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No.36981の一覧
[0] 【機動戦士ガンダムSEED】もう一人のSEED【改訂】【オリ主TS転生】[menou](2013/06/27 11:51)
[1] PRELUDE PHASE[menou](2013/03/13 20:07)
[2] PHASE 00 「コズミック・イラ」[menou](2013/03/16 22:26)
[3] PHASE 01 「リナの初陣」 【大幅改訂】[menou](2013/06/27 11:50)
[4] PHASE 02 「ジャンクション」[menou](2013/06/27 17:13)
[5] PHASE 03 「伝説の遺産」[menou](2013/07/21 18:29)
[6] PHASE 04 「崩壊の大地」[menou](2013/07/21 19:14)
[7] PHASE 05 「決意と苦悩」[menou](2013/08/25 16:23)
[8] PHASE 06 「合わさる意志」[menou](2013/08/17 16:11)
[9] PHASE 07 「ターニング・ポイント」[menou](2013/08/29 18:01)
[10] PHASE 08 「つがい鷹」[menou](2013/09/11 10:26)
[11] PHASE 09 「モビル・スーツ」[menou](2013/09/16 14:40)
[12] PHASE 10 「流星群」[menou](2013/09/23 23:47)
[13] PHASE 11 「眠れない夜」[menou](2013/10/01 16:10)
[14] PHASE 12 「智将ハルバートン」[menou](2013/10/06 18:09)
[15] PHASE 13 「大気圏突入」[menou](2013/10/17 22:13)
[16] PHASE 14 「微笑み」[menou](2013/10/22 23:47)
[17] PHASE 15 「少年達の向く先」[menou](2013/10/27 13:50)
[18] PHASE 16 「燃える砂塵」[menou](2013/11/04 22:06)
[19] PHASE 17 「SEED」[menou](2013/11/17 17:21)
[20] PHASE 18 「炎の後で」[menou](2013/12/15 11:40)
[21] PHASE 19 「虎の住処」[menou](2013/12/31 20:04)
[22] PHASE 20 「砂漠の虎」[menou](2014/01/13 03:23)
[23] PHASE 21 「コーディネイト」[menou](2014/01/29 22:23)
[24] PHASE 22 「前門の虎」[menou](2014/02/11 21:19)
[25] PHASE 23 「焦熱回廊」[menou](2014/02/15 14:13)
[26] PHASE 24 「熱砂の邂逅」[menou](2014/03/09 15:59)
[27] PHASE 25 「砂の墓標を踏み」[menou](2014/03/13 20:47)
[28] PHASE 26 「君達の明日のために」[menou](2014/03/29 21:56)
[29] PHASE 27 「ビクトリアに舞い降りる」[menou](2014/04/20 13:25)
[30] PHASE 28 「リナとライザ」[menou](2014/04/27 19:42)
[31] PHASE 29 「ビクトリア攻防戦」[menou](2014/05/05 22:04)
[32] PHASE 30 「駆け抜ける嵐」[menou](2014/05/11 09:12)
[33] PHASE 31 「狂気の刃」[menou](2014/06/01 13:53)
[34] PHASE 32 「二人の青春」[menou](2014/06/14 20:02)
[35] PHASE 33 「目覚め」[menou](2014/06/30 21:43)
[36] PHASE 34 「別離」[menou](2015/04/20 23:49)
[37] PHASE 35 「少女が見た流星」[menou](2015/09/16 14:36)
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[36981] PHASE 20 「砂漠の虎」
Name: menou◆6932945b ID:bead9296 前を表示する / 次を表示する
Date: 2014/01/13 03:23
「これで吹っ飛べ、コーディネイターども!」

ブルーコスモスの男が構えたのは、対人ロケットランチャー。あれを撃たれたら、ザフト兵だけじゃなく自分達まで爆風に巻き込まれる。
ロケットの発射を阻止しようと、その男の脳天に照準を合わせた瞬間――頭の中に声が響く。

(別に吹っ飛ばしてもらえばいいんじゃないか? 相手はザフトだし、手間が省ける……
自分と、キラとカガリくらいならなんとかできる。なら、吹っ飛ばしてもらった後に撃っても――)

引き金を引く指に、力が篭らない。汗が、こめかみを伝う。撃つべきはどいつだ?
ザフト、ブルーコスモス。砂漠の虎。アンドリュー・バルトフェルド……こいつは間違いなく、今の時点で、敵だ。
優先順位を考えろ。お前は今、地球連合軍の軍人なんだ。ブルーコスモスは確かに危険だ。でも、今自分達を襲ってきているわけじゃない。
タッシルが襲われた。自分も殺されそうになった。自分が本当に倒したいのはどっちだ……?

「リナさん!?」

キラが、リナが何をしようとしていたか気付いた。
いつの間にか、その銃口は、目の前で部下を指示しているバルトフェルドのこめかみに向けられていた。
部下のザフト兵も、テーブルの陰にいるリナが、バルトフェルドに銃口を向けていることに気付いていない。
今彼が銃殺されても、ブルーコスモスが放った流れ弾と誤認してくれるだろう。絶好の暗殺タイミングだった。

それに気付かず――目の前にいるのが砂漠の虎、アンドリュー・バルトフェルドと知らないキラは、リナの銃口の向ける先に気付いて目をむいた。
彼女は自分がしていることがわかっているのか? この銃撃戦で錯乱したのか、と勘ぐった。
例え砂漠の虎だとわかったとしても、関係のない一般人の安全を無視してでも敵を討とうとするリナの行為を、許容しようとはしなかっただろうが。

「くっ……!」
「あっ!?」

キラはリナの手から拳銃をひったくると、ロクに使い方のわからない拳銃を構えることをせず、そのままロケットランチャーを構えている男に投げつける!
まるで吸い込まれるように、拳銃がその男に直撃! 短い悲鳴を挙げて、身体を傾がせた。直後、ロケットランチャーの引き金が引かれる。
何をする、とリナがキラに叫ぼうとした、直前。
砲手が姿勢を崩したせいで、弾頭ははるか上に向かって発射。しゅっ、と細い音を立てて天井に吸い込まれ――炸裂!

「ぐぅっ!?」
「あぁっ……!!」
「うわっぷ!?」

四人が頭を庇って、咄嗟に倒れていないテーブルの下に潜り込む。店内の食器やらビンやらが飛び散り、逃げ遅れた一般客がまた悲鳴を挙げた。
砂混じりの熱風が背中を叩き、長い黒髪が持っていかれそうなほどにすさまじい風圧が襲った。
何か炸裂音が響いて、破片が飛散するけどそちらに視線を向ける余裕がない。すぐ近くにソースのボトルが落ちた音がしたが、ガラスが割れる音に紛れる。

「――ッ!!?」

続いて飛散した何かが、後頭部を直撃。目の前がチカチカと星が散って、一瞬真っ暗に。
がくんと頭を垂れて、頭全体が熱くなっていく。たんこぶができたかもしれない。
痛い、痛すぎる! 頭がくらくらする。ぎゅっと閉じた瞼から涙が滲んでくる。こんなに痛かったのは幼女時代の体罰以来だ。

「~~~~~……!」
「大丈夫ですか!?」

キラの悲鳴に近い声が聞こえる。大丈夫じゃない! けど、いつまでも痛がってたらそれはそれで情けない。
なんとか涙を拭って、大丈夫、と言おうとした瞬間。

ぶぎゅ。
「あっ?」

リナの安否を確かめようと、キラが歩み寄ると……何かゴムっぽい弾力の物体を踏んでしまった。
なんだ? と、視線をおろす前に。

びゅるびゅるっ
「ふあああっ!?」

なにやら卑猥な水音と同時、目の前で涙目で顔を赤くしてる彼女、リナの可憐で無垢な顔に、
ぼたぼたっ、と重たい水音を立てながら、白く濁った、粘っこい液体が飛んだ。
小さく筋の通った鼻に、くりっとした丸い目に、少し厚い唇に、柔らかそうな張りのある頬に、艶のある黒髪に。
白く濁ったナニカが吐き出される。栗の花の匂い……は、しなかったが。

「な、なにこれぇ……? 顔に……」
「うっ……」

キラの顔が、赤やら青やらいろんな色に染まった。
屈んだリナの顔は、中腰のキラの股間の高さ。そしてリナの紅潮した顔に吐き出された白濁。
しかも、リナは顔にかかった液体を指ですくって、あむって舐めてる。その動きがまた、まるで指が舌のように艶かしく動いていて色っぽい。
狙ってるのか、狙っているのだろうか。しかも赤く顔を染めて、瞳を潤わせて。ちゅぱ、と唇を鳴らした。
そこまで狙った動きをすると、指を抜いたときにちろっと見えた舌の赤みですら、男の本能を刺激させられる。

「ひぃっ」

キラはらしくもなく、喉の奥から小さく声を漏らして腰を引いた。
不可抗力だ。今の粘っこい白濁にまみれたリナの顔を見れば、想起するものが何かなど容易に理解できる。
ましてキラは思春期。そういうものに興味が盛んな時期の少年には少々刺激が強すぎ、リナの外見年齢を考えると背徳に過ぎた。
腰に熱が集まってくるのを感じて、へっぴり腰になってしまい動けなくなってしまう。ついでに膝も小刻みに震えっぱなしだ。

「キ、ラ君……? どうしたの?」
「わああああっ! な、なんでもないです……!」

リナが白く汚れた顔を近づける。近い。リナの髪から石鹸の匂いがする。しかも乳の匂いが混じってて、かなり危ない。
キラは慌ててリナから身を引いた。気付くと既に銃撃戦は終わっていて、一般人に扮したザフト兵が、ブルーコスモスの尖兵の生死確認をしている。
ふぅ、と、誰ともなく安堵の吐息が漏れる。

「お前、銃の使い方もわからないのか!? 馬鹿!」

カガリがキラに掴み掛かってくる。さっきの拳銃の投擲のことだろう。
その眼には心配の色も浮かんでいるが、キラはその真意を読み取る余裕はなかった。
そのカガリも、何故かヨーグルトソースだけを被って、端整な顔立ちの鼻や頬を白濁で汚している。チリソースは迷子になりました。

(うっ!)

二人の少女と幼女。顔を白濁で汚して、一人は顔を艶やかに緩ませ、一人は掴みかかってくる。
キラの豊かな想像力が――いやさ妄想力が、カガリとリナを脳内で汚しまくっていた。それにしてもこのキラ、ノリノリである。
その掴み掛かってくる勢いに逆らうことができず、ふらふらと腰を引いた姿勢のまま後退り。
しかも喉から出てくる声はどうしても弱く、震えている。

「あ、あ、やめて……」
「それに、なんだ今のへっぴり腰は……怖かったのか? それとも、腹に銃弾を食ったのか!? 見せてみろ!」

キラのその常ならざる態度に、カガリは余計に心配に表情を曇らせて、横になれ、なんて言ってくる。
もし今姿勢を正したら――生理現象を見られてしまう。ああ、やめて。とっくに僕のライフはゼロよ。
スーパーコーディネイターのキラといえど、その生理現象をいきなり引っ込めることなど不可能だ。
ましてその姿勢。もともと人に優しすぎる彼に、心配してくれるカガリを突き返すことなどできはせず、そのまま横にされてしまった。

「おい、なんで腕を下に突き出すんだ? そんなんじゃ脱がせないだろ」
「うぅっ……ぼ、僕は大丈夫だよ。何も怪我はしてないから」

咄嗟に股間を隠すキラに、カガリはその腕をひっぺがそうとする。
しかし今度はしっかり腕を固定するキラ。なおも反抗するキラに、カガリの顔に徐々に怪訝の色が浮かんできた。
いいから見せろ、怪我は我慢するもんじゃない、と、カガリは譲らない。
もう隠すのも限界だ。彼女もムキになってきたのか、その引き剥がす腕の力も強くなってきた。
キラはいよいよ観念するときなのか、と、妙に悟りモードに入ってしまう。のちの賢者モードである。

(なんで……僕達は、こんなところに来てしまったんだろう……)

色々とフライング気味だが、それくらい思春期には重大なことなのだ。
だんだんとその腕がカガリによって引き剥がされる直前――

「無事かい、少年少女達!?」

バルトフェルドの声によって、三人が我に返って振り向いた。
そういえば、と、リナは自分の迂闊さを呪う。相手がその砂漠の虎、アンドリュー・バルトフェルドなら、ここは既に虎の縄張りの中なのだ。
ボーッとしている場合じゃない。なんでこうなったのか……後頭部を強打して思考が巧く働かなかったと思いたい。
そんなリナのシリアスな思考をよそに、バルトフェルドの緊迫した表情は、三人の様子に半眼になって、なんともいえぬ複雑な表情になっていく。

「……無事な、ようだね……なによりだ」

その声には、心配して損した、というのと、安堵の音も含まれている。
顔を真っ赤にして股間を隠して横になっているキラ。それをひっぺがそうと躍起になっている、ヨーグルトソースで顔を汚しているカガリ。
極めつけは、艶っぽい表情に緩んでいる顔を、これまた同じくヨーグルトソースで汚しているリナ。
一体どういう経緯があってこういう状況になったのか理解しがたいが、まずはキラに生暖かい視線を送った。

「あんな状況で……最近の若者は、風紀が乱れてるねえ。若いってのは羨ましいよ」
「ち、違います! ヨーグルトソースが……勝手に……!」

ムキになって否定するキラ。はっはっは、と笑っていなしたバルトフェルドに、ザフト兵の一人がバルトフェルドに駆け寄った。

「隊長! ご無事ですか!」
「うむ、彼が『たまたま落ちてた銃を投げてくれた』おかげでね」

その含みのある言い方に、リナは目を見開く。
リナの視線に、バルトフェルドは一瞬、獰猛な笑みを返す。背筋を、ぞくり、と痺れが走った。

――まさか、銃を向けていたのを気付いていた!? 

もし気付いていたのであれば、あの状況下で銃を向けるリナの境遇は容易に想像できるだろう。
幼い外見、そして現地民族ではないリナの人種。まさか軍人とは思わないだろうが、ブルーコスモスの関係者くらいには想像しているのかもしれない。
駆け寄ってきたザフト兵に、こう命じるのではないか? ――彼女を無力化し、捕縛せよ。と。

「それにしても君達、ひどい有様だね……もしよければ、僕に恩返しをさせてくれないかな?」

リナが身体を強張らせていると、気付いたときには、バルトフェルドの表情から獰猛さは消え、最初に出会った時のように飄々とした表情に変わっていた。
声も同じく、ノリの軽いオッサンのような口調に戻っている。それに安心したのか、キラが表情を緩めた。

「い、いえ、そこまでしていただかなくても――」
「まあまあ遠慮するな少年! これは僕からのお願いでもある。
僕を助けると思って、命の恩人に恩返しをする機会をくれたまえ。なあに、大して時間は取らせないよ」

相変わらず押しが強い。後ろのバルトフェルドの部下達も、また始まったよ、という顔をしている。
この辺りの人懐っこい性格は演技ではないのだろう。さっきのブルーコスモスを返り討ちにした張本人とはまるで別人のようだ。

「それに君は、こんな可愛らしいお連れの女性達を汚れたままにしておくつもりかい?
僕の家で身体を洗っていくぐらい、甘えてもらってもいいと思うんだがね」
「あ……」

キラが、リナとカガリの惨状を省みて言葉に詰まる。確かに、彼の好意を断って、二人ともこのままにしておくのは気が引ける。
……別の意味で目に余る状況なので、正視はできないが。

「……くっ」

一方リナは、一刻も早くこの街を出ないといけない、と焦っていた。
召集時間が近い。のんきに洗濯して身体を洗ってをしていると、確実に間に合わない。
それにさっき、銃を向けたのを見られてしまったかもしれないのだ。彼についていくのは、腹をすかせた虎の檻に入るようなもの。
だけど、断っても危険だ。ここは虎の巣であり、彼の言葉が法になる。断れる道理など無い。
それに、自分に銃口を向けた相手を逃がす軍人など、どの世界にもいないからだ。

「……わかりました。お世話になります」
「うむ、人間素直が一番だ! こちらも気持ちよく君達をエスコートできる。
では行こうかね。――車を用意してくれたまえ」
「ハッ!」

リナが不承不承頷いたことに快活に笑顔を返したバルトフェルドは、手近に居た部下に車を回すよう命じる。
程なく回ってくる車をボーッと待っていると、カガリの歯軋りの音が隣から聞こえてくる。

「アンドリュー・バルトフェルド……!」

彼女の歯の間から聞こえてくる声に、リナはこれから向かう虎の寝床で起きる災難を、予感せずにはいられなかった。


- - - - - - -


バルトフェルドが接収したという豪華ホテルにやってくると、リナは身をこわばらせた。
ホテルの豪華ぶりに、ではない。リナの実家のシエル家だって、二十人以上は暮らせそうな立派な豪邸だ。緊張の原因は他にある。
その原因――多くの警備兵が、入り口といわず、ベランダ、屋上、庭にも立っている。
そのうえ、橙と土色で彩られたMS――ジン・オーカーすら立たせている徹底振りだ。完全に臨戦態勢である。
そのうちの一機が、じっとメインカメラをこちらに向けているのだから心臓に悪い。手にしている機銃を向けてこないのが救いか。

「遠慮することはない! さあ、入りたまえ」

竦んで立ち止まるバルトフェルドに、三人は押されるようにして入っていく。できれば全力で遠慮したいところだけど、肩から上にかかったヨーグルトソースが気持ち悪い。
赤毛のザフト兵――ダコスタが駆け寄ってきた。びくっ、と身体を震わせたのはキラでもカガリでもない、リナだ。
キラはまだ軍属になって日が浅く、ザフト兵に対する警戒心はまだ弱いが……みっちりと士官教育を叩き込まれたリナは、敵兵と見るとつい反応してしまう。
だけど幸いにも、ダコスタはリナの様子に気付かずにバルトフェルドに話しかけた。

「隊長! ブルーコスモスに狙われたと聞いて心臓が止まりかけましたよ!」
「君は心配性だな! だけど見てのとおり、無事だよ。彼らの活躍もあってね」

三人に賛辞を送りながら、三人に向き直る。ザフト兵もつられてこっちを見てきたので、ぴしり、と三人は硬直してしまった。
ダコスタは、三人を見て怪訝そうに顔を顰める。特に、リナへの視線が厳しい。
リナは今にも心臓が止まりそうだった。見た目からして軍人とは思われないだろうが、それがわかっていても敵兵の視線は、銃口を向けられているようだった。
ダコスタが、訝しげな声を挙げた。

「……ライナー殿? 確か、マカリ殿と一緒に警備に――」
「イカンなぁ、ダコスタ君。お客様に対して向ける言葉は、労いと歓迎の言葉だけでいい。そうだろう?」

ダコスタの言葉を、バルトフェルドが咄嗟に遮った。
軽く驚いたようが、隊長の表情に気付いて、失礼しました、と敬礼を返し、それ以上の追求はやめた。
なんだかわからないが、助けられた? 不思議そうにバルトフェルドを見る。彼はその視線に気付いて、先を歩き出した。
ダコスタとすれ違うと、三人をあからさまにじろじろと見る。特にリナに視線が集められていた。
なんだよ、と睨み返すと、視線を逸らされてしまった。怯えたというよりスルーされたような感じだったので、むぅー、と唸る。

「うちの部下が失礼したね。いくらリナ君が可愛いからといって、お客様をナンパするなんてね。
若いっていうのは羨ましい限りだが、彼には後できつく灸をすえておくよ」
「な、ナンパ……っ?」

自分で言うのもなんだけど、犯罪だ。それに、どっちかと言うと視姦だ。あらやだはしたない。

「はっはっは、キラ君もそんなに睨まないでやってくれたまえ。
ナンパされるほど可愛い彼女がいるんだ、むしろ誇るといい」

キラの睨み顔に気付いたバルトフェルドが、気さくな笑い声を挙げた。
自分でも無意識だった睨み顔を指摘されて、はっ、と息を呑んで顔を赤くしてる。

「そ、そんなんじゃ……」
「いいよいいよ、青春だねぇ。僕にも少しくらい分けて欲しいもんだ。
……っと、お客様をいつまでも玄関先に立たせるのもなんだ、入りたまえ」

違いますよ、とキラが否定の声を挙げるのに取り合わず、バルトフェルドは三人を率いてホテルの中へと招いた。
さすがに高級ホテルだけあって、空調が効いていて変なにおいも無い。それに限って言えば、まるでアークエンジェルの艦内のように快適だ。
敵地のど真ん中ということも忘れて、すぅ、とリナは深呼吸した。

「……涼しー」
「リナさん、のんきですね……」
「お前、頭にお花でも咲いてるのか? ここは、あの砂漠の虎の本拠地だぞ!」
「う、うるさいなっ」

くそう、カガリにまで言われてしまった。
わかるんだけど、さっきのバラディーヤ市内はそれくらい臭かったし暑かったんだぞ。ぷくぷく。
もー、とリナは唇を尖らせて頬を膨らましてる。

「我々もこの町の匂いは気になってたのでね、電力不足の地球の皆様には申し訳ないが、空調をガンガン効かせてもらっているのだよ、ははは」
「プラント育ちだろうしなあ」

バルトフェルドの冗談に、リナがぽつりと呟く。

「そうそう、我々は箱入り娘だからなぁ。まったくコーディネイトされているとはいえ、
地球の環境の移り変わりはついていけなくなるときもあるよ」
「――キラ君もコロニーに居たみたいだし、同じような感じじゃないかな?」

そういえば、キラはヘリオポリスでどれくらい生活していたんだろう?

「そうですね……地球に住んでいた記憶は無いですし、ずっとプラントやコロニー育ちです」
「生まれも育ちも宇宙、か。冷静に考えるとすごいことだね」

こういうと誤解が生まれそうだけど、宇宙人ってやつだ。
人間の人格や常識は生まれ育った環境で大きく変わるものだから、コロニーやプラントという人工物の中、そして宇宙という過酷な環境で生まれ育った彼らの常識は、地球で生まれ育った僕達とはかなり価値観が違うのだろう。
そりゃあ倫理観や良識などの、いわゆる「理性的な価値観」はたいした違いはなかろうが、空気や水、節約意識、場所の使い方などの「物的な価値観」には大きな隔たりがありそうだ。

地球では空気は何もしなくても手に入れられるし、水は比較的安価に、半永久的に供給される。
微生物から大型動物までに至る食物連鎖によって、人間が過剰な生産と消費をしない限り半永久的に食物も供給されるし、
大気の流れから分子レベルの運動に至るまで、その全てが生物が住むために作用しているため、隕石でも落ちてこない限りは生活できるのだ。
場所だって、コズミック・イラの時代に至ってもまだ使われていない土地が地球上にはたくさんある上、
輸送技術や建築技術の発達によって、地球上でいう「過酷な環境」程度ならば、事実上、海中以外なら地球のどこにでも場所を得ることができる。

それに比べて宇宙はどうだろう。
技術の発達によって、空気や水、食物は高度な科学技術によって循環しており、一見無限に見えるが、地球の自然再生能力には遠く及ばない。
おそらくどんなに技術が発達しても、地球と同じレベルの環境は人工的に得られないだろう。それほどに地球は完成された環境なのだ。
コロニーやプラントをひとつ建造するにしても莫大な資源や資金、時間、人材が必要だ。
地球の家屋みたいに、プラントやコロニーをぽんぽんと増築できるわけでもない。できたとしても、地球に住む人間には想像できないほどの手間がかかるはずだ。
資源や資金、人材の他に、気密、気温、慣性重力の確保、採光、デブリ対策、放射能対策、太陽風対策、自己完結能力――数えだしたらきりがない。

それほどに、宇宙に住むというのは非現実的で、過酷なことなのだ。だから、コーディネイターという遺伝子を組み替えた新たな人類が必要だったわけだ。
それでも彼らは人間という枠内であることに変わりは無く、酸素が無ければ死ぬし、水が無ければ渇くし、食べ物が無ければ飢える。
どこまでいっても、宇宙が過酷なことには変わりないのだ。
地球のゆりかごに住む地球人類。宇宙という過酷な環境に住む宇宙人類。一体どっちが箱入り娘なのだろう?

「大方のコーディネイターはそんなものだよ。オーブに住む同類は別だろうがね。
こうして戦争でもやってなければ、観光に来たんだがね……戦争っていうのは悲しいものだよ」
「…………」

生粋の地球軍の軍人であるリナは、お前達が散々テロを仕掛けてきたからだろ……と言いたかったが、
実際のところ、ナチュラルとコーディネイターの確執がどこから始まったのかはっきりわからないから、できなかった。
プライマリ、ジュニアハイ、士官学校で習った歴史もひどくナチュラル寄りで、コーディネイターが一方的に悪いかのような内容だった。
最初は信じていたけれど、真面目に勉強を始めると疑問がどんどん湧いてくるばかりになってしまった。
結局、何が真実なのかわからないまま……一方に加担することになってしまった。家系もだが、流れに逆らえない自分の性格を恨めしく思うこともある。

「おかえりなさい、アンディ」

経験が豊富そうな艶っぽい女性の声が聞こえて、そちらに振り向く。
青いドレスを身にまとった、長い黒髪の女性。どことなくエスニックな雰囲気を漂わせるのは、彼女がアジア系の顔立ちをしているからだろうか。
身体にぴったりと纏う衣装が女性らしさに溢れた凹凸豊かな身体のラインを強調していて、まるでハリウッド女優のようだ。

「ただいま、アイシャ」

それにバルトフェルドが応じて歩み寄り、腰に腕を回して抱擁する。
アイシャも微かにバルトフェルドの身体に体重を預け、太い首に細い腕をゆっくりと回し、唇同士の浅いキス。
抱き合う、という単語で形容できないような、まさに大人の抱擁である。これで背景が夜のバーだったらメロドラマのワンシーンだ。
どれもが経験豊富な男女の自然な交わりで、若年の三人には少々刺激的だ。キラもカガリも、目を丸くして気まずそうに顔を赤くしてる。
その中で一番年上のはずのリナが、何故か一番顔を真っ赤にしてしまった。くりっとした目をまん丸にして、丸いほっぺがまるで桃饅のよう。

(うお、ぉぉおう……ひ、ひひひひ人前で、な、何してるんじゃいー!)

ぼしゅー。頭のてっぺんから蒸気が噴出して、内心慌ててしまった。なんか顔が熱い!
お、男と女がね、抱き合うってね、自然なことだと思うけどね!? そんな抱き合い方ってあるのかい!? ふおおぉぉぉ……!

「……ふふ。この子達ですの、アンディ? 真っ白だけれど……」

自分の様子に気付いたのか、これまた艶っぽい笑みを漏らして自分達を視線で指してきた。
なんか自分の動揺を見透かされたみたいで、びくり、と肩を震わせた。うぅ、こっちのほうが確実に精神年齢は上なのに、なんだこの差は。

「ああ、どうにかしてやってくれ。チリソースとお茶――は迷子になって、何故かヨーグルトソースだけが派手にかかっちまってね」
「あらあら、ケバブね。ひどい偶然だわ……ふふふ、飾り甲斐のありそうな子達だわ♪」

二人を見るアイシャの目が、妖しく輝いた。効果音をつけるなら、キュピーン☆というところだ。
え、なにその新しい玩具を見つけた女の子の目。カガリと二人揃って、ずざ、と一歩後ずさりした。
でもその目はすぐさま元に戻って、にっこりと最上級の笑顔に変えた。

「さ、いらっしゃい」
「は、はい」

アイシャの笑顔に圧されて、二人揃って頷いてぽてぽてとついていく。
キラはバルトフェルドと話があるようで、別の部屋に案内された。……ついてくるつもりだったら、殴ってたけど。
連れてこられたのは、同じフロアの奥の方。ホテルで同じフロアなので、作りはどこも同じだ。
これで、そこかしこにザフト兵の歩哨が立っていなければもっとリラックスできたんだけど……敵地のど真ん中でリラックスさせろなんて、筋違いもいいところか。

部屋の前に立っていたザフト兵が、踵を揃えて敬礼して、アイシャが笑顔だけを返す。どうも彼女は正規軍じゃないようだ。
若い兵だ。階級は、ザフトには無いからなんとも言えないけれど。というか各服の色の中での階級というか、上下関係はどうなってるんだろう?
ザフトと地球軍の敬礼の形式は同じなので、答礼した。それを見てカガリがきょとんとして、アイシャが、ふふ、と笑み声を漏らした。
リナのその幼い見た目の割りに、いやにキビキビとした敬礼をするので、そのギャップが可笑しかったのだ。
ザフト兵も意外だったみたいで、一瞬きょとんとした顔をするが、すぐにぴしっと背筋を伸ばした敬礼を返した。

「どうぞ」
「失礼します……」

その部屋にリナとカガリは招かれて、中へと入っていく。ここはバルトフェルドとアイシャの共用の部屋だろうか?
リビングは広い。バスケコートの半面くらいはある。落ち着いた色調の絨毯にソファー、輝き過ぎない小ぶりなシャンデリアも良い趣味をしている。
虎の置物があったり、エスニックな置物があったりと、二人の趣味の違いがはっきりと出ている。
それでも違和感がないのは、二人の趣味は違いながらも、しっかりと協調した配置やテーマを意識しているからだろう。

「シャワーに入りましょう……貴女からよ」
「ボクから?」

最初にシャワーに呼ばれたのは、リナだった。

「えぇ。貴女も汚れているのだけれど、ごめんなさいね」
「ああ、問題はない。リナ、早めに出てくれよ」
「うん、すぐ出るから……」

カガリに見送られて、脱衣室に。扉を閉めて、ヨーグルトソースまみれのワンピースとシャツを脱いで、シャワールームにぺたぺたと入った。
乳臭い。……決して自分の体臭じゃなくて。頭からお湯を被ると、ヨーグルトソースが流れていく。

「ぷぁっ」

息を吐いて、顔をばしゃばしゃと手で洗う。すんなりとした、少しぽっこりと膨らんだお腹を水滴が流れていく。
二十四歳で、胸よりお腹のほうが出てるってどうなんだろう。いや、別に太ってるわけじゃなく、全体的に縦長三角形な身体なのだ。
いわゆるイカ腹であるぽっこりしたそのお腹を、こしこしと備え付けのスポンジで洗う。

「んっ……」

くすぐったい。なにこのスポンジ気持ち良い。ふわふわで肌触りいいし、自分の肌に合ってる感じ。持ち帰りたい。
もっと洗っておこう。日頃の垢を落とす良い機会だし。
こしょこしょ、こしこし、……くちゅくちゅ。

「んあっ……!」

びくん。
い、今漏れそうだった……。スポンジ越しに、ぎゅーって指を押し込んだら……全身の力が抜けそうだった。
いかんいかん。そんなに乱暴にやったら傷がついてしまう。ただでさえ(色々な意味で)弱いところなんだし、慎重に、優しく指を、もとい手を使わないと。
こう、この狭いところに、そっと指を……


(※:しばらくおまちください)


- - - - - - -



キラはバルトフェルドに珈琲をご馳走になりながらも、バルトフェルドの執務室にあるエヴィデンス01のレプリカを眺めていた。
そしてこの二人の話題は、そのエヴィデンス01の話題に移る。
一見、鯨に見えるそれ。だが、一体何者なのか。地球外生命体? そうとも見えるし、ただの鯨の化石をいじっただけにも見える。
話しながら、キラは珈琲を飲む。……キラが飲むバラディーヤの珈琲は、苦い。
どこぞの総帥の声が聞こえたわけじゃないが、むせそうになって、バルトフェルドは苦笑した。

「君にはまだわからんかなぁ、大人の味は」

言いながらバルトフェルドは珈琲をすする。美味しそうに飲む彼を見て、大人の味覚はすごいな、と、先ほどの出来事を思い出した。
勧められてソファーに腰掛け、またエヴィデンス01の話題に戻る。
その存在に心を奪われ、宇宙の果てに希望を見出す人類。そしてもっと深みを目指し、作られたコーディネイター。
もっと、もっと先に行くために。人々の欲求に果てはなく、それを叶えるために、同じ人類を遺伝子改造するという禁忌に手を出す。

それがナチュラルとコーディネイターという差を生み出し、新たな対立を生み出した。

何がこの差の、戦争の原因だったのか? このエヴィデンス01か? コーディネイターか?
それはわからないけれど。キラはエヴィデンス01を眩しそうに見上げて呟いた。

「でも……エヴィデンス01って、希望じゃありませんか? 人類にとって」
「希望?」

キラの言葉に、エヴィデンス01を見上げるバルトフェルド。

「だって、このエヴィデンス01がいるということは、この広い宇宙に、僕達のように生き物がいるということですよね。
生命は僕達人類だけじゃない。話ができるかどうかはわかりませんが……そう考えると、なんだか温かい気持ちになれるんです」
「ほう……?」

バルトフェルドはキラの、青いながらも前向きな言葉に、微笑を浮かべた。

「君には、良い仲間がいるようだね」
「えっ……?」
「僕にも頼れる仲間がいる。だが君が話すような仲間とは、少し違うようだな。
戦友とも少し違う。家族のように胸襟を開いて話せる――そういう仲間が、君にいるように思えるよ。話し方から、そう感じる」

それを聞いて、キラの頭の中に仲間の顔が浮かび上がる。
トール、サイ、ミリアリア、カズィ達学生仲間。マリュー、ムウ、マードック、ギリアムらアークエンジェルの士官。
そして、小さな僕のパートナー、リナ。
守りたい。一緒に戦いたい仲間達。確かに彼らは、キラにとって心身の支えであり、成長させてくれた恩人。
彼ら彼女らのことを思うと、胸の中が暖かくなる。こく、とバルトフェルドに頷くと、バルトフェルドは、ふ、と笑みを返した。

ノックの音が聞こえ、そちらに振り向くキラ。入ってくるのはアイシャだ。それをバルトフェルドが声をかけて迎える。

「終わったかね?」
「えぇ。二人とも綺麗になってきたわよ」

言って、どうぞ、とドアを大きく開いて、カガリとリナを迎えた。
二人はアイシャの陰に隠れてる。衣装が見え隠れしていて、よくわからないけれど……

「なあに? 恥ずかしがることないじゃない」
「こ、これを……恥ずかしがらないやつが、いるわけないよっ」
「そうだ……なんだ、この趣味はっ……おかしいんじゃないか?」
「そう? 二人とも可愛いのに……さあ、早く二人に披露しましょう」

そう言って、二人を前に押した。二人とも小さな悲鳴を挙げて、小さくよろめきながらも立ち、二人にその姿を露にする。
その姿に、キラは驚きに目を丸くした。
ほう、と、バルトフェルドがガタッと椅子を足で押して立ち上がる。

リナが先に前に出る。ふわ、と、スカートが踊った。
シルクのリボンで飾った、白い肩を出し、これまた胸元が大胆に開いた、フリルで装飾されたゴシック調のドレスに、シルクのタイツとロンググローブ。
複雑なボンネットを頭に被り、頭にも小さなリボンを二つ両側に飾る。それら全てが、リナの黒髪に合わせて黒一色に統一されていた。
首に黒いベルトを巻いているのは、背徳的なアクセントをつけるためだろう。鎖をつけるための金具がついているのは、何の悪意が働いてのことだろう。
黒革の編み上げパンプスまで履いている。前のカジュアルなシューズはどこにいったんだろう、と考える余裕はキラにはない。

一方カガリも、全く同じ格好をしていた。
ただし、リナとは対照的に、全身純白。ツンツン外側に跳ねていた金色の髪は綺麗に整えられて、空調の微風になでられてふわりと揺れる。
金色の髪と橙の瞳は、その純白の衣装によく合った。少し日焼けしている肌が玉に瑕だが、充分に魅力的である。
リナが深窓の令嬢ならば、カガリは活動的な生命力溢れた少女、というところか。
対照的な特徴が二人の魅力を増幅して、一気にこの質実剛健な執務室の空気を華やかにさせた。

「……ゴスr「「その先は言うなああ!!!」」
「げふぅ!!?」

キラは白黒二人のダブルノックを受け、もんどり打ってソファーに倒れこんだ。


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