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No.36981の一覧
[0] 【機動戦士ガンダムSEED】もう一人のSEED【改訂】【オリ主TS転生】[menou](2013/06/27 11:51)
[1] PRELUDE PHASE[menou](2013/03/13 20:07)
[2] PHASE 00 「コズミック・イラ」[menou](2013/03/16 22:26)
[3] PHASE 01 「リナの初陣」 【大幅改訂】[menou](2013/06/27 11:50)
[4] PHASE 02 「ジャンクション」[menou](2013/06/27 17:13)
[5] PHASE 03 「伝説の遺産」[menou](2013/07/21 18:29)
[6] PHASE 04 「崩壊の大地」[menou](2013/07/21 19:14)
[7] PHASE 05 「決意と苦悩」[menou](2013/08/25 16:23)
[8] PHASE 06 「合わさる意志」[menou](2013/08/17 16:11)
[9] PHASE 07 「ターニング・ポイント」[menou](2013/08/29 18:01)
[10] PHASE 08 「つがい鷹」[menou](2013/09/11 10:26)
[11] PHASE 09 「モビル・スーツ」[menou](2013/09/16 14:40)
[12] PHASE 10 「流星群」[menou](2013/09/23 23:47)
[13] PHASE 11 「眠れない夜」[menou](2013/10/01 16:10)
[14] PHASE 12 「智将ハルバートン」[menou](2013/10/06 18:09)
[15] PHASE 13 「大気圏突入」[menou](2013/10/17 22:13)
[16] PHASE 14 「微笑み」[menou](2013/10/22 23:47)
[17] PHASE 15 「少年達の向く先」[menou](2013/10/27 13:50)
[18] PHASE 16 「燃える砂塵」[menou](2013/11/04 22:06)
[19] PHASE 17 「SEED」[menou](2013/11/17 17:21)
[20] PHASE 18 「炎の後で」[menou](2013/12/15 11:40)
[21] PHASE 19 「虎の住処」[menou](2013/12/31 20:04)
[22] PHASE 20 「砂漠の虎」[menou](2014/01/13 03:23)
[23] PHASE 21 「コーディネイト」[menou](2014/01/29 22:23)
[24] PHASE 22 「前門の虎」[menou](2014/02/11 21:19)
[25] PHASE 23 「焦熱回廊」[menou](2014/02/15 14:13)
[26] PHASE 24 「熱砂の邂逅」[menou](2014/03/09 15:59)
[27] PHASE 25 「砂の墓標を踏み」[menou](2014/03/13 20:47)
[28] PHASE 26 「君達の明日のために」[menou](2014/03/29 21:56)
[29] PHASE 27 「ビクトリアに舞い降りる」[menou](2014/04/20 13:25)
[30] PHASE 28 「リナとライザ」[menou](2014/04/27 19:42)
[31] PHASE 29 「ビクトリア攻防戦」[menou](2014/05/05 22:04)
[32] PHASE 30 「駆け抜ける嵐」[menou](2014/05/11 09:12)
[33] PHASE 31 「狂気の刃」[menou](2014/06/01 13:53)
[34] PHASE 32 「二人の青春」[menou](2014/06/14 20:02)
[35] PHASE 33 「目覚め」[menou](2014/06/30 21:43)
[36] PHASE 34 「別離」[menou](2015/04/20 23:49)
[37] PHASE 35 「少女が見た流星」[menou](2015/09/16 14:36)
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[36981] PHASE 21 「コーディネイト」
Name: menou◆6932945b ID:bead9296 前を表示する / 次を表示する
Date: 2014/01/29 22:23
「なんで私がこんな鬱陶しい服を着なきゃいけないんだ!」

カガリがフリルのドレスを揺らしながら、アイシャに精一杯抗議している。
鬱陶しい格好とは言うが、お嬢様育ちであるはずのカガリはヒラヒラした服は着慣れているはずなのに。
普段からあんな色気のない……じゃない、活動的な格好をしているのだろうか。そういう問題じゃないのだろうけど。
が、当のアイシャにはそよ風程度にしか感じないのか、最初と変わらない涼やかな笑顔を返してるだけ。

「だって貴女達の服は洗濯中ですもの」

と言って取り合わない。そりゃあ、元の服がすぐに返ってくるとは思っていなかったけれど、こんな非日常的な服でどうしろと。
とはいえ、今から別の服に着替えさせてもらうこともできなさそうだ。ここが敵地だということを忘れちゃいけない。
……シャワールームで色々とあったけど、それは忘れておこう。うぅ、なんであんなことをしてしまったんだろう。
後から入ったカガリにバレないか、かなりドキドキしてしまった。ていうか初めてやってしまった。
何であんなことをやってしまったんだろう……うぅ、死にたい。

「い、いたた……」
「もうっ、あんなこと言わないでよね。……ボク達だって、好きでこんな格好してるんじゃないんだから」
「ご、ごめん」

とりあえず恥ずかしがるのはここまでにしておいて、ソファーに倒れたキラを助け起こす。
キラの顔には靴の裏の跡がくっきり残ってる。ちょっと強く入れすぎたかな。
アイシャは二人を連れてくるためだけに部屋に来たようで、三人が戯れてる間に退室していた。

「そうだ。なんで人にこんな扮装をさせたりする? お前、本当に砂漠の虎か? それとも、これも毎度のお遊びの一つなのか?」

アイシャに抗議するのをひとまず置いといて、カガリがバルトフェルドに対して反発する。
毎度。まるで何度もやっているのを知っているという言い方に、バルトフェルドは片眉を上げた。

「そのドレスは僕のものでもアイシャのものでもないが――毎度のお遊びとは?」
「変装してお忍びで街へ出かけてみたり、住民を逃がして街だけ焼いてみたりってことだよ!」

ちょ、何言ってんのさ。そんな事言ったらバレバレじゃん。捕まりたいの?
リナはカガリの発言を封じてそう言いたかったけれど、自分もバルトフェルドに銃を向けてたのがばれてるかもしれないので、人のこと言えない。
というかバルトフェルドのものでもアイシャのものでもなかったら、一体誰のドレスなんだこれは。
リナとキラは揃って顔を強張らせ、カガリを目で非難するが、カガリは挑戦的な眼差しでバルトフェルドを睨んでいる。
バルトフェルドは、その闘志に燃えた真っ直ぐな眼差しに、口の端を吊り上げる。

「いい目だねえ。まっすぐで――実にいい目だ」
「ふざけるなっ!!」

バンッ! カガリがテーブルを殴りつける。その衝撃でコーヒーカップが倒れ、コーヒーがテーブルに流し出された。
それに対しバルトフェルドは驚く様子も気分を害する様子も無く、ただ冷徹な視線をカガリに向けていた。
リナは止めようかどうか迷ったが、この状態のカガリを無理に止めようとしたらどうなるか……火に油を注ぐ行為になりかねない。
カガリは着替えの時も服の中から武器は出てこなかったし、素手で立ち向かっても殺されることはないだろうけど。

(そういえばボクの拳銃はキラが投げたんだった……)

あの時キラが拳銃を投げて紛失してしまわなかったら、敵対勢力の人間だとバレていただろう。
なにせ持っていたのは地球軍の制式拳銃。それを着替えの時に見られたら、無事では済まなかったに違いない。まさに不幸中の幸いである。
そして腕時計も返された。通信装置も兼ねているから、これも取られずに済んでよかった。
ただ、助けを呼ぼうにも、通信はできない状態だ。ここで通信をしたら、敵に傍受して下さいと言ってるようなものだ。

「――君も死んだ方がマシなクチかね?」

鋭く細められたバルトフェルドの目を見ると、ますますそう思う。
アロハシャツを着てるくせに、放たれる闘気は百戦錬磨の軍人のものだ。キラと同じくらいしか実戦経験を持たない自分とは、格が違う。
その気勢に、三人ともが身を竦める。「返事如何では敵だ」――目がそう言っている。
急にバルトフェルドが、キラとリナに視線を向けた。

「少年少女は、どう思っているのかね?」
「え……?」「……それは」

急に振られても。……本音が他にあるだけに、キラとリナは困り顔で見合った。
二人の反応は予想していたようで、バルトフェルドは構わず続けた。

「どうしたらこの戦争は終わると思う?――”モビルスーツのパイロットとしては”」
「!!?」
「お前――どうしてそれを!?」

リナも、カガリと一瞬同じ事を考えて――バレるはずがない、と思った。
いくらなんでも、バレるには手がかりが少なすぎる。そう思って頭が冷却した、が。

「それはまあ、彼女が居るからねぇ」
「彼女?」

リナが疑問符を浮かべた後、バルトフェルドはリナの方に目を向けた。その視線を受けて、ぎくりと心臓が跳ねる。
ばかな。ボクを見破ることこそ無理なはず。自分で言うのもなんだけど、10歳児っぽい見た目でMSに乗ってるなんて誰が想像する?
一笑に付そうと、少々引きつった笑みを浮かべたリナだが、突然ドアが開く。

「バルトフェルド……話はまだ続いてる?」
「おいおい、もう種明かしかい」

バルトフェルドが、入ってきた少女を苦笑しながら出迎える。その顔を見て、三人が三人とも、驚きに顔を強張らせた。
漆黒のゴシック調のドレス。ボンネットドレスに……臙脂色のリボンで黒髪を飾ったもう一人のリナが、入ってきたのだ。
黒いフリルと臙脂色のリボンをふわふわと揺らし、リナとは違う、眠たげに翳った緑色の瞳を三人に向けて、にこり、と静かに微笑んだ。

「「リナ(さん)!?」」
「は……? ――!! お、前っ」

キラとカガリは、リナと全く同じ顔の少女が入ってきたことに驚き、リナは一瞬呆けてから、この少女が誰かを思い出した。
フィフス・ライナー。アークエンジェルに乗り込んできた、リナにそっくりのザフトパイロット……!
その顔を見て、あの時の屈辱が蘇る。相手は両手を縛られてる状態だったのに、一撃も加えることができなかった。
不気味な笑顔も思い出し、脂汗が浮かんだ。自分と同じ顔をしているというだけでも不気味なのに、さらに同じ服装でやってきた。
こうしていると、本当にドッペルゲンガーのようだ。何かの悪い冗談じゃないのか?

「キラ君……カガリ。ご機嫌いかが?」
「君は……なんで僕を?」

キラの誰何に、フィフスはただ笑みを深める。

「それはもう……私は『バルトフェルド隊長』のお友達だもの。君たちの事ならお任せ、だよ?
『地球軍の白いG兵器』のパイロット、キラ・ヤマト君。地球軍のMSパイロット、リナ・シエル」

全身から、血の気が引いていくのを感じた。キラとカガリの息を呑む音が聞こえた。自分も出したかもしれない。
こんなところで正体がバレた。いや、かなり前からバレていたのか? もしかしたらフィフスがバラしたのか。
何にしても、逃げないと。いつからバレていたのか分からないけど、早くこの場を立ち去らないといけないことには変わりない。
三人の緊張を読み取ってか、バルトフェルドが笑みを零す。

「そう力むな、少年少女達。今君たちをどうこうするつもりは無い。本当さ。
もしどうにかするつもりだったら、ここに来た時点でやっている。……君たちの事は、あのカフェで出会った時から知っていたからね」
「やっぱりそうか。おかしいと思ったんだ! 私達を散々おちょくって!」

カガリがまたも爆発する。確かに言い分は全く同意なんだけど、君、今の立場考えてるのかな……!
しかしバルトフェルドはそれに取り合わず、顔から笑みを消して真摯な表情に引き締める。

「さて、本題に入ろう。――私はこの戦争が始まってから、常々思っていたことなのだがね……。
良い機会だ。地球軍である君たちからも意見を聞きたいね。キラ・ヤマト君には、特に」
「僕に……?」

キラがバルトフェルドの言葉に訝しむ。ストライクのパイロットだからか。いくら優れているパイロットだからって、地球軍の代表というわけでもないのに。

「この戦争のことさ。戦争には制限時間も得点もない。スポーツやゲームみたいにはね。そうだろう?」

何を言い出すんだ、と、三人は怪訝に思ったが、黙って続きを促す。

「なら、どうやって勝ち負けを決める? どこで終わりにすればいい? 敵である全ての者を滅ぼせば――かね?」

バルトフェルドが、拳銃を抜いて三人に銃口を向ける。
三人の身体が更に強張った。例え話かもしれないが、返答次第では撃つつもりかもしれない。
リナはそれでも、生来の負けず嫌いを発揮して、口元に笑みを浮かべて挑戦的に言い返した。

「ふん。そんな話をボク達が――」

リナは、軍人の考えることじゃない――そう一笑に付そうとしたら、ぐい、と細い腰を掴まれた。
フィフスだ。いつの間にか、息が触れ合うようなくらい近くに来ていた。振り返ると、艶やかに目を細めた顔が近づいている。
ふんわりとした頬。幼いながらも筋の通った小さな鼻。大きな緑の瞳。端整な顔立ち。
他人の顔として見ると、これはこれで可愛い気がするんだけど……同じ顔だから気持ち悪いことには変わりない。
ひ。リナの顔が引きつるが、彼女はひどく穏やかな表情を浮かべている。

「答えて――ボク達にも、すごく関係のある話だよ?」
「何……?」

ボク達にも? そりゃあ、戦争のことなんだから地球軍とザフトには関係あることなんだろうけど、フィフスの言葉には別の意味が入っている気がする。
その意味はおそらく、ボクとフィフス個人の問題。だがそれだけではないような……。
目で、どういうこと、と訴えかけるも、しっとりとした笑顔を返すだけで何も答えてはくれない。

キラも、その問いに対する答えを探していた。
どこで終わりにする? キラは、ヘリオポリスが襲われてからここに至るまでを思い出していた。
中立のコロニーがザフトに襲われ、民間人は帰る家をなくし、あるいは命をなくした。
自分達もザフトに追われ、撃ち合い、殺し合った。自分は今と戦うために軍属になり、友達も軍属になった。
皆が戦争に参加していく。そしていつか死ぬかもしれない。敵も死んでいくだろう。皆が死んだら戦争が終わる? そんなことは――

「……よく、わかりません。僕は、今を生きなきゃいけないから……戦っているだけです」
「今を生きる、ね。そのために他人の人生を奪ってもいいんだな?」
「…………僕だって死にたくないし、友達を守りたい、って思うから」

なるほど、と、バルトフェルドは頷く。
バルトフェルドとて、自分の問いが愚問であることは知っている。軍人が最も考えてはいけないことなのだ、これは。
だがザフトは正規軍というよりも義勇軍であり、ザフトに入隊する前は皆なんらかの職業に就いていた。事実、バルトフェルドもザフトの前は広告会社を経営していた。
恒久和平が実現し、ザフトが無くなったとしても路頭を迷うことはない――だからそんな暢気な考えも出てくるわけだが、もっと哲学的、深遠の問題でもある。
しかしキラのような少年から、その解が出てくるとは期待していなかったので、バルトフェルドは肩を竦めた。

「純粋な敵愾心で戦っているよりは、理性的だね。――地球軍の生粋の軍人である、リナ君からも答えを聞きたいな」
「えっ……?」

そしてバルトフェルドの矛先は、リナに向けられる。
リナも答えに窮した。「今の戦争」が終わる。それは理想的でもあると思う。少なくとも死にそうな目に遭わずに済む。
そりゃあ軍縮が始まって職業にあぶれると割りと困る。バルトフェルドやキラとは違って職業軍人をやっているのだし、軍人家系のシエル家には死活問題だ。
だからこの解を出すということは、自己否定すると同じこと。ということは――

「……皆、戦う以外の仕事を見つければ戦争はなくなるんじゃないかな」
「……何?」

リナの答えに、バルトフェルドは意表を突かれてしまった。

「『命を奪うよりも経済的に利用したほうが得だ』と相手に思わせるようになったら、一応大きな戦争は無くなると思うけど。
ボクが思うに、今の戦争がいわゆるナチュラルとコーディネイター間の『民族間戦争』になってるから終わらないんだ。
だったら目的を『外交戦争』あるいは『利権戦争』になるようにしたら、どちらかの目的が達せられたら、大勢の人が死ぬ戦争は終わる……ボクはそう思う」
「今の戦争がその二つのうちのどれかだとしたら、どうするんだね?」

試すような口調のバルトフェルドの言葉に、リナは肩を竦めた。

「だったら、もうボク達の考えることじゃない。この戦争はどっちかが死滅する前に、必ず終わる。後は政治家にお任せするしかないね……。
ボクとキラ君はコーディネイター憎きで戦ってるわけじゃないことは、覚えておいてほしいな。
もっとドライで――戦ってるのは、あくまで君たちが『敵軍』だから戦っている。ただそれだけだよ」

それを聞いて、ふ、とバルトフェルドは苦笑した。

「なるほど。下手に理想や感情を追求するよりも、現実味があって好感が持てる。銃口を向ける相手に対して冷静に対応する度胸も、いい。
……君も、飛び掛りたいのをよく我慢していたね」

リナに向けていた視線を、キラに向ける。キラはいつでも身体をかわせるように身構えたままだが、結局は何もしなかった。
頭の中では、どうやって逃げるか、とか、考えていたが、身体能力が比較的低いカガリは、自分のようには動けない。
キラが暴れれば、カガリが危ないだろう。だから結局流れに身を任せることしかできなかったのだ。

「たとえ君が、我々同胞よりも優れた能力を持っていたとしても、戦士である我々には肉弾戦では厳しい――そうだろう? コーディネイターのキラ・ヤマト君」
「! お前……!?」

キラは自分がコーディネイターであることを気付かれて、動揺する。カガリはキラがコーディネイターだと知って、目をむいた。
その眼差しはコーディネイターに対する憎悪ではなく、なんで教えてくれなかったのか、という非難だったことが、キラにとっての救いか。
しかしキラにも事情がある。できれば知られたくはなかった。裏切り者、と謗られることが。決して覚悟していなかったわけじゃないが、どうしても避けたかった。

「何で分かったのか――そう言いたげな目だな。我々は君の戦いを遠くから見ていたからね。敵ながら天晴れな戦いぶりだった。
特に戦闘中に機体のプログラムの書き換えなど、我々コーディネイターでもかなり難しい。いや、不可能といっていい。
フィフス君の報告が無くても、君がコーディネイター。それもかなり特別な存在だと気付くのは容易だったよ」

つまり、実際にストライクの戦闘を見られたこと、ブルーコスモスの襲撃、フィフスの報告の三つの情報でバルトフェルドは確信したということだ。
追い詰められたキラは、フィフスに思わず非難の視線を向ける。その視線を受けたフィフスは、にっこりと笑顔を返した。

(くっ……)

その笑顔――いや、顔の造形そのものに、キラはたじろぐ。
自分のパートナーと(心の中で)決めたリナと同じ容姿の彼女。それに対して強く睨むことができない。
もともとキラは――最近は軟弱さが抜けてきたものの――女性に対して弱い。それも、身内に対しては特に。
キラはフィフスの笑顔を睨み続けることができず、視線を逸らしてしまう。誤魔化すようにバルトフェルドに視線を向け直し、フィフスは小さく笑みをこぼした。
バルトフェルドは銃を収めることをせず、言葉を続けた。

「君達がなぜ、同胞と敵対することを選んだのかはわからんが……
あれらのモビルスーツのパイロットである以上、敵同士というわけだな」

ん? 君『達』?
リナはバルトフェルドの言葉に違和感を感じたが、バルトフェルドは断固たる眼差しで言葉を挟む余地を与えない。
その眼差しには、冷厳な意志がこめられていた。三人は再び身構える。
やはりこの男は敵なのだ。フランクな口調で喋ってはいるが、歩み寄る余地はどこにもない。

「やっぱり、どちらかが滅びなくてはならんのかねぇ……?」

彼の眼差しが、どこか物悲しげに曇った。それを感じて、リナはふと違和感を感じた。
バルトフェルドの人となりについては、よくは知らない。当然だ。
事前知識でいうなら、ゲームの中では彼に関するストーリーが事細やかに説明されるわけでもなく、
ただ彼の台詞回しから彼の性格をなんとなく想像することしかできなかったからだ。
そして実際に会ってみてからの感想は、飄々としたトボケたおっさん、としか思えなかった。
いや、砂漠の虎として名を上げているのだから、ただのトボケたおっさんではなく優れた指揮官であるに違いないのだが。実際そう思っていたし、間違いないだろう。

だが、今の彼はこの戦争に対して悲しみを――少なくとも何か思うところがあるように思える。
そういうキャラだったのだろうか? 確かに2年後にはキラ達の仲間になっていたみたいだけど。
リナがバルトフェルドの一挙手一投足に注意を向けていると、唐突に彼が拳銃を下ろした。

「ま、今日の君達は命の恩人だし、良いものも見せてもらったし……ここは戦場ではない」

良いものってなんだろう。北宋か?

「……帰りたまえ。今日は話ができて楽しかった。よかったかは、わからんがね」

バルトフェルドはフィフスに視線で「外まで送れ」と指示を送る。
確かに……良くはなかった気がする。楽しかったかというのも、否。こちらは敵地のど真ん中で楽しいはずもなく。

「さ、ついてきて……ボクが案内してあげるよ♪」

フィフスは妙に上機嫌だ。こいつとはあまり関わりたくはないけれど――今は彼女が関所手形だ。従うしかない。
黙ってついていこうとすると、キラが立ち止まって、何? と見上げると、キラはバルトフェルドを見ていた。
ど、どうしたの。早く彼の気が変わらないうちに立ち去らないと……

「また戦場でな」

その言葉にキラが立ち止まる。

「……」
「どうした、少年。まだ話し足りないかね?」
「お、おい」

バルトフェルドは、早く立ち去れ、と言いたげだけど、特に気分を害することもなくキラを促した。
カガリも焦ってキラを制止するが、視線はバルトフェルドに向いたまま。
キラは少し躊躇った後、かみ締めるように、ゆっくりと言葉を吐き出した。

「できれば……会いたくはないです」
「……僕もだよ。が、会うことになるだろう。さっきも言っただろう? 敵同士だから、だ」

バルトフェルドは目を細めて、改めて三人を見送る。
リナはそのやりとりをヒヤヒヤしながら見守ってたせいで、扉が閉まった頃には、はぁー、と大きな吐息をついた。
どうしたんですか? とあっけらかんと聞いてくるキラに、きっ、と軽く睨み返す。

「もうっ! 大人しく帰りたかったのに、心臓に悪いことしないでよ」
「そうだぞ! 相手の気が変わって、帰れなくなったらどうするつもりだったんだ!」

リナとカガリ、白黒二人でキラに詰め寄って攻撃すると、キラはさすがに慌てた。

「ごめん。でも、どうしても言いたくなって……。だって敵同士になるんだから、言える機会は、この先無いんじゃないかって心配で……」
「敵相手に、どういう心配してるのさ。
……はあ。キラ君にそういうこと言っても無駄だってわかってるけどね。相手がまだ理解ある人だからよかったよ」

それにキラの戦争に対する思いが聞けたのは、色々と参考になったかな。
ボクももう少しキラと話し合わないと。折角、キラやトールの管理を任されたのだから。
そういえば、いつもより歩きづらいような……あ。

「……って、ボク達の服置きっぱなしじゃない。この服も返さないと……」
「いいよ、リナちゃん。それは元々プレゼントするつもりだったし、二人にあげる」

フィフスが笑顔で太っ腹な発言。お前のかよ! どおりでサイズが合うわけだ!
ていうかプレゼントするつもりだったって、予め会えることを予想していたのか?

「そんなこと言われても、こんなヒラヒラして分かりにくい服、きっと着ることないぞ」

いかにも活動的な服装を好みそうなカガリが、スカートを飾るフリルをつまんだ。
……髪も整えられてるし、何気に薄く化粧が施されていて似合うんだけど、喋りだすと台無しになるタイプだ。
もうちょっと可愛く話せるようになったら女子力がアップするんだけど、そうなったカガリもなんかおかしい気がする。キラが肉食系になった時くらい想像できない。
キラの夢の内容なんて知る由も無いリナは、唐突にキラを引き合いに出すのであった。

「そう? ……まあ、いつかは役に立つだろうし、取っておいてよ。今のカガリちゃん、とっても可愛いから。
おめかししたいとき、これ着たらいいと思うよ? ふふ」

おーい。カガリにもちゃんづけ? 何様なのさ。
でもカガリはまんざらでもなさそうに表情を緩めてる。可愛いという褒め言葉が嬉しかったみたいだ。

「そ、そうか。なら……借りておこう。うん」

おいぃぃぃ!! 何キラをチラチラ見ちゃってんのぉぉぉぉ!!? もうキラ見たよね! もう一度着たって無効だからね!?
「あ、あの時の……着てきてくれたんだ」「お、お前に見せるためなんだぞ。可愛いって言ってくれたから」「カガリ……」「キラ……」
この妄想は詳細には描写しないからな。絶対しないからな。
うおおぉぉ、今のうちに○しておくか!? いや、でも多分後で役に立つから、地味な方法でいったほうがいいのか……ぶつぶつ。

「……リナちゃんは可愛いねぇ」
「は!?」

フィフスが、百面相してるリナを生暖かい視線で見つめていた。
彼女の表情をどれかに例えるなら、彼とのデートのために一人ファッションショーをしている娘を見てしまった母親というところか。
なんでそんな見守る目なんだ。なんて気に入らないヤツだ。戦場でもできれば会いたくない。そう思う。


- - - - - - - - -


「ぷっ……ははははっ! 何の冗談だよ、フィフス」

リナとフィフスが、揃って同じ格好でバルトフェルドの館から出てくるのを、MSのコクピットから見ていたマカリは、笑い声を抑えきれなかった。
あのリナが、まさかあんなものを進んで着るはずがないから、フィフスが――手法は不明だが――何とかして着させたのだろう。
リナの歩きにくそうにしているのと、恥ずかしそうに周囲を何度も見回しているのをズームアップして見ると、また笑いがこみ上げてくる。

「はしゃぎ過ぎだ、お前。二着欲しがるから、洗い替えかと思ったぞ」

ゴシック調のドレスは、このバラディーヤに来てからマカリがフィフスに買い与えたものだ。
突然欲しがるから何かと思ったら……いや、まさかとは思っていたが、リナに着せるとは。
あんなに戦闘にしか興味が無かったフィフスが、完全に遊んでいる。よっぽどリナに会えて嬉しかったのか。
フィフスの顔をズームアップすると、そんな挙動不審なリナを楽しげに見つめて、たまに少女らしく笑っている。
あんなに無邪気に笑うフィフスは今まで見たことがない。あの顔を見られただけでも、大枚はたいた甲斐はあった。

「……間違っても、お前達で殺し合うなんてしてくれるなよ。フィフス」

嬉しそうな反面、まだフィフスとリナは敵同士という立場にある事実を思い出し、笑顔が消える。
フィフスはリナを意図して殺すなんてことは無いだろうが、戦場では何が起きてもおかしくはない。
あの二人の手が、残酷な偶然によって、互いの血で濡れないことを祈るしかない。

「そうなるかどうかは、フィフス、お前の頑張り次第だ」

少し突き放した言い方で、呟いてみる。
所詮自分は、リナとフィフスの間には入れない。自分がリナを説得するなんて、途中で笑い出さない自信がない。
自分は機会を作る手助けをするだけ。裏方に徹するのみだ。だが、黒子だって全く舞台に姿を見せないわけではない。

「俺は、あの少年にでも迫ってみるかな?」

何故か鼻先を赤く腫らしている少年に、ズームアップする。
リナと彼がどういう関係なのかは分からないが、二人の関係の深さ如何では、彼に接触してみるのも悪い手ではあるまい。
将を射んと欲すれば先ず馬を射よ。仲の良い人間を味方に引き込めば、リナを説得するのも容易になるはず。
だが彼と接触しようとすると、またアークエンジェルに潜入しなければならない。それはあまりに危険だ。下手を打てば捕虜にされてしまう。

「生身は勘弁して欲しいね。化け物の巣窟なんだから……」

とてもじゃないが、彼やリナ、フィフスのような超人達に生身で挑む勇気は無い。
戦闘せず、平和的な話し合いで解決すべきだろう。もとより、それ以外の説得方法が見当たらない。
話し合いは自分の最も苦手な分野だが、やむを得ない。なんとか年上というアドバンテージを活かして、余裕をもって……。

「……胃が痛くなってきたぞ」

こんな落ち込む気持ちにさせられたのは、”あの時”以来だ。
会話での駆け引きは苦手なんだが、覚悟を決めた以上、やらなければならない。
我が愛する女性のために。


- - - - - - - - -


フィフスに案内されて――というか守られて、ホテルを無事出ることができた。
相変わらず歩哨やMSが立っているが――ジン・オーカーのコクピットのハッチが開いて、無人になってる――、特別警戒されているという風もなく、少し安心できるところに出られた。
フィフスにも別れを告げ、三人で歩き出したところで――リナはフィフスに肩を掴まれた。
顔が、近い。その目は細められて、どこか楽しそうだ。ビクビクとリナは内心怯えながら、唾を飲む。

「な、何……」
「……腕は上がった? リナちゃん」
「は……?」

何を言い出すんだ、こいつは。堂々と本人から直接偵察か?
だけど弱みは見せたくない。本当はバクゥを一機倒すのも大変だけど、大きめに出てやる。

「ふ、ふん。腕は上がってるよ。少なくとも、バクゥなんてメじゃないね」
「そ♪ よかった……じゃあ、頑張ってね? 死なないで……また会えるの、楽しみにしてるから」

しかも、嬉しそうだ。意味が分からない。敵の腕が上がったことで何のメリットがあろうか。しかも生きてまた会おうなんて、矛盾してる。
リナの答えに満足したのか、フィフスは肩から手を離し、ばいばい、と手を振った。
彼女はただ三人の背中に小さく手を振って見送る。リナはキラとカガリに駆け足で追いついて……。

「あ、そうだ。通信機……」

ようやく思い出して、腕時計型の通信機を立ち上げる。ここまで離れれば、傍受はされないだろう。
同時、電子音が鳴った。アークエンジェルからの通信だ。つけたと同時に鳴るなんて、何回コールしてたんだろう? コール音を止めて、応答する。

「キャッチしました。シエル大尉です」
『ようやく繋がりました。ナタル・バジルール中尉であります。ご無事ですか?』
「ああ、三人とも無事だよ。少しトラブルがあって、通信できる状態じゃなかったんだ。これよりアークエンジェルに帰還する」
『了解であります。こちらは既に買い付けも終わり、後は補給作業を残すのみです。……即時お戻り下さい。緊急事態が発生しました』

ナタルの声色に、緊張が篭る。どうしたのだ。三人で顔を見合わせる。
アークエンジェルの位置は、バラディーヤからそう離れていない。もしかして攻撃を受けたのか?
バルトフェルドは自分たちと話していたから、攻撃する暇は無いように思えたけれど。
緊張しながらも、ナタルに先を促す。

「緊急事態? 明確な説明を求む」
『…………ヴィクトリア基地です。ザフト軍の大攻勢が、近日開始されるという情報があり……アークエンジェルにも支援要請が来ました』


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