<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

SS投稿掲示板


[広告]


No.36777の一覧
[0] 魔剣鍛冶のクレイン[天地](2013/02/23 22:40)
[1] 一話[天地](2013/02/23 22:41)
[2] 二話[天地](2013/03/03 19:56)
[3] 三話[天地](2013/03/05 00:42)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[36777] 魔剣鍛冶のクレイン
Name: 天地◆615c4b38 ID:f093c12d 次を表示する
Date: 2013/02/23 22:40
 人には領分というものが存在する。
 学者の尻を叩きスポーツに参加させて、嫌がらせ以上の意義があるだろうか。あるかも知れないが、それはきっと大したものではない。大半の人間は、こう考えるだろう。そこらで昼間から酒に飲まれている、肉体労働のおやじでも引っ張ってくればいい、と。もしくは、本当に役に立っているかどうかも分からない、駐屯所の中でふんぞり返っている騎士。彼らに、世間とはどういうものかを見せてやった方がいい。つまりは、わざわざ頭脳労働が専門の引きこもりを選ぶ必要は無かった。代わりはいくらでもいるのだ。
 彼らに必要なのはペンであり、断じてバトンではない。必要なのは足を動かすことでは無く、腕と頭を動かすことだ。
 鳥は空を飛ぶものであり、魚は水の中を泳ぐものであり、獣は陸を走るものである。獣に羽をつけて空を飛ばせたところで(まあ一部にそういう生物も存在するが)およそ、学術以外の意味など無い。そんな手間を取るくらいならば、最初から空を飛ぶ存在に任せればいいのだ。
 要は、適材適所という事である。何も、不向きな事をさせる必要は無いのだ。人は得意なことだけをして、生きていけばいい。不得手な事を、わざわざ無理してまですることはないのだ。
(そうだろう?)
 内心だけで、自問する。
 当然、帰ってくる言葉は無い。同意を期待しないわけではなかったが、なんにしろ、声に出していない。出力しなければ、それは存在しないのと同じだ。
 実際、同意されるにしても否定されるにしても。声に出して、誰かに聞かれるわけにはいかなかった。
 ここにはそれこそ、聞き取る耳などいくらでもある。
(ましてやこの国は、そういう風にできてるんだから)
 何度愚痴っただろう。親友その一とその二にさんざん愚痴り、それでも足りなくて、ベッドの上にある天井のシミに愚痴った。さらに近所に買い物に行って、噂話が好きなおばさんにも、さんざん愚痴を聞いてもらった。普段は疎ましく思うお喋りも、こういう時だけはありがたい。それが面白そうな噂だと思えば、かかしのように何時間でも聞いてくれるのだから。
 ぐだぐだと、意味の無い事を考えながら。彼――クレイン・エンティーハスは視線を落とした。そこには、見慣れた手がある。ただし、持っているものだけは見慣れなかったが。
 手のひらには、山のようにたこができている。それに全く似合わない、白い粉。
 ため息が漏れた。今度は、身のうちに納めようがなく。
 専門家とは、ど素人にはできないから専門家たりえるのだ。そもそも素人にできるならば、専門分野は存在しない。
 餅は餅屋。やるべき事と言うのは、やるべき人間が請け負うべきだ。別分野の専門家に、門外漢の事をさせて喜ぶのは、権力者だけだ。クソッタレめ!――思い切りののしる。やはり、内心で。とてもむなしかった。
 つまるところ。
 鍛冶屋が握るものは、チョークではなく鎚であるべきだし、立つべき場所は炉の前であって、断じて黒板の前などではない。たとえ鍛冶にクレイン以上に腕がある者がいなくとも、教育という意味なら山ほどいる。そして、いなくてはならない。なにしろ、それが専門なのだから。
 だから、自分はここでチョークを置いて、この教室――席は三割も埋まっていなく、非常に寂れている――から出て行ってしまってもいい。いや、むしろそれが自然である筈だ。
(とは言っても)
 疲れに肩を落としながら、しかし滑り落ちそうだったチョークを握り直す。
 実際、ここで本当にチョークを落とすことはできそうになかった。
 それは、わざわざ自分の為に骨を折ってくれた友人の顔に、泥を塗る行為だ。友達にならば迷惑をかけていい、とクレインは思っている。ただし、その後の激憤が無くなるわけでは無い。普段は極めて理性的な反動か、一度本気で怒らせると……身震いをするほどに恐ろしいのだ。
 改めて、教室を見る。生徒数は少ない、が、熱意は本物だ。誰も、瞳の中にぎらぎらしたものを抱えている。
(まあ、やるだけやるしか無いか。顔に泥を塗らん程度には)
 どれだけ泣き言を言おうと、最初から選択肢はないのだ。肩ごと滑り落ちそうだった腕をなんとか支える。そして、チョークを腕ごと持ち上げて、黒板へたたきつけるように、文字を書き込んだ。


次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.025988817214966