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No.36981の一覧
[0] 【機動戦士ガンダムSEED】もう一人のSEED【改訂】【オリ主TS転生】[menou](2013/06/27 11:51)
[1] PRELUDE PHASE[menou](2013/03/13 20:07)
[2] PHASE 00 「コズミック・イラ」[menou](2013/03/16 22:26)
[3] PHASE 01 「リナの初陣」 【大幅改訂】[menou](2013/06/27 11:50)
[4] PHASE 02 「ジャンクション」[menou](2013/06/27 17:13)
[5] PHASE 03 「伝説の遺産」[menou](2013/07/21 18:29)
[6] PHASE 04 「崩壊の大地」[menou](2013/07/21 19:14)
[7] PHASE 05 「決意と苦悩」[menou](2013/08/25 16:23)
[8] PHASE 06 「合わさる意志」[menou](2013/08/17 16:11)
[9] PHASE 07 「ターニング・ポイント」[menou](2013/08/29 18:01)
[10] PHASE 08 「つがい鷹」[menou](2013/09/11 10:26)
[11] PHASE 09 「モビル・スーツ」[menou](2013/09/16 14:40)
[12] PHASE 10 「流星群」[menou](2013/09/23 23:47)
[13] PHASE 11 「眠れない夜」[menou](2013/10/01 16:10)
[14] PHASE 12 「智将ハルバートン」[menou](2013/10/06 18:09)
[15] PHASE 13 「大気圏突入」[menou](2013/10/17 22:13)
[16] PHASE 14 「微笑み」[menou](2013/10/22 23:47)
[17] PHASE 15 「少年達の向く先」[menou](2013/10/27 13:50)
[18] PHASE 16 「燃える砂塵」[menou](2013/11/04 22:06)
[19] PHASE 17 「SEED」[menou](2013/11/17 17:21)
[20] PHASE 18 「炎の後で」[menou](2013/12/15 11:40)
[21] PHASE 19 「虎の住処」[menou](2013/12/31 20:04)
[22] PHASE 20 「砂漠の虎」[menou](2014/01/13 03:23)
[23] PHASE 21 「コーディネイト」[menou](2014/01/29 22:23)
[24] PHASE 22 「前門の虎」[menou](2014/02/11 21:19)
[25] PHASE 23 「焦熱回廊」[menou](2014/02/15 14:13)
[26] PHASE 24 「熱砂の邂逅」[menou](2014/03/09 15:59)
[27] PHASE 25 「砂の墓標を踏み」[menou](2014/03/13 20:47)
[28] PHASE 26 「君達の明日のために」[menou](2014/03/29 21:56)
[29] PHASE 27 「ビクトリアに舞い降りる」[menou](2014/04/20 13:25)
[30] PHASE 28 「リナとライザ」[menou](2014/04/27 19:42)
[31] PHASE 29 「ビクトリア攻防戦」[menou](2014/05/05 22:04)
[32] PHASE 30 「駆け抜ける嵐」[menou](2014/05/11 09:12)
[33] PHASE 31 「狂気の刃」[menou](2014/06/01 13:53)
[34] PHASE 32 「二人の青春」[menou](2014/06/14 20:02)
[35] PHASE 33 「目覚め」[menou](2014/06/30 21:43)
[36] PHASE 34 「別離」[menou](2015/04/20 23:49)
[37] PHASE 35 「少女が見た流星」[menou](2015/09/16 14:36)
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[36981] PHASE 30 「駆け抜ける嵐」
Name: menou◆6932945b ID:bead9296 前を表示する / 次を表示する
Date: 2014/05/11 09:12
「はははっ! ナチュラルの基地は脆いな! 面白いように焼けていくぜ!」

ビクトリア湖から基地に侵入した水陸両用MS部隊の一人、グーンのパイロットは、メーザー砲で格納庫を火の海にしながら叫ぶ。
地球軍側も続々と防衛部隊を出しているが、いきなり格納庫をやられてしまったために、MSを出撃させるのが遅れてしまっているのだ。
基地にあがったのは、グーンが六機、ジン・ワスプが二機、ゾノが三機。ストライクダガーが動けるものから防衛出動に出ているが、MSを使い慣れていないパイロットは、熟練度と地力で勝るザフトのMS部隊に押されていた。

戦車やミサイルタンク、対装甲重火器を装備した歩兵も出るが撃破に至らず、苦戦を強いられていた。
そのグーンの背後の兵舎の陰に回りこんできたリニア・ガンタンクが砲門を向けるが、側面から機関銃弾を浴びて鉄くずへと変わる。
グーンの若いパイロットは、それに気づいて、「あ?」と間の抜けた声を漏らして振り返る。
リニア・ガンタンクを撃破したのは、地上制圧のための、ジンの装備である七十六ミリ重突撃銃を手にしたジン・ワスプだった。

「突っ込みすぎだ、キーロフ。相手は戦車といえど、包囲されればグーンの装甲ではひとたまりもないぞ」

落ち着いた冷静な声が、グーンのパイロット、キーロフのスピーカーから響く。そのジン・ワスプの肩には白い二本線がペイントされている。隊長機だ。
だがMSの圧倒的な優位性を、自分の実力と思い込んで酔っている若いキーロフは、そのジン・ワスプの壮年のパイロットの忠告を笑い声で打ち消した。

「へんっ! ナチュラルの基地なんて俺一人で全部やってやるよ!」
「……我々の任務は強襲による陽動であって、制圧ではない。やりすぎると本隊と合流できなくなるぞ。……むっ!」

ジン・ワスプは格納庫の陰から出てきたストライクダガーのビーム射撃を受けて、コクピットに震動が走り、左腕の肘から先を喪失した。
損傷するも、焦らず素早く膝を曲げて姿勢を低くし機銃を撃ち返して反撃する。
しかしストライクダガーは牽制のつもりだったのか、格納庫の陰から出てくることなく、銃弾を浴びせられるやいなや、すぐに格納庫の陰の向こうに姿を消した。
ジン・ワスプのパイロット、マッシュは考えた。キーロフを置いて追撃するのは危険だ。ここで深追いするのは愚の骨頂。自分の任務を忘れて戦功に逸ったら、死は目前だ。

「キーロフ、ドジった。左腕を喪失、任務続行は至難……俺は先に撤退する」

どこからか回り込んでくるかもしれないストライクダガーを気にしながら、キーロフに声をかける。
が、そのキーロフのグーンが見当たらない。何かの倉庫らしい建造物が高熱でひしゃげて――メーザー砲の熱にしては激しい融解だ――煙をあげているのと、瓦礫があちこちに散乱しているのが見えるだけだ。
もう先行してしまったのだろうか? まずい。自分の忠告を無視して行ってしまったのか。
血の気の多い奴のことだ。敵機を見つけてそのまま行ってしまったのだろう。あいつはここが敵の基地だということを忘れているんじゃないだろうか。

「キーロフ! 返事をしろ! お前も引き返せ!」

周囲を見回しながら、もういちど名前を呼ぼうとしたとき。……格納庫や倉庫が並んでいる大通りで、何かが輝いているのが見えた。
緑色に輝く球体? いや、多面体? 角を光のラインが結びあって、その線が織りなす面はうっすらと光の膜を形成している。
あんな戦場で目立つものがあっていいのか? それを凝視していると、その光の多面体の向こうに、MSらしきものが立っているのが見える。
その機体の目の前に転がっているのは、あれはグーンのクローではないか? 出会いがしらに撃破したのか。
そう判断できたときには、手に持っている銃をこちらに向けて撃ってきた!

「くっ!」

ばら撒かれる銃弾、いや、ビーム。速射式のビームガン!? とっさに飛びのいて格納庫の陰に隠れる。
いつの間にか左脚部が撃ち抜かれていて、膝から先が溶解した金属の棒になっていた。あのビームの一部をくらったのか。

「なんて出力だ……これが地球軍のMSか!?」

戦慄の呟きを漏らす。あの速射弾の一発一発がこの出力だとしたら、まともに連射を浴びればあっという間にフライにされてしまう。
格納庫のハッチに背を預け、重突撃銃をその機体に向けてフルオートで撃ち返す。それが当たったのかどうかも確認する余裕がない。とにかく這ってでも撤退しなければ。

「ザックス! マディソン! こちらマッシュだ! B-4格納庫のハッチの前で行動不能になっている! 支援を!」

通信を繋ぎ、今も戦っているであろうグーンのパイロット二人に呼びかける。独力では撤退は難しいゆえの支援要請だ。
しかし、その呼びかけにも何も反応が返ってこない。ふと周囲を見回すと、いつの間にか戦闘の気配が遠のいている。
俺を残して撤退したのか? まさか。俺はこの強襲部隊を率いる隊長だ。よほどの劣勢ならば戦意を喪失して算を乱すだろうが、今は優勢に近いはずだ。少なくとも劣勢に立たされている報告は聞いていない。

「どうした! ザックス、マディソン!  ……くっ!」

しかし何度通信を試みても、返答は返ってこない。
やむを得ない。機体を残してしまうことになるが、脱出せねば。一人ならばどうにかして生き残る自信はある。
素早くハーネスを外してコクピットのハッチ開放キーを押す。拳銃のホルスターは腰のベルトに巻いている。いざとなれば白兵戦で、ナチュラルを倒すことも容易だ。
コクピットの電子表示が消え、ハッチが開いて基地の風景が見えてきた、と、まばゆい光が見える。

「……?」

網膜を焼きそうなほどの閃光。発光弾か? マッシュは疑問に思い、目を細めて腕で庇う。しかしその光が、次第に迫ってくる――




「こいつで潜り込んできた雑魚は終わりだ」

格納庫の陰に座り込んでいたジン・ワスプのコクピットにビームナイフの刃を突き立てると、カナードはナイフを抜き、脚部のラックに収める。

「ククク……クハハハ!!」

カナードは最後の敵機を撃破して、自機の圧倒的な戦闘力に対する高揚を抑えきれず、コクピットで哄笑した。
模擬戦でも抜群の成績を収めたハイぺリオンだが、実戦に出てみれば、その高性能ぶりは笑ってしまうほどだ。
ザフトの雑魚機体など目じゃない! 火力、機動力はもちろん、この光波防御帯「アルミューレ・リュミエール」は、ザフトの攻撃を完全に遮断してくれる!
そこに己の操縦能力が加われば、どんな奴を相手にしたところで負ける気がしない。例えそれが、キラ・ヤマトだとしても!

「キラ・ヤマト……これでお前を葬って、俺が最強になってやる! 俺が最高のコーディネイターだ!」
〔……カナード少尉。侵入したザフト部隊を全機撃破したな?〕

その高揚に水を差してくるのは、ハーキュリー少将の声だ。ギロ、とサブモニターを睨み、吐き捨てる。

「あぁ、あんな雑魚どもなんざ、俺のハイぺリオンにはゴッコにもなりゃしねぇよ」
〔流石だな、カナード少尉。いや、ハイぺリオンのおかげかな? ……引き続き、基地防衛任務にあたりたまえ〕
「……了解、基地を防衛するぜ」

低い声でハーキュリー少将に答えると、鷹のように目じりを吊りあげて、火線が上がる遠くの空を睨み据えた。
あのキラ・ヤマトが乗っているアークエンジェルは、どうやら第一だか第二だかの防衛ラインに向かったようだ。
どこにいる? いや、おおよそ見当がついている。感じるのだ。同じ遺伝子をもつキラ・ヤマトの場所は、直感的に知ることができる。

「おい、エックス2、エックス3!」
「「はい」」

彼の呼びかけに対し、無感情な少女の声が応じる。カナードの所属している、特務部隊Xの部下の少女達だ。
彼女らが乗っている、漆黒の塗装が施されたストライクダガーが二機、ハイぺリオンの左右後ろにつく。

「特務部隊Xは、基地防衛任務にいくぞ。場所はポイントγ、アークエンジェルだ! 俺に続け!」
「「はい」」

カナードの命令に少女達は淡々と答え、粛々と命令を受け入れてハイぺリオンに続いてジャンプする。
炎上する武器庫を鎮火させる消火班は、三機のMSが飛び上がる旋風にあおられて小さな悲鳴をあげ、体を低くした。
明らかに配置を無視した動きに、Xの指揮にあたる中佐が、泡を食って慌てて通信を開く。

〔カナード少尉! 元の配置で防衛にあたれ! 命令違反だぞ!〕
「積極的防衛行動に移る! こちらから仕掛けなきゃジリ貧だぜ!」
〔貴様っ! 特務部隊は――〕

中佐の怒鳴り声を、通信を切ることで遮るカナード。
一度ハイぺリオンに乗ってしまえば、こちらのものだ。それに、こんな近くに己の仇敵であるキラ・ヤマトがいるのだ。激情家のカナードが我慢できるわけがない。
中佐は司令部の作戦画面から、ハイぺリオンとストライクダガー二機がジャンプして遠のいていく背に、切れた通信機に向かって怒鳴っていることしかできない。

「くそっ! カナード少尉め、軍法会議モノだぞ! 近くの部隊は、特務部隊を呼び戻せ!」
「落ち着け、中佐」

それに対し、ハーキュリー少将は余裕のある態度を崩さずに、小じわが目立ち始めた目元を緩める。

「しかし、配置を守らねば、次に強襲部隊が現れた時に対処できません!」
「部隊が一つ抜けたところで、この司令部の鉄壁の防衛網は破れんよ。それに、もう強襲部隊は現れん。私が保証する」
「……例のスパイからの情報ですか」
「そうだ」

ハイぺリオンを大映しにしていた作戦画面はビクトリア基地のマップに変わり、半リアルタイムで敵味方の動きを、受信した情報に照らし合わせて更新していく。
基地司令部から遠のいていく、特務部隊Xと銘打たれた光点が、ポイントγに向かって動いていく。そこにはちょうど、アークエンジェルの光点があった。

「あの白い艦――アークエンジェルだったか?――も、ザフトに目をつけられているだろう。上手く引きつけてくれれば基地の防衛は盤石だ。
……万が一沈められたとしても、あれは大西洋連邦の艦だ。我々ユーラシア連邦には何の痛みもない」

ハーキュリー少将は、近づいていく二つの光点を見ながら楽観視した。



ビクトリア基地の北西に広がる森林地帯は、コズミック・イラに入ってもなお緑深い、貴重な森林地帯だ。
森林があると思えば山があり、山を降りたと思えば谷があり、そしてMSの高さほどもある森林が平地を覆い隠す、起伏の激しい地域。
攻めるに難しく、守るに易い、まさに防衛に適した地形にビクトリア基地が存在するのだ。
だがザフトはその行軍困難な地形を乗り越え、攻めてきた。その数、質は、ビクトリア基地の分厚い防衛ラインを確実に圧迫していく。

「一七MS隊、前進!」
「機甲部隊が前進するぞ、戦車隊続け!」
「榴弾砲! E734、N066地点に射撃! ぇー!!」
「EQ、EQ! こちらポイントγ、九八防衛隊! ザフト軍地上部隊の猛攻を受けている。支援を!」

地球軍のMSが駆ける。戦車隊が木々を押しつぶして進軍する。地面が降り注ぐ砲弾で耕され、MSが踏み固める。
泥にまみれたジンが、木々の間から飛び出して戦車に重斬刀を叩きつけて沈黙させ、七十六ミリ機銃で対MS装備の歩兵を引き裂いていく。

「てめぇぇ!!」
「ナチュラルがあぁぁ!!」

飛び込んできたストライクダガーがビームサーベルを振るってそのジンの胴体を切り裂き、同じ部隊のジンがそのストライクダガーに機銃弾を撃ち込み、胸のラジエーターを貫き、頭部が半分砕ける。
よろけるストライクダガーにディンがミサイルを叩きこんで爆裂四散させたところに、スカイグラスパーが編隊を組んで飛翔し、大口径ビームキャノンで貫く。
ジンがスカイグラスパーに向かって機銃を撃ちあげるも、既にスカイグラスパーの機影は遠ざかっていく。

「くそっ、チョロチョロと!」

そのスカイグラスパーに気を取られているところを、ジンは横合いから出てきたリニア・ガンタンクに横腹を撃ち抜かれ、そのまま倒れこんだ。
そしてまたそのリニア・ガンタンクも、降り注ぐピートリー級の艦砲射撃により地面ごと砕かれる。
撃っては撃たれ、進んでは引く。一進一退の戦況。もし地球軍にMSが無かったならば、ザフト優勢の一方的な展開になっていたであろう。
ストライクダガーのビームライフルとビームサーベルは、ジンやディンなどの量産型MSに対して決定的な打撃を与えることができる武器であるため、ザフトのMS部隊は思い切った攻撃に出ることができないでいた。

「ナチュラルのくせに、こんな小型のビーム兵器を!?」
「これまでのお返しだ、ザフトめ!」

ジンの部隊がストライクダガーの部隊にビームライフルを乱射され、思わず腰を引く。迂闊に飛び込んだストライクダガーが、ジンの腰にビームライフルを直撃させるものの、重粒子砲の反撃を受けて爆散する。
その重粒子砲を撃ったジンのパイロットが喝采をあげるものの、ビームライフルによる集中砲火を受け、ストライクダガーと同じように撃破された。

やや北寄りの防衛ライン、ポイントγの通常戦力はあらかた撃破され、MS部隊も全滅が近い。
虎の子のMS部隊なのだが、今この防衛ラインを圧迫している部隊は、そのMSを次々と撃破していく。その敵MSはすぐそこまで迫っている。指揮車の周りには自走対空ミサイル”ブルドック”と、旧式の戦車が僅かにいて、歩兵部隊がちらほらと場所を固めているにすぎない。
その歩兵たちも、ザフトのMSが自分たちを滅ぼすために今にもやってくるのではないか、と、不安と緊張を隠せないでいた。

「こちらポイントγ! 九七部隊! 増援はまだか! 突破されるぞッ!!」

茂みに隠れた指揮戦闘車の大尉は、押し返すも数が減っていくストライクダガーに肝を冷やし、また通信機に怒鳴り返す。
しかし敵部隊が押し寄せるに従って空間中のΝジャマーが満ちていき、司令部からの通信にノイズが多くなっていって、返信が聞き取れない。

〔……ッ、ジェ……が、……ぼ、う、……せよ……〕
「何!? 天使エンジェルがどうしたって!? 天使様にでも祈れってか!?」
〔……エン、ル――だ!〕

苛立たしげに怒鳴り返す大尉に、司令部のオペレーターがもう一度応える。
オペレーターも大声で話しているのであろう。ノイズの向こうで語気荒く叫んでいるのがわかる。

「……!?」

その声の一つ一つをつなぎ合わせ、完成する単語の意味を知り、大尉は通信機を放ると、操縦手の制止を無視して指揮車の上部ハッチを開いて、周囲を見回す。

「あれが来るのか、いつ!? どこからだ!?」

大尉の叫びに周囲の兵が注目するが、自身は気にしない。
だがそれでも、大尉は司令部が送り込んだという増援の姿を探した。大部隊ではない。それでもアレが来れば戦況は変わる。
この不利な状況にとって、アレはまさしく天使だ。いつ来るんだ。早く来い!

「ッ!?」

突然空を埋め尽くした爆音に、大尉と周りの兵は身をかがめる。ついに敵の砲撃が届いたのか?
しかし自分の体は無事。指揮車も傷一つついていない。恐る恐る空を見上げると……一条の閃光が砲弾を薙ぎ払い、盛大な花火を上げているのが見えた。
続いて、まるで戦闘機の編隊飛行のようにミサイルが飛翔していく光景。長距離ミサイルには見えない。

「来たのか! アークエンジェル!」

大尉の歓喜の声に呼応するように、白い機体が木々をなぎ倒しながら姿を現し、歩兵達もその機体からわあわあと逃げ惑う。
その白い機体は歩兵たちに構うことなく、黄色のデュアルセンサーを空に向けると、両手で抱えている巨大なビーム砲を、空へ発射!
周囲が眩く照らされ、大尉が被っているヘルメットが吹き飛ばされてしまいそうなバックファイアが吹き荒れる。
悠々と飛んでいたディンが二機、そのビーム砲から吐き出された光に巻き込まれて消滅する。

「な、なんて火力だ! これが味方のMSなのか!?」
「た、助かった……!」

周囲の兵が、安堵と歓喜の声を挙げる。
まるで人のような顔をした白いMSは、その声が聞こえたのか歩兵達を見下ろした。大尉は、その白いMSはGAT-X105”ストライク”という名前だったと記憶していた。
宇宙軍第八機動艦隊、強襲特装艦”アークエンジェル”の艦載機。あの火力ならば、ザフトのMSも薙ぎ払えるのではないか? と、大尉は期待する。
そして実際それをやってのけたのだろう。宇宙からはるばるここまで来れたということは。なんという機体とパイロットだ!
大尉は感激し、あのMSのパイロットに礼を言いたい衝動に駆られるまま通信機に手を伸ばした。

「おい、あのMSと通信を繋げ!」
「ま、待って下さい。今回線を……繋ぎました!」

命令に慌ててMSの受信周波数をサーチする。地球軍共通の暗号無線を使用しているため、すぐに指揮車の通信機と周波数が合致する。
大尉はMSを見上げながら、通信機に叫んだ。

「あー、あー。ストライクのパイロット殿、聞こえるか? こちらポイントγの防衛を指揮している、ランド・クルス大尉だ!
貴君の早急かつ強力な支援に感謝する! ……できれば貴君とはゆっくり酒でも酌み交わしたいところだが、状況が状況だ!
前線で私の部下が悲鳴を挙げている。至急援護に向かってくれ!」

やや早口気味なメキシコ出身の大尉の要請に、ストライクのパイロットは「わ、わかりました」と、短く幼い声で答えた。
急いでいる状況だが、その意外な若さの声に大尉――ランドは、思わず顔を顰めた。

「ん? 乗っているのは少年兵か? 名前は――うわっ!」
〔すいません、急ぐので失礼します!〕

少年パイロットは、何かをごまかすように早口で言って、バーニアを吹かしてジャンプして行ってしまう。
その後を、二機のストライクダガーがバーニアを吹かせて降り立つ。
一機は、ジンのキャトゥス無反動砲を背負い、ジンの装甲を増加装甲とばかりに着込んだ現地改修機。
もう一機は、ジンHMの銃剣を真似たのか、ビームライフルの下にビームサーベルを取り付けて改造した妙なMS。
二機とも、クルス大尉の部隊を一瞥して、すぐにジャンプしていってしまう。
ランドは、嵐のようにやってきて、嵐のように去っていく三機に目を丸くしながら、ただ見送ることしかできなかった。

「……ん?」

もう一機、やってきた。そういえばMSの部隊定数は四機だ。やってきた順番から察するに、あれが四番機だろうか?
その四番機は、わき目も振らずに、がちゃんがちゃん、ふらふら、と、でこぼこの足場にフラフラ蛇行しながら追いかけていく。
先にやってきた三機と違い、基本的な装備のみのストライクダガー。トール機だ。

「ま、待って下さいよ、曹長ー! キラー! お前も待てよー!」

コクピットでトールが泣き言を吐きながら必死に追いかけていく。
いかにも新兵の歩き方。なんだかずいぶんと頼りない動きだが、あれも数々の戦いを生き残ってきた兵だ。運は強いのだろう。……そう思うことにした。

「……アークエンジェルの奴らは、茶目っ気のある奴ばかりだな」

ランドは茫然と呟き、近くに立っていた兵士が同じ思いで頷いた。


- - - - - - - - - -


〔助かった、礼を言う!〕
〔こ、こっちだ! 早く来てくれ! うわああぁぁ!!〕
「……っ、わかりました、もう少し持たせて下さい!」

アークエンジェルがポイントγに着いてからは、ザフトの主力部隊が押し寄せているからか、キラ率いる第四部隊と第三部隊は更に援護に奔走する羽目になった。
特に、第三部隊は飛びぬけて秀でたパイロットが居ないため、結果的に、精鋭揃いの第四部隊が多くの敵を引きつけることになる。
隊長であり、ストライクに乗ったキラにかかる負担は激しく、キラ自身とストライクのエネルギーもアグニを撃ち続けることが難しくなっていた。
増え続ける支援要請。強要される、部隊の仲間に気を配った戦い方。初めて部隊指揮を任された重圧。それらがキラの体力を奪っていく。

「はぁ、はぁ、はぁ……っ」
「大丈夫か、キラ・ヤマト」
「は、はい。大丈夫です……それよりも、正面!」
「了解」

近距離通信でキラを労るのは、カマル曹長だ。言葉尻は淡々としているが、そこからは優しさと余裕が感じ取れる。
そのキラの負担を減らそうと、キラの部下である三人もストライクの攻撃をフォローする。
ランチャーストライカーとはいえ、ストライクの機動力はストライクダガーを軽く凌駕する。キラの動きは大振りな傾向があるため、特に護衛行動をするカマルとリジェネには負担がかかった。
それでもカマルとリジェネは不満を漏らすことなく、忠実に護衛行動に徹し続ける。決して派手な動きはせず、近づく敵を攻撃するのみにとどめ、火力の中心はストライクであることを意識し続ける。
さすがにエースの風格は伊達ではなく、大規模な攻防戦の中にあっても冷徹な二人の行動は、キラにとって参考になるものだった。

「くそっ……ぜぇ、ぜぇ……これが、戦争かよ……」

それに対し、トールは初陣の緊張に呑まれてしまい、ただついていくことしかできなかった。
前回のバルトフェルド戦が初陣になる予定だったのだが、謎の浅黒い男とくんづほぐれつ(※表現過剰)するだけに終わってしまった。
大規模な攻防戦が初陣になってしまったことはトールにとっては不幸以外の何物でもなく、三人についていくのがやっとで、ほとんどビームライフルを空撃ちしてるだけだ。

〔それでいい、トール・ケーニヒ。当たらなくとも撃て。射撃は牽制になる〕
〔そういうことだ。君のミッションは弾幕の展開と理解してくれていい〕

カマルとリジェネが、射撃が当たらないことに対して焦っているのを感じて、トールに激励を飛ばす。
はい、と返事をしたかったが、喉が枯れてしまい掠れた音が出ただけだった。
喉が渇いた。早く代わってほしい。もうノーマルスーツの下の手足は汗でぐちょぐちょだ。ヘルメットの中は冷たい汗だらけになっている。

〔トール……大丈夫?〕

気遣わしげな声をかけてくるのは、キラだ。

「余計な心配だぜ、キラ。いいからお前は目の前の敵に専念してろよ!」

そうだ。あの小心者で消極的だったキラが、涼しい顔してこんな大変なことをやっているんだ。
今までキラは自分達の後をついてくるばかりだった。それが、今はすごいことをやってのけている。負けていられない。
トールは負けず嫌いを発揮して、額に流れている汗を拭うことなく声を弾ませて応える。
キラは彼が強がりを言っているのがすぐにわかったが、止められるわけもなく、こくりと頷く。

「わかった。無茶はしないでね」
「するかよ!」

トールの早口を最後に通信を切り、着地するともう一度、バーニアを噴かして大きくジャンプ。
ピートリー級の懐に飛び込むと、主砲にアグニを撃ち込む! 船体の堅牢な装甲をも融解蒸発させる光の奔流が、主砲はおろかメインエンジンすら破壊する。

「しゅ、主砲消滅……だ、第二から第八までの区画が消滅! 主機は……!?」
「し、白い奴が、何を……ぐわああぁぁ!!」

艦橋では、ストライクがそれほどの威力を持ったビームを放ったと知覚することができず、艦長らブリッジクルーは席を立つこともできないまま、ピートリー級と運命を共にした。
ピートリー級がエネルギーラインを導火線にして誘爆するのを見届けることもせず、キラはその甲板を踏み台にしてもう一度ジャンプすると、その爆風に煽られて、更に高く飛び上がる!
その直上を飛び、着地した瞬間を狙撃しようとしていたディンのモニターに、一瞬で迫ってくるストライクが大映しになる。

「何!?」

不意を突かれ、反応できないディンのパイロットが驚愕の叫びを挙げる。
まさか地球軍のMSが、空の王者であるディンと同じ高さに跳んでくるとは思わなかったのだ。

「どいてくれ!」

キラのストライクが、ディンの頭部に膝蹴りをお見舞いする!
ディンの頭部は衝撃と質量に耐えかねて千切れ飛び、更にその勢いのままディンの背中を蹴って更に跳躍!
ディンのパイロットは、その二度目の衝撃に目を剥いて、二度目の驚愕の叫びを挙げた。

「私を踏み台にした!?」

ストライクが更に跳躍したところに、空中で動きの鈍いストライクを狙い撃ちにしようと待ち構えていたディンが居た。
慌ててディンが七十六ミリ機銃の引き金を引くが、左腕でセンサー類をカバーしてフェイズシフト装甲で防御。
アグニを手放し、空いた右手で腰部ラックに仕込まれたアーマーシュナイダーを引き抜くと、人間でいう鎖骨の部分に突き立てる!

「ぐおおぉぉ!!?」
「それでもう戦えないはずだ! 脱出しろ!」

首からコクピット付近までアーマーシュナイダーの刃先が到達し、電気系統がショートして火花が散るディンのコクピット。
パイロットはキラの叫びに咄嗟に従って、ハーネスを外すとコクピットのハッチを開けて飛び降りていく。
しかしキラにはそのパイロットの無事を見届ける余裕はない。ディンと一緒に機体は引力に引かれて落下を始めている。
この間は無防備だ。すぐさまディンからアーマーシュナイダーを引き抜き、周囲を警戒しようと目の前にストライクの目を向ける、と。

「ついに見つけたぞ、ストライクゥ!!」
「なっ!?」

目の前に、ビームサーベルを抜き放っている青いG兵器――デュエルが!?
今しも、そのデュエルはビームサーベルを振るってきている。ビームサーベルはフェイズシフトでは防御できない。
キラは反射的に、無人になったディンを持ち上げて盾にする。
びぢっ!!
ディンの装甲が泡立ち、溶解し、切り裂かれていく。それでもデュエルのビームサーベルの出力では瞬断することはできず、ビームサーベルの刃が届く時間にラグが生じる。

「くそっ!」
「無駄なあがきだ、観念しろ!」

イザークはディンを切り裂くと乱暴に残骸を投げ捨て、バーニアを吹かして再び迫ってくる!
デュエルは宇宙に居る時とは違い、増加装甲を纏っていた。強襲用の追加装備「アサルトシュラウド」だ。
肩にレールガンとミサイルランチャーを追加し、更にフェイズシフトではないものの鎧を纏うことで総合的な防御力が向上するうえ、バーニアも増加しているため推進力も向上している。
そのため、空中での機動力は、ランチャーストライカーパック装備のストライクよりも上だ。

今しも、ビームサーベルが振り下ろされようとしている時に……二機の間を通り抜ける、二つのビーム!

「何っ!?」

イザークは狙撃の危険を感じて、咄嗟に脚部のバーニアを吹かして後退し、ビームが伸びてきた先を見下ろす。
――キラの部隊のストライクダガー、リジェネ機とトール機が、ビームライフルで牽制射撃をしてきている。

「全く……先走るのはカマルだけで十分だ」
「キラ、もうちょっと俺達を待ってくれてもいいだろ。ったく!」
「リジェネさん、トール!」

キラはイザークが足を止めた隙に、機体を引かせる。

「キラ・ヤマト。君は機動力のあるパッケージに換装しろ。上空が手薄だ」

リジェネは戦況を分析し、キラに具申する。
担当正面に配置されている大方の陸上戦艦は沈黙したし、アグニを装備したランチャーユニットはジェネレーターが上がる寸前だろう。

「……わかりました。でも、部隊の指揮は……?」
「僕が一時的に引き継ぐ。カマル曹長は指揮向きの性格ではないしな……早くしろ!」
「は、はい!」

キラはリジェネの具申に、ほぼ反射的に頷く。確かに、もうストライクのエネルギーは七割を切っている。混戦の中でフェイズシフトダウンが起これば危険だ。
機体を巡らせ、アークエンジェルに向かってジャンプする。

「待て、ストライク!」
「嘗めてもらっては困る」

イザークがそれを追撃しようとしてリジェネのストライクダガーが立ち塞がり、ビームライフルを二射する。

「ぐわっ!」

一発は外れたが、別の一発がデュエルのアサルトシュラウドの胸部装甲に直撃! 装甲を薄く貫かれ、激震に見舞われてたまらず着地する。
たたらを踏み、そこへ更にリジェネ機にビームを放たれては飛びのき、イザークもビームライフルで反撃するが、リジェネは機体を屈ませてビームをやり過ごした。
もう一度ストライクの姿をデュアルセンサーで探すが、既にMSの高さほどもある木々に紛れて見えなくなっていた。
レーダーも、電子戦に特化しているわけではないデュエルでは、Νジャマーに阻まれて捉えることができなくなっていた。

「くそっ……あと一息というところで……っ!」

ストライクが、地球軍のMSに足止めされている隙に行ってしまったことに苛立ちを覚え、その矛先を下にいる二機のMSに向ける。
機首を向き直らせ、スロットルを全開! 全速力で二機に向かっていく!

「雑魚ごときが……オレの邪魔をするなァッ!」

急速に迫ってくるデュエルの姿を、レッドは冷静に見据えるが、トールは違った。
初陣で、ストライクに似た高性能機がすごい勢いで迫ってくるのだ。キラの強さを身にしみてよく知っているトールがパニックに陥るのは当然だった。

「う、うわあぁ! 来たぁぁ!」
「ケーニヒ二等兵、下がれ!」

リジェネはトールに怒鳴りつけて前に出て、ビームサーベルを抜き放つ。
しかし、リジェネは不利を自覚していた。
リジェネはストライクの驚異的な出力を目の当たりにしている。それの兄弟機で似通った構造だとするならば、ストライクダガーでは役者不足だ。
それも相手は、ただの普通のパイロットではないようだ。だが、やるしかない。背中には若い少年兵がいるのだから。
デュエルとストライクダガーがビームサーベルで打ち合う! 
互いにアンチビームシールドで受け合い、すさまじい火花と閃光が迸る! 超高熱のビーム片が周囲に飛び散り、近くの樹が炎上した。

「くっ……やはりガンダム相手に、この機体では……!」
「フンッ! その程度の機体でデュエルに敵うとでも思ったか、愚か者め!」

機体の不利を再確認したリジェネの聴覚に、イザークの嘲笑が飛び込む。実際、ビームサーベルは明らかにパワー負けしている。ビームの収束が弱まってきて、ジェネレーターがオーバーヒート気味だ。
しかし飛び退いたり蹴りを入れることもできない。そんなことをすれば、ただでさえパワー負けしているのに、態勢が崩れて切り裂かれてしまうのがオチだ。
こちらのジェネレーターがあがる前に、不利を打開しなければならない。機体を捨てることを覚悟した……その瞬間。

「何ッ!?」

デュエルの目の前に迫ってくる、別のビーム刃! 頭を逸らしてなんとか避けたが、V字アンテナが片方切り落とされた。
ちぃっ、とイザークは舌打ちして飛び退く。割り込んできたのは……ビームライフルからビーム刃を伸ばした、ストライクダガー。

「せつ……カマル曹長か」
「遅れて済まない。援護する」
「いや……助かった。相手はガンダムだが、君と組めばやれる」

カマル曹長にとって、質も量も圧倒的不利な状況は初めてではない。それを知っているリジェネは、カマル曹長の援護を自分の任務と決めた。

「了解」

変わらず愛想の無いマジリフ曹長に、クスッと笑い、ビームサーベルを戻すとキャトゥス無反動砲を手に取る。

「ケーニヒ二等兵、援護しろ!」
「お、俺はどうすれば」
「僕が撃てと言ったら、撃てばいい。難しく考えるな」
「……はいっ」

返事だけはしっかりするトールに、
その三機が構える様子を見ても、イザークは全く物怖じしなかった。
たかがストライクの模造品。しかもパイロットもナチュラルだ。それが三機集まったところで、何を恐れることがあろうか。ただの烏合の衆に過ぎん!
しかし、イザークは、無意識にストライクを自分に投影していた。
ストライクのパイロットは、同じG兵器を四機も相手にして生き残っている。ならば、同じG兵器に乗っている自分にできない道理があろうか?
できないはずはない。ナチュラルにできて、コーディネイターでトップガンの自分が!

「どけ、雑魚共! 俺の狙いはストライクだけだ!」

イザークのデュエルはすべての火器を開くと、一斉発射した!


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