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No.36568の一覧
[0] [R15]装甲悪鬼村正 守護者編[オリ主]本編後[空男](2014/03/29 19:38)
[1] 第一幕 Ⅰ[空男](2013/01/26 11:47)
[3] 第一幕 Ⅱ[空男](2013/01/26 11:47)
[4] 第一幕 Ⅲ[空男](2013/02/19 10:25)
[5] 第一幕 Ⅳ[空男](2013/02/24 13:34)
[6] 第一幕 Ⅴ[空男](2013/03/03 23:51)
[7] 第弐幕 問悪鬼編 Ⅰ[空男](2013/03/09 21:32)
[8] 第弐幕 問悪鬼篇 Ⅱ[空男](2013/03/31 00:10)
[9] 第弐幕 問悪鬼篇 Ⅲ[空男](2013/03/31 10:48)
[10] 第弐幕 問悪鬼篇 Ⅳ[空男](2013/05/12 14:30)
[11] 第弐幕 問悪鬼篇 Ⅴ[空男](2013/05/12 14:30)
[12] 第弐幕 問悪鬼篇 Ⅵ[空男](2013/07/06 20:18)
[13] 第参幕 問英雄篇 Ⅰ[空男](2013/07/06 20:15)
[14] 第参幕 問英雄編 Ⅱ[空男](2013/09/03 23:36)
[15] 第参幕 問英雄編 Ⅲ[空男](2013/09/03 23:31)
[16] 第参幕 問英雄編 Ⅳ[空男](2013/11/17 01:38)
[17] 第参幕 問英雄編 Ⅴ[空男](2013/11/24 09:54)
[18] 第参幕 問英雄編 Ⅵ[空男](2013/12/21 14:38)
[19] 第参幕 問英雄編 Ⅶ ①[空男](2014/03/23 17:35)
[21] 第参幕 問英雄編 Ⅶ ②[空男](2014/01/19 04:39)
[22] 第参幕 問英雄編 Ⅷ[空男](2014/02/28 16:32)
[23] 第参幕 問英雄編 Ⅸ[空男](2014/03/23 17:37)
[24] 第参幕 問英雄編 Ⅹ[空男](2014/03/29 19:29)
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[36568] 第弐幕 問悪鬼篇 Ⅱ
Name: 空男◆ebc8efbe ID:1604b45f 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/03/31 00:10
昼食の後、陽炎が村正と片づけを終えるのを待ち、散策へと家を出た。
細い道を歩く。まだ日の高い日中。子供たちが声を上げながら駆けていく。
右を見れば畑。左を見れば田。長閑な風景が此れでもかと広がり続ける。
隣には陽炎、一人。半歩後ろをその距離を全く乱すことなくついてきている。民家が疎らに見えるが、そこに見える人影はない。代わりに田畑で汗を流す農民たちの姿が見えた。

小さな広場に出た。男女五人の子供たちが、竹刀を持って戯れていた。少年が三人、少女が二人。仲好さそうに笑い会いながら剣を振るう。皆が10を超えたくらいだろう。剣の腕は皆がそれほど変わらぬと見える。喧嘩というほど一方的でなく、かといって試合と呼ぶほど緊迫したものは無い。正に剣術を楽しんでいるかのようだ。道端に備えられた手頃なベンチに腰かけると、暫しその様子を見守る。

「えいっ! !」

「イッテえ!!!!」

一人の少女の面が見事に少年の頭を捉えた。防具もろくに無い状態で脳天に竹刀を受けたのだ。その場で座り込んでしまう。だが、少年の方は目に涙をためるだけで、ニコリと笑うとすぐに立ち上がった。

「負けちまった……。良し、今日の大主(おおぬし)様は弥生で決まりだな」

その言葉で、彼らが何かの役を取り合っていたことに思い至る。今日、一番の剣術を披露した彼女……弥生と呼ばれた少女が、今日の大主様役なのだろう。
彼らによる寸劇が始まる。

「おい、お前たち、悪さをしてはいけないぞ! !」

たどたどしい様子で少女はそう台詞を発する。しかし、その顔には満面の笑み。

「へっ! !なんだかしらねえが、望むところだ! !」

そう言って二人の少年が抜刀する。最もそれは演技で、実際はその刀に刃などないが。その後は少しのチャンバラが続く。先ほどの様な全力の立ち会いではない。云わば八百長。初めから弥生が勝つことが定められた寸劇。
大主様たる弥生と、その護衛たる少年が三人の悪者を成敗する。そんな内容だった。

数分の後、この劇は最後に大主様という名の英雄が正義の名のもとに勝利を収めて終わりを迎えた。

「見事なものですね」

後ろからの声に振り返る。いつの間にか、景明と村正が後ろで立って同じように劇を眺めていた。全くもって同じ感想を持った。確かに八百長、確かに小芝居。されど、その剣は紛れもない筋入りの物。齢を考えれば、見事というべき太刀筋だった。
二人に会釈を返すと同時に陽炎が拍手を始めた。短い劇を見せてもらった礼なのだろう。守道も同じように手を打った。村正は変わらず胸の下で腕を組み、景明は一呼吸遅れて拍手を送った。
その音で此方に気付いたのだろう。五人は我先にと此方へ駆けてくる。

「御兄さんたちは、遠藤さんのところに居候に来てる人?」

珍しい来客なのか、その眼が珍しいものを見た喜びで輝いている。何分小さな村だ。彼らが自分のことを知っていてもおかしくは無い。

「ああ、遠藤様の家に住まわせてもらっているよ」

その答えに満足したのか、少年たちは外の世界のことを聞きたがった。
どんなおいしい物があるのだとか、どんな面白いことがあるのだとか。その一つ一つに丁寧な答えを返してゆく。その殆どが島の外に出れば何でもないことだったが、彼らは嬉しそうに耳を傾けた。

「………さっきの劇は皆さんが考えたのですか?」

一通りの質問が終わったところで、陽炎がそう少年たちに聞いた。一瞬何のことか分からぬ様な顔をした五人は互いに顔を見合わせた。

「御姉さんたち、大主様の話を知らないの?」

そう、当然の様に言ったのは一人の少年だった。その顔は怪訝の色で染まっている。彼らにとってその物話がいかに当たり前であるかが窺い知れた。

「……ええ。教えてもらえるかしら?」

少年たちはもう一度顔を見合わせ、我先にとその物語を語りだした。


昔、二つの一族があった。一方は村の主として長くに渡り村を率いてきた一族。もう一方は彼らに仕えた側近の一族だった。彼らの村は周りの村に幾度も戦を仕掛けられたが、それらの一族は正義の名のもとに戦い、一度も村の方から戦を仕掛けたりはせず、そして一度も敗れなかった。其れは、二つの一族の類稀なる能力によるものだった。主たる一族は兵を見事に纏め上げ、その側近たる一族はあらゆる難敵から主を守り通した。村人は、主を大主と呼んで称え、尊敬し信愛していた。

「ね?かっこいいでしょ?」

少年たちはそう言って話を締めくくった。村に伝わる伝記なのだろう。彼らの中で大主なる人物が正に英雄であることは容易に想像できた。陽炎はその話に感じ入るように考え事をするそぶりを見せる。景明と村正は黙ってその話に耳を傾けていた。その眼から何を想うかは察すことは出来ない。

「…………そろそろ稽古に行かないと」

一通り話し終えたところで、先頭に立っていた少年がそう口を開いた。他の子供たちもその言葉に同意する。

「これから遠藤さんの道場で稽古がありますので………」

弥生がそう説明する。五人の内でも最もしっかりとした言葉づかいをする少女だった。目は艶のある黒で、其れと同じ色をした髪は肩口を通り過ぎたくらいで揃えている。妙に大人びた少女だった。成熟した後の美貌が今でも窺い知れる。

「私たちも御一緒してよろしいですか?」

その声は後ろからかけられた。今まで押し黙っていた景明がそう声を掛けたのだ。少年たちの顔が戸惑いの色に変わる。そんなことを言われたのは初めてだったのだろう。しかし、すぐに笑顔を見せると快諾を寄越した。
行きは二人だった道を九人の大所帯となった一行は歩き出す。子供たちは陽炎の事が気に入ったらしく、しきりに話しかけている。時折此方にも質問を寄越す子供たちに景明は丁寧に返答を返す。そんな様子を一番後方から村正が見つめていた。
微笑ましいその光景を見つめるその瞳に悲しみが混じるように感じたのは気のせいだと自身に言い聞かせた。







道場には既に十数人の子供たちが来ていた。合計で二十人ばかり。男女入り混じるその集団はそろって竹刀をとった。小さな村にしては此れだけの数の子供がいることに少しの驚きを感じる。師範は遠藤、その人だった。
その様子を自分たち四人は道場の脇で正座し、その様子を見守っている。
指導というほど厳しい物でなく、丁寧に太刀筋を教えていく。少年たちも素直で覚えがいい。見本を見せると言って剣を振る遠藤の姿は正しく剣豪。老いてなおぶれぬその太刀筋から、若かりし頃の勇姿が見て取れる。
身体の奥底で感じるものがあった。思わず剣を振りたいと思う守道の武者としての性だった。

「御相手いたしましょうか?」

声を掛けたのは景明だった。予期せぬ方向からの問いかけに一瞬返答に詰まる。顔を見ると微笑みを向けられた。此方の心中を見透かしたように竹刀を手渡される。同じようにして竹刀を手にし、立ち上がった景明は軽く振って見せる。まるでその手で振られるのを喜ぶかの様に竹刀が見事な軌跡を描く。その剣捌きに胸の内をもう一度叩かれた。目で構えることを促される。



周りは自分の剣技に驚きを隠せない様子だ。自身でも何故こんなことを言い出してしまったのかと少しの後悔がよぎる。武人として遠藤の見事な剣技に当てられたのも事実。しかし、それ以上にその剣を見ていた守道の瞳に思い出すことがあった。
――――――――――光。
武の道を往き、自身を高める。その意欲が溢れんばかりの瞳。その目に思わず声を掛けてしまった。村正も驚いたようにこちらに目を向けている。その目に真剣にならないことを約束する。相手は一度剣を交えた敵。命のやり取りをした敵だ。そうと知れれば何時戦いとなるやも知れない。加えて此方の手の内をいくつか見せている。感づかれることがあってはならない。村正の呆れと承認の入り混じる顔を確認した後、竹刀を握りなおした。
決心したのか守道が腰を上げる。その竹刀がゆっくりと剣先を此方に向ける。構えは中段。あちらも全力を出すつもりはないらしい。
子供たちは自分たちの稽古を止め此方を見ている。遠藤もその竹刀を止め、目を細めて見守っている。村正は相変わらず呆れた表情を崩さず、髪をかき上げるようにして此方を見ている。陽炎は正座の姿勢を崩さない。

「では、参ります」

景明の声と同時に打ち合いが始まる。否。打ち合いではない。景明が一方的に打つ。其れを守道が捌く。竹刀がぶつかる高い音が道場内を木霊する。
上段からの切り降ろしは小さな剣先の返しだけで進行方向を変え、脇からの胴への薙ぎは最小限の動きで剣の軌道上に現れる竹刀に受け止められる。剣のみに向けられた意識が揺らぐことは無く此方の竹刀は打ち払われてゆく。自然、剣速が上がる。止まっていた足は頻りに軽快なステップを刻みだし剣に緩急を与える。
流石だ、強い…………。
何より巧い。
胸の内で漏れるのは確かな感嘆の声。捌き捌き、捌く。集中は決して緩みを見せず、只の一太刀も通さない。此方の剣もそこらの武人と比べても見劣りしない程度には速度を上げているはずだ。先日の戦闘が頭をよぎる。此方の光速の太刀、電磁抜刀を軌道を変えるまで完璧に捌ききったのだ。此れほどのことは最早驚くに値しないかもしれない。
口元が緩むのを感じる。久々の胸の高揚。殺し合いではなく純粋に剣を競う打ち合い。そんなものへの楽しみはとうにこの胸から消え失せたとばかり思っていた。
自然と打つ剣を止めた。其れを一瞬だけ訝しげに見た守道が今度は攻勢へと転じる。逆に其れを捌いていく。そう、この感覚を体は覚えている。若き才ある者と、その成長への感嘆を胸に宿しながら打ち合う。其れは、正しく光と共に剣の鍛錬に励んだ日々の一コマそのものだった。
竹刀のぶつかり合う音だけが響く。それ以外には何も聞こえず、頭の中は目の前の者のことで埋め尽くされだす。それでも、確かな会話が其処に在った。剣を通した会話。両者の感嘆の響き。其れが竹刀の音に乗る。
名残を惜しむように両者が、決めの一撃を放たない。その実放てない。“獲りに行く”ほどの隙が無い。そんな中、打ち合いを終わりへと導いたのは景明の方だった。
半ば強引な上段。剣を捌かれたことにより僅かに姿勢が揺らぐだけの守道に対して竹刀を高々と振り上げる。その剣に意思が宿る。この一撃で終わらせると。
其れを感じ取ったかのように守道もまた構えを引き締める。振り下ろされる竹刀。兜割の一撃。其れを捌ききるべく守道の竹刀が軌跡を追った。
獲った………。
それは確信。此方の剣が一瞬速い。そのタイミングで防がれたところで押し切る事が出来る。胸の内で勝利を確信する。しかし、決してその確信に奢ることは無い。
振り下ろされる刃は速度を上げ―――――――その切っ先を止めた。
守道が驚いたような表情を浮かべると同時に、彼の竹刀が其れを弾き、手から竹刀をかすめ取るかのように巻き上げられる。思わず、手を離すと竹刀が宙を舞った。

身を投げた竹刀が地面に落ちる音が立ち会いの終了を知らせた。

同時に子供たちから賞賛の拍手を送られる。

「御兄さんたち、すげえ!!!!!!」

彼らの見たこともない剣戟だっただろう。二人を取り囲むように輪が出来た。
まだまだ自分を捨てきれぬか………。
そんな中、その言葉も聞こえぬ様子で立ち尽くす。放った兜割は正しく全力の物だった。打ち合いに高揚し、要らぬ力を入れてしまった自身を戒める。村正に目を向けると、やっぱりこうなったと言わんばかりの呆れ顔を見せつけられる。弁明の余地もなかった。

「景明殿………」

守道の声に視線を戻す。

「……見事な剣捌きでした。完敗です、守道さん」

怪訝な顔を浮かべる守道にはそう返した。守道の顔が一層曇る。

「……今日は、そういうことにしておきます。
 いつか全力の立ち会いを」

小声で一言を付け加えた守道に、しかし無反応を貫いた。






夕食を終え、縁側に座ると、夏が過ぎようとしているのを感じさせるような涼しげな風が髪を撫でた。守道が思い返すのは先ほどの立ち会い。明らかに獲られた一太刀だったと思う。其れをあえて此方に勝ちを譲渡したとしか考えられなかった。

「おや、こんな処にみえましたか。守道さん」

後ろからそう声を掛けられる。思いめぐらせていた人物、景明その人だった。いつも隣に居る村正の姿は今は無い。柔らかく微笑んだ後、景明は此方に近づいてくると、隣に腰を下ろした。
この場には陽炎もいない。今頃は二人で夕食の片づけをしている頃だろう。二人きりとなるのは初めての事だった。一段と空気が冷えるのを感じた。
沈黙は短くなかった。だが、不思議と不快には思わなかった。
ぼそりと、口を開いたのは景明だった。

「先程の子供たちの話、どう思われましたか?」

「………どう…とは?」

問われたのは予想外の事だった。突然のことに応えに詰まる。口に出たのは質問の真意を問うべく問いだった。景明も数瞬言葉を詰まらせる。恐らく良い言葉を探しているのだろう。

「正義とは何でしょうか、と言い換えられるかもしれません」

その眼は此方に向いてはいなかった。目の前の暗闇をそこに何かの実態があるかのように凝視している。そこに立つのはあるいは景明自身なのかもしれないと漠然と感じた。

「村を守るために兵を退ける。確かに正義の行いなのかもしれません。
 では彼らが殺めた兵の死を悲しむものは居なかったのでしょうか?
 彼らが殺めた悪とは、彼らに都合の悪い“悪”だったのではないでしょうか?
 …………彼らが英雄と尊敬する者達は果たして彼らの言うほど正しい者なのでしょうか?」

「それは……………」

言い淀むほかなかった。思い出すのはいくつもの情景。汚れ役を引き受けてきた自身の過去。18になった時には、その手は既に血で汚れていた。隠密な任務は少なからずこなしてきた。その中で血に染まる自身の手を見続けてきた。
全ては兄と一族の為。
それが正しいと自身に言い聞かせる一方で、間違っているのかもしれないという不安を抱えていたのも紛れもない事実だった。子供たちが語った物語は自身に当てはめる事が出来る。ならば、其れを否定することはできなかった。

「………いえ、伝承にとやかく言うのも野暮というものでしょう。
 どうか、忘れてください」

沈黙してしまった此方の様子を不安に思ったのだろう。景明がそう話題を変えた。その眼は間違いなく此方を見ている。その眼はいつも通り優しげに曇っていた。今日の話はもう終わりにしましょうと景明は立ち上がる。縁側を彼らの部屋へと歩きだした。
景明は振り返ることなく角を曲がり消えていった。
問いの真意は結局分からずじまいだった。


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