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No.36981の一覧
[0] 【機動戦士ガンダムSEED】もう一人のSEED【改訂】【オリ主TS転生】[menou](2013/06/27 11:51)
[1] PRELUDE PHASE[menou](2013/03/13 20:07)
[2] PHASE 00 「コズミック・イラ」[menou](2013/03/16 22:26)
[3] PHASE 01 「リナの初陣」 【大幅改訂】[menou](2013/06/27 11:50)
[4] PHASE 02 「ジャンクション」[menou](2013/06/27 17:13)
[5] PHASE 03 「伝説の遺産」[menou](2013/07/21 18:29)
[6] PHASE 04 「崩壊の大地」[menou](2013/07/21 19:14)
[7] PHASE 05 「決意と苦悩」[menou](2013/08/25 16:23)
[8] PHASE 06 「合わさる意志」[menou](2013/08/17 16:11)
[9] PHASE 07 「ターニング・ポイント」[menou](2013/08/29 18:01)
[10] PHASE 08 「つがい鷹」[menou](2013/09/11 10:26)
[11] PHASE 09 「モビル・スーツ」[menou](2013/09/16 14:40)
[12] PHASE 10 「流星群」[menou](2013/09/23 23:47)
[13] PHASE 11 「眠れない夜」[menou](2013/10/01 16:10)
[14] PHASE 12 「智将ハルバートン」[menou](2013/10/06 18:09)
[15] PHASE 13 「大気圏突入」[menou](2013/10/17 22:13)
[16] PHASE 14 「微笑み」[menou](2013/10/22 23:47)
[17] PHASE 15 「少年達の向く先」[menou](2013/10/27 13:50)
[18] PHASE 16 「燃える砂塵」[menou](2013/11/04 22:06)
[19] PHASE 17 「SEED」[menou](2013/11/17 17:21)
[20] PHASE 18 「炎の後で」[menou](2013/12/15 11:40)
[21] PHASE 19 「虎の住処」[menou](2013/12/31 20:04)
[22] PHASE 20 「砂漠の虎」[menou](2014/01/13 03:23)
[23] PHASE 21 「コーディネイト」[menou](2014/01/29 22:23)
[24] PHASE 22 「前門の虎」[menou](2014/02/11 21:19)
[25] PHASE 23 「焦熱回廊」[menou](2014/02/15 14:13)
[26] PHASE 24 「熱砂の邂逅」[menou](2014/03/09 15:59)
[27] PHASE 25 「砂の墓標を踏み」[menou](2014/03/13 20:47)
[28] PHASE 26 「君達の明日のために」[menou](2014/03/29 21:56)
[29] PHASE 27 「ビクトリアに舞い降りる」[menou](2014/04/20 13:25)
[30] PHASE 28 「リナとライザ」[menou](2014/04/27 19:42)
[31] PHASE 29 「ビクトリア攻防戦」[menou](2014/05/05 22:04)
[32] PHASE 30 「駆け抜ける嵐」[menou](2014/05/11 09:12)
[33] PHASE 31 「狂気の刃」[menou](2014/06/01 13:53)
[34] PHASE 32 「二人の青春」[menou](2014/06/14 20:02)
[35] PHASE 33 「目覚め」[menou](2014/06/30 21:43)
[36] PHASE 34 「別離」[menou](2015/04/20 23:49)
[37] PHASE 35 「少女が見た流星」[menou](2015/09/16 14:36)
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[36981] PHASE 01 「リナの初陣」 【大幅改訂】
Name: menou◆6932945b ID:bead9296 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/06/27 11:50
すぅ……

   はぁ……

すぅ……

   はぁ……

呼吸の音が耳元で響く。自分の呼吸だ。
身体が熱い。汗がじっとりと身体にまとわりつく。身体をよじりたい。が、動かす隙間は無い。
首を動かす。ごつん。ヘルメットがすぐに頭の横のホールドに当たった。
コクピット内はメビウスの電子兵装が微かな電子音を発しているだけで、静寂そのもの。メビウスは訓練用のものでない限り単座式であり、リナ一人きりだ。
無線封鎖をいいことに音楽を聴く馬鹿もいるが、そんなの集中力が乱れるだけだと思う。それに、ここの世界の音楽はテクノが効き過ぎて好きになれない。

早くシャワーを浴びたい。ベッドに寝転がりたい。そういった欲求を堪えながらも、左右上下に配置された計器と、
目の前のモニターに視線を忙しなく配りながら、刻々と減っていくHUDに表示される数字が0になるのを待つ。

モニターには底抜けに暗い空間と、その間に瞬く星々映っている。
グッとレバーを優しく、卵を転がすように動かすと、星がくるんと時計回りに回った。
偵察ポッドを追加で装備しているためやや旋回速度が遅いが、戦闘中でないならそれくらいでちょうど良い。
星々の間に、針金のように小さなものが見えた。そこに向けて、スロットルを静かに開ける。
身体がシートに押し付けられ、星が後ろに流れていく。近づいてくる針金。それは次第に姿を詳細に現していく。

第七機動艦隊所属護衛艦、ドレイク級「メイソン」

リナの母艦だ。その格納庫のハッチを目指してメビウスの鼻面を向ける。
着艦が近いが、最後までレーダーから目を離せない。着艦する瞬間が、一番狙撃される可能性が高い、らしい。

「カーネル1。こちらシエル機、E-4宙域の偵察任務を完了した。着艦の許可を求む」

カーネル1。メイソンのTACネームだ。
通信機に、湿っぽい息を吐きかけながら声をかける。
ヘルメットに反響する己の声。相変わらず、小生意気そうで幼い、天然の猫撫で声。女子中学生みたいな声だ――リナはそう自己評価していた。

〔こちらカーネル1。シエル機、着艦を許可する〕

帰ってくるのは、冷淡な男の声。偵察任務で疲れたリナとしては、もう少し労いの言葉が欲しいように感じる。
だけどここで愚痴でも漏らそうものなら、無駄に集音性能の高いマイクはその声を拾い上げて隊長殿のゲンコツを唸らせることになる。

「了解。シエル機、着艦シークェンス」

精一杯の皮肉を込めたい衝動を抑えながら事務的に告げてコンソールを操作、HUDに様々な情報を表示させ、スロットルを切り、慣性航行。
機体に響くバーニアの細い音が消えて、レバーを指先よりも細かく動かして調整し、HUDに表示される二つの田の字を正確に重ね合わせて……
母艦との距離計が好きな数字まで下がったとき、スロットルを思い切り引き、逆噴射。今度は四点式のシートベルトが身体に食い込み、急減速。
機体は、乗り場に戻るジェットコースターよりも正確に、滑らかにメイソンの発進口に吸い込まれていく。
モニターにメイソンの内壁が大きく映し出され――ゴンッ、という音と同時に小さな振動。クレーンに機体がホールドされた音だ。機体が完全に静止した。

〔完璧だ、シエル少尉〕

オペレーターの短い賞賛の声を聞いて満足げに口の端を吊り上げ、着艦シークェンスの仕上げ作業をする。
ジェネレーター停止。温度確認。兵装ロック。安全弁チェック。
そういった簡単なチェックをして、スイッチ類を押してコンソールパネルを叩いて手順を終えてから、機体が白い明かりに包まれた格納庫に入るのを待つ。

プシュウッ

コクピット内部の与圧された空気が排出され、頭上のハッチが開放。シートベルトを外すとふわっと身体が浮き上がる。
バーを握って身体を上に持ち上げ、愛機のメビウスから離れていく。

「お疲れさん」
「後、よろしく」

ハッチを飛び出ると、労いの言葉をかけてくる整備員とハイタッチしてすれ違う。
与圧された通路に出るとヘルメットを取る。空調の効いた艦内の空気が心地良い。丸くまとめた長い黒髪が露になり、まとめているヘアゴムを外す。
無重力帯に、ふわっと黒髪が流れた。一つの方向に進んでいれば、そんなに邪魔じゃない。まとめていると髪が痛みそうだったのでイヤだったのだ。
最近考え方が女の子っぽくなっている、という自覚はあるが、考えないことにしていた。

偵察任務の報告のために、自慢の髪が痛んでないか撫でながらサブブリッジの方向に流れていると、

〔艦内各員に達す。手を休め、傾聴せよ。艦長のロクウェルだ〕

艦長の艦内放送が響き、リナも思わず流していた身体を壁に掴まらせて止まる。
艦内放送なんて、発進と停留の時くらいだった。何事か、と、全員固まっていることだろう。近くを通っていたクルーも立ち止まって、スピーカーに視線を向けている。
艦長の重々しい言葉は続く。

〔L3宙域にてザフトの中規模部隊が侵攻を開始したという情報が、周辺宙域の警戒艦隊よりもたらされた。
我々第七機動艦隊はこれを迎撃せんため、L3宙域へと転進する方針と相成った。各員第二種戦闘配置。臨戦態勢をなせ〕

(L3? L3といえば、あそこにあるのはヘリオポリス……
ヘリオポリス!? 連合vsザフトの一ステージ目か!?)

艦内放送の内容は、リナに衝撃を与えた。
あの連合vsザフトの舞台に、ついにたどり着いてしまった。あのキラ・ヤマトが。ムウ・ラ・フラガがいる。
ストライクガンダムが目の前に現れるのか? 少なくともメビウスとは全く違うものだろう。
胸が高鳴ってくる。頭の中がじんわりと痺れてくる。僕は期待している?
あのラスボスでもあるラウ・ル・クルーゼも現れる。メビウスなんてあっという間にやられるかもしれないのに、何故かときめいている。

(どうなるんだ……? ゲームじゃ、少なくとも「リナ・シエル」なんて居なかった。
僕は死ぬから? すぐ死んだ脇役だからいなかったのか? それともボクは異物なのか?)

ぎゅ。薄い胸の上で拳を握る。まだ興奮している。膝が震えているのを自覚する。
様々な溢れてくる感情を抑え、リナは愛機が駐機している格納庫に向かった。



- - - - - - -



コクピット内での緊張の時間は続き、リナの緊張が和らぎ始めたころ、警報が艦内に響き渡った。

〔只今をもって本艦は戦闘宙域に進入した。全艦第一種戦闘配置。MA隊は順次出撃せよ。
MA出撃六十秒後に、本艦は支援砲撃を行う。MAは射線に入らぬよう厳に注意せよ。繰り返す……〕

警報と同時、機の外が急に慌しくなった。ギリギリまで点検していた整備員は機体から離れ、代わりに甲板要員が配置につきはじめる。
このメイソンに搭載されているメビウスはリナの機体を含めて四機。
それがフライト(四機編隊)を組んで飛ぶ。これは古来より変わらない。リナはその中の二番機。
目の前で、たった今三番機のメビウスがアンビリカルケーブルを振り切って、バーニア全開で宇宙へと飛び出していった。
リナのメビウスも少しの震動のあと動き出して、カタパルトに乗せていく。

〔一番機、発進。続いて二番機、発進シークェンスを開始せよ〕
「了解。二番機、発進シークェンスフェイズ2」
〔二番機、発進位置へ〕

発艦シークェンスの手順が進むたび、程よい緊張が全身に浸透していく。
大丈夫。訓練どおりにやればいい。自分にそう言い聞かせながら、モニターや各センサーの数値に目を通す。
メビウスも今日は機嫌が良いようだ。
ジェネレーターがうなりをあげ、バーニアがごうごうと咆哮を挙げている。機体が微振動を起こして、まるで引き絞られた弓のように唸っている。

「四番機、各センサー、推力機器、各種火器、オールグリーン。発進シークェンス・ラストフェイズへ」
〔了解。二番機、発進を許可する〕
「二番機、リナ・シエル、行きます!」

ごうっ!!

メビウスの二つのメインバーニアが、一層激しい火を噴く。リニアカタパルトがメビウスの機体を凄まじい力で外に押し出していく!
すごい勢いでメイソンが後ろに吹っ飛んでいき、身体がシートに押し付けられる。
速度計が一気に音速まで振り切られる。機体全体が何かにぶつかったような音を立て、格納庫無い

(これから実戦……戦うのか!
ゲーセンとは違う。落ちたらコストなんて関係無い……再出撃は無いのか。当たり前だよな)

発進の心地よいGを、小学生のような小さな身体で受けながら、ぼーっとそんなことを考える。
とはいえ思いつめすぎるのもダメだと、士官学校の経験で分かっていた。
教官が言うに、戦場は演習のつもりで、演習は戦場のつもりでいるとちょうど良いらしいのだ。
要は、一発当たったらゲームオーバーになる、ハードなゲームの感覚でいいってことなんだろう。
とはいえ、ハードすぎるきらいはある。何せ乗ってるものがメビウスで、敵はジン。
はっきり言って無謀だ。それがわかっていながらも向かう。文字通りの死地へ向かおうとしている。

リナにとって戦場に向かう時間は死刑執行猶予時間だ。だから、リナはこの時間がとてつもなく短く感じた。
いつまでも着かなければいい――そう思っていても、着くものは着く。向かっているのだから。
モニターに小さく映る戦地。ヘリオポリス。戦闘の光が明滅している。戦闘が始まった。
それがリナにとっては、これから自分の身を焼く炉の灯りに見える。……そう思うのは少々感傷に浸りすぎだろうか。
その戦火の中へと、猛然と飛翔するリナのメビウス。隊長機に追いつき、三番機、四番機も追いついてきてダイヤモンドを組む。

〔揃ったな。各員、編隊を維持しつつヘリオポリスに突入する。
もうすぐザフトのジンと会敵するだろう。一機で相手をしようと思うな、一機に対し四機であたれ!〕
「了解!」

次第にヘリオポリスが近づいてくる。戦火がはっきり見えてきた。
ジンのスラスターの火や曳光弾、メビウスが撃つリニアガンの残光も見える。そして爆発光。あれのうち、いくつがジンの爆発光だろうか……。


〔ヘリオポリスに弾を当てるなよ……連合の基地が中にあるんだ〕



隊長の警告に、別の僚機が疑問の声を挙げる。

〔ヘリオポリスは中立では?〕
〔あそこは中立っていっても連合寄りだ。連合が苦しいこのご時勢、使えるものはなんでも使う。それが戦争ってもんだ。相手が化物っていうなら尚更よ〕
「そうですね。5、4、3……艦隊からの支援砲撃、来ます」

あまり同意したくない隊長の主張には、さらりと返事をして、カウントと同時に支援砲撃の警告を促す。
メビウスに予めインプットされていた射線から機体が外れていることを確認し、モニターを睨む。

後方から、艦隊から放たれるミサイルや艦砲がヘリオポリス周辺宙域に向かっていくつも飛んでいくのが見えた。
あれだけの数の砲火が飛んでいれば、花火大会よりも激しい轟音がするはずだろうが、残念、ここは音が通らない宇宙空間。
まるでミュート設定の映画のように、無音で飛んでいくビーム砲とミサイル。それらが通り過ぎると、いくつかの爆光が見えた。ジンの一機や二機は落とせただろうか?
自分達のためにも、精々いっぱい落としてもらいたいものだ。

〔Nジャマー濃度80%……いよいよだぞ。セーフティ解除!
火器管制モードを戦闘に切り替えておけよ! ……きた!〕
「!!」

HUDに浮かび上がるエネミーマーカー。ぎくりと頭の中に痺れが回った。
ついに始まる。ゲーセンの対戦とは違う別のものが。敵の射程は――

ヴンッ!
「!?」

ジンからの火線! 至近弾が機体に衝撃波を浴びせて、弾丸の飛翔音が聞こえた。咄嗟にレバーを左手前に引いて、その光の矢を回避。
姿勢制御用のスラスターを全開で噴き、メビウスの機首をジンに向ける。もうかなり近い。600m程度か。ジンは他のメビウスと応戦しながらこちらに右側を見せている。
ジンは、この距離なら一足飛びで斬りかかってくる。すぐさま応射しなければいけない。
ガンシーカーをジンの位置に向け、リニアガンのターゲットを正確に合わせようとした時、

――!!

頭の中に閃くものがあった。
あの機体は、ずれる。こちらに意識が向きかけている。一瞬気付くはずだ。
何故か分からないが、そんな気がした。そう、あのパイロットが言ったような気がする。そして、これが気のせいだとは思わない。
その声に従ってジンから向かって僅か正面にターゲットをずらし、リニアガンのトリガーを引く。

タァァンッ!!

雷鳴のような発射音。ジンが一瞬前、射撃に気づき前進して避けようとしたが、それがリニアガンの射線と重なり、横腹にもろに弾丸を受け、大穴を開ける。
全身から冷や汗がにじむ。素早く胸部にターゲットを合わせて、再びトリガーを引く。
発射音と同時に弾頭が発射され、上半身を粉砕、ジンは光の球に閉じ込められていった。

〔やるじゃないか、シエル中尉!〕
「まだ、まだ来ます!」

グンッ! レバーを右奥に倒しながらメビウスをひねらせ、スロットルを開ける。直後、ジンの放った76mm弾が自分の居た位置を貫いていった。
冷や汗がまた流れた。一発でも当たったら死ぬ! メビウスの装甲なんて、ジンの76mm重突撃機銃の前では紙のようなものだ。一発で落ちなくても、そのダメージが動きを鈍らせ、結局は落とされる。
全身が緊張で痺れる。息が乱れる。足が震える。必死にスロットルを開け、何度か姿勢制御スラスターを噴かしてランダム機動を取り、76mm弾をかわしていく。

「くううぅぅ!!」

ギィギィッ! ミシミシッ!
上下左右、あらゆる方向に身体が揺さぶられ、かつ強烈なGによって全身が押しつぶされていく。肺が圧迫され、「はぁっはぁっはぁ!」と呼吸を小刻みに繰り返す。
負荷値をちらりと見てみた。そこには10.6Gと表示されていた。ビービーと警報がやかましく絶え間なく響く。
普通の人間ならブラックアウトかレッドアウトで気絶している数値だ。それでもリナの身体は耐え抜き、意識を保って、生き永らえようと必死にレバーとスロットルを動かしていた。

「なんだ、一機面白いナチュラルがいるぞ……くたばり損ないめ!」

リナに76mm重突撃機銃を連射し続けるザフトのパイロットは、思わぬメビウスの動きに舌を巻く。
だが、あの程度の機動をするナチュラルなら、前にもいなかったわけではない。いつものように仕留めて見せる。そう楽観的に考えていた。
その思考を受信していたからか、リナは焦りと苛立ちを覚えていた。撃たれっぱなしなど、この連合vsザフトの全国大会優勝者にあってはならないんだ!

「はぁっ! はぁっ! はぁっ! この! 調子に乗るなッ!!」
(なんで僕が撃たれる役なんだ! MSに乗ってるからいい気になっていないか!? ジンなんてたかがコスト270じゃないか! 見てろよ!)

メビウスが機首を向けたとき……ジンは既に肉薄していた!
モニターいっぱいにジンの姿が映る。モノアイが不気味に輝いた。手にしているのは重斬刀! 構えからして縦に真っ二つにするつもりか!

「三枚に卸してやるよ、生意気なナチュラルが!」
「このやろおおお!!」

ぐんっ! スロットルを全開! レバーを思い切り左に倒す! メビウスは左に倒れ、同時に凄まじい勢いでジンの懐を通り過ぎていく。互いに背中合わせになった。
通り抜けたはいいものの、あっちのほうが振り返るのが早い。しまった、背中を見せてしまった! 致命的な隙を与えてしまった。
背中に殺気を感じたからか、背筋に冷たいものが流れる。ロックオン警報。撃たれる! 本能のままレバーを押し倒す。メビウスの反応が遅い! だめだ…!

「ひっ!! ……?」

情けない悲鳴を挙げて死を覚悟した直後、そのロックオン警報は消え、いつまでたってもジンの攻撃は無い。
何事か、とレバーを引いてスロットルを若干開けて、メビウスの機首をめぐらせる。ジンの姿が無い?
代わりに、隊長機のマーカーがペイントされたメビウスの姿がそこにあった。

〔シエル中尉、さっきの賛辞は取り消す! ばかやろうが!!
何のための編隊行動だ! 一人で突っ込みすぎだ!〕
「隊長……ジンを?」
〔お前が隙を作ってくれたから、撃ち落とせた。それはいいが、俺が一瞬遅かったらお前は宇宙の藻屑になってたぞ〕

その言葉を聞いて、全身から力が抜ける。頭が冷えていく。はあぁ、と溜息。額に汗をかいている。拭いたいけど、ヘルメットがあるから拭けない。

「助かっ……ん?」

安心したのも束の間。ぴちゃり。僅かに腰を浮かしたとき、股間に温かい液体っぽいものが。安心に緩んでいた表情を、さぁ、と青ざめさせた。
前線の兵士はよく粗相をするらしいが、まさか自分が当事者になるとは思わなかった。誰にも見られていないのに、顔がぽかぽかと火照る。
替えのパンツの心配をしている間にも、再び警報。モニターを見ると、二つの閃光が絡み合い、火線を激しく交わしながらヘリオポリス内部に侵入するのが見えた。
片方は、メビウス・ゼロ。もう片方は……シグーだ。

(メビウス・ゼロ……確か一機しかなかったはず。エンデュミオンの鷹、ムウ・ラ・フラガか!)

メビウス・ゼロは一部の特殊な能力、すなわち優れた空間認識能力を持つパイロットにのみ配備された、名前の通りメビウスの前身である。
その能力を持つパイロットにしか扱えない、有線制御式移動砲台『ガンバレル』を四基搭載している宇宙戦闘機だ。
グリマルディ戦線で三個小隊十五機が投入され、帰還したのがムウ機”のみ”だったらしいので、間違いなくあれはムウ・ラ・フラガだ。

そしてシグーは、シチュエーション的に考えてラウ・ル・クルーゼに違いない。ついに、あの二人が目の前に。
胸の高鳴りが蘇る。頭の中が熱くなって、興奮を自覚する。リナは慌てて隊長に、共にヘリオポリスに入ろうと通信機に怒鳴る。

「隊長! コロニー内部に……隊長!?」

隊長のメビウスが、いつの間にかいなくなっている。モニターの前に流れるのは、メビウスの残骸……まさか!

がんっ!!
「うわあ!!」

機体に衝撃! センサーは、上部に何か乗ったことを知らせてくる。ジンが載ってきた!?
やばい、上から撃たれるか、斬られる。咄嗟の判断で、スロットルを全開!
ジンはバズーカをリナのメビウスに向けようとして急加速され、体勢を僅かに崩す。だが、それだけにとどまった。すぐに改めて銃口を向けて――

「吹っ飛べええええ!!」

スロットルを思いっきり引く! メインバーニア閉鎖、バックスラスター全開!
急加速から急減速をかけられ、さすがのジンも前方に吹っ飛んでしまい……丁度、リニアガンの射線にその腹を見せた。その隙はほんの刹那だったが、リナは即応してトリガーを引く。

タァァァンッ!!

雷鳴。ジンのコクピットを光の矢が撃ち抜いて、モノアイから光が消え、撃たれた勢いのまま止まることなく、宇宙の彼方に流されていった。
すぐにリナは僚機の無事を確認する。フレンドシグナルを確認。……全て応答なし。

「はぁ、はぁ、はぁ……くそ、くそぉっ!」

自分だけが生き残ったのか。隊長も、僚機も落とされた。
メイソンの無事も気になって、振り返ってみるが、何も見えなくなっていた。いつの間にか支援砲火も止んでいる。撃沈されたのか。連合軍の通信回線を開いても、なんら応答が無い。
クルーは、全員絶望的。宇宙空間でMSに艦を撃沈されて生き残る確率は一割を切る。
炸裂系の弾体の直撃を受ければ、艦に大量に積載されている推進剤の引火によって轟沈、爆炎や飛び散る破片によって、クルーは無残に引き裂かれ焼き焦がされる。
運よく脱出したとしても、艦が水没することは無いが、真空かつ無重力の海に放り出されれば、漂流者を発見するのは至難の業だ。


母艦を撃沈した敵の部隊はどうなった? 他の艦に向かったのか? 援護に行くか、と思って機体のチェックをするけれども、センサー類が半分は死んでるし、ジェネレーターも出力が三十%低下している。
さっき乗られたことで受けた過負荷と、無茶な操縦の影響だろう。自己診断の画面は赤と緑で彩られていた。
リニアガンの残弾も二発。とてもじゃないが、他の味方を支援に行ける状況じゃない。絶望が胸中を締め付け、胸がムカムカしてくる。
あっという間に全ての仲間を失った。こんなこと、ゲームじゃあありえない。
ゲームなら撃墜されたら、笑いながら「くそー、負けた!」って言ってこっちを悔しそうに見ながら近づいてくる。「またやろうぜ」と次にやる約束もできる。
だけど隊長は、僚機は落とされて、もう居ない。永久に。次に会う約束もできない。彼らは人生をこの何もない宇宙で閉じたのだ。考えるだけで悲しくてたまらなかった。

「……そうだ、キラ……キラを!」

頭に浮かんだ、ガンダムSEEDの主人公、キラ・ヤマトの名前。
確かゲームのオープニングでは、ハイスクールの学生と言っていたが…彼はきっとストライクに乗る。
彼なら、この状況を打開してくれるだろう。
実に他力本願だが、今のリナにはそれに頼る以外にどうすることもできなかった。心も追い詰められていた。
しかしこの閉鎖されたコロニーに、どうやって入るのか? いや、ムウとクルーゼは入れたはずなのだ。なら、そこから入れる!

「あのゲート、だったな」

ヘリオポリスの工業用のゲート。そこに向かって慎重に機首を向ける。
姿勢制御用のスラスターの一部が死んでいて、妙にピーキーになっている。あらぬ方向に吹っ飛ばされないように注意しながら、メビウスをヘリオポリスの工業用ゲートの向こう側に滑り込ませていった。


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