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No.36981の一覧
[0] 【機動戦士ガンダムSEED】もう一人のSEED【改訂】【オリ主TS転生】[menou](2013/06/27 11:51)
[1] PRELUDE PHASE[menou](2013/03/13 20:07)
[2] PHASE 00 「コズミック・イラ」[menou](2013/03/16 22:26)
[3] PHASE 01 「リナの初陣」 【大幅改訂】[menou](2013/06/27 11:50)
[4] PHASE 02 「ジャンクション」[menou](2013/06/27 17:13)
[5] PHASE 03 「伝説の遺産」[menou](2013/07/21 18:29)
[6] PHASE 04 「崩壊の大地」[menou](2013/07/21 19:14)
[7] PHASE 05 「決意と苦悩」[menou](2013/08/25 16:23)
[8] PHASE 06 「合わさる意志」[menou](2013/08/17 16:11)
[9] PHASE 07 「ターニング・ポイント」[menou](2013/08/29 18:01)
[10] PHASE 08 「つがい鷹」[menou](2013/09/11 10:26)
[11] PHASE 09 「モビル・スーツ」[menou](2013/09/16 14:40)
[12] PHASE 10 「流星群」[menou](2013/09/23 23:47)
[13] PHASE 11 「眠れない夜」[menou](2013/10/01 16:10)
[14] PHASE 12 「智将ハルバートン」[menou](2013/10/06 18:09)
[15] PHASE 13 「大気圏突入」[menou](2013/10/17 22:13)
[16] PHASE 14 「微笑み」[menou](2013/10/22 23:47)
[17] PHASE 15 「少年達の向く先」[menou](2013/10/27 13:50)
[18] PHASE 16 「燃える砂塵」[menou](2013/11/04 22:06)
[19] PHASE 17 「SEED」[menou](2013/11/17 17:21)
[20] PHASE 18 「炎の後で」[menou](2013/12/15 11:40)
[21] PHASE 19 「虎の住処」[menou](2013/12/31 20:04)
[22] PHASE 20 「砂漠の虎」[menou](2014/01/13 03:23)
[23] PHASE 21 「コーディネイト」[menou](2014/01/29 22:23)
[24] PHASE 22 「前門の虎」[menou](2014/02/11 21:19)
[25] PHASE 23 「焦熱回廊」[menou](2014/02/15 14:13)
[26] PHASE 24 「熱砂の邂逅」[menou](2014/03/09 15:59)
[27] PHASE 25 「砂の墓標を踏み」[menou](2014/03/13 20:47)
[28] PHASE 26 「君達の明日のために」[menou](2014/03/29 21:56)
[29] PHASE 27 「ビクトリアに舞い降りる」[menou](2014/04/20 13:25)
[30] PHASE 28 「リナとライザ」[menou](2014/04/27 19:42)
[31] PHASE 29 「ビクトリア攻防戦」[menou](2014/05/05 22:04)
[32] PHASE 30 「駆け抜ける嵐」[menou](2014/05/11 09:12)
[33] PHASE 31 「狂気の刃」[menou](2014/06/01 13:53)
[34] PHASE 32 「二人の青春」[menou](2014/06/14 20:02)
[35] PHASE 33 「目覚め」[menou](2014/06/30 21:43)
[36] PHASE 34 「別離」[menou](2015/04/20 23:49)
[37] PHASE 35 「少女が見た流星」[menou](2015/09/16 14:36)
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[36981] PHASE 10 「流星群」
Name: menou◆6932945b ID:bead9296 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/09/23 23:47
――起動設定確認。
各ジョイント点検。擬似皮質点検。擬似神経野接続確認。各部センサー確認。
バイラテラル角1:2.5、運動偏差――は、動いてみないとわからないが、ストライクよりかなり妥協した設定になっている。
電子兵装ヴェトロニクスオンライン。APU(補助電源)接続確認。三次元ベクターノズル、偏向テスト完了。
インプットロジカルは……ぱっと見、ナチュラル用なのかコーディネイター用なのかはわからない。
コクピットから顔を出して、足元から見上げてくる何人かの整備員を見下ろす。
そのうちの、まるでサンタクロースのように豊かな髭を蓄えた、まるでテキサスでステーキ屋でも営んでそうな太った整備員に、怪訝そうな視線を向けた。

「これ、使えるんですか?」
「俺が整備したんだ、使えないはずがあるか!」

ぶん、とたくましい腕を振り上げる男。マードックに似て、どことなく頑固一徹の職人を想起させる態度と姿。
とにかく、信用するしかないか。そう思った。そう思わなければ、命がけの戦闘になど出られない。
それに、ストライクを除けば、初めて配備されたモビルスーツ。今までMAで出撃するたびに九死に一生スペシャルに出演できそうなほど死に掛けたリナとしては、これに喜ばないはずがない。
小さな胸を弾ませながら、もう一度コクピットのシートに座って、コンソールパネルのキーに指を走らせ、コンディション画面を表示させる。
ヴェトロニクスが起動。コンソールパネルが輝き、OS起動画面が表示された。

General
Unilateral
Neuro-Link
Dispersive
Autonomic
Maneuver_Synthesis System

「……ストライクと同じOS使ってるのか」

縦読みで、ガンダム。何かの冗談としか思えない。偶然の一致にしては出来過ぎだ。
だけどこいつはガンダムじゃない。キーボードを操作して、機体点検の画面を立ち上げると、左上に型式と機体名が表示された。

GAT-01A 先行量産型ストライクダガー。

先行量産型であることと、型式番号の最後に”A”がつくだけで、あの”ストライクダガー”とどう違うのか分からない。
まあ、何はともあれMSだ。MAじゃないならなんでもいい。ようやく、この世界に来た意味が出てきた。
よし、ここからばっちり戦果挙げて、ガンダムのコクピットを目指すぞ!

「言っておくが、フェイズシフトは無いからな。装甲はメビウスと似たり寄ったりだと思っておけ!」
「……一気にありがたみが失せたなぁ」

十メートル下で作業監督をしている髭の整備員の忠告に、期待感に水を差されて表情をぶすっと翳らせる。
機体は良くなっても装甲は前のまま。またあの毎度九死に以下略に出演しなければならないらしい。
その整備士はリナの残念そうな表情に、蓄えたヒゲ越しにでもわかるくらいに大きく笑った。

「わっはっはっは! 確かにフェイズシフトは実装されてねぇが、パーツのほとんどはストライクと共有してる!
理論上は、奪われたG兵器とやりあえるだけのスペックは持ってるんだ。そんな腐った顔すんな!」
「G兵器の量産に成功したってこと?」

まじでか。期待の視線を髭の整備員に向けたが、その整備員の声が劇的に小さくなった。

「……元々G兵器自体が、量産のテストモデルだからな。五機のG兵器は部品の大部分を共有してるんだが……。
その共有してる部品の予備の規格落ちをかき集めて組み立てたのが、これなんだよな。
まあ、頑張ればG兵器とやりあえる、と思う。多分。おそらく。運が良ければ」

今にも、人差し指同士をつんつん合わせそうなくらいテンション低い。要するに、そんな自慢できる性能でもないらしい。
言われてみれば、よく観察すると頭から下はストライクだ。カラーリングも、なんとなく白色が暗い。
頭と色がダガーのストライク、ということであるらしい。
その貫禄のある整備士は、髭をいじりながら苦笑いを浮かべる。

「見た目が違うのは……G兵器の顔は見たことあるだろうが、それぞれ個性的だろ?
 配置が被ったセンサーを一つに統合したり、高価な部品を妥協して平均化していったら、この顔に収まったんだとよ。事務的な顔してるだろ?」
「……ジム的にね」

上手いこと言ったつもりか、こいつ。本人は、なんだそりゃって顔してるけど。
そこへ、コクピットを覗き込んでくるキラ。いきなり目の前に現れて、どきりと胸の奥が跳ねて小さく目を見開いてしまう。

「? リナさん、OSの調整をしましょう」

その表情に気づいたようで、キラが疑問符を浮かべた。いかん、平常心だ……。

「う、うん、わかった。……いきなり入ってきたからびっくりしただけだよ」
「あ、ごめんなさい……」

別にいいけど、と視線を泳がせながら整備用のキーボードを引っ張り出してコンソールパネルを調整画面に切り替え、リナがコクピットから離れてキラに座席を譲る。
自分は横から見て、あれこれと指示するだけ。さすがにキラのようなスーパーコーディネイターでなければ、OSのプログラミングには手が出ない。
しばらく調整していると、外の賑わいが大きくなってきた。ストライクとゼロの整備員が集まってきたからだ。

「へぇー、こいつがG兵器に続いて初の地球軍のMSかい」

ムウは自機の整備を一段落させ、ハンガーに固定されたMSを見上げて明るい声を挙げる。
今の彼は整備員のオレンジ色の作業服を着ている。

「これでザフトのMSとも対等に渡り合える、ってわけか? だけど一機だけかよ」
「まだ地球軍に、MSの生産ラインが整ってないからな。これを含めて二十機程度しか配備されてねぇんだ」
「そのうちの一機が回ってきたと。期待されてるねー、俺達」

快活に笑うムウ。まったく、気楽なものだ。MSに乗れたとはいえ、こちとらキラみたいに万能で最強じゃない。
それに、G兵器の規格落ち部品を使ってるらしいから、性能は期待できない。あくまでG兵器を比べて、だけど。
まあメビウス・ゼロに乗ってるムウよりはマシなのかもしれない。こちらは対ビームシールドも持っているわけだし……。



時は少し遡る。



「で、このMSには誰が乗るんだ?」

パイロットの三人全員で、搬入した先行量産型ストライクダガーの部品の点検と整理をしながら、ふとムウが声を挙げた。
ぴくり、と肩を震わせたのはリナだけ。キラはきょとんとムウを見返している。

「フラガ大尉が乗るんじゃないんですか?」

まあ、実績とか階級から考えたら、キラがそう考えるのも無理は無いけど……。
それを聞いてリナは、じっとキラを見上げた。ボクが乗りたい! と、視線で訴えるように。でもキラは気づかない。
キラのあっけらかんとした言葉にムウは肩をすくめて苦笑する。

「そう言いたいところだが、順当にいくと乗るのはシエルだろ。
こんな敵地のど真ん中で、突然慣れない機体に替えられてのろくさ出て行くなんて御免だからな。
シエルも同じだろうけど、ちょうど乗るMAが無いだろ? ちょうどいい機種転換の時期だと思うがね」

リナはその言葉に素直に頷く。視点の違いゆえに多少内容は違えど、リナが思っていたことと意味は全く同じだ。
不慣れな兵器、それも全く操縦機構の違う機体に乗り換えるのは、平時であれば無理なく行えるが……それが戦場の真ん中なら、ムウの主張は無理もないことだ。
いくら性能がいいとはいえ、操縦がよちよち歩きではすぐさま落とされて宇宙の藻屑となる。
それでは死んでも死にきれないというもの。大事なことなので二回言うが、リナも同じ事情だ。

「でも、地球軍でも数少ないMSパイロットになれるんだ。将来地球軍には嫌でもMSが大量配備されるだろうな。今のうちに慣れておけよ。
俺はしばらくは、ゼロでやっていくからな。ゼロは俺の相棒みたいなもんだ」
「はい、ではお言葉に甘えて!」

必要以上に元気に応えたリナであった。
ようやく念願のMSのパイロットになった! こう言うと殺してでも奪い取られそうな気がするが、ただの妄想だ。
そういう成り行きで、というか簡単な成り行きで、リナがこの先行量産型ストライクダガー――ストライクダガーとしておこう――の専属パイロットとなった。

「……終わりました。僕もこのMSについてはよくわからないから、細かい調整に関してはなんとも言えないですよ」

整備用のキーボードを格納しながら告げるキラ。二人で行ったOSの調整は終わるが、キラといえど専門の技術者じゃないから、一から組み上げるのは難しいようだ。
それでもリナは満足げに笑顔を浮かべて、キラの肩をぽんとたたいた。

「キラ君の整備なら大丈夫! これで百人力だよ。ありがとう」
「は、はい」

キラははにかみながら、照れるみたいに頬を掻いた。
彼はその自分のスペックに反して、妙に自信がないような態度をとるところがある。
謙虚といえば聞こえが良いが、どことなく卑屈さも混じっているような気がしてならないのだ。
彼に自信をつけさせることが、まず必要なんじゃないかとリナは思った。
だから、彼はとにかく褒めてあげよう。自信がつけば、彼はひとかどのパイロットになれるはず。

「機体の整備中とは思えないほど、楽しそうね」
「あっ……ラミアス大尉?」

キラと微笑み見つめあっていると、コクピットを覗き込んでくるマリューの姿があった。
なんでこんなところに、と思って目を丸くする。憂いを含んだその表情と関係があるのだろうか。
ふ、とマリューが笑った。

「私はG兵器つきの技術士官だったのよ。地球軍が新しいMSが作ったと知ったら、気にならないはずはないわ」
「なるほど……」

マリューといえば、オペレーターとか艦長とかのイメージが強かったから、ブリッジの虫かと思っていたけれど、最初に会ったときは整備員の格好をしていたのだった。

「地球軍のOSがどれくらい完成しているか見たかったけれど、もうキラ君がいじってしまったみたいね」
「す、すいません」
「いいのよ、別に責めてるわけじゃないの。ただ、すごい、と思ってるだけよ」

マリューがキラに向ける瞳は、リナには羨望の眼差しのように思えて、ぎくりとする。
彼女の言いたいことが、なんとなく分かってしまう。

「……機械に関する知識は学生並みくらいのはずなのに、難解複雑なMSのOSがいじれるのだから、大したものよ」
「ボク達ナチュラルには、不可能ですか?」
「えぇ、そうね。何十年に一人の天才……っていうレベルと言えるわね」

リナの問いかけに即答するマリュー。その瞳にはやはり羨望が浮かんでいる。
マリュー自身も、この技術と知識を身につけるまでに、大変な苦労があったのだろう。
G兵器の技術士官なのだから、彼女も多才と言える。だが、キラを見てナチュラルの限界を感じたのかもしれない。

「コーディネイターは、すごいわね」

最後のぼやきにも似た言葉には、キラへの皮肉があらん限り篭められていた。


- - - - - - -


モントゴメリィを旗艦に、コープマン大佐率いる第八艦隊先遣隊の航行目的は、単純にいってアークエンジェルと合流、
のちにアークエンジェルが任務を全うするためにできる限り援護することである。
しかし、先遣隊は航行目的とは別に、荷物を運んできた。ジョージ・アルスター事務次官である。
愛娘が乗るアークエンジェルに行くために、いわば「相乗り」してきた形だ。
というわけで、荷物と一緒に「搬入」されたジョージ・アルスターが、娘のフレイ・アルスターが感動のご対面というやつをやっていた。

「イイハナシダナー……って言うと思ったかコノヤロウ」

リナはそれを遠巻きに見て、ぶつぶつと呟いた。
事務次官とはいえ、民間人がその程度のことのために相乗りするとはなんたる厚顔無恥。
リナは軍人の家庭に育ったため、民間人が軍のことにしゃしゃり出てくることに大いに抵抗があった。
ちなみにキラは棚上げしている。アカデミー生らはちゃんと階級が与えられたのでよしとする。

(しかしあのオヤジは許せん。権力暈に着て民間人の身で乗り込んできやがって。とっとと帰れ。できればその娘を連れて)

腕組みして表情をぶすーっと不機嫌を露にしながら見ていると、ふと気になることを思いついてしまう。
そういえば、このオヤジはこの後どうするんだろう……。

「ああ、パパ! 本当に会えてよかった……この先不安でしょうがなかったの!」
「私も心配したんだよ、フレイ! でも、こうして無事な姿が見られてよかった」
「でもパパ、これからどうするの? この船、戦ってるみたいよ」
「大丈夫だよ、フレイ。私もこれからこの船に一緒に乗るから」

何が大丈夫なのだ。そう胸中でうめいたリナ同様、ムウも頭を抱えて頭をぼりぼりと掻いていた。
戦闘艦に高級文官が乗るなど……扱いに困るし、ほかの避難民の目もあるし、特に前線指揮官であるムウには頭痛の種以外の何者でもなかろう。
できればずっと中央区画に引っ込んでおとなしくしてほしいところだ。

「やれやれだな……お偉いさんの道楽もいい加減にして欲しいね」

ムウのあきれ気味の呟きに、リナは大いに頷きを返した……そこへ、アラーム!

〔総員に達す! レーダーに敵部隊らしき感あり!
総員、対空戦闘、ならびに対艦戦闘用意! 通常通路閉鎖! 非戦闘員はただちに指定された避難区画へ避難せよ!〕

今度は、ぶっつけ本番でMSを操縦しなければならなくなったリナが頭を抱えた。

(本当はもっと練習をしたかったんだけれど……仕方ない!)
「シエル! お前さんはまだ慣熟飛行もしてないだろ! おとなしくしてろ!」

ムウがブリーフィングルームに流れていきながら、リナの出撃したがる性格を知っていて、先に釘を刺してきた。鋭い。それに、これ以上無い正論だ。
だが、リナはそれでも食い下がる。せっかくモビルスーツを使えるんだ。このチャンスを逃してたまるか!

「い、いえ、砲台くらいはできます! シミュレーションも十分やりました!」
「馬鹿言ってんじゃないの! 虎の子のモビルスーツを落としたら責任取れないぞ!」
「き、キラ君の支援に回ります……それならいいですよね!?」
「えぇ!?」

キラが不服そうな声を挙げた。なんか言ったか、とリナがキラにガンを飛ばすと、弱気な性格のキラは、たじ、と後ずさり。
ムウはそのやり取りを見て、ふむ、と一瞬考え事をする風で、

「……しょうがない! 実戦に勝る訓練は無いってとこだな……手数も要るしな。
ただし、自分の命と機体を第一にしろよ。シールド保定と着艦くらいはできるだろ!」
「は、はい……」

えらい言われようだが、我慢しよう。足手まといになりかねないのは認めるところだ。
とにかく、リナとキラも着替えのために、ロッカールームへと流れていった。

通信での緊急ブリーフィングで明らかになった情報は次のとおりだった。
敵はローラシア級が一隻。頭上から逆落としに襲ってくるらしい。もしMSを満載しているなら、六機のMSが現れることになる。
しかし、いくらMSが優位性を保っているとはいえ、こちらはアークエンジェルとストライク、そしてメビウスを満載した地球軍艦艇が三隻もいる。
少々油断しすぎではないのか。そう不審に思ったのは、ムウも同じようだ。モニターの向こうで唸っているムウ。

〔なんかあるな……囮の可能性が高い。よし、俺がこの六機を引っ掻き回す。
坊主と中尉は、しっかりアークエンジェルをガードしてくれよ。坊主は中尉もガードだ、いいな?〕
〔は、はい!〕

おや、キラ君のテンションがやや上がったぞ。どういうことだろう。
まあ彼のやる気が充実してくれれば、ボクも生き残る確率が高くなるというもの。がんばってもらおう。
発進シークェンスを続行。ジェネレーターに火を入れて、OSを立ち上げていく。
地球連合軍の紋章が表示。ローディング。各部センサーを順次立ち上げていく。
さっき点検したばかりなので、細かい各部点検は省略。頭部のゴーグルに光が点り、機体全体をジェネレーターの出力が上がる振動で唸りを上げる。


〔――シエル機、発進シークェンス・ラストフェイズ。発進を許可する〕
「了解! ……シエル機、ストライクダガー、行きます!」

号令の直後、リナが乗った機体が勢い良く宇宙へと押し出されていく――

アークエンジェルから三つの光点が射出されたのと同じ時間。
モントゴメリィ以下三隻の先遣隊もまた第一種戦闘配置につき、機首を上げながら艦載機のメビウスを次々と射出していた。
射出されたメビウスは全部で十二機。フライト(四機小隊)が三つ、編隊を組んで、ムウ・ラ・フラガのメビウス・ゼロに続いていく。
アークエンジェルの艦載機の部隊編成は特殊すぎて、まだMS運用法が確立していない地球軍では、アークエンジェルの部隊と共に飛翔することに少々戸惑いの色があった。
それも無理からぬことだ。今まで散々、同じMSに苦戦を強いられ、撃破されていたのだから。
だが、モントゴメリィの艦長、コープマン大佐はアークエンジェルから射出されたMSを見て、頼もしげな眼差しを浮かべていた。

(あれが我が軍が開発したMSか……あれが量産されれば、地球軍は勝てる。そう信じたいものだ)
「しかし、ザフトに開発が遅れること半年……果たして渡り合えるかどうか?」

いくら兵器で並ぼうと、操るのは人間だ。その人間が正しい運用法を身に着けない限りは、数が揃おうと烏合の衆に過ぎない。
しかも相手はコーディネイターだ。こちらがとろとろとMSの操縦の練習している暇を与えてくれるものかどうか。
アークエンジェルに搭載されているストライク。そして、そのパイロットに思いを馳せる。

「やはり目には目を、か……」

ナチュラルのために戦うコーディネイター。「あれ」が完成せねば、地球軍に勝機は無い。
すぐさま戦闘は始まる。弱気を振り切り、そのコーディネイターと戦わなければならない。
号令を待つブリッジスタッフに、コープマンは静かに戦闘開始を宣言した。


- - - - - - -


「Nジャマー数値増大! 敵艦ローラシア級、MS隊を射出した模様!」
「各砲座、先行したフラガ機に当てるなよ! 先遣隊のMA隊にも射線から離れるよう伝えろ! ……敵機、数の把握を急げ!」
「最大望遠……確認しました、四機です!」
「なに?」

索敵のトノムラ伍長の報告に、ギリアムは疑問符を浮かべる。
確か、地球軍のデータベースではローラシア級のMS搭載数は六機のはず。
ザフトはローラシア級を主力級としており、地球軍がこのタイプの艦艇と交戦した回数は数知れない。
そのデータが間違っているとは到底思えない。何故六機搭載できる艦に四機しか搭載していないのか。

(アークエンジェルのレーダー範囲外から、機体を二機だけ先に射出したのか?
何故だ? その二機も、まだ望遠範囲にすら到達していない……)

ギリアムは悩んだ。現在進行形で向かってきている四機を迎撃しなければならないのは確かだ。悩みながらも四機への砲撃命令を出している。
現在の艦隊司令はコープマン大佐だ。この艦の動きが彼の命令を超えることはない。しかし、この姿無き二機への対応を上申することもできる。
だが、この姿無き二機は何なのか。それがわからなければ、上申する理由も意味も無い。

「索敵は対空監視を怠るな! 敵機がどこから飛び出てくるかわからんぞ!
各砲座はフラガ機と敵機を引き離すように撃て! 精密射撃は必要ない!」
「了解!」



「はぁ、はぁ……」

ストライクダガーのコクピットで、リナの息は荒く、バイザーを白く曇らせていた。
特に疲労があるわけではない。極度の緊張と高揚感がそうさせるのだ。
初めてのMS戦。二十三年間想い続けた念願のMSを与えられて戦闘に出たことに、リナは興奮していた。

三日間シミュレーターで練習していたとはいえ、やはり二本の操縦桿というのは奇妙な感覚だ。
HUDの表示形式も違う。メビウスは、いわば大昔の戦闘機の延長線上のような表示だったが、
こちらはバランサー、接地角、接地圧(この二つは宇宙戦なので「N/A」と表示されている)、フィギュア(今機体がどんなポーズをとっているかというCG)など、メビウスに比べると表示している情報量がかなり多い。
なるほど、コーディネイターはこんなものを見て操縦していたのか。

そのうちの表示、メビウスにも表示されていたエネミーマーカーを見る。距離計はかなり遠い数値を示していた。
とはいえ、レーダーによる情報ではない。Nジャマー散布下では、レーダーは無効化される。
ストライクダガーのコンピューターが、現在見えているジンの大きさとデータを比較して、だいたいの距離を割り出しているだけだ。

「……き、キラ君。ボク達の任務は艦の護衛だからね。慌てて飛び出さないように……」
〔わかってますよ〕

リナの少し上ずった声による警告に、キラから、当然のような声が返ってくる。飛び出したいのは自分だ。自分に言い聞かせるために言っただけ。
メビウスでの初出撃だって、こんなに高揚しなかったじゃないか。落ち着け、リナ・シエル。

「!!」

二機、ムウの撹乱から抜け出してこちらに飛んできた! すぐに距離計はビームライフルの射程範囲に入ってくる。
レティクルが緑色から黄色に変わる。主兵装の射程範囲に入った合図だ。

(七六ミリ機銃のほうが射程が狭いのか……?)
「なら先手必勝!」

□のレティクルと◇のロックオンシーカーが重なり、八角形になる。トリガーを引く!
ビームライフルが緑色の閃光を吐き出し、真っ直ぐジンに向かって伸びた。ジンは右に軽く機体を振って避けた。
やはりかわされる。当然だ。テレフォンパンチに当たってくれるほど、コーディネイターはバカじゃない。
バーニアから火を噴いてストライクダガーを思い切り上昇させ(宇宙で上昇というのもおかしいが)、七六ミリ機銃から弾丸を吐き出してくる。うかつに避けたら艦に当たる!
シールドを構えて、機銃の照準からボディを隠す。
ストライクダガーの腕越しにコクピットを着弾の衝撃が震わせる!

「うっ、くっ……!?」

シールドはもつのか!? 衝撃を感じながら、冷や汗がにじみ出る。思わず、操縦桿を握る手に力が篭められる。
七六ミリ弾なら耐え切るという諸元はあるが、そんなもの目安でしかない。あてにしていたらダメだ!

「くっそ……キラ君、艦を頼む!」
〔リナさん!?〕

キラの制止の声が聞こえてくるが、かまうものか。フェイズシフト装甲が装備されているストライクと違って、
こちらは被弾は即撃墜に繋がる。メビウスと同じように、動き回らないとただの止まったハエだ。
スロットルを開いてバーニアを思い切り吹かし、ジンに突撃をかける。ジンは猛スピードで迫ってくるMSに、一瞬たじろいだようだった。

「うわあぁぁぁぁ!!」

絶叫しながら、ビームライフルを射撃! より近くで撃ったからか、避け切れなかったようで、ジンの左肩をビーム粒子が抉った。
距離計が目まぐるしい勢いで下がる。このスピードでビームサーベルを抜いている暇はない!
ジンは反射的に重斬刀を抜くが、判断ミスだ。この距離と相対速度で、突きや斬ることなどできはしない。
操縦桿を乱暴に捻り、シールドを持つ手を思い切りジンにぶつける!

ガシャアンッ!!

七六ミリ弾の着弾とは比べ物にならないほどの、コクピットを激震が襲う!
シールドの先端がジンの左顎を捉え、カメラアイと首関節部が損壊し、モノアイから光が消えた。
やはりジンのパイロットは耐え切れなかったようで、ジンの動きが止まる。そこへコクピットにビームライフルを突きつけ――射撃。

「……!!」

パイロットは声を挙げる暇もなく、ビームの高熱で一瞬で蒸発。操り手がいなくなったジンの動きが止まる。
漂うだけとなったジンから、もう一機のジンにカメラを合わせる。ロックオン警報が無いと思ったら、キラを相手にしていた。
アークエンジェルの近くで戦闘を行っているキラ。今しがたビームサーベルで袈裟懸けに切り裂いているところだった。

「さすが……」

キラが実戦を行っているところは一回しか見たことがないが、あのときに比べれば危なげなくストライクを操縦している。
こちらは初心者だから、というのもあろうが……いまいち、生前(?)の時のように動かせない。
さっきは勢いだけで倒せただけで、あれより腕のいいパイロットに当たったら勝てる気がしない。

「キラのようにはいかないな……どれ?」

操縦桿を軽く回して、ぐるん、とカメラを巡らせる。メビウスとは比べ物にならない回頭性能。二秒余りで一八〇度視界を巡らせることができた。
視界の先は、ムウとジン二機が交戦しているはずの宙域だ。まだ戦闘を行っているようで、曳光弾が散発的に飛び交っているのが見える。
まだ戦っている。まあ、MA一機でジン二機相手に粘り続けているだけでも人間離れしているけど。

「援護にいったほうが――うわっ!?」

ブンッ!
とでも音がしそうなほどすぐ近くで、何か巨大な黒いものが、青い火を曳いて上から下へ通り過ぎた。
接近警報がかなり遅れて鳴る。なぜ気づかなかったのか。
アークエンジェルから向かって上を見上げる。キラキラと太陽光を反射して移動する物体が、多数。
――隕石!?

「か、艦長! 方位〇-八-〇、直上より飛翔する物体多数! 隕石です!」
「なんだと……!? 対空監視は何をしていた! ただちに小惑星に対し迎撃を――ぐっ!!」

ギリアムが叫んでいる間に、激震がアークエンジェルを襲う。艦長席から落ちそうになるのを堪えて、事態を把握しようと努める。

「くっ……損害状況を知らせい!」
「左舷格納庫、ならびに第二艦橋に隕石が直撃! エネルギーライン断絶! 酸素流出が始まっています……。
第四、第五通路を、隕石が塞いでいます! 各部担当区の連絡通路が途絶!」
「整備用のレーザーカッターで小惑星を切り崩せ! 船務科はダメコン急げ!」
「ピッチ角一四〇度上げ! 隕石群に対し迎撃を開始する! ゴッドフリート、撃ち方始めぇ!」

ギリアムが損害に対する命令を繰り出しながら、ショーンが隕石に対し迎撃命令を発する。
この隕石群は、どう考えても不自然だ。観測の専門家でないギリアムにも分かる。
まさか、敵の攻撃か……? こんな攻撃方法、あのプライドの高いコーディネイターがするだろうか?

先のジン四機の迎撃にすべての砲を向けていたせいで、対応が遅れてしまった。
あと、ジンが来ていたせいで、攻撃は全部MSでしてくると思い込んでしまった。だから、対空監視が隕石群を見逃したのは仕方が無いことなのだ。
しかし、ザフトの最大の有利点であるMSをオトリにするなど、今までのザフトではありえなかった。

「更に方位一五〇より、隕石群多数! 僚艦ローが隕石の直撃を受け、中破! 
モントゴメリィも艦首を隕石で削り取られています……! 航行に支障、援護要請が出ています!」
「艦載火器全てを非常事態(ハルマゲドン)用の自動発射管制で起動! 僚艦ならびに本艦に接近する隕石全てを迎撃対象にしろ!
味方機にも、隕石迎撃を最優先とするよう伝えろ!」
「了解、全火器をハルマゲドンモードで起動! 味方機に援護を打電!」

アークエンジェルと先遣隊は、全ての火器を用いて隕石を迎撃していた。
イーゲルシュテルン――ハリネズミという意味よろしく、全身から火線を針のムシロのように伸ばして、隕石を破砕していく。
隕石に取り付いているのは、ロケットブースターだった。
それも、少量の燃料タンクと旧式のロケットブースターのみ。火薬などの爆破機構も付属していない、ただひたすら突進するだけの兵器。

「ザフトめ、プライドよりも効率を選びはじめたのか……!?」

ギリアムはうめいた。まだ戦争も中期だというのに、こんな急造兵器に頼り始めるとは。
現在もザフトは攻勢を保っており、MS一択で一気に畳み掛けていくのが普通の指揮官の考え方だ。
だが、この指揮官は冷静で慎重で、したたかだ。ザフトには資源も人も少ないことをよく自覚している。そのうえでこの戦術を選んだ。
この兵器はわずかな資源で確かな威力を発揮するため、ザフトのような資源が無い国家でも物量作戦を展開できる。
しかも、この状態でもしMSで追い討ちをかけられたら――

「……!?」

アークエンジェル全体が、びりびりと細かな振動をする。ダメージを受けた衝撃ではない。まさか。

「ば、バーナード撃沈! 隕石の中に、ジンが紛れこんでいます!」
「やられたか……!」

このフルオート射撃管制の弱点が露呈した。全てコンピューター任せなだけに、人間の処理能力では追いつかないような面制圧が可能だが、MSのような機動性の高い兵器には効果が薄いのだ。
全ての弾幕は隕石のために使われていて、MSを迎撃するだけの余裕がない。
ドレイク級”ロー”が、ジンの出現に、そちらに火線の大半を向けはじめる。
しかし今度は隕石の迎撃が追いつかず、次々と船体に隕石が食い込み、轟沈。

「ロー、撃沈!」
「ぐっ……フラガ隊を呼び戻せ! MSの迎撃を優先しろ!」

同時に、メビウスらMA隊がジンの迎撃を開始した。
綺麗な編隊を組んでジンにリニアガンを撃ち込んでいくが、易々とかわされていく。
ジンとて、撃たれるとわかっていれば当てられはしない。いつものようにMSの優位性を生かして、
後ろに回りこんで、メビウスの背中に七六ミリ弾を叩き込み、次々と宇宙の塵とさせていく。
その光景を見て、リナの胸中に、吐き気を伴うほどの怒りがこみ上げてくる。

「お前ら……!!」

目が凶悪にぎらつき、ざわ、と長い黒髪が逆立つ。メイソンのMA隊の姿がフラッシュバックする。
MA隊の仲間は、皆気が良く、こんな幼い容姿の自分をとても良くしてくれた。仲間として扱ってくれた。
恋に悩んでる奴もいた。笑いが好きな奴がいた。家族を想って泣いてる奴もいた。
そんな普通の人間達が、一瞬で宇宙で散った。全てが空しくなってしまった。
メビウスの撃墜に、それを思い出してしまったのだ。

ビームライフルを捨て、ビームサーベルを、ビーム刃を展開せずに握ってジンに突撃!
どうせ隕石の迎撃に撃ちすぎたせいで、ビームライフルを使う余裕などないのだ。邪魔なだけなら要らん!

「うわぁぁぁ!!」

シールドを前に構え、ジンに肉薄。しかし、ジンは接近戦をしようとせず、距離をとりながら七六ミリ機銃を撃ってくる。
ガガガガンッ!! シールドに何発もの銃弾が叩き込まれ、シールドの損傷率の増大をセンサーが伝えてくる。
だが、構ってはいられない。こいつらは許せない!
逃げようとするジンに、被弾を恐れず向かっていく! 背を向けた。愚か者め!
ビーム刃を展開して、そのジンの腰のあたりに、ビームサーベルで真一文字に振りぬく!

「うおわあぁぁ!?」

ジンのパイロットが断末魔を挙げる。ジンの胴体がスパークし、血のように火花を散らせ、わずかなタイムラグの後に、ジンは腰から真っ二つになっていく。
そして、爆発。バッテリー駆動のジンは、大した爆発など起こさない。
まだ戦闘は続いている。振り返ると、もう一機のジンが七六ミリ弾をばらまいてくる。

「うぐっ、うわっ!!」

穴開きチーズのように穴だらけになったシールドが、最後の着弾で腕ごと千切れ飛んでいく。
シールドが無くなれば、もう装甲はメビウスと同じだ。慌ててスロットルを開いて操縦間を引き、バーニアから火を噴いて七六ミリ弾の火線から逃れていく。
反射的にビームライフルに兵装を交換しようとしたけど、ビープ音と共に拒否された。そうだ、ビームライフルは捨てたのだ。
チッ、と舌打ちして、可憐な顔立ちをゆがめるリナ。左足に七六ミリ弾が突き刺さった。コンディション画面に赤が増える。

「このっ、ライフルさえあれば……!」
〔リナさん!〕

そこへ、ジンが一筋の閃光に貫かれ――爆発。ビームの閃光と同時に聞こえたのは、キラの声だった。
カメラを向けると、ビームライフルを構え、灰色に変わっていくストライクの姿があった。
最後の一発を、自分を助けるために使ってくれたらしい。安堵に胸をなでおろし、笑顔を浮かべた。

「キラ君……また助けられ――」

ビリビリビリッ!!
ストライクダガーを、別の振動が襲った。ゴンッ、と機体に異音が走り、わずかに動かされる。
この衝撃は。笑顔だった表情を青ざめさせて、メインセンサーをモントゴメリィの方向に向ける。
まさか、まさか。
モントゴメリィにいくつもの隕石が突き刺さり、異様な形にねじれ、ブリッジがひしゃげて消失していた。
いくつもの小爆発を起こし――最後に、大きな爆発。

「……!!」

眩い閃光の中にモントゴメリィが消えていくのを、リナは呆然と凝視し続けた……。


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