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No.36568の一覧
[0] [R15]装甲悪鬼村正 守護者編[オリ主]本編後[空男](2014/03/29 19:38)
[1] 第一幕 Ⅰ[空男](2013/01/26 11:47)
[3] 第一幕 Ⅱ[空男](2013/01/26 11:47)
[4] 第一幕 Ⅲ[空男](2013/02/19 10:25)
[5] 第一幕 Ⅳ[空男](2013/02/24 13:34)
[6] 第一幕 Ⅴ[空男](2013/03/03 23:51)
[7] 第弐幕 問悪鬼編 Ⅰ[空男](2013/03/09 21:32)
[8] 第弐幕 問悪鬼篇 Ⅱ[空男](2013/03/31 00:10)
[9] 第弐幕 問悪鬼篇 Ⅲ[空男](2013/03/31 10:48)
[10] 第弐幕 問悪鬼篇 Ⅳ[空男](2013/05/12 14:30)
[11] 第弐幕 問悪鬼篇 Ⅴ[空男](2013/05/12 14:30)
[12] 第弐幕 問悪鬼篇 Ⅵ[空男](2013/07/06 20:18)
[13] 第参幕 問英雄篇 Ⅰ[空男](2013/07/06 20:15)
[14] 第参幕 問英雄編 Ⅱ[空男](2013/09/03 23:36)
[15] 第参幕 問英雄編 Ⅲ[空男](2013/09/03 23:31)
[16] 第参幕 問英雄編 Ⅳ[空男](2013/11/17 01:38)
[17] 第参幕 問英雄編 Ⅴ[空男](2013/11/24 09:54)
[18] 第参幕 問英雄編 Ⅵ[空男](2013/12/21 14:38)
[19] 第参幕 問英雄編 Ⅶ ①[空男](2014/03/23 17:35)
[21] 第参幕 問英雄編 Ⅶ ②[空男](2014/01/19 04:39)
[22] 第参幕 問英雄編 Ⅷ[空男](2014/02/28 16:32)
[23] 第参幕 問英雄編 Ⅸ[空男](2014/03/23 17:37)
[24] 第参幕 問英雄編 Ⅹ[空男](2014/03/29 19:29)
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[36568] 第弐幕 問悪鬼篇 Ⅵ
Name: 空男◆ebc8efbe ID:300702e8 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/07/06 20:18
先手を打ったのは景明だった。野太刀“虎徹”を掲げると一気に詰みよる。

<<御堂、最初から気を抜かないで!
 余裕を見せていて落とされるなんて洒落にならないわ>>

「当然だ、わかっている。
 あれほど流麗に剣を操る姿を見てしまっていては、此方とて加減の仕様があるまい」

遠藤の剣捌きを一度とはいえ見ているとはいえ、手を抜ける相手でないことは重々承知。むしろ見てしまったからこそ、全力の彼の腕がどれほどの物なのか見当がつかぬ。追いかける背中を見据える。
恩もある。義理もある。しかし、その全てを今は忘れる。
当方は悪鬼故。
振り返る遠藤。双筒の合当理。肩部の装甲。そして、一本角。間違いなく、先日合い見えた二領の剱冑と同じ系譜。ならば陰義は――――――。

<<敵機周辺の温度が上昇>>

炎の鎧。青い機体が太陽の陽ざしと焔の揺らめきを受け、蒼銀と緋色の二色に映える。その力は今更この身を以て確認するまでも無い。
遠藤が手にするのは腰まで程の長さを有する刀。特徴に乏しく、ありふれた形状をとるものの、業物であるのは疑いようのない事実。
初撃は上方からの斬り降ろしを選択したか……。
ならば、此方はあえて其れを受ける。高さの差で並び立つために、敵の攻撃を利用させてもらう。斬り降ろしを捌き、勢いを殺すことなく双輪懸を結ぶことが出来れば、高度の差は詰められる。
構えは中段を選択。一撃を浴びせるわけでなく、捌くのであれば此方の方が御し易い。

「磁気加速(リニア・アクセル)………辰気加速(グラヴィティ・アクセル)……! !」

速度を上げ、位置エネルギーの差を運動エネルギーで埋める。刃を掲げた遠藤が猛然と迫り来る。
敵機までの距離はもうない。
斬り降ろしか……それとも薙ぎか……!?
合当理の音が意識の隅に追いやられ、全神経が遠藤の動きを観察した。

「………………………っ!!!!!?」

刃を掲げ突っ込んできた遠藤は、しかしその刃を振り降ろすことなく此方の脇を通過した。すれ違いざまに小さな笑いを零したのが剱冑を越えて伝わった。
全て、見抜かれていた……。


「…………村正、俺が甘かった。電磁抜刀(レールガン)を使用する」

<<…………ええ。私も此処までなめられたのは久しぶりだわ>>

此方に攻撃の意思がないことを読み取り、その上で追撃や不意打ちを仕掛けず位置的優位のみを保った。紛れもない余裕の表れだ。
思えば此方が講じたこの策も、より安全に勝とうとしての物だった。知らず見下していた自身を戒める。
大きく旋回し、再び見えた敵騎はやはり余裕を見せつけるかのように刃を軽く振って見せる。
カチャリと音をたて、虎徹を握りなおした。

再び遠藤が刃を掲げた。先ほどと同じ。全くの再現(リプレイ)を見ているかのようだ。
相変わらず、人を食った御方だ……。
だが、此方は先ほどとは違う。まずは、敵機の動きを見極める。必殺の電磁抜刀故に、無駄打ちもできぬ。

即座に敵機に肉薄。先ほどと同じ中段の構え。刃を迎え撃つでなく、今度は此方から堕としに往く。

邂逅の瞬間。またも遠藤の刃は此方を見ていない。此方の刃だけをいなし、受け流す。
必墜を期して放った一撃が苦も無く流される。
機体性能の差は恐らくは此方が上。村正に勝る剱冑はこの世にそうはない。その差を剣技と読み合いで埋めている。自身の凡才さを感じずにはいられない。唯一の救いは敵騎が陰義を使用しているのに対し、此方は電磁抜刀(レールガン)を使用していないこと。
正に天才の類。唯二度の衝突でそれが知れる。しかし、それも勝敗に関わる物ではない。俺はこんなところで死んではならない。
さらに言えば、此方は最上級の天才を、湊斗光を相手どった経験がある。

<<流石に見事な腕前ね>>

「此れだけの差を見せつけられるとな」

<<なら、あの子たちと一緒に稽古でも付けてもらったら?>>

「悪い提案ではないが……。尤も、この場で打ち倒すべき敵でなければの話だがな………」

<<じゃあ、下剋上と行きましょうか! !>>

いつも通りに軽口を叩き合う。当然この中でも敵騎の姿は目に捉え続け、隙を窺っている。
勝つために刃を握る。そう、勝てば良いのだ。村正の力を借りようと、それで力関係が覆るのであれば其れに躊躇いは無い。

三度目の邂逅。
だが、瞬間の隙を突かれたのは此方だった。
まずい、潜り込まれた。此方は上段を選択している。このままでは斬り損じる。性懲りもなく上段の構えをとり続ける敵機には最高の位置取り。
躊躇う暇はない。即座に剱冑を上下反転。此方の刃の軌道上に敵騎を乗せる。“霞返し”。吉野御流の一芸だ。

<<なかなかやりおるのう。景明殿!!!!>>

脇をすり抜けた遠藤が金打音でそう零す。素直な賞賛と余裕が交じった口調だ。

「今の返しを読んでいたわけでもなく弾く貴方の方が尊敬に値するというものです」

そう。霞返しは躱す技ではない。斬り伏せる技だ。其れを難なく凌ぎ、かつ余裕を見せる遠藤の方が驚嘆に値する。
互いが互いを牽制し合う。こと腰回りに関して言えば、村正が敵機に劣るとは思えない。ならば、旋回性能で敵機を圧倒する。
大きく輪を描いた敵騎に対して、此方は即座の反転を試みる。高度ではやや不利。その不利を加速の長さで埋める。
数瞬遅れて反転し敵機は刃を下ろした。上段を解き、右脇中段へ。薙ぎの構え。構わず、上段にて、敵騎下方へと潜り込む。此れで斬りきれぬ筈。

<>

短い警告。敵機の刃は此方が潜り込みを選択すると同時に、共に下段へと降りていた。
しまった、陣取りに気をとられ過ぎた。

<<………合火神(あわせかがみ)>>

強烈な切り上げが前方から迫る。眼前に迫った刃を払うのに反射的に刃を突き出した。火花を散らし弾かれる虎徹。肩口を深く抉られた。

「ぬう………」

<<ほう、良く今のを躱しましたな……>>

速度を失いながら旋回する此方に遠藤の言葉が掛けられる。腕一本で済めば安い一撃だった。完全な敗北。心臓を抉られていても不思議ではない一撃。寸での処で差し出した虎徹が野太刀であったのが功を奏した。長く、重い刃が多少なりとも軌道を逸らしていた。

「………村正、電磁抜刀だ」

最早、此れ以外の方策が通じるとも思えない。此れ以上此方の手の内を晒すのは時間と熱量の無駄でしかない。

<<………諒解。死を始めましょう>>

俺から些かの焦りを感じたのか、村正がやや迷いの後に返答を寄越す。恐らく村正もこれ以外の打開策が見つからなかったからこその答えだ。

「磁波鍍装(エンチャント)―――蒐窮(エンディング)」
<<蒐窮開闢(おわりをはじめる)。 終焉執行(しをおこなう)。 虚無発現(そらをあらわす)>>

鳴き始める虎徹。火花が散り、青白い光となって空を舞う。
必殺の一撃を放つには早いのは重々承知。それでも、この一撃を今放つ必要がある。敵騎も此方の出方を窺っている今この時に。
時間を掛ければ、遠藤が此方の太刀筋を読み切るのは目に見えている。その前に、終わらせる。

<<陰義………ですか………>>

遠藤の声だけが空に木霊する。高度優勢は相変わらず遠藤。上空からこちらを見下ろしている。
その口元が明確に吊り上った。

<<ならば此方も少し全力を出す必要がありますかな?>>

全力?全力では無かったというのか?陰義を、炎の盾を纏ったその姿が。そうだ。目の前では今も燃え盛る鎧を纏った遠藤の姿がある。それ以上があってたまるか。

瞬間―――――――
蒼穹を背景に立つ遠藤の紅の鎧が消えた。

<<此れは………ッ!
御堂、敵騎周辺の温度が更に上昇。あれは陰義を消したんじゃない。
あれは…………!>>

「完全燃焼の炎…………か」

<<その通り。酸素供給を上げた場合、炎はその色と質を変える>>

青の機体に、蒼穹の背景。炎は消えたのではない。見難くなったのだ。紅い炎は通常、完全燃焼を果たしていない。酸素の供給が不十分なのがその多くの理由だ。酸素の供給を十分に行い、完全燃焼を果たせば、焔の色は青くなる。

「………村正……ッ!」

村正へ呼びかけることで自身を保つ。敵騎の底が知れない恐怖を腹の底に落とす。振り切ったように目の前だけを見つめ速度を上げた。二つの加速を重ね掛け、遠藤へ向けて突き進む。構えは上段。対する敵騎は刃を中段に構える。

「電磁抜刀(レールガン)“穿”!!!」

青白い火花が二領の剱冑の間を行き来する。虎徹はガタガタと震え、しかし行く先にある青い炎の盾を打ち破れない。
対する炎の盾も揺らめきはするものの、決してその場を譲らない。

「そんな………。レールガンを止めただとッ!?」

真っ向勝負。遠藤が翳した刃の先に青い壁が張られている。

<<体を覆っていた鎧が無くなってる。一か所に集約したものと推定>>

視認できるほどの炎の盾。其れが虎徹の往く先を止めていた。
電磁抜刀は必殺の剣。必墜の太刀。
躱されたことはある。受け流されたこともあった。しかし、彼は在ろうことか受け止めて見せた。
………否。まだだ。まだ受け止められただけ。押し切れば問題ない!

「村正ッ!次の陰義の使用は考えなくて云い。この一撃を……押し切るッ!」

<<諒解、御堂!!!!>>

村正の返答に呼応するかの如く、軋みが音を更に大にする。それでも、蒼炎の盾は頑なにそれ以上の侵攻を許してはくれない。
腕の力が限界に達し、緩みを見せ始めるのを奥歯を噛み締めて押し戻す。

「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!」


そして、ふいに、盾は途切れた。

「………………!?」
<<………………!?>>

押していたものを急に奪われ、重心が移る。標的を失った虎徹は、轟音を上げて空を裂く。機体のバランスを崩しかけるのを、持ち前の足腰を使って立て直す。押し切った感覚も無ければ、切り伏せた感覚も無かった。慌て、遠藤の姿を探した。
あれは………何故?
地表へ向かって落下して往く者があった。遠藤は、地面へと向かっていた。





田畑へ続く道の中央。降り立った場所に不満は無い。両端に植えられた木々が木漏れ日を落とし、その葉が風に揺られてざわめいた。装甲を解くと、どっと疲れが噴き出す。何年振りの装甲だったろうか?何年ぶりの戦闘だったろうか?鍛錬に鍛錬を重ねたこの剱冑とも、十度に満たぬ装甲で縁を切ることになる。

「私の我が儘を聞いて戴き、感謝の言葉もございません」

<<なに、お前がこうすることはなんとなく分かっていた。俺は剱冑でしかない。仕手の考えを尊重しよう。
海の果てへと流されようと、我が一族に尽くしてくれたその忠義。
真、大儀であった>>

上空から景明殿が降りてくる。陰義を使ったせいか、その佇まいに疲労を感じた。

<<訳が分からぬ故、理由をお聞かせ願いたいのですが?>>

装甲を解き、地面に正座した私に向かって、地に降り立った景明はそう聞いた。驚くのも無理は無かろう。先ほどまで殺し合いをしていた敵が、敗北を認めたわけでもなく突然眼前で膝を折ったのだ。

「景明殿の掟は善悪相殺と伺った筈ですが?」

<<それで………?>>

「竜騎兵を殺めた生贄にはこの遠藤 文がなると申して居るのです。
 どうしても守道殿を殺させるわけには往きませんでした故、時間を稼がせていただいたまで
 言った筈ですよ。食事と寝床の恩が在る筈だと。其れでは不満ですかな?」

ニカッと笑ってみせる。実に自分らしい物言いだと思う。
最初から、景明を斬るつもりは無かった。ただ守道が逃げおおせる時間さえ稼げれば其れでよい。この命に最早未練など無い。

<<………良いのですね?>>

「ああ」

齢60。人生をその使命を全うすることに費やした。ならば、最後の死が、若きものの為であるというのもまた定め。
目を閉じ微かに微笑む。最期に見たものを瞼の裏で思い描く。
遠藤の最後の記憶は、木々を背景に佇む青い狐と、刃を振り上げる真紅の武者だった。

<<御堂………>>

村正が疲れた様な声を此方に向ける。そういう自分も相当に疲弊している。

「ああ、あのまま戦闘を続けていれば、負けていたのは俺だったかもしれない」

想ったことを口にした。本心からの言葉だった。海の向こうを見やる。その先へと飛び立っていった守道の姿は、村正の視界強化をもってしても全く見えなかった。

<<追う気?>>

「まさか………。唯、放っておいても向こうから会いに来るだろう。今度は俺を殺すために………」

村正が憂いを帯びた表情を作ったのは、見なかったことにした。

第弐幕 問悪鬼編 了


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