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No.36981の一覧
[0] 【機動戦士ガンダムSEED】もう一人のSEED【改訂】【オリ主TS転生】[menou](2013/06/27 11:51)
[1] PRELUDE PHASE[menou](2013/03/13 20:07)
[2] PHASE 00 「コズミック・イラ」[menou](2013/03/16 22:26)
[3] PHASE 01 「リナの初陣」 【大幅改訂】[menou](2013/06/27 11:50)
[4] PHASE 02 「ジャンクション」[menou](2013/06/27 17:13)
[5] PHASE 03 「伝説の遺産」[menou](2013/07/21 18:29)
[6] PHASE 04 「崩壊の大地」[menou](2013/07/21 19:14)
[7] PHASE 05 「決意と苦悩」[menou](2013/08/25 16:23)
[8] PHASE 06 「合わさる意志」[menou](2013/08/17 16:11)
[9] PHASE 07 「ターニング・ポイント」[menou](2013/08/29 18:01)
[10] PHASE 08 「つがい鷹」[menou](2013/09/11 10:26)
[11] PHASE 09 「モビル・スーツ」[menou](2013/09/16 14:40)
[12] PHASE 10 「流星群」[menou](2013/09/23 23:47)
[13] PHASE 11 「眠れない夜」[menou](2013/10/01 16:10)
[14] PHASE 12 「智将ハルバートン」[menou](2013/10/06 18:09)
[15] PHASE 13 「大気圏突入」[menou](2013/10/17 22:13)
[16] PHASE 14 「微笑み」[menou](2013/10/22 23:47)
[17] PHASE 15 「少年達の向く先」[menou](2013/10/27 13:50)
[18] PHASE 16 「燃える砂塵」[menou](2013/11/04 22:06)
[19] PHASE 17 「SEED」[menou](2013/11/17 17:21)
[20] PHASE 18 「炎の後で」[menou](2013/12/15 11:40)
[21] PHASE 19 「虎の住処」[menou](2013/12/31 20:04)
[22] PHASE 20 「砂漠の虎」[menou](2014/01/13 03:23)
[23] PHASE 21 「コーディネイト」[menou](2014/01/29 22:23)
[24] PHASE 22 「前門の虎」[menou](2014/02/11 21:19)
[25] PHASE 23 「焦熱回廊」[menou](2014/02/15 14:13)
[26] PHASE 24 「熱砂の邂逅」[menou](2014/03/09 15:59)
[27] PHASE 25 「砂の墓標を踏み」[menou](2014/03/13 20:47)
[28] PHASE 26 「君達の明日のために」[menou](2014/03/29 21:56)
[29] PHASE 27 「ビクトリアに舞い降りる」[menou](2014/04/20 13:25)
[30] PHASE 28 「リナとライザ」[menou](2014/04/27 19:42)
[31] PHASE 29 「ビクトリア攻防戦」[menou](2014/05/05 22:04)
[32] PHASE 30 「駆け抜ける嵐」[menou](2014/05/11 09:12)
[33] PHASE 31 「狂気の刃」[menou](2014/06/01 13:53)
[34] PHASE 32 「二人の青春」[menou](2014/06/14 20:02)
[35] PHASE 33 「目覚め」[menou](2014/06/30 21:43)
[36] PHASE 34 「別離」[menou](2015/04/20 23:49)
[37] PHASE 35 「少女が見た流星」[menou](2015/09/16 14:36)
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[36981] PHASE 18 「炎の後で」
Name: menou◆6932945b ID:bead9296 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/12/15 11:40
鋭い陽光照りつける、うっすらと砂塵が積もった岩山。
”明けの砂漠”の隠れ家であるこの岩山の中の谷間に、ぴったりと収める形でアークエンジェルの白い船体が着陸していた。

「もっと展伸しろ! できるだろ!!」
「ヤマト少尉、そっちが緩んでるんだ! フックを調整してくれ! よーし、いいぞ! それで固定!」
「シエル大尉、そこの岩山が使えます! アンカーフック打ち込み完了!」

しかし、その白い船体は、この黒々とした岩山に隠すには、どうにも目立つ。だからアークエンジェルのクルー総がかりで、砂漠迷彩のネットを張っていた。
といってもアークエンジェルをすっぽり覆えるものではなく、アークエンジェルの外壁を多くのシートで被せて誤魔化すだけ。
それほどの大掛かりの作業ともなると、やはり人間の手だけでは限界がある。だからモビルスーツが活躍していた。
ムウは幹部士官達と一緒に”明けの砂漠”のリーダー達についていったため、ムウを除く三機が展伸作業を行っている。

リナとキラはスムーズに作業を続けているが、問題はトールだ。
トールにモビルスーツの操縦を慣れさせるいい機会なので、トールにもデザートダガーに乗ってもらい、ネットの作業を手伝ってもらっている。
しかしやはり実機とシミュレーターは違うのか。トールは立て続けに飛んでくる指示と緊張からか、半分パニックになりながら操縦桿を握っていた。

「こ、こうですか! こう……そーっと」

ネットの力加減がいまいち理解できていないトールは、そーっと、と口では言いながらも、かなり大胆に動かした。
きりきりが悲鳴を上げ――ついにネットが限界を超える。強化繊維がほつれる耳障りな音を立てて織り目が開き、繊維が引き裂かれていく。

「こう、こうか……あれ!?」
「うわぁー!」

そんな状態になっているネットに気づかずに操縦桿を引いていたトールは、突然船体にしなだれかかるネットを見て、しまった、とコクピットで青ざめた。
その下で装甲の補修作業をしていた航海科のクルーが巻き込まれてしまう。
突然ネットを被せられたクルー達が悲鳴を挙げ、もごもごとネットの下で慌てる。

「なんだっ、これ……おい! ネットを落とした奴は誰だ!」
「ケーニヒ二等兵ぇー!! 貴様、ネットの展伸もできんのかァ!」

幸い光熱を伴う作業を行っていなかったため、ネットの下のクルーは無事だったが、トールはこっぴどく叱られて、ヒィ、と悲鳴を挙げていた。
リナはその騒ぎが聞こえて、ぎゅっ、と岩山にワイヤーをしっかり固定してからそちらをズームする。
コクピットからトールが出てきて、足元にいる航海科の上官に必死に頭を下げている。半分涙目だ。

(あらら……まだ早かったかなぁ)

そう胸中で呟くリナは、半裸でコクピットに座っていた。運動着のタンクトップとホットパンツ姿。頭には同じく整備員の日よけつきの帽子を乗せている。
最初は外で補給作業を手伝っていたけれど、それが終わってモビルスーツによるネットの展伸作業を始めたのだ。
戦闘機動をするわけでもなし……ということで、ラフな格好のままコクピットに乗り込んだ。
ただ、ここまで暑いと自慢の長い黒髪が仇になる。黒髪が色のせいで大変な熱をもって、肌に触れるだけですごく熱い。関係ないけど、頭のてっぺんを触ると超熱い。
もともと毛量が多いから余計にだ。だから、ノーマルスーツを身に着けるときと同じように髪をまとめて括って帽子の中に収めた。

「さて、これくらいかな……どう、ユーリィ軍曹、隠せた?」
「……はい、OK! ばっちり隠れてますよ」
「よし、じゃあ迎えにいくよ。道具まとめといてね」
「了解!」

少し離れた岩山からアークエンジェルを観測しているユーリィ軍曹に確認をとってから、彼を迎えにいく。
近くで見ても艦の全体が隠れているかどうかわからないため、四方から観測するための人員が必要だったのだ。
観測の彼も相当暑かったのだろう。白々と輝く岩山の上に立っている彼は、頭からタオルを被ってじっとりと汗で濡れていた。
手には望遠鏡と水筒。その水筒も随分と軽そうに持っている。彼の身体は重そうにしていたけど。

「はぁー、はぁー……暑くて死にそうですよ……」
「……うん、お疲れ様。も、もうちょっと我慢しててね……」
「は、はい……」

彼を一目見て……コクピットに乗せる気にはなれなかった。
罪悪感がちくちくと胸を刺すけど、滝のように汗を掻いてる彼が狭いコクピットの中で密着すると考えると躊躇するのは、女の子として当然の感性のはず……だ。
モビルスーツの掌の上も相当暑くて熱かったようで、アークエンジェルに着いた時、彼の肌は真っ赤になっていた。……あとでジュースおごってあげよう。
ユーリィ軍曹をアークエンジェルに下ろして、モビルスーツを使った作業は全て終わったので、そのままハンガーデッキに付ける。
後をよろしくね、と、整備員達に声をかけてダガーから下り、なんとなくキラの姿を探した。

「……あれ? キラ君は……?」

はて。もうストライクはハンガーデッキに付けているし、その周辺にも見当たらない。
もしかして食堂か個室で休んでるのかな。ストライクを整備している三十代半ばほどの整備員(軍曹)に、キラの行方を聞いてみることにする。

「軍曹、ヤマト少尉はどこ?」
「あ、シエル大尉。ヤマト少尉はアジトを見てくると言っていましたが」
「そっか、ありがとう」

むー。ボクに黙って行ったな。ボクは君達学徒兵の管理を任されてるのに。トールは割りとどうでもいいけど。
そのトールのダガーも、遅れて格納庫に入ってきた。格納庫のハッチの前で立ち止まると整備員が取り付いて、高圧放水による洗浄を受けている。
あちこちから水をかけられて頭から水を滴らせているダガーは、どことなく雨の中の捨てられた子犬のように落ち込んでるような気がする。
その横を通り過ぎながら、コクピットハッチを開けたトールに声をかける。

「お疲れ様ー! 落ち着いたら猛特訓だね!」
「か、勘弁してくださいよぉー!」

涙声で頭を抱えるトールに、リナは潜み笑いを浮かべた。
飛び散って跳ねてくる水を避けながら、陽光降り注ぐ外へともう一度出た。
もわっと熱い外気が全身を包む。適度な湿度と気温に保たれた艦内との空気の差で、まるで巨大な脱脂綿に身体を突っ込んだみたいだ。
ダガーのサーモセンサーによると、気温は四十八度だった。ユーリィ軍曹が熱中症にならなかったのはさすがだと思う。

「あづ……」

愚痴りながら、ざくっと乾いた砂の上に降りる。この陽光を浴びるだけで汗がぶわっと白い肌からにじみ出てくるようだ。
とにかく、”明けの砂漠”のアジトへ足を運ぶ。砂漠迷彩の天幕の下に並んでいるジープの群れ。
その周りにはジープの整備をしていたり、歩哨が立っていたりする。その見張りは全員顔から胸の上にかけて布を巻いていたりして、いかにも砂漠の民という格好をしている。
手には、これまた年代物の小銃。東側のC.E.以前の武器で、砂漠や森林などの悪環境でも作動するアレだ。
あれでザフトと戦うつもりなのだろうか。あんな旧式の銃で、コーディネイターと渡り合えるとはとても思えない。

(まさにテロリストだなぁ……っと、まあいいや。)

キラの姿を探して、きょろきょろと周囲に視線を配りながら歩く。
歩いてると、”明けの砂漠”メンバーが胡散臭そうにこちらを見てくる。どうも、歓迎ムードではなさそう。
よく見ると、少年兵も沢山いる。パッと見は老けて見えるけど、おそらくキラと同年齢かそれより下くらい。

「おい」

”明けの砂漠”のメンバーを観察していると、後ろから声をかけられた。
アラビア語で喋りかけられたら返事ができなかった。リナは日本語と英語しかできないからだ。
他の連合加盟国は知らないが、地球連合軍全体は英語を使うことが義務付けられている。
地球軍の兵器や専門用語は全体で統一されており、全ての言語に対応させようとすると、軍同士の連携にも支障が出るからだ。

ともかくリナが振り向くと、だいたい二十代半ばほどの浅黒い肌の中東系の男が、話しかけていた。
アークエンジェルにも中東系のクルーはいるけれど、目の前の男は砂漠の民の服装をしている。”明けの砂漠”のメンバーだ。

「? なに?」
「お前、地球軍だな。負けっぱなしの税金泥棒のくせに、よくもでかい面して歩けるもんだな」
「綺麗な顔していっぱしの軍人気取りか。遊びに来たんなら、とっとと帰っておままごとでもしてろよ」
「こいつまだガキだぜ? 銃の反動でこけるんじゃねぇか?」

リーダー格らしき先頭の少年が罵倒している間に、ぞろぞろとリナに群がってくる。
服装は統一されていない。ヒゲが生えていたりして老けて見えるが、顔立ちをよく見ると、十八~二十四からなる若い兵達だ。

(これは、要するに……不良が絡んできた、ってやつ?)

危機感なく胸中で呟き、いっそ物珍しげに彼らを見返した。
本格的に絡まれたのは、昴のときのゲーセン以来だ。あの時は弱かったし、すたこらさっさと逃げ出したのだが。
しかしリナは、今はこのとおりのチートボディーだ。気が大きくなったからか、饒舌になってまくしたてる。

「君達こそ、この程度の戦力で戦争するつもりかい? キャンプファイヤーがしたいならいいキャンプ場を教えてあげるよ。
尤も、君達みたいな素人がキャンプファイヤーを囲んでも、フォークダンスもロクに踊れそうにないけどね。
せいぜい洞穴に篭って、ダンスの練習にでも励んでなよ。銃弾飛んでこないし、君達にはそれがお似合いさ」
「てめえ!」

リナの軽口に色めき立つ少年達。言ってから、後悔。

(あ゛ー、しまった。つい売り言葉に買い言葉で言ってしまった)

だけど、口が止まらなかった。最近いいところ無いし、機体だって壊してしまった。整備員達や他のクルーはよくやったと誉めてくれたけど、あんな活躍で喜べない。
そんなフラストレーションの捌け口が無かったリナは、ついその堰を切ってしまったのだ。でも、こんなところでトラブルを起こしたら後が怖い。
リナが自分の軽口に後悔している間に、若い兵達はその安い挑発に乗っていきり立ち、二十丁度くらいの男がリナの胸倉に手を伸ばした。

どうしよう。リナは困惑したけれど、そんな手に捕まるわけにはいかない。
レジスタンスとはいえ、実戦や過酷な環境で鍛えられたその肉体は、たとえ正規軍人であったとしても御しがたいだろう。まして相手は四人、これを相手どるのはレンジャー部隊でも厳しいに違いない。
――ただのナチュラルなら。

「女の子の胸倉を掴むなんて、下品だね」
「うわっ!?」

その言葉の間に手首を払って反らし、そのまま腕を掴んで足払い。男がバランスを崩し、地面に突っ伏した。
あまりの早業に、男の方が勝手にこけたように見えた残りの兵は、一瞬呆気にとられ、事態を認識すると、怒りが燃え上がる。

「ガキのクセに生意気なんだよ!」
「もうちょっと紳士的に女性を扱えないのかな?」

二十前半ほどの細身の男が、あろうことか肩にかけていた小銃を、棍棒のように振り上げてきた。それをいなすのは簡単だけど、その後の反撃が問題だ。
訓練では、確実に殺す方法や捕虜にするために『あらゆる意味で』行動不能にする技能しか学ばなかった。
そんなことをすれば”明けの砂漠”と連携する、という目論見がおじゃんになるどころか、敵側に回るかもしれない。それだけは御免被りたいところだ。
なるべくこいつらを傷つけずに制圧するには、どうしたらいいか――

「リナさん?」
「何やってんだ、お前ら!」
「へ?」

聞こえてきた二つの声にあろうことか振り向いてしまった。あれ、そこで肩を並べている二人の男女は――

(キラ君と、カガリ・ユラ・アスハ――えぇぇ。なんで仲良さそうなの!? 身体近くない!?
肩が触れそう! てめ、キラ君にさわんじゃね! ●しちゃうぞ!?)
「ちょっと! キラ君、その子誰!?」

知ってるけど、知ってたらおかしいし。自己紹介無かったし、あれからカガリと関わってないし。口をついて出てきた言葉は、まるで彼氏の浮気を発見した彼女のようなセリフだった。
振り下ろされた小銃の横腹に回し蹴りを叩き込み、小銃を弾き飛ばしてそのまま半身を回転。回し蹴りを放った左足がタンッと踵が砂岩を叩く。

「だ、誰って……最初に会ったじゃないですか!」
「名前もどういう子かも聞いてないよ! 随分と仲が良さそうじゃない? もう手を出しちゃったの?」

リナの言葉尻が、どんどん低くなっていく。どことなく振り回す足も鋭さを増した。
ボクシングのワンツーのような速度で軸足をシフト。長い黒髪が翻る様は黒い旋風。右足を居合いのごとき速度で振るい、自分の頭よりも上にある男の顎を爪先で撫ぜ切った。
げっ! と短い悲鳴を挙げて、男が吹っ飛ぶ。年少らしい男はリナの立ち回りに怯んで、振り上げた拳を止めて、二の足を踏んだ。

「な、仲が良いわけじゃないですよ……さっき、また怒られたばかりだし。そ、それに手を出して、って!」
「何で怒られたの? まったく、キラ君は本当に女癖が悪いんだから」

少し遅れて突き出してきた男の拳を引っ張り、手首を掴んで男の懐に背をもぐりこませて足を踏み込み、背負い込むように男を前方に投げる!
ズダァンッ!!
落とす瞬間、少し腕を引いてやるのを忘れないで地に叩き伏せた。がはっ、と男の肺から酸素が搾り出される音が聞こえ、痛みに悶えて動けなくなった。

「何を勘違いしてるんですか! だいたい女癖が悪いって、リナさんに僕の何が――」
「痴話喧嘩なら暴れるのをやめてからやれぇぇ!!」

目の前で展開される惨状に、とうとうカガリの堪忍袋の緒が切れた。


- - - - - - -


突っかかってきた男達を医務室に運び、アジトの中の一室を借りて、キラ、カガリと話すことにした。
こんな炎天下で談話できるわけがない。常識的に考えて。
今着ているランニングシャツも脱いでしまいたい衝動に駆られながらも、やっぱり羞恥心が勝って、じっと二人の話を聞いていた。

このカガリ、まず名前を聞くと「カガリ・ユラ」と名乗った。アスハの名は出てこない。
確かに中立を掲げている国の首長の娘がレジスタンスに協力しているなんて知られたら、国際問題なんてレベルじゃ収まんないかもしれないけど。
下手したらオーブの中立という立場が危うくなり、ザフトと連合からフルボッコにされる可能性だってある。なにしてんだこのお嬢様は。
二人がいつ知り合ったのか、ということを聞くと、どうやらヘリオポリスまで遡るらしい。そんな最初から知り合ってたのか、この二人。

「……なるほど。キラ君がカガリ君を退避カプセルに……気持ちは分かるけどねぇ」

その退避カプセルに押し込まれて、その押し込んでくれたキラは退避できず……その心配もわかる。
でも、キラの行動もわかる。男らしいじゃあないですか。ボクだって多分そうするだろう。まさか連れてる女の子を押しのけて自分だけが助かろうとするわけがない。そっちの方が気が悪い。

「わかるんだけど、心配する身にもなってみろ。……まったく」
「それは……ごめん」

キラは申し訳なさそうにして、素直に謝る。うーん、キラ君はいい子だねー。マジ天使。

「でも聞いた限りの状況じゃ、人並みの良心を持ったヒトは誰でも同じことすると思うよ? そろそろ許してあげてもいいんじゃないかな」
「わ、わかってる。私だって本当は怒ってるわけじゃないんだ」
「そっか。……そんなことがあったけど、せっかく無事に再会できたんだ。キラ君と仲良くしてあげてね」
「……」

キラは、リナの優しい微笑みを見て、まるでお母さんだな、と思った。
リナのその言葉に「友達としてね」という裏があったことには、気付かなかったのだが。
ふと、その部屋に入ってくる気配と足音。誰だ? そう思って、入り口に集中する三人の視線。入ってきたのは、深刻そうな表情を浮かべたサイだった。
その表情に、ただならぬ雰囲気を感じて、思わずリナは腰を浮かせる。キラは、ついに来たか、と覚悟した無表情で、見返していた。

「キラ、探したぞ」
「……サイ」

サイの低い声。この二人に、何があった?
リナはふと、不安な気持ちが胸中に堆積するのを感じた。
サイが何も次の言葉を告げなくとも、キラが立ち上がる。そうして、黙って退出してしまった。

「なんだ、あの二人? 何かあったのか?」
「……わからないよ」

置き去りにされた少女が呟きあい、リナは不安に突き動かされ、二人を追うために立ち上がった。


- - - - - - -


「キラ! お前……! なんてことを!」
「やめてよね! ……! 僕、が、本気になったら……サイが僕に、かなうわけないだろ!」
「キラァァァァ!!」

キラが余裕の表情を浮かべる。サイが吼える。今、二人は互いのプライドを賭けた戦いをしている。
譲れない男としての地位。今まで築き上げた友情の全てを燃やし、灰に還して空を灰色に染める、不毛な戦い。しかし、決して引くことはできないのだ。
そう追い詰めたのは相手であり、何より自分なのだから。
それが男として生まれた者のサガ。命は燃やし尽くすものであるという、男の本能。たとえ、いつか友情も、愛も、命でさえも空虚に帰すとわかっていても。
その戦いは、互いの尾に食らいつき、食いあうウロボロスにも喩えることができた。……傍で見守るリナには、そう思えた。

「やってやる……やってやるぞ!」
「踏み込みが、足りない!」
「もうやめて、二人とも! いつまでこんなことをしてるの!? もう勝負はついてるじゃない!」

二人は吼える。サイが劣勢に立たされているのは一目瞭然だ。見ていられない。リナは制止の声を挙げたが、

「リナさんは黙ってて!」
「悪いけど、邪魔はしないでほしいんだ!」

二人は噛み付くようにリナに返すだけ。一度制止をしてみたものの、リナにはわかるのだ。
サイは負けるとわかっていても、逃げるわけにはいかないと。背中に傷を受けるわけにはいかないのだ、と。

(キラ君……サイ……)

ならば、そこに自分が介在する余地はない。……何でこんな時に、ボクは女なんだろう? 自分が情けない。
サイがうつ。キラの片腕を掠める。キラが蹴る。サイのボディをしたたかに打つ。
キラが押している。だが、気迫でサイは負けていない。必死に食らいついて、キラも無傷ではいられないようだった。

二人が向かい合い、動きが止まる。互いに最後の一撃を繰り出そうとしている。誰かの喉が鳴った。キラの? サイの? リナの? おそらくは、全員の。
張り詰めた空気。剣の達人同士が、後の先を争って動けなくなる瞬間に似ている。まるで空気が鉄の塊になったようだ。

ぽたり。水が滴る。小さな小さなその音が、張り詰めた空気を切った。

「キラアァァァァァ!!」
「サイィィィ!!」

二人の咆哮と同時、二人がぶつかり合い、巨大な閃光が生まれる――





「……熱中しすぎなんだけど」

手にしていたジュースが温くなってきた頃、リナが呆れた声を挙げた。

「……! ぷはぁ! これで二勝八敗か……」
「最後は本当に危なかったよ。サイ、いつの間にこんなに上達したの?」

シミュレーターの画面が暗くなり、二人は――呆れたことに汗だくになって、息をすることも忘れていたくらいの集中力を発揮していた。
二人の後を追いかけたら、その行く先はアークエンジェル。え、そこで話すんじゃないんだ、と意外に思ったけど、人気のある場所を避けたかったのかも、と思った。
で、向かう先は格納庫。人気ありまくり……と思ってたら、シミュレータールームに入ったじゃないか。
で、今に至る。

「……サイが、キラ君にシミュレーターで対戦するっていう約束をしてたってこと……?」
「俺、キラに勝つためにトールとキラとで三人で練習してたんですよ」
「僕もサイの練習に付き合ってたんですけど、意外に上手くなるの早くなってびっくりしました。……あれ? リナさん、なんで怒って……?」
「あったりまえじゃないか!! ただのシミュレーターの対戦で、あんな深刻な顔して誘う!? フツー!」

超紛らわしい! ボクがゲーセンに友達誘うときだってあんな顔しないわ!
でもサイはけろっと言い返した。

「だって、今まで全然かなわなかったし、でも負けたくないしで、緊張してたんですよ」
「もう、サイは真面目すぎるよ。シミュレーターなんだから、そんなに深刻にならなくてもいいのに」
「真面目にするから面白いんじゃないか。それに、最近忙しいキラに時間をとってもらってるんだ。真面目にしなきゃ申し訳ないだろ」
「……気にしないで。いつだって声をかけてよ。僕達、友達でしょ?」
「……キラ」

……この友人グループは、ボクに友情を見せ付ける取り決めでもしてるんだろうか。

「とにかく、提出した利用計画書以上にシミュレーター使ったんだから、あとでフラガ少佐に報告書を提出すること、いいね!」
「すいませんでした!」

時間はもう十九時。完全に夜になってしまった。いくら半舷休息だからって、少々気を抜きすぎだ。
二人が同時に謝る。うん、キラの言うとおり、サイは真面目だな。トールが軽いノリのリア充だとしたら、サイは勤勉真面目な学生ってところか。
それにしても、サイがシミュレーターをしていたのは驚いた。ゲーセンでもサイが使えたから、もしかしたら彼も、と思ったけど。
キラにまかりなりにも二敗の記録をつけさせたということは、MSの操縦もそれなりにできるのかもしれない。……キラはかなり手加減していたみたいだけど。
でもまともに操縦できるなら、彼も戦力として計算してもいいのかな……? するとしたら、トールとサイのローテーションか。

「ん?」

ふと、外が騒がしい。なんだろう。出発するのかな。二人も不思議そうにハッチのほうを見た。

「なんだろう?」
「ちょっと見てくるよ」

リナが外に出ると、戸惑った表情のクルーや、怒鳴り散らす”明けの砂漠”のメンバーがいる。
敵襲か? それにしては艦内警報が鳴らない。CICは常に誰かしらクルーが詰めていて、レーダーを誰も見ていませんでした、ということはありえないのだ。
ということは、クルーと”明けの砂漠”が揉めてるのかな。……ボクじゃあるまいし。
近くにいた、事情を知ってるらしき戸惑っている整備員に、声をかけてみる。

「ねえ、何があったの?」
「あ、シエル大尉。……なんでも、”明けの砂漠”のホームのタッシルが、ザフトに襲われてるそうです」
「えっ!? ”明けの砂漠”の……?」

リナが驚いた直後、艦内警報が鳴り響き、切迫した声のギリアム大佐の艦内放送が流れる。

〔達する、艦長のギリアムだ。これよりアークエンジェルは、”明けの砂漠”の生活拠点タッシル村に向かう。
目的は同拠点を襲撃するザフト軍の撃退、ならびに同拠点の民間人の救助である。総員、アークエンジェルに帰還せよ。総員第二種戦闘配置。対空、対地監視を厳となせ。
モビルスーツ隊はブリーフィングの後、搭乗待機せよ。繰り返す――〕

直後、話していた整備員も表情を緊張に強張らせ、自分の配置に向かって走り出した。
それを見送ることをせず、シミュレータールームの二人に檄を飛ばした。

「放送は聴いていたね! アーガイル二等兵は船務科の配置に! キラ君はブリーフィングルームに行こう!」
「は、はい!」

二人の返事を聞いて、キラと一緒にブリーフィングルームに向かって走り出していた。





砂漠の民が平穏に暮らしていた村を包む、夜空を焦がすほどの炎。
家屋のどれもが、土や石で構成された旧来のものばかりのため、薪のように燃え広がっていく。
更に追い討ちとばかり、アジャイルやザウートによる爆撃により、寂れた村は速やかに火の海へと変わる。
村人が避難して無人となった家屋にナパーム弾が撃ち込まれる。粘性の高い油脂が広がり、乾燥した木々や石、家具や衣服、燃料として日干しにしていた動物の糞。それらに一瞬で燃え移り、人々の生活を灰へと変えていく。

「洞窟にも奴らの弾薬や食料、燃料が貯蔵されているはずだ! 一つ残らず焼き払え!」

洞窟にそれらを隠すのはテロリストの常套手段であり、バルトフェルドはそれをよく熟知している。
通信機で指示を出し、山の手のほうでも爆炎が膨れ上がる。一際大きく、腹を打つほどの大爆発は、燃料か弾薬の貯蔵を破壊したのだろう。
ああいう規模の大きいモノを爆発させるのはあまり気分がいいものではないが、これは報復攻撃だ。ちょっとばかり辛抱してもらうとしよう。

「こういうことは、あまりやりたくは無かったがね……お仕置きはしてやらんとな」

その炎熱地獄を眺めながら呟くのは、その爆撃を指示したアンドリュー・バルトフェルドだ。
お仕置きというのは口実で、つい最近”明けの砂漠”の拠点を発見し、その生命線を絶つ目的で焼き討ちをしたに過ぎない。
攻撃の前に警告をしたが、一体何人がこの炎から逃げ出せたことやら。なにせこちらは急ぎなのだし、訓練でもないのだから全員の無事を確認する義務も義理もない。
健康な女子供であれば逃げ出せたであろう時間を適当に計り、焼き討ちにする。あとは無事かどうかは彼らの運次第だ。

「根の深い恨みを買いそうですがね」
「が、これが戦争だ。攻撃を仕掛けるということは、仕掛けられる覚悟が無ければいかんよ」

彼の後ろに立っている、ザフトの野戦服に身を包んだ優男がそっと言った。
当然といえば当然のバルトフェルドの答えに、静かに笑う。その笑みは、冷たい。

「わかっています。拾っていただいた方の部隊の行動に口出しするほど、あつかましくはないつもりです」
「俺への口出しは別に構わんのだがね。地上に降りてしまった事情は知っている。しばらくは俺の部隊で働いてもらうつもりだが、その後はどうする?」

不思議そうにするバルトフェルドの質問に、優男はしばらく考えてから、笑みを戻して告げる。

「……生き残ってから考えますよ」
「そうかい。だがまあ、もし生き残ったとしたら……たとえどこに行くにしても、ザフトの勝利に貢献してもらいたいもんだね」
「含みがありますね?」

ふ、と、バルトフェルドが笑う。

「別に……含みがあると感じたなら、謝ろう」
「いいえ、こちらこそ失礼しました。……ん、どうした? フィフス」

手元の通信機から、声が響く。それを手に取り、耳を近づけた。
その通信元は、今も街で暴れているモビルスーツのパイロットで、優男のバートナーである少女、フィフス・ライナーからだ。
相変わらずぼそぼそと喋るので、耳を近づけなければよく聞こえない。それでもNジャマーは散布していないので、彼女の声は比較的クリアーに聞こえた。

〔……こういうの、嫌い。民間人、撃っても……暇〕

問題は暇かどうか。相変わらず好戦的な彼女の口ぶりに思わず苦笑を漏らすマカリ。

「まあ、そう言うな。俺達は居候なんだから、わがままは禁物だ。いいから続けろよ……事前警告は忘れるなよ」
〔……わかった〕

通信が切れた直後、また街に火柱が上がった。
……本当に、警告してから爆撃したんだろうな。マカリは不安になったが、彼女は命令には忠実だ。彼女を信頼しよう。

「……戦果はどうだ?」

しばらく爆撃が続いた後、腕時計で時刻を確認したバルトフェルドは、側近のダコスタに通信を開く。
今ダコスタはバクゥで出撃しており、傍にはいないからだ。

〔ハッ、今偵察隊に確認させておりますが、確認できる限りでは全ての兵站を破壊しました〕
「よし、では引き上げると――どうした?」

撤収の命令を下そうとしたとき、緊急回線による通信が割り込んでくる。
何事か、と通信に耳を傾ける。通信元のレセップスのオペレーターは冷静に報告してくるが、早口だ。
だがその通信内容は、早口にさせるに値するほどの内容であった。バルトフェルドの表情が、顰められる。

「……わかった。その旨、了承したと本部に伝えてくれ」

了解の返事を聞いた後、バルトフェルドはダコスタに通信を切り替える。

「ダコスタ君。我々はここに長居する必要はなくなったようだぞ。ただちに撤退だ」
「ハ? ここでおびき寄せた敵を討つのではないのですか?」
「そうも言ってられん状況になった。いいから引き上げだ。基地に戻ったら説明する。帰還するぞ」
「は、ハッ!」

通信機越しにダコスタに命令を下すと、バルトフェルドはさっと背を翻し、部下と共に軍用車に乗り込んでいく。
先ほど会話していた、あの優男――マカリは、自分とは別の軍用車に乗り込んでいくその背を見て、バルトフェルドは微かに顔を顰めた。

(君は顔に出やすいタイプだな……元は直情的な性格を、あの優男風の笑顔で隠しているのが丸分かりだ。
仮面を被って何か悪巧みをしているところは、あのクルーゼにそっくりだな)

あの自分が嫌う、ラウ・ル・クルーゼ。奴も計り知れない部分があり、真意を読ませない男だった。
マカリも似ている。尤も、マカリはどちらかというと感情はわかりやすいが、真意は読みにくい。信用できないという点では二人とも同じだ。
腕はいいし、帰るところが無い友軍だから、マカリと、あのザフトレッドの少女も引き取ったのだが。
厄介な人物を拾ったものだ、と内心嘆息してから、頭の中はこの後の作戦について思考を切り替えていた。


- - - - - - -


アークエンジェルが到着した頃には、全てが終わっていた。
まだタッシル村は炎と煙に包まれており、まだ要救助者がいるのでは、と思い、リナが救助作業を行うためにモビルスーツで出撃はしたけど、
既に村民は全員、村から少し離れた平らな土地に避難しており、逃げ遅れた者はいないという。

「……よかった」

リナは安堵の吐息をつく。
村人が全員無事だったから、というのもあるけど、モビルスーツによる救助作業は面倒でしょうがないから。
船務科のクルー達が、転倒したり火傷を負うなどした村人達に応急手当を行っている。あるいは、水を分け与えている。
ムウが降りてこい、と手招きしてきたので、ダガーのハッチを開け、コクピットから降りて村人達の前に立った。
警務科のクルー達が、村の惨状や村人達を見て、同情やザフトへの罵言を無秩序に口にしている。

リナも、村を焼かれて生気の無い表情の村人達を見て、顔を顰めた。

「……嬉しそうなのは一人も居ませんね」
「当たり前だよ。死人が出なかったのは、そりゃ何よりだが……家を焼かれて嬉しそうにする奴なんて居ないさ。
それが、仇であるザフトの人災なら、尚更だ」

ムウのいつになく暗い口調の言葉を聞きながら、泣いている子供を見て、ずき、と胸が痛む。
確かに、天災なら逆らいがたいものという普遍的な価値観があるし、まして信仰心の厚いイスラム圏の人々なら諦めもつくのだろうけど……
やりきれない思いを抱いているんだろう。復讐に燃える憎悪か、一瞬にして全てを失った虚無感か、土地や財産を失った悲しみか。

そして、疑問に思う。なんで一人も犠牲者が出ていないのか。
街だけを焼き払う? そんな手間なことを、ザフトの人間がするんだろうか。いや、あのバルトフェルドはそのうち仲間になるから、悪い奴じゃないんだろうけれど。
でも今はあいつはザフトで、いくら悪い奴じゃないといってもそこまでするのか。
……でも、その行為に、違和感は感じる。

「それは、偽善だ……」

ぽつりと、リナは呟いた。
それで住民が喜ぶとでも思ったか。感謝するとでも思ったか。
この人たちの生命線を絶ったことには変わりなく、この人たちを難民にしたことには変わりはないのだ。
プラント寄りのアフリカ共同体で散々ザフトを苦しめてきた”明けの砂漠”を受け容れる国など、どこにも無いだろう。他の連邦にも難民を受け入れる余力などない。
この不毛の地であちこちを追い払われ、放浪し、そして朽ち果てる。そんなものが目に見えている。
まさか狙ってやったことなのか? だとしたら、とんでもない悪党だ。

「俺の知ってる砂漠の虎は、そんな悪党じゃなかったがね」
「ですが、こんな生殺し……ボクには理解できませんよ」
「生きてりゃなんとかなる。それに正規軍の報復攻撃なら、警告なしで虐殺……なんて、旧世紀の大国なら平気でやってたもんさ」

それは知っている。調べなくとも、ニュースでよくやってたし。
本当なら、ここでお互いの無事を確認することもできずに、あの炎の街で焼かれているか銃殺されていたんだろう。
遅れてやってきた”明けの砂漠”が、家族の再会に喜んだり抱きついたりをしていたけれど、村人達の報告に、やがて曇っていく。
カガリとお付きの色黒の巨漢(改めてみるとランボーみたいなやつだ)も到着して、二人とも状況に困惑している。
街から上がる炎と黒煙に、死体だらけを予想していたのだろう。被害からしてそれだけの惨状であってもおかしくないからだ。

「皆生き残って……? でも、村が……!」
「カガリ。……タッシルは焼けて無くなったけど、誰も死んでいないよ。だから、大丈夫」

リナは静かな口調で、ポジティブを意識して報告する。
このお嬢様は、先日話していてかなり直情的で激情な人間だとわかったからだ。そして反ザフトの人間でもあると。
もしここでけしかけるような真似をしたら、それこそカタパルトを履いて飛び出すような勢いで出て行くに違いない。

「そ、そうか……皆生きているのは、よかった」

ホッ。なんとか上手い具合に軟着陸させることができた。この子ちょろい。遅れて、キラが駆け寄って来た。

「リナさん! カガリ! これは……?」
「キラ君。救助活動はしなくてもいいみたいだ。村の人たちは、あそこにいる」
「そうですか……よかった。でも」

声は尻すぼみに小さくなって、滅んだタッシル村を悲しげに眺める。よかった、このキラは空気を読めるキラだ。

「”明けの砂漠”の人たちの村が……」
「あいつら、許せないんだ! 私達の目を逃れて、こそこそと力の無い者を攻撃して、勝った気でいる! 卑怯者の集まりだ!」

カガリはここぞとばかりに、ザフトを罵倒する。
カガリは、本来この”明けの砂漠”のメンバーでもこの土地の人間でもないのに、怒り狂っている。義憤だろうか?
その橙色の瞳に浮かぶ光は純粋で、綺麗だ。……だけど、一国の首長の娘としては……綺麗過ぎる目だ、と思う。
果たしてこんな目をした子が、狡猾極まる外交や、並み居る老獪な政敵を相手に立ち回ることができるのだろうか?

「……とはいえ、”明けの砂漠”はどこまでいってもテロリストなんだ。こういう報復は予想してなかったのかい?」
「くっ……そ、そのテロリストと、正規軍が手を組んでも良かったのかよ?」

むぅ。なかなか鋭い切り返しだ。

「ボク達も生き残るのに必死なんだよ……それに、現地民の協力を得るのは決して正道に悖ることじゃない。
東西戦争の大和民国しかり、インドネシア独立の日本軍しかり、現地民の協力を得るのは立派な戦略なんだ」
「そ、そうか……」

昔の戦争の歴史を引っ張り出され、カガリは納得してしまうと共に、微妙に怒りが鎮火した。おぉ、単純。
大和民国は現地協力っていうか現地徴用したんだけどね。カガリが歴史に疎い子で助かったよ!
……あ、キラが片眉を上げて訝しげにこっちを見てる。知ってたっぽい。何も言うなよ! しー!

カガリの怒りはやや鎮火したが、それで事態が丸く収まったわけじゃない。実際に生活の場を失った人々は力なくうなだれて、絶望に打ちひしがれている。
「全員生き残ってはいるけど、全て失った……」「俺達、これからどうやって生きていけばいいんだ」
……そんな怨嗟の声が、あちこちからあがってくる。怨嗟が怨嗟を呼び、収束し、そのうめき声は怒声へと変わっていく。

「あいつら……もう勘弁できねぇ!」「今すぐにでも仕掛けるぞ! そう遠くには行ってないはずだ!」

”明けの砂漠”のメンバー達が口々に喚いて立ち上がり、装甲車に乗り込んでいく。先ほどの前線拠点にある火器を持ってくるつもりだ。
まずい、こいつらはさっき喧嘩した時も感じたけど、かなり沸点が低い。リナは焦った。それはアークエンジェルのクルーやサイーブも同じで、必死に制止している。

「ば、バカな事を言うな! そんな暇があったら怪我人の手当てをしろ! 女房や子供についててやれ、そっちが先だ!」
「そうだ! わざわざやられに行って女子供を泣かすつもりか!?」

サイーブに続き、情に厚い航海科長のエスティアン中佐が叫ぶ。だが、彼らの暴走は止まらない。

「地球軍に何がわかる! 俺達が生き延びるためには、戦わなきゃいけないんだ!」
「俺達に虎の飼い犬になれってのか、サイーブ!? ごめんだな!」
「ばっかやろう、てめえら! ――ケーニヒ二等兵!」
「は、はい!」

エスティアン中佐が叫ぶと――なんと、予めトールが乗っていたダガーが、走り出した装甲車の前に立って通せんぼをした。

「なっ!? MSが!」

いつの間に。リナを含め、航海科以外の人間が全員驚いた。もちろん装甲車に乗り込んだ”明けの砂漠”のメンバーも、立ちはだかる地球軍のMSに眼を丸くしている。
トールのダガーは腰をためるようなポーズをとって、シールドを横に構えている。あれで装甲車の針路を妨害する意図のようだ。

「と、止まってください! アンタ達のリーダーだって、止まれって言ってますよ!?」

外部スピーカーで叫ぶトールの声は、震えている。しかもバズーカを手にしている。
あれで制止するつもりか。まさか、バズーカで脅すつもりか。ありえない。マンストッピングパワーとしても威力がありすぎる。
爆風で足止めするにしても、余程上手くやらなければ、ザフトの攻撃ではなくダガーの攻撃で彼らを殺すことになる。
実際に撃った経験がないトールでは、不可能だろう。リナは焦って、声を張り上げる。

「け、ケーニヒ二等兵、何をしてるんだい!? この人たち相手に戦争するつもりか!?」
「トール!? やめるんだ!」

リナとキラが駆け寄ろうとすると、エスティアン中佐が手で制した。驚きの表情で見上げて、何を、と言おうとした。

「俺がやらせた! あいつに任せろ!」
「で、でも……!」

エスティアン中佐は、何を考えているのか? 上官の命令なので、一歩引き下がって成り行きを見守るしかない。
予想通り、怒りに頭が沸騰している”明けの砂漠”のメンバーは、ダガーの行動とバズーカの武装を見て敵対行動だと思い込んで、武装を構えるではないか。

「地球軍が、俺達の邪魔するんじゃねえ! そっちがその気なら、容赦しねえぞ!」

浅黒い肌の少年――アフメドらしい――が、ロケットランチャーを構え、撃った! 

「ケーニヒ! シールドをしっかり保持しておけよ」
〔りょ、了解……うわっ!〕

エスティアンが通信機を手に、トールに指示を出す。その指示の通りしっかりシールドを構えると、それに弾体が直撃し、爆発。ダガーが揺れる。
が、所詮は歩兵の携行火器。ジンの76mm突撃銃にも耐えるABシールドを貫通することはない。予想通り、シールドが少し汚れる程度で終わる。
しかし、実戦経験のないトールを怯ませるには充分だった。がっちりと亀のようにシールドを構えるトールのダガーの横を、”明けの砂漠”のメンバーを載せた装甲車が砂煙を挙げて通り過ぎていく。
まずい。あれでは行ってしまう!

「ケーニヒ! 構わん、撃て!」
「中佐!?」
「馬鹿、やめるんだ!!」

リナが慌て、サイーブが怒鳴る。その間にも、はい、とトールが返事をすると、何の躊躇もなく通り過ぎた装甲車の背に狙いを定め、バズーカを発射!
バズーカの後ろの排煙噴出口が盛大にバックファイアを噴出して、弾体が発射! 細い煙を曳いて、弾体が装甲車の後ろまで迫り――

「うおおぉぉ!!?」

装甲車に乗った”明けの砂漠”のメンバーが悲鳴を上げ、やられる、と腕で顔を庇った、直後。
バッ!
弾体は炸裂することなく、分解。装甲車丸ごと包み込んでいったそれは、装甲車をスピンさせ、転倒させる。
乗っている何人かの人間が外に投げ出されたようだが、柔らかい砂漠なので、無傷ではなかろうが大惨事には至らない。
それよりも、あれは――

「キャプチャーネット……!?」
「どうだ、俺が提案した新兵器! 昔の経験が役に立ったな!」

エスティアンがガッツポーズをして、歓喜を露にしてる。一体どんな経験をしたんだろうか。
ていうかエスティアンがこの事態を予想していたとは思えないのだが、一体何を想定して提案したんだろう?
リナは思い切ってそれを聞いてみると、エスティアンは体を屈ませ、ちょいちょいと指招き。
何ですか? と、リナはとぽとぽと歩み寄ると、顔をリナの耳に近づけてささやいた。

「”明けの砂漠”が俺達と敵対行動をしたときのために、奴らに内緒でマードック曹長に作っといてもらったんだよ。
テロリストっていうのは恨みを買うと根が深いからな。傷つけずに無力化するのが一番なんだ」

なるほど。リナは納得して頷いた。……直情的で手の早そうなエスティアン中佐でも、結構考えていたようだ。
でも、もう一つ疑問が残る。

「……昔の経験ってなんですか?」
「ああ。俺、元々はストリートチルドレンだったんだ。その時色々あって、キャプチャーネットで捕まった経験があるってわけだ」

……えー。さらっと言われても。しかもキャプチャーネットを使われるって、どんな悪さをしたんだろう。
リナがエスティアンの話に百面相をしている間にも、ダガーが動く。
遠くまで行ってしまい、的が小さくなった装甲車を追いかけようと、トールのダガーが地面を蹴ってバーニアから火を噴いてジャンプする。
たかが装甲車が、MSに狙われて逃げ切れるはずがない。ダガーは易々と一台一台追い込むと、次々とキャプチャーネットを撃ち込み拘束していく。
やがて暴走していない”明けの砂漠”のメンバーが追いつくと、武器を取り上げて無力化し、サイーブの前に連れ出された。
そこに、アークエンジェルの幹部士官やパイロット達も集まる。

「お前達の気持ちはわからなくもない! 俺達が居ない間に、街を焼かれたんだからな……死ぬほど悔しいのは、俺も同じだ!!」
「なら、なんで行かせてくれないんだ!」「俺達は泣き寝入りするつもりはないぞ!」「サイーブ、腰抜けになったか!?」

サイーブの言葉に、暴走したメンバー達が次々と非難の声を挙げる。
しかしサイーブは悲しげに表情を翳らせたあと、更に声を張り上げた。

「俺が嫌いな地球軍と手を組んだワケを、ちったぁ考えろ! 俺達だけじゃ、どうしたって大きな犠牲が出る。
これ以上家族を悲しませないためにも、犠牲を少しでも減らすためにも、地球軍の奴らと連携してザフトを叩かなきゃならん!
お前らも怒ってるだろうが、一番飛び出して行きたいのは俺なんだ! なのに、お前らが俺の努力を台無しにして先走って、そのうえ先に逝っちまったら……残った家族にどう顔向けするつもりだ!
仇討ちもいい! が、一番大事なのは、家族を悲しませないことだ! 俺達の目的を見失うな!!」
「…………」

サイーブの必死の説得に、メンバー達は自分達の暴走を省みて、静まり返る。
皆、命を捨てたいわけじゃない。ただ怒り狂い、そして「命を賭ける」という行為に酔っていたのだ。
そして、サイーブの考えを見通せなかった。なんで地球軍を助け、組む気になったのか。それが一番のミスだった。
アフメドが顔を上げて、”明けの砂漠”にとって地球軍の代表と認識されたギリアムを見上げた。

「……お前らと組んだら、勝てるんだな?」

ギリアムはその問いに、真っ直ぐ目を向ける。

「……私達を信用してほしい。確かに、現在地球軍はザフトに対し苦しい状況に立たされている。
だが、我々は常に、勝つための努力を怠ったことはない。そして、その努力は実りつつある。先ほど諸君らを引き止めたMSが、その結果の一つだ」

そのMSを指されて、メンバー達がMSを見上げる。丁度トールがコクピットが下りてくるところだったので、え、え? と、自分を指して困惑してた。
トールくーん……もっと堂々としておくれよぉ。リナは内心頭を抱えた。

「……なんか頼りなさそうだな」

メンバーの一人が、リナの心情を代弁した。それでも、ギリアムは自信に満ちた表情を崩さずに言葉を続けた。

「彼は我が艦のパイロットの中でも末席で、パイロットの任に就いて三日と経験も浅いが……それでも、ザフトを倒すために必死に努力し、順調に腕を上げている。
我が艦のパイロット並びにクルーは、優秀で誠実だ。そして、MSもザフトのそれになんら引けを取ることはない。それは、その戦いを常に傍で見守り、生還した彼らを迎えている私が保証する。
だが、我々は宇宙から来た。当然、この土地には不慣れだ。ザフトに確実に勝つためにはどうしても、この土地に住まう諸君らの知恵と力が必要だ」

言葉を結びながら、目の前で膝を折っているアフメドに、視線の高さを合わせるように屈み、真っ直ぐ視線を向けた。
既に、アフメドら”明けの砂漠”は、ギリアムに飲まれつつあった。ギリアムの自信に満ち溢れ、謙虚な姿勢も崩さない彼に、感動に近い感情を覚えていた。

「……改めて、私達を信用し、手を組んでいただけないだろうか? ……よろしく頼む」

ギリアムの鋭い眼光が、メンバー達を見据えた。威圧するでなく、気負うでもなく、ただ、信じろ、という確固たる眼差し。
メンバーは黙りこくる。言葉が出ないのだ。弱腰で、事実負けっぱなしの地球軍の士官に、こんな人物がいるとは思わなかった。
その様子を見て、サイーブは肯定と受け取り――パンッ、と手を打ってその雰囲気を払った。

「よし! 今日のところは、家族と一緒にいてやれ! それがお前らの、目的のための手段だと思え。
俺達の村を焼いた憎きザフトを倒すためにも、ゆっくり休めよ! わかったら返事をしやがれ!」
「……おう!!」

暴走したメンバー達は意気を新たにして応え立ち上がり、家族の元に走っていく。
ギリアムは彼らの背中を見送り、一触即発の事態を切り抜けたことに、内心安堵して密かに吐息をつく。
しかし彼らに待っているのは、決して少なくない犠牲を出すであろう泥沼の戦いだ。
いくら士気旺盛であろうと、兵器と人間の差がある。それを地の利と戦術で、どこまで差を埋めることができるか。
コーディネイターのパイロットとG兵器、アークエンジェルといった最新鋭の兵器を保有する我々とは比べ物にならないほどに不利な状況に立たされることだろう。

(だが、やり遂げねばならない……。それが、第七艦隊を差し置いて艦長を任せられた俺の義務だ)

軍人としての矜持が、ゲリラに頼るなと囁いているが……アークエンジェルとストライクをアラスカに送り届けるためには、手段を選んではいられない。
たとえ、何千何百という現地民を戦いに煽動し、見殺しにする結果になったとしても。
アークエンジェルとストライクがアラスカに届けば我々の戦闘データが地球軍の研究開発に大いに役立ち、結果的に未来の多くの人々を救うことになるはずだ。
そう信じなければ、こんな業を一人では背負えない。

ギリアムが冷徹な胸中で奮起するゲリラを眺めているとも知らずに、リナは、一触即発だった雰囲気が緩んで、はー、と溜息をついた。
よかった。ギリアムの演説がなければ、また暴れだすんじゃないかと思った。さすが我らが艦長だ。

「あれが、地球軍の士官なのか?」

一部始終を見ていたカガリが、驚き混じりの声をかけてくる。どうやら、彼女もメンバー達と同じことを思っていた一人のようだ。
その表情には感心と驚きがあった。気のせいか……少し、尖った部分が丸くなったように感じる。

「……うん、そうだよ。我らが艦長さ」
「地球軍っていうのは、もっと、卑屈で保守的な奴らだと思ってた……」

確かに大半の地球軍の士官はそうかもしれない。そもそもこの戦争の発端からして、劣等感で戦ってるところがある。
もちろん全員が全員、感情だけで戦っているわけではあるまいが、冷静で、打算と妥協で戦わない地球軍軍人がどれだけいるやら、答えに窮するところだ。
……でも。

「少なくとも、ボク達は感情に囚われず、絶望せず、諦めず、粛々と任務をこなす軍人だと思っている。
艦長は、その見本かな。だからボクは、艦長を尊敬してる」
「僕も、リナさんやムウさん、アークエンジェルの皆に色んなことを教えてもらった。
自分の立場や、状況に甘えてちゃいけない。自分ができることをするしかないって。だからこうして皆と一緒に戦えるんだ。
……それに、守りたい人達がいる。それって、力を与えてくれることなんだ、って、気付かせてくれた。
地球軍全体が、良いか悪いかなんてわからない。けど、僕に覚悟と居場所をくれた、仲間なんだ」

リナとキラは自信を持って答えた。リナは艦長に、軍人としてあるべき姿を見ているから。
キラは、アークエンジェルのクルー全員が、仲間だと思えるようになった。それはキラにとってかけがえのない成長だ。成長させてくれた仲間には、素直に感謝している。
軍人としての職務を全うするため、自分の仲間を守るため、ギリアムは、リナは、キラは戦っている。その姿勢に、カガリは驚く。

「……お前ら、良い奴らなんだな」

だから、言葉が素直に胸に染み込む。自分は不器用だから、この胸の中に溢れる気持ちを言葉にできないけれど。
カガリは自分が思ったことを、素直に言葉にするだけだった。


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