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No.36568の一覧
[0] [R15]装甲悪鬼村正 守護者編[オリ主]本編後[空男](2014/03/29 19:38)
[1] 第一幕 Ⅰ[空男](2013/01/26 11:47)
[3] 第一幕 Ⅱ[空男](2013/01/26 11:47)
[4] 第一幕 Ⅲ[空男](2013/02/19 10:25)
[5] 第一幕 Ⅳ[空男](2013/02/24 13:34)
[6] 第一幕 Ⅴ[空男](2013/03/03 23:51)
[7] 第弐幕 問悪鬼編 Ⅰ[空男](2013/03/09 21:32)
[8] 第弐幕 問悪鬼篇 Ⅱ[空男](2013/03/31 00:10)
[9] 第弐幕 問悪鬼篇 Ⅲ[空男](2013/03/31 10:48)
[10] 第弐幕 問悪鬼篇 Ⅳ[空男](2013/05/12 14:30)
[11] 第弐幕 問悪鬼篇 Ⅴ[空男](2013/05/12 14:30)
[12] 第弐幕 問悪鬼篇 Ⅵ[空男](2013/07/06 20:18)
[13] 第参幕 問英雄篇 Ⅰ[空男](2013/07/06 20:15)
[14] 第参幕 問英雄編 Ⅱ[空男](2013/09/03 23:36)
[15] 第参幕 問英雄編 Ⅲ[空男](2013/09/03 23:31)
[16] 第参幕 問英雄編 Ⅳ[空男](2013/11/17 01:38)
[17] 第参幕 問英雄編 Ⅴ[空男](2013/11/24 09:54)
[18] 第参幕 問英雄編 Ⅵ[空男](2013/12/21 14:38)
[19] 第参幕 問英雄編 Ⅶ ①[空男](2014/03/23 17:35)
[21] 第参幕 問英雄編 Ⅶ ②[空男](2014/01/19 04:39)
[22] 第参幕 問英雄編 Ⅷ[空男](2014/02/28 16:32)
[23] 第参幕 問英雄編 Ⅸ[空男](2014/03/23 17:37)
[24] 第参幕 問英雄編 Ⅹ[空男](2014/03/29 19:29)
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[36568] 第弐幕 問悪鬼編 Ⅰ
Name: 空男◆ebc8efbe ID:300702e8 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/03/09 21:32

目の前には燃え盛る炎。遠く離れているにもかかわらず、耳を打って止まない轟音。風に乗った炎は瞬く間に山を駆け巡る。
周りには何十もの村人。皆が村を心配している。祈るように腰を折る者が目につく。村への害は無さそうだという事に一安心しているものが少数。
そんな中、必死の声で叫ぶ。

「あの山には里があるんだ! !
 知ってるだろ! ?
俺はあそこへ行かなきゃならないんだよ!!!!」

救いたい里があった。救いたい人がいた。山へと駆け出そうとする身を大勢の者に取り押さえられる。
手と体を引き留められ身動きできない自分が悔しい。
その手が、求める者を探すように空を切った。







重い重い瞼を開けた。
天井を見上げ暫し呆然とする。体は言う事を聞かず、起き上ることもままならない。
生きている…………のか…………?
記憶を辿る。
俺は紅い武者と戦闘していたはずだ。場所を海に変え、幾度も衝突し、お互いに陰義を使用し、そして敗れた。
――――――その後。
燃え盛る炎―――焔。兄の声が聞こえて――――――。
瞬時に頭が回転を始める。先ほどまで重かった体が撥ねるようにして起き上る。

「お気づきになりましたか、守道様………?」

「……陽………炎……………っ」

視界に映ったのは、はらりと額から落ちた手ぬぐいと、陽炎の姿だった。自分が布団に寝かされていたことを再認する。陽炎は、その隣で水の付いた手ぬぐいを絞っていた。

「お早う御座います。
 御身体の調子はどうでしょうか?」

普段と変わらぬ様子の陽炎に一先ずは安心する。頭に手をやると再び記憶を辿る。陽炎には聞かなければならないこともあった。

「あの後……あの戦闘の後、俺たちは………?」

「孝道様の使用された陰義で海へと投げ出されました。
 それでこの島に流れ着き………命を救われたので御座います」

そこで一度言葉を切る。陽炎の表情が少しだけ陰り、手にしていた手ぬぐいから雫が一つ零れた。

「孝道様と敵機がどうなったかは定かではありません」

兄の安否が分からない。その言葉にも、守道は取り乱すことは無かった。代わりにその右手が握りしめられ、赤く変色する。小さく振り上げた拳が布団を強くたたく。怒りを自身に落とし込む。決して大きく外に漏らすようなことはしない。
涙は出なかった。
感覚が麻痺しているのか……それとも、受け入れられぬだけなのか。
自身に問うも、当然、答えは無い。だが心の何処かで察する。恐らくは、覚悟が出来ていたのだ。あの炎を見た瞬間から。兄が真炎と化したその瞬間から。だから胸にあるのは、悲しみや怒りではない。守れなかった自身への無力感のみ。

“スッ”と襖の開く音がする。目をやる先に立っていたのは年老いた男だった。年齢は60を超えたあたりだろうか。髪は白髪。細い目は優しげに緩み、腰は緩やかなカーブを描く。その割に、広い肩幅と高い身長は若かりし頃の屈強な姿を想わせた。

「おや、目が覚めましたかな、御客人?」

「……この度は命を救っていただいたと聞いております。
 なんと御礼をいたして良いものやら………」

「なに、礼ならそこの陽炎殿に申されよ。守道殿と言いましたかな?そなたが目を覚まさぬ間、付ききりで看病なされたのですから」

ひどく眠気を誘う声色だった。その姿同様に優しさというものが溢れ出ている。自然、陽炎に目を向け、礼を言う。

「失礼、挨拶が遅れました。自分は霧島守道に御座います。此方の女性は陽炎。
失礼ながら、御老人。お名前を御伺いしても宜しいでしょうか?」

「ほう、此れは失礼。儂は、遠藤。この島に先祖より移り住みし一族の末裔。この島は大和の端も端。名もなき孤島で御座います」

遠藤と名乗った老父は丁寧に頭を垂れた。

「何も無い島に御座いますが、御身体の休まるまで何日でも御ゆっくりとなさってください」

目覚めたばかりの此方の身体を気使ってだろう。そこで言葉を切ると“それでは”と残し立ち去って行った。


暫し二人きりの沈黙が流れた。話すことがないわけでは無い。開け放たれた襖の向こうには縁側が続いている。日はもう高く、風は涼しげに庭の木々を揺らしている。霧島本家にも劣らない屋敷だった。何処かで薪を割る音が小気味良く響く。
ふ、と気になり自らの寝巻を確認する。見慣れぬ寝巻に身を包んだ胴を見下ろす。恐らくは、家主が貸してくれたのだろう。

「………俺は、どれだけ寝ていた?」

「ここに運ばれてから、二日間で御座います。あの夜の戦闘からは三日目ということになりますね」

「お前の身体は大丈夫なのか?」

「陰義の使用後のあれだけの衝撃。現在修復中ですが、装甲できる状態になるにはあと五日はかかるかと」

そうか、と息をつく。お互いに視線は交わらせない。少なくとも、守道は外を見ていた。もしかしたら、陽炎は此方を見ているかもしれない。
今は隣に陽炎がいる。其れだけが気持ちを満たした。







少しの微睡を終え、守道は立ち上がった。体の節々が少々痛むがそれも止むまい。手を差し伸べようとする陽炎をやんわりと断る。目指すは音の元。先ほどから軽快に音を響かせている薪割を手伝うべく、陽炎と二人襖へと向かった。
守道も一応は人並みに家事の心得を持っている。家に泊めていただいた恩。何らかの形で返す気でいた。その手始めにと薪割を選択したのだ。襖を超え、縁側を進む。部屋の中から見ていた時も感じたが、実に見事な庭だった。塀が低いのは、此処が武家屋敷ではないからだろう。その中でも存在感を放つのは小さな道場である。霧島本家を思わせる光景が暖かな陽気と相まって自然口元が緩んだ。

縁側の角を曲がる。その先では一組の男女が共同で薪を割っていた。男が薪を割ると、すぐに女性が次の薪を差し出す。時計の針が音を立てるかのように、一定のリズムで音を上げる。暫し、その光景を見つめていた。

「お早う御座います。御体の方は大丈夫でしょうか?」

ふいにそう声を掛けられた。いつから気付いていたかも分からない。低く、落ち着いた声だった。その声の後、二つ目の薪を割ったところで二人は此方を見た。一人は長身の男。
もう一人は―――蝦夷の女性だった。
そのことに少なからず驚きを覚える。

「ええ、この度はお世話になりまして」

その言葉に男の頬が緩んだ。

「いえ、私たちもこの家に居候させて頂いている身でして。
 失礼、申し遅れました。私は湊斗 景明と申します。此方は村正。
 訳ありまして、数日前からこの家に厄介になっている次第です」

その場で座っている女性を指しながらそう言った。低く、落ち着いた声だった。同時に、自分たち以外にも居候がいたという事実に驚きを感じる。

「そうでしたか。それは失礼しました。
 我々もこの度、この家に居候させていただくことになりまして。
 短い間でしょうがよろしくお願いします」

背筋を伸ばし一礼する。相手も同じように礼を返してくれた。隣では、彼らと既に面識があったのか陽炎が昼時の挨拶を済ませている。ひとしきりの挨拶を済ませたのち、その場にあった草履を借りて庭に降り立ち景明の隣に立つ。

「良ければ、薪割のお手伝いいたします」

そう言って目を村正に向けた。彼女の役目をかって出ようというつもりだった。整った顔立ちに熟れた身体。陽炎が静の美女だとすれば、村正殿は動の美女。美しい女性だというのが村正への第一の印象だ。

「平気よ、このくらい。
 まだ身体も完治していないでしょうし、休んでていいわよ」

そう気さくな物言いで断られる。しかし、その口調に反して表情からは棘のある物を感じた。思えば、陽炎と会話していた時もそうだった。表情はにこやかなだけに少しのえも知れぬ不安を感じる。
それも仕方あるまい。蝦夷とは、虐げられし一族。他者に良くない印象を持っていようと、さして不思議ではない。同様に蝦夷である陽炎にまで冷たいとなると、相当な苦労をしてきたのかもしれない。そう思った時もう一度目があった。
…………気のせい……だったか?
其処に在ったのはただ優しげに、此方を気遣うように微笑む村正殿の姿。先ほど感じた様な棘のある表情からは程遠い美しい笑み。
内心、少しだけ胸を撫で下ろす。

「大丈夫ですよ。それに女性に力仕事を任せるというのも気が進みませんので」

そう言って、右腕を差し出す。これも何かの縁。親交を深めたいと思う。足が固まっているのを、最大限表に出さないように気を付けながら、まだ割られていない薪を手に取った。

「村正、お前も疲れただろう。御言葉に甘えて陽炎殿と話でもして来てはどうだろうか」

其処を自身の居場所だと動こうとしない村正に、景明のそんな言葉がかけられる。その言葉に村正も腰を上げ、尻についた砂利を払うように二度たたく。
既に割られた薪を退けると、その場に座り込む。景明殿のタイミングに合わせて薪を差し出した。





「御二人はどうして居候に?」

縁側に腰掛けた村正に、陽炎はそう問うた。陽炎と村正が話をするのは二度目の事だ。最も、一度目は守道が床に伏していたこともありまともな会話はしていない。故にお互いの事情は全く知らないでいた。両手を膝の上に重ねておいている陽炎に対して、村正は砕けた姿勢で手を縁側に付き、両足を宙に浮かせている。

「私たちは旅をしているの。それでこの島のことを聞いて興味を持ったの」

何でもないようにそう言った。実際、そう言った目的でしか訪れるようなことの無い程に此処は辺境と言って差し支えない場所だった。“貴方たちは?”と目で問いかける村正に陽炎も返答すべく口を開く。

「私たちは別の島に行く途中、船が事故を起こし遭難いたしました。その後、偶々我々は此処に漂着致しました次第です」

半分は真実。半分は虚実。此処で自分がつるぎであると明かすこともできず、かといってこの女性に嘘を述べるのも躊躇われた。村正の方も納得した顔で此方を見つめている。
その時、二人の間に“コトリ”と盆が置かれた。乗っているのは二つの湯呑と茶請け。其れを持つ腕は遠藤のものだった。

「おや、守道殿にまで手伝って頂いておりましたか。此れは湯呑をお持ちいたさねば」

そう言って、微笑む遠藤。ゆったりとした足取りで今来たであろう縁側を戻ると、少しの間を置いて新しく二つの湯呑と茶請けを持って現れる。其れに気付いた景明と守道は一礼すると、作業に戻った。きりの良い所まで終わらせるつもりだろう。遠藤が村正と同じように縁側に腰掛ける。二人は勧められるままに湯呑をとった。香ばしい香りが鼻孔をくすぐる。煎茶の類であることは、茶に詳しくない陽炎でも一目で分かった。一口口にして分かる。良い葉を使っている。
薪割の音をバックに“ズズズ”と茶を啜る音が鳴る。

「………して、御二人。御二人とも、彼らとは夫婦の関係で宜しかったでしょうか?」

ブブウウウウウウウウウウウ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

「突然、なんてこと聞くのよ!!!!」

口に含んでいたお茶を盛大に吹き出し、噎せ込む村正。目には涙がたまっている。対して、陽炎はゆっくりと盆に湯呑を戻した。隣では微笑ましく見守る遠藤が笑い声をあげている。

「おや、何か拙いことでもお伺いいたしたでしょうか?」

そう気遣いの言葉を述べるものの、目は笑っている。
先に口を開いたのは陽炎だった。

「私たちは、違います。生まれも育ちも異なりすぎましたから。
 それでも……いつかはそうなれればと思っています」

儚い笑みだった。しかし、決意の籠った瞳だった。その言葉に促されるように呼吸を取り戻した村正も答えを出す。

「私たちは、まあそんなものね。夫婦の契りは交わしていないけど、これからもずっと一緒にいるでしょうし」

此方は何でもないように視線を左右に動かしながらの答えだった。其れを当然の様に思っていることが良くわかる。二人の関係が良好であることは火を見るよりも明らかだ。
陽炎はそんな二人を少し羨ましく思う。私も守道様と………と考えて、その考えを放り出した。其れよりも、守道様に迷惑となることの方が私には辛い。

「御二方とも、仲の好さそうで結構ですね」

遠藤がそう笑い声をあげた。

先ほどよりも一つ高い音を上げて、最後の薪が割れる。薪割を終えた景明と守道が縁側へと向かってくる。余程気があったのか、楽しそうに話をしている。
村正は一つ息をつく。
お互いに互いを考える性格である点で、似た者同士なのかもしれない。守道に向けて笑顔を見せる御堂を見る目に憂いが混じるのを自覚する。
私さえ治らなければ、直らなければ、彼はこんな生活を続けることが出来るかもしれないと。
遠藤を交えての五人での会話はその思いを助長するに足るほど楽しいものだった。


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