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No.36754の一覧
[0] 【完結】とある道化の回転方向(トルネイダー) (原作:とある魔術の禁書目録)[Mr.エスカルゴ](2013/02/22 13:10)
[1] 序 章 レディオノイズプロトタイプ Level2(Product_Trial)[Mr.エスカルゴ](2013/02/22 11:13)
[2] 第一章 グーフィーズ Level3(no_Level)[Mr.エスカルゴ](2013/02/22 11:27)
[3] 第二章 ムーブポイント Level4(and_More)[Mr.エスカルゴ](2013/02/22 11:40)
[4] 第三章 シスターズ Level3(not_Only)[Mr.エスカルゴ](2013/02/22 11:52)
[6] 第四章 オフェンスアーマー Level4(by_Product)[Mr.エスカルゴ](2013/02/22 12:16)
[7] 第五章 トルネイダー Level5(fake_Level)[Mr.エスカルゴ](2013/02/22 12:59)
[8] 終 章 フォーワンセルフ(Silly_Clown)[Mr.エスカルゴ](2013/02/22 13:08)
[9] 後書き[Mr.エスカルゴ](2013/02/22 13:09)
[10] 登場人物紹介[Mr.エスカルゴ](2013/03/03 16:52)
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[36754] 第一章 グーフィーズ Level3(no_Level)
Name: Mr.エスカルゴ◆b0b9ac2e ID:456c14fe 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/02/22 11:27
     1

 目が覚めたら大洪水だった。
 お尻に張り付いたボクサーパンツと夏だというのに冷えきった股、湿ったベッドシーツが語るのは、極めて明瞭かつ簡潔な事実だ。
 つまり、おねしょである。
「――――!」
 声にならない叫びを上げ、道長昨也(みちながさくや)はベッドから跳ね起きた。
 夏だというのに水分を含んだベッドシーツは、仄かに香ばしいアンモニア臭を放っている。意外と嫌悪が湧かないその臭いを吸い込みながら、道長は立ち上がって被害を確認する。
 枕、無傷。
 シーツ、撃沈。
 布団本体、軽症。ただし、臭いが移った可能性有り。
 結論、クリーニング。
 道長は、知り合いと接触することのない、人目の少ない場所にあるクリーニング屋の位置を思い浮かべる。普通のおねしょなら洗濯機に突っ込んでおけばそれでよかったのだが、生憎と道長が生み出したのは『地図』ではなく『洪水』である。十七歳の体で本気のおねしょをしたらどうなるか、という見本がそこにあった。
 道長はベッドから離れると、箪笥から替えのパンツと洋服を取り出す。室内に立ち込める臭いも除去したかったが、まずは居心地の悪い下半身をどうにかしたかった。それに、このままでは衛生上良くないのは確かだ。
 脱いだパンツとパジャマを洗濯機に放り込み、設定を変更する。
 ここ、学園都市の洗濯機には『おねしょコース』という機能がついているのだ。小学生の頃から親元を離れて学生寮で暮らす学生が多い学園都市ならではの機能と言えよう。
 がたんごとん、などという物音を立てることもなく洗濯機は動き始める。その静かさもこの洗濯機の売りだった。
 次に道長は窓を開ける。ベランダからは夏の蒸し暑い空気が流れ込み、アスファルトの焦げた臭いが漂った。この辺りは学生寮が乱立しているため緑がなく、そのためか一段と気温が上がっていた。
 殺菌の意味も込めて布団とシーツを干し、下に落ちないように固定する。
 おねしょの部分が外から見えないようになっているのを確認してから、道長は朝食の準備を始めた。
 トースターに食パンをセットし、冷蔵庫から牛乳を取り出す。ヨーグルトも忘れない。
 乳製品を毎日摂るように心掛けている道長だったが、彼の身長は一向に伸びる気配がなかった。そもそも、いくらカルシウムを摂取したところでそれを骨へと変える成長ホルモンが不足しているのだからどうしようもない。ホルモン抑制剤を打つつもりはない道長だが、せめて百六十センチは越えたいと願っていたりする。
 数分でトーストが完成し、道長は一人テレビを見ながら食事を始める。別段寂しくもない、普段通りの風景だ。
『――筋ジストロフィーの病理研究を行っていた水穂機構が業務撤退を表明しました――』
(筋ジストロフィーってなに?)
 パンを口にくわえながら、道長はテレビの中で原稿を読み上げる美人アナウンサーを眺める。アナウンサーは簡単に筋ジストロフィーの説明をしてくれた。
(ふーん。筋肉が駄目になる病気ね)
 学園都市が本気を出したら治せるんじゃね、などと頭の端で思いながら、道長はパンを咀嚼する。
 学園都市。今道長が住んでいる場所の名前である。
 東京の三分の一を占める一大能力開発機関であるこの独立都市は、周囲と物理的に隔離された状況でその科学力は外界よりも二十年も先を進んでいると言われている。総人口二百三十万の八割が学生であり、その全員が超能力の科学的開発にその身を差し出している異様なそこでは、日夜様々な研究と実験が行われているのだ。
 そんな学園都市が全勢力を上げれば、病気の一つや二つ、簡単に解明してしまうだろう。ただ、世の中には研究するべきことは星の数ほど存在し、為される研究が特定の個人に有益となるかは時の運となる。
『――それでは、今週一週間の天気です――』
 美人アナウンサーがお天気アナウンサーに替わり(彼女は眼鏡美人だった)、学園都市が打ち上げた人工衛星『おりひめ1号』に搭載された、今後二十五年分の技術を結集させた世界最高のスーパーコンピューター『樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)』が『断言』する『絶対に外れない天気予報』が表示される。
 牛乳を飲みながらそれを眺め、いつもより多めの精神安定剤を飲んだ後にデジタル時計を確認する。
 八月二十日午前八時五十八分。
 夏休みもそろそろ終わりが見えてきた頃だった。


     2

 学園都市はその巨大さ故に、使用用途に沿って二十三の学区に分けられている。
 そのうち第七学区は学校や学生寮、病院が建ち並び、学園都市の中でも一二を争う広さを持っている。
 そんな第七学区には、当然ながら多くの学生が生活している。ましてや今は夏休み。見渡す限り、学生、学生、学生の学生の海が生まれていた。
 それぞれが思い思いの格好をしているが、共通して薄着というものがある。
 八月も盛りまだまだ猛暑が続く中、若者たちは肌を晒し少しでも体を覆う布面積を減らそうとしていた。艶かしい十代の白い肌が至る所から目に入ってくるが、変な気を起こそうものなら直ちに学生治安部隊である風紀委員(ジャッジメント)がやって来るだろう。
 それ以前に、能力で撃退されるかもしれない。
 理論上、学園都市の学生はすべからく何らかの能力者である。
 学園都市の学生は全員脳を開発され、超能力を扱えれるようにされている。その手法は万物の真理たる科学によるものであり、強度(レベル)はともかく、彼らが能力者であるのは確かだった。
 学園都市の学生は見た目から強さを判断することができない。凄みを効かせる大男が、知覚できるほど能力が発現していない無能力者(レベル0)かもしれないし、ひ弱そうに見える細身の少女が、個人で軍事作戦に影響を与えるほどの力を持つ大能力者(レベル4)かもしれない。とは言うものの、学生の六割もが実質的に何の力もない無能力者(レベル0)であるし、一番上位に当たる一人で軍隊に匹敵する超能力者(レベル5)に至っては僅かに七人しか存在しない。強能力者(レベル3)まではあくまで個人の枠に収まる程度の能力なので、やり方次第ではどうにでもなるのだが、あくまで彼らは学生であり、軍人ではないので戦い方を知っている学生は不良学生か血気盛んな学生くらいである。
 ならば結局のところ反撃なんて恐れるに足りない、と行動に出た変態紳士を自称する犯罪者たちは、学園都市製の防犯グッズの前にあえなく御用となるだろう。
 事実今でも路地裏から『変態ホイホイ』のけたたましい音が鳴り響いている。
 すぐさま風紀委員(ジャッジメント)が駆けつけたようで、野次馬に混じって道長が覗いてみると、茶髪ツインテールの制服姿の女の子が、十人ほどの柄の悪い男たちに手錠をかけていた。
 人数差と体格差を考えて、恐らく女の子は高位の能力者なのだろう。まだ中学生になりたてに見える様子から、そうであると道長は見当をつける。
(超能力者(レベル5)の風紀委員(ジャッジメント)なんて聞かないから、たぶん大能力者(レベル4)。まだ小さいのに凄いな。それにしても、何の能力だろう? 発火や水流は違うだろうから念力や強化か?)
 十人分もの手錠を持っていたことに呆れつつ、道長はその場を離れた。能力者を見たら何の能力か考えてみる癖が未だに抜けていないことにため息をついた。
 道長は再び大通りを歩き目的地へと向かう。
 ビルの壁に付けられた大型テレビでは、先月の幻想御手(レベルアッパー)事件の特集が放送されていた。
 幻想御手(レベルアッパー)は一ヶ月前に学園都市で話題となった、実在した都市伝説だ。使うだけで強度(レベル)を上げられるということだったが、何でも実際に使った学生は意識不明の重態に陥ったらしかった。道長は興味がなかったので手を出していなかったが、一時期は裏で十数万単位で取引されていたとか。既に終わった事件だが、解決の立役者として噂される存在が道長には気になった。
 御坂美琴(みさかみこと)。超能力者(レベル5)にして序列第三位。超電磁砲(レールガン)の異名を持つ、お嬢様学校常磐台(ときわだい)中学の電撃姫。
 学園都市の代表としてマスコミに顔を出し、学園都市の人間ならば一度はその名を耳に、その姿を目にしたことがあるだろう少女。容姿端麗、学業優秀、運動万能、品行方正、才色兼備を地でいくとされる美琴は、誰もが憧れるお嬢様として知られている。
 そんな美琴に淡い恋心を抱く者は多い。だがそれはアイドルを慕うようなものであり、本気で美琴に恋慕の情を抱いているのは、美琴の本性を知る彼女の同居人くらいだろう。
 当然、道長は美琴に女を見ているわけではない。かといって単なる興味本位で美琴を気にするわけでもない。
 ただ、道長は御坂美琴という人物を考えずにいることができないだけだ。
『――今回の事件はもしかすると、能力の優劣に依存する学園都市のシステムが生み出したとも言えるのではないでしょうか――』
 上を見上げると、テレビの中でコメンテーターの女性が険しい顔つきでしゃべっていた。
 道長は人波に流されながら横断歩道を渡る。数人の少女らとすれ違い、彼女らの会話が少しだけ聞こえた。
(身体検査(システムスキャン)、か)
 身体検査(システムスキャン)とは、学園都市の学生に課せられる定期検査だ。これにより学生たちは能力強度(レベル)を測られ、無能力者(レベル0)から超能力者(レベル5)の六段階に識別され、区別される。そしてそれは、学園都市からの奨学金に始まり、成績、進路、学校での立ち位置等々、学園都市での生活にありとあらゆる影響を与えるのだ。それこそ、無能力者(レベル0)と超能力者(レベル5)では住む世界が、見える世界が全く違う。
 これは当然のことだ。能力というものが学園都市に貢献している以上、能力優劣によって待遇が変動するのはごくごく自然なことと言える。
 ただ、忘れてはならないのは、学園都市にとって能力者の存在はあくまでも手段に過ぎず、到達するべき目的では決してないことだ。
 だが、果たしてどれだけの学生がそのことを正しく認識できているであろうか。
 事実、道長昨也も十ヶ月ほど前までは能力至上主義者の一員だったのだ。強度(レベル)の低い人間を馬鹿にしたり痛みつけたりしていてたわけではなかったが、ここが学園都市である以上、能力のある人間こそが優れており、能力者である自分は選ばれた存在だと密かに思っていた。
 だから道長は非合法の地下研究所に連れて行かれ、一人の少女を殺すことになった。
 そしてそのことに怯え、今や精神安定剤を手放せず、終いには悪夢に失禁することになっているのだ。


     3

「診療日は昨日のはずだったんだがね?」
 開口一番、その医者は診察室に訪れた少年を苦言を述べた。
「すみません」
 短髪黒髪の小柄な少年、道長昨也はばつが悪そうにうつむく。
 その様子を少し見つめてから、愛嬌たっぷりなカエル顔の医者はカルテを取り出して目を走らせた。
「今のところ身体に変化はないみたいだね? 薬はどれくらいの頻度で使っているのかな?」
「三日に一回ほど。ただ、昨日と今朝はいつもより多めに飲みました」
「突発的なやつかな? 能力の方はどうかな?」
「使っていません。使う気も――ありませんし」
「ふむ。AIM拡散力場の数値も相変わらずのようだね?」
 カルテから顔を上げ、医者は道長の目を見つめる。
 鋭くなった眼力にたじろぎ、道長は目を反らした。
 道長とこの医者の付き合いは既に十ヶ月になる。道長の数倍の年月を生きたこの医者は、当然ながら道長の態度に思うところはあったが、今はまだそのときではないとして問うことはしなかった。
「それじゃあ、いつも通り検査と治療をするから三号室の前で待っているんだね?」
 それを合図に道長は立ち上がり、診察室を出ようとする。
 しかしその前に、道長は足を止めてカエル顔の医者に振り返った。
「あの、先生」
「何かな?」
「もし――能力を無理にでも戻したいと言えば、今すぐに戻せますか?」
 道長の質問に一瞬顔をしかめるも、医者は患者の要望に答えるべく口を開く。
「やりようはあるね? ただし、お勧めはしないけどね?」 医者の言葉に道長は少し考え込む。
 そしてそれ以上聞くことなく、道長は診察室を後にした。


     4

 病院からの帰り道、道長はゆっくりとした足取りで人混みの中を歩いていた。
 昼過ぎに行った病院で数時間拘束されていたため、既に時刻は夕暮れ時となっている。建ち並ぶ高層ビルの窓ガラスに反射した夕日が街を染め始めていた。
 歩道を歩きながら、道長は時折脇道に目をやる。路地裏へと繋がるそこは、外の喧騒が嘘のように静まり返っている。でなければスキルアウトや不良学生たちがたむろしている。
 一年ほど前まで、道長にとって学園都市の『裏』とはそういうものだった。
 能力というたった一つの指針によってヒエラルキーが決まってしまう学園都市であるがゆえに、凡人は肩身が狭くなり、それが嫌な者たちは居場所をなくす。
 しかしその程度は『表』の日陰でしかない。本当の学園都市の『裏』には、そんなものでは到底及ばない。
 道長昨也はそれなりな優秀な能力者だ。
 学園都市でも数少ない『ベクトル操作系能力』の持ち主にして強度(レベル)は三。『回転方向(トルネイダー)』という特異な能力は道長の自尊心になり、優越者としての立場を築かせた。
 学園都市最強の超能力者(レベル5)である『一方通行(アクセラレータ)』の能力は、学園都市のデータベースである書庫(バンク)によると『方向制御』と記載されている。
 『方向制御』とは、『方向』つまり『向き(ベクトル)』を操作するベクトル操作能力のことだ。
 ある特定の方向に対象を移動させる『ベクトル操作系能力』は数は少ないものの幾つかは確認されている。しかしそれらはあくまで『ベクトル操作系』であり、『向き(ベクトル)』を完全に支配下におくことはできない。彼らは強度(レベル)が低かったり能力の有効範囲が狭かったりと、希少ではあるもののただそれだけだった。
 だが、『一方通行(アクセラレータ)』は違う。学園都市の序列第一位は体表に触れたありとあらゆる『向き(ベクトル)』を操作する。決して傷一つ付けることのできない最強の存在。
 そんな第一位に最も近いベクトル操作系能力者が、道長昨也だった。
 学園都市の能力強度(レベル)は強能力者(レベル3)からエリートとされる。道長は強能力者(レベル3)の中でもかなり大能力者(レベル4)よりの強能力者(レベル3)。これは一方通行(アクセラレータ)を除くベクトル操作系能力者の中でトップに当たる。更には道長の能力であるところの『回転方向(トルネイダー)』はそれなりに使い勝手がよかった。
 『回転方向(トルネイダー)』はベクトル操作系能力の中でも『円運動』に特化した能力である。対象を『加速』させ、なおかつ自身に『引き付ける』ことで円軌道を描かせるのだ。操作できる『向き(ベクトル)』に決まりはあるものの、必ずしも対象に触れる必要はなく、最大距離三十センチほどまでが有効範囲になっている。『一方通行(アクセラレータ)』の下位互換とでもいうべき能力であるため、強能力者(レベル3)にしてはそれなりに認知度はあった。
 そんな道長に声が掛かったのは一年前のことだ。
 その当時、自身は選ばれた存在だと顔の下で思っていた道長にとって一番の目標は、あともう少しでなれる大能力者(レベル4)に早く到達することだった。
 能力者は強能力者(レベル3)からエリート扱いされるが、実際のところ強能力者(レベル3)はかなりの数が存在する。有名エリート校である常磐台中学では入学条件が最低強能力者(レベル3)であることから分かる通り、強能力者(レベル3)は所詮“その程度のエリート”でしかない。事実、能力強度(レベル)の上昇において強能力者(レベル3)から大能力者(レベル4)になれずに落ちこぼれていく学生も多い。更には能力強度(レベル)は『自分だけの現実(パーソナルリアリティー)』が固定化する前の思春期に変動しやすく、十六歳となった道長には焦りが現れた始めていたのだ。
 そんな道長にもたらされたのは、とある実験の協力打診だった。
 それは、当時進められていた一方通行(アクセラレータ)の『絶対能力進化(レベル6シフト)』を流用して道長を超能力者(レベル5)にする、というもの。
 『絶対能力進化(レベル6シフト)』の詳しい情報は道長には与えられなかったが、一方通行(アクセラレータ)に与えられるカリキュラムを流用できるということだけで道長がその話に飛び付くには十分だった。
 そして道長は連れてこられた地下研究所で“彼女”と出会った。
 そこで初めて、道長はこの学園都市の『裏』を知ったのだ。
(あれからもう一年か)
 帰路の中、道長は意味のない感慨にふけた。 賑やかだった街道も、学生寮が建ち並ぶこの辺りでは嘘のように静まり返っている。別に人影がないわけではないが、伸びた影のせいかどことなく侘しさを感じさせる。
 道長は自分の学生寮まで帰ってくると、錆び付いた階段を登った。かなりの年数が建っているこの建物は、そろそろ建て替えの時期が迫っている。
 自室のドアの鍵を開け、道長は中に入る。
 薄暗い廊下の奥、リビングの外のベランダから射し込む夕日が人形(ひとがた)を写し出していた。
 赤く染まった空を後ろに、ベランダに干された布団に背を当てて肌を晒す妖艶な女。
 御下げな髪は首元で縛られ、上半身はさらしを巻き付けるという大胆な格好。肩に羽織ったブレザーが肌の白さを誇張し、健康的かつエロスを醸し出すという二律背反。成熟した身体と相まって他者を魅了する端整な顔つき。
「昨日ぶりね。道長昨也」
 結標淡希(むすじめあわき)がそこにいた。


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