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No.36981の一覧
[0] 【機動戦士ガンダムSEED】もう一人のSEED【改訂】【オリ主TS転生】[menou](2013/06/27 11:51)
[1] PRELUDE PHASE[menou](2013/03/13 20:07)
[2] PHASE 00 「コズミック・イラ」[menou](2013/03/16 22:26)
[3] PHASE 01 「リナの初陣」 【大幅改訂】[menou](2013/06/27 11:50)
[4] PHASE 02 「ジャンクション」[menou](2013/06/27 17:13)
[5] PHASE 03 「伝説の遺産」[menou](2013/07/21 18:29)
[6] PHASE 04 「崩壊の大地」[menou](2013/07/21 19:14)
[7] PHASE 05 「決意と苦悩」[menou](2013/08/25 16:23)
[8] PHASE 06 「合わさる意志」[menou](2013/08/17 16:11)
[9] PHASE 07 「ターニング・ポイント」[menou](2013/08/29 18:01)
[10] PHASE 08 「つがい鷹」[menou](2013/09/11 10:26)
[11] PHASE 09 「モビル・スーツ」[menou](2013/09/16 14:40)
[12] PHASE 10 「流星群」[menou](2013/09/23 23:47)
[13] PHASE 11 「眠れない夜」[menou](2013/10/01 16:10)
[14] PHASE 12 「智将ハルバートン」[menou](2013/10/06 18:09)
[15] PHASE 13 「大気圏突入」[menou](2013/10/17 22:13)
[16] PHASE 14 「微笑み」[menou](2013/10/22 23:47)
[17] PHASE 15 「少年達の向く先」[menou](2013/10/27 13:50)
[18] PHASE 16 「燃える砂塵」[menou](2013/11/04 22:06)
[19] PHASE 17 「SEED」[menou](2013/11/17 17:21)
[20] PHASE 18 「炎の後で」[menou](2013/12/15 11:40)
[21] PHASE 19 「虎の住処」[menou](2013/12/31 20:04)
[22] PHASE 20 「砂漠の虎」[menou](2014/01/13 03:23)
[23] PHASE 21 「コーディネイト」[menou](2014/01/29 22:23)
[24] PHASE 22 「前門の虎」[menou](2014/02/11 21:19)
[25] PHASE 23 「焦熱回廊」[menou](2014/02/15 14:13)
[26] PHASE 24 「熱砂の邂逅」[menou](2014/03/09 15:59)
[27] PHASE 25 「砂の墓標を踏み」[menou](2014/03/13 20:47)
[28] PHASE 26 「君達の明日のために」[menou](2014/03/29 21:56)
[29] PHASE 27 「ビクトリアに舞い降りる」[menou](2014/04/20 13:25)
[30] PHASE 28 「リナとライザ」[menou](2014/04/27 19:42)
[31] PHASE 29 「ビクトリア攻防戦」[menou](2014/05/05 22:04)
[32] PHASE 30 「駆け抜ける嵐」[menou](2014/05/11 09:12)
[33] PHASE 31 「狂気の刃」[menou](2014/06/01 13:53)
[34] PHASE 32 「二人の青春」[menou](2014/06/14 20:02)
[35] PHASE 33 「目覚め」[menou](2014/06/30 21:43)
[36] PHASE 34 「別離」[menou](2015/04/20 23:49)
[37] PHASE 35 「少女が見た流星」[menou](2015/09/16 14:36)
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[36981] PHASE 15 「少年達の向く先」
Name: menou◆6932945b ID:bead9296 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/10/27 13:50
まず最初に感じたのは、首から下が無いかのような、奇妙な浮遊感。
現実感の無さは、自分の位置を見失わせた。ふわふわとして、拠り所の見つからない無重力感。
いつだってそうだ。
具体性の差異こそあれど、自分はいつも自分の居場所の無さを感じていた。それは、アスランと月面都市で別れてから、アークエンジェルに乗り込むまで、ずっと。

主体性の無さは自覚していた。だって、必要がなかった。
いつだって僕達をトールが引っ張ってくれたし、ノリの良いミリアリアがそれを押し上げて。温和なサイがフォローし、カズィが客観的で冷静な意見でブレーキ役を務める。フレイは皆のマドンナだ。
自分はそこそこメカについて詳しい、ただのメカオタクだ。
何か具体的なことを言って、皆の行動に大きな影響を与えたことが無かった。皆の人の良さで友達の輪に入っていたけど、それでいいのかって思ったことだってあった。
でも、そう強く思ったことはない。不満に思ったこともない。

いいんだ。皆が笑顔で、楽しくやれるなら。僕はその中にひっそりと混じって、友達として皆と笑い合えるなら。それでいい。
皆、僕の大事な友達だ。ずっと……学生が終わったとしても、友達として居たい。そう言えるくらいには、温かい場所なんだ。
ずっと、そうしていられたらよかったのに。僕は、大きな変革は望んで居なかったのに。

爆炎。悲鳴。崩れるヘリオポリス。逃げ惑う人達。トール、ミリアリア、サイ、カズィ――!
体が引っ張られる。炎が通り過ぎる。……アスラン! 遠のいていく。赤い機体、イージスに、アスランの姿が吸い込まれた。

自分の手は、いつの間にか操縦桿を握っていた。アスランが行ってしまう。ハーネスで動けない!
伸ばした手は、無骨な鋼鉄の手になっていた。白いボディ。ストライク。宇宙をデュアルセンサーで見る。
四人が叫んでいる顔が見えた。その先には、白い船体。アークエンジェルが虚空を飛んで行く。
その船体に、また吸い込まれる。格納庫。体がハンガーに押し込まれた。

ハッチが開けられる。格納庫の眩しいライトが、視界を白く染める。
その眩しさに目を細める暇もなく、誰かの姿がコクピットハッチの向こうに浮かぶ。小さな子供だ。
手を差し伸べている。一瞬、躊躇う。その手は、どこか遠くへ……恐ろしいほど遠くへ連れて行かれそうな気がしたからだ。
寂寥感と、変革への畏れ。それが躊躇させる。でも、その手の向こうに、四人の顔が浮かんでは消える。
四人を守りたいなら、手を取らないといけない。僕にしかできないこと。

僕の力で、守ることができるなら。

僕は、畏れてはいけない。固い決意が必要だけど。やらなくてはいけない。
まだ何も分からないけれど……僕は進むために。その小さな手を取った。



◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ 



「……ら、くん」

走馬灯が過ぎ去るのは一瞬で、眩暈のような闇が目の前を覆うのも一瞬。ただ、晴れるのにはじれったいほどの時間がかかった。
靄がかった頭。その靄をなかなか振り払うことができず、もどかしささえ覚えながらも、焦る気持ちは無かった。
自分が何をしているのかを思い出そうと、何度も記憶の咀嚼を繰り返す。ゆっくりと、思い出した。
そうだ、ここはアークエンジェルの艦内で、今は……なんだっけ?

「きら……くん」

また、すぐに思い出せた。フレイを見送った後だ。アークエンジェルはこれから大気圏突入をするんだった。
そうだ、ストライクに乗らないと。あれ? ストライクってどこにあるんだっけ? 思い出せない。
まあいいや、そろそろ反応してあげよう。そうしないと可哀想だし。

「キラ君!」
「リナさん」

さっきから自分を呼んでる声。気付いていたよ。気付いていたんだけど、少しボーッとする時間くらい欲しい。
疲れてるんだからさ。ストライクで皆を、リナさんを守ってるじゃないか。だから、さ。
その声の主のリナが、自分の目の前で怒り顔で立っている。今彼女は、オレンジ色のノーマルスーツを着ている。
丸い目尻を精一杯吊り上げて、頬を膨らませながら唾を飛ばしてくる。あ、頬に唾が当たった。もう、汚いな。

「ボーッとしてる暇はないよ! フレイは見送ったんだし、ボク達も出撃しなきゃ!」
「わかってますよ。もう、リナさんは怒鳴ってばかりだな」
「なっ……!」

自分が少しだけ反抗すると、リナさんが大きい目をもっと大きく見開いて、あっけにとられてる。あ、いい気味。
それにしても、凶悪なくらいの小ささだ。ちびっこ、と称して差し支えない小ささだ。この人本当に二十三歳なのか? 実は十歳児なんじゃないか? と、キラは常々思っている。
だから、偉そうにされるとたまにイラッとくることがある。なんか生意気な子だな、って思う。

「ぼ、ぼぼぼボクに、そんな口利くなんて……き、き、キラ君は、偉くなったね!」
「そうかな?」
「また生意気な言い方して! いいから、早くストライクで出撃して!」

リナさんをもっと怒らせてみよう、と思って、とぼけてみる。思惑どおり、リナさんは頭から蒸気を噴出しそうなくらい怒り始めた。
そんなに怒ってて飽きないのかなぁ。血圧上がるよ? 怒り過ぎると美容と健康に悪いらしいし。

「余計なお世話だよ! それに、キラ君が怒らせないようにすればいいんだし……部下の管理をするのは、上官として当然で――っ!?」

その怒りっぽい口が、突如閉ざされた。ふわっと、リナさんの身体が少し浮いて、トスッと自分の身体に寄せる。
腕の中で、リナさんの柔らかい体が硬直するのを感じた。くしゃ、と、サラサラの黒髪を指でくすぐって、リナさんが使ってるリンスの香りが鼻をくすぐる。
温かい。唇、柔らかい。でも小さいや。さすが十歳児。でも乳臭い匂いがしない。抱きしめるには手ごろな大きさだ。

「き、ら、……んむ、あふっ……ぅ……」
「……」

口の中で、リナさんの声が響く。それを強制的に黙らせようと、舌をリナさんの唇の中に割り込ませ、ちゅぅ、と唾液を少し啜った。
びくん、と彼女の身体が震える。リナさんのくぐもった短い悲鳴。でも、口の中にごく小さく響いただけ。
抵抗してこない。彼女の体温が、小動物よろしく上がっていく。あったかい。腕の力を強めると、彼女の控えめな胸が自分の胸に押し付けられた。
あぁ! これが、リナさんの胸なんだ!
胸中で喝采をあげて、抱きしめる力は変えないまま唇を離した。
ぷは、と、どっちのものかわからない呼吸が聞こえる。つぅ、と二人の唇を繋ぐ唾液の橋が架かった。

「……きら、くん……こんな、こと、して……ボクが、ゆるす、と……」

彼女の瞳が揺れてる。潤ってる。怒ってるって顔じゃない。ふわっとした頬が、怒気とは違う色でほんのり染まってる。
それは……恋愛経験の少ない自分でもわかる、恋する、表情。

「許してもらう必要……ないんじゃないですか? もうフレイも行ったし……いいじゃないですか」
「……ボクは……、ンッ、はぁ……ぼ、ぼ、ボクはぁ……っ」

嗚咽を零すように、彼女が声を零す。吐き出される熱い吐息が、首元と顎をくすぐってくる。気持ちいい。
泣きそうな表情で視線をさまよわせている彼女。何か、迷ってるみたいだ。……男の人に抱かれたことないのかな? 見た目どおり、なんだかすごく初々しく感じる。
そうか。だから、迷ってるんだ。初めてだし、どうしたらいいのかわからないんだろうな。初めてって点では僕も同じなんだけど、こっちのほうが年上な分有利だ。ほら、彼女は十歳児だし。
なら、彼女の迷いを強引にでも払ってあげよう。僕になら、できる。
根拠も無く湧いてくる自信に背中を押されるがままに、彼女のノーマルスーツを脱がし始めた。
しゅる、とノーマルスーツのファスナーは、彼女のすんなりとした滑らかな身体を滑り落ちていく。ふわ、と彼女の体温が溢れてくる。

「キラ君……!? だ、だめ……!」
「大丈夫……僕に任せて。リードしてあげるから」

男らしいこと言った、僕。彼女も、戸惑いながらも潤った瞳で見上げてくる。

「キラ君……ま、まかせて……いいんだね……?」
「うん……」

そうして、彼女の肌をノーマルスーツから晒しながら、彼女の幼い裸身に手を沿え、自分の服にも手をかけて――


- - - - - - -


サイと一緒に話し込んでいると、サイが勤務している船務科の上官に呼ばれて行ってしまった。
名誉の負傷を負い、まだ休んでいいというムウからのありがたいお言葉があったため、こうしてキラの傍についていたのだ。
ただ、キラはもう小康状態で、手間のかからない病人だったために、ただ傍にいてキラの顔を眺めているだけだったけれど。
それでも飽きもせずに、ずっとキラの寝顔を見ていた。イケメンだなぁ、と思ったりして、じっと、見ていた。

昴の頃なら、イケメン死ね氏ねじゃなくて死ねみたいな感情しか覚えなかったんだろうけど、女として産まれて二十四年、感覚は既に女性になっていたリナは、キラのような甘いフェイスがとても好ましく感じるようになっていた。
なんていうか、綺麗な風景を見てるのと同じ。見てて飽きないっていうか、すんなりと心の隙間に入ってくる。そんな感じがする。
そうして彼の顔を、じぃ……と眺め、たまに手を握ったり、さらさらと額を撫でてみたりして、五時間もの時間を過ごしていると、

「あ……」

ベッドに寝ているキラが、喉の奥から漏れるような寝言を漏らして身体を震わせるのを見て、咄嗟にキラに顔を寄せた。

「キラ君……?」
「トリィ! トリィ!」

リナと一緒にキラの傍に居た、鳥型ペットロボット「トリィ」も、キラの覚醒に気付いたらしく騒ぎ立てはじめた。
ううん、と呻いて、キラがゆっくりと目を開けていく……彼の視界にまず映ったのは、顔を寄せてくる、リナの顔。

「リ、ナ……さん……? 僕は……」
「あ、まだ起きちゃ駄目だよ。あんなことがあったばかりなんだから、安静にしないと……」

急に起き上がろうとしたキラを手で制して、落ち着かせる。
まだ起き抜けのせいか、寝覚めが良くなかったのか、キラはぼうっとしたままリナを見て、それから瞬きをする。
リナはその表情を見て、やっぱり熱中症みたいなものになってたのかな、と思って心配になって少し表情を翳らせた。

「じゃ、じゃあ、ここは……?」
「うん、地球だよ。無事に降りられたんだ。キラ君も無事でよかった」

にこ、と微笑むリナ。キラにはその微笑が眩しくて、はい、と弱々しく頷くだけだった。

「……そうだ、喉が渇いてないかい? 飲み物を持ってこようか?」
「お願いします。……」
「?」

キラが何か言いたげに、こっちを見てくる。なんだろう?

「キラ君?」

問いかけながら、顔を近づける。すると、キラが目を見開いて、まるで茹でダコみたいに顔を真っ赤にしてる。

「……!! あ、いえ、なんでもないです……!」
「う、うん。じゃあ水取ってくるね」

絶対何かあるテンパり方をするキラがとっても気になったけど、水を取ってくるほうを優先した。
キラに水を渡して、リナも水をちびちびと飲みながら、ずっと目を向けてこないキラに、やっぱり不審に感じる。
なんだろう。もしかしてこの五時間、ずっと起きてたとか? まさか。あの寝息は本物だった……と思う。
そう思おうとしたのは……もし寝たフリだとしたら、恥ずかしすぎるから。寝てる異性の手を勝手に握ったりとか、はしたない。
今もキラはこっちをちら、と見ては落ち着かなさそうに視線を外す。何があった?

「……変な夢でも見た?」

寝てる間に起こったことといえば、それしかなさそうだけど。

「!!!!」

当たったっぽい……
キラの頬がみるみるうちに紅潮して、目を見開いている。なんともわかりやすい。

「どんな夢……見たの? 悪い夢?」
「そ、そんなことはないです!!」

なんでそんなに必死に否定するのかなぁ? ますます気になる!
リナは悪戯っぽい笑みを無意識に浮かべて、出歯亀よろしく身体を寄せて近づいてくる。

「ね、ね、教えてよ。ボクとキラ君の仲じゃないかぁっ。恥ずかしい夢でも、皆には秘密にするからさ……?」
「ど、どんな仲……う、うわ、あわぁ……!」

猫撫で声で近づいて、小さな肩で突くように寄せていく。するとキラは面白いほどに動揺して、身体を反らしていって……ベッドの隅っこに追い詰められた。
じぃー。リナの大きな翠の瞳が、キラを見上げる。リナは、キラの動揺してる顔が可愛いなぁ、とか思ったりして、その動揺する顔が見たくて、さらに接近していく。
キラはといえば、その近い目とか、唇とか、聞こえる息遣いとか、気まずすぎて目を合わせられない!
しばらく奇妙なにらめっこが続いて……リナは前触れもなく、くす、と笑った。

「……なんてね? 人の夢を強引に聞きだすなんてこと、しないよ。ふふ、焦った?」
「あ……り、リナさんっ!」
「あはははっ。じゃあ、ゆっくりね。あ。お友達には君が起きたこと、知らせてあげるからさ」

リナはすぐに立ち上がって、ばいばい、と手を振りながら医務室を立ち去っていく。
キラは、おちょくられた、と残念そうに自覚して、はぁぁぁ、と長いため息をつく。
よかった、シーツの膨らみには気付かれなかった。けれど……彼女は余裕ある大人だな、と、思い知らされた。

「現実じゃ、こんなものか……」

夢と現実のギャップの虚しさに、キラは残念そうに呟きを漏らしたのだった。

「トリィ?」

その呟きを聞いていたのは、トリィだけだった。


- - - - - - -


リナは、キラの友人達に彼が目覚めたことを教えてあげてから、ゆったりとした足取りでメイン格納庫に向かって歩いていた。
そういえば、第八艦隊と合流した時に補給物資が届けられたらしいのだ。先遣艦隊と合流した時も補充があったし、流浪の艦艇にしては好待遇だなぁ、と少しご機嫌なリナだった。
まあ地球軍に唯一残されたG兵器と、高級なMS搭載型汎用艦、貴重な先行量産用MSが一つにまとまっていれば、優遇もされるのかな。

そう考えた後、ふと、リナは夢で見た内容を思い出した。
フィフスの視点だったらしい、あの夢。ただの夢なのかもしれない。だから、それほど気にしないでもいいのかもしれないのだが。

マカリ、という青年の顔を思い出して、ぞっと背筋を震わせた。

あれは、およそ二十四年ぶりに見た……『空乃昴』の顔ではなかったか?
自分が死んだ歳は十六歳で、あれはもっと歳をとっているように見えたけど、あれが成長した後の顔だと言われても、何も違和感がない。
そして、リナと同じ顔をした、フィフス。あれも、成長した自分の顔のように思える。

『空乃昴』と『リナ・シエル』

この二人が、自分と別に居た。しかも夢の内容が現実なら、おそらく同じ部隊で一緒に居る。悪趣味な冗談だ。
今自分は記憶として『空乃昴』を持っていて、肉体は『リナ・シエル』だ。
なんで自分に似たのが二人もいるんだろう? そこに何の意味がある? 存在に意味を問うのはむなしいことだけど、彼らの存在が気になってしょうがなかった。

「……やめとこ。ただの似てる人だよね。考えるだけ疲れる……」

はあ、とため息をつきながら、いつもの癖で、リフトグリップを手にしてトリガーを引いて……ゆっくりと加速し始める。

ずり。
「え」

あれ? そういえば身体が浮いてない。腕だけが引っ張られていく。

ずりずりずりずり。
「あ、わわわ!」

小さな身体がリフトグリップに引きずられていく。さいわいリフトグリップはあまりスピードは出ないけれど、歩くよりは速い。
ブーツのかかとを数歩ほど床に削られてから、離せばいいことを思いついて咄嗟に手を離した。スーッとリフトグリップだけが通路を滑っていく……。

「……!!」

うっわ、恥ずかしい!
リナは一人顔を真っ赤にして、きょろきょろと落ち着き無く碧の瞳を周囲に向けた。誰も見てないよね?
見回していたら、後ろから歩いてきた二人の二十代半ばくらいのクルーが目に入った。階級は……二人とも伍長。
み、見た? ……二人とも、何食わぬ顔で歩いてるけど……。それとなく声をかけてみよう。

「……やあ」

あ、やばい。声がちょっと上ずった。

「あ、シエル中尉」
「調子はいかがですか?」

サッと伍長二人が敬礼をして、答礼する。階級が下の者から敬礼するのは軍の常識だ。
リナが敬礼を解くと、二人も敬礼をやめる。

「うん。軽い脳震盪で済んだみたいだからね。今は大丈夫」
「そうですか、それはよかった……あれ? シエル中尉、まだ中尉なんですか?」

突然の哲学的な質問だった。

「どういうこと?」
「艦が地球に降りてから、クルー全員に昇進辞令が渡されましたよ。シエル中尉は知らないんですか?」

は!?

「いや、ボクは医務室で寝てたし……そんな招集かかってた?」

その言葉に、二人が顔を見合わせた。あ、哀れそうな目でこっちを見るな!

「かかってましたよ。まあ、中尉は名誉の負傷ですから、仕方ないといえば仕方ないんでしょうけど……」
「そういえば招集のときにも、中尉には別で辞令を渡すって言ってましたよ。艦長にかけあってみては?」
「わ、わかった」

うわ、この短期間でどれだけ昇進するんだろ。
リナは格納庫に向ける足を翻して、そのまま艦長室に向かった。

それを見送った、二人のクルーは……リナの背中が見えなくなった頃に、

「中尉、すっかり無重力に慣れきって……」
「和んだ……」

しっかり見てしまっていた二人だった。


- - - - - - -


艦長室での辞令の受け取りは、すぐに済んだ。
艦長と二人だけの簡素なものだったし、艦長もこれから幹部会議を開催するから多忙を極めていたためだ。
渡されたのは、辞令と、大尉の階級章。太い二本の金帯の肩章、二本の銀帯の襟章が眩しい。
若年士官用のピンクの軍服には、随分と不似合いな階級章だ。気のせいか、その階級章が重たい。

「これからは、リナ・シエル大尉かぁ……」

早速襟と肩に縫い付けた階級章を見ながら、感慨深げに呟く。
大尉といえば、歩兵一個中隊を率いることができる階級だ。メビウスやスカイグラスパーからなる航空部隊なら、八機編成の指揮を執ることもできる。
MSは……わからない。地球軍にはまだ、これというMS運用ノウハウが完成していないため、よくわからない。
航空機や戦車扱いなら、八機のMSを統率できるのだろうけれど。08小隊では少尉が三機+一台を率いていたようだ。
ともかく、重大な責務なのだ。大尉というのは。
給料が上がった分、責任は増える。できるなら中尉のままこの戦争を終えたかったけど、昇進拒否も腰が引ける。
長いものには巻かれろ。ああ、日本人気質。生まれ変わってはみたけれど、ボクはやっぱり魂は日本人なのだ。
懐かしく思いながらも、なんとなく情けない気分になりつつ、リフトグリップには触らないようにしてメイン格納庫に向かう。

そのメイン格納庫を一望できるキャットウォークに立つと、早速補給物資を解体しているのが見渡せた。

「おぉ!」

その補給物資の内容に、思わず歓声を挙げるリナ。それというのも、ハンガーデッキに立つ機体を見たからだ。
ストライクダガーが、二機も納入されている。
しかも、二機とも淡いオレンジ色とベージュで彩られていて、明らかに砂漠での戦闘を意識したカラーリングになっていた。
凝っていることに、メインセンサーを覆うバイザーグラスもクリアイエローのものに換装されていて、目を狙われないように工夫している。
リナは間近で見ようと、キャットウォークを降りていく。物資の整理を指揮しているマードック曹長と、補給科の軍曹がやりあっていた。
近づいている間にお互いの意見が合意したのか、大人しく作業を見守るに至っていた。口が空いた曹長に声をかける。

「おやっさん」
「お、シエル中尉……じゃなかった、大尉か。納入されたMSでも見に来たんですかい?」

階級が変わっても、マードック曹長の砕けた口調は変わらない。
リナはそれを聞いて、ちょっと安心した。今更へりくだった物言いをされても困るから。
おやっさんらしいなぁと笑みを零し、彼の傍に立って機体を見上げた。

「これって、ストライクダガー?」
「あー、シエル大尉の先行量産用の機体とはちっと違いますけどね。本物の量産仕様ってやつでさ。
三次元ベクターノズルから安価で整備性の高い可動ノズルに変わったし、ビームサーベルも一本に変更されてる。
関節駆動部やジェネレーターの細かい仕様も変わったから、また分厚い説明書読まなきゃいけねぇ」

大変そうだな、と他人事のように言いながら、その納入された量産仕様のストライクダガーを改めて観察した。
確かに、自分に配備されたのと違って、ビームサーベルは一本だ。足と肘の関節が微妙に形状が違う。シンプルさに磨きがかかっている。
そういえばよくよく思い出してみれば、こっちが正しい量産仕様なんだろうな、と思うけど、今は砂漠戦仕様のカラーリングのせいで、あまりわからない。
更に今まで露出していた内部駆動部を、ラバーフィルムで覆って砂塵対策を行っている。砂塵は精密機械にとって天敵だから、当然の処置だ。旧世紀の兵器だって同様の処理をしていた。
一G化での戦闘を考慮しているためか、脚部が大型化して、バーニアが増設されている。スタビリティの向上も含めている、というのが足の形状からよくわかる。
これも砂漠を移動するために必要な装備なのだろう。自分の機体を見ても、同じように変更されていた。
角度的に背部は見えないけれど、様々なコードや作業用ヴィークル、整備員が集まっているし、何か取り付けられているのは間違いない。

(うわー、男のロマン! 乗りたいな……!)

過去の兵器を参考にした、なんとも男らしい改造が施されていることに、リナは密かに心を躍らせた。
しかしロマンと関係なく、なんとも思い切った改造だ。技術者の悪ふざけというやつだろうか? マードック曹長の目がやたら輝いてるのが気になる。
リナの目も同じように輝いているので、人のことは言えないけど。

武装は……ストライクの武装として開発されたバズーカと、これまでと同じビームライフル。
変わり映えしないが、しょうがない。そう簡単にぽんぽんと武器が開発されるわけではないのだ。
でも、ビームライフルはジェネレーターの出力を圧迫するから、ビームの威力が減衰する地上では避けたいところだ。

「せめて、鹵獲ジンの機関銃は欲しかったんだけど」
「今更、バクゥに劣る兵器をのっけたところでデッドウェイトになるだけですぜ?」
「確かに……」

さすが、マードック曹長はメカニックに詳しい。そのとおりだ。
ジンの七六ミリ突撃機銃。威力は何度も受けた自分自身が知っている。だが、連射銃という種類であることが問題だ。
機銃でMSを撃墜するためには、一機に連続して弾を当てなければならず、その間はもう一機の敵が完全にフリーになってしまう。
一対多の戦闘を強要される今の状況では良い手段とは言えない。
ならば、地球軍で最近開発され、火力としても充分なビームライフルを使うのは当然といえる。

しかし、しかしだ。
リナは軍事マニアでもある。SFチックな光学兵器よりも、火薬と燃料の匂い漂う実弾兵器に萌える人種なのだ。
バズーカを積んでいるのは嬉しいけど、マシンガンとかライフルとか、そういう実弾兵器が欲しいのだ。メビウスの主力火器であるリニアガンは、実弾ぽくないからあまり好きじゃない。
かといって、いやだいやだなんて言ってると……あの隅っこに置かれている、スカイグラスパーのパイロットにされかねない。

今回の補給で、ストライクダガーのほかに、スカイグラスパーも二機納入された。
あちらにも整備員が取り付いているが、点検程度なのだろう、整備員の数も機器の数もその程度だ。
整備員の説明によると、その画期的な旋回半径の小ささと、背部に搭載された大型キャノンのオフボアサイト性により、MSとも互角に渡り合えるということらしいのだ。
らしいのだが……MAというと、どうしてもメビウスを思い出す。紙装甲、近接戦闘における脆弱性は、どうしても不安が消えない。

(あれだけは乗りたくない……)

早くストライクダガーを乗りこなして、MAに乗せられないようにしよう、と決意を新たにするリナであった。
フラガ大尉……もとい少佐も、そのスカイグラスパーの説明を受け、苦笑を浮かべていた。

「俺は宅急便か?」

全く持って同意。リナはうんうんと頷いた。
しかしストライクダガーが二機納入されたから、しばらくは出番がなさそうだけど……。

「そういえば、ストライクダガーを全部実戦整備してるけど、パイロットはいるのかい?」

一機にムウが乗るとして、もう一機は部品取りにするのかと思ったリナは、ふと思いついてマードック曹長に聞いてみる。
マードック曹長は表情を渋らせ、頭をぼりぼりと掻く。

「それなんですがね、これを納入した技研のお偉いさんが少しでもデータが欲しいってんで、全機戦場に投入しろっていうんですよ」
「それにしては、パイロットが補充されたって話は聞いてないぜ」

戦闘隊長であり、パイロット要員を管理しているムウが疑義を挟む。
補充パイロットがいるのなら、こっちに挨拶に来てもいいはずだ。

「いえ、機体だけでさ。なんでも、艦内の人員からパイロットを選出しろってよ」
「無茶な!」
「おいおい……冗談でしょ」

リナは悲鳴に近い声を挙げ、ムウは呆れたような苦笑を漏らした。
パイロットになるというのは、ただ乗れればいいってものじゃない。年単位に及ぶ訓練が必要なのだ。
体力錬成から始まり、操縦の基礎、電子装備の熟知、高重力訓練、空間認識能力の強化、部隊行動訓練、高度な物理学や航空力学などの座学etcetc、パイロットに求められる資質は一朝一夕で身に付くものではない。
それを、臨戦態勢の軍艦の中で選出しろと!?

「あちらさんも、アークエンジェルがザフトの勢力圏内に落ちるとは思ってなかったんでしょうな。
アラスカに入る、という前提で話してたようでしたぜ。実戦を知らずに後ろでヌクヌクと訓練してた連中よりも、
訓練課程を修了してなくても、実戦を経験してる人間のほうが信用できるっていうのが奴らの言い分です」
「それはわかるけど……それでも訓練してやらなきゃ、弾除けにもならないよ」
「そ、それなら、俺がやります!」

若い少年の声が、三人の会話に割り込んだ。三人が一斉に視線を向けると、そこには若年士官の軍服を着た少年が立っていた。
リナは、彼の名前を思い出すのにしばし時間が必要だった。最後に会ったのが、だいぶ前だったから。

「君は……確か、キラ君の友達の」
「トール・ケーニヒ二等兵です。俺にパイロットをやらせてください!」

そうだ、当初ブリッジ要員になったけど、すぐに航海科の見習いにまわされた、トール・ケーニヒという少年だ。
彼女持ちのリア充という単語も思い出し、少々複雑な表情を浮かべるリナだった。

「立候補するからには、自信があるのか?」
「俺も、キラにMSの操縦の仕方をたまに教えてもらってたんです。できます!」

ふむ、キラ直伝か。それなら、他のクルーよりはマシに使えそうだけど……。

「上官のエスティアン中佐には、許可をもらったのかい?」
「はい、中佐は幹部会議で提案してくれるって言ってました。多分、大丈夫です」
「その根拠はわかんないけど……フラガ少佐。ケーニヒ二等兵が採用されたら、彼の訓練はボクに任せてください」
「あ? まあ、元からそうしてもらうつもりだったから、いいぜ」
「ありがとうございます」

そう言って、リナはトールを見て……にまー、と笑った。
年齢的には、空乃昴の享年と同じ年齢だ。トールは遊び慣れてそうだし、シミュレーターもこなしていると。
リナは、ゲーム仲間ができたような気分になって、ついご機嫌になってしまう。昴のときは、よくゲーセンの輪を広げようと(強引な)勧誘活動も行ったものだ。
そして今その毒牙が、目の前のいたいけな少年に向けられたというわけだ。
リナはどこまでいっても軍事オタクで……ゲームオタクだった。

「ケーニヒ二等兵……歩き方からエース撃墜まで、ボクがみっちり教え込んであげるからね♪ 全クリまで寝かさないよ……」
「ぜ、全クリ!?」

何を教え込まれるんだ。
トールは、やっぱりキラが居るところで任せてもらうんだった、と今更ながら後悔しはじめていた。


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