男は言った。
「すいませんほんとうにすいませんだから前髪を、前髪を握り締めないで下さい」
女は言った。
「今更?いい度胸ね。その前髪さらに後退させてやるから覚悟なさい」
男は寝ていた。
「スピー」
「奥さんにフルボッコされて戻ってくるに1ペリカ」
【意表をついてラブラブモードで戻ってくるのに1ペリカ】
Song dedicated to you
FF7:名無しのNANA- 戦略的撤退という名の勝ち戦 そのに
「いわゆる、スキマ話とか補足話。閑話なのね~」
【身もフタもねー!】
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
【・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。】
しまってるし。
神羅屋敷のドアは固く閉ざされている。
「まあ当たり前だよね」
【閉鎖されてるもんな】
雑草を軽やかに踏みしめながら、人が少なすぎて、こちらに気づくこともない村人たちから、さらに隠れるようにして屋敷の裏手へと回っていく。
丸くでっぱるように配置された壁の、更に裏側に回り、その小さな背丈をうんと伸ばして窓を覗き込もうとするが、如何せんやはり慎重が足りない。
仕方なげにハニーとアイコンタクトを取り、その背中に乗って再び中を覗き込んだ。
寒暖の差で生まれるかすかな気流に乗って、きらきらと埃が舞い踊っている静かな空間がそこにはあった。
人の気配の全くない、不思議な空間。
しかし彼女は普通の子供ではない。むしろ普通の感性の持ち主ではない。
カシャ
かすかにガラスが割れる音が静謐な空間に満ち、そして溶けてゆく。
外では…。
「もうちょっと!もうちょっと!がーんばれ!まけーんな!」
【ナナ!やばいやばいやばいやばい!ガラスが刺さる!やばいって!はいんないって!】
静謐さとは全く無縁の騒々しい舞台が繰り広げられていた。
-あ。
グサッ
-クエエエエエエエエエエエ…!
(いてえええええええええええええええええええええ!!)
・
・
・
「で?何で今更?」
「いや…迎えに、ですね。ハイ…」
「なーんーでーいーまーさーらっ?」
「ス、スイマセン…」
青と紫に輝く不思議な空洞に、二つの人影があった。
片方はクリスタルの上に足を組みながらもう一人を見下ろし、もう片方は、その相手に服従するかのように正座している。
「人がシクシク泣いてるのをここに押し込めて!定期的に保存食を上からヘリで放り投げてくだけ!
そんなことばっかりやってた貴方がなんで今更来るわけ!?」
しかも、研究に没頭するまえの私好みの体格とツラ構えに戻ってるのよ!
ルクレツィアは憤っていた。
かつて自らの胎を捧げた研究、そしてそこから生まれた化け物に等しい我が子。そしてジェノバ。
そして、最愛でもあった夫。宝条。
弱く卑怯だった自分は恐怖から逃げて逃げて逃げて、そしてこの目の前の男は私を追い詰めて追い詰めて追い詰めた。
疲れ果てた研究と生活の果てに待ち構えていたのはこの孤独で美しい洞窟。
自分はここで星が朽ちていくまでずっと生き続けるのだと、そしてその孤独が自らの罪だと己に言い聞かせてただひたすら
生きてきた。
なのに、なのにどうして今更!?
胸から躍り出るほどの幸福感はある。だがそれを上回るほどの怒りが彼女を満たしていた。
「愛する夫に裏切られ追い詰められた悲しみと怒り」。もっともジェノバの原初、「負の感情」とシンクロしているが故の苛立ち。
「馬鹿」
「はい」
「馬鹿っ!」
「ああ」
「馬鹿、馬鹿、馬鹿…! なんでもっと、なんでもっと…っ!」
「ルクレツィア」
宝条の手が伸び、首を振って拒否するルクレツィアの肩を引き寄せ、その腕に抱いた。
宝条の指がルクレツィアに触れたその瞬間、ルクレツィアの脳裏に写ったのはさびしそうな横顔の女性。
唐突にその目の前に、コスモスと、それを差し出す手が現れる。
そのコスモスを差し出す腕の先は見えないが、その手はとても小さく、そして幼い。
寂しそうに、ただ虚ろを見つめていた女性は、目の前に現れた小さな手と花に、その銀色の睫に彩られた桃色の瞳を瞬かせ、
コスモスを差し出す小さな手の持ち主に微笑んだ。
唐突に、何もかも許されたかのような感情が心のそこからあふれ出し、幸福感も苛立ちも、すべて一切合財押し流していく。
「ごめ、ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!!」
「ああ、判ってる、判ってるから…」
「ごめんなさい!!」
-ああ、こんな激情に身を任せて泣き叫ぶなんていつぶりなんだろう。
そっと脳裏に浮かぶ自分の言葉に、静かに女性の声がかぶさる。
-いいわ、もう。 許してあげる。でも、次は許してあげないからね?
ルクレツィアは何故か、その静かな女性の声が「銀色の女性」だと確信し、猛烈な疲れと涙でその意識を手放した。
・
・
・
「テラ乙」
【テラ乙。じゃねえよこの幼女!思いっきり脚にガラス刺しやがって!】
グランドピアノが置かれた部屋に、にぎやかな話し声。しかし、片方は唯チョコボに話しかける子供の声と、
それに反応して激しく鳴くチョコボの声にしかきこえない。
その賑々しい雰囲気と声に誘われるように、すこしずつ、すこしずつ。この屋敷を徘徊するモンスターたちが集まりだす。
「さっきから謝ってるじゃないのよう!」
【「テラメンゴ☆」のどこが謝罪だゴラアアアアアアアアアアア!!】
「この軽やかな星の部分がね?」
【言葉ですらねぇ!!】
「あっはっはっは!やっちゃったZE!」
わざと後ろを向き、軽やかかつ力強く立てた親指と素敵な笑顔で振り向く。
【「やっちゃったZE!」じゃねえよ!どこのソードマスタートマトさんだよ!】
「…お前が…トマトか」
【俺はポテトだ!】
「俺の肉しみは消えないんだ! OK、じゃ、仕事おわらせよっかー」
【まそっぷ! ん。…あれ?なんか誤魔化された?】
「ナイナイ。なんでもなーい、なんでもなーいきーみのえっがおーがー」
【ちょ、あ○きちゃん】
「ま、そんなことよりもね」
【ウム、ピンチだな】
既に3メートルほどの距離を置いて、二人に肉薄しているモンスターの群れ。
しかしナナはけろりとした顔で、自分の襟元をモンスターへ見せ付けるように押し出す。
【あ、忘れてたわ】
チョコボも同じく、首から下がるチョーカーを見せ付けるようにのけぞる。
その仕草と、二人が装着している「なにか」を見つめたモンスター達は、迫ってきたときと同じように、静かに去っていった。
「そりゃ、神羅関係者が襲われてたら本末転倒だしねぇ」
二人が身に着けていたのは「神羅」の社章。
【水戸黄門になった気分~】
「判る判る」
ケラケラと笑いながら、モンスター達の足跡が残る屋敷を二人は堂々と闊歩していく。
少女はその手に、鈍く日の光を反射させる鍵を弄りながら、まっすぐ二階の隠し扉がある部屋へと進んでいった。
その背後に、興味しんしんで付いて来るモンスターを連れながら。
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あとがき:
連続投稿っす。っす。 イン&ヤンって地下だけだったっけなぁ…あいつら微妙に好きなんだよなぁ。