、リナとキラが警戒する。
しかし、実際には違った。砲塔らしきアームの先端装甲が開き、砲門とは違う三角形のアンテナのようなものを露出させる。

「てめえ、妙な真似するんじゃねえぞ!」
「!? 二人とも! 離れて!」

ライザがそのハイペリオンの動きに、ビームライフルを向けてけん制しようとする。リナは、嫌な予感を感じて、ライザとエドモンドに警告を発する。
しかし、遅かった。
ハイペリオンと二機のストライクダガーの周囲の空間に、多角形の光の格子が編み出される。
その格子に半透明の光の壁が張り合わされる。その光の壁は、まるでシャボン玉のようにゆらゆらと極彩色を放っていた。
見たことがある。
あれは、アルテミスの傘――アルミューレ・リュミエール!

「な、なんだ、こりゃ……」「中尉、これは……!?」

中でライザとエドモンド少尉が、突然空中に展開された謎の光に、戸惑っていた。
大西洋連邦の軍人といえど、ユーラシアお得意のバリアは外から見ればわかるのだろうが、中から見るのは初めてだ。
それに、この大きさのMSがアルミューレ・リュミエールを展開できるなど想像の外だったのだ。

〔いつまでも掴んでんじゃねえ、雑魚がっ!!〕

ハイペリオンが、鬱陶しげに二機を殴り飛ばす!
躊躇していた二人は、ハイペリオンのパワーに踏ん張ることもできずに機体が後ろに下がり、その背は光波防御帯に、押される。
バックパックが、触れた瞬間――


バチィィィンッ!!


「ぎゃああぁぁぁ!!!」「ぐあああぁぁぁ!!!」

何の対処も施されていないストライクダガーの隙間という隙間が電光を迸らせ、炎上し、あちこちで小規模な爆発を起こす!

「ら……」

リナは、見てしまった。
ライザの機体が黒こげになり、白煙を噴き上げ、コクピットのハッチが弾ける瞬間を。糸が切れた人形のように、倒れ伏す機体を。
目を見開く。全身から血の気が引く。脱力する。吐き気すら覚える。

ライザが高電圧に焼かれ、黒焦げになる姿を幻視した。



「ライザあああぁぁぁぁぁ!!!!」

リナの絹を切り裂くような悲鳴が、密林に響く。


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