不気味だ。それが、守道の最初の感想だった。
西森の纏う剱冑。其の姿形にあまりにも特徴が無い。オーソッドクスと言うべきか、簡素と言うべきか。数打であるか、真打であるか?其れすらも特定できない。否、真打であることは東野から聞いていた。そう知ってなお、改良(チューンナップ)した数打だと言われれば信じてしまいそうな風貌。しかし、武で名を上げた一族の主。そんな彼の剱冑が鈍(なまくら)であるわけも無し。
そうであるならば、自分に分からぬだけかもしれない。
「陽炎、敵情を! !」
<<それが……他の数打と比べても、特に差異を見受けられません>>
しかし、剱冑の陽炎も同じ感想を漏らす。
大した情報を得ることもできず、大きく旋回。此方が挑んだ双輪懸を、西森も受けたようで、共に一つの軌道に乗る。白沙耶を抜刀。父の愛刀を握りしめる。上方からの切り降ろしを選択した此方に対して、下方へと沈んだのは自信の現われか。とはいえ、情報の無い敵に対して高度有利で最初の立ち合いを挑めるのは好都合。
西森は既に刃を抜いている。とすれば、注意すべきは投擲。
互いの進路が一直線に交わり、西森と目があった。
重い。その姿からひしひしと重圧を感じる。研ぎ澄まされた刃の様に鋭い物ではない。例えるならば津波。全てを飲みこむ巨大な津波が押し寄せるように、西森の姿が近づく。
<<守道様、敵機の刃、一本しかないように見えるのですが?>>
最初にそれに気付いたのは陽炎の方だった。
三本の刃を腰に携えていた西町の武者とは違い、その腰にあるのは一本の鞘だけだ。これでは一度投擲術を用いてしまえば得物を失うことになる。となれば、一旦は投擲の線を捨てて良い。
西森の構えは下段。切り上げと切り降ろし。切り上げを得意とするからこそ分かるその難易度。
本当に、単なる自信の現われか、其れとも………?
高度優位、上段。有利を重ねた故に此方の術は決まったようなものだ。あえて其れを狙ったとしたら。心の内で微かな疑問が生まれるが、ここでこの優位を逃す手は無い。
「まずはこのままぶつかる。様子見な部分が多いだろう。
焔の鎧は最小限、熱量を温存するぞ」
とはいえ、無論、此方の攻撃を西森がまともに受ければ、間違いなくその瞬間に勝敗は決する。
次第に西森の姿が大きくなり―――――衝突した。
「ウオァァアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!」
渾身の切り降ろし。それに対して西森は刃を突き上げる。切り上げと言うよりは薙ぎと言うべき軌道を描いて、両刃刀が白沙耶の行く手を阻んだ。
押し切れるッ! !
瞬時にそう判断し、焔の鎧を展開。刃にかかる腕力と推力を上げる。刃同士が火花を散らし、徐々に西森の刃が押されて往く。しかし、決定打になり得る瞬間を直前にして、衝突の時間切れ。下方から推力を保って上昇してきた西森は、まともにぶつかり合うことをあきらめ、此方の脇へと走った。直線的な推力を得たために、脇へと逸れるその動きに白沙耶は対応できない。半ば受け流されるようにしてすれ違う。
やはり様子見が目的だったのか。
すれ違った瞬間には、衝突と同時に高まった熱が瞬時に冷え、冷静な己が還ってくる。結果的に初撃から此方の手の内を晒すことになったが、同時に確信を得る。
この勝負、勝てるッ! !
次の衝突の策を思案し始めようとしたその刹那。
………………ゾワッ………
瞬間、背筋に汗。背後に殺気。此方に向けられた刃を感じる。
「陽炎、鎧を背後にッ! !
この場を離脱ッッ!!!!」
経験がさせた反射と言うべきか。一瞬のうちに背中を焔の鎧が覆う。
<<諒解で御座います!!!>>
遅れて陽炎の返答。
しかし、その背後で西森は既に刃を向けていた。
斬り合いを受け流すことで保った推力。其れを利用して衝突の直後に反転。その勢いに任せて手に持つ両刃刀を守道の後ろ姿に向かい投げつけた。
『ゴウッ』と鈍い音をさせて大振りの刃が迫る。次の瞬間には焔の鎧に衝突。が、急に展開したその鎧が西森の一撃を防ぐ筈も無し。少しばかりの衝撃は緩和するも直撃を避けることは叶わず。
ゴゴゴゴゴゴゴッッッッ!!!!!!!
鈍い音を立てて、剱冑に刃が突き刺さる。左わき腹に突き刺さった其れは、そのままわき腹を貫通。血飛沫を纏いながら、この時初めて守道の視界に映る。
「……グッッ…………オオオオオオオ!!!!!!!!!!!」
吐血。内臓をやられたのか、痛みに斬られた部分の感覚が遠のく。ぐらりと音を立てて思考が揺らぐ。何とか上昇姿勢を保とうとするが、身体が言う事を聞かない。水平に飛ぶのがやっと。それどころか、何時墜落してもおかしくは無い。
<<守道様ッ………御身体が!!!!
腹部甲鉄に損傷、大!!!!
辛うじて戦闘継続は可能ですが……、その御身体では!!!!!!!!!!>>
陽炎の悲痛な叫びと機体の損傷報告に、少しの冷静さを取り戻す。成程、敢えて下方からの打ち合いを演じたのは、『衝突後の高度的優位』を欲したため。其の策に見事にはまってしまったという訳だ。
「………大丈夫だ。鎧を推力に回せ。治療と修繕は最小限で良い」
弱々しくもそう言い放つ。確かに損害は大きい。しかし状況は必ずしも不利とは言えない。敵は唯一の得物を放棄したのだ。いくら必殺のタイミングとはいえ、次に続く双輪懸を放棄したのだ。この暴挙による好機を見逃す手は無い。
じりじりと上がってくる痛みとの格闘。遅れてやってきた痛みに視界が歪むが、感覚が無いままにならないということはまだ大丈夫。そう自分に言い聞かせる。
機体を立て直し、上昇軌道に乗る。いつもよりも重く感じる重圧に、身体が悲鳴を上げるが聞く暇もない。最悪はこの場で西森を逃がす事。刃を回収されたとあっては目も向けられない。
機体を反転。再び西森と向き合う。当然、投擲の際に一度は足を止めざるを得なかった西森は推力の面で此方に劣る筈が、此方が意識を朦朧とさせているうちに立て直された。此れも痛手ではある。
…………どういうつもりだ?
背を向けていた西森は、そのまま刃を手にすることなく此方に向かい反転した。まず、第一に得物を手にするため、逃げるだろうと考えていたが………。
此方の損害の大きさを見て、勝負を仕掛けるべきだと考えているのだろうか?
揺れる意識の中で思考を回す。たどり着いた結論は、このまま双輪懸を継続することだった。
「陽炎、済まないが機体制御に自身が無い。鎧でフォローしてくれ」
<<……!!
承知いたしました!!!>>
反転後、高度の有利は、ほぼ無いと考えた方がいい。今選択すべきは切り上げ。『合火神』で決着をつける!!!
折り返しを終え、互いの剱冑が徐々に速度を増してゆく。
その中で、西森は、自らの左腰に手を添えた。
<<……………敵機、左腰に熱量反応!!!!!
此れは………あの鞘ですッ!!!>>
霞む目を凝らすと、確かに。光り輝くのは、その剱冑では無く鞘。次第に光は輪郭を纏う。その姿は……………
「真逆、奴の陰義は………!!!!」
<<そう!!
我が剱冑は刃を鍛造する。先ほどの一撃を耐えたのは見事だったが、此れで仕舞いだッ!!!>>
其の手には間違いなく柄。刃を抜き放たれその役目を終えていた鞘には、紛れもない刃が収納されている。瞬時に白沙耶を握りなおす。これで奴は丸腰の木偶ではない。迎え撃たれるは、紛れもない抜刀術。心して挑まねば、切り捨てられるのは必至。
「ウラァァァァァァァああああ!!!!!」
衝突。再び十字を描いて交わる刃。しかし、抜き放たれた其の刃、先ほどとは形が異なる。刃の中心に窪み。此れは、刃を折る為の……。
今度は此方が受け流すことを選択。このまま此方の刃が奪われたとあっては、最早それまで。其れだけは避けねばならない。
<<逃がすかよッ!!!>>
しかし、西森は巧みに刃を移し、此方の白沙耶を絡め取る。
「………なっ!?」
手首を返し抜け出そうとするが、絡め取られた白沙耶は手をすり抜ける。西森は、そのまま自らの刃ごと二本の刃を投げ捨てた。空中で二つに別れた二本の刃は風切り音を立てながら落下し、村の道に深く突き刺さる。
三度、双輪が描かれる。しかし、此方の手に得物は無し。西森は既にその鞘から新たな刃を抜いている。先ほどとは真逆の状況が展開されている。但し、此方には西森の様に新たな得物を創造する力は無し。
投擲と抜刀。あの剱冑が西森の一族に伝わったものだとすれば、この剣術の出生も明白だ。刃を無限に繰り出せる為に、投擲による得物の損失は無視でき、鞘から刃を鍛造する為に、瞬時に攻撃に移れるように抜刀を極めるは、実に理に適っている。
腰に、鞘に手を当てる。確かにここに二本目の刃が収納されている。
………しかし、この刃は……………。
父の刃を手にしたとき、代わりに一本の刃をその場に捨てた。あの時、捨てる事が出来なかった刃が此方だ。だが、其れは性能的な面が理由ではない。否、寧ろ性能で言えば、此方の方が下。
徐々に近づく西森。
もう迷う暇はないッ!!!!
素早く抜き放ち、再び下段の構えをとる。この刃でできる事と言ったら、精々次の策を練る時間を稼ぐことだけ。焔の鎧が一段と勢いを増し、白沙耶の損失を補う様に燃え上がる。
三度の衝突。敵機は斬り降ろし。しかし、此度は受け流すことに専念する。接触した瞬間、西森が眉をひそめるのが剱冑ごしに手に取るように分かった。
西森はその単調な斬り降ろしを放っただけで、次の双輪へと移行する。
<<てめえ………! !
それは、竹光かッッ!!!!!>>
怒号。其れは侮辱された者が発する怒り。当然だ。この刃、『神無(かんな)』は、彼の言うとおり刃の無い刃。竹光ととられてもおかしくは無い。そんなものを戦場へと持ち出したのだから、驚きと怒りはしかるべきだろう。
この刃の特徴はただ一つ。
抜いた瞬間に燃え上がった鎧が其れだ。熱量消費は変わらないままで、鎧の質と量が上がる。だが、決してそれも大きくない。刃同士の斬り合いが不能である点を考えれば、白沙耶の方が使い勝手がいいのは明白であった。
しかし、文句を言うのも、嘆くのも、今は時間の無駄にしかならない。手の内にある物しか使う事は出来ないのだ。
<<守道様、此処は一度退いた方が宜しいのでは?>>
「駄目だッ! !」
陽炎の声が響く。だが、其れが、一番とってはならない選択。今の傷を負った状態で西森から逃げ切れるとも思えない。第一、背を向けて飛んだ瞬間に、投げつけられる刃が追ってくるのは、火を見るより明らかだ。陽炎の言葉は戦術を提唱したというよりは、俺の身体を気遣ってのことだ。その思いは有り難いが、選択肢に入ることもない。
だからと言って他に良い案があるわけでもない。敵機は反転。此方と目を合わせている。
高度、不利。
刃、不在。
敵損失、皆無。
損失、大。
何一つとして良い報告は無し。このまま戦闘を長引かせるのは、不利を重ねるだけ。次の衝突で決着をつける策を―――――。
脳内を霧島の教本が駆け巡る。状況と術を照らし合わせ、最良を探る。
―――――――――――ある。
限りなく零に近い確率でそれでも一撃で落とすことが叶うかもしれない術が。
だが、これはどちらかと言えば生身で使う物。剱冑の速度で用いたとして、どのような結果になるかは見当もつかない。
だが、それでも。刃を無くした今取れる選択の中では最も現実的。
「陽炎、鎧を“全て”推力に回してくれ。
防御も修復も――――治療も今は必要ない」
<<しかし、それでは………ッッ! !>>
分かっている。今、こうして戦えているのも、陽炎による治療があるからだ。だが、剱冑の装甲を打ち破ってこの術を為すには、ありったけの推力が必要。少しでも手を抜けばそれは致命的。術理を知られてしまえば、二度目は無い。
「………頼む」
苦々しく告げると、ズシリと体にかかる重力が増すのを感じる。と、同時にわき腹から強烈な痛み。先ほどまでとは異質の痛みが主張を増す。
構えは武者上段。刃の無い神無を高々と構える。
<<この期に及んで武者上段とは………
心意気は認めるが、其れで俺に勝つつもりかッ!!!!!!>>
西森が声を上げ、その構えもまた上段へと移行する。必要なのはタイミング。そして、寸分の狂いない太刀筋。
西森が迫り――――――――――今ッ!!!
刃の無い太刀を上段に構えた焔の化身が、急激に速度を上げる。
「霧島流合戦術“火熔狩(ほとけがり)”が崩し―――――――」
<<真逆、力比べなら勝てるなどと思ってはいまいなあ!!!!!>>
迫った焔の化身。西森は冷静にその太刀筋を見ていた。振り下ろされる。しかしその刃、恐れるに足らず。上段からの切り降ろしでは、致命傷を浴びることは無い。ならば、其の身に向けて刃を下ろす。多少の損壊を恐れることは無い。相手は最早、手足をもがれたに等しい。なによりも、身を守る術を持たぬこの木偶を、この衝突で殺してしまえば構わない。
―――――刹那、急激に速度を上げた。
獲った!!!!
慢心では無く、そう確信する。敵機が何か仕掛けてくるのは間違いない。そして、この加速は全く想定内の事態だった。大振りになりがちな上段を仕掛け、急激な加速による撹乱で崩す。確かに有用な術理かもしれない。
しかし、この西森には通じぬ!!!!
肘を曲げることで、手首だけを胸の前まで降ろす。その勢いをそのまま手首を返すことで前に突き出した。刃の軌道は最短距離を描く。当然、通常の斬り降ろしに比べれば威力は落ちるが、敵機が自ら速度を上げた今、絶命せしめるには十分。
振り下ろした刃。其れは肩口から敵機を切り裂き、腰まで一本の直線を描く。
――――――と、同時に機影が揺らめいた。手ごたえも薄い。
「――――――――――――――『火之珂具土(ひのかぐつち)』………ッッッ!!!!!!!!!!!」
揺らめいた機影の先。焔の化身のその先に、金色の機影が下段の構えをとっていた。
本来、『火熔狩』は下段から敵の喉元を狙う術。胸と顎の間を縫うように切り上げ、喉仏を狙う。剱冑での速度の中で其れを狙うのは至難。加えて顎の鎧の形状によっては、狙う事すら不可能な場合すらある。即ち、合火神のほうが遥かに有用。この術の真の利点は、喉元を潰すことで断末魔を上げることを防ぐところに在る。つまり、暗殺や潜入に特化した術。
喉仏を潰す事が出来れば、切り裂くことが出来無くとも殺害は可能。
加えて、“飛火”同様に距離を偽る。しかし、その術は真逆。鎧全てを前方に打ち出すことで敵機の空振りを誘う。“急激に進む”のではなく“急激に戻る”のだ。これで速度を落とす必要はない。威力は十分。
晴れた視界のその先。驚愕に上がった顎の僅かな隙間に、神無を差し込むようにして突き入れる。ここからが至難。僅かなズレがあれば装甲に阻まれる。正に針の穴に糸を通すが如く。
――――――――――確かな感覚。
切り裂くことは叶わない。だが、喉の骨を砕く手応えを手にその脇をすり抜けた。
ゆらり。西森の巨体が揺れ、勢いそのままに自由落下へと移る。天を仰ぐように反転したその身体は程なくして地面に当たり、大きく跳ねて停止した。
◇
激痛。
わき腹に感じる痛みは、遂に感覚を麻痺させ始めていた。だが、其れに勝る達成感が心の内を満たしていた。敵を斬った。其のことへの後悔も胸の内に陰る。しかし、何よりも東町を、陽炎を守る事が出来たことへの幸福感。思えば、初めての勝利だったのかもしれない。誰かの為になったという事実が胸の内を熱くした。
<<守道様。直ぐにお休みになってください>>
慌てた様な陽炎の言葉を愛おしく聞いていた。治療を始めたわき腹からは、痛みに混じり、確かな温もりを感じる。安堵感から急激な疲れが襲ってくる。
しかし、それも束の間。まだすべきことは残っていた。一条の救援だ。
遥か先に目をやれば、敵機の数こそ減っているが、一条はまだ交戦中のようだ。楽勝と言うわけでは無さそうだが、苦戦しつつも敗北を感じることは無い。一人で任せても大丈夫だろうが、万が一にも彼女を失う訳にはいかない。
機体を急降下。目指す先には純白の刃。白沙耶。
丁度、村の道の中心に刺さった其れを回収するために一度地面に降り立つ。目の先、20メートルほどの処に太陽の輝きを反射しながら、白沙耶は突き刺さっていた。
…………その先。見覚えのある顔があった。
此方の救援に来たのだろう。モノバイクに跨った東野がそこに立っていた。
「……東野殿ッ!!!
其方の首尾は如何でしたか?
西森は討ち果たしました!!!!
一条殿の救援を……………?」
如何したのだろうか?
自分でも分かる程に興奮していた。多少の恥ずかしさはあったが、口を止める事は出来なかった。しかし、早口で戦果を報告するが、東野からの反応が無い。勝利したというのに顔は俯いており、表情は見えぬが喜びの感情は感じられない。だが、この雰囲気。何処かで感じたことのある物だ。
此方に東野が来たという事は、あちらでの戦闘も粗方終わったという事だろうが、真逆…………何かあったというのか?
「なあ、“守道”…………?」
突然、“守道”と呼ばれたことに肩を震わせる。そして思い至る。その雰囲気。そうだ、これは武の亡骸を前にした時の…………。
反射的に身構える。やはり何かあったのだ。自分はどうすれば良い?
心の中に様々な思いが渦巻き、続く言葉を待った。
そして、気づく。彼は傾いているのではなく、白沙耶を見つめているのだと。
「…………お前、その刃をどうして持っている?」
「此れですか?これは死んだ父の使っていた刀で、形見に引き継いだのです」
「…………そうか、そうだったのか………………」
悪寒。興奮から急激に覚める。おかしい。彼の放つこの空気。此れは………此れは敵に向ける物だ。
「俺の父が死んだとき。その首は既に無かった。だが、無くなっていたのは首だけじゃない。剱冑も、“千鳥”も、その男は、父を殺したその男は奪った………!!」
………千鳥……………。父上?
瞬時に脳内が凍りつく。父上はどうして焔を繰るのを止めた?
新しい剱冑を手に入れたから。そして、その前の持ち主は…………。
「ひれ伏せ、傅け、跪けッ! !
我が往く道は破邪の道!!!!
天下を統べる破邪の道ッ! !」
森を越えて現れた闇烏。
東野は装甲の構えをとる。最早、語ることは無いとでも言うかのように。
目の前の武者。漆黒に映る戦鳥。その姿――――――――――――父上と同じ。
「よくも……よくも、父上をおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!」
東野の雄叫び。其の手には名刀。美しき黒。深く深く沈み込むような黒刀。
銘を―――――――“黒沙耶(くろざや)”
「殺す、貴様は殺すッ! !
父上の敵いいいいいいいいいいい!!!!!!!!!!!!!」
反射的に白沙耶を拾い上げ応戦する。西に現れた黒き戦鳥は舞う様にして上空へと飛び出した。
東野 了の第二の復讐劇がここに幕を開けた。