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No.36723の一覧
[0] ロンリーグレイヴ「1」[モノクロ](2013/03/14 01:16)
[1] ロンリーグレイヴ「2」[モノクロ](2013/02/25 03:00)
[2] ロンリーグレイヴ「3」[モノクロ](2013/02/27 02:09)
[3] ロンリーグレイヴ「4」[モノクロ](2013/03/04 21:25)
[4] ロンリーグレイヴ「5」[モノクロ](2013/03/06 19:12)
[5] ロンリーグレイヴ「6」[モノクロ](2013/03/10 18:41)
[6] あとがき[モノクロ](2013/03/11 12:30)
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[36723] ロンリーグレイヴ「1」
Name: モノクロ◆a5fa8fe4 ID:59095055 次を表示する
Date: 2013/03/14 01:16
夕暮れ時の寂れた村。一人の少女が大通りを駆けている。
 首元で綺麗に揃えられ柔らかな緑がかった黒髪が動きに合わせて揺れる。幼さの残る顔つきと穢れを知らないその透き通るような白い肌からして少女の歳は十六、七だろうか。左手には果物が詰められたカゴが。小柄で派手さは無いが端正に整った顔にわずかな汗が浮かんでいた。首元で綺麗に揃えられ柔らかな緑がかった黒髪が動きに合わせて揺れる。
「きゃ!」
 少女は突然、道端に転がっていた石に躓き前のめりに倒れた。同時に果物が地面に転がっていく。
「い、いけない・・・」
 上体を起こし、手前に転がったリンゴに手を伸ばす。
そんなとき、一つの大きな人影が現れた。「大丈夫?」
その声に、少女ははっとして顔を上げる。
 その正体は大柄の男、いや、少年と言った方が正しいのだろうか。その顔つきはやや頼りなく、目にも覇気が感じられない、無表情で淡々とした感じだ。今、この現状にも自ら声をかけておいて戸惑っているようにも見えた。
 少年はゆっくりとしゃがむと、何も言わず足元に転がった果物を拾い始めた。
「あ・・・ありがとうございます」
 果物をカゴに詰め終えると、少女は立ち上がりぺこりと頭を下げた。
 少年は照れながら小さな声で答える。「あ・・・ありがとう」
 少年の顔は照れながらも嬉しそうに見えた。
 少年はマント代わりのぼろ布を身に纏っていた。そして、背中に長い棒状の物を背負っていた。先端は三日月状の形をしており、布に包まれている。
「ちょっとあんた!いつまでぼーっと突っ立ってんだい?!」
 後ろから突然、怒鳴り声が聞こえると、少年はびくっとして素早く後ろに振り返った。
 後ろにはやややせ細った中年女性が腰に手を当てて苛立ち気味な顔で少年を睨みつけていた。
「デカイ身体でノロノロ歩いてただけで邪魔だったってのにいきなり立ち止って何だってんだい、ええ?!」
「す、すいません・・・」
 申し訳無さそうな顔で少年はペコペコと顔を下げる。自分の頭二つ分近く背の高い身体が腰を中心に何度も折れ曲がる様はどこか不自然に見えた。
「ったく、図体の割にはオドオドして、イライラするねえ」
「はあ・・・」
 困ったような顔で、少年ははっきりしない返事を返す。
 すると突然、道の先から大きな声が聞こえた。
「いいから早く金出さねえかオラア!」
 そのドスの聞いた怒鳴り声と同時に、何か物音が聞こえた。
「い、いい加減に勘弁してくれ!もうそんな金払えんのだ!」
「あんだとてめえ!もう一回言ってみろや!」
 建物の前で口論が起きていた。いや、口論と言うよりは脅しと言った方が正しい。黒のベストを羽織り、赤のシャツと黒のズボンを身に纏った三人の男達がややしおれた衣服を着た一人の中年男性を囲んでいた。
「もう一杯なんだ!店の売上も客が減る一方で伸びやしない、そんな中で絞り出してきたがもう限界だ!このままじゃ生活すらままならん!」
「てめえらが平和に生活できてんのは誰のお陰だ?俺らが他所の連中に睨みきかせてるからだろうが!」
 男は中年の胸倉を掴み引っ張り上げる。「出さなくてもいいんだぜ?けど、俺らのルールに従わねえ奴がここにいられると思うか?」
「うっ・・・」中年は悔しげに目を瞑る。「・・・わかった」
 男は得意げに笑みを浮かべる。「それでいいんだよそれで。これぐらいで勘弁してやってんだ。むしろ優しい部類だと思うぜえ?」
 コインを受け取った男はそう言うと、乱暴に中年を突き放した。
 明らかな暴漢達の暴挙に、道端の人々は目を逸らし、誰一人咎めようとしない。
「あんたは他所の人間だから知らないだろうね。あいつ等はこの村を仕切ってるフリッツ一味の連中さ」
「フリッツ一味」と中年女性が小さく呟くと、少年は小さく呟いた。
「五年前、この村に来ては他所者から村を守ってやるって名目でこの村を住処にしだした連中さ。けど、実態はこうして週に一度、村のモンから金や食料を分捕りに来ては好き勝手して帰るチンピラの集まりだよ。けど、命が惜しけりゃ逆らわないことだね。気に入らないけど、連中に逆らって生きて帰って来た奴は誰一人いないから」
「さ~って、次はァ~っと・・・ん!」
 男の目が少女に止まる。「久しぶりじゃねえか、クラウディア」
 男の言葉に、少女はびくりと身を震わせる。少女の顔が青冷める。
 男は口元に不気味な笑みを浮かべながらこちらに歩いて行く。「仕入れの帰りか?聞いたぜ?最近、店の方が上手くいってねえんだってなあ」
「何でもお袋さんが病気だそうらしいですぜ。あの稼ぎじゃ薬一つ買うのも一苦労でしょうや」
 後ろの小柄な男が言うと、もう一方の恰幅のいい男が繋げる。「このままじゃ店が潰れるのもお袋さんの命も時間の問題でしょうや。アンソニーの兄貴、何かいい仕事でもありゃしませんかねえ?」
 品の無い笑みに、アンソニーは答えた。「そうだな・・・村の連中の世話見てやってるみとしちゃあ、放っておけねえな」
 アンソニーはそう言うと、乱暴にクラウディアの右手を掴んだ。
「えっ・・・?!」とクラウディアは戸惑い気味に声を挙げた。
「クラウディア、ちょっとウチにきてくねえかな。ちょっと働いただけですげえ金が稼げるいい仕事、教えてやるからよ」
「い、嫌です・・・」とクラウディアはアンソニーから離れようとするが、大の男の腕力に抵抗するのは難しい。
「いいから来いや、金の当てが欲しいんだろ?なーに、おめえならやれんだろうよ・・・」
「やめてっ!離して下さい!」
「来いつってんだろうが!わかんねえのか?身体売れってんだよ!」
 アンソニーの怒声にクラウディアは鳥肌立つ。
「あんなボロ宿で働いたって何の足しにもなんねえだろ、だったら男に抱かれな。てめえみたいな若い女は高く売れる。その一部をてめえの親父にやってもいいって言ってんだよ!」
 怯えた目で自分を見つめるクラウディアに、アンソニーは続ける。「なあに、ビビることねえさ。すぐに慣れるからよ。それに近いうちに村の連中から女をよこさせるつもりだったからなあ。てめえはその名誉ある第一号になれるってことさ!ぎゃははははは!」
 すると、アンソニーの腕に力が入ろうとしたその時、少年の腕がアンソニーの腕を掴んだ。
「ああ?」とアンソニーは少年の顔を見上げた。「何だてめえ」
 クラウディアも戸惑い気味に少年の顔を見上げた。
 少年はただ何も言わず、アンソニーをその気の弱そうな顔で見つめていた。
「・・・てめえ、何やってるかわかってんのか?」
 ドスの聞いた低い声でアンソニーが尋ねると少年は口を開いた。「やめてあげませんか・・・?嫌がってるじゃないですか」
「ああ?!」アンソニーは乱暴に少年の腕を振り払う。「てめえ、どこの誰に口聞いてるのかわかってんのかって聞いてんだよ!」
「そもそも、てめえ、何モンだ?見慣れねえ顔だな」
「おい坊主。格好つけたくてこんなことやってんのか。それとも、正義の味方気取りか、ああん?」
 後ろの二人が少年に歩み寄り、睨みを飛ばす。
 そんな二人をアンソニーは右手で制すと、「坊主。一つ教えておいてやるぜ。世の中ってのはルールや正しさだけで動いている訳じゃねえ。綺麗ごとより大切なモンが大事なモンがあんのさ。わかるか・・・なあ!」
 刹那、アンソニーの蹴りが、少年の懐に放たれる。アンソニーの右足の蹴りが少年の懐に打ち込まれる。
「それは力さ!力さえあればありゃあ何やっても許されるんだ!力のねえ奴はどう思ってようとそいつを止めることなんてできねえからなあ!一つ賢くなったろォ、坊主!」
 だが、少年は苦悶の色一つ見せることさえ無かった。むしろ、苦悶の色を浮かべるのはアンソニーの方だった。「ぐ、ぐああああ~?!」
 右足を抱えて蹲るアンソニーに、小柄の男が戸惑う。「あ、兄貴?!一体どうしたんすか!」
「てめえ!下に何か着込んでやがるな?!」
 恰幅のいい男がそう言うと、少年はマントを両腕で払う。少年の身体には両肩から胴、及び腹、越を覆う黒の鎧を身に纏っていた。
「他所もんがいいモン持ってるじゃねえか・・・娑婆代の代わりによこしてもらうぜ!」
 男達は左の腰に下げた短剣を鞘から引き抜くと、一斉に少年に襲いかかった。先程から誰一人声を発しなかった周囲から悲鳴が響く。
「ひゃっはぁーっ!やっちまいなあ!」
 襲いかかる男達。それに対し少年は右手で左肩にから下げた棒の先端を掴んだ。そして、一気に振り抜く。棒の先端が左上から右下に一瞬に振り抜かれると、先端にかかっていた布が振りほどかれ、半月状の刃が姿を現した。
「槍だとお?」とアンソニーが片目を細めて言った。「随分物騒なモノ持ってるじゃねえか!だがなあ、あたらねえと何の意味もねえぞぉー?!」
 アンソニーはその身のこなしで瞬きする間も無く少年を自信の攻撃範囲に捉える。
 だが、アンソニーの挑発を意に介することもなく、少年は左手で槍の穂先を持ち、一気に上に斬り上げる。
 刹那、虚空を引き裂く。その一閃は射程範囲に入ったアンソニーの短剣を持った右腕を一瞬にして切断した。血飛沫が舞う。
「ぎいっ・・・ぎいいいやあああああ!」
 無残に転がった自身の右手と短剣を他所に、アンソニーの絶叫が響き渡る。「お、俺の腕があー?!」
 予想だにしなかった。あの巨大で重い槍をこんなスピードで振り抜くなどとは。この、図体がいいだけで気弱で頼りない少年がこんなえげつない一撃を放つとは。
 少年の表情には先程までの気弱さと頼りなさが消えていた。鋭く冷たい、殺戮者の顔だ。
「てめえ、よくも兄貴を!ぶっ殺す!」
 恰幅のいい男が少年を斬りつけるが、少年はその一撃を刃先で受け止める。
 どれだけ力を入れてもびくともしない。重いはずの槍をあれほど軽々扱う程のパワー。まるで岩をおしているかのようだ。
 刹那、左側から小柄な男が襲いかかる。「横ががら空きだ、死ねー!」
 男が短剣を振り下ろすだが、それが少年の脳天にかかろうとする直前、少年は男の右手首を左手で掴んだ。
 少年の腕は大人の男の腕よりも一回り以上太かった。筋肉の盛り上がりが岩のように隆起している。
「な、何?!こいつ、左手一本で俺の攻撃を止めやがった!しかもそれだけじゃねえ、右手だけであの槍を持っている上にちっとも動きやしねえだとおー?!」
 刹那、少年の左腕に力が入れると同時に、男の右手首から鈍い音が響いた。
「ぎゃあああああ!」男は声を挙げると同時に右手から短剣が落ちる。
 少年が手を離すと、男の右腕は少年が掴んでいた所から折れ曲がっていた。
「て、てめえ・・・!」
 その暴挙に恐怖を感じ、男が短剣を握る力を抜いてしまった次の瞬間、少年は右腕一本で槍を振り抜く。短剣が宙に舞った。
「ひ、ひいい・・・う、うあああ!」
 ヤケクソ気味に男は絶叫を挙げながら少年に殴りかかる。
 少年は槍を構え直すと、男に狙いを定め、両腕に力を入れる。そして、一気に正面に突き付ける。
 一閃。槍の先端が男の右肩を貫いた。傷口から鮮血が吹き出し、地面を赤く染める。
「うぎゃあああ!よ、よくも・・・?!」
 それだけでは終わらない。少年は男を突き刺したまま槍を左に振り抜いた。そして、悶える小柄な男に恰幅のいい男の身体を叩きつける。
 小柄な男はそのまま放り出された恰幅のいい男の身体に押し潰される。「うげえ!」
 クラウディア、そして周囲はその光景に絶句していた。自分達を力と恐怖で抑えつけ、横暴を働いていた無法者達が、たった一人の見ず知らずの長身の少年に成す術無く蹂躙されるこの現状に。
 少年は無言でその男達を見据え、その凶刃の切っ先を突き付ける。
「ひ、ひい・・・」
「ま、待ってくれ!」
 血の流れ続ける右腕の切り口を押さえながらアンソニーが叫んだ。「頼む、助けてくれ!」
 少年が振り返ると男は続けた。「か、金は返す・・・女にも手は出さねえ・・・だから、俺達の命だけは勘弁してくれ・・・!」
 声を震わせ、アンソニーは少年に懇願する。「ほ、本当はこんなことしたくねえんだ・・・金も食いモンもなくて、そこを悪い奴らに唆されちまってよ・・・こいつらだって本当はいい奴らなんだ!ちょっと口が悪いだけでよお・・・」
「・・・本当か」と少年は口を開いた。
「本当だ!信じてくれよ!」
「あ、兄貴・・・」
 必死に懇願するアンソニーに男達も悲しげな目を向ける。
すると、少年は槍を下げた。
「!す、済まねえ、恩に着るぜ・・・」
アンソニーは頭を下げる。少年は左手をアンソニーに差し出す。だが。
「本当にありがてえ・・・てめえが反吐が出るほどの甘ちゃんでよおーっ!」
刹那、アンソニーは素早く左手を腰に伸ばす。腰に巻かれたベルトの奥に、銀色の光が見えた。
アンソニーの左手が握った物。それは短剣。凶器を握り締めたアンソニーは少年の首筋めがけて短剣を伸ばす。「死ねや、この木偶のぼ・・・げふう?!」
だが、次の瞬間、アンソニーの顎に少年の左拳がめり込んでいた。
アンソニーの身体が後方に吹っ飛ぶ。アンソニーの顎は少年の拳の跡を残し、陥没していた。
少年は槍を構える。そして、上体を回転させアンソニーの腹めがけて槍を握り締めた右手を突き出す。
鈍い音が響く。通常の槍より厚い肉厚の刃がアンソニーの腹を貫いた。それと同時にアンソニーの上半身が下半身から破裂したかのように吹き飛ぶ。少年の怪力を伝えたその一撃が、アンソニーの身体に深い亀裂とも言うべき切り傷を刻んだのだ。
アンソニーの上半身が宙に舞い、地面に落ちる。アンソニーの目は見開かれたまま動かず、その口はただ血を噴き出し続けるだけだった。
 少年は後方を振りかえる。そこには背を向けこの場から立ち去ろうとする二人の男が。
 少年は無言で槍を振り抜く。血飛沫が舞うその先には、二人の男の上体が舞う光景が広がっていた。
 クラウディアはその槍使いの少年から目を離すことができずにいた。あの気弱で頼りない少年が一変して、どんな残虐も躊躇しない三人の無法者に物怖じすること無く立ち向かい、懲らしめ撃退するどころか斬り殺してしまうような殺戮者に姿を変えたことに。
 悪人ではないのだろう。だが、確かな危険さをその身に纏っていた。
(何なの・・・この人は一体・・・!)


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