もしも神様転生の神様がマイナスエネルギーを溜め込んでいたら……
そんなしょうもない妄想から神様転生と神転オリ主を愛しつつ皮肉ったお話です。
本作は「ハーメルン」にも投稿しています。
◆◆◆
第97管理外世界通称「地球」は、世界中の全てが火の海と化していた。
第三次世界大戦が勃発したわけではない。多くの者には原因すら知ることが出来ない、その戦い。
火山の大噴火、止まぬ大嵐、絶えず降り注ぐ轟雷。それは「リンカーコア」を持たぬ普通の人間の目には、見えるままの原因不明の大災害にしか映らない。
しかし、それは「戦い」であった。
世界中のあちこちで繰り広げられている「超封時結界」内での戦いの影響が外の世界に現れた時、結界から弾かれた者には自然災害に見えるというだけの話である。
その戦いの影響は地球だけでなく、次元外全ての世界にも及んでいた。
とある学者は言った。「この戦いが続けば、半年も経たず全ての世界が次元震に飲まれて消える」と――。
事態を深刻に受け止めた時空管理局は持てる全戦力を地球に結集、ただちに結界内での戦いを止めるべく出動した。
しかし、五分と立たずして彼らを待っていたのは信じ難い「全滅」の二文字だった。
管理局最強魔導師全員を注ぎ込んでの結果である。
世界中の誰もが絶望し、この世の終焉を悟っていた。
だが唯一、彼は、彼らだけは諦めていなかった。そうすることが義務であるように、彼らは「ソレ」と戦い続けていた。
その光景、事情を知る者はこう言う。
――転生者たちのマッチポンプと――。
「お・ま・えええええええええええええええええ!!」
見た目十歳ばかりの少年が、吠える。
瞬間、男とも女とも取れるその中性的な容姿が赤い爆発と共に変貌していく。
140センチにも満たない小さな身体は180センチ以上の筋肉質の男の物へと、澄んだ翠色の瞳は右は真紅、左は碧のオッドアイへと変わっていく。そして肩まで掛かる長さの柔らかい質感の金髪は、腰に着くほどの長い銀髪へと変化していった。
スーパーテンプレ人4――その変身だった。
彼――オリー・シュベルトは一人の女性の骸を地に下ろすと背後を振り向き、そこに佇んでいる巨漢の姿を睨みつける。
「この子が何をしたんだよおッ!」
彼のオッドアイが映すのは、限界を超えた「憤怒」。普通の生物ならば視線だけで息の根を止めることが出来る、凶悪な感情だった。
しかしそれを浴びても尚彼の前に立つ巨漢――『転生神』ワッシ・ノミスージャンの表情は変わらない。呆れも侮蔑の色も無い、そこらの蟻を見るような、何事も無いような目でオリーを見下ろしていた。
「この子は何も関係無かった……! それを……虫けらのように簡単に殺しやがって!」
ハアアアアアア!と声を上げ、オリーは己のリンカーコアから全魔力を引き出し、赤い魔力光を全身に纏わせる。その魔力のランクは計測不能のEX! 人間の可能性を遥かに超えていた。
「許せねえ……! お前だけは許せねえ!!」
抱いた憤怒のまま叫ぶオリーにノミスージャンが返したのは、嘲笑。
「ふん、そのわしを生み出したのは誰だ?」
「なにっ!」
一歩前に出て、今度はノミスージャンが叫ぶ。
「お前だオリー・シュベルト! お前達が神の元で転生、チート能力を願い過ぎたから、こんなことになったのだ!」
「PT事件でテスタロッサ親子が死に、闇の書事件で八神はやてが氷の中に消え、JS事件でミッドチルダが滅び、時空管理局の治安維持能力が著しく低下したのも、全てお前達のせいだ!」
「散々世話になっておいて、このわしを許せねえだと? ふん、勝手なことを言うな!」
転生者が生まれる際、そして転生者が神から能力を貰う際、神はその身にマイナスエネルギーを溜め込む。
そのマイナスエネルギーは能力の百や二百程度であれば神の内で消滅させることが出来るのだが、彼ら転生者の欲望はその限度を超えてしまったのだ。
生まれ変わりたい、楽をして強く生まれたい――そんな転生者達の欲望が神の許容量を上回った時、ノミスージャン達「世界の修正力」という存在が世に解放された。
彼らはそれぞれ転生者達の居る世界全てを破壊し、またゼロから再生するという役割を持っている。
確かにこの惨状を引き起こしたのは「世界の修正力」であるが、元々の原因は彼の言う通り、オリー達神に転生を願った者、チート能力を願った者達にあるのだ。
「……それは、俺も悪かったと思ってるさ。いつかゼンセノンの爺さんも言ってたもんな。転生や能力付加にやたらめったら神様を使っちゃいけねえって……」
それが事実であっても、オリーには認められないものがあった。彼の足元で倒れている彼女――この世界に元から居た存在についてのことである。
「だけどそれとこれとは話は別だ! やっぱお前は、俺が倒す!」
「勝手な言い分だな。すまないと思うなら死んで詫びろ!」
例え原因が自分にあっても、関係のない人間まで巻き込むことは許せない。偽善と知りながらもそう叫ぶオリーに、ノミスージャンは正論だけを突きつける。
その時だった。
ノミスージャンの全身から虹色の魔力光が放たれた瞬間、この街が……海鳴市全体が砕け散った。
ただ彼は身体の内から力を引き出しただけに過ぎないと言うのに、たったそれだけで街が一つ消えたのだ。
チート能力「瞬間移動」で上空に逃れていたオリーはその被害には遭わなかったが、あまりに桁外れなノミスージャンの力に慄然としていた。
「な、なんて魔力だ……」
「どうだ? 今までの踏み台転生者達よりも、桁違いに強いだろう?」
「!?」
オリーに感知されるよりも速く、既に彼の姿は背後にあった。
背中に殺気が当てられるとオリーは急いで瞬間移動を発動し、彼と距離を取ろうとする。
しかし、彼の気配はどこまでも着いてきた。地に移動しても、海に移動しても、どこに移動しても彼はオリーの背後に張り付いて離れなかった。
「くそっ!」
振り向き様にチート能力「王の財宝」を発動し、手当たり次第に武器を投擲するが、ノミスージャンはその全てを指一本で弾き飛ばしてしまう。
だが、オリーにとってもそれは牽制の攻撃に過ぎない。ノミスージャンが刃物に気を取られている隙に瞬間移動で距離を取ると、足元にチート能力「ぼくのかんがえたさいきょうのまほう」を発動する為の魔法陣を展開した。
「喰らえッ! 10倍!スターライトブレイカアアアアア!!」
前方に突き出したオリーの両手から、これでもかと言うほど圧縮された魔力光線が発射される。
光の速さで疾走していくその光線は間違いなくノミスージャンの姿を捉え、大地を揺るがすほどの大爆発を巻き起こした。
しかし爆煙が晴れた時、そこにあった彼の身体には傷一つ付いていなかった。
「あ……」
「念の為言っておく。わしはピンピンしているぞ」
10倍スターライトブレイカーはオリーの最強の魔法である。この技で葬ってきた地雷系転生者は数知れず、倒せなかった者は誰一人としていなかった。
しかし、ノミスージャンにはそれすら効かなかったのだ。オリーはこの時、はっきりと思ってしまった。
勝てるわけがない、と。
「今のがお前の最高の技なら、絶対にわしには勝てん! ドゲザヨージョ・ブラスタァァァ!!」
絶望を肌で感じ硬直する彼の元に、ノミスージャンの攻撃が容赦なく襲い掛かっていく。
先の10倍スターライトブレイカーの数百倍はあろうかという光線が彼の身を飲み込もうとした時、
横合いから現れた影が彼の身体を突き飛ばし、光線の射線から逃れさせた。
「……! ダイ!」
靡く銀色の髪と両目の虹彩異色はオリーと同じスーパーテンプレ人4となった者の姿だ。彼を突き飛ばした影の正体は彼の生涯のライバルにして「神様転生者」の一人、名をステップオン・ザ・ダイと言った。
「何を諦めている! この戦いで消えていった他のオリ主達のことを忘れたか!」
「ダイ……すまねえ」
ここに来て加勢に来てくれたのは有難い。だが、あの『転生神』ワッシ・ノミスージャンの力は二対一でもどうしようもないほどだ。
ノミスージャンの方もそれを知っているからか、余裕の笑みを浮かべたままだった。
「セイト・ラックとシラヌ・テンジョーを倒したか。だがわしの力はあの二人よりも桁違いに上だぞ?」
ダイもまた自分と彼との力の差を理解しているのだろう。彼の言葉に対しては強ばった表情を返すだけで、言葉を返すことはしなかった。
しかし彼は、ノミスージャンではなくオリーに向かって言った。
「……お前が勝てない相手じゃ、俺にも勝てない」
虚勢も張らず、紛れもない事実のみを口にした。
事あるごとに自分が最強オリ主だと言って突っかかってきた昔が懐かしいな、とオリーは思った。
だが、オリーは知っている。敵わぬことを知っても、彼は諦めることをしない男だということを。
「ユニゾンするぞ、オリー・シュベルト。さっさと準備しやがれ」
それは神を倒す為、彼らに残された最後の手段だった。
次回「ユニゾン! 究極のスーパーオリ主」
もうちょっとだけ続くんじゃよ。