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No.36981の一覧
[0] 【機動戦士ガンダムSEED】もう一人のSEED【改訂】【オリ主TS転生】[menou](2013/06/27 11:51)
[1] PRELUDE PHASE[menou](2013/03/13 20:07)
[2] PHASE 00 「コズミック・イラ」[menou](2013/03/16 22:26)
[3] PHASE 01 「リナの初陣」 【大幅改訂】[menou](2013/06/27 11:50)
[4] PHASE 02 「ジャンクション」[menou](2013/06/27 17:13)
[5] PHASE 03 「伝説の遺産」[menou](2013/07/21 18:29)
[6] PHASE 04 「崩壊の大地」[menou](2013/07/21 19:14)
[7] PHASE 05 「決意と苦悩」[menou](2013/08/25 16:23)
[8] PHASE 06 「合わさる意志」[menou](2013/08/17 16:11)
[9] PHASE 07 「ターニング・ポイント」[menou](2013/08/29 18:01)
[10] PHASE 08 「つがい鷹」[menou](2013/09/11 10:26)
[11] PHASE 09 「モビル・スーツ」[menou](2013/09/16 14:40)
[12] PHASE 10 「流星群」[menou](2013/09/23 23:47)
[13] PHASE 11 「眠れない夜」[menou](2013/10/01 16:10)
[14] PHASE 12 「智将ハルバートン」[menou](2013/10/06 18:09)
[15] PHASE 13 「大気圏突入」[menou](2013/10/17 22:13)
[16] PHASE 14 「微笑み」[menou](2013/10/22 23:47)
[17] PHASE 15 「少年達の向く先」[menou](2013/10/27 13:50)
[18] PHASE 16 「燃える砂塵」[menou](2013/11/04 22:06)
[19] PHASE 17 「SEED」[menou](2013/11/17 17:21)
[20] PHASE 18 「炎の後で」[menou](2013/12/15 11:40)
[21] PHASE 19 「虎の住処」[menou](2013/12/31 20:04)
[22] PHASE 20 「砂漠の虎」[menou](2014/01/13 03:23)
[23] PHASE 21 「コーディネイト」[menou](2014/01/29 22:23)
[24] PHASE 22 「前門の虎」[menou](2014/02/11 21:19)
[25] PHASE 23 「焦熱回廊」[menou](2014/02/15 14:13)
[26] PHASE 24 「熱砂の邂逅」[menou](2014/03/09 15:59)
[27] PHASE 25 「砂の墓標を踏み」[menou](2014/03/13 20:47)
[28] PHASE 26 「君達の明日のために」[menou](2014/03/29 21:56)
[29] PHASE 27 「ビクトリアに舞い降りる」[menou](2014/04/20 13:25)
[30] PHASE 28 「リナとライザ」[menou](2014/04/27 19:42)
[31] PHASE 29 「ビクトリア攻防戦」[menou](2014/05/05 22:04)
[32] PHASE 30 「駆け抜ける嵐」[menou](2014/05/11 09:12)
[33] PHASE 31 「狂気の刃」[menou](2014/06/01 13:53)
[34] PHASE 32 「二人の青春」[menou](2014/06/14 20:02)
[35] PHASE 33 「目覚め」[menou](2014/06/30 21:43)
[36] PHASE 34 「別離」[menou](2015/04/20 23:49)
[37] PHASE 35 「少女が見た流星」[menou](2015/09/16 14:36)
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[36981] PHASE 14 「微笑み」
Name: menou◆6932945b ID:bead9296 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/10/22 23:47
艦全体が揺れ続ける。
ストライクダガーが収容された直後はほんのちょっとした振動しか感じられなかったが、大気圏の成層圏を越えたからか、次第に激しい揺れへと変わっていく。
MSと艦の装甲を越えて、激しい嵐の音が響いてくる。気流のせいだ。気のせいか、外部音声を拾い上げるスピーカーから、ミシミシと嫌な音が聞こえてる気がする。
この艦大丈夫なのか。こんなでかいものが、本当に大気圏突入なんてできるのか?
それよりも、なによりも。キラは無事なのか?

リナはストライクダガーのコクピットの中で、膝を抱えて小さくなっていた。
ヘルメットもいやだ。マスクしてるよりは息苦しくないが、圧迫感がある。戦闘中でもないのにつけたくない。
宙にヘルメットを浮かせていたが、揺れが激しくなると、かくんと下にずれて、すぐにごろんと操縦機器の上に落ちた。
今までふわふわしていた身体が次第に重くなり、血液が下半身に溜まって行く。ついに地球の重力圏に入ったのだ。
およそ一ヶ月ぶりの地球。メイソンに搭乗してからここまで、まるで何年も宇宙にいたような気分だけど、今はその感慨にふけっている余裕はなかった。
キラが居ない。艦に戻れなかった。

(もしかしたらあのまま大気圏に引き込まれた? いや、フェイズシフトがあるから大丈夫なはず。
大気圏突入の熱を守ってくれるほどフェイズシフトが万能なのか、それはわからないけれど……いや、あれも物理的な作用なら大丈夫!
……なはず。いや、でもビームの熱は駄目なわけで……でもでも)

頭の中で、ポジティブな思考とネガティブな思考がぐるぐると回る。目に光が点らない目で虚空を眺めながら、胸に重たいものを蓄積させつつ艦が大気圏を突入し終わるのをじっと待っていた。
やがて振動が収まる。嵐の轟音も遠のいて、艦全体が静かになっていく。
大気圏を越えたのか。そう思って、コクピットを開放して身体を乗り出した。着いたのか?

〔達する、艦長のギリアムだ。貴君らの活躍により、アークエンジェルは無事大気圏突入シークェンスを完了した〕

格納庫に響くのは、ギリアム中佐の艦内放送だ。本当に地球にやってきたらしい。
その証拠に、今まであった浮遊感は無く、コクピットのハッチに足をかけている今、バランスを崩したら真下のキャットウォークに転落しそうだ。

〔なお、突入の際に索敵が、大気圏に落下するストライクを発見したため、同機を追跡、軌道修正を余儀なくされた。
現在地点は南アフリカ。皆も良く知っているだろうが……ザフトの勢力圏内だ〕

ストライク……キラ君を見つけたのか!
リナは喜びに表情を輝かせる。ザフトの勢力圏内というかなり危ない内容も篭められていたが、そんなことよりもストライクの発見を喜んだ。
追跡したということは、ストライク自体無事、ならキラ君も無事なはず!

キラ、キラ君!

喜びに小さな胸を弾ませながら、コクピットを飛び降りた。ふわ、と黒い髪が空中にたなびく。
機体の僅かな凹凸を足がかりに、トントンと猿のように身軽に跳ねて、キャットウォークに降りる。
さっきのテンションのリナなら、怖くてできなかっただろうが……キラが発見された嬉しさに舞い上がっていた。

〔取り付いたジンとシグーだが、まだこちらに取り付いたままだ。艦載火器の死角に乗っており、自力で引き剥がすことができない。
シエル中尉はMSに搭乗、右舷デッキより出撃し、ただちに撃破せよ。
艦内白兵戦用意。陸戦科から守備部隊を配置、左舷エア・ロックを警戒しろ!〕

そうだった、忘れてた!
格納庫にいる人間も忘れていた者が多かったのか、途端に慌しくなる。専任整備士のユーリィ伍長が駆け上がってきた。

「レディ・シエル! ビームライフルの充填は済ませてあるが、役に立たないと思ってくれ!
場所が場所だからな、殴る蹴るの戦いになるかもしれないが、一応ビームサーベルは装備させておいた!」
「て、敵は重斬刀を遠慮なく使ってくるんでしょ?」
「だろうな。苦しいだろうが、レディ・シエルの腕次第だ。うまいこと引き剥がしてくれよ!」

無茶言うな、といいたいが、確かに今この艦には適任は自分だけだ。
ムウもいるが、すばやく飛び回り、射撃兵器しか持たないゼロでは、艦ごと撃ち抜きかねない。射撃兵器を使わなければ○ュウさんになりかねない。特攻するだけの簡単なお仕事です。
こういうとき、MSは便利だ。戦車や航空機では真似できない、まさに戦車や航空機にもなりうる兵器なのだ。
まあ、現にそのMSに今襲われているわけで……便利なことばかりなわけじゃないのだ。

「……はあ。ボクも初心者なのにな」
「MSの操縦に関する特別な手当ても出るって、ハルバートン准将も言ってましたよ。頑張ってくださいよ!」

ため息をついて、ヘルメットを被りなおすリナを励ましてくるユーリィだが、大して金銭欲が強いわけじゃないのでどうでもいい。
生前はゲーセンに使う金が欲しかったが、今はゲーセンなんて行けるわけではない。
おしゃれをするのは好きだけど、服や装飾品で着飾ろうにも、戦闘艦勤めではほとんどできないし。
この先の展開はあまり分からないけど、街のステージがほとんど無かったし、きっとこれから半舷休息なんて無いのだろう。
これから始まるだろう白兵戦紛いのジンとの殴り合いを想像すると、思わずため息が漏れる。

「はいはい、とりあえずやれるところまでやろっか……誘導よろしく」
「了解! 足元気をつけてくださいよ!」

親指を立てるユーリィを見送ってから、ダガーのハッチを閉鎖。ジェネレーターを再起動。センサーを立ち上げ、モニターに艦内の様子が投影される。
サブモニターにナタルの顔が映る。

「ストライクダガーよりブリッジへ。シエル機、発艦します」
〔発艦を許可します。発艦シークェンスは省略。射撃兵器は禁止とします。ビームサーベルの使用許可が出ていますが、極力避けるように。
以後、甲板要員の指示に従ってください。ご武運を〕
「了解。シエル機、ハッチまで前進。出撃――」
〔!? 待って、中尉――〕

突然ナタルが声を張り上げる。どうした? そう訝った直後、開いたメインハッチに姿を現したのは――ジン!?
そのストライクダガーの姿を見たジンのパイロット、フィフスも、予想外のMSに驚きを隠せないでいた。

「……! ストライクだけじゃなかったの!?」

まさか、その量産機であるダガーまで搭載しているなんて知らなかった。
フィフスは動揺したが、それでも敵機を発見したことに身体が勝手に動いた。スロットルを押し倒し、ジンを動かす。
臙脂色のジンは格納庫に侵入、真正面にいるストライクダガーに素手で拳を振るう!
甲板要員らは、なんとかバーニアに吹き飛ばされないように避難したようだが、今度はリナが危ない。

「くうっ!?」

格闘モード!? 慌てて火器管制モードを切り替えるが、相手の拳のほうが速い。
格納庫内にすさまじい激突音が響いた。コクピットにもすさまじい衝撃が走り、シートに何度も身体をぶつけてしまう。
ストライクダガーの頭部が殴りつけられた。ジンHMの質量を全て乗せた拳だったので、機体が整備ハンガーを押しつぶす。
だがジンのほうも無傷では済まなかった。ジンの拳はMSを殴るようにはできておらず、指関節がひしゃげて、ダガーのコクピットに居るリナにも破壊音が聞こえた。

「――この、やろぉ!」

可憐な顔を怒りに歪ませたリナは、パネルに指を走らせて格闘モードに切り替え、ターゲットをジンの胸部に固定。操縦桿をトリガーを引かずに押し倒すと、平手がジンの胸を押す。
そしてスロットル全開! バーニアが青白い火を噴いて整備ハンガーを灼き、デッキがあったために推力の反作用が増加。機体は一気に加速し、ジンを押し返す!

「離せ……うぅ!」
「女の子!? だけど、入れてたまるかぁ!」
「なに……子供? うぅ、このっ!」

フィフスとリナは、相手のパイロットの声が接触回線で聞こえてしまった。甲高くて、鈴が転がったような声。どこかで聞いたことがある気がする。だけど、容赦している余裕はない!
フィフスはスロットルを開いて押し返そうとするが、一度体勢が崩れてしまうと、推力が近い以上逆転は難しい。
前進スロットル全開のストライクダガーに、ジンがパワー負けしてじりじりと押し返されていく。
ジンのボディが変に揺れて、謎の異音が響く。足元を見た、フィフスとリナ。――出撃時にMSの足に履くリニアカタパルトだ。
フィフスは一瞬、それの正体がわからなかったが……リナはすぐに判断した。

「ブリッジ! リニアカタパルト、射出を! 早く!」
「カタパルト!?」

まずい。フィフスは咄嗟の判断で、コクピットを開放。ハーネスを外すと、コクピットから跳躍!
リナはそのジンがカタパルトから逃れないよう、必死に掴み続け――

「出ていけぇぇ!!」

ジンがリニアカタパルトに引っ張られ、すさまじい勢いでカタパルトを滑っていく!
そのまま射出ポイントでリリース。ジンの巨体がぐるぐると玩具のように上下に回転しながら空に落ちていく。
もしフィフスが乗っていたら、あの機体は落下スピードを押さえきれず、地表に激突していたことだろう。そうなれば、軽量紙装甲かつ宇宙戦闘を前提に開発されたジンHMなどひとたまりも無い。
フィフスも、十m近い高さから飛び降りた。それはそれで、このまま落下したらひとたまりも無い。
しかし上手くストライクダガーの足に飛び移ることに成功した。ぷらん、ぷらん、と小さな身体が足にぶらさがる。

「ひっ……」

ストライクダガーの足に、小銃の弾丸がいくつも爆ぜた。身体をぶらーん、とダガーの足から離してかわすフィフス。
その発射された先を見ると、整備員と陸戦隊がフィフスにいくつもの銃口を向けているではないか。
いくら優秀なザフトレッドといえど、こんな無防備にMSのスカート部分にぶらさがってる状態で抵抗できるはずもない。

「……こ、降参……」

短い腕を思い切り振って、武器を持っていないことをアピール。それでも油断無く銃口を向けるクルー達。船務科の人間も銃を取っている。
リナはMSを整備ハンガーに戻そうとしたが、潰された上にバーニアで焼いてしまったため、原型を留めていない。
フィフスがスカート部分に引っかかっていることに気付かないリナは、とりあえずダガーをその場に跪かせて、安定した体勢をさせようとして……

〔うわ、あわわっ〕
「?」

接触回線で声が聞こえる。おかしい。さっきジンは外に突き飛ばしたはずなのに。
どこから聞こえるんだろう、と思って、サブモニターのカメラを切り替えていく。バックカメラ、足元を見るカメラ、肩のカメラ。
そして、コクピットハッチの真下を見るためのカメラに切り替えると、スカートの左端にちょこんと引っかかってるザフトのノーマルスーツが……

「げっ」

まさか、咄嗟に飛び出したのか。もうちょっと身体を曲げると、掴んでいる隙間が完全に閉じるところだった。
少し身体を起こして、隙間を閉じないようにしてやる。ほっ、と明らかに安心しているザフトレッド。
コクピットの中で拳銃を手にして、ハッチを開放。さっ、とハッチの上に乗り出すと、そのぶらさがってるザフトレッドに銃口を向ける。

「動くな!」
「……動きたくても……動けない……」

どこかで聞き覚えのある声で、残念そうに呟くザフトレッド。こいつ、よく見るとかなり小さい。
自分と同じか、やや大きいくらいか。そのぶらさがってるザフトレッドも、こちらを見てびっくりしているようだ。
当たり前か。十歳くらいの小さな子供がコクピットから出てきたら誰だって驚く。ガンダム主人公史上最年少のウッソだって十三歳だぞ。
とりあえず、その後は作業員にクレーン車を持ってこさせて、そこに下ろさせる。
下ろしてみるとやはり小さい。クレーンで下ろすところを見てると、高いところから降りられなくなった子供を抱っこして助けた、みたいな格好だ。おい、両脇を掴んで下ろすな。

「ヘルメットを取ってもらおうか?」

船務科の科長であるホソカワ大尉が低い声で、床に降り立った赤いノーマルスーツに命令する。
それに対して、大人しくヘルメットを取るその子供。ふわ、と長い黒髪が散る。あの髪も、どこかで……
そのやり取りを見ながら、ハッチの裏にある昇降用のワイヤーで降りていくリナ。ヘルメットを取ると、自分と同じく黒髪の頭が見えた。角度的に頭のてっぺんしか見えない。
が、皆の激しく動揺する顔ははっきり見えた。そして、一斉にこっちを見てくる。

「どうしたの?」
「…………シエル中尉!?」
「だからどうしたの」

こっちと足元のパイロットを交互に見ながら名前を呼んで来るだけで答えない。少し苛立って声を出して、皆と同じ高さに降り立つ。
そのパイロットの後ろに立つと、皆が一段と騒がしくなりはじめた。ゲンガー? という言葉が聞こえた。ポケモン扱いか?
後ろから見ると、なるほど、艶々とした綺麗な黒髪だ。まあ、自分には及ばないけどな。主観だけど。

「おい、こっち向け」
「……ムカツク言い方」

ぼそぼそと喋るやつだな、と思いながらその少女を振り向かせる。肩を掴むと、ノーマルスーツごしでもわかるくらい細い肩だというのがわかった。
くるっ、とその少女がこちらを向いた。自分と同じ黒い髪、碧の瞳。

「!?」
「!!」

二人が、同時に驚いた。髪も瞳も同じ色なのは、まだ驚くまでもないことだけど、これはどうしたことだ。
同じ唇、頬、鼻、眼、――同じ顔。

「誰だ、お前は!?」
「君は……っ!」

全く同じ声で叫びあう二人。
特徴的な相違点といえば、リナよりもフィフスのほうが五、六cm上背ということだろう。顔立ちも身体も、リナが二歳ほど成長すれば、フィフスのようになるのではないか。
傍観しているクルーも目を回した。双子というには歳が離れているようだし、双子としても似すぎている。
今はザフトのノーマルスーツと、地球軍のノーマルスーツを着ているという大きな違いがあるので、見分けることはできるが。
同じ服を着て別々に会ったら、まず見分けはつかないだろう。
驚き合っていると、フィフスが途端に表情を緩めた。いや、緩めたと表現するには生ぬるい。
不気味な笑いを、浮かべたのだ。

「……見つけた」
「ヒッ……」

その笑顔に、リナは全身に冷たいものが走った。

(見覚えがある、この笑顔。あの夢。まさか、こいつ……っ)

はっきりとはわからないが、こいつとは会ってはいけなかった、という予感だけが己の中を侵食していく。
何より――まるでそっくりの人間がこうして目の前にいること自体が異常で、生理的に受け付けない。
じり、とリナは怯えた表情で後ずさりをする。こいつに触れたくない。
そのとき――

〔後部艦橋より緊急連絡! 取り付いたシグーのパイロットが侵入した! ただちに応戦を!〕

忘れていた、シグーもいるんだった! その場に居る全員に緊張が走る。その放送に聞き入っている瞬間――
ガッ!!

「つっ……!?」

目の前の少女が、目にも止まらぬ体捌きで回し蹴りを放ってきたのだ! 手の甲を衝撃が走り、拳銃を叩き落される。
後ろのホソカワ大尉らも、慌てて小銃を少女に向けるが、その長い銃身では、近距離の彼女にすぐに狙いを定めることができない。

「うがっ!」「ぐあっ!?」「げっ!」

頭と肩を軸に、まるでカポエラのような身軽な動きで強烈な回し蹴りを放ち、次々と警備兵と船務科の軍人をし仕留めていく。
しかも顎を的確に一撃ずつ。脳を直接揺さぶられた軍人達は目をくるんとむくと、その場に崩れ落ちていく。
さすがに、ザフトレッドである。両手首を後ろに縛られている状態でも格闘ができる訓練を受けていたのだろう、ナチュラルとは動きが違いすぎる。 
あの最もガタイのいいホソカワ大尉も沈められた。誰一人、銃を一発も撃てずに全滅してしまった。
リナはその動きに圧倒されるが、まだ自分は動ける。こいつはここで仕留めないと! 闘志を奮い立たせ、拳を握り締めた。

「このっ!」
「そうだ、ボクに対抗できるのは君だけだな!」

フィフスは、立ち向かってくるリナに嬉しそうに声を張り上げ、振りかぶってくるリナの拳に対し半身を反らして避ける。
パッ、とフィフスの長い黒髪に拳が当たった。それだけだ。続けざまに拳を突き出していく。このチートボディならではの、素早いジャブだ。
並みのナチュラルが相手なら、このワンツーで確実に地に伏せることができる鋭さを持っている。両手が拘束された人間なら、コーディネイターといえど瞬く間にノックアウトできる自信がある。
だが、緩急を付けた……まるで風に翻る旗のような動きで、拳も、蹴りも、全てを最小限の動きでかわしていく。
両手を後ろに回されているはずなのに、この動きは!?

「なぁに、焦ったの? これはゲームじゃないのに、そんな真っ直ぐな拳が当たるわけないでしょ」
「!?」

ゲーム、だと。
頭がカッと熱くなって、残像が生まれるような速さで屈み、同時に足払い。フッ、フッ、と消えて見えるようなメリハリのある素早い動きだが――
トン。軽い音がして、フィフスが小さく跳ねていた。読まれていた!?
頭上から、嘲りにも似た声が響く。

「そんなんじゃ、ゲームクリアできないよ。……ふふ、もっと実戦を知ってから出直しな」

言葉が先か、脚が先か。フィフスの爪先が視界を埋めて――
ガヅッ
鈍い音。強烈な眩暈。意識が遠のく。

「じゃあね、『リナちゃん』」
「……っあ……」
(何言って……んだ……)

ゴトッという音も、床に頭を落とす痛みも、なんで名前を知っている、という怪訝な思いも。
全てが意識と同じように遠のき、真っ暗な闇の中に眠りに落ちた――


意識が鉛のように重く、底なしの沼に沈むように際限なく沈んでいく。ただ、頭の後ろのほうに…ゆっくりとどこまでも沈んでいるような感覚はある。
全身が重たく、けだるい。腰から後ろに引っ張られているようだ。
前後上下もわからない。体のどこも触れていない。服を着ているという感覚すらない。
この感覚に覚えがある。
「空乃昴」が死んだ時だ。
あの時は眠るのとは違う……決定的な「終わり」を感じた時間だった。
落ちていく、戻れない、無くした、忘れられる、あらゆる喪失感が精神を蝕んだ時間。
「リナ・シエル」は今、同じ時間を果てしない闇の中で味わっている。

(死んだのか……ボクは?)

またなのか。いや、そうであってたまるか。
まだ、まだ死ねない。死にたく無い。あがけるものならあがきたい……!
必死に目覚めようとするが、目が開けられない。いや、そもそも瞼を閉じているのか開けているのかすらわからない。
目の前にはどこまでも深い闇があるだけだ。それは壁なのか? 無限に広がっている空間なのか? それすらも判然としないが、ただ闇がある、とだけわかる。
必死に覚醒しようと無言で叫び続けていると……不意に、闇の一部が晴れた。

(……っ?)

光? いや、違う。眩しさなどはない。ただ、脳裏に走るイメージだ。
最初は闇の霧の中に、朧月のようにぼんやりと映るだけだったけど……時が経つにつれ、まるで焦点が合っていくように映像を結実していく。
ボクはアークエンジェルの通路を進んでいる。視界は上下にぶれ、息遣いも感じる。かなりの速度で走っているようだ。
どこの通路だったか。ぼんやりとした頭で記憶を探るが、もうだいぶ長い時間をアークエンジェルで過ごしたから、それはすぐにわかった。
確か、後部艦橋に続く通路だ。しかし、後部艦橋に向かって走った記憶なんてない。じゃあ、これはただの夢?

〔侵入したザフト兵は後部艦橋、第二区画一四番通路を逃走中〕
「案内ありがとう……マカリ、もうすぐ」

自分の位置を教えてくれる艦内放送に対して、嘲り混じりに呟いてから、自分を迎えに来てくれた青年に声をかける。
その青年――マカリというらしい――は、苦笑混じりに答える。振り返らないせいで、その顔は見えない。

「……まるで、俺が迎えに来てもらったみたいだな」

マカリ。変わった名前だ。どの国の人物名ともとれない。少なくともアークエンジェルのクルーにはそんなのはいなかった。
じゃあ誰だ。振り向け。そう思ったが、首は動かない。視界は勝手に左右に振られ、見て欲しい方向を見てくれない。やっぱりこれは夢なんだ。
ただ、その声もどこかで聞いたことがある。いつだったか。録音機かビデオ越しに聞いたことがあったような。思い出せない。
映画の観客にでもなった気分で、その映像をぼんやりと眺める。とはいえどこかに座っているのでもなく、ただ意識が漂っているだけ。

後部艦橋に詰めていたクルーが曲がり角から顔を出して、手にしている拳銃で撃ってくる。

(……!!)

反射的にリナは眼を閉じようとしたが、瞼は無かった。映像が咄嗟に跳躍して、物陰に隠れたようだ。
自分並み……いや、それ以上の反応速度だった。さっきのクルーは、ドアを開けたのとほぼ同時に撃っていた。狙いも正確だった。
それを超反応で横っ飛び、銃弾の雨をやり過ごした。リナは微かに驚いた。自分の記憶では、こんなに自分の体が動いたことはない。夢補正というやつか。
ハッチの手前のちょっとした柱の陰に隠れて、銃声と跳弾の音が止むのを待って、頭上でバンバンと銃声が鳴った。マカリが撃ったのだろうか。
うあ、とうめき声。当てた? 死んだのか? それもマカリの顔を見れないのと同じように、リナには確認する術はない。

「行くぞ」
「……うん」

ちらっと視界がマカリに移った。しかしマカリの頭が映ったのは左後ろ下斜めからという、ほとんど人相がわからない角度。はがゆい。
後部艦橋のハッチに入らず、手前で曲がった。風の音がごうごうと響いてくる。風は感じられないが、穴が開いているのか。
開いた穴に腹を押し付けるようにしている、MSのハッチが見えた。腹部だけでは、機種はわかりづらい。だけど、ジンではないということはわかる。シグーかな?
知ってるシグーは白色をしているのだけれど、これは青色をしている。搭乗者の趣味なんだろうけど……青い機体に乗る人といえば、百戦錬磨の軍人で髭を生やしてて、巨星を名乗ると相場が決まってるのだ。
でもリナの想像は外れ、昇降用のウィンチに脚を掛けるのはマカリだった。緑服。なんだ、一般兵ではないか。
そのマカリが振り向き、こちらに手を差し伸べる。その手をとり、一緒に昇る――

(はっ……!?)

リナはマカリの顔を見て、絶句してしまう。
いや、元から口は利けないのだけれど、一瞬思考が硬直する。それほどの衝撃だった。

「さあて、ザフト勢力圏内のアフリカといえば砂漠の虎、アンドリュー・バルトフェルドだったな。奴と合流して、次のステージに行こうか、フィフス」
「……うん。楽しみ。ボクの機体はあるのかな?」

まるで友人とゲームでもしているかのような、気軽な口調で話すマカリと、視界の主。
フィフスと言った? じゃあこれは、あのザフトレッドの視界なのか? いや、それよりも、何よりも。
マカリ。その青年は――『俺』!?



- - - - - - -



「んっ、はぁ……っ」

息苦しい。体が芯から熱い。唇の間から苦悶の吐息を漏らす。
小さな体でもがいて、ぎゅ、と、自分の胸から下を覆っているシーツを掴んだ。邪魔だ、と、まるで親の仇の名でも呼ぶように歯の間からうめき、全力で引き剥がす。
でも重たい。なんだこのシーツは。いや、シーツが重たいんじゃない。お腹の上に何か乗ってる?

「んんっ……!!」

重たい! 潰れたらどうする!?
声にならない怒声を上げて、その重たいものを力づくで引き剥がす。

「んっ……うっ!」
「? うわぁ!?」

どたぁんっ!
その重たいものは悲鳴をあげて、後ろにひっくり返ったようだった。瞼を開けられないので、リナはそれが何なのかも確認せずにひっくり返してしまった。
寝ぼけていたせいもあり、無我夢中だったのだ。その悲鳴に聞き覚えがあるリナは、ばちっと千切れる音が鳴りそうなくらい強引に瞼を開けて、慌てて起き上がって悲鳴の主を確認する。
ベッドにぐったりと体をもたれさせている、若年士官候補生用の軍服を着た少年。サイ・アーガイル。

どろり。

彼が力無く背を預けるベッドには、赤黒い染み。同時に、床にも大量の紅がゆっくりと広がって――
リナは目を見開く。ボクが、ボクがやったのか!? そんなつもりは無かったんだ! 絶望に頭を抱え、くしゃ、と黒髪をかきむしる。

「いやあぁぁぁぁぁぁ!!!」

リナの悲鳴。火○スのオープニングが脳内で流れた。
ああ なんてことだ ! わたし は ひとり の つみ の ない しょうねん を ころしてしまった!
すぐに けいむか の ぐんじん が かけつける。

  \
:::::  \            リナの両腕に冷たい鉄の輪がはめられた
\:::::  \
 \::::: _ヽ __   _     外界との連絡を断ち切る契約の印だ。
  ヽ/,  /_ ヽ/、 ヽ_
   // /<  __) l -,|__) > 「刑事さん・・・、ボク、どうして・・・
   || | <  __)_ゝJ_)_>    殺しちゃったのかな・・・」
\ ||.| <  ___)_(_)_ >
  \| |  <____ノ_(_)_ )   とめどなく大粒の涙がこぼれ落ち
   ヾヽニニ/ー--'/        震える彼女の掌を濡らした。
    |_|_t_|_♀__|
      9   ∂        「その答えを見つけるのは、お前自身だ」
       6  ∂
       (9_∂          リナは声をあげて泣いた。



もう一人のSEED、完!
























「あいたたた……」
「ごめんごめん、重たかったからつい。大丈夫?」

小芝居をやめて、差し入れに注がれたグレープジュースの水溜りにしりもちをついたサイを助け起こす。
サイはリナに突き飛ばされ、ベッドに背中を打ったものの軽傷ですらなく、ただリナに突き飛ばされてびっくりして放心していただけだった。
リナもそれを知ってたから、小芝居の一つも出たのだけれど。もちろん警務科のクルーは来ていない。あと勝手に終わらせないでほしい。
目を覚ますと、そこはアークエンジェルの艦内の医務室だった。鼻先に鈍痛を感じて手をやると、ガーゼが貼られている。
そうだ、フィフスに顔面を蹴られたんだった。それを思い出すと、軽い憤りを覚え始める。
といっても、女の子の顔を蹴るなんてなんて奴だ。とか、顔に傷跡や痣が残ったらどうするんだ。とか、そんな見当違いな怒りだけれど。
それはともかく、

「心配してたのに、突き飛ばすなんてひどいじゃないですか」
「ははは……でもまさか、君がお見舞いに来てくれるなんて思わなかったよ」

艦内維持の任務もだいたい終わり、今は非番の時間をもらえたために、彼はボクが寝てる間にお見舞いに来てくれていたらしい。
二等兵なのに、よく非番をあてがわれたものだと思う。ボクが伍長の時なんて、課外訓練も山のようにあったり、新兵の風物詩「台風」も毎日繰り返されたぞ。
でもまぁおかげで、いつもは口にできない生の果物を食べられたんだけれど。戦闘中の傷病兵には、こうした希少な生の果実をお見舞いとしてもらえるのだ。
ちなみにサイがお腹に体重をかけてきていたのは、見舞いに来たときに、日ごろの任務で疲れて居眠りしてしまったからだそうだ。
サイが持ってきてくれた見舞い品――リンゴを食べながら、自分が気絶してしまってからの話を聞く。

「あれから、入り込んできたザフトの奴らはすぐに逃げていきました」
「逃げるって、取り付いていたMSでかい?」
「はい。まあ、ここはザフトの勢力圏内らしいですから……アテがあるんだと思います」
「そっか……確か、南アフリカのザフトといえば、砂漠の虎、アンドリュー・バルトフェルドの縄張りだったね」

ぼんやりと覚えている夢の内容に思いを馳せながら、少し落ち込み気味に答える。
とんでもないところに降りたものだ。パイロット技能でいうならクルーゼほどではないにしても、指揮官として聞こえる名声はクルーゼが霞むほどだ。
優秀な指揮官というのは、天下無双の兵士より厄介だ。いくら実力があろうと、一兵士にできることなど限られている。
……それを、この『戦争の現実』に触れてよく分かった。たとえチートボディーを持っていようと、高性能機に乗っていようと、戦闘には勝てても戦争には勝てないのだ。
どうしても腕は二本で、目は二つで、脳は一つで、一人で補給と修理などできやしない。一騎当千、万夫不当なんて空想の世界の話なのだ。
サイは、気難しい顔で何事か考え始めたリナを横目で見ながら、リンゴの皮を剥いていく。
そのサイの考えていることは、やはりフレイであった。

(ちゃんとアラスカに着いたのかな、フレイは)

戦闘中の宇宙に放り出されて、流れ弾に当たっていないだろうか。索敵の人――トノムラ伍長にも聞いてみたのだが、
電磁乱流によってレーダーが使えず、シャッターも全て下ろしていたため確認はできなかったという。
あっさり自分のことを置いて帰ってしまったとはいえ、やはりフレイは親友だった。そして婚約者で恋人に限りなく近い相手だった。だから、彼女についてずっと心配していた。
せめて着いた先がわかって、連絡が取れればいいのに。はあ、とため息が自然と出てしまった。
しまったな、と思ってリナをちらりと見ると、やっぱりリナはサイのことを見ていた。

「……アーガイル君も、何か悩み事があるみたいだね」
「え、ええ。まあ」

サイはズバリ悩みがあることを当てられてしまい、躊躇気味に答えて視線を落とした。フレイのことを考えてた、なんて、なぜか言いたくない。
リナはフレイとサイの関係をよく知らないので、彼の悩みごとといえばなんだろう、と考え始めた。艦内での彼の目撃したときの様子を思い返してみる。
そういえばサイと最初に出会ったのは、ヘリオポリスでキラ君がアグニをぶっぱなした直後だったな。

「というか、君はキラ君の友達だったね――って、そういえばキラ君は!?」
「キラは、アークエンジェルが地上に降りてすぐに、ストライクと一緒に運び込まれましたよ。最初のうちは、だいぶ熱にうなされてましたけど……今は小康状態に落ち着きました」
「そっか……よかった」

よかった、とリナは安堵の吐息。そして、不覚だった。なんでさっきまでキラ君のことを忘れていたのか。

(そりゃあ、キラ君とは単なる上官と部下でしかないし、アークエンジェルに乗り込んだのは成り行きにすぎないけどさ。
でもキラ君の成長振りを見てると、へぇー、ほわーっ、おぉーってなるんだ。
でもでも……上司が部下の心配をしたり、成長を喜ぶのは当然なわけで。そう、当然だ! キラ君がいなくなったら、生き残る自信が無い!
まったくもって他力本願な気がするけれど、実際そのとおりだし。スーパーコーディネイターな彼の力なくして、バルトフェルドの部隊を追い払えるわけがない!)

「そ、そうなんだよ。ボクにはキラというパイロットが必要なだけだ!」
「な、なんですか、いきなり……」

自分に言い聞かせるような独り言に、サイはびっくりして心配そうな眼差しを向けた。
この人見た目はいいのに、中身は残念だな。そう言いたげな目だ。実際そう思っているに違いない。

「ムッ。なんだねその眼差しは。色眼鏡割るぞ」
「色眼鏡って、いつの時代の人ですかあなたは……それに、キラを便利屋みたいに扱うのは、やめてください」

友人をただの駒みたいに言われたのが心外のようで、反骨精神満々で睨んでくる。
それでもリナのためにリンゴを剥いている手は休めず、今しがた切ったリンゴをころんとお皿に転がした。根っから人が良い少年だ。
可愛いところがあるやつだなー、と思いながらもリナは細い片眉を上げて、ほぉう? と、いかにも悪たれ軍人を気取ってみた。

「上官を睨むとは良い度胸だなぁ、アーガイル二等兵。んぐんぐ」
「……リンゴ食べながら言われても……」
「お腹空いたからね。あ、シャキシャキしてて蜜が入ってて美味しい……」

ほわわん。ああ、新鮮なリンゴ久しぶりだなぁ。どうやって保管してたんだろ。
そういえばリンゴって塩水につけておけば腐りにくいって聞いたことあったような。味が落ちないだけだっけ。うろ覚え。

「リンゴの美味しさに日和らないでくださいよ」
「……ハッ」

いかんいかん。つい餌付けされそうになった。我に返って、こほん。咳払い。

「アーガイル二等兵。キラ君は自分から望んで軍人になったんだ。そして君も、ボクもそうだ。
……軍人っていうのは、知ってるとおり命令絶対遵守。そして個人の人格は否定され、ただ一つの駒として、ただ『勝つため』に利用される。それを忘れてほしくないな」
「でも! 俺達は生きてます。考えたり、悩んだりします! それを駒だなんて!」

ぴっ、と指を立てて彼の唇にあてる。サイは、それに対して思わず口を閉ざした。

「例え話だよ。大いに考え、悩めばいいさ。でも、軍人が、自分の考えに固執したり、命が惜しくなって命令に反対して動かなかったら、一体誰が戦うんだろうね?」
「それは……」
「アーガイル君が友達思いなのは、充分伝わったからさ……それをバカにする気は更々無いよ。軍人になっても友情を育めるって、そりゃあ難しいことで尊いことだよ?
あの子は、矢面に立って一番危険な目にあって……ザフトにいる友達と戦うことになって、色々と参ってると思うから、励ましてあげて、ね?」

ボクはキラ君にとって、ただの口うるさい上官みたいに映ってるかもしれないから、彼の友達分を補完してあげてほしいな。
それがキラ君の心の支えになるかもしれないから。彼の落ち込んでる顔は、見たくないから。

「そんな……改めて言われなくても、キラは、俺達の大事な友達です」
「ありがとう」

にこ、と彼に微笑みを投げかける。

(うん、これなら心配なさそうだ。キラ君自身も、ボクの見ていないところで友情を育てるのに頑張ってるだろうけど、ボクも何か彼のために何かフォローができればなぁって思うし。
彼らの友情のケアも大事だ。このアークエンジェルに乗ってる理由だって、その友情がもとで成り立ってるんだし。
あんまり友情を育てすぎると、軍務やボクの命より友情を優先しそうで怖いけど。それでも、キラ君がボクと一緒に戦ってくれるように頑張るのだ!
うははは、ボクって外道。この先生きのこるためには止むを得ないのだよ。……止むを得ないんだ)

そして、当のキラの姿を探して視線を彷徨わせる。探すまでもなく、すぐに見つけた。
二つ隣のベッドで、死んだように横になっている。医務室はベッドの数が少ないから、やっぱり近くに寝ていた。
すとんとベッドから降りて、彼の傍に立って彼の顔色を見る。……生身で大気圏突入したとは思えないくらいに、安らかな寝顔だ。

「軍医の人に聞きました。コクピットの中は、すごい温度になってて……ナチュラルだったら、生きてはいられなかったって」
「そう、か。やっぱり……」

サイの言葉に、リナは表情を沈めた。
元々ナチュラルが乗るためのものだし、大気圏を突入するなんて想定外だっただろう。某白いガンダムさんみたいに、機体を冷却する機能でもあればまた別なんだろうけど。劇場版準拠。
理論上はフェイズシフトに守られて、機体は無事だとしても、中はそれはもう美味しい肉まんが蒸しあがる温度だったに違いない。
でも、こうしてキラは無事だ。ちゃんと生きてた。温くなった濡れタオルをどけて、そっとキラの額を撫でる。
ふわふわと、胸の中に……何か温かいものが注がれていくような気分に、リナは戸惑う。

(これって安心って気持ちなのかな、なんか違う、気がするけど。悪い気分じゃない。それでいいんだ、今は。
……キラが、コーディネイターだったことで、色々助けられたけど……)

額を冷やしてた濡れタオルをもう一度、水道(艦内循環用水)で濡らして、よく絞り、また彼の頭に載せる。
心なしか、キラの寝顔が和らいだように見える。

(今は、助かったことで……君がコーディネイターだったことに、感謝してるよ)

もう一度、安らかな寝顔に、自然と表情が緩む。無邪気な寝顔だなぁ……と、姉にでもなった気分で眺めていた。
サイはその傍で、不思議なものでも見るように、ただリナのすることを眺めているのだった。


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